説明

ホタルルシフェリンを用いないルシフェラーゼの光活性測定方法

【課題】ホタル発光基質であるD−ルシフェリンを使用せずに、ルシフェラーゼの光活性を測定するための代替基質を提供する。
【解決手段】2−シアノ−6−ヒドロキシベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール誘導体をルシフェリン前駆体として用い、ルシフェリン前駆体をホタルルシフェラーゼ遺伝子が導入された生物又はその一部に取り込ませることによってD−ルシフェリンと同様に細胞内で発現したルシフェラーゼによる発光活性を測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば哺乳類細胞、個体内に発現した発光甲虫ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ、鉄道虫ルシフェラーゼ、ヒカリコメツキルシフェラーゼ、イリオモテボタルルシフェラーゼ)の発光量を、発光基質ホタルルシフェリンを用いないで測定することが可能なルシフェリン前駆体を用いた光活性測定方法、前記前駆体を含有するルシフェラーゼ遺伝子導入動物用の餌、前記前駆体を含有するルシフェラーゼ遺伝子導入細胞用培地、及び前記前駆体を取り込んだルシフェラーゼ遺伝子導入生物若しくはその一部に関する。
【背景技術】
【0002】
発光甲虫の生物発光はホタルルシフェリンと甲虫ルシフェラーゼの酵素反応であり、選択性の高い酵素反応である。生命科学の分野ではルシフェリン・ルシフェラーゼ反応を利用して、細胞内で発現するタンパク質のプロモーター活性測定、いわゆる遺伝子発現検出系として汎用的に使われている(Fan F.; Wood K.V. (2007). Assay. Drug Dev. Technol.,
5, 127-136;非特許文献1)。これによって薬剤や化学物質など外的な因子による細胞
応答が評価可能であり、創薬研究や環境ホルモンの検出等に用いられている(Windal I.;
Denison M.S.; Birnbaum L.S.; Van Wouwe N.; Baeyens W.; Goeyens L. (2005), Environ. Sci. Technol., 39,7357-7364;非特許文献2)本法では、プロモーター活性測定可能なプロモーター領域のDNA配列を甲虫ルシフェラーゼ配列に挿入したプラスミドベクター
等を導入した細胞等に、対象となる物質を加えた後、一定時間経過後、細胞をすり潰し細胞内に含まれるルフェラーゼタンパク質を含む試料にルシフェリン試薬(反応に必要なATPやマグネシウムイオンが含まれている)を加えることによって発光活性を測定している
。一方、時計遺伝子のプロモーター活性の測定を行うために、時計遺伝子遺伝子プロモーター活性を測定可能なプロモーター領域のDNA配列を甲虫ルシフェラーゼ配列に挿入した
プラスミドベクター等を哺乳類細胞内に導入した後、直接培地にルシフェリンを加え生きた細胞のまま、遺伝子発現を評価する例も増えている。(Nakajima Y.; Ikeda M.; Kimura T.; Honma S.; Ohmiya Y.; Honma K. (2004). FEBS Lett., 565, 122-126;非特許文献3)また、発ガンや病態を解析するために作成された発光マウス等の発光甲虫ルシフェラ
ーゼ遺伝子導入のトランスジェニック生物もたくさん作られ、ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応の発光を指標に創薬等に利用する例も増えているが、この場合、発光トランスジェニック生物に直接ルシフェリンを注射したり、食餌としてルシフェリンを与えたりするのが一般的である。(Collaco A. M.; Geusz M. E. (2003). BMC Physiology, 3, 8;非
特許文献4)しかしながら、ルシフェリンが高価であるため、生きた発光甲虫ルシフェラ
ーゼ導入細胞・個体の活用が制限されているのが現状である。さらに細胞チップなどを活用するにあたり、発光細胞チップは細胞応答を簡便に測定できるシステムとして活用は期待されているが、ルシフェリンが高価であるという理由から、蛍光測定装置さえあれば細胞応答を計測できる蛍光細胞チップに比べ、普及していないのが現状である。
【0003】
活性を持つホタルルシフェリンはD体であり、キノン類及び非天然型のD-システインを
出発物質とする化合物である(White E. H., McCapra F., Fireld G. and McElroy W. D.
(1961) J. Amer. Chem. Soc., 83, 2402-2403;非特許文献5)
。化学合成の手法は確立されているが、出発物質が天然型に比べて高価なD-システインであるため、安価に供給できないのが現状である。しかしながら、近年、発光基質合成経路の再評価により、発光基質D-ホタルルシフェリンがなくとも、天然型L‐システインを出発物質として発光基質が合成され、その経路に関わる物質群とホタルルシフェラーゼを加えることで発光する、in vitroのL-システインの定量法が報告されている(特開2004-379971;特許文献1)。
【特許文献1】特開2004-379971
【非特許文献1】Fan F.; Wood K.V. (2007). Assay. Drug Dev. Technol., 5, 127-136
【非特許文献2】Windal I.; Denison M.S.; Birnbaum L.S.; Van Wouwe N.; Baeyens W.; Goeyens L. (2005). Environ. Sci. Technol., 39,7357-7364
【非特許文献3】Nakajima Y.; Ikeda M.; Kimura T.; Honma S.; Ohmiya Y.; Honma K. (2004). FEBS Lett., 565, 122-126
【非特許文献4】Collaco A. M.; Geusz M. E. (2003). BMC Physiology, 3, 8
【非特許文献5】White E. H.; McCapra F.; Fireld G.; McElroy W. D. (1961).J. Amer. Chem. Soc., 83, 2402-2403
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、レポーター遺伝子としてホタルルシフェラーゼ遺伝子導入した細胞(例えば、哺乳類細胞)やトランスジェニック生物又はその一部である器官、組織若しくは細胞を、生きた状態のままに、ホタル発光基質を直接用いることなく、発光を測定する方法の開発を目的とする。これにより、生きた生物や細胞の状態で安価にホタルルシフェラーゼの活性を測ることが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は,上記課題を解決するため、ホタル発光基質の生合成経路を再確認し、発光基質D-ホタルルシフェリンがなくとも、生合成経路の出発物質である以下の式(1):
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、Yは水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基または下記の式(2):
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す)で表される基、RはCNまたは下記の式(3):
【0010】
【化3】

【0011】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示し、ZおよびZは、同一または異なって酸素原子(O)または硫黄原子(S)を示す)で表される基である)で表されるルシフェリン前駆体を加えれば、哺乳類の細胞レベルに存在する天然型L-システイン及び酵素群によって、活性型のD-ホタルルシフェリンが生合成され、発光することを見出したことから、安定に、簡便に、且つ安価にホタルルシフェラーゼ遺伝子導入した
哺乳類細胞やトランスジェニック生物が発光することを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
本発明は、以下の態様の発明を提供する。
項1. 下記の式(1):
【0013】
【化4】

【0014】
(式中、Yは水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基または下記の式(2):
【0015】
【化5】

【0016】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す)で表される基、RはCNまたは下記の式(3):
【0017】
【化6】

【0018】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示し、ZおよびZは、同一または異なって酸素原子(O)または硫黄原子(S)を示す)で表される基である)で表されるルシフェリン前駆体をルシフェラーゼ遺伝子が導入された生物又はその一部に取り込ませることによってルシフェラーゼによる発光活性を測定する方法。
項2. ルシフェラーゼがホタルルシフェラーゼである項1に記載の方法。
項3. 下記の式(1):
【0019】
【化7】

【0020】
(式中、Yは水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基または下記の式(2):
【0021】
【化8】

【0022】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す)で表される基、RはCNまたは下記の式(3):
【0023】
【化9】

【0024】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示し、ZおよびZは、同一または異なって酸素原子(O)または硫黄原子(S)を示す)で表される基である)で表されるルシフェリン前駆体を含有することを特徴とする、ルシフェラーゼ遺伝子が導入された動物用の餌。
項4. 下記の式(1):
【0025】
【化10】

【0026】
(式中、Yは水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基または下記の式(2):
【0027】
【化11】

【0028】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す)で表される基、RはCNまたは下記の式(3):
【0029】
【化12】

【0030】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示し、ZおよびZは、同一または異なって酸素原子(O)または硫黄原子(S)を示す)で表される基である)で表されるルシフェリン前駆体を含有することを特徴とする、ルシフェラーゼ遺伝子が導入された細胞又は組織を培養するための培地。
項5. 下記の式(1):
【0031】
【化13】

【0032】
(式中、Yは水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基または下記の式(2):
【0033】
【化14】

【0034】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す)で表される基、RはCNまたは下記の式(3):
【0035】
【化15】

【0036】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示し、ZおよびZは、同一または異なって酸素原子(O)または硫黄原子(S)を示す)で表される基である)で表されるルシフェリン前駆体を摂取させたルシフェラーゼ遺伝子が導入された生物又はその一部。
項6. 下記の式(1):
【0037】
【化16】

【0038】
(式中、Yは水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基または下記の式(2):
【0039】
【化17】

【0040】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す)で表される基、RはCNまたは下記の式(3):
【0041】
【化18】

【0042】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示し、ZおよびZは、同一または異なって酸素原子(O)または硫黄原子(S)を示す)で表される基である)で表されるルシフェリン前駆体を取り込ませた、ルシフェラーゼ遺伝子が導入された細胞。
項7. 下記の式(1):
【0043】
【化19】

【0044】
(式中、Yは水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基または下記の式(2):
【0045】
【化20】

【0046】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す)で表される基、RはCNまたは下記の式(3):
【0047】
【化21】

【0048】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示し、ZおよびZは、同一または異なって酸素原子(O)または硫黄原子(S)を示す)で表される基である)で表されるルシフェリン前駆体を含む培養液中にルシフェラーゼ遺伝子導入細胞チップが浸漬された発光活性測定システム。
項8. 下記の式(1):
【0049】
【化22】

【0050】
(式中、Yは水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基または下記の式(2):
【0051】
【化23】

【0052】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す)で表される基、RはCNまたは下記の式(3):
【0053】
【化24】

【0054】
(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示し、ZおよびZは、同一または異なって酸素原子(O)または硫黄原子(S)を示す)で表される基である)で表される、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した生物又はその一部に直接導入するためのルシフェリン前駆体。
【発明の効果】
【0055】
本発明は、上記式(1)で示されるルシフェリン前駆体を直接ルシフェラーゼ遺伝子導入細胞又は生物に投与することで、当該前駆体から生体内でルシフェリンが合成され、結果としてルシフェリン−ルシフェラーゼ反応による発光活性測定が可能であるという知見に基づいて完成した。よって、本発明によれば、発光基質としてD-ルシフェリンを用い
る必要がなく、当該基質を合成する手間も省けるため、より安価に発光活性測定ができる。また、長時間に亘ってより安定な発光を制御することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応は、遺伝子解析の分野で広く利用されている。その反応機構は、発光基質であるD-ホタルルシフェリンがATPと反応してアデニルルシフェリ
ンとなり、続いて酸素と反応してオキシルシフェリンとなる時に光を発する。この時、触媒として反応を円滑に進めるのがホタルルシフェラーゼなどの発光甲虫ルシフェラーゼであり、さらにマグネシウムイオンが補因子として必要である。よって、発光反応を生み出す上で、必須な物質群はD-ホタルルシフェリン、ATP、マグネシウムイオンと発光甲虫ル
シフェラーゼ(特にホタルルシフェラーゼ)である。
【0057】
上記式(1)のルシフェリン前駆体を生体や細胞に注入することで発光基質が合成されるのは、細胞中に本来存在するL−システインと前記前駆体から先ずL−ルシフェリンが合成され、さらに生体内の補酵素A、ATP、Mgイオン及びチオエステル加水分解酵素の働きによりL‐ルシフェリルCoAを経て発光可能なD‐ホタルルシフェリンが合成されるためと考えられる。
【0058】
本発明のルシフェリン前駆体を示す上記の式(1)において、アルキルオキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、n-ブチリルオキシ、イソブチリルオキシ、sec-ブチリルオキシ、tert-ブチリルオキシ、バレリルオキシ、
イソバレリルオキシ、ピバロイルオキシ、グリコリルオキシ、ラクトイルオキシ、フェニルアセチルオキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。
【0059】
モノアルキルアミノ基としては、メチルアミノ、エチルアミノ、n-プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、n-ブチルアミノ、イソブチルアミノ、sec-ブチルアミノ、tert-ブチ
ルアミノ、ペンチルアミノ、ヘキシルアミノなどのC〜C,好ましくはC〜Cの直鎖または分枝を有するアルキルアミノ基が挙げられる。
【0060】
ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジn-プロピルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジn-ブチルアミノ、ジイソブチルアミノ、ジsec-ブチルアミノ、ジtert-ブチルアミノ、ジペンチルアミノ、ジヘキシルアミノなどのC〜C,好ま
しくはC〜Cの直鎖または分枝を有するアルキルでジ置換されたアミノ基が挙げられる。
【0061】
アルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシルなどのC〜C,好ましくはC
〜Cの直鎖または分枝を有するアルキル基が挙げられる。
【0062】
アラルキル基としては、ベンジル、1−フェネチル、2−フェネチルが挙げられる。
【0063】
アリール基としては、フェニル、ナフチル、トルイル、キシリルなどが挙げられる。
【0064】
本発明の一実施形態は、上記ルシフェリン前駆体を生物又はその一部に取り込ませることによってルシフェラーゼによる光活性を測定する方法である。ここで、「その一部」とは生物を構成する一部分を意味し、添加された本発明のルシフェリン前駆体からルシフェラーゼの発光基質を産生できるものであれば特に限定されないが、例えば、生物を構成する器官、組織、又は細胞を意味する。
【0065】
生物にルシフェリン前駆体を取り込ませる方法は、特に限定されないが、注射による注入法の他、動物であれば餌に当該前駆体を混ぜ込んで与えることが可能である。給餌による方法は、取扱いが容易であるため好ましい。また、植物であれば根から吸収させる他、切り落とした茎から吸収させることも可能である。
【0066】
ルシフェリン前駆体を取り込ませて光活性測定を行う対象となる生物としては、添加された本発明のルシフェリン前駆体からルシフェラーゼの発光基質を産生できるものであれば特に限定されず、任意のルシフェラーゼ遺伝子が導入された生物を微生物、植物、動物等から目的に応じて選択することができる。例えば、動物であれば、ルシフェラーゼ遺伝子が導入された実験動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サルを挙げることができる。好ましくは、ルシフェラーゼ遺伝子によるトランスジェニックマウスである。
【0067】
本発明におけるルシフェラーゼ遺伝子導入細胞は、取り込んだルシフェリン前駆体からルシフェラーゼの発光基質を生合成することができる細胞であれば如何なる細胞であってもよい。ヒトの遺伝子解析等の目的から、好ましくは、ルシフェラーゼ遺伝子が導入された哺乳類由来の細胞であり、より好ましくはヒト由来の細胞である。例えば、A549細胞、Hela細胞のような細胞にルシフェラーゼ遺伝子を導入したものを挙げることができる。本発明のルシフェリン前駆体は、培養細胞の培地に添加することによって、細胞内に取り込ませることができる。
【0068】
本発明のルシフェリン前駆体は、培養液中に通常10〜2000μMの濃度で添加され、好ましくは200μMで添加される。本発明のルシフェリン前駆体が添加される、ルシフェラー
ゼ遺伝子が導入された細胞又は組織を培養するための培地としては、通常細胞ないし組織培養に使用される培地を特に制限なく使用することができる。好ましくは液体培地であり、培養液には、ルシフェリンの細胞内への取り込みを促進する目的等でDMSO, Tweenをさ
らに添加することもできる。培地には、本発明のルシフェリン前駆体の他に、ATP、補酵素A、マグネシウムイオン、L−システインなどを添加することもできる。
【0069】
「ルシフェラーゼ遺伝子が導入された」とは、対象が生物である場合は、ルシフェラーゼ遺伝子が生物に取り込まれ、その中で発現し、ルシフェラーゼがその機能を発揮することができる状態にあることを意味する。これは、対象が生物の一部、即ち、組織又は器官であっても同様である。対象が細胞である場合は、細胞内にルシフェラーゼ遺伝子が取り込まれ、発現し、ルシフェラーゼがその機能を発揮することが出来る状態にあることを意味する。ルシフェラーゼ遺伝子としては、ホタルルシフェリンを基質とする任意のルシフェラーゼの遺伝子を用いることができるが、好ましくは発光甲虫ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ、鉄道虫ルシフェラーゼ、ヒカリコメツキルシフェラーゼ、イリオモテボタルルシフェラーゼ)の遺伝子であり、より好ましくはヒカリコメツキルシフェラーゼの遺伝子である。
【0070】
本発明の一実施形態は、当該ルシフェリン前駆体を含有する、ルシフェラーゼ遺伝子が導入された動物用の餌である。餌の材料・成分は、ルシフェラーゼ遺伝子導入動物に通常
与えられる餌であれば特に限定されず、標準食に本発明のルシフェリン前駆体を混合したものが挙げられる。餌におけるルシフェリン前駆体の含有量は特に限定されないが、通常0.01〜2wt%であり、好ましくは0.1wt%である。本発明のルシフェリン前駆体を含有する餌には、さらにATP、補酵素A、マグネシウムイオン、L−システインなどを添加することもできる。
【0071】
本発明の一実施形態は、当該ルシフェリン前駆体を含む培養液中にルシフェラーゼ遺伝子導入細胞チップが浸漬された発光活性測定システムである。細胞チップとしては、通常使用されている細胞チップを制限無く使用することができる。
【0072】
ルシフェラーゼによる光活性測定は、ルミノメーター等を用いた常法に則して行うことができる。
【0073】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、これは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0074】
実施例1
時計遺伝子マウスPer2プロモーター下流に挿入したヒカリコメツキルシフェラーゼcDNAベクター1μgを、35mm培養ディッシュに播種した培養繊維芽細胞NIH3T3にリポフェクシ
ョン法(リポフェクトアミン)により導入し、24時間37℃で培養後、100 nMのデキサメタゾンを含むDMEM培地で2時間処理した。更に200μMのD-ルシフェリンと10%(w/v)の
牛血清を含むDMEM培地に交換後、遺伝子発現連続測定装置(アトー(株)社AB2500)にて、1分間の発光を19分間隔で5日間に発光量をリアルタイムに測定した(図1(a))。併せて200μMのL-ルシフェリンと10%(w/v)の牛血清を含むDMEM培地に(図1(b))及び200
μMの本発明のルシフェリン前駆体である2−シアノ−6−ヒドロキシベンゾチアゾール
(CHBT)と10%(w/v)の牛血清を含むDMEM培地に(図1(c))交換後、遺伝子発現連
続測定装置(アトー(株)社AB2500)にて、1分間の発光を19分間隔で5日間に発光量をリアルタイムに測定した。結果は、図1に示す通りである。Per2プロモーターに依存した約24時間周期の変動をモニター可能である。発光量はCHBT とL-ルシフェリンでは同程度、D-ルシフェリンでは20%程度であったが、いずれも同様な結果を示し、CHBTを培地に加え
ることでD-ルシフェリンと同様に細胞内で発現したルシフェラーゼ活性を測定できることが明らかとなった。
【0075】
実施例2
時計遺伝子マウスBmal1プロモーター下流でヒカリコメツキルシフェラーゼを発現する
よう遺伝子改変されたトランスジェニックマウスに、20 mM CHBT/1 mMシステイン溶液100
μlを、経口ゾンデを用いた強制経口投与および腹腔内投与を行った。また同様に、10 mM D-ルシフェリン溶液 100μlの強制経口投与および腹腔内投与を行った。薬剤投与の2時間後トランスジェニックマウスを解剖し、血液、脳、肺、心臓、肝臓、腎臓、膀胱、大腿筋、胃を摘出した。摘出した組織を非破壊の状態で発光測定用チューブに入れ、ルミノメータ(発光測定装置)(アトー(株)社AB-2500)にて、20秒間発光を測定した(図2(a)
)。CHBT/システイン溶液の投与では、特に筋肉において高い発光活性が見られた。その
他の脳、肝臓、腎臓、膀胱、胃などでも発光活性があった。この傾向はD-ルシフェリン溶液の投与でも同様であった。各臓器の重量あたりの発光値を図2(b)に示す。D-ルシフェリン溶液及びCHBT溶液共に、併せて強制経口投与した場合及び、腹腔内投与した場合共に、各種臓器において同レベルの発光量を確認でき、CHBT溶液を生体に与えることで、D-ルシフェリン溶液と同様に各所臓器内に発現したルシフェラーゼの活性を測定し、発光をイメージングできることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、L−ルシフェリン、D−ルシフェリン又はCHBTを用いた光測定の結果を示す。
【図2】図2は、L−ルシフェリン、D−ルシフェリン又はCHBTを経口投与又は腹内投与した場合の光測定結果を示す。棒グラフは、左から、D−Luciferin経口投与、CHBT経口投与、D−Luciferin腹腔内注射、CHBT腹腔内注射を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1):
【化1】

(式中、Yは水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基または下記の式(2):
【化2】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す)で表される基、RはCNまたは下記の式(3):
【化3】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示し、ZおよびZは、同一または異なって酸素原子(O)または硫黄原子(S)を示す)で表される基である)で表されるルシフェリン前駆体をルシフェラーゼ遺伝子が導入された生物又はその一部に取り込ませることによってルシフェラーゼによる発光活性を測定する方法。
【請求項2】
ルシフェラーゼがホタルルシフェラーゼである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
下記の式(1):
【化4】

(式中、Yは水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基または下記の式(2):
【化5】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す)で表される基、RはCNまたは下記の式(3):
【化6】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示し、ZおよびZは、同一または異なって酸素原子(O)または硫黄原子(S)を示す)で表される基である)で表されるルシフェリン前駆体を含有することを特徴とする、ルシフェラーゼ遺伝子が導入された動物用の餌。
【請求項4】
下記の式(1):
【化7】

(式中、Yは水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基または下記の式(2):
【化8】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す)で表される基、RはCNまたは下記の式(3):
【化9】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示し、ZおよびZは、同一または異なって酸素原子(O)または硫黄原子(S)を示す)で表される基である)で表されるルシフェリン前駆体を含有することを特徴とする、ルシフェラーゼ遺伝子が導入された細胞又は組織を培養するための培地。
【請求項5】
下記の式(1):
【化10】

(式中、Yは水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基または下記の式(2):
【化11】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す)で表される基、RはCNまたは下記の式(3):
【化12】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示し、ZおよびZは、同一または異なって酸素原子(O)または硫黄原子(S)を示す)で表される基である)で表されるルシフェリン前駆体を摂取させた、ルシフェラーゼ遺伝子が導入された生物又はその一部。
【請求項6】
下記の式(1):
【化13】

(式中、Yは水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基または下記の式(2):
【化14】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す)で表される基、RはCNまたは下記の式(3):
【化15】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示し、ZおよびZは、同一または異なって酸素原子(O)または硫黄原子(S)を示す)で表される基である)で表されるルシフェリン前駆体を取り込ませた、ルシフェラーゼ遺伝子が導入された細胞。
【請求項7】
下記の式(1):
【化16】

(式中、Yは水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基または下記の式(2):
【化17】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す)で表される基、RはCNまたは下記の式(3):
【化18】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示し、ZおよびZは、同一または異なって酸素原子(O)または硫黄原子(S)を示す)で表される基である)で表されるルシフェリン前駆体を含む培養液中にルシフェラーゼ遺伝子導入細胞チップが浸漬された発光活性測定システム。
【請求項8】
下記の式(1):
【化19】

(式中、Yは水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基または下記の式(2):
【化20】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示す)で表される基、RはCNまたは下記の式(3):
【化21】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基またはアリール基を示し、ZおよびZは、同一または異なって酸素原子(O)または硫黄原子(S)を示す)で表される基である)で表される、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した生物又はその一部に直接導入するためのルシフェリン前駆体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−82095(P2009−82095A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258413(P2007−258413)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】