説明

ホスホン酸ポリマー及びその製造方法並びにホスホン酸ポリマーを用いた燃料電池用材料

【課題】ホスホン酸ポリマー及びその製造方法並びにホスホン酸ポリマーを用いた燃料電池用材料を提供する。
【解決手段】繰り返し単位内に下記式(1)で表される構造を少なくとも1つ有することを特徴とするホスホン酸ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホスホン酸ポリマー及びその製造方法に関し、より詳細には、芳香族ポリエーテルの側鎖にホスホン酸基を有するホスホン酸ポリマー及びその製造方法に関する。また、この発明は、このホスホン酸ポリマーを用いた燃料電池材料にも関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー主鎖に芳香環を導入して耐熱性を向上させたスルホン酸ポリマーがある。しかしながら、この様なスルホン酸ポリマーを電解質膜として用いた燃料電池は、高温条件での運転時に脱スルホン化のおそれがある。そこで、この種のスルホン酸ポリマーに代わる様々な膜材料が検討されているところである。
【0003】
このような状況下、従来、例えば非特許文献1には、芳香族ポリエーテルスルホンの側鎖にホスホン酸基を有するホスホン酸ポリマーが開示されている。この従来のホスホン酸ポリマーは、スルホニル基に隣接するポリマー主鎖の芳香環に、オルト位にジフルオロメチレンホスホン酸基を有するベンゾイル基を導入することで生成されたものである。一般に、ホスホン酸はスルホン酸よりも弱い酸である。このため、ホスホン酸基を側鎖に有するホスホン酸ポリマーのプロトン伝導率は、スルホン酸ポリマーに比べて低いものとなる。ところが、この従来のホスホン酸ポリマーは、スルホン酸基を側鎖に有する芳香族ポリエーテルスルホンに匹敵するイオン伝導率を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−314452号公報
【特許文献2】特開2007−53086号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】B Lafitte, P Jannasch, “Polysulfone ionomers functionalized with benzoyl(difluoromethylenephosphonic acid) side chains for proton-conducting fuel-cell membranes” Journal of Polymer science: Part A: Polymer Chemistry, vol.45, 269-283(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようなホスホン酸ポリマーにおいても、さらに優れた特性を示すものが求められている。特にイオン伝導率は、ホスホン酸ポリマーを用いた燃料電池等の発電特性に大きく影響するため、さらなる改善が求められているところである。
【0007】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、イオン伝導特性の良好なホスホン酸ポリマー及びその製造方法を提供することを目的とする。同時にまた、この発明は、イオン伝導特性の良好なホスホン酸ポリマーを用いた燃料電池材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、繰り返し単位内に下記式(1)で表される構造を少なくとも1つ有することを特徴とするホスホン酸ポリマーであることを特徴とする。
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基を表し、Xは水素原子又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキレンホスホン酸基を表し、Yは−O−又は水素原子を表す。)
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明において、下記式(2)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。
【化2】

【0010】
また、第3の発明は、第1の発明において、下記式(3)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。
【化3】

【0011】
また、第4の発明は、燃料電池用材料であって、
第1〜3に記載のホスホン酸ポリマーを含むことを特徴とする。
【0012】
また、第5の発明は、第1〜3に記載のホスホン酸ポリマーの製造方法であって、
芳香族ポリエーテルにヨード安息香酸を反応させる第1工程と、
第1工程により得られた芳香族ポリエーテルに、炭素数1〜3のモノブロモパーフルオロアルキレンホスホン酸エステルを反応させる第2工程と、
第2工程により得られた芳香族ポリエーテルのホスホン酸に対する保護基を除去する第3工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、イオン伝導特性に優れたホスホン酸ポリマーを及びその製造方法を提供することができる。また、このホスホン酸ポリマーを用いた燃料電池材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例2で得られたポリマー(I)のH−NMRスペクトルである。
【図2】実施例2で得られたポリマー(J)のH−NMRスペクトルである。
【図3】実施例2で得られたポリマー(K)のH−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態.
<ホスホン酸ポリマー>
先ず、本発明のホスホン酸ポリマーをその製造方法を開示しつつ説明する。
本発明のホスホン酸ポリマーは、芳香族ポリエーテル、具体的には、下記式(4)に示す芳香族ポリエーテルエーテルスルホン又は(5)に示す芳香族ポリエーテルエーテルケトンを出発物質とする。
【化4】

【化5】

【0016】
上記出発物質に2−ヨード安息香酸を反応させ、上式(4)、(5)の芳香族ポリエーテルの主鎖を構成する芳香環にヨードベンゾイル基を導入させる(第1工程)。第1工程によれば、位置選択性の高い反応を起こすことができるので、芳香環の特定の位置にヨードベンゾイル基を導入できる。
【0017】
導入されたヨードベンゾイル基は、パーフルオロアルキレンホスホン酸エステルをその芳香環上に導入するスペーサーとして機能する。なお、ヨード安息香酸の置換位置はこの位置に限られず、また、ヨード置換数は1以上でもよい。このような他のヨード安息香酸としては、例えば、4−ヨード安息香酸、2,4−ジヨード安息香酸、2,6−ジヨード安息香酸、2,4,6−トリヨード安息香酸が挙げられる。
【0018】
2−ヨード安息香酸の添加量は、繰り返し単位内に導入するヨードベンゾイル基の数に対応させて調整することができる。具体的に、上式(4)の芳香族ポリエーテルでは、繰り返し単位あたり1つのヨードベンゾイル基を導入することを目的とするため、物質量比が1:1〜1:2となるよう調整することが好ましい。同様に、上式(5)の芳香族ポリエーテルでは、繰り返し単位あたり4つのヨードベンゾイル基を導入することを目的とするため、物質量比が1:4〜1:6となるよう調整することが好ましい。
【0019】
第1工程は、出発物質をトリフルオロメタンスルホン酸に溶解させ、その後ヨード安息香酸を加えることにより行われる。なお、この溶解には、トリフルオロメタンスルホン酸に限られず、例えば五酸化リン−メタンスルホン酸混合溶液(PPMA)、酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、硫酸、クロロ硫酸、フルオロ硫酸といった酸を用いてもよい。
【0020】
第1工程は、2−ヨード安息香酸を加えた後、室温で3時間反応させることにより行われる。なお、反応時間は1〜48時間で調整できるが、2時間以上にすれば所望のポリマー中間体を得ることができる。また、反応温度は10℃〜120℃で調整できる。
【0021】
続いて、第1工程により得られたポリマー中間体に、下記式(6)で表されるモノブロモパーフルオロアルキレンホスホン酸エステルを反応させ、ヨード基をパーフルオロアルキレンホスホン酸エステル基に置換する(第2工程)。
【化6】

(式(6)中、Rは炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基を表し、R及びRはホスホン酸を構成する水酸基に対する保護基を表す。)
【0022】
及びRで表されるホスホン酸の保護基としては、共にエチル基を用いるが、エチル基を除く炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数3〜20の脂環式有機基、あるいは炭素数6〜20のアリール基を用いてもよい。
【0023】
上式(6)のホスホン酸エステルの添加量は、繰り返し単位内に導入されたヨードベンゾイル基の数に対応させて調整することができる。具体的に、上式(4)の芳香族ポリエーテル由来のポリマー中間体では、繰り返し単位あたり1つのヨードベンゾイル基を導入することを目的とするため、物質量比が1:1〜1:3となるよう調整することが好ましい。同様に、上式(5)の芳香族ポリエーテル由来のポリマー中間体では、繰り返し単位あたり4つのヨードベンゾイル基を導入することを目的とするため、物質量比が1:6〜1:10となるよう調整することが好ましい。
【0024】
第2工程は、銅触媒を介在させたクロスカップリング反応により行われる。先ず、カップリング反応に用いる反応溶液を調製する。この反応溶液は、2段階の撹拌により調整される。先ず、溶剤に亜鉛粉末を加え、その後、上式(6)に示すホスホン酸エステルを加えて撹拌する(第1段階の撹拌)。ここで、溶剤にはN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を用いるが、クロスカップリングの反応条件において分解等を起こさないものであればどのようなものであってもよく、例えばクロロホルム、ジクロロメタン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン(THF)、メタノール、アセトン等の溶剤を用いてもよい。第1の撹拌は、室温で2時間行われるが、10℃〜120℃で1〜4時間の間で調整が可能である。
【0025】
続いて、反応溶液に銅触媒を加えて更に1時間程度撹拌する(第2段階の撹拌)。ここで、銅触媒は臭化銅(I)を用いるが、炭素−炭素生成のためのクロスカップリング反応において通常用いられる銅触媒を用いてもよい。このような他の銅触媒としては、例えば、臭化銅(II)、塩化銅(I)、塩化銅(II)、ヨウ化銅(I)、ヨウ化銅(II)等が挙げられる。
【0026】
このようにして調製した反応溶液に、第1工程により得られたポリマー中間体を加えて反応させる。なお、ポリマー中間体は、反応溶液を調整する際に用いた溶剤と同一の溶剤に溶かしてから加えることが溶解性の観点から好ましい。また、この反応は室温で24時間行われるが、10℃〜120℃で12〜48時間の間で調整が可能である。
【0027】
続いて、第2工程を経ることでパーフルオロアルキレンホスホン酸エステル基が導入されたポリマー中間体に対して加水分解を行う(第3工程)。第3工程を経ることで保護基を除去する。第3工程では、ポリマー中間体を溶剤に溶解し、トリメチルシリルブロマイドを加えて加熱することにより保護基を除去するが、保護基の特性に併せて公知の他の加水分解方法を用いてもよい。第3工程の後、所定の洗浄、乾燥処理を施し本発明のホスホン酸ポリマーを得る。
【0028】
なお、後述する実施例で示すとおり、本発明のホスホン酸ポリマーは、上記第1〜第3工程の各工程により高収率で得られるものである。また、上記第1〜第3工程は、室温レベルで行うことができる。したがって、本発明のホスホン酸ポリマーの製造方法は、工業上有用であり得る。
【0029】
<プロトン伝導膜>
次に、上記第1〜第3工程を経て得られたホスホン酸ポリマーを含む、本発明のプロトン伝導膜について説明する。なお、本発明のプロトン伝導膜は、上記ホスホン酸ポリマーのイオン伝導性を損なわない範囲で、フェノール性水酸基含有化合物、アミン系化合物、有機リン化合物、有機硫黄化合物といった酸化防止剤等を含んでもよい。
【0030】
本発明のプロトン伝導膜は、上記ホスホン酸ポリマーを溶剤中で溶解または膨潤させ、それを基体上に流延してフィルム状に成形するキャスティング法などにより成膜することができる。
【0031】
上記基体としては、通常の溶液キャスティング法に用いられる基体であれば特に限定されず、たとえばプラスチック製、金属製などの基体が用いられ、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの熱可塑性樹脂からなる基体が用いられる。
【0032】
上記ホスホン酸ポリマーを溶解または膨潤させる溶剤としては、たとえば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノン、アセトニトリル等の非プロトン系極性溶剤や、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶剤や、メタノール、エタノール、プロパノール、iso−プロピルアルコール、sec−ブチアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類や、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γーブチルラクトン等のケトン類などが挙げられる。これらの溶剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、溶解性および溶液粘度の観点から、N,N−ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0033】
ホスホン酸ポリマーを溶解させた溶液のポリマー濃度は、ポリマーの分子量にもよるが、通常、5〜40重量%、好ましくは7〜25重量%である。ポリマー濃度が上記範囲よりも低いと、厚膜化し難く、また、ピンホールが生成しやすい傾向にあり、上記範囲を超えると、溶液粘度が高すぎてフィルム化し難く、また、表面平滑性に欠けることがある。
【0034】
また、溶液粘度は、ポリマーの分子量、ポリマー濃度、添加剤の濃度などによっても異なるが、通常、2,000〜100,000mPa・s、好ましくは3,000〜50,000mPa・sである。溶液粘度が上記範囲よりも低いと、成膜中の溶液の滞留性が悪く、基体から流れてしまうことがあり、上記範囲を超えると、粘度が高過ぎて、ダイからの押し出しができず、流延法によるフィルム化が困難となることがある。
【0035】
成膜後、得られた未乾燥フィルムを水に浸漬すると、未乾燥フィルム中の溶剤を水と置換することができ、膜中の残留溶媒量を低減することができる。なお、成膜後、未乾燥フィルムを水に浸漬する前に、未乾燥フィルムを予備乾燥してもよい。この予備乾燥は、未乾燥フィルムを通常10〜60℃の温度で、0.1〜10時間保持することにより行われる。
【0036】
未乾燥フィルム(予備乾燥後のフィルムも含む。以下同じ。)を水に浸漬する際は、枚葉を水に浸漬するバッチ方式でもよく、基板フィルム(たとえば、PET)上に成膜された状態の積層フィルムのまま、または基板から分離した膜を、水に浸漬させて巻き取っていく連続方式でもよい。また、バッチ方式の場合は、処理後のフィルム表面に皺が形成されることを抑制するために、未乾燥フィルムを枠にはめるなどの方法で、水に浸漬させることが好ましい。
【0037】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後乾燥すると、残存溶媒量が低減された膜が得られるが、このようにして得られる膜の残存溶媒量は、通常5重量%以下である。また、浸漬条件によっては、得られる膜の残存溶媒量を1重量%以下とすることができる。このような条件としては、たとえば、未乾燥フィルム1重量部に対する水の使用量が50重量部以上であり、浸漬する際の水の温度が10〜60℃、浸漬時間が10分〜10時間である。
【0038】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後、フィルムを室温、好ましくは10〜60℃で10〜48時間、好ましくは10〜24時間真空乾燥することにより、本発明のプロトン伝導膜を得る。
【0039】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
4,4’−ジクロロジフェニルスルホン2g(分子量287.17,WAKOより購入)とレゾルシロール(分子量110.11,WAKOより購入)及び炭酸カリウム、N−メチル−2−ピロリドン、トルエンを加え、150℃、3時間還流した。還流後、トルエンを除去しそのまま180℃で12時間撹拌を行った。撹拌後、水により沈殿させ真空乾燥させ目的物としての下記ポリマー(A)を得た。
【0041】
【化7】

ポリマー(A)(0.97g,3.0mmol)をトリフルオロメタンスルホン酸(4.5ml)に溶解させ、そこに2−ヨード安息香酸(0.82g,3.3mmol)を加え、室温で3時間反応させた。反応終了後、水に再沈殿させ、繊維状のポリマーを得た。3重量%重曹水、熱水及び熱メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで目的とするポリマー(B)1.63g(収率98%)を得た。
【0042】
【化8】

窒素雰囲気下、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(3.5ml)に亜鉛粉末(0.33g,5.0mmol)を加え、そこにジエチル(ブロモジフルオロメチル)ホスホネート(1.34g,5.0mmol)をゆっくりと滴下した。室温で2時間撹拌後、臭化銅(I)(0.72g,5.0mmol)を加え、さらに30分間撹拌した。この反応溶液にポリマー(B)(1.39g,2.5mmol)のDMF(10ml)溶液を加え、室温で24時間反応後、希塩酸水に再沈殿させた。得られたポリマーをDMFに溶解させ、不溶部分をろ過により除去後、メタノールに再沈殿させた。メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで目的とするポリマー(C)1.54g(収率100%)を得た。
【0043】
【化9】

ポリマー(C)(1.23g,2.0mmol)をクロロホルム(30ml)に溶解させ、そこにトリメチルシリルブロマイド(0.92g,6.0mmol)を5℃で滴下して加えた。反応溶液を40℃に加熱し、24時間反応させた後、メタノールに再沈殿させた。メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで目的とするポリマー(D)1.04g(収率93%、EW値558)を得た。
【0044】
[実施例2]
【化10】

化合物(E)(0.79g,2.0mmol)、フェノール(1.13g,12mmol)及び炭酸カリウム(1.66g,12mmol)に1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(8ml)を加え、窒素雰囲気下200℃で一晩反応させた。反応溶液を室温に冷却後、3重量%水酸化ナトリウム水溶液に再沈殿させた。得られた固体をDMFに溶解させ、水とメタノールの混合溶液(メタノール:水=4:1)に再沈殿させ、固体を回収した。80℃で減圧乾燥させることで目的の化合物(F)1.26g(収率91%)を得た。
【0045】
【化11】

化合物(F)(1.11g,1.6mmol)をジクロロメタン(10ml)に溶解させ、−78℃に冷却した。そこに三臭化ホウ素のジクロロメタン溶液(4ml,4mmol)を加え、1時間撹拌した。−78℃から室温にゆっくり戻し、さらに一晩反応させた。反応終了後、水で洗浄し、溶媒を濃縮させることで固体を得た。得られた固体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン)により精製することで目的とする化合物(G)1.00g(収率94%)を得た。
【0046】
【化12】

4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(0.65g,3.0mmol)、化合物(G)及び炭酸カリウム(1.24g,9.0mmol)にシクロヘキサン(4ml)及びN,N−ジメチルアセトアミド(6ml)を加え、窒素雰囲気下100℃に加熱した。ディーンスターク装置を用いて水を除去後、シクロヘキサンを留去し、160℃で一晩撹拌した。反応終了後、水に再沈殿させ、繊維状のポリマーを得た。熱水及び熱メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで目的とするポリマー(H)1.71g(収率97%)を得た。
【0047】
【化13】

ポリマー(H)(0.84g,1.0mmol)をトリフルオロメタンスルホン酸(8ml)に溶解させ、そこに2−ヨード安息香酸(1.19g,4.8mmol)を加え、室温で3時間反応させた。反応終了後、水に再沈殿させ、繊維状のポリマーを得た。3重量%重曹水、熱水及び熱メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで目的とするポリマー(I)1.71g(収率97%)を得た。得られたポリマー(I)の構造については、図1に示すH−NMRスペクトルデータを用いて確認した。
【0048】
【化14】

窒素雰囲気下、DMF(4.8ml)に亜鉛粉末(0.21g,3.2mmol)を加え、そこにジエチル(ブロモジフルオロメチル)ホスホネート(0.85g,3.2mmol)をゆっくり滴下した。室温で2時間撹拌後、臭化銅(I)(0.46g,3.2mmol)を加え、さらに30分間撹拌した。この反応溶液にポリマー(I)(0.70g,0.4mmol)のDMF(5.3ml)溶液を加え、室温で24時間反応後、希塩酸水に再沈殿させた。得られたポリマーをDMFに溶解させ、不溶部分をろ過により除去後、メタノールに再沈殿させた。メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで目的とするポリマー(J)0.74g(収率95%)を得た。得られたポリマー(J)の構造については、図2に示すH−NMRスペクトルデータを用いて確認した。
【0049】
【化15】

ポリマー(J)(0.70g,0.36mmol)をクロロホルム(15ml)に溶解させ、そこにトリメチルシリルブロマイド(0.66g,4.3mmol)を5℃で滴下して加えた。反応溶液を40℃に加熱し、24時間反応させた後、メタノールに再沈殿させた。メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで目的とするポリマー(K)0.57g(収率92%)を得た。得られたポリマー(K)の構造については、図3に示すH−NMRスペクトルデータを用いて確認した。
【0050】
(電解質膜試料の作製)
実施例1及び実施例2で得られたポリマー(D)及びポリマー(K)を5%のDMAcに溶解させ、オーブンで48時間、60℃でキャスト法により成形することで電解質膜を得た。得られた電解質膜は、それぞれ水に浸して微量DMAcを除去した後、真空中、室温で24時間乾燥することで電解質膜試料を作製した。
【0051】
(測定方法及び評価方法)
(1)イオン交換当量(EW値)の測定
電解質膜試料を100℃で24時間減圧乾燥後、アルゴン雰囲気のグローブボックス中に移し30分放置してから重量を測定した。これをN,N−ジメチルアセトアミドに溶解させ、0.1mol/lの水酸化テトラメチルアンモニウム溶液で滴定を行った。pH7になった時点を当量点とし、そのとき加えた水酸化テトラメチルアンモニウムの量からEW値を計算した。計算結果を表1に示す。
EW値[g/mol]=1000×電解質膜試料の重量[g]/0.1[mol/l]×水酸化ナトリウムの滴定量[ml]
(2)温度80℃、相対湿度95%でのプロトン伝導率の測定
電解質膜試料をステンレス鋼電極で挟み込むことで電気化学セルを構成し、電極間に交流を印加して抵抗成分を測定する交流インピーダンス法を用いて行った。プロトン伝導率は、コールコールプロットの実数インピーダンス切片から計算した。計算結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

表1から分かるように、ポリマー(D)及びポリマー(K)から作製した電解質膜試料は、EW値が低くイオン伝導率が良好であり、特にポリマー(K)から作製した電解質試料は、非常に良好なEW値及びイオン伝導率を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し単位内に下記式(1)で表される構造を少なくとも1つ有することを特徴とするホスホン酸ポリマー。
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基を表し、Xは水素原子又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキレンホスホン酸基を表し、Yは−O−又は水素原子を表す。)
【請求項2】
下記式(2)で表される繰り返し単位を有する請求項1に記載のホスホン酸ポリマー。
【化2】

【請求項3】
下記式(3)で表される繰り返し単位を有する請求項1に記載のホスホン酸ポリマー。
【化3】

【請求項4】
請求項1〜3に記載のホスホン酸ポリマーを含むことを特徴とする燃料電池用材料。
【請求項5】
請求項1〜3に記載のホスホン酸ポリマーの製造方法であって、
芳香族ポリエーテルにヨード安息香酸を反応させる第1工程と、
第1工程により得られた芳香族ポリエーテルに、炭素数1〜3のモノブロモパーフルオロアルキレンホスホン酸エステルを反応させる第2工程と、
第2工程により得られた芳香族ポリエーテルのホスホン酸に対する保護基を除去する第3工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−105877(P2011−105877A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263693(P2009−263693)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】