説明

ホルムアルデヒド処理装置及びホルムアルデヒド濃度測定方法

【課題】鎖式化合物または環式化合物を含むような複雑化した揮発性有機化合物においても、外部に排気される塗装乾燥炉排ガスのような揮発性有機化合物中のホルムアルデヒドを確実にしかも少量のエネルギーで連続的に測定し、一定基準値以下のホルムアルデヒドに処理することができるホルムアルデヒド濃度測定方法及びホルムアルデヒド処理装置を提供すること。
【解決手段】制御装置6は、揮発性有機化合物測定装置5の分光測定装置における測定した特定の波長領域の吸収ピーク値及びホルムアルデヒド濃度演算式に基づき揮発性有機化合物中のホルムアルデヒドの濃度を算出し、算出したホルムアルデヒドの濃度に対応して揮発性有機化合物処理装置4及び換気装置3を作動し、ホルムアルデヒドを水及び二酸化炭素に分解し一定値付近以下のホルムアルデヒドを排気するように制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルムアルデヒド処理装置及びホルムアルデヒド濃度測定方法に係り、特に揮発性有機化合物中のホルムアルデヒド処理装置及びホルムアルデヒド濃度測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物は、揮発しやすく塗装原料や接着材を溶解しやすい点から、自動車の板金塗装塗料、壁紙や床の接着剤などに広く使用されている。この揮発性有機化合物の中でも、ホルムアルデヒド(HCHO)は、安価な上、水や他の有機溶剤と混合することができるとともに多種多様な有機化合物を溶解することができることから、溶媒として一般的に用いられている。
【0003】
このホルムアルデヒドは、空気中での濃度が1ppm程度では臭気程度であるが、2ppmになると目やのどなどの粘膜に刺激を与え、3ppmを超えると目やのどなどの粘膜に激痛を生じさせる急性障害を引き起こす。このため、このホルムアルデヒドを用いた仕事に従事する作業員の安全管理として、厚生労働省は、作業場所のホルムアルデヒド濃度の安全基準値を0.08ppm以下として作業現場の喚起を十分にするよう指導を行っており(97年)、WHOにおいても同様の指針が出されている。
【0004】
さらに、近年、シックハウス症候群となる原因化学物質の一つとしてホルムアルデヒドが挙げられており、体内においてホルムアルデヒドを含む原因化学物質がある感応性の一定の閾値を越えることによって原因化学物質に過敏となり、シックハウス症候群になるといわれている。
【0005】
よって、作業現場内で仕事に従事する作業員のホルムアルデヒド被爆量を少なくする必要がある一方で、従来のように作業現場内の滞留するホルムアルデヒドを含む揮発性有機化合物である排ガスを単に外部に排気することは、周辺の大気を汚染し、第三者がホルムアルデヒドに被爆する恐れがある。このことから、ホルムアルデヒドは大気汚染防止法の有害大気汚染物質の優先取組み物質に指定されている。
【0006】
このため、特にホルムアルデヒドが空気中に高濃度になる作業現場では、排気を十分にするだけではなく、作業現場で生じる揮発性有機化合物中のホルムアルデヒド濃度を測定する測定装置及びホルムアルデヒドを無害な水及び二酸化炭素に処理する処理装置を通して安全性の高い排ガスを外部に排気する必要がある。つまり、正確にホルムアルデヒド濃度を適宜測定し、この測定結果に基づいて効率よくホルムアルデヒドを処理して無害なものにすることが重要となってくる。
【0007】
ここで、ホルムアルデヒド濃度を測定するものとしては、ホルムアルデヒドチェック紙、ホルムアルデヒド定電位電解センサ、ホルムアルデヒドガス検出管検出器、ガスクロマト測定装置などが用いられている。ホルムアルデヒドチェック紙及びホルムアルデヒドガス検出管検出器は、空気中のホルムアルデヒドと反応することによって色などが変化してホルムアルデヒドを検出またはホルムアルデヒド濃度を測定する。また、ホルムアルデヒド定電位電解センサは、アルデヒド類を選択的に吸着させ他の揮発性有機化合物を吸着させないDNPHフィルタとアルデヒド類及び他の揮発性有機化合物を吸着させないガラス繊維フィルタとを用いてその差によってホルムアルデヒド濃度を測定する。
【0008】
また、引用文献1に示すように、連続的に長時間、ホルムアルデヒド濃度を測定するために、フーリエ変換−赤外線吸収スペクトル装置の分光測定装置を用い、複数のホルムアルデヒドにおける特定の波長領域の吸収スペクトルのピークの高さとこれらに対応する谷の高さとの差に基づいて相対吸光度の和からホルムアルデヒドの濃度を算出する測定方法が提案されている。
【特許文献1】特許第2649667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、作業現場の空気中または排ガス中のホルムアルデヒドを確認する上で、ホルムアルデヒドチェック紙及びホルムアルデヒドガス検出管検出器は、簡便であるが、安全管理者が、適宜、ホルムアルデヒドを検査する必要があり、連続的にホルムアルデヒドの濃度を測定することが困難であるという問題がある。ホルムアルデヒド定電位電解センサは、連続的に1日以上測定するときにはホルムアルデヒド濃度測定の精度を維持するためにアルデヒド類が吸着したDNPHフィルタの交換をする必要があり、長時間、ホルムアルデヒドの濃度を測定することが困難であるという問題がある。
【0010】
また、塗装乾燥炉排ガス中の揮発性有機化合物は、ホルムアルデヒドを数40%、1−ブタノール、酢酸イソブチルなどの鎖式化合物を約10%、さらにベンゼン、トルエンなどの環式化合物を約50%を含んでおり、これらの構成比率は塗装作業をする都度大きく変動している。このように、構成比率が大きく変動する塗装乾燥炉排ガスのような揮発性有機化合物においては、分光測定装置によって得られる塗装乾燥炉ガスの吸収スペクトルは各揮発性有機化合物が複雑に複合しており、吸収スペクトルのデータ結果から実際にどの揮発性有機化合物がどの程度の割合で含まれているかを直ちに判断することは困難である。従って、構成比率が大きく変動するような塗装乾燥炉などでの排ガス中の揮発性有機化合物を分光測定装置で測定し、得られた揮発性有機化合物の吸収スペクトルから、ホルムアルデヒドにおける選択した複数の波長領域の吸収スペクトルのピークの高さとこれらに対応する谷の高さとの差に基づいて相対吸光度の和から精度よくホルムアルデヒドの濃度を測定することは困難であるという問題がある。
【0011】
本発明は、前記した点に鑑みてなされたものであり、1−ブタノール、酢酸イソブチルなどの鎖式化合物またはベンゼン、トルエンなどの環式化合物を含む揮発性有機化合物においても、確実に連続的にホルムアルデヒドの濃度の測定を行うことができるとともに、外部に排気される塗装乾燥炉排ガスのような揮発性有機化合物中のホルムアルデヒドを確実にしかも少量のエネルギーで連続的に測定し、安全性の高い一定値以下のホルムアルデヒドに処理することができるホルムアルデヒド処理装置及びホルムアルデヒド濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の問題を解決するためには、揮発性有機化合物中のホルムアルデヒドを水及び二酸化炭素に分解する揮発性有機化合物処理装置と、前記揮発性有機化合物処理装置の処理前または処理後の前記揮発性有機化合物における2660cm-1から2840cm-1までの全体或いは一部の波長領域の吸収スペクトルを測定する単数または複数の分光測定装置を備える揮発性有機化合物測定装置と、揮発性有機化合物を排気する換気装置と、前記揮発性有機化合物処理装置、前記揮発性有機化合物測定装置及び前記換気装置を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記分光測定装置により測定した吸収スペクトルピーク値及びホルムアルデヒド濃度演算式に基づき前記ホルムアルデヒドの濃度を算出する演算手段と、算出した前記ホルムアルデヒドの濃度に対応して前記揮発性有機化合物処理装置及び前記換気装置を作動し、前記ホルムアルデヒドを水及び二酸化炭素に分解して一定値以下のホルムアルデヒドを排気するように制御する処理手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
この請求項1に記載の発明によれば、前記ホルムアルデヒド処理装置は、前記揮発性有機化合物測定装置によって、正確な前記揮発性有機化合物中のホルムアルデヒドの濃度を測定でき、この測定結果から算出した前記ホルムアルデヒドの濃度に基づいて制御装置が、前記揮発性有機化合物処理装置及び前記換気装置を作動して前記ホルムアルデヒドを水及び二酸化炭素に分解し一定値以下のホルムアルデヒドを排気するように制御することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の前記ホルムアルデヒド処理装置において、前記揮発性有機化合物測定装置は、前記分光測定装置の他に、少なくとも、単数または複数のガスクロマト測定装置、または、単数または複数の液体クロマト測定装置を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、前記ホルムアルデヒド処理装置は、前記分光測定装置の他に、前記ガスクロマト測定装置または前記液体クロマト測定装置を備えることによって、より確実に塗装乾燥炉排ガスなどの前記揮発性有機化合物中の前記ホルムアルデヒド濃度を測定することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の前記ホルムアルデヒド処理装置において、前記揮発性有機化合物処理装置は、電子線照射処理装置、活性炭処理装置、光触媒処理装置または微生物酵素触媒処理装置の少なくともいずれか一つを備えることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、前記揮発性有機化合物処理装置で前記有機化合物を処理することによって、前記揮発性有機化合物中の前記ホルムアルデヒドを効率よく、水、二酸化炭素に分解することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、ホルムアルデヒド濃度測定方法において、前記揮発性有機化合物を2660cm-1から2840cm-1までの全体或いは一部の波長領域の前記揮発性有機化合物の吸収スペクトルを測定し、前記吸収スペクトルピーク値及び前記ホルムアルデヒド濃度演算式に基づき、前記揮発性有機化合物中の前記ホルムアルデヒド濃度を算出する。
【0019】
この請求項4に記載の発明によれば、ホルムアルデヒド濃度測定方法において、前記特定の吸収スペクトル及び前記吸収スペクトルピーク値に基づいて、前記揮発性有機化合物中に含まれる前記ホルムアルデヒド濃度を連続的に正確に算出することができる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、分光測定装置によって複数の揮発性有機化合物の一つであるホルムアルデヒドの濃度を連続的にかつ少量のエネルギーで正確に測定するとともに、制御装置によって、測定データから正確で連続的にホルムアルデヒドを算出し、算出されたホルムアルデヒド濃度から塗装乾燥炉排ガス中のホルムアルデヒドを揮発性有機化合物処理装置によって効率よく無害な水及び二酸化炭素に処理し、ホルムアルデヒドの安全性の高い一定値以下して揮発性有機化合物を外部へ排気することができるという効果を奏する。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、分光測定装置の他に、少なくとも、ガスクロマト測定装置または液体クロマト測定装置を備えることによって、揮発性有機化合物中のホルムアルデヒドの濃度を正確に測定するとともに他の揮発性有機化合物の影響に対応する補正をし、正確なホルムアルデヒドの濃度のデータに基づき制御装置の制御によってホルムアルデヒドの処理を効率よく行うことができるという効果を奏する。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、前記揮発性有機化合物処理装置は、電子線照射処理装置、活性炭フィルタ処理装置、光触媒処理装置または微生物酵素触媒処理装置によって、塗装乾燥炉排ガスのような揮発性有機化合物中のホルムアルデヒドを効率よく無害な水及び二酸化炭素に処理することができるという効果を奏する。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、ホルムアルデヒド濃度測定方法において、2660cm-1から2840cm-1までの全体或いは一部の波長領域の吸収スペクトルピーク値に基づき、前記揮発性有機化合物中に含まれる前記ホルムアルデヒド濃度を連続的に正確に算出することができるので、塗装乾燥炉排ガスのようにホルムアルデヒド以外の揮発性有機化合物を多種多様に含む場合でも、ホルムアルデヒド以外の揮発性有機化合物の影響を少なくしてホルムアルデヒド濃度を測定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係るホルムアルデヒド処理装置の実施形態について図1及び図2を参照して説明する。ただし、発明は図示例に限定されない。
【0025】
図1に示すように、ホルムアルデヒド処理装置1には、被塗装体を塗装し乾燥する塗装乾燥炉2が備えられており、この塗装乾燥炉2の両側には、塗装乾燥炉2で発生した揮発性有機化合物が含まれる塗装乾燥炉排ガスを排気する2つの換気装置3が備えられている。それぞれの換気装置3には、換気装置3によって排気された塗装乾燥炉ガスが流入する排ガス配管7が接続されており、この排ガス配管7は中途で一つに統合されて外部に通じている。
【0026】
排ガス配管7の中途部には、塗装乾燥炉排ガス中のホルムアルデヒドを処理する揮発性有機化合物処理装置4が備えられており、排ガス配管7の揮発性有機化合物処理装置4に対する上流及び下流には、揮発性有機化合物処理装置4による処理前及び処理後の塗装乾燥炉排ガスが流入する測定配管8が接続されている。この測定配管8の中途部には、測定配管8から流入する塗装乾燥炉排ガス中のホルムアルデヒドの濃度を測定するための揮発性有機化合物測定装置5が備えられている。
【0027】
塗装乾燥炉2の下方中央には、被塗装体を載置するための支持台が備えられており、この支持台の両側には塗膜した被塗装体表面を乾燥させるため塗装乾燥炉2の乾燥温度を制御する温度制御装置と、塗装時に生じる塗装乾燥炉排ガスを外部へ排気するための換気装置3とが備えられている。
【0028】
この塗装乾燥炉2としては、乾燥温度と乾燥時間を制御しながら適切な乾燥条件を調節することができるバッチ式乾燥炉、コンベアを組み込んで被塗装体に塗装を連続処理することができるトンネル型乾燥炉、バーナ及び換気扇を支持台の下に配置しコンベアで排気するコンベア式山型乾燥炉などが適用可能である。
【0029】
揮発性有機化合物処理装置4には、換気装置3によって塗装乾燥炉2から排気された塗装乾燥炉排ガス中のホルムアルデヒドを一定値以下のホルムアルデヒド濃度になるようにホルムアルデヒドの処理を行う電子線照射処理装置が備えられている。
【0030】
電子線照射処理装置の内部には、塗装乾燥炉排ガスが流入する配管が備えられており、この配管の一部には、電子線を透過する透過窓が備えられている。この透過窓に接する部分には、チャンバー室が備えられており、このチャンバー室には、チャンバー室の電子照射効率を高めるため高真空状態にするポンプ装置が接続されている。チャンパー室の内部の中央には、配管を通過するホルムアルデヒドに対して透過窓を介して電子線照射によって水と二酸化炭素に分解する電子線加速装置及び直流高圧電流発生装置が備えられており、電子線加速装置の内部の中央には、電子線の発生源であるフィラメントが備えられている。
【0031】
揮発性有機化合物測定装置5には、揮発性有機化合物の中に含まれるホルムアルデヒドの濃度を連続的に正確に測定する分光測定装置と、揮発性有機化合物の構成物質の同定及び構成比率を一定時間間隔で測定する液体クロマト測定装置とが備えられている。
【0032】
分光測定装置には、平行な赤外ビームを発する光源と、ビームスプリッタ及びミラーを含む干渉機構と、干渉機構を介して光源からの赤外線が照射されるセルと、半導体検出器などからなる検出器とが備えられている。このセルの側面には、測定配管8から塗装乾燥炉排ガスが流入する配管及び流出する配管が接続されている。
分光測定装置は、塗装乾燥炉排ガスの赤外吸収スペクトルを示す900cm-1から7700cm-1までの波長領域を測定し、特にホルムアルデヒドの特徴的な赤外吸収スペクトルを示す2660cm-1から2840cm-1までの波長領域を測定する。分光測定装置としては、鎖式化合物及び環式化合物の他の揮発性有機化合物の影響が少なく、ホルムアルデヒドの特徴的な吸収スペクトルを感度よく測定することができるフーリエ変換−赤外吸収スペクトル測定装置が好ましい。
【0033】
セルの材料は、光源の光の強度を効率よく透過できるものであればよく、石英セル、ガラスセル、プラスチックセルが適用可能である。セルの光路長は、ホルムアルデヒド濃度を安定的に測定するために10m以上が好ましいが、塗料乾燥炉排ガス中のホルムアルデヒド濃度を精度よく測定することができれば、セルの光路長は10mより小さくともよい。
【0034】
液体クロマト測定装置には、塗装乾燥炉排ガスを採取し溶媒に溶解したホルムアルデヒドを分離するシリカゲル系などのカラム及びこの分離したホルムアルデヒドを直接または試薬反応などによる間接的に検出することができる紫外線検出器などの液体クロマト検出器が備えられている。このとき、溶媒に溶解したホルムアルデヒドは、測定配管8から塗装乾燥炉排ガスを採取し、ホルムアルデヒドと反応する担体を用いてホルムアルデヒドを抽出したものである。一定時間ごとに塗装乾燥炉排ガスからホルムアルデヒドを抽出し、注入することのできる自動サンプル採取注入装置が備えられていることが好ましい。また、液体クロマト測定装置は、ホルムアルデヒドの他に、1−ブタノール、酢酸イソブチルなどの鎖式化合物及びベンゼン、トルエンなどの環式化合物など塗装乾燥炉排ガス中の揮発性有機化合物の構成成分及び構成比率を測定することができるものが好ましい。
【0035】
図2に示すように、塗装乾燥炉2、換気装置3、揮発性有機化合物処理装置4及び揮発性有機化合物測定装置5には、これらを制御するための制御装置6が接続されている。さらに制御装置5には、揮発性有機化合物測定装置6、塗装乾燥炉2、換気装置3及び揮発性有機化合物処理装置4を制御する演算処理手段12と、キーボードなどの入力手段10と、モニタなどの出力手段11と、メモリなどの記憶手段15とが備えられている。
【0036】
演算処理手段12には、塗装乾燥炉排ガス中における揮発性有機化合物を測定し、測定データからホルムアルデヒド濃度を算出する測定演算手段13と、算出したホルムアルデヒド濃度に基づき換気装置3及び揮発性有機化合物処理装置4を作動させ、塗装乾燥炉排ガス中のホルムアルデヒドを一定値以下に処理するため制御を行う処理手段14とが含まれている。
【0037】
演算手段13は、分光測定装置によって測定した吸収スペクトルから特定の波長領域を自動または手動で選択し、選択した特定の波長領域におけるベースラインからの吸収スペクトルのピークの高さ(以下、吸収スペクトルピーク値とする。)を算出し、予め記憶手段15に記憶されているホルムアルデヒド濃度演算式である下記の式1に基づき吸収スペクトルピーク値からホルムアルデヒド濃度を算出するようになっている。
Y=393.45X×(1/L)×f−4.324 …(1)
【0038】
式1は、ランバート・ベールの法則による試料濃度と吸光度との関係であって、Yはホルムアルデヒド濃度(ppm)、Xは光路長10mで測定した塗装乾燥炉排ガスの2765cm-1の波長領域における吸収スペクトルピーク値(吸光度)である。Lは光路長の補正値であってL=(測定に用いた光路長(m)/10m)、fは吸収スペクトルピーク値の補正値であって標準ホルムアルデヒドから求めるf=(2765cm-1のときの吸収スペクトルピーク値/2660cm-1から2840cm-1までのある波長領域の吸収スペクトルピーク値)である。
【0039】
このとき、式1の傾き及び切片は、下記に示す実施例から2765cm-1の波長領域における光路長10mであって吸収スペクトルピーク値及びホルムアルデヒド濃度から最小二乗法によって求められたものであり、光路長10m、2765cm-1の波長領域における吸収スペクトルピーク値(吸光度)の場合には、(1/L)=1、f=1となる。
また、例えば、2684cm-1のときの吸収スペクトルピーク値が0.01、光路長20mの場合には、L=(20/10)、f=4.714、X=0.01となり、ホルムアルデヒド濃度は9.27(ppm)である。
【0040】
このとき選択する特定の波長領域は、ホルムアルデヒドが、他の揮発性有機化合物の吸収の影響を受けにくい2660cm-1から2840cm-1の波長領域でピークが認められる波長が好ましい。特に吸収スペクトルのベースラインからの吸収スペクトルのピークの高さである吸収スペクトルピーク値を算出しやすい2833cm-1、2821cm-1、2801cm-1、2779cm-1、2765cm-1、2748cm-1、2710cm-1、2702cm-1、2684cm-1、2675cm-1、2667cm-1及び2651cm-1付近がより好ましい。さらに、他の揮発性有機化合物の吸収の影響を受けずに吸収スペクトルピーク値から相関係数の高い式1を求めることができる2765cm-1付近が最も好ましい。
【0041】
また、この特定の波長領域は、2765cm-1付近の吸収スペクトルピーク値を自動的に選択するように記憶手段15に記憶されているが、キーボードなどからの入力手段10によっても2765cm-1以外を選択することができるようになっている。
【0042】
また、演算手段13は、液体クロマト装置による測定データ及び予め記憶されている標準ホルムアルデヒド検量線によりホルムアルデヒド濃度を算出するようになっている。
さらに、演算手段13は、液体クロマト測定装置によって塗装乾燥炉排ガス中のホルムアルデヒド、その他の揮発性有機化合物の各構成成分及び構成比率の測定データが得られた場合には、予め記憶手段15に記憶されているこれら揮発性有機化合物の標準物質の吸収スペクトルの測定データに基づき揮発性有機化合物の各構成成分及び構成比率から赤外吸収スペクトルの合成を行うようになっている。合成した赤外吸収スペクトルを合成補正ホルムアルデヒド吸収スペクトルピーク値とし、上記の式1によりホルムアルデヒド濃度を算出した後、予め記憶されているホルムアルデヒド濃度演算式の下記の式2に基づき、補正ホルムアルデヒド濃度(Yc)を算出するようになっている。
Yc=Y×(Hs/Ha) …(2)
【0043】
このとき、Ycは補正ホルムアルデヒド濃度(ppm)、Yは数式1で算出されたホルムアルデヒド濃度(ppm)、Hsは標準ホルムアルデヒドの吸収スペクトルピーク値(吸光度)、Haは合成補正ホルムアルデヒド吸収スペクトルピーク値(吸光度)である。標準ホルムアルデヒドの吸収スペクトルピーク値及び合成補正ホルムアルデヒド吸収スペクトルピーク値は、標準ホルムアルデヒド及び塗装乾燥炉排ガス1ppmあたりの吸光度であり、波長領域はともに2765cm-1が好ましい。
【0044】
また、演算手段13は、分光測定装置による2765cm-1の吸収スペクトルピーク値と高速液体クロマト測定装置によるホルムアルデヒドの濃度との測定データが3つ以上得られた場合には、これらの測定データに基づき最小二乗法によって式3の傾きa及び切片bを求める。求められた数式の相関係数0.9以上の場合には、新たに傾きa及び切片bが求められたホルムアルデヒド濃度演算式に基づいて分光測定装置によって得られた吸収スペクトルピーク値からホルムアルデヒド濃度を算出するようになっている。このとき、入力手段10によって特定の波長領域を選択することができる。
Y=aX×(1/L)+b …(3)
【0045】
このとき、式3は、ランバート・ベールの法則による試料濃度と吸光度との関係であって、Yはホルムアルデヒド濃度(ppm)、Xは塗装乾燥炉排ガスの特定の波長領域の吸収スペクトルの吸収スペクトルピーク値(吸光度)、a、bは、このときの吸収スペクトルピーク値と高速液体クロマト測定装置によるホルムアルデヒドの濃度との関係から最小二乗法によって求められる傾き、切片、Lは(測定に用いた光路長(m)/10m)で、光路長10mのとき(1/L)=1である。
【0046】
また、入力手段10により吸収スペクトルピーク値を選択するとともに、選択した吸収スペクトルピーク値に隣接する谷の波長領域を選択することによって、演算手段13は、予め記憶されている下記の式4に基づき差補正ホルムアルデヒド吸収スペクトルピーク値を算出し、算出した差補正ホルムアルデヒド吸収スペクトルピーク値と高速液体クロマト測定装置によるホルムアルデヒドの濃度とにより最小二乗法によって上記の式3の傾きa及び切片bを求め、求められたホルムアルデヒド濃度演算式に基づきホルムアルデヒド濃度を算出するようになっている。
Hp=(Xo−Vn) …(4)
このとき、Hpは差補正ホルムアルデヒド吸収スペクトルピーク値(吸光度)、Xoは選択した吸収スペクトルピーク値(吸光度)、Vnは選択した隣接する谷の波長領域におけるベースラインからの高さ(吸光度)である。
【0047】
処理手段14は、揮発性有機化合物処理装置4で処理する前のホルムアルデヒド濃度に対応して、ホルムアルデヒド濃度の設定範囲以下、設定範囲内、設定範囲以上最大処理能力、最大処理能力以上の場合によって換気装置3及び揮発性有機化合物処理装置4の作動を制御するようになっている。
【0048】
処理手段14は、ホルムアルデヒド濃度が設定範囲以下の場合には、揮発性有機化合物処理装置4の稼動率を抑えるまたは部分的に休止させるようになっている。
処理手段14は、ホルムアルデヒド濃度が設定範囲以内の場合には、揮発性有機化合物処理装置4の稼働率を通常稼動させ、ホルムアルデヒド濃度が設定範囲以上であって最大処理能力以下の場合には、揮発性有機化合物処理装置4の稼働率を上げるまたは予備として備えられている揮発性有機化合物処理装置4の一部を作動させるようになっている。
処理手段14は、ホルムアルデヒド濃度が最大処理能力以上の場合には、揮発性有機化合物処理装置4の処理能力を超えるため、換気装置3を止め、外部に塗装乾燥炉排ガスが排気されないようになっている。
【0049】
このときの、設定範囲は、揮発性有機化合物処理装置の処理能力により決定されるが、塗装乾燥炉排ガス中の急激なホルムアルデヒド濃度の上昇が分光測定装置で認められるときに対応することができるようにするため、設定範囲の最大値は揮発性有機化合物処理装置のホルムアルデヒド最大処理能力の70%から90%までが好ましい。
【0050】
また、処理手段14は、揮発性有機化合物処理装置4の処理した後のホルムアルデヒド濃度に対応して、ホルムアルデヒド濃度の一定値付近以下、一定値付近から一定値範囲以下、一定値以上によって換気装置3及び揮発性有機化合物処理装置4の作動を制御するようになっている。
【0051】
処理手段14は、ホルムアルデヒド濃度が一定値付近以下の場合には、換気装置3を作動し、外部に安全性の高い塗装乾燥炉排ガスを排気するようになっている。
処理手段14は、ホルムアルデヒド濃度が一定値付近から一定値範囲以下の場合には、揮発性有機化合物処理装置4の稼働率を上げるとともに揮発性有機化合物処理装置4の処理能力が低下していることをモニタなどの出力手段11にて知らせるようになっている。
処理手段14は、ホルムアルデヒド濃度が一定値以上の場合には、換気装置3を停止し、外部に塗装乾燥炉排ガスを排気しないようになっている。
【0052】
このとき、一定値は、例えば、1ppm、0.5ppm、0.1ppmなどと入力手段10によりユーザの任意によって決めることができ、または、予め記憶手段15に記憶されていてもよい。また、一定値付近も、入力手段10によりユーザの任意によって決めることができるが、揮発性有機化合物処理装置4の処理能力低下などによる一定値を超えるホルムアルデヒドの外部への排気を防ぐため、一定値に0.8から0.9をかけた数値が好ましい。
【0053】
この制御装置5におけるホルムアルデヒド濃度の測定及びホルムアルデヒドの処理は、記憶手段15のメモリに記憶された演算処理プログラム、演算プログラム及び処理プログラムにより実行されるものであってもよいし、ハートウエアにより実行されるものであってもよい。
記憶手段15は演算処理手段12、演算手段13及び処理手段14により実行される各種プログラムを記憶するとともに、これらプログラム実行時に必要な各種データを記憶する。
【0054】
次に、本実施形態の作用について説明する。
塗装乾燥炉2で、被塗装体を乾燥し、換気装置3によってホルムアルデヒドを含む揮発性有機化合物の塗装乾燥炉排ガスを排気配管7に排気する。排気した塗装乾燥炉排ガスは、揮発性有機化合物処理装置4によって処理される前に、排ガス配管7の揮発性有機化合物処理装置4に対する上流の測定配管8に流入して揮発性有機化合物測定装置5によってホルムアルデヒドを測定される。この測定データは制御装置5における演算処理手段12の演算手段13に送られて、演算手段13は記憶手段15に記憶されているプログラムに基づいてホルムアルデヒドの濃度を算出する。このとき、予め記憶手段15に記憶されている式2に基づきホルムアルデヒド濃度を算出する。
【0055】
ここで、ホルムアルデヒド濃度測定方法について説明する。
揮発性有機化合物測定装置5の分光測定装置は、揮発性有機化合物が測定配管8に接続するセルを通ることによって、2660cm-1から2840cm-1の波長領域にある吸収スペクトルを測定する。
制御装置6の演算処理手段12における演算手段13は、測定した吸収スペクトルのうち、2765cm-1の吸収スペクトルピーク値を算出し、上記の式1により揮発性有機化合物処理装置の処理前及び処理後ホルムアルデヒド濃度を算出する。
【0056】
また、入力手段10によって特定の波長領域2833cm-1、2821cm-1、2801cm-1、2779cm-1、2748cm-1、2710cm-1、2702cm-1、2684cm-1、2675cm-1、2667cm-1及び2651cm-1のいずれか一つを選択する場合には、演算手段13は上記の式1のfの変更によりホルムアルデヒド濃度を算出する。また、光路長が10mでないの場合には、入力手段10によって上記の式1のLを入力し、演算手段13は上記の式1のLの変更によりホルムアルデヒド濃度を算出する。
【0057】
また、入力手段10によって液体クロマト測定装置による合成補正吸収スペクトルピーク値を基準とするように入力した場合には、演算手段13は、合成補正吸収スペクトルピーク値を算出し、上記の式1及び式2に基づき補正ホルムアルデヒド濃度(Yc)を算出する。
【0058】
また、分光測定装置による2765cm-1の吸収スペクトルピーク値と高速液体クロマト測定装置によるホルムアルデヒドの濃度との測定データが3つ以上の場合には、演算手段13は、これらの測定データに基づき最小二乗法によって上記の式3の傾きa及び切片bを求め、ホルムアルデヒド濃度演算式を求める。求められたホルムアルデヒド濃度演算式の相関係数0.9以上の場合には、上記の式1に代えて新たに求められたホルムアルデヒド濃度演算式に基づき、分光測定装置によって得られた吸収スペクトルピーク値からホルムアルデヒド濃度を算出する。このとき、入力手段10によって特定の波長領域を選択することができる。
【0059】
また、入力手段10によって特定の波長領域の谷の波長領域を入力した場合には、上記の式4に基づき差補正吸収スペクトルピーク値を算出し、差補正吸収スペクトルピーク値によって上記の式2及び式3に基づきホルムアルデヒド濃度を算出する。
【0060】
演算手段13で算出したホルムアルデヒド濃度のデータは制御装置5における演算処理手段12の処理手段14に送られて、処理手段14は記憶手段15に記憶されているプログラムに基づいて揮発性有機化合物処理装置4におけるホルムアルデヒド処理能力の稼働率を判断し、揮発性有機化合物処理装置4を稼動させる。ホルムアルデヒド濃度が設定範囲以下の場合は、そのまま稼動し、設定範囲以上最大処理能力以下の場合は、稼働率を上げるかさらに不足する場合は予備部分を稼動する。最大処理能力以上の場合は、換気装置2を停止させて外部への塗装乾燥炉排ガスの排気を停止する。
揮発性有機化合物処理装置4によってホルムアルデヒドを水、二酸化炭素などに分解して排気配管7に排気する。
【0061】
さらに排気した塗装乾燥炉排ガスは、排ガス配管7の揮発性有機化合物処理装置4に対する下流の測定配管8に流入して揮発性有機化合物測定装置5によってホルムアルデヒドの濃度を測定される。測定データは制御装置5に送られて上記と同様に演算手段13によってホルムアルデヒドの濃度を算出し、ホルムアルデヒド濃度のデータは制御装置5における演算処理手段12の処理手段14に送られて、処理手段14は記憶手段15のプラグラムに基づいて換気装置3を制御する。
算出したホルムアルデヒド濃度が一定値付近以下の場合は、そのまま排気し、一定値付近から一定値以下の場合は、揮発性有機化合物処理装置4の稼働率を上げるとともに揮発性有機化合物処理装置4の処理能力が低下していることをモニタなどの出力手段にて知らせる。ホルムアルデヒド濃度が一定値以上の場合は、外部にホルムアルデヒドが排気されないように換気装置3の稼動を停止する。
【0062】
以上のことより、分光測定装置によって2660cm-1から2840cm-1までの全体或いは一部の波長領域を測定し、制御装置の演算手段によって測定した特定の波長領域の吸収スペクトルピーク値及びホルムアルデヒド濃度演算式に基づき前記揮発性有機化合物中に含まれる前記ホルムアルデヒド濃度を算出することができるので、ホルムアルデヒド以外の他の揮発性有機化合物の影響を少なくして、正確なホルムアルデヒドの濃度を連続的に測定することができる。
従って、このホルムアルデヒド濃度測定法を用いるホルムアルデヒド処理装置は、塗装乾燥炉から生じる乾燥炉排ガス中のホルムアルデヒドを揮発性有機化合物測定装置で連続的に測定データを得、制御装置によって、測定データの特定の波長領域の吸収スペクトルピーク値及び及びホルムアルデヒド濃度演算式に基づき正確なホルムアルデヒド濃度を算出することができる。さらに、制御装置によって、算出されたホルムアルデヒド濃度によって塗装乾燥炉、換気装置及び揮発性有機化合物処理装置の装置全体を効率よく稼動するように制御し、ホルムアルデヒドの安全性の高い一定値付近以下の塗装乾燥炉排ガスを外部に排気することができる。
【0063】
なお、揮発性有機化合物処理装置は、ホルムアルデヒドのみならず、揮発性有機化合物を無害な物質に水や二酸化炭素などに分解することもできる。また、揮発性有機化合物処理装置は、揮発性有機化合物のホルムアルデヒドを一定値以下に処理することができれば電子線照射処理装置装置に代えて光触媒処理装置、活性炭フィルタ処理装置、微生物処理装置のいずれかであってもよく、電子線照射処理装置装置、光触媒処理装置、活性炭フィルタ処理装置、微生物処理装置の複数以上の併設でもよい。
【0064】
光触媒処理装置には、紫外線などの光照射装置と、通過するホルムアルデヒドをこの紫外線などを照射することによって水、二酸化炭素などに分解することのできる二酸化チタン膜などを表面に被膜した光触媒担持体とが備えられている。また、活性炭フィルタ処理装置には、ホルムアルデヒドを多孔質の内部に吸着させるための活性炭フィルタが多層状に備えられている。微生物処理装置には、ホルムアルデヒドを水、二酸化炭素などに分解する酵素を生産する微生物を固定した固定支持体が備えられている。
【0065】
また、液体クロマト測定装置に代えて、ガスクロマト測定装置でもよい。ガスクロマト測定装置には、各揮発性有機化合物の同定及び定量のできるカラムと、カラム温度制御と、FID検出器などのガスクロマト検出器と、パックドまたはキャピラリカラムと、移動相であるガスを貯蔵するボンベとが備えられている。ガスクロマト測定装置には、測定配管8から自動的に排ガスを取り込み、一定時間ごとに自動測定することのできる自動サンプル採取装置が備えられていることが好ましい。ガスクロマト測定装置の測定間隔は、分光測定装置におけるホルムアルデヒド濃度が上昇するとき、または、1時間間隔の一定時間ごとであることが好ましい。ホルムアルデヒド濃度を測定するカラム及び検出器は、ホルムアルデヒドの同定及び定量のできる市販のものであればよい。
【0066】
また、換気装置3は、塗装乾燥炉2に生ずる揮発性有機化合物の塗装乾燥炉排ガスを外部に排気することができるのであれば、排ガス配管7のいずれの場所に設置してもよく、またホルムアルデヒド処理装置1に複数設置してもよい。
【実施例】
【0067】
〈実施例1〉
実施例1の試料は、塗装乾燥炉中の塗装乾燥炉排ガスを採取し、吸収スペクトル測定装置であるFT−IRガス分析計(株式会社堀場製作所製、製品名FT−730G)を用いて測定を行った。このとき、用いた光路長は10mであった。
下記に示す標準ホルムアルデヒドの吸収スペクトルの特徴的なピークである2833cm-1、2821cm-1、2801cm-1、2779cm-1、2765cm-1、2748cm-1、2710cm-1、2702cm-1、2684cm-1、2675cm-1、2667cm-1及び2651cm-1が、3つ以上の揮発性有機化合物が含まれている塗装乾燥炉排ガスの試料である実施例1の吸収スペクトルのピークでも明確に認められ、これらの波長領域の吸光度である吸収ピーク値によってホルムアルデヒドの濃度を求めることが考えられた。
【0068】
〈実施例2から実施例11〉
実施例2から実施例11の試料は、塗装乾燥炉中の塗装乾燥炉排ガスを異なった時間で11検体採取したものである。
実施例2から実施例11までについて、上記のFT−IRガス分析計を用いて吸収スペクトルの測定を行った。さらにホルムアルデヒドと反応する試薬を含有した担体に通して吸着させた後アセトニトリルで抽出し、抽出物中のホルムアルデヒドについて液体クロマト測定装置である高速液体クロマトグラフィー(株式会社日立作所製、製品名:L−7000HPLCシステム)を用いてホルムアルデヒド濃度の測定を行った。
【0069】
図4に示すように、吸収スペクトルピーク値は、ベースラインからの高さにより求めた。
表1に、2765cm-1における吸収スペクトルピーク値(吸光度)と高速液体クロマトグラフィ−によるホルムアルデヒド濃度(ppm)との関係を示した。
【表1】

【0070】
表1より最小二乗法によって上記の式3に基づき、下記の式5を求め、このときの相関係数はr2=0.94であり、良好な正の相関関係が得られたことが認められた。下記の式5に基づき、2765cm-1における吸収スペクトルピーク値、光路長10mを基準として、上記の式1を求めた。
Y=393.45X−4.3244 …(5)
【0071】
また、図5に示すように、吸収スペクトルピーク値は、ベースラインが安定していないときには、(吸収スペクトルピーク値−特定波長領域の隣接する谷の高さ)である上記の式4によっても良好な相関関係を求めることができた。
【0072】
ここで、塗装乾燥炉排ガス中に含まれる含有率の高い揮発性有機化合物であるエチルベンゼン、1−ブタノール、3−エチルトルエン、メタキシレン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン及びホルムアルデヒドについてそれぞれの吸収スペクトル測定を行った。図6から図12にそれぞれの吸収スペクトルの結果を示し、図13に示すように、これらの吸収スペクトルを重ねた。
【0073】
ホルムアルデヒドは、2660cm-1から2840cm-1の範囲においては、環式化合物及び鎖式化合物であるエチルベンゼン、1−ブタノール、3−エチルトルエン、メタキシレン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼンの吸収スペクトルとの重なりは少なく、これら環式化合物及び鎖式化合物の吸収スペクトルの影響を受けにくいことが認められた。特に、吸収スペクトルピーク値が求めやすいピークは、2833cm-1、2821cm-1、2801cm-1、2779cm-1、2765cm-1、2748cm-1、2710cm-1、2702cm-1、2684cm-1、2675cm-1、2667cm-1及び2651cm-1であることが認められた。上記の式1におけるそれぞれのfは、0.6875、0.6875、0.6346、0.9041、1、1、3.6667、3.8823、4.7143、7.3333、6.6及び9.4286であった。
従って、2660cm-1から2840cm-1であって特定の吸収スペクトルピーク値であるが認められるときには、上述のようにいずれか一つの特定の吸収スペクトルピーク値からホルムアルデヒド濃度を精度よく測定を行うことができると考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係るホルムアルデヒド処理装置の概念図である。
【図2】本発明に係る制御装置の概念図である。
【図3】塗装乾燥炉排ガス中の揮発性有機化合物における赤外吸収スペクトルの図である。
【図4】塗装乾燥炉排ガス中の揮発性有機化合物における赤外吸収スペクトルの図である。
【図5】塗装乾燥炉排ガス中の揮発性有機化合物における赤外吸収スペクトルの図である。
【図6】ホルムアルデヒドの赤外吸収スペクトルの図である。
【図7】エチルベンゼンの赤外吸収スペクトルの図である。
【図8】1,2,4−トリメチルベンゼンの赤外吸収スペクトルの図である。
【図9】1−ブタノールの赤外吸収スペクトルの図である。
【図10】3−エチルトルエンの赤外吸収スペクトルの図である。
【図11】メタキシレンの赤外吸収スペクトルの図である。
【図12】1,2,3−トリメチルベンゼンの赤外吸収スペクトルの図である。
【図13】1,2,4−トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、1−ブタノール、3−エチルトルエン、メタキシレン、1,2,3−トリメチルベンゼン及びホルムアルデヒドの赤外吸収スペクトルの重ね合わせた図である。
【符号の説明】
【0075】
4 揮発性有機化合物処理装置
5 揮発性有機化合物測定装置
6 制御装置
12 演算処理手段
13 演算手段
14 処理手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物中のホルムアルデヒドを水及び二酸化炭素に分解する揮発性有機化合物処理装置と、
前記揮発性有機化合物処理装置の処理前または処理後の前記揮発性有機化合物における2660cm-1から2840cm-1までの全体或いは一部の波長領域の吸収スペクトルを測定する単数または複数の分光測定装置を備える揮発性有機化合物測定装置と、
揮発性有機化合物を排気する換気装置と、
前記揮発性有機化合物処理装置、前記揮発性有機化合物測定装置及び前記換気装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記分光測定装置により測定した吸収スペクトルピーク値及びホルムアルデヒド濃度演算式に基づき前記ホルムアルデヒドの濃度を算出する演算手段と、算出した前記ホルムアルデヒドの濃度に対応して前記揮発性有機化合物処理装置及び前記換気装置を作動し、前記ホルムアルデヒドを水及び二酸化炭素に分解して一定値以下のホルムアルデヒドを排気するように制御する処理手段とを備えることを特徴とするホルムアルデヒド処理装置。
【請求項2】
前記揮発性有機化合物測定装置は、前記分光測定装置の他に、少なくとも、単数または複数のガスクロマト測定装置、または、単数または複数の液体クロマト測定装置を備えることを特徴とする請求項1に記載のホルムアルデヒド処理装置。
【請求項3】
前記揮発性有機化合物処理装置は、電子線照射処理装置、活性炭処理装置、光触媒処理装置または微生物酵素触媒処理装置の少なくともいずれか一つを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のホルムアルデヒド処理装置。
【請求項4】
前記揮発性有機化合物を2660cm-1から2840cm-1までの全体或いは一部の波長領域の前記揮発性有機化合物の吸収スペクトルを測定し、前記吸収スペクトルピーク値及び前記ホルムアルデヒド濃度演算式に基づき、前記揮発性有機化合物中の前記ホルムアルデヒド濃度を算出するホルムアルデヒド濃度測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2006−10500(P2006−10500A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187894(P2004−187894)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】