説明

ホスホリルクロライド及びグリコール又はポリグリコールのモノアルキルエーテルからリン酸エステルを製造する方法

ホスホリルクロライドと、少なくとも1つのモノ(アルキレングリコール)モノエーテル若しくはポリ(アルキレングリコール)モノエーテルとを、又は少なくとも1つのモノ(アルキレングリコール)モノエーテル若しくはポリ(アルキレングリコール)モノエーテルと少なくとも1つのアルキレングリコール若しくはポリアルキレングリコールの混合物とを、1モルのホスホリルクロライドにつき少なくとも3モルの、脂肪族窒素原子がない、ピリジニル化合物の存在下で反応させることにより、リン酸エステル化合物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年10月5日出願の米国特許仮出願第61/248,831号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、ホスホリルクロライド(POCl、リンクロライドオキシド)及びグリコール又はポリグリコールのモノアルキルエーテルからリン酸エステルを生成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
nが1又は2である一般構造
【化1】


を有するホスフェート化合物は、電池用電解液中の添加剤としての使用が提案されている。例えば、米国特許第6,642,294号、欧州特許第906641号及びSolid State Electronics 133, 2000, 171-177参照。これらのホスフェート化合物は、電解液に及び電解液を含む電池にいくつかの望ましい機械的、熱的及び電気的特性を付与することができる。それらは難燃性をもたらすことができ、これは、特にリチウム電池に関して、大いに有意である。これらの電池は、非水性電解質を含むからであり、高いエネルギー及び出力密度を有するからでもある。高いエネルギー密度及び出力密度と相まって、電解質の有機性により、リチウム電池は、熱暴走事象、例えば暴走発熱反応及びさらに燃焼を非常に被りやすくなる。このため、難燃剤がリチウム電池用電解質に常例的に添合されている。
【0004】
上述の構造を有するホスフェート化合物は、ホスホリルクロライドとエチレングリコールモノメチルエーテル(すなわち、HOCHCHOCH)又はジエチレングリコールモノメチルエーテル(すなわち、HO(CHCHO)CH)の間の反応で調製されている。米国特許第6,642,294号には、塩化亜鉛触媒の存在下、ニートでの(すなわち、溶剤なしでの)この反応の実施が記載されている。生成物混合物が得られ、その後、それが多数の蒸留工程に付されて所望のホスフェート生成物が単離される。欧州特許第906641号では、前記反応が4−ジメチルアミノピリジンの存在下で行われる。収率は不良(56%)であり、生成物は材料の混合物であり、その混合物から所望の生成物がクロマトグラフィーにより回収される。
【0005】
Solid State Ionics, 133, 2000, 171-177には、トリエチルアミンの存在下での前記反応の実施が記載されている。トリエチルアミンが、その反応中に形成されるHCl副生成物を掃去する。このアプローチは、いくつかのリン−窒素化合物を含めて、様々なリン含有反応生成物が生成されるので、あまり選択的でない。これは原料の有意な浪費につながり、加えて、反応混合物の他の成分から所望の生成物を単離するために相当な努力を要する。
【0006】
これらの理由のため、これらの合成方法は、大規模での実施にあまり適していない。従って、これらのホスフェート化合物を低い不純物レベルで調製することができる方法が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,642,294号
【特許文献2】欧州特許第906641号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Solid State Electronics 133, 2000, 171-177
【非特許文献2】Solid State Ionics, 133, 2000, 171-177
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、そのような方法である。本発明は、ホスホリルクロライドと、少なくとも1つのモノ(アルキレングリコール)モノエーテル若しくはポリ(アルキレングリコール)モノエーテルとを、又は少なくとも1つのモノ(アルキレングリコール)モノエーテル若しくはポリ(アルキレングリコール)モノエーテルと少なくとも1つのアルキレングリコール若しくはポリアルキレングリコールの混合物とを、1モルのホスホリルクロライドにつき少なくとも3モルの、脂肪族窒素原子がない、ピリジニル化合物の存在下で反応させることを含む、リン酸エステル化合物を形成するための方法である。この方法は、対応するトリホスフェート化合物を良好な収率で形成する。この方法は、所望のトリホスフェート化合物に対して非常に選択的である。リンを消費する望ましくない副反応は、この方法で最小化される傾向がある。これは、望ましくな副生成物への出発原料の喪失を低減し、及びまた、反応混合物からの生成物の回収を単純にする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
好適なモノ(アルキレングリコール)モノエーテルとしては、1,2−エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール(テトラメチレングリコール)、ヘキサメチレングリコールなどのモノアルキルエーテルが挙げられる。前記アルキル基は、好ましくは1から4個の炭素原子を含有し、最も好ましくはメチルである。前記モノアルキルエーテルは、ホスホリルクロライドと反応してエステルを形成することができる、1つのヒドロキシル基を含有するであろう。エチレングリコールモノメチルエーテルが前記モノ(アルキレングリコール)モノエーテルの中で特に好ましい。
【0011】
好適なポリ(アルキレングリコール)モノエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリ−1,2−プロピレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリ−1,2−ブチレングリコール、ポリ−1,4−ブチレングリコール(ポリテトラメチレングリコール)若しくはポリ(ヘキサメチレングリコール)のモノアルキルエーテル、又は1,2−エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール(テトラメチレングリコール)及びヘキサメチレングリコールのうちのいずれか2つ若しくはそれ以上のもののコポリマーのモノアルキルエーテルが挙げられる。重合度は、2又はそれ以上であるが、好ましくは5より大きくない。前記アルキル基は、好ましくは1から4個の炭素原子を含有し、最も好ましくはメチルである。これらのモノエーテルは、ホスホリルクロライドと反応してエステルを形成することができる、1つのヒドロキシル基を含有する。1,2−エチレンオキシドのポリマー及びコポリマーのモノアルキルエーテルが好ましい。ジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールのモノアルキルエーテルが特に好ましい。
【0012】
2つ又はそれ以上のモノ(アルキレングリコール)モノエーテルの混合物を使用することができ、2つ又はそれ以上のポリ(アルキレングリコール)モノエーテルの混合物も使用することができる。1つ又はそれ以上のモノ(アルキレングリコール)モノエーテルと1つ又はそれ以上のポリ(アルキレングリコール)モノエーテルの混合物を使用することができる。
【0013】
前に説明したモノエーテルを、少なくとも1つのアルキレングリコール又はポリアルキレングリコールとの混合物で使用することができる。前記アルキレングリコール及びポリアルキレングリコールは、末端ヒドロキシル基がいずれもメチル基でキャップされていないことを除き、モノエーテルに関して前に説明したとおりである。従って、前記アルキレングリコール及びポリアルキレングリコールは、1分子につき2つのヒドロキシル基を含有し、及び二官能的に反応して2つのホスホリルクロライド分子とエステル結合を形成することができる。それ故、前記アルキレングリコール又はポリアルキレングリコールは、存在するとき、カップリング剤として機能し、大きい比率で使用されると高分子量エステルの形成をもたらす場合がある。このため、前記アルキレンアルキレングリコール及びポリアルキレングリコールは、仮に存在したとしても、比較的小さな比率で存在する。1モル以下のアルキレングリコール及び/又はポリアルキレングリコールを4モルのモノエーテルに対して使用することが好ましい。アルキレングリコール及びポリアルキレングリコールを完全に省く場合もある。
【0014】
1モルのホスホリルクロライドそれぞれが3当量のヒドロキシル基と反応することとなる。従って、1モルのホスホリルクロライドそれぞれについて少なくとも3当量のモノエーテル、又はモノエーテル/グリコール混合物が反応混合物中に存在する。過剰量のモノエーテル又はモノエーテル/グリコール混合物を供給することが一般には好ましい。それ故、例えば、1モルのホスホリルクロライドにつき3から10、好ましくは4から6当量のモノエーテル又はモノエーテル/グリコール混合物を供給する場合がある。
【0015】
モノエーテル又はモノエーテル/グリコール混合物とホスホリルクロライドの反応を、脂肪族窒素原子を含有しないピリジニル化合物の存在下で行う。このピリジル化合物は、エステル化反応中に生成されるHClの掃去剤として機能すると考えられる。生成されるHClのすべてを消費するために十分なピリジニル化合物が存在しなければならない。従って、1モルのホスホリルクロライドにつき少なくとも3モルのピリジニル化合物を供給することが好ましい。ピリジル化合物過剰が好ましい。従って、1モルのホスホリルクロライドにつき3から10、好ましくは3.1から6モルのピリジニル化合物を供給する場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】生成物を液体クロマトグラフィー/質量分析によって分析した結果である。
【図2】液体クロマトグラフィー/質量分析を行った結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
前記ピリジニル化合物は、構造:
【化2】


を有する少なくとも1つの部分を含有し、この式中、R基は、独立して、水素、アルキル、アリール、アリール置換アルキルなどである。2つ又はそれ以上のR基が、それらが付いている炭素原子(及び、もしあれば、この芳香族環の任意の介在炭素原子)と一緒に、縮合環構造を形成することがある。前記縮合環は、芳香族であることがあり、又は脂肪族であることがある。いずれの置換基にも脂肪族質素原子がないべきであるが、芳香族環構造の一部を形成する追加の窒素原子(単数又は複数)が存在することがある。すべてのR基が水素であることが好ましく、この場合、そのピリジニル化合物はピリジンである。
【0018】
前記反応をニート(すなわち無溶剤)で行うことができ、又は溶剤の存在下で行うことができる。反応が進行するにつれて形成するピリジニル化合物のHCl塩は、殆どの場合、その反応物から沈殿するので、溶剤を使用することが一般に好ましい;溶剤を用いないと、この固相の存在が、反応混合物を容易に取り扱うことができないほど粘稠にさせる。好適な溶剤は、場合によりモノエーテル又はモノエーテル/グリコール混合物用の、及び生成物リン酸エステル及びピリジニル化合物用の溶剤であるが、ピリジニル化合物のHCl塩が本質的に不溶性である材料でなければならない。前記溶剤は、もちろん、反応条件下で出発原料、生成物及び反応副生成物のいずれとも反応してはならない。非極性タイプ、例えば脂肪族又は芳香族炭化水素、及び極性タイプ、例えばテトラヒドロフラン及び1,2−ジクロロエタンを含めて、様々な有機溶剤が有用である。極性溶剤中でのほうが反応がより迅速に及びより穏やかな条件下で進行する傾向があるので、極性タイプが一般に好ましい。使用する溶剤の量は重要であるとは考えられない。
【0019】
前記反応を穏やかな条件下で行うことができる。ホスホリルクロライドのモノエーテル又はモノエーテル/グリコール混合物への添加は、多くの場合、有益である。ピリジニル化合物は、好ましくは、ホスホリルクロライドをモノエーテル又はモノエーテル/グリコール混合物と最初に混合する時点で存在するが、それを後で、しかし反応が完了してしまう前に、添加してもよい。溶剤を使用する場合、好ましくは、モノエーテル又はモノエーテル/グリコール混合物を、反応を開始する前に、溶媒に溶解する。ホスホリルクロライドをモノエーテル又はモノエーテル/グリコール混合物に徐々に添加して、発熱反応による急激な温度上昇を防止することができる。ホスホリルクロライドをモノエーテル又はモノエーテル/グリコール混合物と混合する時点での温度は、室温より下であることもあり、室温であることもあり、又は室温より上であることもある。例えば、反応物を、互いに接触させる前に、−20℃から24℃又は−10℃から+10℃の温度にすることがある。他の実施形態では、反応物を20℃から40℃の温度で接触させる場合がある一方で、40℃から120℃のより高温で接触させる場合もある。より低温が好ましい。
【0020】
ホスホリルクロライド/モノエーテル又はモノエーテル/グリコール混合物/ピリジニル化合物混合物を形成した後、その混合物を例えば0℃から120℃の温度にして反応を継続させることができる。20℃から50℃の温度が、多くの場合、好適である。一部の反応は、ピリジニル化合物の沈殿HCl塩の形成によって示されるように、反応混合物が形成された直後に概して起こる。反応は、完了まで数時間かかることがあり、この時間量は、反応温度に、及びある程度は溶剤の選択に依存する。反応速度は、テトラヒドロフラン又は1,2−ジエチレンクロライドなどの極性溶剤中でのほうがトルエンなどの非極性溶剤中でより高い傾向がある。
【0021】
ホスホリルクロライドとモノエーテル又はモノエーテル/グリコール混合物が反応して、リン酸エステル化合物を形成する。このリン酸エステル化合物は、好適には、ホスホリルクロライドと3モルのアルコールの反応に対応するトリエステルである。そのような生成物は、構造
【化3】


(I)
によって表すことができ、この式中の各xは、独立して1又はそれ以上であり、各Rは、水素又はアルキルであり、及び各Rは、アルキル又は
【化4】


(II)
である。アルキレングリコール又はポリアルキレングリコールが反応混合物中に存在するとき、R基のうちのいくつかは構造(II)を有するであろう。そうでなければ、R基は、アルキルであり、モノエーテル化合物上の末端アルキル基に対応するだろう。R基のうちの少なくともいくつかは、アルキル基である。
各xは1から5であることが好ましく、各xは1から3であることがさらに好ましい。各Rは、好ましくは、水素又はC1−2アルキルである。Rは、さらに好ましくは、いずれの場合も水素である。1つより多くのR基が構造IIを有さず、残りのものがC1−4アルキル、特にメチル、であることが好ましい。各R基はC1−4アルキルであることがさらに好ましく、各R基はメチルであることがさらにいっそう好ましい。
【0022】
粗反応混合物は、上に記載したリン酸エステル生成物に加えて、ピリジニル化合物のHCl塩(これは、殆どの場合、それが形成するにつれて反応混合物から沈殿するであろう)と、溶剤(少しでも使用する場合)と、未反応出発原料(特に、モノエーテル、モノエーテル/グリコール混合物及び/又はピリジニル化合物を過剰に使用した場合)とを含有するであろう。下の実施例1において説明するタイプのリン−窒素化合物を含めて、何らかの他のリン酸エステル化合物が、反応中に形成することがある。トリエチルアミンなどのアミンをHCl掃去剤として使用したとき有意な量で形成されるこれらの化合物が、本発明の方法では、あったとしても非常に少量で形成する傾向がある。前記粗反応混合物の液相は、これらのリン含有不純物不在又はほぼ不在のため、無色又はほぼ無色である傾向がある。
【0023】
望ましくないリン酸エステル生成物が有意な量で生成されないため、生成物回収が単純化される。ピリジニル化合物のHCl塩は、任意の従来の固液分離技術、例えば濾過又は遠心分離を用いて用意に分離される。溶剤、過剰な量のピリジニル化合物並びに未反応モノエーテル及びグリコールを大気圧又は減圧下で生成物から蒸留することができる。アルミナなどの材料が固定相としての役割を果たすクロマトグラフィーカラムにリン酸エステル生成物の溶液を通すことにより、さらなる精製をクロマトグラフ的に行うことができる。そのような場合、溶剤及び未反応出発原料の除去後に回収されるリン酸エステル生成物を好適な溶剤、例えばアセトニトリル又は前に述べたもののいずれかに再び溶解して、クロマトグラフ分離用の溶液を形成することができる。
【0024】
前記リン酸エステル生成物は、特にリチウム電池用の、電池用電解液の成分として有用である。前記リン酸エステルは、前記電解液に熱安定性及び/又は難燃性を付与することができ;炭素電極でのSEI(固体電解質界面)形成に関与することもできる。前記リン酸エステル化合物中のアルキレングリコール単位はまた、充電及び放電サイクル中の電解質によるリチウムイオン電導を促進すると考えられる。本発明で生成されるものなどのリン酸エステルを含有する電池用電解液は、欧州特許第906641号及び米国特許第6,642,294号に記載されている。
【0025】
前記電池用電解液は、前記リン酸エステルに加えて、少なくとも1つのリチウム塩を含有するであろう。前記リチウム塩は、無機リチウム塩、例えばLiAsF、LiPF、LiBF、LiB(C、LiBF、LiClO、LiBrO及びLiIO、並びに有機リチウム塩、例えばLiB(C、LiCHSO、LiN(SO及びLiCFSOをはじめとする、電池用に好適ないずれのものであってもよい。LiPF、LiClO、LiBF、LiAsF、LiCFSO及びLiN(SOCFが好ましいタイプであり、LiPFは、特に好ましいリチウム塩である。前記リチウム塩は、好適には、電解液の少なくとも0.5モル/リットル、好ましくは少なくとも0.75モル/リットル、3モル/リットル以下、及びさらに好ましくは1.5モル/リットル以下の濃度で存在する。
【0026】
前記電池用電解液は、殆どの場合、前記リチウム塩のための少なくとも1つの非水性溶剤も含むであろう。前記非水性溶剤としては、例えば、1つ又はそれ以上の線状アルキルカーボネート、環状カーボネート、環状エステル、線状エステル、環状エーテル、アルキルエーテル、ニトリル、スルホン、スルホラン、シロキサン及びスルトンを挙げることができる。上述のタイプの任意の2つ又はそれ以上のものの混合物を使用してもよい。環状エステル、線状アルキルカーボネート、及び環状カーボネートは、非水性溶剤の好ましいタイプである。
【0027】
好適な線状アルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどが挙げられる。好適である環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどが挙げられる。好適な環状エステルとしては、例えば、γ−ブチロラクトン及びγ−バレロラクトンが挙げられる。環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどが挙げられる。アルキルエーテルとしては、ジメトキシエタン、ジエトキシエタンなどが挙げられる。ニトリルとしては、モノニトリル、例えばアセトニトリル及びプロピオニトリル、ジニトリル、例えばグルタロニトリル、並びにそれらの誘導体が挙げられる。スルホンとしては、対称スルホン、例えばジメチルスルホン、ジエチルスルホンなど、非対称スルホン、例えばエチルメチルスルホン、プロピルメチルスルホンなど、並びにそれらの誘導体が挙げられる。スルホランとしては、テトラメチレンスルホランなどが挙げられる。
【0028】
いくつかの好ましい溶剤混合物としては、15:85から40:60の重量比での環状カーボネートと線状アルキルカーボネートの混合物;20:80から50:50の重量比での環状カーボネート/環状エステル混合物;20〜48:50〜78:2〜20の重量比での環状カーボネート/環状エステル/線状アルキルカーボネート混合物;70:30から98:2の重量比での環状エステル/線状アルキルカーボネート混合物が挙げられる。
【0029】
特に興味深い溶剤混合物は、15:85から40:60の重量比でのエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの混合物;15:85から40:60の重量比でのエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合物;20〜48:50〜78:2〜20の重量比でのエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合物;及び15:85から40:60の重量比でのプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合物である。
【0030】
既に述べた成分に加えて、様々な他の添加剤が前記電池用電解液中に存在することがある。これらとしては、例えば、グラファイト電極の表面での固体電解質界面の形成を促進する添加剤;様々な正極保護剤、リチウム塩安定剤、リチウム析出改善剤、イオン溶媒和増進剤、腐食防止剤、湿潤剤及び粘度降下剤を挙げることができる。これらのタイプの多くが、Zhangにより、「A review on electrolyte additives for lithium-ion batteries」, J. Power Sources 162 (2006) 1379-1394に記載されている。
【0031】
固体電解質界面(SEI)形成を促進する薬剤としては、様々な重合可能なエチレン性不飽和化合物、様々な硫黄化合物、並びに他の材料が挙げられる。好適な正極保護剤としては、N,N−ジエチルアミノトリメチルシラン及びLiB(Cなどの材料が挙げられる。リチウム塩安定剤としては、LiF、トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイト、1−メチル−2−ピロリジノン、フッ素化カルバメート及びヘキサメチル−ホスホルアミドが挙げられる。リチウム析出改善剤の例としては、二酸化硫黄、ポリスルフィド、二酸化炭素、界面活性剤、例えばテトラアルキルアンモニウムクロライド、ペルフルオロオクタンスルホネートのリチウム及びテトラエチルアンモニウム塩、様々なペルフルオロポリエーテルなどが挙げられる。クラウンエーテルは、好適なイオン溶媒和増進剤であり得、様々なボレート、ホウ素及びボロール化合物も好適であり得る。LiB(C及びLiFがアルミニウム腐食防止剤の例である。シクロヘキサン、トリアルキルホスフェート及び一定のカルボン酸エステルは、湿潤剤及び粘度降下剤として有用である。
【0032】
様々な他の添加剤が合わせて前記電池用電解液の総重量の20%以下、好ましくは10%以下を構成し得る。
【0033】
前記電池用電解液の含水量は、出来る限り低くあるべきである。50重量百万分率(ppm)又はそれ以下の含水量が望ましく、さらに好ましい含水量は、30ppm又はそれ以下である。
【0034】
前記電池用電解液を含む電池は、任意の有用な構成のものであり得る。典型的な電池構成は、負極及び正極を含み、イオンが電解液により負極と正極の間を移動できるようにその負極と正極の間にセパレータ及び電解液が置かれている。この組立体が一般にケース内にパッケージされる。前記電池の形状は、限定されない。前記電池は、渦巻き状に巻かれたシート電極とセパレータとを含む円筒タイプであることがある。前記電池は、ペレット電極とセパレータの組み合わせを含むインサイドアウト構造を有する円筒タイプであることがある。前記電池は、積層された電極とセパレータとを含むプレートタイプであることがある。
【0035】
好適な負極材料としては、例えば、炭素質材料、例えば天然又は人工グラファイト、炭化ピッチ、炭化繊維、黒鉛化メソフェーズ小球体、ファーネスブラック、アセチレンブラック及び様々な他の黒鉛化材料が挙げられる。結合剤、例えばポリ(ビニリデンフルオライド)、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン−ブタジエンコポリマー、イソプレンゴム、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリエチレン又はニトロセルロースを使用して、前記炭素質材料を互いに結合させることができる。好適な炭素質負極及びそれらを構成するための方法は、例えば米国特許第7,169,511号に記載されている。
【0036】
他の好適な負極材料としては、リチウム金属、リチウム合金及び他のリチウム化合物、例えばチタン酸リチウム負極が挙げられる。
【0037】
好適な正極材料としては、無機化合物、例えば遷移金属酸化物、遷移金属/リチウム複合酸化物、リチウム/遷移金属複合リン酸塩、遷移金属硫化物、金属酸化物及び遷移金属ケイ酸塩が挙げられる。遷移金属酸化物の例としては、MnO、V、V13及びTiOが挙げられる。遷移金属/リチウム複合酸化物としては、基本組成が大体LiCoOであるリチウム/コバルト複合酸化物、基本組成が大体LiNiOであるリチウム/ニッケル複合酸化物、及び基本組成が大体LiMn又はLiMnOであるリチウム/マンガン複合酸化物が挙げられる。これらの場合のそれぞれにおいて、コバルト、ニッケル又はマンガン部分を1つ又は2つの金属、例えばAl、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga又はZrで置き換えることができる。リチウム/遷移金属複合リン酸塩としては、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、リン酸コバルトリチウム、リン酸鉄マンガンリチウムなどが挙げられる。有用な金属酸化物の例としては、SnO及びSiOが挙げられる。有用な金属ケイ酸塩の例としては、オルトケイ酸鉄リチウムが挙げられる。
【0038】
前記電極は、それぞれ、一般に、集電体と電気的に接触している、又は集電体上に形成される。負極に好適な集電体は、金属又は金属合金、例えば銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、ステンレス鋼などである。正極に好適な集電体としては、アルミニウム、チタン、タンタル、これらのうちの2つ又はそれ以上のものの合金などが挙げられる。
【0039】
セパレータは、負極及び正極が互いに接触するすること及び短絡することを防止するために、負極と正極の間に置かれる。セパレータは、適便には非導電性材料である。それは、動作条件下で電解液と及び電解液のいずれの成分とも反応性であってはならず、並びに電解液に及び電解液のいずれの成分にも可溶性であってはならない。ポリマーのセパレータが一般に好適である。前記セパレータを形成するために好適なポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−3−メチルペンテン、エチレン−プロピレンコポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルスルホンなどが挙げられる。
【0040】
前記電解液は、前記セパレータを透過できなければならない。このために、前記セパレータは、一般に多孔質であり、多孔質シートの形態、不織若しくは織布の形態又はこれらに類する形態のものである。前記セパレータの多孔度は、一般に20%又はそれ以上であり、90%ほども高さにまで及ぶ。好ましい多孔度は、30から75%である。細孔は、それらの最長断面寸法で一般に0.5マイクロメートルより大きくなく、好ましくは0.05マイクロメートル以下である。前記セパレータは、典型的には少なくとも1マイクロメートルの厚さであり、50マイクロメートル以下の厚さであり得る。好ましい厚さは、5から30マイクロメートルである。
【0041】
前記電池は、好ましくは二次(再充電可能)リチウム電池である。そのような電池の場合、放電反応は、負極から電解液へのリチウムイオンの溶解又は脱リチウム化及び正極へのリチウムイオンの同時取り込みを含む。逆に言うと、充電反応は、電解液から負極へのリチウムイオンの取り込みを含む。充電すると、リチウムイオンは負極側で還元され、同時に、正極材料中のリチウムイオンが電解液に溶解する。
【0042】
前記電池は、工業用途、例えば電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、航空宇宙産業、イーバイクなどにおいて使用することができる。前記電池は、多数の電気及び電子装置、例えば、数ある中でも、コンピュータ、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、PDA、MP3及び他の音楽プレーヤ、テレビ、玩具、ビデオゲームプレーヤ、家庭用電化製品、医療器具、例えばペースメーカー及び除細動器を動作させるためにも有用である。
【0043】
以下の実施例は、本発明を例証するために提供するものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。すべての部及び百分率は、特記がない限り、重量によるものである。
【0044】
〔実施例1〕
攪拌棒及び添加漏斗を装備したアルゴンフラッシュ済み丸底フラスコにテトラヒドロフランを添加する。ジエチレングリコールモノメチルエーテル及びピリジンをそのフラスコに添加し、氷浴で0℃に冷却する。その後、ホスホリルクロライドを攪拌しながら一滴ずつ添加する。配合材料の比率は、得られるホスホリルクロライド出発濃度(すなわち、ホスホリルクロライドの添加が完了した後)が約0.5Mであり、6当量のモノエーテルが1モルのホスホリルクロライドに対して供給され、及び5モルのピリジンが1モルのホスホリルクロライドに対して供給されるような比率である。ホスホリルクロライド添加が開始するやいなや、ピリジン:HClが沈殿し始める。ホスホリルクロライド添加が完了した後、反応混合物を放置して室温(25℃)に温め、約24時間攪拌する。
【0045】
ピリジン:HClをその混合物から濾過し、透明無色の液相を残す。溶剤をロータリーエバポレータで除去し、過剰なモノエーテル及びピリジンを真空下で蒸発除去する。単離された生成物をアセトニトリルに溶解し、アルミナカラムに通し、脱溶剤し、真空下、65℃で乾燥させる。
【0046】
生成物を液体クロマトグラフィー/質量分析によって分析する。この分析の結果を図1に示す。約8.45分の溶出時間で、404の分子量を有する材料の1つだけのピークが出現する。このピークは、ホスホリルクロライドの望ましいトリス(ジエチレングリコールモノメチルエーテル)エステルである、構造:
【化5】


を有する化合物に対応する。
【0047】
実施例1をニートで又は1,2−ジクロロエタン中で繰り返した場合、同様の結果が得られる。この反応をトルエン中で行う場合には、反応を完了させるために混合物を数日間加熱して還流させる必要がある;液体クロマトグラフィー/質量分析は、この場合の生成物が他の場合のものより多少多くの不純物を含有することを示す。これは、極性溶剤中で反応を行うことのさらなる利点を明示している。
【0048】
比較ランA
実施例1を繰り返すが、今回はピリジンの代わりにトリエチルアミンを用いる。反応は、実施例1よりゆっくりと進行し、完了するまでに室温で約48時間を要する。反応中に形成するトリエチルアミン:HCl塩を濾過によって粗反応混合物から分離する;残存液相は非常に着色されている。実施例1において説明したように溶剤、過剰なモノエーテル及びアミンを除去した後、再び実施例1におけるように、生成物をアセトニトリルに再溶解し、アルミナカラムに通す。その後、実施例1におけるように生成物を脱溶剤し、乾燥させる。
【0049】
液体クロマトグラフィー/質量分析を行い、結果を図2に図示する。図2で分かるはずだが、得られる生成物は、化合物の混合物である。主ピークは、所望の生成物を表す404分子量材料である。加えて、少なくとも5つの他の化合物が有意な量で存在する。これらは、図2において点Bとして確認される630分子量化合物:並びに図2において点CからFとして確認される414、357、385及び385の分子量を有する化合物を含む。点D、E及びFによって表される化合物は、リン−窒素化合物であり;点D及びE化合物は、構造:
【化6】


及び
【化7】


を有すると考えられる。点Fによって確認される化合物は、点Eの化合物の異性体であると考えられる。
【0050】
〔実施例2〕
実施例1を繰り返すが、今回は、モノエチレングリコールモノメチルエーテルを、実施例1において使用したジエチレングリコールモノメチルエーテルの代わりに用いる。液体クロマトグラフィー/質量分析は、ホスホリルクロライドのトリス(モノエチレングリコールモノメチルエーテル)エステルである生成物と一致する。本質的に他のリン化合物は検出されない。この実験をニートで及び1,2−ジクロロエタン中で繰り返した場合にも同様の結果が得られる。
【0051】
〔実施例3〕
実施例1を再び繰り返すが、今回は、トリエチレングリコールモノメチルエーテルを、実施例1において使用したジエチレングリコールモノメチルエーテルの代わりに用いる。液体クロマトグラフィー/質量分析は、ホスホリルクロライドのトリス(トリエチレングリコールモノメチルエーテル)エステルである生成物と一致する。本質的に他のリン化合物は検出されない。この生成物は、25℃で25cPsの粘度を有する。この実験をニートで及び1,2−ジクロロエタン中で繰り返した場合にも同様の結果が得られる。
【0052】
実施例1〜3において得たリン酸エステル化合物の熱安定性を熱重量分析(TGA)によって評価する。サンプルを75℃から5℃/分の速度で加熱し、重量損失を温度の関数として評価する。サンプルがその初期(75℃での)重量の50%を損失した温度を判定する。実施例2の生成物の50%重量損失温度は、約190℃である。実施例1及び実施例3生成物の50%重量損失温度は、それぞれ約265℃及び288℃である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホリルクロライドと、少なくとも1つのモノ(アルキレングリコール)モノエーテル若しくはポリ(アルキレングリコール)モノエーテルとを、又は少なくとも1つのモノ(アルキレングリコール)モノエーテル若しくはポリ(アルキレングリコール)モノエーテルと少なくとも1つのアルキレングリコール若しくはポリアルキレングリコールの混合物とを、1モルのホスホリルクロライドにつき少なくとも3モルの、脂肪族窒素原子がない、ピリジニル化合物の存在下で反応させることを含む、リン酸エステル化合物を形成するための方法。
【請求項2】
前記ピリジニル化合物が、ピリジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ホスホリルクロライドをジエチレングリコールモノメチルエーテル又はトリエチレングリコールモノメチルエーテルと反応させる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
溶剤中で行う、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記溶剤が、極性溶剤である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の方法で生成されたリン酸エステルを含有する電池用電解液。
【請求項7】
請求項6に記載の電池用電解液を含む電池。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−506711(P2013−506711A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533201(P2012−533201)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/050100
【国際公開番号】WO2011/043934
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】