説明

ホルボール抗原

【課題】ホルボール抗原、抗ホルボール抗体、ホルボール及びホルボール誘導体の免疫学的検出方法、ホルボール及びホルボール誘導体の検出用試薬及び検出用キットを提供する。
【解決手段】 ホルボール又はホルボール誘導体にキャリアータンパク質を結合させることにより、ホルボール及びホルボール誘導体に対する免疫原性を持たせたホルボール抗原を提供する。キャリアータンパク質としては、BSA又はRSAが好適に用いられる。このホルボール抗原を用いて抗ホルボール抗体を作製し、上の抗ホルボール抗体を用いて免疫学的方法により、ホルボール及びホルボール誘導体を検出する。好ましくは免疫学的方法がELISAであり、さらに競合的ELISAが好適に用いられる。検出用試薬は、抗ホルボール抗体を含み、さらに固相化抗ホルボール抗体及び酵素標識抗ホルボール抗体を含んでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルボール抗原、抗ホルボール抗体、ホルボール及びホルボール誘導体の免疫学的検出方法、ホルボール及びホルボール誘導体の検出用試薬及び検出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
トウダイグサ(Euphorbia helioscopia L.)は日本の本州から南西諸島の道端や畑で見られる雑草である。和名のトウダイグサとは、花の姿が昔の照明器具「燈台(とうだい)」に似ていることからつけられた名前である。草丈は約30cmで、茎は1本立ちするか根元から分株して株立ちし、へら形の葉をまばらに互生し、茎の頂部には5枚の葉が輪生する。ここから上は花で、散形状に広がる花枝を数段出し、椀形の苞葉の中にごく小さな花を多数つける。花期は4〜6月、花色は黄色である。
【0003】
トウダイグサが所属するトウダイグサ科(Euphorbiaceae)は種子植物門、被子植物亜門、双子葉植物綱、離弁花亜綱、トウダイグサ目に分類される。熱帯から亜熱帯に多く、木本または草本であり、およそ300属・8000種以上と非常に種類が多い。葉は互生、まれに対生し托葉を持つ。花は単生、がくと花弁は退化していて存在しないものもある。子房は上位、3室からなり、胚珠は子房各室に1個または2個がある。果はほとんどが朔果であり、3分果に分かれる。種子には肉質の胚乳がある。
【0004】
トウダイグサ科植物は薬用、食用、油用、鑑賞用、化粧品、その他様々な目的に供される。その代表的な例は次の通りである。ヒマ(トウゴマ、Ricinus communis L.)は峻下薬であるひまし油の原料である。アブラギリ(Aleurites cordata Steud.)はα−エラエオステアリック酸(α−elaeostearic acid)などを含み乾性油として用いられる桐油を種子からとることができる。パラゴムノキ(Hevea brasiliensis Muell. Arg.)からは天然ゴムが採られ、ナンキンハゼ(Sapium sebiferum Roxburgh )の種子からは和蝋燭用のろうが得られる。キャッサバ(Manihot esculenta Crantz.)はタピオカの原料として食用に用いられる。観賞用のものはトウダイグサ属に多く、ポインセチア(Euphorbia pulcherrima Willd)はクリスマスの時期によく見られる。ショウジョウソウ (Euphorbia heterophylla L.)、ハナキリン (Euphorbia. milii Des Moulin var.splendens Ursch et Leandri ) なども我々の目を楽しませてくれる。またキャンデリア(Euphorbia antisyphilitica Zucc.)の茎から抽出した固形状の成分は口紅・リップクリームなどの基材として用いられ、ヒマやククイナッツ(Aleurites moluccana)の種子から抽出されたオイルはスキンケア用植物オイルとして用いられる。アフリカのサバンナにみられるチュウテンカク(Euphorbia ingens E.May.)、オオマトイ(Euphorbia triangularis Desf.)らは木材として価値が検討されている(非特許文献1)。
【0005】
その一方で、トウダイグサ科植物の一部は有毒植物として知られている。これらの植物は乳管を持ち、葉や茎を傷つけると白い乳液が流れ出る。乳液が肌に触れると、かぶれ・水ぶくれ・皮膚炎・結膜炎などを引き起こす。また誤って食べてしまうと、喉がはれ、嘔吐や下痢を引き起こす。この乳液にはホルボールおよびその各種誘導体が多く含まれている。
【0006】
ホルボールは化1に示す化学構造をもつ、分子量364、イソプレン単位4個からなるC20化合物である。
【0007】
【化1】

【0008】
このホルボールは、環式、チグラン型のジテルペノイドであり、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)から生合成される。トウダイグサ科植物に含まれるホルボール誘導体の多くはエステル体として存在し、その主な作用は次の2つである。
【0009】
1つ目は皮膚刺激性である。ホルボール誘導体は皮膚に接触し、表皮細胞に接合することにより遅延型のアレルギーを生じさせる。表皮細胞を標的として、真皮に血管周囲性の滲出性炎症を起こし、表皮に好中球あるいはリンパ球の浸潤と細胞間浮腫である海綿状態をきたす。海綿状態は進行して水泡を形成する。臨床的には、かぶれ、湿疹、浮腫性紅斑、丘疹、水泡などが見られる。
【0010】
2つ目として、ホルボール誘導体は代表的な発ガンプロモーターである。発ガン2段階説では初発段階(イニシエーション)と促進段階(プロモーション)の2段階があると考えられており、それぞれの段階で作用する物質を発ガンイニシエーター、発ガンプロモーターと呼ぶ。発ガンプロモーターは動物にこれのみを与えても発ガンしないが、イニシエーションを行った後に与えると発ガンする。なかでもハズ(Croton tiglium L.)の種子油、ナンキンハゼ(Sapium sebiferum)の葉等に含まれる12−O−テトラデカノイル ホルボール−13−アセテート(12−O−tetradecanoyl phorbol−13−acetate:TPA、PMA)やシナアブラギリ(Aleurites fordii Hemsl.)などに含まれる12−O−ヘキサデカノイル−16−ヒドロキシホルボール−13−アセテート(12−O−hexadecanoyl−16−hydroxyphorbol−13−acetate:HHPA)は非常に強力な発ガンプロモーターである。(非特許文献2)TPA、HHPA等は細胞内のタンパク質リン酸化酵素プロテインキナーゼC(PKC)のシステインが豊富なドメイン(cysteine−rich domain:CRD)に優位に結合し、これを活性化させ細胞のガン化を引き起こす(非特許文献3および4)。これらの物質はガン研究において、動物に腫瘍を形成させる際に汎用されている。
【0011】
以上のように、ホルボール誘導体の多くはエステル体として存在し、皮膚刺激作用、瀉下作用をもち、そのほか魚毒活性をもつ。魚毒とは、毒を川や沼に流して毒によって麻痺した魚を浮かび上がらせて採る、現在の日本では禁止されている魚法に使う毒のことである。また、ホルボール誘導体で代表的な発ガンプロモーターであるTPAは、ナノモル単位でマウスに腫瘍を発生させる(非特許文献5および6)。
【0012】
そのため、これらトウダイグサ科植物を利用するに当たり、とくにその成分が直接人体に接触する食用・化粧品用に利用する場合は、ホルボールおよびその各種誘導体が混入することは非常に危険である。そこで、それらを検出する手法の開発が重要となるが、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの方法ではナノモル単位でホルボール及びホルボール誘導体を検出することはできない。またガスクロマトグラフィー(GC)では感度は高いが、高価な機器が必要となる。また、ホルボールには各種の誘導体が天然に存在しており、それらすべてを標品として準備し使用することは事実上不可能である。
【非特許文献1】竹松哲夫、一前宣正:世界の雑草II−離弁花類−、154−202、1993
【非特許文献2】奥田拓夫:薬用天然物化学−第2版−、116−120、2003
【非特許文献3】Slater, S. J., Ho, C., et al.,: Protein kinase C αcontains two activator binding sites that bind Phorbol esters and diacylglycerols with opposite affinities. J. Biol. Chem., 271:4627-4631, 1996.
【非特許文献4】Medkova, M. & Cho, W. : Interplay of C1 and C2 domains of protein kinase C-α in its membrane binding and activation . J. Biol. Chem., 274:19852-19861, 1999.
【非特許文献5】Clifford G. Tepper, Supriya Jayadev, et al.: Role for ceramede as an endogenous mediator of Fas-induced cytotoxicity. Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 92: 8443-8447 1995.
【非特許文献6】Moammir H. Aziz, Deric L. Wheeler, et al.: Protein Kinase C δOverexpressing Transgenic Mice Are Resistant to Chemically but not to UV Radiation-Induced Development of Squamous Cell Carcinomas: A Possible Link to Specific Cytokines and Cyclooxygenase-2. Cancer Res 2006 66:(2). January 15, 2006.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は、ホルボールおよびその各種誘導体を幅広く、簡便に、高感度に検出するためのELISA(Enzyme−linked immunosorbent assay)を確立し、ホルボール抗原、抗ホルボール抗体、ホルボール及びホルボール誘導体の免疫学的検出方法、ホルボール及びホルボール誘導体の検出用試薬及び検出用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行い、ホルボール及びホルボール誘導体にキャリアータンパク質を結合させることにより、ホルボール及びホルボール誘導体に対する免疫原性を持たせたホルボール抗原を作製することに成功した。そして、作製したホルボール抗原を用いて抗ホルボール抗体を作製し、作製した抗ホルボール抗体を用いて、免疫学的方法によりホルボール及びホルボール誘導体を検出することのできるホルボール及びホルボール誘導体の免疫学的検出方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の請求項1記載のホルボール抗原は、ホルボール又はホルボール誘導体にキャリアータンパク質を結合させることにより、ホルボール及びホルボール誘導体に対する免疫原性を持たせたことを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項2記載のホルボール抗原は、請求項1において、前記キャリアータンパク質が、BSA又はRSAであることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項3記載の抗ホルボール抗体は、請求項2記載のホルボール抗原を用いて作製したことを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項4記載のホルボール及びホルボール誘導体の免疫学的検出方法は、請求項3記載の抗ホルボール抗体を用いて免疫学的方法により、ホルボール及びホルボール誘導体を検出することを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項5記載のホルボール及びホルボール誘導体の免疫学的検出方法は、請求項4において、前記免疫学的方法がELISAであることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項6記載のホルボール及びホルボール誘導体の免疫学的検出方法は、請求項5において、前記ELISAが競合的ELISAであることを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項7記載のホルボール及びホルボール誘導体の検出用試薬は、請求項3記載の抗ホルボール抗体を含む。
【0022】
本発明の請求項8記載のホルボール及びホルボール誘導体の検出用試薬は、請求項3記載の抗ホルボール抗体を用いて作製した固相化抗ホルボール抗体及び酵素標識抗ホルボール抗体を含む。
【0023】
本発明の請求項9記載のホルボール及びホルボール誘導体の検出用試薬は、請求項7又は8において、前記抗ホルボール抗体がポリクローナル抗体である。
【0024】
本発明の請求項10記載のホルボール及びホルボール誘導体の検出用キットは、請求項7〜9のいずれかに記載のホルボール及びホルボール誘導体の検出用試薬を備えている。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、本発明により作製したホルボール抗原を用いて、抗ホルボール抗体を作製する。そして、抗ホルボール抗体を用いて免疫学的方法により、ホルボール及びホルボール誘導体を検出する。本発明の免疫学的検出方法によれば、ホルボール及びホルボール誘導体の検出用試薬及び検出用キットを用いて、ホルボールおよびその各種誘導体を幅広く、簡便に、高感度に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のホルボール抗原は、ホルボール又はホルボール誘導体にキャリアータンパク質を結合させることにより、ホルボール及びホルボール誘導体に対する免疫原性を持たせたことを特徴とする。
【0027】
ホルボールは分子量が364と小さく免疫原性を持たないため、そのまま単独で免疫しただけでは抗体は産生されない。免疫原性を持つためには一般に分子量10,000以上が必要と言われている。ホルボールは免疫原性を持たないが、反応原性は有しているハプテン(hapten)であるので、完全抗原であるタンパク質と結合させることによって、免疫原性を持たせることができる。免疫原性とは抗体産生や感作リンパ球を誘発する性質のことであり、反応原性とは抗体あるいは感作リンパ球と特異的に反応する性質のことである(西岡久壽彌、眞崎知生:役に立つ免疫実験法 第2版、11、1994)。多くの薬剤を含む低分子の有機化合物はハプテンに属し、それ自体は免疫原性を持たない。しかし、タンパク質をキャリアーとして、これと共有結合した複合体は免疫原性を持つ。その際、ハプテン部分はエピトープとして認識され、抗ハプテン抗体が産生される。
【0028】
キャリアータンパク質としては、BSA又はRSAが好適に用いられる。
【0029】
BSAはウシ血清アルブミン(bovine serum albumin)であり、RSAはウサギ血清アルブミン(rabbit serum albumin)である。キャリアータンパク質としては、ほかに、スカシ貝ヘモシアニン(keyhole limpet haemocyanin:KLH)、卵白アルブミン(ovalbumin:OVA)を用いることができる。
【0030】
また、本発明の抗ホルボール抗体は、上記のホルボール抗原を用いて作製したことを特徴とする。
【0031】
ホルボールの誘導体は、その構造の12位、13位炭素に結合している2級水酸基と3級水酸基のエステル体として存在しているものが多い。本発明では多くのホルボール及びホルボール誘導体を一度に検出できるアッセイ系の確立を目的にしているため、ホルボール及びホルボール誘導体に共通する構造を認識する抗体を作製する。そのため、目的の抗体を作製するために13位炭素に結合している水酸基をエステル化し、キャリアータンパク質に結合させる。
【0032】
ホルボールエステル体とキャリアータンパク質の複合体を動物に免疫しても、立体障害により、ホルボールのエステル部分がエピトープと認識されずに抗体が産生されないケースも考えられる。目的のエピトープがキャリアータンパク質の表面に出ていない可能性があるからである。そのため、キャリアータンパク質の表面にエピトープを出すために、リンカー(架橋剤、スぺーサー)と呼ばれる繋ぎの化合物を使用する。リンカーには、KMUH(N−(κ−Maleimidoundecanoic acid)hydrazide)、EMCH(N−(ε−Maleimidocaproic acid)hydrazide)等を用いることができる。これらはスルフィド基、およびカルボキシル基との反応性を有する両機能性リンカーである。BSA、RSAのアミノ酸配列はすでに決定されており、両分子1mol中にはシステインが35mol存在する。そのシステインのスルフィド基とホルボールエステル体のカルボキシル基を架橋して合成する。
【0033】
抗原には抗体と特異的に結合する部位があり、この領域を抗原決定基という。抗体が抗原決定基を認識することによって、免疫系が特異性を持つことができる。抗体のもつ精密な抗原認識機能のために、免疫学的実験手法の中で抗体を用いたものが最も広く利用されている。ELISAもその中のひとつである。
【0034】
また、本発明のホルボール及びホルボール誘導体の検出用試薬は、ホルボール及びホルボール誘導体をELISAにより検出することができるように、本発明のホルボール抗原を用いて作製され、本発明のホルボール抗原を認識して特異的に反応する抗ホルボール抗体を含むものである。
【0035】
または、本発明のホルボール及びホルボール誘導体の検出用試薬は、本発明の抗ホルボール抗体を用いて作製した固相化抗ホルボール抗体及び酵素標識抗ホルボール抗体を含む。
【0036】
本発明の抗ホルボール抗体としては、モノクローナル抗体であってもよい。
【0037】
本発明の検出用キットは、以上のようなホルボール化合物の検出用試薬を備えている。
【0038】
以下に具体例を挙げて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの具体例により何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0039】
(抗原作製)
(1)ホルボールのエステル化
ホルボール誘導体は、12位、13位炭素水酸基のエステル体として存在しているものが多い。本発明ではホルボール及びホルボール誘導体に共通する構造を認識する抗体の作製を目的としているので、13位炭素水酸基のエステル化を試みた。はじめにホルボールにコハク酸を反応させ、13位、20位炭素水酸基をエステル化しホルボール 13,20−ジサクシネートを合成した後、20位の対応するエステルを加溶媒分解して、ホルボール 13−サクシネートに導く方法をとった。
【0040】
まず、ホルボール(シグマ、P1281)18mgとコハク酸無水物30mgをピリジン2mLに入れ、90℃、油浴中で3時間攪拌した。反応液の溶媒を留出した後、残滓をODSカラム(メタノール―1%酢酸溶液)で精製し、無色・非結晶粉末状のホルボール 13,20−ジサクシネート(20mg・収率72%)を得た。
【0041】
すなわち、ホルボールをピリジン中コハク酸無水物と反応させ、まずホルボール 13,20−ジサクシネートを得た。
【0042】
化2に、ホルボール 13,20−ジサクシネートの合成方法を示す。
【0043】
【化2】

【0044】
この化合物のESI−MSの結果から、ホルボールよりもコハク酸残基2個分の200多い分子量が確認されたこと、H−NMRスペクトルにおいて、20位のプロトンが低磁場にシフトしていること、12位のプロトンはシフトしておらず、13C−NMRスペクトルにおいて13位炭素が69.5ppmに観測され、これはこれまでのデータから13位アシル体を推定させる値であることから(表1)、得られた化合物をホルボール 13,20−ジサクシネートと決定した。
【0045】
次に、0℃において、このホルボール 13,20−ジサクシネート7mgのメタノール溶液1mLに、2%NaOMe−メタノール溶液100μLを加え、氷浴上で9時間攪拌した。反応液を1%酢酸で中和後、分取逆相TLC(メタノール:1%酢酸=2:3の水溶液)と逆相HPLC(メタノール−1%酢酸の水溶液)を用いて精製し、無色・非結晶粉末状のホルボール 13−サクシネート(1.3mg・収率40%)を得た。
【0046】
すなわち、ホルボール 13,20−ジサクシネートをメタノール中2%NaOMe−メタノール溶液を用いて加溶媒分解し、ホルボール 13−サクシネートを得た。
【0047】
化3に、ホルボール 13−サクシネートの合成方法を示す。
【0048】
【化3】

【0049】
この化合物は、ESI−MSでホルボールよりもコハク酸残基1個分の100多い分子量と分子式が確認できたこと、H−NMRスペクトルにおいて12位、20位ともホルボールとほぼ同じ化学シフト値を示すのに対して、13C−NMRスペクトルにおいて13位の炭素は、ジサクシネートとほぼ同じ化学シフト値を示すことから(表1)、残ったサクシネートは13位にあると決定した。
【0050】
(2)ホルボールのエステル化の確認
ホルボールのエステル化の確認をNMR及びESI MS測定で行った。表1に、そのNMRスペクトルデータとESI MS値を示す。
【0051】
【表1】

【0052】
(3)ホルボール 13−サクシネート―KMUH―BSA複合体(P−BSA)の合成
作製したホルボール 13−サクシネートとキャリアータンパク質であるBSAを結合させ、P−BSAを合成するために、反応温度・溶媒・反応時間・反応比・リンカーなど反応の様々な条件を検討した(Gong Wu, Rolf F. Barth, et al., (2004) Site-Specific Conjugation of Boron-Containing Dendrimers to Antibody Cetuximab (IMC-C225) and Its Evaluation as a Potential Delivery Agent for Neutron Capture Therapy. Bioconjugate Chem. 15: 185−194)。検討の結果、以下の方法で合成を行った(化4)。
【0053】
【化4】

【0054】
1.キャリアータンパク質であるBSA(シグマ、A−7906)2.0mg(M.W.≒66000 3.0×10−8mol)をリン酸緩衝生理食塩液(PBS、pH7.4)4.0mLに溶解した。
2.リンカーであるKMUH(ピアス、22111)3.1mg(M.W.=295.38 3.0×10−8×35×10mol)をDMSO100μLに溶解した。
3.1と2を混合し、遮光下、37℃で4時間反応させた。
4.ホルボール 13−サクシネート0.97mg(M.W.=464.4 3.0×10−8×35×2mol)をDMSO20μLに溶解した。
5.3と4を混合し、遮光下、37℃で24時間反応させた。
【0055】
(4)P−BSA合成の確認
ホルボール−タンパク質複合体合成の確認およびホルボール結合数の測定は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析(matrix−assisted laser desorption/ionization time of flight mass spectrometry:MALDI−TOF MS)によって行った。
【0056】
P−BSAが合成されたことをTOF−MS測定により確認した。また、その分子量を測定することで、結合数を測定した。BSA、BSAとKMUHを反応させたもの、BSAとKMUHとホルボール 13−サクシネートを反応させたもののTOF−MSスペクトルを各々測定した。
【0057】
TOF−MS測定により得られた各生成物の分子量を表2に示す。BSAの分子量は66500.4であり、以前報告された分子量の計算値である66267とほぼ一致した。差は0.352%であった(Reed RG, Puntma FW and Peters Jr T (1980) Sequence of residues 400−403 of bovine serum albumin. Biochem.J. 191: 867−868)。
【0058】
【表2】

【0059】
KMUHは分子量が295.38でありBSAにKMUHが1つ結合すると、分子量は295.38増加する。またホルボール 13−サクシネートは分子量が464.4でありBSA−KMUHにホルボール 13−サクシネートが1つ結合すると、分子量は446.4増加する。このことからBSAへのKMUH、ホルボール 13−サクシネートの結合数を計算すると、
(70848.8−66500.4)÷295.38≒14.72
(72200.1−70848.8)÷446.4≒3.027
以上より、BSA1molにつき、KMUH15mol、ホルボール 13−サクシネート3molが結合したことを確認した。
【0060】
(5)ホルボール 13−サクシネート−KMUH−RSA複合体(P−RSA)合成およびその確認
P−BSA合成と同様の方法で、ホルボール 13−サクシネートとRSA(シグマ、A−0639)を反応させホルボール 13−サクシネート−KMUH−RSA複合体(P−RSA)を合成した。P−RSAが合成されたことをTOF−MS測定により確認した。またその分子量を測定することで、結合数を測定した。
【0061】
BSA、RSAとKMUHを反応させたもの、RSAとKMUHとホルボール 13−サクシネートを反応させたものを各々測定した。
【0062】
TOF−MS測定により得られた各生成物の分子量を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
KMUHは分子量が295.38でありRSAにKMUHが1つ結合すると、分子量は295.38増加する。またホルボール 13−サクシネートは分子量が464.4でありRSA−KMUHにホルボール 13−サクシネートが1つ結合すると、分子量は446.4増加する。このことからRSAへのKMUH、ホルボール 13−サクシネートの結合数を計算すると、
(70862.6−66265.5)÷295.38≒15.56
(72889.1−70862.6)÷446.4≒4.540
以上より、RSA1molにつき、KMUH16mol、ホルボール 13−サクシネート5molが結合したことが確認された。
【実施例2】
【0065】
(抗体作製)
ホルボールに対するモノクローナル抗体(monoclonal antibody)およびポリクローナル抗体(polyclonal antibody)を作製した。
【0066】
(1)抗ホルボールモノクローナル抗体作製
1−1.免疫
実施例1で作製したP−BSAをアジュバンド(免疫賦活化剤)と混合し、マウスに下記のように免疫した。脾臓細胞とミエローマ細胞は遺伝的に同系マウス由来のもののほうが、ハイブリドーマ形成率が高い。PAI細胞がBALB/cマウス由来のものであるため、BALB/cマウスに免疫した。
【0067】
実験には、7週齢の雌性BALB/cマウス(チャールズ・リバー)11匹を使用した。
【0068】
P−BSA6.07mg、インコンプリート・フロインド・アジュバンド(和光純薬)4.4mL、乾燥マイコバクテリウム・ブチリカム(Mycobacterium butyricum desiccated)(和光純薬)29.04mgを5mLシリンジ(テルモ)に入れ、硬くなるまで混合した。シリンジに26G注射針(テルモ)を付け、1匹につき400μL、6ヶ所に腹腔内注射した。14日ごとに5度行った。2度目以降は乾燥マイコバクテリウム・ブチリカムは加えなかった。
【0069】
1−2.抗体産生の確認
マウス眼窩静脈叢から毛細管を用いて血液をサンプリングし、室温、3500rpmで15分間遠心分離し、血清と血餅に分けた。96ウェルイムノプレートにP−BSA1mg/200mL(0.5μg/ウェル)を吸着させ、血清中の抗体産生をELISAで確認した。本実施例では、P−BSAをマウスに免疫したため、マウスの血清中には抗BSA抗体と抗ホルボール抗体が混在している。そのため、抗BSA抗体を除くために、希釈にはBSA1mg/mL含有PBSを用いた。
【0070】
詳しい実験の手順は以下のとおりである(Hiroyuki Tanaka,Yukihiro Shoyama (1999) Monoclonal anti body against tetrahydrocannabinolic acid distinguishes Cannabis sativa samples from different plant species. Forensic Science International 106: 135−146)、(Ritsu Sakata, Yukihiro Shoyama and Hiroki Murakami (1994) Production of monoclonal antibodies and enzyme immunoassay for typical adenylate cyclase activator, Forskolin. Cytotechnology 16:101−108)。
1.BSA(シグマ、A−7906)1mg、P−BSA1mgを各々PBS200mLに溶解した。これらを抗原とし96ウェルイムノプレート(スミロン)にそれぞれ100μL、48ウェルずつ入れた。4℃で一晩インキュベートし、吸着させた(0.5μg/100μL/ウェル)。
2.0.05%トウィーン20(ナカライテスク)含有PBS(TPBS)で3度洗浄した。
3.非特異的吸着を防ぐために5%スキムミルク(雪印乳業)含有PBSで1時間ブロッキングした。TPBSで3度洗浄した。
4.血清をBSA1mg/mL含有PBSで10、40、200、1000倍希釈した。30分間静置した後、10000rpmで10分間遠心分離した。上清を1ウェルにつき60μL入れ、37℃で一晩インキュベートした。TPBSで3度洗浄した。
5.0.1%BSA含有PBSで4000倍希釈した二次抗体HRP−ラット 抗マウスIgG(H+L)(ジムド・ラボラトリーズ)を1ウェルにつき100μL入れ、37℃で1時間インキュベートした。TPBSで5度洗浄した。
6.基質O−フェニレンジアミン溶液に使用直前に30%過酸化水素水30μLを加え、1ウェルにつき100μL入れた。遮光して37℃で1時間インキュベートした。なお、O−フェニレンジアミン溶液は、O−フェニレンジアミン(ナカライテスク)20mgを0.1Mクエン酸−0.2Mリン酸緩衝液50mLに溶解し、作製した。また、0.1Mクエン酸−0.2Mリン酸緩衝液の調製方法は以下のとおりである。
A クエン酸(ナカライテスク)1.92gを100mLの水に溶解させたもの
B リン酸水素2ナトリウム12水和物(ナカライテスク)7.17gを100mLの水に溶解させたもの
A24.3mLとB25.7mLを混合し、100mLにメスアップした後、pH5.0に調整した。
7.6N硫酸を10μLずつ加え反応を停止させた。よく攪拌し、マイクロプレートリーダー(490nm、単一波長)で測定した。
【0071】
本実施例では、11匹のマウスに免疫したが、ホルボールの毒性のため腹腔内で癒着がおこり、4匹のマウスが飼育中に死亡した。マウス7匹において抗ホルボール抗体の産生がみられた(図1)。
【0072】
1−3.ハイブリドーマの作製
血清中に抗体価の上昇が認められたマウス5匹から脾臓細胞を調製し、ミエローマ細胞とポリエチレングリコールを用いて細胞融合させ、ハイブリドーマを作製した。ミエローマ細胞はPAI細胞(マウス骨髄腫細胞)を使用した。作製したハイブリドーマはHAT培地・HT培地で培養した。
【0073】
a.細胞培養
培養は37℃、空気中二酸化炭素5%条件下で行った。培養条件を以下に示す。FBSは56℃で30分加温して非働化した後使用した。
【0074】
A.PAI細胞(ミエローマ細胞:マウス)
培養培地:RPMI1640(アーバイン・サイエンティフィック)と2.0g/L重炭酸ナトリウム、10%FBS(アーバイン・サイエンティフィック)、10000ユニット/mLペニシリンと10000μg/mLストレプトマイシン(Gibco)
B.ハイブリドーマ
a.培養培地(0−13週齢):HAT培地:RPMI1640(アーバイン・サイエンティフィック)と2.0g/L重炭酸ナトリウム、10%FBS(ハイクローン)、10000ユニット/mLペニシリンと10000μg/mLストレプトマイシン(ギブコ)、HAT培地サプリメント (シグマ)
b.培養培地(14−20週齢):HT培地:RPMI1640(アーバイン・サイエンティフィック)と2.0g/L重炭酸ナトリウム、10%FBS(ハイクローン)、10000ユニット/mLペニシリンと10000μg/mL ストレプトマイシン(ギブコ)、HT培地サプリメント(シグマ)
c.培養培地(21週齢以降):RPMI1640(アーバイン・サイエンティフィック)と2.0g/L重炭酸ナトリウム、10%FBS(アーバイン・サイエンティフィック)、10000ユニット/mLペニシリンと10000μg/mlストレプトマイシン(ギブコ)
d.培養培地(限界希釈法):RPMI1640(アーバイン・サイエンティフィック)と2.0g/L重炭酸ナトリウム、10%FBS(ハイクローン)、10000ユニット/mLペニシリンと10000μg/mLストレプトマイシン(ギブコ)、10%ハイブリドーマ・クローニング・ファクター(アイゲン)
詳しい実験の手順は以下のとおりである。なお、細胞融合の操作は全て室温で行った。
【0075】
b.脾臓細胞の回収と計数
1.細胞融合を行う3日前に最終免疫を行った。
2.マウスをエーテルによって致死させた。70%エタノールで十分消毒した後、マウスをクリーンベンチ内に入れた。
3.左わき腹から脾臓を摘出した。
4.RPMI1640(無血清)入りのディッシュ中で、ピンセットとハサミを用いて脾臓に付着した脂肪などを丁寧に除去した。
5.別のディッシュ中にて26G針付き注射器で脾臓にRPMI1640(無血清)を送り込み、リンパ球を遊離させた。
6.滅菌済みナイロンメッシュで不要物を取り除いた後、全ての細胞を15mLコニカルチューブに集め、2000rpmで5分間遠心して沈殿させた。沈殿物は赤色であった。
7.上清を取り除き、沈殿物を5mL0.83%塩化アンモニア水溶液(0.22μmフィルター滅菌済)に氷上で5分間懸濁することにより、赤血球を溶血させた。2000rpmで5分間遠心して沈殿させた。
8.上清を取り除いた後、RPMI1640(無血清)+ゲンタマイシン溶液(10〜20μg/mL)(シグマ、G1397)を加え、50mLにした。脾臓細胞懸濁液50mLから50μLとり、RPMI1640(無血清)450μLと混合した。この500μLから10μLとり計数した。残りを2000rpmで5分間遠心し沈殿させた。沈殿物は白色であった。沈殿物にRPMI1640(無血清)50mLを加え、懸濁した。
【0076】
c.ミエローマ細胞の回収と計数
1.シャーレで培養したミエローマ細胞を滅菌済みナイロンメッシュで不要物を取り除いた後、コニカルチューブに集めた。
2.2000rpmで5分間遠心して沈殿させ、上清を取り除き、RPMI(無血清)で50mLにした。10μLとり計数した。
【0077】
d.細胞融合
1.ミエローマ細胞(5×10セル)と脾臓細胞(5×10セル)を混合し、RPMI1640(無血清)で50mLにした。2000rpmで5分間遠心し沈殿させ、上清をできるだけ多く取り除いた。
2.70℃で溶解したポリエチレングリコール4000(PEG、シグマ、ハイブリ・マキシ・シグマ、P2906)5mLに37℃で温めておいたRPMI1640(無血清)5mL、DMSO1.5mLを加えた。(以下、融合混合物と略す。)
3.ゆっくりと振り混ぜながら1分以上かけ、融合混合物2.3mLを加えた。90秒間、37℃湯浴中で振り混ぜた。
4.RPMI1640(無血清)(全量21mL)をピペットの先端で細胞をつつきながら、次のように加えた。30秒間1mL、30秒間3mL、1分間17mL。
5.RPMI1640(無血清)で50mLにし、室温で5分間放置した。1500rpmで10分間遠心した。DMSOを除去するためにこの作業を2度繰り返した。
6.上清を取り除き、沈殿を50mLHAT培地に懸濁した。
7.96ウェルプレートに1ウェル当たり200μLずつ細胞懸濁液をいれ、培養した。
8.融合した日を0日として、2・3・5・8・11日目にHAT培地を100μL捨て、100μL加えた。14日目にHT培地に変更した。21日目まで3日おきにHT培地を100μL捨て、100μL加えた。21日目からRPMI1640培地に変更し、培養を続けた。
【0078】
ハイブリドーマの培養は、747ウェルプレートで行った。培養を続けると、10日目くらいからハイブリドーマの増殖が顕微鏡で観察できるようになった。コロニーを計数したところ、127ウェルでコロニーの形成が確認された。
【0079】
1−4.スクリーニング
抗フォルボール抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングのために、コロニーの形成が確認されたウェルから上清を採取し、ELISAを行った。ELISAの手順は1−2.抗体産生の確認と同様に行った。490nmで吸光度を測定した。
【0080】
得られたハイブリドーマのうち、1−1 5G、1−1 6F、1−2 10F、1−3 7D、1−3 8A、1−3 11D、2−3 2H、2−3 8A、3−2 11Dの9株を陽性と判定した。(数字はハイブリドーマの系統No.を示している。数字の最初は脾臓を摘出したマウスのNo.、次の数字はコロニーNo.、次はそのコロニーからサブクローニングによって得たクローンのNo.(コロニーの生育しているウェルの位置)をそれぞれ示している。)
1−5.クローニング
陽性と判定したウェルには数種類のハイブリドーマが混在していると考えられる。そこで、目的とする抗体を産生している細胞のみを得るために、スクリーニングしたウェルから抗BSA抗体産生細胞を除き、抗ホルボール抗体産生細胞のみを選抜するために、クローニングを行った。
【0081】
陽性と判断した9株を限界希釈法でクローニングした。1ウェルに細胞1個が入るように液体培地を希釈、調整して、96ウェルプレートにまき液体培地中で単一種類のコロニーを形成させた。
【0082】
限界希釈法によるクローニングは、以下の手順により行った。
1.計数板でハイブリドーマを計数し、1ウェルにつき細胞1個が入るように、培地を100個/10mLに希釈・調整した。培地にはハイブリドーマ・クローニング・ファクター(アイゲン)を最終濃度で10%加えた。
2.96ウェルプレートに各ウェル100μLずつまいた。
3.液体培地中で単一種類のコロニーを形成させた。
4.確実に単一コロニーにするために、1〜3をもう一度繰り返した。
【0083】
その後、顕微鏡で観察し、コロニーが形成されているウェルの上清を採取し、ELISAを行った。ハプテンと結合した抗体の量を、ホースラディッシュ・ペルオキシターゼ(HPR)で標識した二次抗体の結合量を490nmの吸光度(基質であるフェニレンジアミンからHRPによって生成する反応産物の色)を測定することにより評価した。9株中2−3 8A 9、3−2 11D 8の2株において、抗体の産生が見られた(図2)。
【0084】
1−6.抗体の作製・精製
限界希釈法で抗体の産生が確認された2株のハイブリドーマをヌードマウスの腹腔内に投与し、抗体を作らせた。
【0085】
抗体の培養には、7週齢の雌性ICRヌードマウス(チャールズ・リバー)6匹を使用し、実験は以下のとおりに行った。
1.ハイブリドーマ(2×10セル/マウス)をマウス腹腔内に打ち込んだ。
2.パスツールピペットで腹水を採取した。
【0086】
20〜25日で腹部が肥大してきたため、腹水を採取した。採取した腹水は1000rpmで10分間遠心分離して上清を採取し、凍結保存した。
【0087】
(2)抗ホルボールポリクローナル抗体作製
2−1.免疫
実施例1で作製したP−RSAをアジュバンドと混合し、ウサギに免疫した。
なお、コントロールとして使用するために、免疫前にウサギの耳の静脈から少量採血しておいた。12週齢の雌性日本白ウサギ1匹を使用し、以下のとおり実験を行った。
【0088】
P−RSA6.07mg、インコンプリート・フロインド・アジュバンド(和光純薬工業)4.4mL、乾燥マイコバクテリウム・ブチリカム(Mycobacterium butyricum desiccated)(和光純薬工業)29.04mgを5mLシリンジに入れ、硬くなるまで混合した。シリンジに22G注射針を付け、0.2mLずつ全量2mLを背中10ヶ所に皮内注射した。14日ごとに7度行った。2度目以降は乾燥マイコバクテリウム・ブチリカムは加えなかった。
2−2.抗体産生の確認
ウサギの耳介動脈から血液をサンプリングし、3500rpmで15分間遠心分離し、血清と血餅に分けた。96ウェルイムノプレートにP−RSAおよびRSAを吸着させ、血清中の抗体産生を直接ELISAで確認した。コントロールには免疫前のウサギの血清を用いた。
【0089】
直接ELISAによる抗体産生の確認は、以下のとおりに行った。
1.RSA(シグマ、A−0639)1mg、P−RSA1mgをそれぞれPBS200mLに溶解した。これらを抗原とし96ウェルイムノプレートにそれぞれ100μL、48ウェルずつ入れた。4℃で一晩放置し、吸着させた(0.5μg/100μL/ウェル)。
2.0.05%トウィーン20含有PBS(TPBS)で3度洗浄した。
3.非特異的吸着を防ぐために、5%スキムミルク含有PBSで1時間ブロッキングした後、TPBSで3度洗浄した。
4.10〜25600倍に希釈した血清をプレートにまき、37℃で1時間インキュベートした。TPBSで3度洗浄した。
5.0.1%RSA含有PBSで4000倍希釈した二次抗体HRP−ヤギ・抗ウサギIgG DS グレード(ジムド・ラボラトリーズ)を1ウェルにつき100μL入れ、37℃で1時間インキュベートした。
6.TPBSで5度洗浄した。基質O−フェニレンジアミン溶液に使用直前に30%過酸化水素水30μLを加え、1ウェルにつき100μL入れた。遮光して37℃で10分間インキュベートした。
7.6N硫酸を10μLずつ加え反応を停止させた。よく攪拌し、マイクロプレートリーダー(490nm、単一波長)で測定した。
【0090】
その結果、免疫したウサギにおいて、抗体価の上昇がみられた(図3)。キャリアータンパク質であるRSAをプレートに吸着させたウェルでは吸光度の上昇はみられないことから、抗RSA抗体は産生されておらず、抗ホルボール抗体が産生されていることを確認した。
【0091】
2−3.抗体の採取・精製
免疫したウサギで、抗ホルボール抗体の産生が確認されたため、心臓採血により全血を採取した。採取した血液を、室温、3500rpmで15分間遠心分離し、血清と血餅に分けた。血清を硫安沈殿し、沈殿物を適量のPBSに溶解し、透析後、凍結保存した。
【0092】
心臓採血は次のとおりに行った。採血を行う3日前に最終免疫を行った。ネンブタール(大日本製薬)1mLをウサギの耳の静脈から打ち込み、麻酔をかけた。心臓に16G留置針(テルモ)を刺し、心臓採血を行った。血液を室温、3500rpmで15分間遠心分離し、血清と血餅に分離した。
【0093】
抗体の精製のための血清の硫安沈殿(植木厚:免疫生化学研究法、13-14、 1986)は以下のとおりに行った。
1.血清37.5mLにPBS37.5mLを加えた。スターラーで攪拌しながら、硫酸アンモニウム飽和溶液37.5mLを少量ずつ滴下した。白い沈殿が発生してきた。一晩静置した。なお、飽和硫酸アンモニウム水溶液の調製はつぎのとおりに行った。約800gの硫酸アンモニウム(ナカライテスク)に1L蒸留水を加え加温溶解し、室温でわずかに結晶が析出するまで冷却した。この飽和溶液は酸性を示すので、少量をとって蒸留水で10倍希釈した溶液がpH7.0〜7.2になるようにアンモニア水で調整した(植木厚:免疫生化学研究法、13-14、 1986)。
2.超遠心機で15℃、8000rpmで30分間遠心分離した。沈殿を採り、PBS37.5mLに溶かした。
3.硫酸アンモニウム飽和溶液18.75mLを加えて再沈殿を行い、同じ条件で再び超遠心機にかけた。
4.上清を捨て、沈殿を適量のPBSに溶かした。
【0094】
透析は、以下のとおりに行った。硫安沈殿で得られた沈殿を半透膜(Cellu Sep(登録商標)T1、フナコシ)に入れた。PBS3L中に入れ、低温実験室(4℃)においてスターラーでゆっくり攪拌し、透析した。8時間を1回として3度繰り返した。
【実施例3】
【0095】
(ホルボール誘導体検出法の検討)
ホルボール誘導体およびトウダイグサ科植物含有成分あるいはそれらの成分と類似した基本骨格を有する化合物を用いて、作製した抗ホルボール抗体の特異性を競合ELISAで検討した。
【0096】
まず抗ホルボール抗体にサンプルを加えて一定時間静置し、サンプル中の検出対象物質と抗ホルボール抗体との間に抗原抗体反応を起こさせた。この混合物を、あらかじめ抗原(P−BSA、P−RSA)を吸着させておいたプレートに加えた。ここでも再度、抗原抗体反応が起こる可能性がある。しかし、先の反応で抗ホルボール抗体がサンプル中の対象物質を捕捉していれば、プレートに吸着させた抗原(P−BSA、P−RSA)とは反応することはできない。逆に、捕捉していなければ、プレートに吸着させた抗原と結合する。その後、二次抗体、基質溶液を加えて発色させ、吸光度を測定した。
【0097】
サンプル中の対象物質と抗ホルボール抗体の親和性が高ければ、吸光度は小さくなる。親和性が小さければ、吸光度は大きくなる。つまり作製した抗ホルボール抗体の特異性が高ければ、吸光度も高くなり、低ければ吸光度も低くなる。
【0098】
競合的ELISAを行うために、プロトコールの条件検討を行った。抗体希釈倍率、サンプル濃度、溶媒、反応時間、反応時間等を検討した。
【0099】
検討した条件で、競合ELISAを行い、抗ホルボール抗体の特異性、非特異的吸着性の有無を確かめ、その検出感度を測定した。また様々なホルボール誘導体をサンプルとしてアッセイし、抗ホルボール抗体の抗原認識部位を推定した。
【0100】
実施例2までに抗ホルボールモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体を作製したが、実施例3では、より抗体価の高かったポリクローナル抗体を用いて、実験を進めた。
【0101】
抗ホルボール抗体特異性の検討における競合的ELISAは、以下のとおりに行った。
1.P−BSA1mgをPBS200mLに溶解した。これを96ウェルイムノプレートに100μLずつ入れ、4℃で一晩放置し、吸着させた(0.5μg/100μL/ウェル)。ウサギ血清と表4記載の各種化合物またはホルボール誘導体とを0.6mLチューブに入れ、混合し、4℃で一晩放置した。
2.0.05%トウィーン20含有PBS(TPBS)で3度洗浄した。
3. 非特異的吸着を防ぐため5%スキムミルク含有PBSで1時間ブロッキングした。TPBSで3度洗浄した。
4.混合物をプレートに入れ、37℃で2時間インキュベートした。ネガティブコントロールには溶媒DMSOのみを添加した。TPBSで3度洗浄した。
5. 0.1%RSA含有PBSで4000倍希釈した二次抗体HRP−ヤギ・抗ウサギIgG DS グレードを1ウェルにつき100μL入れ、37℃で2時間インキュベートした。
6.TPBSで5度洗浄した。基質O−フェニレンジアミン溶液に使用直前に30%過酸化水素水30μLを加え、1ウェルにつき100μL入れた。遮光して、37℃で10分間インキュベートした。
7.6N硫酸を10μLずつ加え反応を停止させた。よく攪拌し、マイクロプレートリーダー(490nm、単一波長)で測定した。
【0102】
B/Bo値(%)は以下のとおり計算した。
【0103】
B/Bo値(%)=試験化合物添加時の吸光度/試験化合物無添加時の吸光度×100

(1)各種化合物との反応
トウダイグサ科植物にはホルボール誘導体以外にも様々な成分が含有されている。それらの成分に対する作製した抗ホルボール抗体の認識特異性を検討することが必要である。そこで、これまでに報告されているトウダイグサ科植物成分あるいはそれらの成分と類似した基本骨格を有する化合物などを収集し、それらに対する抗ホルボール抗体の親和性を測定した。その結果を図4〜図11に示す。使用した29化合物を表4に示す。
【0104】
【表4】

【0105】
B/Bo値とは前記の式で表され、試験化合物を加えなかったウェルの吸光度に対する試験化合物を加えたウェルの吸光度の割合を示す。この値が小さくなるほど、試験化合物と抗体の親和性が高いことを示す。試験化合物無添加時にはサンプルの溶媒であるDMSOのみを抗体と混合した。
【0106】
図4〜図11ではどの試験化合物においてもB/Bo値の低下は見られなかった。すなわち作製した抗体はこれらの表4記載の化合物を認識しなかった。また抗体は非特異的な吸着は起こしていないことを確認した。
【0107】
(2)ホルボール誘導体との反応
次に作製した抗体の特異性、及びその検出限界を検討した。その結果を図12(A)、(B)に示す。また様々なホルボール誘導体を試験化合物とすることで、抗体の抗原認識部位を推定した。
【0108】
使用したホルボール誘導体の構造を化5、表5に示す。
【0109】
【化5】

【0110】
【表5】

【0111】
12位、13位、20位水酸基がエステル体になっている4β−ホルボール誘導体、12位、13位水酸基がエステル体になっている4α−ホルボール誘導体はすべて濃度依存的にB/Bo値を低下させた。これは作製した抗ホルボール抗体が今回使用したホルボール誘導体をすべて認識できることを示している。本発明では多くのホルボール誘導体を広く認識する特異的抗体を作製することを目標としてきた。図12より、抗体はどの誘導体とも同様に反応しており、ホルボール誘導体の共通構造を認識することができる抗体が得られたと考えられる。
【0112】
また、本抗体の反応は12位、13位、20位炭素に付く水酸基がエステル化されても影響が見られないこと、さらに4位の水酸基の立体構造がα位、β位でも同様の反応性を示すことから、得られた抗体は、ホルボールのA環(五員環)−B環(七員環)構造、とりわけA環構造を認識している可能性が高いと推定される。
【0113】
抗体の検出限界はB/Bo値が大きく低下している1〜10ng/mL付近であると推定され、ホルボール及びホルボール誘導体が皮膚刺激作用を起こす濃度は数μg/mL、発ガンプロモーターとしての作用を示す濃度は数ng/mLである。よって本発明によって確立したアッセイ系は作用を示すホルボールを十分に検出できる感度を有しており、TLC、HPLC、GCなどよりも感度が高かった。
【0114】
また、その作業は簡便で、前処理を含めて1日でアッセイをすることができ、高価な機器も、複雑な技術も必要としないため利用しやすく、利用価値は高いと思われる。
【0115】
さらに、本発明の抗ホルボール抗体は、ホルボール誘導体のA環構造を認識していることが推定されることから、本実施例では使用しなかったが、同様の構造を有するダフネトキシン、メゼレイン等に対しても親和性があると予想される。ダフネトキシンやメゼレインもホルボールに似た構造のダフナン型のジテルペノイドであり、ジンチョウゲ科セイヨウオニバシリ(Daphne mezereum)に含まれる。これらはTPAに匹敵する発ガンプロモーターである(奥田拓夫:薬用天然物化学−第2版−、116−120、2003)。これらの化合物に対しても、もし反応していれば、植物含有発ガンプロモーターの検出系として非常に意味がある。化6に、ダフナン型ジテルペノイドの構造を示す。
【0116】
【化6】

【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】実施例2において、P−BSAで免疫されたマウスから作製された血清におけるホルボール抗体の抗体価を示す血清の希釈率と490nmにおける吸光度の関係のグラフである。
【図2】実施例2において、抗体の産生が見られた2株の抗ホルボール抗体の抗体価を示す490nmにおける吸光度のグラフである。
【図3】実施例2において、P−RSAで免疫されたウサギから作製された血清における抗ホルボール抗体の抗体価を示す血清の希釈率と490nmにおける吸光度のグラフである。
【図4】実施例3において、抗ホルボール抗体と表4記載4化合物の親和性の測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例3において、抗ホルボール抗体と表4記載4化合物の親和性の測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例3において、抗ホルボール抗体と表4記載4化合物の親和性の測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例3において、抗ホルボール抗体と表4記載4化合物の親和性の測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例3において、抗ホルボール抗体と表4記載4化合物の親和性の測定結果を示すグラフである。
【図9】実施例3において、抗ホルボール抗体と表4記載3化合物の親和性の測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例3において、抗ホルボール抗体と表4記載3化合物の親和性の測定結果を示すグラフである。
【図11】実施例3において、抗ホルボール抗体と表4記載3化合物の親和性の測定結果を示すグラフである。
【図12】実施例3において、抗ホルボール抗体とホルボール誘導体の親和性の測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルボール又はホルボール誘導体にキャリアータンパク質を結合させることにより、ホルボール及びホルボール誘導体に対する免疫原性を持たせたことを特徴とするホルボール抗原。
【請求項2】
前記キャリアータンパク質が、BSA又はRSAであることを特徴とする請求項1記載のホルボール抗原。
【請求項3】
請求項2記載のホルボール抗原を用いて作製したことを特徴とする抗ホルボール抗体。
【請求項4】
請求項3記載の抗ホルボール抗体を用いて免疫学的方法により、ホルボール及びホルボール誘導体を検出することを特徴とするホルボール及びホルボール誘導体の免疫学的検出方法。
【請求項5】
前記免疫学的方法がELISAであることを特徴とする請求項4記載のホルボール及びホルボール誘導体の免疫学的検出方法。
【請求項6】
前記ELISAが競合的ELISAであることを特徴とする請求項5記載のホルボール及びホルボール誘導体の免疫学的検出方法。
【請求項7】
請求項3記載の抗ホルボール抗体を含むホルボール及びホルボール誘導体の検出用試薬。
【請求項8】
請求項3記載の抗ホルボール抗体を用いて作製した固相化抗ホルボール抗体及び酵素標識抗ホルボール抗体を含むホルボール及びホルボール誘導体の検出用試薬。
【請求項9】
前記抗ホルボール抗体がポリクローナル抗体である請求項7又は8に記載のホルボール及びホルボール誘導体の検出用試薬。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載のホルボール及びホルボール誘導体の検出用試薬を備えたホルボール及びホルボール誘導体の検出用キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2008−51589(P2008−51589A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226538(P2006−226538)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月6日 名古屋市立大学大学院薬学研究科発行の「平成17年度 名古屋市立大学大学院薬学研究科 博士前期課程論文内容要旨集」に発表
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】