説明

ホログラムシート

【課題】
ホログラムを用いたホログラムシートにおいて、その真正性を高めるために、照明光と同一の波長のホログラム再生像を再生するホログラムとは異なり、照明光とは異なる波長のホログラム再生をする新規なホログラムシートを提供する。
【解決手段】
ホログラム形成層上にフォトクロミック薄膜層を設け、フォトクロミック薄膜層を励起する光で照明して、可視光領域にある、その発光の色調によるホログラム再生像を目視にて判定可能とし、偽造防止性を高めた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なホログラムシート、特に、位相ホログラムを呈するレリーフホログラムのレリーフ位置に、フォトクロミック薄膜を配した発色型のホログラムシートに関するものである。
本明細書において、配合を示す「部」は質量基準である。また、「ホログラム」はホログラムと、回折格子などの光回折性機能を有するものも含む。「回折格子」には、光干渉縞などの光学的に形成したものや、電子線描画方法などの直接描画方法によって形成したものを含む。
【背景技術】
【0002】
(主なる用途)
本発明のホログラムシートの主なる用途としては、ホログラムそのものを装飾用として用いる美術・工芸品分野や商業用分野があるが、それにとどまらず、偽造防止分野に使用されるホログラムシートであって、具体的には、クレジットカード等の偽造されて使用されると、カード保持者やカード会社等に損害を与え得るもの、運転免許証、社員証、会員証等の身分証明書、入学試験用の受験票、パスポート等、紙幣、商品券、ポイントカード、株券、証券、抽選券、馬券、預金通帳、乗車券、通行券、航空券、種々の催事の入場券、遊戯券、交通機関や公衆電話用のプリペイドカード等がある。
これらはいずれも、経済的、もしくは社会的な価値を有する情報を保持した情報記録体であり、偽造による損害を防止する目的で、記録体そのものの真正性を識別できる機能を有することが望まれる。
【0003】
また、これら情報記録体以外であっても、高額商品、例えば、高級腕時計、高級皮革製品、貴金属製品、もしくは宝飾品等の、しばしば、高級ブランド品と言われるもの、または、それら高額商品の収納箱やケース等も偽造され得るものである。また、量産品でも有名ブランドのもの、例えば、オーディオ製品、電化製品等、または、それらに吊り下げられるタグも、偽造の対象となりやすい。
さらに、著作物である音楽ソフト、映像ソフト、コンピュータソフト、もしくはゲームソフト等が記録された記憶体、またはそれらのケース等も、やはり偽造の対象となり得る。また、プリンター用のトナー、用紙など、交換する備品を純正材料に限定している製品などにも、偽造による損害を防止する目的で、そのものの真正性を識別できる機能を有することが望まれる。
【0004】
(背景技術)
従来、情報記録体や上記した種々の物品(総称して、真正性識別対象物と言う。)の偽造を防止する目的で、その構造の精密さから、製造上の困難性を有すると言われるホログラムを真正性の識別可能なものとして適用することが多く行なわれている。しかしながら、ホログラムの製造方法自体は知られており、その方法により精密な加工を施すことができることから、ホログラムが単に目視による判定だけのものであるときは、真正なホログラムと偽造されたホログラムとの区別は困難である。
これらの真正性識別対象物、特にラベル形態や転写形態にてホログラム画像を施された物品は、ホログラム画像の目視確認という真正性識別のみでなく、新たな真正性識別方法を用いてその対象物の真正性を識別する必要が生じている。
【0005】
(先行技術)
これらの要求に応えるため、ホログラムに積層して、入射した光の内、左回り偏光もしくは、右回り偏光のいずれか一方の光のみを反射する光選択反射層を有するホログラムシートが提案された。(例えば、特許文献1参照。)
この光選択反射層として、コレステリック液晶を使用し、偏光版等を用いて確認する方法で偽造防止性を高めている。
しかしながら、特許文献1の記載にあるように、ホログラム形成層上の反射性薄膜層の反射率が高いため、コレステリック液晶層で反射されず透過した光(選択的反射光の補色光)が、この反射性薄膜層で反射し、再びコレステリック液晶層へ戻る(以下戻り光とする)ことにより、この戻り光が、コレステリック液晶を観察する際のノイズ成分となって、選択的反射光に付加・混在し、液晶本来の色調とならず、視認・識別することすら難しくなっていた。
【0006】
また、コレステリック液晶材料そのものが高価であり、その液晶性能を引き出すためには液晶層に接して、配向膜の形成が不可欠であって煩雑であり、さらには、コレステリック液晶の光散乱性により、ホログラム画像を再生する光がその液晶層を通過するときに画像にボケ・歪みを生じる等の問題があった。
このため、コレステリック液晶層の光散乱性を抑えたり、コレステリック液晶層そのものを薄くする等の工夫が考えられたが、コレステリック液晶層の光散乱性を抑えるために屈折率差を小さくしたり、コレステリック液晶層を薄くしたりすると、上記した光選択反射層としての機能が低下してしまい、ホログラム画像の鮮明性と偽造防止性能を確保する最適な条件を得ることが難しいという欠点を有していた。
さらには、ホログラム形成層をフォトクロミック材料で構成し、そのフォトクロミック層の一方の面にホログラムレリーフと反射性薄膜層を形成することで、そのホログラムレリーフの存在を隠蔽する偽造防止方法が提案されているが、この積層におけるフォトクロミック層は、あくまで「意外な色調変化をする」層としての役目をしているのみであり、偽造防止効果としては不十分であった。(例えば、特許文献2参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−90538号公報
【特許文献2】特開平3−248188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明はこのような問題点を解消するためになされたものである。その目的は、位相ホログラムのホログラム形成層、すなわちホログラムレリーフに接するようにフォトクロミック薄膜層を設け、もしくは、ホログラムレリーフに同調してフォトクロミック薄膜層を部分形成して、定められた条件下でのみ、所定の色調からなるホログラムを視認することができ、もしくは、定められた条件下で、色調が変化したホログラムを視認することができる、新規なホログラムシートを提供することである。さらに、このようなホログラムシートはこれまでに存在しないため、新規な装飾性及び、これを応用する偽造防止性を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、
本発明のホログラムシートの第1の態様は、
透明基材の一方の面に、2ステップレインボーホログラム画像に対応した回折格子群を含むホログラムレリーフを有する透明樹脂層、及び、前記ホログラムレリーフを形成する凹凸に追従して、且つ均一な厚さで、フォトクロミック薄膜層が設けられていることを特徴とするものである。
上記第1の態様のホログラムシートによれば、
透明基材の一方の面に、2ステップレインボーホログラム画像に対応した回折格子群を含むホログラムレリーフを有する透明樹脂層、及び、前記ホログラムレリーフを形成する凹凸に追従して、且つ均一な厚さで、フォトクロミック薄膜層が設けられていることを特徴とするホログラムシートを提供することができる。
本発明のホログラムシートにおいては、2ステップレインボーホログラム画像を再生する回折格子群が、ホログラムレリーフとして、透明樹脂層面上に略一平面として形成されており、このレリーフ上に、若しくは、このレリーフに追従して均一な厚さでフォトクロミック薄膜層が設けられている。
すなわち、ホログラムレリーフは、位相ホログラムとしての位相差をレリーフ形状に現しているが、この位相差を有するレリーフ形状に追従して(沿って)フォトクロミック薄膜層が設けられることにより、フォトクロミック薄膜層が呈する色調が、上記位相差を有して(含んで)観察されることになる。言い換えれば、フォトクロミック薄膜が所定の条件下において呈する「色調」を有する「光」がそのフォトクロミック薄膜層から「発する」ことになる。
【0010】
これは、レリーフホログラムを再生する場合に生じる(ホログラム再生の元となる)ホイヘンスの2次波に対し、本発明のホログラムシートの場合において、この2次波に相当するものが、ホログラムレリーフ面に配されたフォトクロミック薄膜の呈する色調(以後、発した色として「発色」、若しくは、発色した光として、「発色光」、又は「発光光」とも表現する。)であり、この発色光がその役目を担い、ホログラム画像に対応した回折格子群を含むホログラムレリーフが有する位相差を含んで発色光を観察者側に発するものである。
この発色光が、ホログラムレリーフ面上の空間において干渉現象を起こし、その結果、所定の方向に所定のホログラム再生像を発現する。
【0011】
本発明は、ホログラムの照明光源の波長とは異なる、一つの特定の色調でホログラムを再生するものであり、例えば、紫外線で照明し、青色のホログラムを視認することもできるため、観察者の目には、あたかも、通常用いられる青色の照明光源の無いところに、ホログラムだけが光輝き、空中に浮いているように見え、意匠性にも優れるものとなる。
フォトクロミック薄膜の発光は、フォトクロミック分子による自然発光であって、その発光方向は、例えば、「一つのフォトクロミック分子」から「全方位的」に発光が起こる。すなわち、空間の中の一点を中心とする球体表面がその一点から徐々に離れ大きくなるように光が発散する。
このようなフォトクロミック分子を、非常に薄い曲面間中に閉じ込め(ホログラムレリーフ曲面を非常に短い距離だけ離間した2枚の曲面とし、その間にフォトクロミック分子を詰め込む状態となる。)、励起光を照射して発光させた場合には、発光波長そのものは、ほぼ一つの発光曲線に収斂したものとなるが、その発散する「方向」は、あらゆる角度に連続的且つ満遍なく一様な強度を持って、すなわち、全方位へ進んでいく。
しかし、フォトクロミック分子をその非常に薄い曲面間中に閉じ込めることで、「その曲面の空間的な位相差」を有した(含んだ)発散光がその曲面の近傍の空間に放出され、その空間において干渉現象を起こして、互いに強度を強めあうもののみが残り、視認され得るものとして観察者の目に映るものとなり、これが、ホログラム再生像となる。
但し、発散方向が全方位であるため、各方向にホログラム再生像を結像し、その各方向に向かうホログラム再生像同士が重なり合うことによって(結像距離は少しずつ異なる。)その視認性を低下させる。
これは、例えれば、単波長の点光源を、縦横無数(無数に近い。)に並べた平面光源によって、レリーフホログラムを照明するような状況となるため、個々の点光源がそれぞれのホログラム再生像をそれぞれの結像位置に再生し、これを観察した場合には、無数の再生像が、縦横に僅かずつその位置をずらして重なった状態で視認される。
従って、この状況では、ホログラムの立体像を把握することは難しいくなる。但し、実際には、上記したように、干渉現象による取捨選択効果及び、その記録面よりある程度離れた位置から観察することによって生じる、「記録面からの方向を制限(絞る)効果」により、立体像を認識することは可能である。
本願発明は、上記したホログラム再生像の多重再生を制限して、より鮮明なホログラム再生像を得るものである。
【0012】
この重なりを分離するため、「2ステップレインボーホログラム方式」の概念を導入し、第1ステップでホログラム画像を記録したもの(記録媒体1)を、物体光とし、その記録媒体1の前に所定の開口部を設けたスリットを置き、そのスリットを通過させて物体光を発生させ、所定の参照光と干渉させて記録したもの(記録媒体2)を、ホログラムレリーフとして用いる。
この記録媒体2を連続的な種々の波長を有する「白色光」で照明すると、異なる方向に各波長のスリット像が再生され、そのスリットの開口部の中に、(さらにその奥に、)各波長のホログラム再生像が覗いて見えるものである。(図1参照。)
通常、「2ステップレインボーホログラム方式」では、「白色光」を「七色」に分離することが目的であって、且つ、一般的な室内蛍光灯が「3波長管」のように、そのスペクトルが全波長に渡って連続でなく、「3つの波長」に制限されているため、そのスリット幅をそれほど狭いものとする必要はなく、スリット幅を30mm〜50mmとし、スリット長さ(観察時の両眼方向)には制限を設けていない。
本発明の場合には、光源として一つの発光曲線を有するものであるものの、一つの平面に縦横に敷き詰められた点光源の集合体からの照明を想定するため、このスリット幅をより狭くして、「人の瞳」の直径もしくは、その1/2〜1/10とする。1/10未満となると、個々の再生像の縦方向の大きさが小さいものとなり、視認しづらくなる。
さらに、スリットの長さも、上記の理由から制限する必要があるが、「人の両眼の距離」より小さくすると、「立体感」そのものが大幅に低下するため、スリット長さは、「その距離」の1/2〜2/1とする。
【0013】
このような2ステップホログラム画像を再生するホログラムレリーフを、上記の非常に薄い曲面の形状とし、その曲面中に閉じ込められたフォトクロミック分子を発光させると、各方向に発散する蛍光発光がそれぞれ上記したスリット開口部を再生し、その中に、ホログラム再生像を覗くことができ、互いの再生像の重なり(撹乱)を減少させることができる。
蛍光発光の発散方向は球対象であるため、上記スリットの幅は非常に狭くする必要があり、ホログラムレリーフ面から30cm程度離れた位置で観察する場合には、その幅は0.5mm〜5mmとする。
0.5mmより小さいと、再生したホログラムの全体像が判読しにくくなり、5mmより大きいと上記した撹乱作用が大きくなる。
さらには、その長さも同様の理由により20mm〜100mmとすることで、天地左右の上記撹乱を抑制することができる。
このようなホログラムレリーフは、概念上「2ステップレインボーホログラム」として定義したが、その効果を達成するために、1ステップの光学的撮影方法や、電子的に制御した空間変調素子(液晶素子等。)を用いる方法のみならず、ホログラム再生領域を所定の開口部に制限するように設定した計算機合成ホログラム(CGHともいう。)を用いても作成することができる。
【0014】
立体像が再生可能な計算機合成ホログラムの作成手法には、概略2つの方法があり、その1つは非特許文献「画像ラボ」(1997年4月号Vol.8,No.4.34〜37頁)若しくは、「3次元画像コンファレンス‘99―3D Image Conference’99−」講演論文集CD−ROM(1999年6月30日〜7月1日工学院大学新宿校舎)等で知られた物体表面を点光源の集合で置き換える方法である。もう1つは、ホログラフィック・ステレオグラムの方法である。
本発明においては、前者の物体表面を点光源の集合で置き換える方法を採用できる(図2参照。)。これは、干渉縞の強度分布を記録したバイナリホログラムであって、再生像が水平方向の視差のみを持ち、上方からの白色光で観察される場合について、その概要を説明すると、図2 に示すように、ステップST1で、CGH化する物体の形状の定義される。次いで、ステップST2で、物体、CGH面、参照光の空間配置が定義される。次いで、ステップST3で、物体は、水平面でのスライスにより垂直方向に分割され、さらにスライス面上で点光源の集合に置き換えられる。そして、ステップST4で、これらの空間配置に基き、CGH面上に定義された各サンプル点において、物体を構成する各点光源から到達する光と参照光との干渉縞の強度が演算により求められ、干渉縞データが得られる。次に、ステップST5で、得られた干渉縞データは量子化された後、ステップST6で、EB描画用矩形データに変換され、ステップST7で、EB描画装置により媒体に記録され、CGHが得られる。
【0015】
より具体的には、本出願人出願特許「特開2008−77042」に記載した手法により、立体模様の原画像となる「三次元構造体M」として、その「三次元構造体M」の表面上の「標本点Q」の位置における「法線ベクトルN」を、上記した記録媒体1から所定のサイズの開口部を通して進行する「物体光」にあてはめ、これを投影面Syzに投影して得られる投影ベクトルN*と基準軸Rとの交差角ξを求め、θ=ξ/2なる方位核θを定義して、「標本点Q」に対応する投影面Syz上の点Pに位置する画素に、X軸に対して方位角θをなす方向を向いた回折格子線を配置してなる回折格子を有する画素パターンを割付け、この割付けを物理的記録媒体(上記、記録媒体2に相当。)に、電子線描画装置による電子線レジストへの描画及び、現像処理を経て、本願発明のホログラムレリーフを得るものである。
この記録媒体2は、所望の大きさ、例えば、100mm×100mの大きさを有しているので、この記録媒体2を観察する際には、その観察位置(視認する目の位置。)は、一点に留まるものではなく、記録媒体の最上部と、最下部に向けて観察角度を変える場合が多い。この場合は、視認する角度が変化する(異なる)ため、このことを想定して、上記したスリット開口部は、この角度差を考慮して、所定の距離を隔てて複数設定することができ、ホログラム再生像の「視認性」を向上させることができる。
【0016】
さらに、ホログラムを再生するための励起光の波長域が非常に狭い場合には(フォトクロミック薄膜の励起をするための光源波長が限定されていることを意味する。)、その特定の波長域を知りうる者のみがホログラム再生を果たすことができ、真正性判定用に有用なものとなる。また、上記励起後の発色した、もしくは変化した色調を知りうる者のみがホログラム再生像の色調を予測でき、その再生波長に調整したバンドパスフィルターを通して覗いて、そのバンドパスフィルターを通過できるホログラムのみが、真正であると判定することもできる。
また、このバンドパスフィルターを通過する角度(回折角度)も、その発色もしくは変化後の波長に依存し、やはり、その値を知りうる者のみがその所定の角度で判定を行うことができる。
さらに、同一波長で励起可能で、且つ、励起後の色調が異なる、フォトクロミック分子を複数含めると、この再生像は複数の角度に異なる色調で現れることになり、意匠性の面でも、真正性判定の面でもより優れたものとなる。
フォトクロミック薄膜が、その色調を変化させる様子を、フォトクロミック分子ポテンシャル曲線(図1参照。)を用いて、以下に説明する。
フォトクロミック分子Aは、ある波長λの光照射によってエネルギーを得て、励起状態の分子A*になる。(STEP1)
このとき、励起状態となったフォトクロミック分子A*は分子内反応、例えば、cis−trance異性化反応や、閉環・開環反応、酸化・還元反応、水素移動による互変異性等を起こして、その分子の幾何構造や、電子構造を変化させる。
【0017】
この変化によって、フォトクロミック分子A*は、フォトクロミック分子Aとは違った波長の光λ′を吸収するフォトクロミック分子B へと変化する。
そして、フォトクロミック分子B は、その吸収波長λ′の光の吸収(STEP2)、もしくは、熱エネルギーを吸収(STEP3)して、再び、フォトクロミック分子A へと戻る。
そしてこのSTEP1〜STEP3を繰り返すことが可能である。
このとき、フォトクロミック分子B からフォトクロミック分子A への熱戻りのしやすさは、その基底状態ポテンシャルエネルギー△E(図1:STEP3
)の大きさに依存することになる。
熱戻りがしにくい、つまり△Eが極端に大きければ暗所に保存しておけばその
まま着色体を維持し続けることになる。(このようなフォトクロミック分子は、これを光のみに依存するという意味でP 型という。)
逆に、光が当たらなくなって、すみやかに脱色、もしくは、元の色調に戻る場合には、△Eは比較的小さい。(このようなフォトクロミック分子は熱依存性が
あるという意味で、T 型という。)
【0018】
すなわち、フォトクロミック薄膜は、あるときはフォトクロミック分子Aで構成され、あるときは、フォトクロミック分子Bで構成されていることになる。
フォトクロミック分子Aもしくは、Bはそれぞれ特徴のある光吸収曲線を有しており、フォトクロミック分子Aは波長λにおいて、フォトクロミック分子Bは波長λ´において大きな吸収(曲線)部分を持つ。
一例として、フォトクロミック分子Aにおける波長λが、紫外線領域にある場合、フォトクロミック分子Aは、無色透明であって、励起状態A*を経て、フォトクロミック分子Bに変化して初めて、可視光領域にある特定の波長(これが波長λ´の場合もある。)を中心とする光の吸収により、特定の色調を呈するようになる。
この「色調を呈する」状況は、フォトクロミック分子Bが、可視光領域において所定の光吸収曲線を有しており、このフォトクロミック分子Bに白色光を当てた際に、特定の波長を含む所定の波長領域の光を吸収し、吸収されなかった波長領域の光が発散光として、フォトクロミック分子Bからなるホロクロミック薄膜層から発することになる。
この例によるホログラムシートにおいては、フォトクロミック分子Bから発する発散光が、上記したホイヘンスの2次波の役割を担うことになる。
従って、フォトクロミック薄膜層がフォトクロミック分子Aで構成されているときには、このフォトクロミック薄膜層が無色透明であって、その位置にホログラムがあるとは認識できず、そのフォトクロミック薄膜層の背景にあるものが見えているが、波長λの照明光をフォトクロミック薄膜層に当てることにより、フォトクロミック薄膜層が上記した波長領域の光を発散し、その発散光の干渉により、その発散光の「色調」によるホログラムが空中に浮かんで見えることになる。
【0019】
この発散光の「色調」によるホログラム再生像は、フォトクロミック薄膜層が、上記したP型である場合には、その「色調」をしばらく維持し、徐々に消色し、また、フォトクロミック薄膜層が、上記したT型である場合には、比較的すみやかに「色調」が消色し、再び、無色透明となる。
また、フォトクロミック分子A、Bがいずれも可視領域の色調を呈する場合には、ホログラム再生像の色調が変わる現象が現れることになる。
本発明のホログラムシートのこのような効果を意匠性ととらえて、鑑賞用途に採用してもよい。
また、T型の中でも、その消色の速さを非常に早いものとして、波長λの照明をはずすと同時に消色するように設計し、ホログラム真正性判定者が、ホログラムシート(もしくはホログラムシート貼着物)保持者から、そのホログラムシート(もしくはホログラムシート貼着物)を預かり、素早く波長λの照明を僅かな時間照射し、その瞬間に、上記した発色光によるホログラム再生像を視認して、真正であることを確認し、その後、すみやかに、そのホログラムシート(もしくはホログラムシート貼着物)を、その保持者に返却するなど、その真正性判定を、その保持者に気づかれずにに行うことを可能とすることもできる。
この場合には、消色の速さを、発色強度(発色濃度)の半減期で表現して、その半減期が、0.1秒〜数秒となるように設計する必要がある。こうすることで、波長λの光を照射すると、速やかに上記した変化が生じ、フォトクロミック分子Bの「色調」のホログラム再生像が現れ、波長λの光の照射を止めると、速やかに無色透明となる、真正性判定に優れるホログラムシートを提供することができる。
もちろん、波長λの光を照射後、発色を確認し、速やかに波長λ´の光を照射して消色するような判定システムを用いることも好適である。
【0020】
次に、ホログラフィの原理について説明する。
物体がコヒーレント光で照明され,物体から回折された光が記録媒体(フォトレジスト等。)を照明しているとした場合、物体から回折されて記録面に到達した物体波は、
F(x,y)=A(x,y)EXP[φ(x,y)]
であらわされる。ここで、
A(x,y) は物体波の振幅分布とし、
φ(x,y) は位相分布とする。
このとき、記録媒体には、記録媒体に到達する光波の強度分布が記録される。その強度分布は、
I(x,y)=|F(x,y)|2=A2(x,y) (1)
となり、位相分布は記録されない。
ここで,物体波にこれと干渉性のある光波(参照波という)を重ね合わせると,記録される光波の強度分布は、
I(x,y)=|F(x,y)+R(x,y)|2
=|F(x,y)|2+|R(x,y)|2
+F(x,y)R*(x,y)+F*(x,y)R(x,y) (2)
となる.(*は複素共役項を表す。)
【0021】
ただし,参照光が記録面に角度θで入射する平面波であるとすれば、
R(x,y)=r(x,y)EXP(2πiαx) (3)
と書け、
α = SIN(θ)/λ (4)
である。(2)の第1項と第2項はそれぞれ、物体波の強度と参照波の強度でいずれも位相情報は欠落している。第3項と第4項は干渉の項でそれぞれ
F(x,y)R*(x,y)=
A(x,y)r(x,y)EXP[i [φ(x,y)−2παx] ] (5)
F*(x,y)R(x,y)=
A(x,y)r(x,y)EXP[−i [φ(x,y)−2παx]] (6)
とあらわされ、物体の位相項 φ(x,y) が残っている。(5)、(6)は互いに複素共役であり、(4.2)の第3項は物体の複素振幅分布を含んでいる。(5)、(6)を(2)に代入すると、
I(x,y)=|F(x,y)|2+|R(x,y)|2
+2A(x,y)r(x,y)COS [2παx−φ(x,y)] (7)
となる.物体波と参照波が干渉して干渉縞を形成していることがわかる。
【0022】
このように、物体波に参照波を重ね合わせて干渉記録し、 物体の位相情報を欠落させずに記録する方法がホログラフィである。(7)を記録したものが「ホログラム」と呼ばれる。ホログラムの振幅透過率もしくは振幅反射率が、記録した強度分布 I(x,y)に比例し、
T(x,y)=τI(x,y) (8)
とかけるとする。このホログラムに、記録したときに用いた参照波を所定の角度であてると、ホログラムを透過もしくは反射してきた波面は、
T(x,y)R(x,y)=τ(|F(x,y)|2+|R(x,y)|2
+τF(x,y)|R(x,y)|2
+τF*(x,y)R2(x,y) (9)
とあらわすことが出来る.この第2項は
τF(x,y)|R(x,y)|2
τA(x,y)r2(x,y)EXP[iφ(x,y)]] (10)
第3項は、
τF*(x,y)R2(x,y)=
τA(x,y)r2(x,y)EXP[−iφ(x,y)+2πiα] (11)
とかける。
【0023】
このことから、(9)の第1項は、照明光と同じ方向にホログラムを突き抜ける光束もしくは正反射する光束であり、第2項は、(10)より、物体光に比例した振幅を持つ光波であることがわかり、第3項は、(11)より、物体波と共役な位相分布を持ち、2θの方向に伝播する光波であることがわかる。
このようにして,ホログラフィの技術を使うと複素振幅分布を記録して再生することが出来る。
本発明の場合は、ホログラムの振幅透過率もしくは振幅反射率が、記録した強度分布に比例し、(8)の式で表されてはいるものの、このホログラムに、記録したときに用いた参照波を所定の角度であてるのではなく、(8)の振幅透過率もしくは振幅反射率と同様の空間的な分布を持つ発光波がこのホログラムから発せられることになる。
従って、参照光にホログラムに記録された位相項を付与するという従来のホログラム再生の原理によらず、既にホログラムに記録されている位相項を保持して発光波を放射するものである。従って、理論上は、物体の位相差を含む空間関数を持つ3次元の連続曲面状の発光面を有し、その1曲面から光が放射されることになる。
【0024】
従来のホログラム再生原理を透過タイプについて、単純化して説明すると、参照光としての平行光をホログラムにあてた際、遮蔽部分では、平行光が遮蔽され、透過部分からのみその平行光を透過し、透過部分と遮蔽部分との境界において回折が起こり、物体の持つ位相項を受け取り、ホログラムを透過した成分全体が重ね合わさり、それがホログラム再生光となって観察者の目に届くものである。
本発明の場合は、上記した参照光としての平行光が存在せず、ホログラムレリーフに接するように設けられた発光面での発光時、その放射光が物体の位相項を保持しており、その放射光同士の干渉現象により、ホログラム再生がなされるものである。
時間的且つ空間的コヒーレンス性を持たない放射光同士の干渉効果は、レーザー光のような十分な干渉を生じないが、低コヒーレント光で ホログラムを照明した際と同様のレベルでホログラム再生が行われる。例示すれば、レーザー光のような特別な光源による照明を用いず、一般家庭や、一般的な事務所等において用いられている「蛍光灯」のような、「人工的に発生させた自然光」によっても、ホログラムを再生させることが十分可能である。但し、「人工的に発生させた自然光」であっても、その光源の大きさが、「点光源」であるか、「線状」であるか。もしくは「平面状」であるかによっても、また、その発光波長が、「単色光」であるか否か、さらには、その発光曲線の半値幅が狭いか否か等によって、その「ホログラム再生像の鮮明さ」は大きく左右されることになる。
以上のような原理によるホログラム再生であるため、ホログラム撮影時の参照光は平行光であることが好ましく(複雑な参照光を再現できないため。)、もしくは、「回折格子により表現されたホログラム」(回折格子は、物体光、参照光とも平行光である。)であることが好ましく、さらに、回折格子は計算機ホログラム等、電子線描画により形成したものが精密であり、好適である。
【0025】
さらに、上記の理由から、ホログラム再生像をより鮮明にするためには、放射光に、時間的若しくは空間的なコヒーレンス性に類する特性を付与することが必要であり、例えば、発光する層の厚さを薄いものとしたり、発光波長の幅を狭くすることが望ましい。さらに、励起光源も小さい形状であることが好ましく、スポット形状等が特に好適である。
また、発光する層を励起する励起光と、変化後の発光波長との波長差は大きい方が望ましく、さらに、観察時、その励起光をフィルタリングして発色光のみを取り出したり、さらにそれを増幅することも有効である。
励起光源として、紫外線、可視光線、電子線、X線等のエネルギー及び、場合に応じて、赤外線エネルギーを放射可能な光源を用いて、発光等をさせることができるが、ホログラム観察用さらには、ホログラム認証用に用いるためには、フォトクロミック薄膜に応じた光源を用いる必要があり、所定の強度、波長、さらには照明スポットのサイズを有する紫外線光源、可視光光源、場合により赤外光光源を用いることが好適である。
これらの光源による照明により、ホログラムレリーフ面に接するように設けられたフォトクロミック薄膜層から、さらに言及すれば、そのフォトクロミック薄膜層に含まれるフォトクロミック分子等から個々に、照明光源の波長とは異なる波長の発光等が発現する。その発光等が、ホログラムレリーフと同一の空間的位相を含み、且つ、照明光源とは異なる波長(発光波長。)を有することから、ホログラムレリーフによる正反射光(0次回折光)方向や、照明光波長(励起光波長)による回折方向とは異なる方向、すなわち、発光波長による回折方向へホログラム像の再生が行われる。
【0026】
但し、このフォトクロミック薄膜層の厚さが、ホログラムレリーフとは無関係にそのホログラム面上に分布している場合には、その厚さ分布に起因する発光強度分布が、場合によっては、ホログラムを再生する光と不要な干渉を生じ、ホログラム再生像を不鮮明にする要因となり得る。
この要因を排除するため、フォトクロミック薄膜層を、ホログラムレリーフを形成する凹凸に追従して均一な厚さで形成して、ホログラムレリーフ面のどの位置からも、同一の強度の発光が生じるようにし、ホログラム再生像の鮮明化を図る。
本発明のホログラムシートの照明光(励起光)として、可視光以外の紫外光や赤外光を使用した場合は、その光は観察者には見えず、あたかも照明光のないところからホログラム再生像が浮き上がっているように観察されるが、このホログラム再生像は、例え、照明光が、時間的・空間的なコヒーレント性を有していても、結果として、励起・発光というプロセスを経て発光するものであるため、その発光時の空間的なホログラムの位相を含んではいるとはいえ、その発色光同士の時間的及び空間的なコヒーレント性は小さく、ホログラム再生像は通常のレーザー再生レリーフホログラムのレーザー光による再生像より微弱であって且つ不鮮明となっている。
もちろん、ビーム形状の回折光を観察するのみであれば、その色調と回折方向を確認することは容易であり、そのままでも真正性の判定に差し支えないが、このため、この微弱且つ不鮮明なホログラム再生像を観察者が認識しその存在を正確に判定可能とするために、フォトクロミック薄膜の発光性能を向上させ、且つ、回折角度を大きくとって波長―回折角依存性を強め、照明光回折角度と発光光回折角度の差を大きくし、さらには、フォトクロミック薄膜層を薄くして、フォトクロミック薄膜層厚さ方向のばらつきを抑え且つ均一なものとすることが必要となる。(発光面が位相情報を含んでいるため、その空間的な形状を正確に再現するものとする。)
【0027】
さらには、時間的なコヒーレント性を発現するため、光源として発光時間が10-15sec以下のパルスレーザーで励起して、パルスとパルスの時間的間隔をA−B分子間遷移時間以上あけて照明することも好適である。これにより、一つの励起パルスによって生じた一つの発光の発光面が、次の励起パルスによって生じた発光面とは、互いに撹乱現象を起こさず、一つのパルスによって発現した一つの発光面によって生じるホログラフィックな干渉現象により、鮮明なホログラム再生像を観察することができるようになる。もちろん、単純に秒単位でON−OFFするストロボ状の光源を使用した場合でも、観察者には、連続して発光しているようにも見えるため、このような簡易な手段であっても目視で確認する場合には、上記した効果を十分得ることができる。
フォトクロミック薄膜層は、フォトクロミック分子を樹脂に混入させたり、溶剤(若しくは水)に分散させたりしたフォトクロミック分子含有インキを、グラビア方式、オフセット方式、シルクスクリーン方式、ノズルコート方式さらにはインクジェット方式等でホログラムレリーフ上に形成することができる。
このとき、インキ中のフォトクロミック分子の含有割合を調整する等により、形成したフォトクロミック薄膜層を、ホログラムレリーフを形成する凹凸に追従して均一な厚さで形成することができる。
ホログラムレリーフの凹凸は例えれば、1μmレベルの周期で、深さ0.01μmレベルの凹凸を持つ、ゆるやかな曲線であって略平面と見做せるため、この略平面上に適宜な粘度(0.1〜10パスカル・秒)に調整し、インキの自重によるレベリング効果を発揮させることと、インキ中の固形分を10%以下、さらには5%以下とすることで、例えば、厚さ1μmに対して、そのばらつきを1/10以下に、さらには1/20以下に抑えることができる。
【0028】
ここで、フォトクロミック薄膜層を1μmオーダーとしたが、ホログラム再生像の鮮明度を向上させるためには、フォトクロミック薄膜層を離散的に設けることも好ましく、このために、フォトクロミック薄膜を形成する領域の単位(サイズ)を1.0μm程度もしくはそれ以下、例えば0.01μm〜0.5μm、より好適には、0.01〜0.05μmとし、ホログラムレリーフ面内に均一に点在させることも好適である。そして、フォトクロミック薄膜層厚さ方向には、フォトクロミック分子、もしくは、フォトクロミック分子を吸着させた微粒子を単位として1〜10分子もしくは1〜10粒子で並んでいる状態とすることが好ましい。
中でも、ノズルコート方式やインクジェット方式、さらには、化学蒸着等の物理的蒸着法では、樹脂を使用せず溶剤等とフォトクロミック分子や粒子のみで薄膜を形成可能であり、フォトクロミック薄膜層として非常に薄く形成(フォトクロミック分子や粒子1〜10分子等。)することができるため好適である。その上にそれらのフォトクロミック薄膜を固定するために適宜な透明樹脂層を保護層として形成してもよい。
ところで、フォトクロミック材料は、ホログラム記録材料や、光メモリ用記録材料そのものとして用いることは可能であり、そのような用途は既に公知であるが、これらは、フォトクロミック材料に直接ホログラフィックな記録(干渉縞の記録)を行うものであって、フォトクロミック材料に微細な明暗の記録を行うものである。
この記録は、記録した領域のフォトクロミック分子に変化を与えない手法(変化を与えない波長の光を照射するなど。)を用いて、読み出されることになる。
これに対して、本発明のホログラムシートは、均一に形成したフォトクロミック薄膜層を全て同様に(均一に)照明し、均一な発色を生じさせるだけのものであって、ホログラム撮影光学系を組んでフォトクロミック薄膜層を露光するというような複雑な工程を必要とせず、フォトクロミック薄膜層そのものが「その形状として保有」している凹凸形状に、そのホログラム情報を担持させており、フォトクロミック薄膜層を均一に形成するだけでホログラム情報を「取得する」(「ホログラム再生情報」を「獲得する」という意味。)ことができるという顕著な効果を有するものである。
【0029】
また、本発明のホログラムシートの第2の態様は、
前記フォトクロミック薄膜層が、前記ホログラムレリーフを形成する凹凸の凹部にのみ形成されていることを特徴とするものである。
上記第2の態様のホログラムシートによれば、
前記フォトクロミック薄膜層が、前記ホログラムレリーフを形成する凹凸の凹部にのみ形成されている請求項1記載のホログラムシートが提供される。
ホログラムレリーフは、周期1μm程度で、深さは、0.01μm、最大でも0.5μmの凹凸形状をしており、この凹部にのみフォトクロミック薄膜層を設けることで、ホログラムレリーフの周期に同調するかたちで、フォトクロミック薄膜層の有無、すなわち、発光の有無を設けることができる。
ホログラムレリーフの凹部とは、ホログラムレリーフ上にフォトクロミック薄膜層を形成する際の凹部であって、通常の観察の仕方、すなわち、ホログラム形成層側から観察する場合には、凸部側となる。フォトクロミック薄膜層の有無を利用して発光強度分布を形成するためには、凹凸どちらかに部分的に形成すればよく、さらには、凹部全体をフォトクロミック薄膜層で埋めてもよく、もしくは、凹部の底の部分のほんの一部のみに形成してもよい。但し、その位相分布と形成する分布が同調する必要があるため、一部に形成する場合は、常に同一の位置に同一のフォトクロミック薄膜「量」を持って形成しなければならない。(この「量」が、発光強度に比例するため。)
凹部に選択的にフォトクロミック薄膜層を形成する方法としては、溶剤等に分散した粒径の非常に小さい、フォトクロミック分子を含むか、その表面に吸着させた微粒子(粒径が0.01μm等。樹脂を含まない。)インキを使用して、ホログラムレリーフの上にインキ層を形成し、溶剤が揮発する間に、微粒子が自重で凸部から凹部へと移動するようにしても良い。
【0030】
また、規則的な回折格子を設け、その上に均一に設けたフォトクロミック薄膜層をフォトリソグラフィーを用いて、その規則的な回折格子に同調させて露光現像、エッチングすることにより、凹凸とフォトクロミック薄膜層を同調して設けることもできる。この方法によると、各凹部に点在するフォトクロミック薄膜層の厚さや大きさを制御可能であり、レリーフ面全体に、いわば”均一に”形成することができる。
以上の手法により形成したものは、上記のホログラムの原理において説明した、発光(放射光)にホログラムレリーフの位相情報を含ませること、に加え、その位相情報に同調した振幅情報をさらに含ませるものである。
従って、発光放射光に位相ホログラムと振幅ホログラムの両方のホログラム情報を含ませることができ、より鮮明なホログラムを得ることが可能となる。
これにより、その意匠性及び真正性判定性を向上することができる。
また、本発明のホログラムシートの第3の態様は、
前記フォトクロミック薄膜層の厚さが、0.01μm以上0.5μm以下であることを特徴とするものである。
上記第3の態様のホログラムシートによれば、
前記フォトクロミック薄膜層の厚さが、0.01μm以上0.5μm以下である請求項1または2記載のホログラムシートが提供される。
上記したホログラムの原理より、ホログラム再生像の鮮明度を高めるためには、フォトクロミック薄膜層の厚さは薄いことが望ましいが、薄くすればするほど、ホログラム再生時の発光強度が弱くなるため、フォトクロミック薄膜層厚さは、0.01μm以上1.0μm以下である必要があり、さらには、0.01μm以上0.5μm以下であることが好ましい。
0.01μm未満(最小粒径の粒子1個分)では、発光強度が弱すぎて、光電子倍増管を用いて増幅したとしても、迷光等のノイズとの区別がつきにくく、1.0μmを超えると、発光強度は本発明の目的には十分な強度を得ることが可能であるが、厚さ方向に複数存在する粒子からの発光により、ホログラムレリーフの位相情報を担う曲面の位置がその厚み方向に複数存在することになり、結果としてホログラム再生像が不鮮明となる。
これに対して、0.01μm以上として発光強度を確保し、0.5μm以下として、位相情報を担う曲面の位置を明確にして、ホログラム再生像を鮮明なものとする。
【発明の効果】
【0031】
本発明のホログラムシートによれば、
透明基材の一方の面に、2ステップレインボーホログラム画像に対応した回折格子群を含むホログラムレリーフを有する透明樹脂層、及び、前記ホログラムレリーフに接するようにフォトクロミック薄膜層が設けられていることを特徴とするホログラムシートが提供され、照明光の波長と異なる波長によるホログラム再生像を持つ、意匠性及び真正性判定性に優れるホログラムシートが提供される。
また、本発明の他のホログラムシートによれば、
位相情報に加えて振幅情報も有する、もしくは、発光層が薄く、より鮮明なホログラム再生が可能なホログラムシートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】は、2ステップレインボーホログラム方式の説明図である。
【図2】は、計算機合成ホログラム作成方法の説明図である。
【図3】は、フォトクロミック分子ポテンシャル曲線を説明する図である。
【図4】は、本発明の1実施例を示すホログラムシートAの断面図である。 (フォトクロミック薄膜層が、「ホログラムレリーフを形成する凹凸 に追従して均一な厚さで形成されている」例。)
【図5】は、本発明の他の1実施例を示すホログラムシートA´の断面図である。 (フォトクロミック薄膜層が、「ホログラムレリーフを形成する凹凸 の凹部にのみ形成されている」例。)
【図6】は、本発明の1実施例を判定するプロセスである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。
(透明基材)本発明で使用される透明基材1は、厚みを薄くすることが可能であって、機械的強度や、ホログラムシートAを製造する際の加工に耐える耐溶剤性および耐熱性を有するものが好ましい。使用目的にもよるので、限定されるものではないが、フィルム状もしくはシート状のプラスチックが好ましい。
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアリレート、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース、ポリエチレン/ビニルアルコール等の各種のプラスチックフィルムを例示することができる。
その中でも、紫外線等の励起光に対する耐性を有するもの、例えば、紫外線吸収剤を含むものであってもよい。紫外線吸収剤を含むものは、自然光等の中に含まれる紫外線により微かではあるが、予定外のホログラム再生を防ぐ効果も有する。
透明基材1の厚さは、通常5〜100μmであるが、ホログラム再生像の視認性を配慮する場合には、5〜50μm、特に5〜25μmとすることが望ましい。
【0034】
(2ステップレインボーホログラムレリーフを有する透明樹脂層:ホログラム形成層ともいう。)
本発明のホログラム形成層2を構成するための透明な樹脂材料としては、各種の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、もしくは電離放射線硬化性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としてはアクリル酸エステル樹脂、アクリルアミド樹脂、ニトロセルロース樹脂、もしくはポリスチレン樹脂等が、また、熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂、エポキシ変性不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、もしくはフェノール樹脂等が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂は、1種もしくは2種以上を使用することができる。これらの樹脂の1種もしくは2種以上は、各種イソシアネート樹脂を用いて架橋させてもよいし、あるいは、各種の硬化触媒、例えば、ナフテン酸コバルト、もしくはナフテン酸亜鉛等の金属石鹸を配合するか、または、熱もしくは紫外線で重合を開始させるためのベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド等の過酸化物、ベンゾフェノン、アセトフェノン、アントラキノン、ナフトキノン、アゾビスイソブチロニトリル、もしくはジフェニルスルフィド等を配合しても良い。
【0035】
また、電離放射線硬化性樹脂としては、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、アクリル変性ポリエステル等を挙げることができ、このような電離放射線硬化性樹脂に架橋構造を導入するか、もしくは粘度を調整する目的で、単官能モノマーもしくは多官能モノマー、またはオリゴマー等を配合して用いてもよい。
上記の樹脂材料を用いてホログラム形成層2を形成するには、感光性樹脂材料にホログラムの干渉露光を行なって現像することによって直接的に形成することもできるが、予め作成したレリーフホログラムもしくはその複製物、またはそれらのメッキ型等を複製用型として用い、その型面を上記の樹脂材料の層に押し付けることにより、賦型を行なうのがよい。
熱硬化性樹脂や電離放射線硬化性樹脂を用いる場合には、型面に未硬化の樹脂を密着させたまま、加熱もしくは電離放射線照射により、硬化を行わせ、硬化後に剥離することによって、硬化した透明な樹脂材料からなる層の片面にレリーフホログラムの微細凹凸を形成することができる。なお、同様な方法によりパターン状に形成して模様状とした回折格子を有する回折格子形成層も光回折構造として使用できる。
【0036】
微細な凹凸を精密に作成するため、光学的な方法だけでなく、電子線描画装置を用いて、精密に設計されたレリーフ構造を作り出し、より精密で複雑な再生光を作り出すものであってもよい。このレリーフ形状は、ホログラムを再現もしくは再生する光もしくは光源の波長(域)と、再現もしくは再生する方向、及び強度によってその凹凸のピッチや、深さ、もしくは特定の周期的形状が設計される。
また、カラーホログラム画像(2ステップレインボーホログラム方式を採用しているが、発光光は単色であるため、これにカラー化手法を加えることが可能である。)を、回折格子線からなる回折格子画素(同一の回折格子線からなる単一回折格子エリアの最小単位。これら画素から回折光としてでてくる光の集合が一つのカラーホログラム画像を形成する。)に要素分解し、所定の画素のサイズ、格子線ピッチ、格子線角度をその各要素に割り当てて再現するという画像処理方法を用いて形成することも可能である。
凹凸のピッチ(周期)は再現もしくは再生角度に依存するが、通常0.1μm〜数μmであり、凹凸の深さは、再現もしくは再生強度に大きな影響を与える要素であるが、通常0.01μm〜0.5μmである。
単一回折格子のように、全く同一形状の凹凸の繰り返しであるものは、隣り合う凹凸が同じ形状であればある程、反射する光の干渉度合いが増しその強度が強くなり、最大値へと収束する。回折方向のぶれも最小となる。立体像のように、画像の個々の点が焦点に収束するものは、その焦点への収束精度が向上し、再現もしくは再生画像が鮮明となる。
【0037】
ホログラムレリーフ形状を賦形(複製ともいう)する方法は、回折格子や干渉縞が凹凸の形で記録された原版をプレス型(スタンパという)として用い、上記透明基材1上に、前記原版を重ねて加熱ロールなどの適宜手段により、両者を加熱圧着することにより、原版の凹凸模様を複製することができる。形成するホログラムパターンは単独でも、複数でもよい。
上記の極微細な形状を精密に再現するため、また、複製後の熱収縮などの歪みや変形を最小とするため、原版は金属を使用し、低温・高圧下で複製を行う。
原版は、Niなどの硬度の高い金属を用いる。光学的撮影もしくは、電子線描画などにより形成したガラスマスターなどの表面にCr、Ni薄膜層を真空蒸着法、スパッタリングなどにより5〜50nm形成後、Niなどを電着法(電気めっき、無電解めっき、さらには複合めっきなど)により50〜1000μm形成した後、金属を剥離することで作ることができる。
複製方式は、平板式もしくは、回転式を用い、線圧0.1トン/m〜10トン/m、複製温度は、通常60℃〜200℃とする。
【0038】
(フォトクロミック薄膜層)
本発明では、ホログラム形成層2のホログラムレリーフ面に、フォトクロミック薄膜層3を形成する。
このフォトクロミック薄膜層に用いられる、フォトクロミック分子(フォトクロミック材料)としては、有機化合物系と、無機化合物系があり、
有機化合物系としては、
アゾベンゼン類(cis−trance異性):ジメチルアミノアゾベンゼン類等、
スピロピラン類(分子内開環―閉環):スピロベンゾチオピラン,スピロセレナゾリノベンゾピラン,スピロベンゾセレナゾリノナフトオキサジン等、より具体的には、1,3,3−トリメチルインドリノ−6'−ニトロベンゾピリロスピラン、1',3'−ジヒドロ−8−メトキシ−1',3',3'−トリメチル−6−ニトロスピロ[2H−1−ベンゾピラン−2',2'−(2H)−インドール]、1,3,3−トリメチルインドリノベンゾピリロスピラン、1,3,3−トリメチルインドリノ−6'−ブロモベンゾピリロスピラン、1,3,3−トリメチルインドリノ−8'−メトキシベンゾピリロスピラン、1,3,3−トリメチルインドリノ−β−ナフトピリロスピラン等、
スピロオキサジン類(分子内開環―閉環):スピロキノオキサジン類、スピロナフトオキサジン類、スピロフェナントロオキサジン類、スピロビピリドオキサジン類等、分子内に窒素原子を含む複素環構造を有する化合物等(赤紫〜青色。「着色」が速やかに消色。)、
スピロペリミジン類:2,3-ジヒドロ-2-スピロ-4'-[8'-アミノナフタレン-1'(4'H)-オン]ペリミジン、2,3-ジヒドロ-2-スピロ-7'-[8'-イミノ-7',8'-ジヒドロナフタレン-1'-アミン]ペリミジン等、
【0039】
アリールエテン類:対称型ジアリールエテン、非対称型2,3−ジアリールマレイン酸無水物、非対称ジアリールペルフルオロシクロペンテン等、
1,2-ビス(2,4-ジメチル-5-フェニル-3-チエニル)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン、1,2-ビス[2-メチルベンゾ[b]チオフェン-3-イル]-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン、2,3-ビス(2,4,5-トリメチル-3-チエニル)マレイン酸無水物、2,3-ビス(2,4,5-トリメチル-3-チエニル)マレイミド、cis-1,2-ジシアノ-1,2-ビス(2,4,5-トリメチル-3-チエニル)エテン等、より具体的には、発色波長:425nm、469nm、526nm、534nm、550nm、562nm、578nm、583nm、611nm、620nm、628nm、665nm、680nm、828nm等(構造により、青色、緑色、黄色、赤色等に発色。)、
フルギド類:ジフェニルフルギド、トリフェニルフルギド等、
クロメン類:6−モルホリノ−3,3−ビス(3−フルオロ−4−メトキシフェニル)−3H−ベンゾ(f)クロメン、6−モルホリノ−3−(4−メトキシフェニル)−3−(4−トリフルオロメトキシフェニル)−3H−ベンゾ(f)クロメン、6−ピペリジノ−3−メチル−3−(2−ナフチル)−3H−ベンゾ(f)クロメン、6−ピペリジノ−3−メチル−3−フェニル−3H−ベンゾ(f)クロメン、6−モルホリノ−3,3−ビス(4−メトキシフェニル)−3H−ベンゾ(f)クロメン、6−ヘキサメチレンイミノ−3−メチル−3−(4−メトキシフェニル)−3H−ベンゾ(f)クロメン、6−モルホリノ−3−(2−フリル)−3−メチル−3H−ベンゾ(f)クロメン、6−モルホリノ−3−(2−チエニル)−3−メチル−3H−ベンゾ(f)クロメン、6−モルホリノ−3−(2−ベンゾフリル)−3−メチル−3H−ベンゾ(f)クロメン等(橙色〜黄色に発色。)、
【0040】
シクロファン類:アントラセノファン、アントラセノナフタレノファン、アントラセノパラシクロファン等のアントラセン含有シクロファンやメタシクロファン等、
カルコン(1,3-ジフェニル-2-プロペン-1-オン)―フラビリウム系等、
フルギミド化合物類:N−シアノメチル−6,7−ジヒドロ−4−メチル−2−フェニルスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕チオフェンジカルボキシイミド−7,2−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン)、N−シアノメチル−6,7−ジヒドロ−2−(4'−メトキシフェニル)−4−メチルスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕チオフェンジカルボキシイミド−7,2−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン)、N−シアノ−6,7−ジヒドロ−4−メチル−2−フェニルスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕チオフェンジカルボキシイミド−7,2−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン)、N−シアノ−6,7−ジヒドロ−4−メチルルスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕フランジカルボキシイミド−7,2−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン)、N−シアノ−4−シクロプロピル−6,7−ジヒドロスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕フランジカルボキシイミド−7,2−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン)、N−シアノ−6,7−ジヒドロ−4−メチルスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕チオフェンジカルボキシイミド−7,2−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン)、N−シアノメチル−4−シクロプロピル−6,7−ジヒドロスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕チオフェンジカルボキシイミド−7,2−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン)、N−シアノメチル−4−シクロプロピル−6,7−ジヒドロ−2−(4'−メトキシフェニルスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕チオフェンジカルボキシイミド−7,2−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン)、N−シアノメチル−4−シクロプロピル−6,7−ジヒドロ−2−フェニルスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕チオフェンジカルボキシイミド−7,2−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン)、N−(3'−シアノフェニル)−6,7−ジヒドロ−4−メチル−2−(4'−メトキシフェニル)スピロベンゾチオフェンカルボキシイミド−7,2'−トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン(橙色〜青色に発色。)、
【0041】
チオインジゴ類(cis−trance異性)、サリチリデンアニリン類(分子内水素移動:結晶タイプ。)、ニトロベンジルピリジン類(分子内水素移動:結晶タイプ。)、テトラクロル−α−ケトジヒドロナフタリン類、ビス(トリフェニルイミダゾリル)類、テトラフェニルヒドラジン類、ビアンスロン類、ピリジルシドノン類、アントラセン誘導体(光二量化)、メチレンブルー(光酸化還元)、トリフェニルメタン類(イオン解離)、ヘキサフェニルビイミダゾル(ラジカル解離)、多環芳香族化合物(酸素付加)等、
を用いることができる。

特に、ジアリールエテン類を透明樹脂に分散させたもの、ジアリールエテン類の結晶化物は、物理特性、耐候性に優れる。
また、無機化合物系としては、
AgBr、AgCl、AgI、CuBr2、CuCl2、CuCl、CuI2、CuI、Ag単体、Cu単体等の中から選択した三成分系化合物等、
銀ナノ粒子-酸化チタン系等、
を用いることができる。
さらに、これらのフォトクロミック分子(材料)の中で、フォトクロミック分子Bとしての発光強度曲線(波長を横軸として。)が、可視領域において、一つのみのピークを持つものが好適であり、さらには、そのピークの半値幅が、10〜50nmであるものが、より鮮明なホログラム再生像を与えるため好適である。
【0042】
形成方法としては、一般的印刷方法、コーティング方法等も用いることは可能であるが、より精密な薄膜を形成する方法として、回転塗布法、キャスト法、スクリーン印刷法、ブレードコーティング法、ロール塗布法、水面展開法、LB(ラングミュア・ブロジェット)法等が挙げられ、ドライ・プロセスとしては真空蒸着法、スパッタリング法、化学蒸着法等が挙げられる。
特に、有機化合物系を均一に、且つ、分子レベルで薄膜形成するには、化学蒸着法が好適である。
より具体的には、フォトクロミック分子を透明な樹脂に均一に分散した樹脂分散型のインキや、水又は溶剤にフォトクロミック分子を分散した溶媒分散型のインキを作製し、それらを用いて、印刷方式や、コーティング方式さらには、インクジェット方式等の種々の形成方法を用いて、ホログラム形成層2に、そのホログラムレリーフに接するように、また、追従するよう均一に、若しくは凹部に部分的に、フォトクロミック薄膜層3を形成することができる。(ホログラムシートA)
また、ホログラム形成層2のホログラムレリーフ面上に、直接、フォトクロミック分子を化学蒸着法によりフォトクロミック薄膜層3を形成することも、そのホログラムレリーフ追従性や、その均一性から好適であるとともに、電子ビーム加熱真空蒸着法における高温の電子ビームや、スパッタリング法におけるアルゴン原子の衝突がなく、分子の構造を維持しやすいため好適である。
また、ホログラム形成層2上にフォトクロミック薄膜層3を形成した後、フォトレジストを用いたフォトリソグラフィー法により、回折格子パターンに位置合わせして露光、現像、不要部除去によりフォトレジストのパターンを回折格子パターンの凹部に同調させ、エッチングによりフォトクロミック薄膜層を除去して、凹部のみにフォトクロミック薄膜層を残すことができる。(ホログラムシートA´)
逆に、ホログラム形成層2上にフォトレジスト層を形成し、回折格子パターンに位置合わせして露光、現像、不要部除去により、凸部にフォトレジストを残し、凹部を露出させて、この上にフォトクロミック薄膜層を形成後、凸部上のフォトレジストを除去すると同時に、その真上にあるフォトクロミック薄膜層を部分的に除去することにより、凹部のみにフォトクロミック薄膜層3を残すことができる。(ホログラムシートA´)
【0043】
樹脂分散型のインキは、上記したフォトクロミック分子を、透明樹脂、例えば、熱可塑性樹脂としてはアクリル酸エステル樹脂、アクリルアミド樹脂、ニトロセルロース樹脂、もしくはポリスチレン樹脂等が、また、熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂、エポキシ変性不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、もしくはフェノール樹脂等に混入し、2次凝集を少なくするように、ガラスビーズやスチールビーズを用いたボールミル、ニーダー、ロールミル等による混練りを十分行い、溶剤等で粘度調整をして、グラビア方式、オフセット方式、シルクスクリーン方式、カーテンコート方式、ノズルコート方式、さらには、インクジェット方式を適宜用いて均一な厚さに形成することができる。
但し、フォトクロミック薄膜層3の厚さを、0.003μm以上1.0μm以下、さらには、0.01μm以上0.5μm以下とするためには、樹脂分散型インキの固形分を1〜10%とし、溶剤若しくは水を溶媒とした塗布膜が、例えば、5μmであったときに、溶媒を蒸発させた後の厚さ(フォトクロミック薄膜層の厚さ)がその1/10乃至は1/100となるようにし、0.5μm〜0.05μmとする。
【0044】
溶媒分散型のインキは、樹脂成分を含まず、フォトクロミック分子と溶媒のみであるため、樹脂分散型よりフォトクロミック薄膜層3の厚さを薄くすることができる。
溶媒としては、使用するフォトクロミック分子の極性に合わせ、水やアルコール系溶剤、若しくは、セルソルブ系、パラフィン系溶剤を用いて、フォトクロミック分子を溶解・保持させ、攪拌しながらカーテンコート、ノズルコート等によりホログラム形成層2上に設けることができる。
さらには、ホログラムレリーフ面を形成している樹脂に対して、溶解性を有する遅い揮発性の溶剤を数μm塗布し(アクリル・塩ビ・酢ビ樹脂や、ポリエステル樹脂等に対するケトン系溶剤、例えばシクロヘキサノン等。この溶剤を非溶解性の溶剤で希釈して使用し、残留する成分を0.1μm以下にすることも可能である。)、そのホログラムレリーフ面の最表面のみを溶解して、その最表面に粘着性を付与し、その上に、フォトクロミック分子を霧状として吹きかけて、その粘着性の面に接するフォトクロミック分子のみがホログラムレリーフ面上に残るようにするフォトクロミック薄膜層形成方法も好適である。
この方法によると、フォトクロミック薄膜層3がLB膜のように分子レベルの膜となり、ホログラムレリーフ面上に(フォログラムレリーフの大きさに比較して)均一に形成され、ホログラム形成層2側から励起光を当てた場合の発光面が、ホログラムレリーフ面と「同一」となる。
いずれにしても、ホログラムレリーフの凹凸が非常に小さい為、フォトクロミック薄膜層3を均一厚さで、且つ、その中のフォトクロミック分子が均一な密度となるように、もしくは、ホログラムレリーフ面上に均一に(部分形成の場合には形成してある部分同士が均一に)形成するためには、フォトクロミック分子が凝集して2次粒子状とならないようにする必要があり、溶剤(溶媒)へ溶解する方法や、ナノ粒子の表面に吸着させて、ナノ粒子顔料として薄膜形成することが好適である。
さらに、このような非常に薄いフォトクロミック薄膜層3を物理的に保護するために、上記した透明な樹脂を適宜な形成方法を用いて、1.0μm〜3.0μmの厚さで設けてもよい。
また、ホログラム形成層2、フォトクロミック薄膜層3、及び上記保護のための層の互いの屈折率差を、0.3以内、さらには、0.03以内とすることで、励起前における不要なホログラム再生像の出現を防ぎ、より偽造防止性を高めることが可能となる。
【0045】
この様にして作成したホログラムシートに、使用したフォトクロミック分子に適した励起光、例えば、紫外線(波長365nmや、波長245nm等。)を、10μW/cm2〜10mW/cm2の強度で、1.0秒〜100秒間照射するか、もしくは、可視領域内での色調変化をするものについては、所定波長に近いLED光や、半導体レーザー光を照射して、所定の色調に発色させ、もしくは、色調変化させ、その色調におけるホログラム再生像を視認して、その真正性を判定することができる。
このとき、所定のフィルターや、再生光増幅装置等を用いて、その視認性を高めたり、機械的判定を行ってもよい。
また、所定の色調のホログラム再生像の存在を、ホログラムシートを所持している者、すなわち、ホログラムシートを転写形成、又は、貼付した真正性識別対象物を所持している者に悟られないよう、真正性確認後、速やかに(数秒〜数十秒以内。)その色調が消えるか、又は、元の色調に戻るよう工夫することも好適である。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
三次元原画像として、文字サイズ30mm×30mmで、厚み10mmの「発光」2文字の立体文字画像(図6参照)を用い、図1の手法を採用し、且つ、スリットとして、その開口部が3mm×50mmのものを用い、アルゴンレーザー光源(波長488nm:青色)を用いて、2ステップレインボーホログラムを撮影し、2ステップレインボーホログラムレリーフを得た。
透明基材1として、12μmのPETフィルムの表面に、メラミン樹脂組成物を塗布し、上記、2ステップレインボーホログラムレリーフにホログラム画像位置検知パターンを加えた、レリーフホログラムの複製用型の型面を、接触させたまま加熱硬化させることにより、レリーフホログラムの形成を行ない、厚さ3μmのホログラム形成層2を得た。
このホログラム形成層2上に、下記組成の樹脂分散型のフォトクロミック分子含有インキをグラビアコーティング方式により、コーティングし乾燥して、フォトクロミック薄膜層3を10μm厚さで、ホログラムレリーフに接するように形成し、乾燥して、0.1μm厚さとし、
・<インキ組成物>
1,2-ビス[2-メチルベンゾ[b]チオフェン-3-イル]-
3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン
東京化成工業株式会社製結晶性材料B2629 0.1質量部
塩ビ樹脂 1質量部
メチルエチルケトン 29質量部
トルエン 70質量部
本発明のホログラムシートAを作製した。
このホログラムシートAを365nm波長の光源(浜松ホトニクス製UV-LEDモジュール LC―L2)を用いて照明したところ、図4に示すように、この紫外線は目視では見えず、青色の立体感のある2ステップレインボーホログラム再生像「発光」を確認することができ、青色の再生像のみが空間に浮いているように見え、意匠性に優れるものであった。
そして、照明をはずしたところ、速やかに発光の再生像が消え、元の状態に戻った。
このホログラムシートAを3cm角に切り出し、パスポートに貼付して、ブラックライト発光管40W照明(照明形状を小さくするため、3mmφ穴を持つカバー装着。)したところ、青色のホログラム再生像を認識することができ、ブラックライト照明をはずすと、速やかにその像が消え、パスポート保持者に気づかれずに、真正性判定をすることが十分に可能と思われた。
【0047】
(実施例2)
フォトクロミック分子含有インキをホログラムレリーフ上に形成する方式を、スピンコート方式とし、均一な塗膜厚さを2μmとし、乾燥後のフォトクロミック薄膜層3を0.02μm厚さで形成したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の本発明のホログラムシートAを作製した。
このホログラムシートAを実施例1と同様に観察したところ、より鮮明に青色の2ステップレインボーホログラム再生像「発光」を確認することができ、青色の再生像のみが空間に浮いているように見え、意匠性に優れるものであった。
このホログラムシートAを3cm角に切り出し、パスポートに貼付して、ブラックライト発光管40W照明(照明形状を小さくするため、3mmφ穴を持つカバー装着。)したところ、青色のホログラム再生像を認識することができ、ブラックライト照明をはずすと、速やかにその像が消え、パスポート保持者に気づかれずに、真正性判定をすることが十分に可能と思われた。
【0048】
(実施例3)
フォトクロミック分子含有インキを下記組成の溶媒分散型とし、カーテンコート方式を用い、乾燥速度を遅くした(乾燥エネルギー量として1/5とした。)こと以外は、実施例1と同様にして、
・<インキ組成物>
東京化成工業株式会社製結晶性材料B2629 0.1質量部
メチルエチルケトン 30質量部
トルエン 70質量部
本発明のホログラムシートA´を作製した。
ホログラムレリーフの凸部より、凹部にフォトクロミック分子含有インキが偏ることで、乾燥後のフォトクロミック薄膜層3も、凹部に偏って形成されていた。
実施例2と同様にして観察したところ、実施例2よりさらに鮮明な2ステップレインボーホログラム再生像を確認することができた。
(実施例4)
フォトクロミック分子として、2,3-ジヒドロ-2-スピロ-4'-[8'-アミノナフタレン-1'(4'H)-オン]ペリミジン東京化成工業株式会社製D3618を用いたこと以外は、実施例1と同様として、実施例4のホログラムシートAを作製した。
励起光として、オムロン社製UV−LEDを用いたこと以外は、実施例1と同様にして観察したところ、黄色から青色へ色調が変化し、実施例2より、鮮明で且つ発光強度の強い2ステップレインボーホログラム再生像を確認することができた。
【0049】
(比較例)
フォトクロミック薄膜層を形成せず、ホログラムシートを形成し、比較例とした。
実施例1と同様に観察したところ、励起光を照射しても何らの変化もなく、目視にて確実に認識できるホログラム再生像を確認することはできなかった。
このことより、このホログラムシートが真正なものでなく、このパスポートが偽物であると判断できた。
【符号の説明】
【0050】
A、A´ ホログラムシート
1 透明基材
2 ホログラムレリーフを有する透明樹脂層(ホログラム形成層)
3 フォトクロミック薄膜層(連続的な形成若しくは部分形成)
4 観察状態の例示:可視線(照明光)
5 同上 :再生像なし(紫外光励起の場合)
6 同上 :紫外線(照明光)
7 同上 :青色の再生像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の一方の面に、2ステップレインボーホログラム画像に対応した回折格子群を含むホログラムレリーフを有する透明樹脂層、及び、前記ホログラムレリーフを形成する凹凸に追従して、且つ、均一な厚さで、フォトクロミック薄膜層が設けられていることを特徴とするホログラムシート。
【請求項2】
前記フォトクロミック薄膜層が、前記ホログラムレリーフを形成する凹凸の凹部にのみ形成されていることを特徴とする請求項1記載のホログラムシート。

【請求項3】
前記フォトクロミック薄膜層の厚さが、0.01μm以上0.5μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のホログラムシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−248015(P2011−248015A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119725(P2010−119725)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】