説明

ホルムアルデヒド捕捉剤

【課題】木質材料の製造の際に使用されるホルムアルデヒド系接着剤に起因するホルムアルデヒドの放散を長期間抑制すると共に、木質材料の変色を防止し、且つ、木質材料の製造設備の金属製部材への腐食を防止するホルムアルデヒド捕捉剤を提供する。
【解決手段】亜硫酸塩1〜15重量部、硼酸0.1〜4重量部および防錆剤0.05〜2重量部を主成分とするホルムアルデヒド捕捉剤、および、亜硫酸塩1〜15重量部、硼酸0.1〜4重量部および防錆剤0.05〜2重量部を主成分とし、水溶液として使用するホルムアルデヒド捕捉剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホルムアルデヒド捕捉剤組成物に関し、特に、木質材料の製造の際に使用されるホルムアルデヒド系接着剤に起因するホルムアルデヒドの放散を防止するホルムアルデヒド捕捉剤であって、木質材料の変色防止効果および防錆効果に優れたホルムアルデヒド捕捉剤に関する。
【背景技術】
【0002】
木質材料の製造には、ホルムアルデヒド系接着剤などが使用されることがある。このような場合、木質材料からホルムアルデヒド系接着剤に起因して有したホルムアルデヒドが放散されて、環境や健康に害を与え、化学物質に過敏に反応するシックハウス症候群として社会問題となっている。従って、木質材料からのホルムアルデヒドの放散を抑制するためのホルムアルデヒド捕捉剤が提案されており、その具体例として、亜硫酸塩と尿素と無機性リン酸塩または有機酸塩とから成るホルムアルデヒド捕捉剤が知られている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、上述のホルムアルデヒド捕捉剤は、遊離したホルムアルデヒドを捕集するものの、木質材料としては、例えば、南洋材や針葉樹の一部材種を原料とした合板を処理した場合、処理された合板が経時的に赤系色、例えば、桃色や淡赤紫色に変色する問題がある。また、上述のホルムアルデヒド捕捉剤は、鉄などに対する防錆効果が小さいため、ホルムアルデヒド捕捉剤を塗付または散布する工程において、ホルムアルデヒド捕捉剤の散布装置、製品を移動させるコンベア−部分の金属製部材などがホルムアルデヒド捕捉剤によって腐食され、その結果、合板が着色(例えば、黒色など)汚染される問題がある。
【0004】
一方、木質材料の変色の防止、例えば、桐材の家具や桐突板合板の変色を防止するために、硼酸及び/又は硼酸塩を含有する水溶液の使用が知られている。(特許文献2)。しかしながら、硼酸及び/又は硼酸塩を含有する水溶液の使用は、桐材に対しては高い変色防止効果を示すが、桐材以外の木材の変色防止に有用であるとは言えない問題がある。
【特許文献1】特開2002−331504号公報
【特許文献2】特公平5−39161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の実状に鑑みなされたものであり、その目的は、木質材料の製造の際に使用されるホルムアルデヒド系接着剤に起因するホルムアルデヒドの放散を長期間抑制すると共に、木質材料の変色を防止し、且つ、木質材料の製造設備の金属製部材への腐食を防止するホルムアルデヒド捕捉剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、種々検討を重ねた結果、次のような知見を得た。すなわち、亜硫酸塩、硼酸および防錆剤を特定の割合で使用したホルムアルデヒド捕捉剤は、ホルムアルデヒド系接着剤に起因するホルムアルデヒドの放散を長期間抑制することに加えて、木質材料に対する優れた変色防止効果および製造設備の金属製部材の腐食防止効果を発揮する。
【0007】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は、亜硫酸塩1〜15重量部、硼酸0.1〜4重量部および防錆剤0.05〜2重量部を主成分とすることを特徴とするホルムアルデヒド捕捉剤に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、木質材料から発生するホルムアルデヒドを長期間抑制するのみならず、木質材料の変色、製造設備の金属製部材の腐食およびそれに起因する木質材料の着色汚染を防止することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、亜硫酸塩、硼酸および防錆剤を主成分とし、水溶液として使用する。
【0010】
亜硫酸塩としては、限定されるものではないが、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸アンモニウム等が挙げられる。特に、ホルムアルデヒド捕捉効果およびコストを考慮すると、亜硫酸ナトリウムが好ましい。
【0011】
亜硫酸塩の量は、1〜15重量部、好ましくは3〜10重量部である。亜硫酸塩の量が1重量部未満の場合は、ホルムアルデヒド発生を抑制する効果が十分に得られない。また、亜硫酸塩の量が15重量部を超える場合は、水への溶解性が低下すると共に、ホルムアルデヒド発生を抑制する効果が飽和するため、これを超えて添加する意味がない。
【0012】
硼酸の量は、0.1〜4重量部、好ましくは0.5〜3重量部である。硼酸の量が0.1重量部未満の場合は、ホルムアルデヒド捕捉剤の水溶液のpHが高くなり、高アルカリによる合板の汚染があり、二次接着を行なう際の接着性能が低下することがある。また、硼酸の量が4重量部を超える場合は、水への溶解性が低下する。
【0013】
防錆剤としては、特に限定されるものではないが、2個以上の窒素原子を環内に含有する5員以上の複素環からなる環状ケトンまたは有機リン酸エステル塩が好適である。具体的に、2個以上の窒素原子を環内に含有する5員以上の複素環からなる環状ケトンとしては、エチレン尿素、エチレンチオ尿素、ヒダントイン、ヘキサヒドロピリミジン−2−オン、ピペラジン−3,6−ジオン、マロニル尿素などの化合物が挙げられ、これらの中でもエチレン尿素が特に好ましい。
【0014】
有機リン酸エステル塩としては、下記式(1)で表される酸性リン酸エステルが挙げられる。
【0015】
【化1】

【0016】
式(1)中、Rは直鎖または分岐のアルキル基を表し、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基などが挙げられる。なお、炭素数が大きくなるにつれて、水への溶解性は低下する。
【0017】
上記式(1)の酸性リン酸エステルの具体例としては、メチルアシッドホスフェイト、エチルアシッドホスフェイト、プロピルアシッドホスフェイト、イソプロピルアシッドホスフェイト、ブチルアシッドホスフェイト等のモノエステル、ジエステル等が挙げられる。
【0018】
リン酸エステル塩の塩の種類としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩およびトリエチルアミンやトリエタノールアミン等のアミン塩が挙げられる。
【0019】
また、他に、一般的に知られている還元剤、腐食防止剤や金属封鎖剤などを使用することが出来る。
【0020】
2個以上の窒素原子を環内に含有する5員以上の複素環からなる環状ケトンと有機リン酸エステル塩は、単独または混合して使用することが出来る。
【0021】
防錆剤の量は、0.05〜2重量部、好ましくは0.1〜1重量部である。防錆剤の量が0.05重量部未満の場合は、製造設備の金属製部材の腐食を防止する効果が十分でない。また、防錆剤の量が2重量部を超える場合は、金属製部材の腐食を防止する効果が飽和するため、これを超えて添加する意味がない。
【0022】
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、尿素およびホルムアルデヒド類捕捉能を有する化合物の1種または2種以上を含有することが出来る。ホルムアルデヒド類捕捉能を有する化合物としては、エチレン尿素、チオ尿素、メラミン、ジシアンジアミド等の分子内にアミノ基、アミド基、イミノ基を有する化合物、アジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジド化合物、アジン化合物、アゾール化合物、天然蛋白質などが挙げられる。特に、尿素は、ホルムアルデヒドの捕捉能力が高いため好適である。尿素の量は、亜硫酸塩の1重量部に対して通常0.2〜4重量部、好ましくは0.5〜2重量部である。
【0023】
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、水に混合溶解した水溶液として使用する。水溶液中のホルムアルデヒド捕捉剤の濃度(亜硫酸塩、硼酸および防錆剤の合計濃度)は、通常1.15〜21重量%、好ましくは3.6〜14重量%である。使用の際の水溶液のpHは、通常9以下、好ましくは7〜9である。pHが9を超える場合は、高アルカリによる合板の汚染が発生すると共に、二次接着を行なう場合の接着性能の低下が生ずる。
【0024】
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤の水溶液を木質材料へ塗布する又は含浸させる方法としては、公知の塗布または含浸方法が適用される。特にスプレー塗布が好適に適用される。塗布または含浸処理は、木質材料の片面または両面に施行される。特に、両面塗布した場合には、ホルムアルデヒド捕捉効果が大きいため好ましい。木質材料への塗布量(ホルムアルデヒド捕捉剤の固形分として)は、特に制限されないが、木質材料の片面あたり通常5g〜100g/m程度、好ましくは10g〜50g/m程度である。なお、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、ホルムアルデヒドを原料とした接着剤に配合していもよい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例1〜5、比較例1〜7
ホルムアルデヒド系樹脂接着剤で製造した合板をブランク(未処理合板)とした。表1に示す成分(単位:重量部)を有する実施例および比較例のホルムアルデヒド捕捉剤を調整した。得られたホルムアルデヒド捕捉剤に水を加えて100重量部の水溶液を調整した。噴霧器を使用して、上述のブランクと同様に製造した合板の両面に得られた水溶液を22.2g/mの割合で均一にスプレーした。処理された合板を室温にて乾燥し、ビニール袋で密封し24時間放置した。放置後、各合板からから(15cm×5cm)の長方形状の試験を10片ずつ切り取った。
【0027】
なお、表1に示す成分から形成された実施例および比較例のホルムアルデヒド捕捉剤の水溶液のpH値を表2に示す。
【0028】
合板からのホルムアルデヒド放散量は、JIS A 1460に記載されている方法に準じて測定した。ホルムアルデヒド濃度(mg/l)(=試験片の合板から放散されるホルムアルデヒド濃度)を表2に示す。
【0029】
合板の変色試験を以下の通り行なった。ホルムアルデヒド系樹脂接着剤を使用して南洋材(ラワン材)、および針葉樹(ラジアタ材)の合板を製造した。次いで、噴霧器を使用して、得られた合板の両面に上述の水溶液を22.2g/mの割合で均一にスプレーした。得られた合板を室温にて乾燥し、その変色状態を観察した。結果を表2に示す。
【0030】
腐食試験を以下の通り行った。表1に示す実施例および比較例のホルムアルデヒド捕捉剤をサンプル瓶(50ml)に導入し、市販の鉄釘を捕捉剤水溶液中に全面浸漬し、35℃一定温度で放置し、30分ごとに目視にて鉄釘への錆の発生の有無を観察した。また一晩放置後の水溶液の状態を観察した。結果を表2に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
以上の結果から、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、何れもホルムアルデヒド放散量は0.2mg/L以下であり、合板変色が無かった。さらに、腐食試験5時間経過しても錆の発生はなく、一晩放置後の錆の剥離、水溶液の着色もなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硫酸塩1〜15重量部、硼酸0.1〜4重量部および防錆剤0.05〜2重量部を主成分とすることを特徴とするホルムアルデヒド捕捉剤。
【請求項2】
亜硫酸塩1重量部に対して0.2〜4重量部の尿素を含有する請求項1に記載のホルムアルデヒド捕捉剤。
【請求項3】
防錆剤が、2個以上の窒素原子を環内に含有する5員以上の複素環からなる環状ケトンまたは有機リン酸エステル塩から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載のホルムアルデヒド捕捉剤。
【請求項4】
2個以上の窒素原子を環内に含有する5員環以上の複素環からなる環状ケトンがエチレン尿素である請求項1又は2に記載のホルムアルデヒド捕捉剤。
【請求項5】
水溶液として使用する請求項1又は2に記載のホルムアルデヒド捕捉剤。
【請求項6】
水溶液のpHが7〜9である請求項5に記載のホルムアルデヒド捕捉剤。