説明

ホモダイン検波方式電磁波分光測定システム

【課題】ホモダイン検波方式を採用した電磁波分光測定システムの測定時間や測定精度を向上し、小型化すること。
【解決手段】機械的な駆動機構を有する遅延線に代えて、電気的に位相変調可能な光位相変調器4を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定対象物に対するミリ波・テラヘルツ波の透過又は反射スペクトルを測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
100GHz〜10THzの周波数帯域におけるミリ波・テラヘルツ波は、電波のように物体を透過しやすく、自然界の多くの物質を構成する分子と強い相互作用を引き起こすことが知られている。
【0003】
分子はミリ・テラヘルツの周波数帯域で独自の分光パターン(言わば、テラヘルツ指紋スペクトル)を持つため、その周波数帯域の分光情報を利用することにより、ミリ波やテラヘルツ波の作用を受けた分子を識別することができる。
【0004】
このような特徴を有することから、ミリ波・テラヘルツ波を利用して物体を測定する電磁波分光測定システムや、そのシステムによる測定結果を画像に変換する画像化システムが開発され、医療分野、電波天文学分野、物質検査技術、及びそれら診断結果等の画像処理技術など、実用的な各分野で応用されている。
【0005】
一般に、テラヘルツ波分光測定では、光学スペクトルが数THzまで非常に広がっていることから超短パルスレーザーによるパルス源が利用され、これまで、多くの時間領域分光(TDS:Time Domain Spectroscopy)システムの実証に成功し、各研究分野に応用されてきた(非特許文献1参照)。
【0006】
しかし、そのようなシステムでは、パルスTHz信号の放出エネルギーが広帯域に分布するため、そのエネルギースペクトル密度は非常に低く、フーリエ変換の時間の長さ(通常、GHz範囲)でスペクトル解像度が制限されることになる。
【0007】
そこで、光源から出力された連続波(CW:Continuous Wave)の光信号を利用することにより、そのエネルギースペクトル密度を高くする方法が採用されている。そのような連続波光信号を利用した電磁波分光測定システムは、広帯域における同期や細かい周波数調整を可能とする信号発生器と、高い検出感度や非常に速い応答時間の信号検出器とから主に構成されている。
【0008】
この数年間に、上記特徴を有する電磁波分光測定システムやその画像化システムに関する複数の報告書が提出され(非特許文献2,3参照)、それら報告書の多くでは、電磁波分光測定システムの構成要素である信号検出器として、使用が容易であるという単純な理由から、ショットキー・バリア・ダイオード検出器やボロメータが付いた直接検出器が採用されている。
【0009】
しかし、そのような信号検出器では信号の強度しか測定できず、被測定対象物に対する重要な追加データ(例えば、誘電率や誘電正接など)を提供する際に必要な位相情報を測定することができない。特に、直接検出器を使用した場合、一般に感度が非常に鈍く、長い信号積分時間が必要となる。
【0010】
これより、その電磁波分光測定システムに対してヘテロダイン検波方式を採用することも考えられる。ヘテロダイン検波方式では、信号強度のみならず位相情報を検出することができることから、測定感度の向上が可能となる。
【0011】
しかし、ヘロダイン検波方式では、異なる周波数信号の放射を要するため、高精度に周波数を発生させる主信号発生器以外に他の信号発生器(局部発振器)が必要となってしまう。
【0012】
以上より、従来の電磁波分光測定システムでは、システムの複雑性と性能の両方を考慮して、ホモダイン検波方式が採用されている。その理由は、信号発生器が単一であることに加え、信号検出器に位相情報を提供することにより、ヘテロダイン検波方式と同様に高い感度を得ることができるからである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「テラヘルツ波産業」、株式会社シーエムシー出版、2011年1月24日発行、第1版、p.238-247
【非特許文献2】I.S.Gregory、外7名、「Continuous-wave teraherts system with a 60 dB dynamic range」、APPLIED PHYSICS LETTERS 86,204104(2005)、American Institute of Physics、2005年
【非特許文献3】G.MOURET、外8名、「THz media characterization by measn of coherent homodyne detection, results and potential applicaitons」、Applied Physics B 89、2007年、p.395-399
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ここで、上述した電磁波分光測定システムに対してホモダイン検波方式を採用するには、ヘテロダイン検波をするために、電動ミラーにより光路を延長させて参照信号を遅延させる遅延線を、光源と検出器との間の光路に挿入する必要があった(図8、非特許文献2参照)。
【0015】
ここで、信号の位相情報を得るには、制御信号により電動ミラーを駆動させて参照信号の遅延量を調節し、その時間領域での干渉波形(インターフェログラム)を測定することにより、被測定対象物を通過したTHzビームと、参照信号に基づいて検出器で励起した励起ビームとの位相関係を変化させる必要があるが、電動ミラーなどの機械的な要因が測定に影響するため、測定精度が良くないという問題や、電動ミラーの駆動系が遅く、測定時間が高速化できないという問題があった。
【0016】
また、ホモダイン検波方式では、基本的に、直流(DC:Direct Current)信号を読み取ってシステムの感度を更に向上させるため、THzビームの強度が変調され、信号振幅が信号強度の半分となることから、信号対雑音比を3−dB程度劣化させるという問題もあった。
【0017】
すなわち、ホモダイン検波方式を採用した従来の電磁波分光測定システムでは、検波器への参照信号を遅延させる遅延手段として、電動ミラーなどの機械的な手段を利用していたため、測定時間や測定精度が十分でなく、システム自体の小型化が難しいという課題があった。
【0018】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、測定時間や測定精度を向上し、小型化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1記載のホモダイン検波方式電磁波分光測定システムは、周波数の異なる2つの連続光波が合波された光信号を光電変換してミリ波又はテラヘルツ波の第1の電磁波を発生させる第1のフォトミキサと、制御信号により一方の連続光波の位相を電気的に変調する光位相変調器と、前記光位相変調器で位相変調された連続光波と位相変調されていない他方の連続光波とが合波された光信号を光電変換してミリ波又はテラヘルツ波の第2の電磁波を発生させる第2のフォトミキサと、被測定対象物を透過又は反射した前記第1の電磁波を受信し、前記被測定対象物を透過又は反射していない前記第2の電磁波を受信して、ホモダインミキシングするミキサと、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、機械的な駆動機構を有する遅延線に代えて、電気的に位相変調可能な光位相変調器を使用するため、測定時間や測定精度を向上し、小型化することができる。
【0021】
請求項2記載のホモダイン検波方式電磁波分光測定システムは、請求項1記載のホモダイン検波方式電磁波分光測定システムにおいて、前記制御信号の逆相の制御信号により前記第2のフォトミキサにおける前記他方の連続光波の位相を電気的に変調する光位相変調器を更に有することを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、上記制御信号の逆相の制御信号により第2のフォトミキサにおける他方の連続光波の位相を電気的に変調する光位相変調器を更に有するため、効率的に位相変調できる。
【0023】
請求項3記載のホモダイン検波方式電磁波分光測定システムは、請求項1又は2記載のホモダイン検波方式電磁波分光測定システムにおいて、前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを合波する合波手段を更に有することを特徴とする。
【0024】
請求項4記載のホモダイン検波方式電磁波分光測定システムは、請求項1乃至3のいずれかに記載のホモダイン検波方式電磁波分光測定システムにおいて、前記被測定対象物を透過又は反射した前記第1の電磁波を集光するレンズと、前記第2の電磁波を集光するレンズと、を更に有し、前記2つのレンズと、前記第2のフォトミキサと、前記2つのレンズによりそれぞれ集光された前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを受信してホモダインミキシングする前記ミキサとは一体であることを特徴とする。
【0025】
本発明によれば、被測定対象物を透過又は反射した第1の電磁波を集光するレンズと、第2の電磁波を集光するレンズと、第2のフォトミキサと、ミキサとが一体であるため、システムの構成要素を低減し、更なる小型化が実現できる。
【0026】
請求項5記載のホモダイン検波方式電磁波分光測定システムは、請求項1乃至4のいずれかに記載のホモダイン検波方式電磁波分光測定システムにおいて、前記2つの連続光波の一方又は両方の周波数が掃引可能であることを特徴とする。
【0027】
本発明によれば、2つの連続光波の一方又は両方の周波数が掃引可能であるため、より効率的に位相変調できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、測定時間や測定精度を向上し、小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ホモダイン検波方式電磁波分光測定システムの全体構成例を示す図である。
【図2】ある制御信号に対する出力信号例を示す図である。
【図3】ホモダイン検波方式電磁波分光測定システムの全体構成の他の例を示す図である。
【図4】ホモダイン検波方式電磁波分光測定システムの全体構成の他の例を示す図である。
【図5】ホモダイン検波方式電磁波分光測定システムの全体構成の他の例を示す図である。
【図6】第3フォトミキサの断面を示す図である。
【図7】ホモダイン検波方式電磁波分光測定システムの全体構成の他の例を示す図である。
【図8】従来のホモダイン検波方式電磁波分光測定システムの全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、ホモダイン検波方式を採用した電磁波分光測定システム(以下、システム)において、従来で使用していた遅延線に代えて、制御信号により電気的に位相変調が可能な光位相変調器(フェーズモジュレータ)を使用することを主たる特徴としている。これにより、本システムにおける信号強度や位相情報に関する測定時間や測定精度を向上させ、システムそのものを小型化することができる。
【0031】
また、本システムでは、被測定対象物を通過した第1電磁波(THzプローブビーム)と電気的にホモダインミキシング(混合)を行う第2電磁波(励起ビーム(THz LO信号))との位相関係を変化させることができるため、被測定対象物に対して照射された第1電磁波(THzビーム)の強度を変調せずにAC周波数で位相情報信号を読み取ることができる。
【0032】
以下、本発明を実施する一実施の形態について図面を用いて説明する。但し、本発明は多くの異なる様態で実施することが可能であり、本実施の形態の記載内容に限定して解釈すべきではない。
【0033】
図1は、システムの全体構成例を示す図である。本システムは、第1連続波光源1a及び第2連続波光源1bと、第1スプリッタ2a及び第2スプリッタ2bと、第1カプラ3a及び第2カプラ3bと、光位相変調器4と、第1フォトミキサ5a及び第2フォトミキサ5bと、THzミキサ6とで主に構成されている。
【0034】
スプリッタ2とカプラ3と光位相変調器4とは、本システムにおいて、ミリ波又はテラヘルツ波の電磁波の発生に要する光信号の信号発生器10として機能している。また、第1フォトミキサ5aは、被測定対象物100に電磁波を照射するエミッター(emitter)として機能し、第2フォトミキサ5b及びTHzミキサ6は、信号強度や位相情報を検出するディテクター(detector)として機能している。以下、それら各構成機器の機能について詳述する。
【0035】
第1連続波光源1aは、周波数ωの連続光波(以下、第1CW光波)を出力し、第2連続波光源1bは、周波数ωとは異なる周波数ωの連続光波(以下、第2CW光波)を出力する機能を有する。
【0036】
第1スプリッタ2aは、第1CW光波を2つに分波し、第2スプリッタ2bは、第2CW光波を2つに分波する機能を有する。
【0037】
第1カプラ3aは、第1スプリッタ2aで分波された一方の第1CW光波と第2スプリッタ2bで分波された一方の第2CW光波とを合波し、第2カプラ3bは、第1スプリッタ2aで分波された他方の第1CW光波と後述する光位相変調器4で位相変調された他方の第2CW光波とを合波する機能を有する。
【0038】
光位相変調器4は、第2スプリッタ2bと第2カプラ3bとの間の光路上に配置され、外部からの制御信号(位相を掃引可能な制御信号を含む)により、第2スプリッタ2bで分波された他方の第2CW光波の位相を電気的に変調する機能を有する。例えば、屈折率変化が印加電界に比例するポッケルス効果や電気光学効果を有する電気光学結晶(例えば、LiNbO3結晶等)を利用した光変調器等を用いることができる。
【0039】
第1フォトミキサ5aは、第1カプラ3aで合波された光信号(以下、THz光信号)を電気変換し、その周波数差(|ω−ω|)に一致するミリ波又はテラヘルツ波の第1電磁波(以下、THzビーム)を発生させ、被測定対象物100に照射する機能を有している。
【0040】
第2フォトミキサ5bは、第2カプラ3bで合波された光信号(以下、THz光励起信号)を電気変換し、第1フォトミキサ5aと同様に、ミリ波又はテラヘルツ波の第2電磁波(以下、励起ビーム又はTHz LO信号)を発生させる機能を有する。
【0041】
このような第1フォトミキサ5aや第2フォトミキサ5bとしては、例えば、単一走行キャリア・フォトダイオード(UTC−PD:Uni-Travelling-Carrier Photodiode)等を利用して実現できる。
【0042】
THzミキサ6は、被測定対象物100を透過又は反射して当該被測定対象物100の分光情報を有するTHzプローブビームを受信すると共に、被測定対象物100を透過又は反射していない第2フォトミキサ5bから発生されたTHz LO信号を受信して、非線形の電圧・電流関係のある検出器や非線形装置に結合することによりホモダインミキシングする機能を有する。このような検出器等はTHzミキサ6の内部に具備されており、例えば、ショットキー・バリア・ダイオード等を利用することができる。
【0043】
なお、本システムは、図1に示すように、THzプローブビームとTHz LO信号とを合波するためのハーフミラー7や、THzビームを被測定対象物100に線集光する等のTHzレンズ8も更に具備している。また、連続波光源1からフォトミキサ5までの各構成機器間は光ファイバで接続されている。
【0044】
次に、本システムの動作について説明する。本システムでは、UTC−PD等を用いた一方の第1フォトミキサ5aで周波数ωの第1CW光波と周波数ωの第2CW光波とを相互変調させることによりTHzビームを発生させ、ショットキー・バリア・ダイオード等の非線形装置を具備したTHzミキサ6で検出すると共に、他方の第2フォトミキサ5bでLO信号(ローカル信号)を発生させて同THzミキサ6で検出する。以下、詳述する。
【0045】
まず、信号発生器10から出力されたTHz光信号s(t)と、第1フォトミキサ5aから発生したTHzビームsTHz(t)とは、それぞれ、以下のように数式化することができる。但し、第1フォトミキサ5aの効率を最適化するため、2つのCW光波の強度は同等とする。
【数1】

【数2】

【0046】
なお、Aは、2つのCW光波の電界強度に関する定数である。φとφは、それぞれ、周波数ωの第1CW光波と周波数ωの第2CW光波との各位相である。
【0047】
次に、被測定対象物100を透過又は反射してTHzミキサ6に到着するTHzプローブビームsTHz(t)は次式となる。
【数3】

【0048】
なお、ωTHは、THzビームの周波数であり、|ω−ω|に等しい。A(ωTH)とφ(ωTH)とは、それぞれ、周波数ωTHでの強度と位相とに関する被測定対象物100のTHz分光特性である。
【0049】
一方、LOとしての第2フォトミキサ5bは、THzビームの発生で用いる周波数ω及び周波数ωの2つのCW光波から構成されるTHz光励起信号で駆動する。
【0050】
すなわち、THz LO信号のTHz光励起信号を発生させるために信号発生器10のレーザーを使用するが、このCW光波の一方は、光位相変調器4により位相変調されている。
【0051】
その結果、被測定対象物100を通過したTHzプローブビームと電気的にホモダインミキシング(混合)を行う励起ビーム(THz LO信号)との位相関係を変化させることができる。
【0052】
したがって、THz LO信号のTHz光励起信号s(t)とTHz LO信号sTHz−LO(t)とは、それぞれ、次式で表すことができる。
【数4】

【数5】

【0053】
なお、φ(t)は、光位相変調器4による位相遅れであり、制御信号k(t)の関数であることから、次式で表すことができる。
【数6】

【0054】
なお、mは、光位相変調器4の変調ゲイン(利得)である。式(5)では、光位相変調器4の挿入損失をゼロとするか、又は、図1に示されていない追加装置で補償している。
【0055】
次に、被測定対象物100の分光情報を運ぶTHzプローブビームをTHz LO信号と共にハーフミラー7で合波し、THzミキサ6において非線形の電圧・電流関係のある検出器に結合することでミキシングする。
【0056】
その結果、式(3)と式(5)から、THzミキサ6からの出力信号sout(t)を次式で表すことができる。
【数7】

【0057】
ここで、ユーザは制御信号k(t)を定義できることから、それ以外の全てのパラメータ(C、A、B、m)は、被測定対象物100のない校正プロセスから抽出することができる。
【0058】
例えば、制御信号を図2に示す所定の時間間隔で比例する鋸歯状波に設定する場合、出力信号sout(t)は以下のように表すことができる。
【数8】

【0059】
上記から分かるとおり、出力信号は正弦信号となる。したがって、周波数m(V/t)の出力波形の最大値と相対位相を測定するだけで、被測定対象物100の強度と位相に関する分光情報を得ることができる。
【0060】
以上より、本実施の形態によれば、ホモダイン検波方式電磁波分光測定システムにおいて、制御信号により電気的に位相変調が可能な光位相変調器を使用しているので、信号強度や位相情報に関する測定時間や測定精度を向上させ、システムそのものを小型化することができる。
【0061】
また、被測定対象物100を通過したTHzプローブビームとホモダインミキシング(混合)を行う励起ビームとの位相関係を電気的に変化させることができるので、機械的な遅延線を使う従来の手法よりも測定速度とシステムの信頼性において優れていると言える。
【0062】
更に、本システムでは、ホモダインミキシング(混合)を行うためのプローブビーム、検出器のバイアス、又は励起ビームの信号変調は不要であることから、より簡単かつ適切な信号対雑音比のシステムを構築することができる。
【0063】
以上説明した基本原理は、図3〜図5に示すように、それ以外の構成と装置を使用しても実現できる。
【0064】
図3の構成では、上記光位相変調器4に相当する第2光位相変調器4bに対する制御信号の逆相の制御信号により、電気的に位相変調可能な第1光位相変調器4aを第1スプリッタ2aと第2カプラ3bとの間の光路上に配置している。例えば、電気位相シフターと2つの同相変調器とを使用することにより、より効率的な位相変調を行うプッシュプル動作を実現することができる。
【0065】
図4と図5の構成は、それぞれ、図1と図3に示す構成の別バージョンであり、THz検出器を異なる型式の検出器で置き換えている。すなわち、第2フォトミキサ5bとTHzミキサ6との両機能を一体化させた一種のフォトミキサ(以下、第3フォトミキサ5c)を使用している。
【0066】
図6に、第3フォトミキサ5cの断面図を示す。アンテナ付きSBD(ショットキー・バリア・ダイオード)で構成されるTHzミキサ6と、アンテナ付きUTC−PDで構成される第2フォトミキサ5bと、光ファイバ11とを同一パッケージ20に実装している。
【0067】
このパッケージ20には、バイアス印加や信号読み出しを行う配線ピン31が適宜配置されている。外部からのTHzビームをシリコンレンズ21によりTHzミキサ(THz検出器)6に集光し、同様に内部の第2フォトミキサ(THz発生器)5bで発生したTHzビームをシリコンレンズ22によりTHzミキサ6に集光又はコリメートすることによりミキシングしている。なお、光ファイバ11とTHzミキサ6と第2フォトミキサ5bとは同軸上に配置されている。
【0068】
作製上、THzミキサ6と第2フォトミキサ5bとをそれぞれ別のパッケージ20a,20bで作製し、特性を評価した後に、固定点において公知の方法で接合してもよい。
【0069】
このような構成でTHz検出器として使用される第3フォトミキサ5cはTHz光励起信号で励起し、そのままホモダインミキシングを行うことができる。その結果、ビームスプリッタ等の装置や部品を低減することや、システム全体の更なる小型化が実現できる。
【0070】
図7の構成は、図3の構成において、第1連続波光源1a及び第2連続波光源1bの各周波数を外部制御装置50により掃引することにより、被測定対象物100に照射するためのTHzビームを生成する第1フォトミキサ5aを不要とした例である。
【0071】
本構成例では、任意の広帯域なTHz信号源51が用いられる。THz信号源51の強度Asignalや位相φsignalが既知の場合には、ある周波数ωにおける検出器側に到着するTHzビームを式(3)と同様に表現できる。但し、式(3)のAは強度Asignalであり、同式のφ1−φ2は位相φsignalである。
【0072】
また、周波数ω及び周波数ωの2つのCW光波の一方又は両方の周波数を変化させることにより、式(5)における周波数ωTH(=|ω−ω|)を変化させることができる。被測定対象物100の分光情報を運ぶTHzプローブビームをTHz LO信号と共にハーフミラー7で合波し、非線形の電圧・電流関係のある検出器に結合することでミキシングし、位相差φ1−φ2が既知であれば、任意の周波数における強度と位相に関する被測定対象物100のTHz分光特性を得ることができる。なお、サンプルを除いた構成とすれば、未知の信号源の強度や位相の周波数特性を得ることもできる。
【符号の説明】
【0073】
1a…第1連続波光源
1b…第2連続波光源
2a…第1スプリッタ
2b…第2スプリッタ
3a…第1カプラ
3b…第2カプラ
4…光位相変調器
4a…第1位相変調器
4b…第2位相変調器
5a…第1フォトミキサ
5b…第2フォトミキサ
5c…第3フォトミキサ
6…THzミキサ
7…ハーフミラー
8…THzレンズ
10…信号発生器
11…光ファイバ
20、20a、20b…パッケージ
21、22…シリコンレンズ
31…配線ピン
50…外部制御装置
51…THz信号源
100…被測定対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数の異なる2つの連続光波が合波された光信号を光電変換してミリ波又はテラヘルツ波の第1の電磁波を発生させる第1のフォトミキサと、
制御信号により一方の連続光波の位相を電気的に変調する光位相変調器と、
前記光位相変調器で位相変調された連続光波と位相変調されていない他方の連続光波とが合波された光信号を光電変換してミリ波又はテラヘルツ波の第2の電磁波を発生させる第2のフォトミキサと、
被測定対象物を透過又は反射した前記第1の電磁波を受信し、前記被測定対象物を透過又は反射していない前記第2の電磁波を受信して、ホモダインミキシングするミキサと、
を有することを特徴とするホモダイン検波方式電磁波分光測定システム。
【請求項2】
前記制御信号の逆相の制御信号により前記第2のフォトミキサにおける前記他方の連続光波の位相を電気的に変調する光位相変調器を更に有することを特徴とする請求項1記載のホモダイン検波方式電磁波分光測定システム。
【請求項3】
前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを合波する合波手段を更に有することを特徴とする請求項1又は2記載のホモダイン検波方式電磁波分光測定システム。
【請求項4】
前記被測定対象物を透過又は反射した前記第1の電磁波を集光するレンズと、前記第2の電磁波を集光するレンズと、を更に有し、
前記2つのレンズと、前記第2のフォトミキサと、前記2つのレンズによりそれぞれ集光された前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを受信してホモダインミキシングする前記ミキサとは一体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のホモダイン検波方式電磁波分光測定システム。
【請求項5】
前記2つの連続光波の一方又は両方の周波数が掃引可能であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のホモダイン検波方式電磁波分光測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−32933(P2013−32933A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168312(P2011−168312)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】