説明

ホログラフィック光学素子とその作製方法、それを用いた多重シーン撮像用光学素子および視線検出入力装置

【課題】 高精度結合機能を有するホログラフィック光学素子と、その作製方法、およびそれを用いた簡単な構成の多重シーン撮像用光学素子を提供する。また、それを含めて構成され、視線がとらえている対象をより直接に検知できるうえ実空間における視線の方向をも知ることができる視線検出入力装置を提供する。
【解決手段】 結像機能を有するホログラフィック光学素子の射出光の結像位置を算出して、その値を用いてホログラフィック光学素子の作製時の収束光の位置を観測面よりずらして用い、結像機能を有するホログラフィック光学素子を作製する。多重シーン撮像用光学素子 1 は、異なる方向にある複数のシーン( m 、 e など)を同時に一つの撮像面 s に導くためのもので、複数のシーンのそれぞれの光を上記一つの撮像面 s 上に結像させるようにした単一のホログラフィック光学素子から構成し、ホログラフィック光学素子がフォトポリマーを主成分としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、高精度結像機能を有するホログラフィック光学素子とその作製方法およびホログラフィック光学素子を用いて異なる方向にある複数のシーン(光景)を同時にーつの撮像面に導くことができる多重シーン撮像用光学素子、およびそれを用いて構成される視線検出入力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィック光学素子とは、ホログラフィ技術により素子に入射する波面を所望の方向へ射出する波面へ変換する機能を有する素子である。ホログラフィック光学素子に結像機能を設計するためには、ホログラフィック光学素子の屈折率分布を入力面にある光源からの発散光と観測面のある位置に収束する光の干渉縞により求めればよい。このように作製されたホログラフィック光学素子に対して、干渉縞を求めたときと同様に入力面に光源からの光が入射すると、その光は収束光となり、この素子は結像素子として機能する。
【0003】
ここでいう、入力面とはホログラフィック光学素子により結像させようとする対象が存在する面であり、観測面とはその対象の像を観測する面である。
【0004】
以下、従来のホログラフィック光学素子の結像特性評価法について説明する。従来の結像機能を有するホログラフィック光学素子は、入力面にある光源の光がホログラフィック光学素子まで伝搬する光、つまりホログラフィック光学素子への入射光を求め、そして、素子から射出する光を求め、その光が観測面まで伝搬した光を求める。そして、観測面内における光強度分布を解析することにより設計、評価されている。つまり、観測面内における像の評価しか行われていない。
【0005】
また、前方にある二つの光景の光を観察者の眼へ同時に導くための光学系については、下記の特許文献1に記載がある。同文献1に示されたものは、たとえば図8のように構成されている。すなわち、隣接する二箇所にレンズ部分 51a ・ 51b をもつレンズ 51 と、それらを通った光を反射等して経路変更させるホログラフィックプレート(ガラス板) 52 とが、互いに接近した位置に配置されている。ホログラフィックプレート 52 には、入力ホログラフィック光学素子 53 と出力ホログラフィック光学素子 54 とが取り付けられている。
【0006】
光景 A からの入射光は、レンズ部分 51a から入力ホログラフィック光学素子 53 を経てホログラフィックプレート 52 に入り、反射を繰り返して出力ホログラフィック光学素子 54 から観察者の眼 55 に達する。一方、光景 B からの入射光は、レンズ部分 51b からホログラフィックプレート 52 内にほぼ直角に入り、そのまま同じ観察者の眼 55 に至る。こうして、光景 A および B の双方の光が観察者の眼 55 に届くわけである。
【特許文献1】特表2001−514764号公報
【0007】
また、眼の像を撮影することにより、視線の方向を把握して視線がとらえている対象を計測する眼鏡型の視線検出装置については、図9に示す構成のものが下記の特許文献2に記載されている。その視線検出装置は、透明板 64 ・ 65 を有するメガネフレーム 61 上に、照明ユニット 62 と撮像ユニット 63 、および映像の表示ユニット 66 が取り付けられたものである。
図9の装置では、照明ユニット 62 によって使用者の眼 e に照明を当てながら、撮像ユニット 63(およびそれに接続されたコントロールユニット(図示省略))によってその使用者の視線の方向を判定する。表示ユニット 66 は、ホログラム光学素子(ディスプレイ) 67 により、いくつかの選択肢を含む映像を使用者に表示している。そのため、この視線検出装置(のコントロールユニット)は、上記のように判定する視線の方向から、ディスプレイの映像中のどの選択肢を使用者が見ているかを把握し、その信号を各種機器の制御に利用する。
【特許文献2】特開2003−230539号公報
【0008】
なお、後述するKogelnikの結合波理論、フレネル回折積分については、以下のような文献がある。
【非特許文献1】Herwig Kogelnik; "Coupled Wave Theory for Thick Hologram Gratings," The Bell System Technical Journal, 48, No.9, 2909-2947 (1969)
【非特許文献2】辻内順平、”ホログラフィー” pp.56-79,裳華房(1997)
【非特許文献3】J. Goodman: Introduction to Fourier Optics, McGraw-Hill (1968) 45.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上に述べたように、従来の結像機能を有するホログラフィック光学素子は観測面内における光でのみ設計、評価されており、観測面以外の空間を伝搬する光については解析されていない。すなわち、入力面にある点光源からの光がホログラフィック光学素子により観測面内に集光すると見なして解析されており、実際に空間のどこに集光されているかについては考慮されていない。
【0010】
本発明は、従来、評価されていなかった結像機能を有するホログラフィック光学素子の射出光が伝搬する空間における最大強度を求め、その値を用いて結像機能を有するホログラフィック光学素子を作製し、高精度なホログラフィック光学素子を実現することを目的とするものである。
【0011】
また、特許文献1に記載された光学系は、二つの光景からの光を同時にーつの撮像面に導くことができるものだが、レンズとホログラフィックプレートとを組み合わせるなど構成が複雑であるため、大きくて重いものになってしまう。そのため、メガネフレーム等に組み込んでメガネと同様に使用することは実際にはかなり難しいと予想される。また、複数の光学素子に光を通過させるほか何度も光を反射させるため、像にひずみが生じ、光学系に適切な調整を加える必要がある、といった不都合もあり得る。
【0012】
一方、特許文献2に記載の視線検出装置は、視線の方向(黒目の位置)のみを検出しているものであり、視線がとらえている対象を計測するには別の手法を必要とする。特許文献2の例では、ディスプレイ上のどの選択肢を見ているかを計測するために、あらかじめディスプレイ上のサンプル点の位置を見ているときの黒目の位置を調べておき、その情報に基づいて計測を行う。しかしこのようにするには、使用する計測機器が増えるほか、相当に複雑な演算ないしキャリブレーションを行うことも不可欠になる。また、視線がとらえている対象について計測できる範囲をディスプレイ上の選択肢に限る場合、実空間にある任意の光景のうちから何に視線を向けているかを把握することは不可能で、装置の用途はかなり限定されたものにならざるを得ない。
【0013】
請求項に係る発明はこのような課題を解決することを目的としている。すなわち、高精度結像機能を有するホログラフィク光学素子とその作製方法およびそれを用いた簡単な構成の多重シーン撮像用光学素子を提供し、さらには、それを含めて構成され、視線がとらえている対象をより直接に検知できるうえ実空間における視線の方向をも知ることができる視線検出入力装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項に記載したホログラフィック光学素子は、空気中の光波の伝播をフレネル回折積分、ホログラフィック光学素子内部の光波の伝播をKogelnikの結合波理論により求めた結像位置により作製したことを特徴とする。具体的には、光の波長、ホログラフィック光学素子材料の厚さ、屈折率、屈折率変調量、入力面とホログラフィック光学素子との距離、ホログラフィック光学素子と観測面との距離をもとに、結像機能を有するホログラフィック光学素子の射出光の結像位置を算出して、その値を用いてホログラフィック光学素子の作製時の収束光の位置を観測面よりずらして用いて、結像機能を有するホログラフィック光学素子を作製しようとするものである。
【0015】
また、請求項に記載した多重シーン撮像用光学素子は、ホログラフィック素子をはさむ両側にあるシーンを一つの撮像面上に結像させるよう構成された単一のホログラフィック光学素子からなり、該ホログラフィック光学素子が、各シーンの光を上記一つの撮像面上に結像させるための屈折率分布を有する面状のホログラムで、空気中の光波の伝播をフレネル回折積分、ホログラフィック光学素子内部の光波の伝播をKogelnikの結合波理論により求めた結像位置により作製するホログラフィック光学素子であり、複数のシーンのそれぞれの光についての屈折率分布を集積されたものであることを特徴とする。
この多重シーン撮像用光学素子は、異なる方向にある複数のシーン(光景)を同時に一つの撮像面に導くためのもので、複数のシーンのそれぞれの光を上記一つの撮像面上に結像させるようにした単一のホログラフィック光学素子から構成したことを特徴とする。ここにいう「ホログラフィック光学素子」とは、ホログラフィ技術による光学的機能を有する要素をさす。「単一のホログラフィック光学素子」は、レンズやミラー等を組み合わせることなく、一体の素子で構成されるものを意味する。また「入力面」および「撮像面」は、平面に限らず、任意の曲面であってよい。図3・図5等に示す光学素子 1 は、上記したホログラフィック光学素子であり、請求項にいう多重シーン撮像用光学素子の一例である。
【0016】
請求項に係るこうした多重シーン撮像用光学素子は、二つ以上のシーンを観察者の眼やカメラなどに同時に導きたい場合に広く利用できる。しかし従来のものとは違って単一のホログラフィック光学素子から構成したものであるため、コンパクト化および軽量化することができるうえ、光学的な調整を施さなくとも像のひずみが小さくなるという顕著な利点がある。このような利点は、前記した特許文献1(特表2001−514764)に記載の光学系(図8を参照)にはないものである。
【0017】
上記のように、各シーンの光を上記一つの撮像面上に結像させるための屈折率分布を有する面状のホログラムであり、複数のシーンのそれぞれの光についての屈折率分布を集積されたホログラフィック光学素子を使用すれば、上記した多重シーン撮像用光学素子を、格別な困難を伴うことなく製造し、具体化することができる。
【0018】
上記の「素子をはさむ両側にあるシーンを、一方の側にあるーつの撮像面上に結像させるもの」というのは、すなわち、透過型と反射型とを集積したホログラフィック光学素子をさす。
【0019】
上記のホログラフィック光学素子としては、フォトポリマーを主成分とするものを用いることが好ましい。
フォトポリマーを用いることによって透過型と反射型のホログラフィック素子を集積することができる。また、フォトポリマーを用いることにより形状の任意性を持たせることができ、たとえば眼鏡のガラス部分のような曲面に貼ることも可能になる。またさらに、軽量化、コンパクト化を図ることができる。
【0020】
さらに、上記のフォトポリマーが、組成としてラジカル重合性モノマーとカチオン重合性モノマーを重合させて屈折率分布を形成したものであることが好ましい。というのは、干渉性に優れた光を干渉させることによって得られる干渉縞の明暗の強度分布を屈折率の変化として記録する場合に大きな屈折率変化を持たせられるフォトポリマー組成物として、(A)ラジカル重合可能な不飽和二重結合を少なくとも1つ含有するラジカル重合性モノマーと、(B)カチオン重合性モノマーを含有するものが好適に用いられ得るからである。
【0021】
より好適なフォトポリマー組成物としては(C)バインダーポリマーと、(D)可視光の波長領域を有する干渉性の第一の光の干渉によって得られる干渉縞の照射により、ラジカル重合性化合物(A)の重合を開始させる光ラジカル重合開始剤と、(E)光ラジカル重合開始剤を増感させる光増感色素と、(F)第一の光とは異なる波長領域を有す第二の光の照射によりカチオン重合性化合物(B)の重合を開始させる光カチオン重合開始剤とからなり、(A)ラジカル重合性化合物の屈折率が、(B)カチオン重合性化合物と(C)バインダーポリマーとの屈折率との加重平均値よりも大きいように調整したフォトポリマー組成物があげられる。
【0022】
光カチオン重合開始剤(F)は、第二の光の照射によりカチオン重合性モノマー(B)の重合を開始させるものであるが、第一の光の干渉によって得られる干渉縞の照射に対する感光性が低くてカチオン重合性モノマー(B)の重合を実質上開始させないものが好ましい。
【0023】
<ラジカル重合性モノマー(A)>
本発明で用いられるラジカル重合性モノマー(A)は、本発明で用いられるカチオン重合性モノマー(B)等とともに本発明による組成物を調製した場合に、相溶性を有しさえすれば広範囲の化合物を使用することができるが、常圧で100℃以上の沸点を持つ非ガス状、即ち、液状または固体状であるラジカル重合性化合物(A)が好ましい。
特に、エチレン性不飽和二重結合を有する(メタ)アクリルモノマー、ビニルモノマー、(メタ)アリルモノマーが好ましい。また、これらは単独で用いても、2つ以上の組み合わせで用いてもよい。
【0024】
(メタ)アクリルモノマーの例として、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2,4,6−トリブロモフェノキシ(メタ)アクリレート、2−ナフチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノールポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フエノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、ネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステル、9H−カルバゾール−9−エチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1, 6−へキサンジオールジ(メタンアクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールートリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフエノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ビスフエノキシエタノールフルオレンジ(メタ)アクリレート、ビス(4−(メタ)アクリロイルチオフェニル)スルフィド、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールへキサ(メタンアクリレート、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシメトキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシ−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシメトキシ−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシメトキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシ)プロポキシフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシ)プロポキシ−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス{4−[2−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシ−プロポキシ)−エトキシ]フェニル}フルオレン等が挙げられる。
また、上記化合物の2量体または3量体程度のオリゴマーであってもよい。
【0025】
ビニルモノマーの例として、ビニルアセテート、4−ビニルアニリン、9−ビニルアントラセン、9−ビニルカルバゾール、4−ビニルアニソール、ビニルべンズアルデヒド、ビニルべンゾエイト、ビニルべンジルクロライド、4−ビニルビフェニル、ビニルブロマイド、N−ビニルカプロラクタム、ビニルクロロホルメート、ビニルクロトネート、ビニルシクロへキサン、4−ビニル−1−シクロへキセンジエポキサイド、ビニルシクロペンタン、ビニルデカノエート、4−ビニル−1, 3−ジオキソラン−2−オン、ビニルカルボネート、ビニルトリチオカルボネート、ビニル2 ーエチルへキサノエート、ビニルフエロセン、ビニリデンクロライド、ビニルホルメート、1−ビニルイミダゾール、2−ビニルナフタレン、ビニルネオデカノエート、5−ビニル−2−ノルボルネン、4−(ビニルオキシ)ブチルべンゾエート、2−(ビニルオキシ)エタノール、4−ビニルフエニルアセテート、ビニルピバレート、ビニルプロピオネート、2−ビニルピリジン、1−ビニル−2−ピロリジノン、ビニルスルホン、ビニルトリメチルシラン、ビス(4−ビニルチオフェニル)スルフィド等が挙げられる。
また、上記化合物の2量体または3量体程度のオリゴマーであってもよい。
【0026】
(メタ)アリルモノマーの例として、(メタ)アリルフェニルスルホン、(メタ)アリルエトキシシラン、(メタ)アリルトリメトキシシラン、(メタンアリル2, 4, 6−トリブロモフェニルエーテル、2, 2,−ジ(メタ)アリルビスフエノールA 、ジ(メタ)アリルジメチルシラン、ジ(メタ)アリルジフェニルシラン、ジ(メタ)アリルフェニルフオスフィン、ジ(メタ)アリルフタレート、ジ(メタ)アリルジカルボネイト、ジ(メタ)アリルサクシネイト等が挙げられる。
また、上記化合物の2量体または3量体程度のオリゴマーであってもよい。
【0027】
ラジカル重合性化合物(A)として好ましいのは、フエノキシエチルアクリレート、2, 4, 6−トリブロモフエノキシ(メタ)アクリレート、2−ナフチル(メタ)アクリレート、ビスフエノキシエタノールフルオレンジ(メタ)アクリレート等のフルオレン系ジ(メタ)アクリレートである。
【0028】
<カチオン重合性モノマー(B)>
本発明で用いられるカチオン重合性モノマー(B)は、他のいずれの成分とも相溶性がよく、ラジカル重合性モノマー(A)よりも屈折率が極力低く、常温常圧で液体であることが好ましい。このようなカチオン重合性モノマーを用いることによって、ホログラム記録前では全組成物が十分に相溶しているが、ホログラム記録が開始されるとともにラジカル重合性モノマー(A)の拡散移動が起こりやすくなる。さらに、屈折率が低いものを選択することによって、ラジカル重合性モノマー(A)の拡散移動によるカチオン重合性モノマー(B)との分離において、両者の間でわずかな分離しか起こらなくても、大きな屈折率差(屈折率変調)を得ることができる。カチオン重合性モノマー(B)は第一の光(好ましくは可視光線)と異なる波長領域を有す第二の光(好ましくは紫外線)を照射しカチオン重合開始剤(F)の反応により重合させられる。
【0029】
カチオン重合性モノマー(B)の具体例としては、オキシラン構造およびオキセタン構造のいずれかを1分子中に少なくとも1つ以上、あるいは両者を有する化合物を挙げることができる。下記に好ましいカチオン重合性モノマー(B)を例示する。
【0030】
グリシジルエーテル類;フェニルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリコールグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオネンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、 水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、2, 2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル。
【0031】
オキセタン系化合物;3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス{〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕メチル}ベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−{〔3−(トリエトキシシリル)プロポキシ〕メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキシサン、フェノールノボラックオキセタン。
【0032】
重合収縮がほとんどないスピロオルソエステル、スピロオルソカーボネート、ビシクロオルソカーボネート類や3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートも使用できる。
【0033】
上記例示物の2量体または3量体程度のオリゴマーであってもよい。また、これらは単独で用いても2以上の組合わせで用いてもよい。特にオキシラン化合物とオキセタン化合物を混合して使用すると、カチオン重合速度が上昇し、かつ、高分子量のポリマーが形成される。
【0034】
<バインダーポリマー(C)>
本発明で用いられるバインダーポリマー(C)は、ラジカル重合性化合物(A)およびカチオン重合性化合物(B)と相溶性が良く、有機溶媒中に完全に溶解しうるものであればよい。代表的なものは、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーの単独重合体、または、該モノマーと、これと共重合可能な共重合性モノマーとの共重合体、ジフェノール化合物とジカルボン酸化合物の縮合重合体、分子内に炭酸エステル基を有する重合体、分子内に−SO−基を有する重合体、セルロース誘導体、およびこれらの2以上の組み合わせからなる群より選ばれるものである。
【0035】
バインダーポリマーの具体例としては、ポリビニルアセテート、ポリビニルブチラート、ポリビニルホルマール、ポリビニルカルバゾール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリメタクリロニトリル、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ−1,2−ジクロロエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、シンジオタクチック型ポリメチルメタクリレート、ポリ−α−ビニルナフタレート、ポリカーボネート、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチラート、ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、ポリ−o−メチルスチレン、ポリ−p−メチルスチレン、ポリ−p−フェニルスチレン、ポリ−2,5−ジクロロスチレン、ポリ−p−クロロスチレン、ポリ−2,5−ジクロロスチレン、ポリアリーレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニリデン、水素化スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、透明ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、(メタ)アクリル酸環状脂肪族エステルとメチル(メタ)アクリレートとの共重合体等が挙げられる。
【0036】
厚膜化や膜の柔軟性を持たせるためにさらにバインダーポリマーを含有してもよい。
バインダーポリマー(C)の上記例示物は単独で用いても2以上の組合わせで用いてもよい。
【0037】
バインダーポリマー(C)は、また、100℃以上のガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。
【0038】
バインダーポリマー(C)はホログラムの用途、応用等により種々選択することができる。良好な成膜性および回折効率等の光学特性を得るためには、ポリビニルアセテート、ポリビニルブチラート、セルロースアセテートブチラート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルホルマール等が好ましく用いられる。
【0039】
より良好な耐熱性、成膜性および回折効率等の光学特性を得るためには、(メタ)アクリル酸環状脂肪族エステルとメチル(メタ)アクリレートとの共重合体等が好ましく用いられる。
【0040】
かかるホログラフィック光学素子を使用するなら、多重シーン撮像用光学素子により、 180°程度離れた方向にある複数のシーンをーつの撮像面上に結像させるという、前記の特許文献1の光学系には含まれない機能を発揮させることが可能になる。
【0041】
請求項に記載のホログラフィック光学素子の作製方法は、空気中の光波の伝播をフレネル回折積分、ホログラフィック光学素子内部の光波の伝播をKogelnikの結合波理論により求めた結像位置により作製することを特徴とする。この作製方法によれば、空中を光が伝播するときに生じる誤差を見込んで、観測面内において最大の強度で集光するホログラフィック光学素子を得ることができる。
【0042】
請求項に記載した視線検出入力装置は、
・ 上記したいずれかの多重シーン撮像用光学素子を、人の視野にある光景とその人の眼部の像とを同時にーつの撮像面上に結像させるよう配置し、
・ さらに、上記撮像面の位置に、人の視野にある光景とその人の眼部の像とを同時に取り込むように撮像素子を設けたことを特徴とする。
図5・図6等において光学素子 1 および撮像素子 c 等により構成した視線検出入力装置は、請求項に記載した視線検出入力装置の一例である。
【0043】
こうした視線検出入力装置によれば、一つの撮像素子により、眼部(黒目とその周辺)と視野にある光景との両方が撮像される。そのため、他の光学系機器は不要であり、シンプルかつ小型に装置を構成することができる。また、双方の像が別々の撮像素子に取り込まれるのではないため、計測機器を用いて特殊な演算やキャリブレーション等をしなくとも、視線が捉えている対象を正確かつ容易に把握することができる。
前記した特許文献2(特開2003−230539)の技術が眼部のみを撮像したうえその視線がディスプレイ上の映像のどの部分に向けられているかを判断するのに対し、請求項の装置は、眼部と実空間とを撮像し、実空間上のどこに視線が向けられているのかを検出する。つまり、検出できる視線の向きが特定のディスプレイ上に限定されない。しかも、眼部と実空間とを撮像するにもかかわらず、上記のとおり別々の撮像素子等が不要でありキャリブレーション等も必要もないわけである。
【0044】
上記の視線検出入力装置においては、
・ ホログラフィック光学素子を、素子の前方にある光景と素子の後方にある眼部の像とを一つの撮像面上に結像させる面状のものとしてメガネフレームのレンズ部相当箇所に取り付け、
・ 上記の撮像素子も、同じメガネフレームに取り付けるのが好ましい。
【0045】
そのようにすれば、使用者がこの視線検出入力装置をメガネのように頭部に装着し、従来のパーソナルコンピュータ用マウス等に代わる、視線検出により信号を入力する装置として使用することができる。メガネフレーム上にホログラフィック光学素子と撮像素子とを取り付けるのであるから、ハンズフリーの新しい入力デバイスとなる。なお、前方の光景と後方の眼部とを、単一のホログラフィック光学素子が共通の撮像素子に結像させることから、コンパクトかつ軽量に構成することが可能である。
【0046】
上記の視線検出入力装置には、
・ 上記のホログラフィック光学素子と上記の撮像素子、および撮像素子が発する視線検出情報を外部に伝える送信手段を取り付けるほか、外部から伝えられる情報を受け取る受信手段、および受信手段により受け取った情報を視覚的または聴覚的に表す情報提示手段をも付属させるのがよい。図7に示す視線検出入力装置 20 は、送信手段 2 および受信手段 8 等を付属させたもので、ここにいう視線検出入力装置の一例である。
【0047】
こうした視線検出入力装置は、まず、ホログラフィック光学素子と撮像素子、送信手段を備えるので、使用者が視線を向けている対象を検出し外部へ送信することができる。また、受信手段と情報提示手段とを有するので、使用者に対し、外部からの情報を視覚的または聴覚的に提供することができる。つまり使用者は、この視線検出入力装置を用いて双方向の情報伝達を行えることになる。
【0048】
上記の送信手段および受信手段を、データべースまたは情報提供者もしくは作業指示者の端末装置に接続するなら、さらに好ましい。そうすると、撮像素子からの情報をデータベースやエキスパート(情報提供者・作業指示者)に送信し、それらからの情報を情報提示手段に表示して使用者に提供することができる。つまり、この視線検出入力装置をウェアラブルの入出力端末として、ネットワーク等を介し、遠隔のデータべースやエキスパートとの間で双方向の情報伝達が可能になる。
【0049】
上記視線検出入力装置においては、
・ 上記のホログラフィック光学素子を素子の前方にある光景と素子の後方にある眼部の像とを一つの撮像面上に結像させる面状のものとしてメガネフレームのレンズ部相当箇所に取り付け、上記の撮像素子を、同じメガネフレームに取り付けるとともに、
・ 受信手段にて受信した情報を視覚的に表す情報提示手段を、同じメガネフレームにおけるレンズ部相当箇所に取り付けるのがよい。
図7の視線検出入力装置 20 は、そのような構成を例示したものでもある。
そのようにすれば、一般のメガネのように頭部に装着できる装置として視線検出入力装置を構成でき、ハンズフリーの使いやすい双方向情報伝達手段となる。
【発明の効果】
【0050】
請求項に記載したホログラフィック光学素子によれば、所望の観測面に最大強度で結像させることが可能になり、精度が向上する。また、その作製方法によれば、光が空中を伝播することによる誤差を考慮して上記高精度のホログラフィック光学素子を作製できる。
【0051】
請求項に記載した多重シーン撮像用光学素子によれば、構成が簡単で軽量かつコンパクトでありながら、異なる方向にある複数のシーン(光景)を同時にーつの撮像面に導くことができ、しかも像のひずみが小さくなる。
【0052】
請求項に記載した視線検出入力装置によれば、一つの撮像素子によって、眼部と、視野にある光景との両方が撮像される。そのため、キャリブレーションをしなくても、また特殊な演算をしなくても、視線が捉えている対象を正確かつ容易に把握することができる。特定のディスプレイ内の制限された光景に限らず、実空間におけるどの光景を見ているかを検知できるという利点もある。そしてこの装置は、従来のパーソナルコンピュータ用マウス等に代わる、視線検出により信号を入力する装置とすることが可能であるほか、双方向の情報伝達を行えるウェアラブルの入出力端末に構成することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、図1、図2により高精度なホログラフィック光学素子設計法とその作製方法について詳細に説明する。図1は、結像機能を有するホログラフィック光学素子の屈折率分布の算出および結像特性解析の概念図である。図1中の入力面において、z軸に対して角度θpの位置に波長がλである光源C1をおき、フレネル回折積分により、C1からの光波が距離l1にある厚さdのホログラフィック光学素子まで伝播する光波U1を求める。また、C1からの光の観測面における所望の結像位置をz軸に対して角度θq、距離l2の位置をC'1とする。次に、C'1からの光が観測面とホログラフィック光学素子との距離l2を伝播する光波U2を求める。ホログラフィック光学素子からの理想再生信号は、U2の位相共役光U2*である。つまり、ホログラフィック光学素子の射出光がU2*と等しければ、観測面のC'1がある位置に集光する。従って、結像素子として作用するホログラムは、U1*U2*で与えられる。
【0054】
本発明によるホログラフィック光学素子の結像位置を求める方法は以下の通りである。ホログラムは任意の干渉縞の強度分布により形成されるため、強度分布を平面波展開し、強度分布に比例する各正弦屈折率格子における回折光を計算し、同じ方向の再生光成分を加算すればホログラフィック光学素子の射出光を求める。上記の周期屈折率分布をもつホログラフィック光学素子において、入射平面波に対するホログラフィック光学素子の1次回折光の複素振幅はKogelnikの結合波理論によって求める。図1中のC1,C'1からの光波は、それぞれM,N個の平面波成分をもつとする。このときM×N個の正弦屈折率格子が得られる。このホログラフィック光学素子に、M個の平面波で構成される光波が入射したとき、Kogelnikの結合波理論よりM×M×N個の回折平面波を得る。これらのうち同じ方向に伝播する平面波の和をとり、逆フーリエ変換することにより、ホログラフィック光学素子の射出光を求める。さらに、射出光がホログラフィック光学素子と観測面の間の空間を伝播する光波をフレネル回折積分によって求め、最大強度値をとる位置を結像位置Fとして求める。
【0055】
上記の方法で算出したホログラフィック光学素子の結像位置と所望の位置との差相当の距離だけ作製時の収束光の収束位置をz軸方向にずらしてホログラフィック光学素子を作製すれば、高精度な結像位置をもつホログラフィック光学素子を作製することができる。
【0056】
上記の屈折率分布の算出および結像位置の解析の一例を図2に示す。このとき、入力面とホログラフィック光学素子間の距離l1=50mm、ホログラフィック光学素子と観測面間の距離l2=50mmとした。ホログラフィック光学素子のサイズを10mm、厚さ0.9mm、屈折率を1.5とし、最大屈折率変調量を3.5×10-5とした。光源C1として、波長632.8nm、光強度分布がガウス型で、その半値全幅が57.49μmである点光源を用いた。点光源には、図1に示すθpの方向に伝播するように初期位相を設定した。観測面の結像位置C'1の位置をθq =0.075radの一定値にして、入力面の点光源C1の位置を変えて格子ベクトルを求め、そのθpのときの結像位置Fを求めた。図2の横軸はθpであり、縦軸はFのz座標をlfとしたときの結像位置のz方向の差の割合(l2−lf) / l2である。この結果より、θpが小さくなるにつれて、つまり入力光源の位置が光軸から離れるにつれて、(l2−lf) / l2が大きくなり、結像位置C'1の位置との差が大きくなることがわかる。
【0057】
作製方法を上記の解析例の数値の場合で示す。例えば、入力面の点光源C1の位置x0=-3.75mm すなわちθp =0.075radの場合、l2=50mmの面に結像させるためには、z=61.375mmの位置に点光源を置いてホログラフィック光学素子を作製すればよいことになる。
【0058】
上述したように本発明のホログラフィック光学素子は、高精度な結像位置をもつ結像機能を有するとともに、結像位置において高効率な光強度をもつホログラフィック光学素子を提供することができる。
【0059】
図3( a )〜( c ) に、発明の実施形態としての多重シーン撮像用光学素子 1 とその作製手順を示す。
【0060】
まず図3( a ) は、透過型ホログラフィック光学素子(ホログラム) 1 a の作製要領を示す図である。入力面1の位置 P1にある光源O1からの光と、光学素子 1 a に対して入力面1の光源O1からの光と同じ側から入射し、かつ観測面の位置 P2に結像する光との干渉縞を、光学素子 1 a に記録する。そうすると、光学素子 1 a における干渉縞による光の干渉・回折作用によって、入力面1の位置 P1の光景が上記の観側面の位置 P2上に結像する。
【0061】
図4は透過型ホログラフィック光学素子(HOE)のより具体的な作製例である。集光する物体光と点光源からの発散光を参照光として用いる。光源に532nmのレーザー光を用い、物体光と参照光の干渉縞をフォトポリマーに記録して透過型HOEを作製する。このときの入射面とHOEとの距離をl1、HOEと観測面との距離をl2とし、参照光の伝播方向と光軸とのなす角度をθpとした。
【0062】
ここで使用するフォトポリマーとしては、以下の記録材料を用いた。
1)9,9−ジアリールフルオレン骨格を有し、かつ、常温常圧で固体であるラジカル重合性化合物(A)として、9,9−ビス[4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシ)プロポキシフェニル]フルオレン(単体の屈折率:1.63)1.08g(全組成物に対する重量百分率:28.1重量%)、カチオン重合性化合物(B)としてエチレングリコールジグリシジルエーテル(単体の屈折率:1.46)1.05g(27.4重量%)、バインダーポリマー(C)としてポリメチルメチルメタクリレート(単体の屈折率:1.49)1.25g(32.6重量%)、光ラジカル重合開始剤(D)として3,3’,4,4’−テトラ(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン0.25g(6.5重量%)、光増感色素(E)としてシアニン系色素(2,5−ビス[(4−ジエチルアミノ)−2−メチルベンジリデン]シクロペンタノン)0.0082g(0.2重量%)、光カチオン重合開始剤(F)としてトリアリールスルホニウム系化合物(旭電化工業社製、「SP−170」、塩がヘキサフルオロアンチモネート)0.2g(5.2重量%)、および溶媒としてアセトン5gを常温で混合し、記録用感光性組成物を調製した。
【0063】
2)この組成物を60mm×60mmのガラス基板の片面に乾燥後の厚みが15〜20μmになるようにスピンコートにより塗布し、減圧下で加熱処理を施すことにより塗布層から溶媒を除去して記録層を形成した。
【0064】
3)この記録層に厚み50μmのPETフィルムを被せて3層構造の体積位相型ホログラム記録媒体、すなわち感光板を作成した。
この記録媒体を用いて作製したホログラフィック光学素子は、記録媒体の感度が高く、10mJ/cm2以下で記録することが可能であり、また回折効率が90%以上と高いため短時間で明るく、光回折効率の高い光学素子が得られた。
【0065】
図3( b ) は反射型ホログラフィック光学素子(ホログラム) 1 b の作製要領を示すもので、入力面2の位置 P3 にある光源O3からの光と、光学素子 1 b に対して入力面の光源の反対側から入射し位置 P4 に結像する光との干渉縞を、位置 P3 と位置 P4 から同一の向きに離して置いた光学素子 1 b に記録する。こうした光学素子 1 b を用いると、入力面2の位置 P3の光景が光学素子 1 b からみて同じ側にある観測面の位置 P4 上に結像する。
【0066】
図3( c ) に示す多重シーン撮像用光学素子 1 は、図3( a )・( b ) によって形成される透過型および反射型のホログラフィック光学素子 1 a ・ 1 b を集積することにより作製する。光学素子 1 a ・ 1 b を集積することは、たとえば、干渉縞を記録する一つの感光体に図3( a )・( b ) に示す双方の露光を行ったうえ当該感光体を現像処理することにより行えるが、コンピュータシミュレーションによる干渉縞情報に基づく屈折率分布を電子ビーム描画等によって作製するのもよい。いずれの場合も、多重シーン撮像用光学素子 1 は、ホログラム等と呼ばれる単一のホログラフィック光学素子として構成される。
【0067】
作製した光学素子 1 によると、入力面1の位置にある物 m などのシーンが上記観測面上に結像するとともに、入力面2の位置にある眼部 e などのシーンも同じ観測面上に結像する。つまり、この多重シーン撮像用光学素子 1 には、物 m などの光を観測面上に結像するレンズ機能と、眼部 e などの光を反射して観測面上に結像させるミラー機能およびレンズ機能とが備わっている。したがって、その観測面に撮像面s の位置を合わせて撮像素子 c を配置するなら、その撮像素子 c には、二つのシーン(物 m および眼部 e )が一つの画像として結像することになる。なお、上記した集積の数を増やせば、3以上のシーンを同じ画像として結像させることも可能である。なお、上述した作製方法において、入力面および観測面は平面に限らず任意の曲面であっても可能である。
【0068】
図5は、多重シーン撮像用光学素子を用いて人の視線検出入力を行う方法を概念的に示す図である。上述のようにして作製した図3( c ) の多重シーン撮像用光学素子 1 を、図5( a ) のとおり使用者の眼部 e の前に置き、その使用者の頭の横などに CCD カメラ等の撮像素子 c を配置する。そうすると、撮像素子 c には、図5( b ) に示すように、使用者の前方にある物 m の画像 m’とともに使用者の眼部 e の画像 e’とが1枚の画像として撮り込まれる(画像の重なり方は任意に設定できる)。その画像には、前方に見えるシーンが映るとともに、使用者の黒目の位置が表示されるため、その使用者が視線をどこに向けて何をとらえているかをその画像から容易に知ることができる。
【0069】
そのような原理にしたがい、コンピュータ用のウェアラブルなメガネ型の視線検出入力装置として、図6に示す装置 10 を構成することができる。図示の視線検出入力装置 10 は、メガネフレーム 11 の左右のレンズ部相当箇所に多重シーン撮像用光学素子 1 を取り付け、同じフレーム 11 のうち耳かけに近い左右の部分に撮像素子 c を取り付けている。
【0070】
こうした視線検出入力装置 10 は、使用者がメガネと同じように頭部に装着したうえ、マウス等に代わるコンピュータ用入力装置として使用することができる。つまり、見ようとしているシーンが視野に入るように顔を向けて視線検出入力装置 10 の向きを定めるとともに、その視野のうちの特定のシーン(物 m など)に視線を向ければ、撮像素子 c の1画像中に撮り込まれる当該物 m などの画像 m’と使用者の眼部 e の画像 e’とから、視線による使用者の意図を検知できる。一定時間以上凝視したことや特定回数の瞬きをしたこと等をその意図の確定信号として定めれば、マウス等と同様の入力機能を全くのハンズフリーで実現できることになる。使用者が動いても視線検出に支障がないことは言うまでもない。
左右のレンズ部相当箇所に多重シーン撮像用光学素子 1 を取り付ければ、右目眼部の像と右目の視野を含む画像、および左目眼部の像と左目の視野を含む画像より、人の視野の3次元情報を取得できる。
【0071】
図7には、メガネフレーム 21 上に、上記した多重シーン撮像用光学素子 1 や撮像素子 c とともにディスプレイ 6 (つまり使用者に対して視覚的に情報を伝える情報提示手段)を取り付けたメガネ型の視線検出入力装置 20 などを示している。上記の光学素子 1 は右側(または左側)のレンズ部相当箇所に取り付け、それと反対の側のレンズ部相当箇所にディスプレイ 6 を取り付けている。撮像素子 c は、光学素子 1 の後面に向けて耳かけ部の付近に取り付けた。また、撮像素子 c には、その画像情報を外部に伝える送信手段 2 を接続し、ディスプレイ 6 には、外部からの画像情報をディスプレイ 6 に取り込むための受信手段 8 を接続している。
【0072】
この視線検出入力装置 20 によると、多重シーン撮像用光学素子 1 と撮像素子 c および送信手段 2 の作用により、使用者の視線による入力情報を外部へ送信することができるばかりでなく、受信手段 8 とディスプレイ 6 とを有することから、外部からの情報を使用者へ視覚的に提供することができる。つまり、この視線検出入力装置 20 を用いれば、使用者は外部との間で双方向の情報伝達を行える。ディスプレイ 6 に代えて、またはディスプレイ 6 とともに、イヤフォン 7 のような聴覚的な情報提示手段を設けることも可能で、そうした場合にも同様の双方向情報伝達が可能である。
【0073】
視線検出入力装置 20 は、図7のようにネット(情報伝達網) 30 に接続し、同様にネット 30 に接続されたデータべース 41 等との間で情報の送受信システムを形成するのもよい。視線検出入力装置 20 の使用者は、送信手段 2 から送る信号(視線による入力情報)によってデータべース 41 中の特定の情報にアクセスし、受信手段 8 を介して当該データべース 41 中の情報につき提示を受ける。その場合、ディスプレイ 6 に表示される情報のうち何を見ているかについても、使用者の黒目の動きを撮像素子 c で認識することにより視線検出入力装置 20 が検知してデータべース 41 へ送信することとすれば、情報の選択や収集がとくに容易に行える。
【0074】
上記した送受信システムにおいて、視線検出入力装置 20 が、エキスパート(特定の作業の熟練者であって作業指示や情報提供をなし得る者)の使用する端末機器 42 に接続される場合にもメリットがある。たとえば、
1) 視線検出入力装置 20 の使用者が見ているシーンとその使用者の視線がとらえている対象とを、遠隔地にいるエキスパートの端末機器 42 に伝え、その画面に表示する、
2) そのエキスパートは、端末機器 42 の画面を見て使用者の作業状況等を知り、作業対象部分や注目すべき箇所を教えたり必要なデータやマニュアルを提示したりするなど、ディスプレイ 6 やイヤフォン 7 などの情報提示手段を介して使用者に作業指示を出す
といった使い方をすることも可能だからである。
同様にして、手術中の医師に対する情報提供システムや、遭遇状況に合ったルートを指示するなどの誘導ナビゲーションシステム、さらには、読んでいる箇所の外国語を翻訳する辞書システムなどとして送受信システムを構成し、好ましい使用をすることも可能である。用途によっては、情報提示手段を有しない視線検出入力装置(たとえば図6の装置 10 など)を、図7の装置 20 に代えて使用できる場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】ホログラフィック光学素子の設計、評価のためのシミュレーションの概念図である。
【図2】ホログラフィック光学素子の設計、評価のためのシミュレーションを用いた結像位置特性の算出例を示す図である。
【図3】図3( a )〜( c ) は、発明の実施形態としての多重シーン撮像用光学素子 1 とその作製手順を示す図である。
【図4】透過型ホログラフィック光学素子の作製例を示す概念図である。
【図5】図5( a )・( b ) は、多重シーン撮像用光学素子を用いて人の視線検出入力を行う方法を概念的に示す図である。
【図6】多重シーン撮像用光学素子 1 を使用して構成したメガネ型の視線検出入力装置 10 を示す斜視図である。
【図7】メガネ型の視線検出入力装置 20 と、それを含む送受信システムを示す概念図である。
【図8】前方にある二つの光景の光を観察者の眼へ同時に導くための従来の光学系を示す要部断面図である。
【図9】従来の眼鏡型の視線検出装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0076】
1 多重シーン撮像用光学素子
1 a 透過型ポログラフィック光学素子
1 b 反射型ポログラフィック光学素子
c 撮像素子
m 物
e 眼部
2 送信手段
6 ディスプレイ(情報提示手段)
7 イヤフォン(情報提示手段)
8 受信手段
10 ・ 20 視線検出入力装置
30 ネット
41 データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中の光波の伝播をフレネル回折積分、ホログラフィック光学素子内部の光波の伝播をKogelnikの結合波理論により求めた結像位置により作製したことを特徴とするホログラフィック光学素子。
【請求項2】
ホログラフィック素子をはさむ両側にあるシーンを一つの撮像面上に結像させるよう構成された単一のホログラフィック光学素子からなり、該ホログラフィック光学素子が、各シーンの光を上記一つの撮像面上に結像させるための屈折率分布を有する面状のホログラムで、空気中の光波の伝播をフレネル回折積分、ホログラフィック光学素子内部の光波の伝播をKogelnikの結合波理論により求めた結像位置により作製するホログラフィック光学素子であり、複数のシーンのそれぞれの光についての屈折率分布を集積されたものであることを特徴とする多重シーン撮像用光学素子。
【請求項3】
ホログラフィック素子をはさむ両側にあるシーンを一つの撮像面上に結像させるよう構成された単一のホログラフィック光学素子からなり、該ホログラフィック光学素子が、フォトポリマーを主成分とし、各シーンの光を上記一つの撮像面上に結像させるための屈折率分布を有する面状のホログラムであり、複数のシーンのそれぞれの光についての屈折率分布を集積されたものであることを特徴とする多重シーン撮像用光学素子。
【請求項4】
上記のホログラフィック光学素子がフォトポリマーを主成分とし、該フォトポリマーの組成としてラジカル重合性モノマーとカチオン重合性モノマーを重合させて屈折率分布を形成したものであることを特徴とする請求項3記載の多重シーン撮像用光学素子。
【請求項5】
空気中の光波の伝播をフレネル回折積分、ホログラフィック光学素子内部の光波の伝播をKogelnikの結合波理論により求めた結像位置により作製することを特徴とするホログラフィック光学素子の作製方法。
【請求項6】
請求項2〜4のいずれかに記載の多重シーン撮像用光学素子が、人の視野にある光景とその人の眼部の像とを同時にーつの撮像面上に結像させるよう配置されていて、上記撮像面の位置に、人の視野にある光景とその人の眼部の像とを同時に取り込むように撮像素子が設けられていることを特徴とする視線検出入力装置。
【請求項7】
上記のホログラフィック光学素子が、素子の前方にある光景と素子の後方にある眼部の像とをーつの撮像面上に結像させる面状のものであってメガネフレームのレンズ部相当箇所に取り付けられ、上記の撮像素子が、同じメガネフレームに取り付けられていることを特徴とする請求項6に記載の視線検出入力装置。
【請求項8】
上記のホログラフィック光学素子と上記の撮像素子、および撮像素子が発する視線検出情報を外部に伝える送信手段のほか、外部から伝えられる情報を受け取る受信手段、および受信手段により受け取った情報を視覚的または聴覚的に表す情報提示手段を備えることを特徴とする請求項6または7に記載の視線検出入力装置。
【請求項9】
上記の送信手段および受信手段が、データべースまたは情報提供者もしくは作業指示者の端末装置に接続されていることを特徴とする請求項8に記載の視線検出入力装置。
【請求項10】
上記のホログラフィック光学素子が、素子の前方にある光景と素子の後方にある眼部の像とをーつの撮像面上に結像させる面状のものであってメガネフレームのレンズ部相当箇所に取り付けられ、上記の撮像素子が、同じメガネフレームに取り付けられているとともに、受信手段にて受信した情報を視覚的に表す情報提示手段が、同じメガネフレームにおけるレンズ部相当箇所に取り付けられていることを特徴とする請求項8または9に記載の視線検出入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−310328(P2007−310328A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142175(P2006−142175)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年11月23日〜25日 社団法人応用物理学会分科会日本光学会主催の「日本光学会年次学術講演会「Optics Japan 2005」において文書をもって発表
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】