説明

ホログラムスクリーン及びその製造方法

【課題】 高い透明性をもち、スクリーン面内での色収差、輝度ムラがないホログラムスクリーン、および該スクリーンの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係るホログラムスクリーン11は、ホログラムスクリーン記録における参照光LR、すなわち非拡散光を、映像投影装置に使用される複数枚のレンズからなるズームレンズ(組合せレンズ)90からの出射光として記録媒体100に照射することで得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、ホログラム素子をスクリーンとして利用したホログラムスクリーン、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタでホログラムスクリーンに投影した映像と、ホログラムスクリーン背面の背景を同時に観察できるようにしたホログラム表示装置が既に提案されている。(特許文献1)
このようなホログラムスクリーン装置を利用すると、デパートや地下街等の各種ショールームのショーウインドーに広告映像等を映し出すことができる。この場合、ショールーム内の展示品の観察を阻害することなく、映像を提示することができる。また、このようなホログラムスクリーンは自動車等の各種移動体のヘッドアップディスプレイとしても利用することができる。
【0003】
該表示装置の特長である、背景を透かして見ながら再生される映像を観察することができる、という点をより顕著にすべく、透明性に優れ、曇りが殆どなく、明瞭な背景を観察できるホログラムスクリーンの製造方法が提案されている。(特許文献2)
この製造方法では、光拡散体より得られる拡散光である物体光と非拡散光である参照光との露光強度比を変更することにより、スクリーンのヘイズ率の調整を可能にしている。
【0004】
しかしながら、該方法で作製されたホログラムスクリーンで再生された映像には、例えば、ホログラムスクリーンの中心部では、映像光とほぼ同等の色調であっても、ホログラムスクリーン上部で映像光よりも青っぽく、下部で黄色っぽくなるという現象が発生することがあった。つまり、ホログラムスクリーンの全面で映像光の色を正しく再現することが出来ず、観察者に違和感を与えるような不自然な映像が再生されるという問題が生じていた。また、大面積のスクリーンを作製するに当たっては、映像を観察する方向によって輝度ムラが大きく、スクリーン端部付近では輝度の低下が著しいという問題も生じていた。
【0005】
その後、これらの問題の一つである、スクリーンに映し出される映像の色収差を軽減する方法が提供されている。(特許文献3)
この技術は、感光材料として参照光の入射方向に対して厚み分布が傾斜したものを用いることで斯かる問題点を解決している。
【0006】
しかしながら、該方法では、膜厚分布に傾斜を持つ特殊な感光材料を用いる必要がある為、感光材料の製造において、高度な膜厚制御技術が要求される。よって、生産効率の低下、および高コスト化を招くといった弊害が生じる。
【0007】
ところで、スクリーン面内の輝度ムラに関しても、輝度ムラがなく高い輝度のホログラムスクリーンを得るための方法が提案されている。(特許文献4〜5)
これらの技術は、光拡散体により得られた拡散光、すなわち物体光を複数の方向から発生させ、感光材料に入射させることにより、一様な露光強度で感光材料を露光し、均一なホログラムを形成しようとするものである。
【特許文献1】特開平9−114354号公報
【特許文献2】特開2000−75139号公報
【特許文献3】特開2000−122181号公報
【特許文献4】特開2003−315923号公報
【特許文献5】特開2004−4607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの製造方法では、物体光である拡散光同士の干渉による不要な干渉縞が感光材料に過度に記録されてしまうため曇りが発生しやすく、再生光である映像光をスクリーンに入射した際、鮮明な映像表示の妨げとなる。そのためスクリーンの透明性を低下させてしまう。よって、このようなホログラムスクリーンは不透明性が目立ち,ホログラムスクリーンを通して明瞭な背景を観察することが難しく,観察者に違和感を与えるという問題点があった。
【0009】
請求項に係る発明は、スクリーンの透明性を損なうことなく、スクリーン面内での色収差、輝度ムラのないホログラムスクリーン、および該スクリーンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するべく、本発明の発明者らは鋭意検討した結果、ホログラム記録における参照光である非拡散光を組合せレンズ(ズームレンズ)からの出射光とすることで、前記課題を解決できることに想到し、本発明を完成させたものである。ただし、ここでいう組合せレンズとは、光の強度の場所的分布を均一化(均一に近づけること)するもの、すなわち光量ムラや収差を補正するために複数のレンズを組み合わせたものをいう。
【0011】
請求項1に記載の発明は、映像投影装置より投影された映像光を散乱・回折させて出射光とすることにより映像を再生させるホログラムスクリーンの製造方法において、光拡散体により得られた拡散光である物体光と、非拡散光である参照光とを感光材料上に干渉露光するとき、光の強度の場所的分布を均一化する組合せレンズを介して参照光を照射することを特徴とする。
【0012】
斯かる発明によれば、ホログラムを記録する際の参照光として組合せレンズからの出射光を用いるため、参照光の露光強度を感光材料面内で均一化することが可能である。この結果、スクリーン面内での輝度ムラのない均質なホログラムスクリーンの作製が可能となる。また、組合せレンズは、ホログラム記録に通常用いられる対物レンズのような単レンズとは異なり、レンズが持つ収差を無くすように複数枚のレンズが組み合わされているため、スクリーン作製時の参照光にはレンズの持つ収差の情報が含まれない。このようにして作製したホログラムスクリーンに映像投影装置からの投影光、すなわち再生照明光を照射すると、輝度ムラや色収差がないホログラムスクリーンを得ることが可能となる。
【0013】
請求項2に記載のホログラムスクリーンの製造方法は、上記組合せレンズが、映像投影装置に使用されるものであることを特徴とする。
このような製造方法によれば、再生照明光が、ホログラム記録における参照光と同一の組合せレンズから出射されるため、光源利用効率が高いホログラムスクリーンを得ることができる。
【0014】
請求項3に記載のホログラムスクリーンは、上記の製造方法で作製されたことを特徴とする。したがって、上記のとおり、スクリーン面内での輝度ムラや色収差がなく、光源利用効率が高い、などの利点を有する。
【0015】
ホログラムスクリーンは、請求項4に記載のように、フォトポリマーを主成分とするのが好ましい。
ホログラムスクリーン製造に必要となる感光材料に、フォトポリマー感光材料を用いることで更に高透明、高輝度かつ輝度ムラのないスクリーンの提供が可能となる。
斯かる発明によれば、ホログラムを記録する感光材料としてフォトポリマー感光材料を用いるため、粒子状成分が含まれず、透明性及び回折効率に優れたスクリーンを得ることが可能である。また、湿式現像処理を必要とせずにホログラムを記録することが可能である上、フォトポリマーが含有する重合物の重合収縮に起因した膜(ホログラム)の収縮も一定であるため、従来のように銀塩感光材料を用いてホログラムを記録する場合に比べ、ホログラムの膜厚分布が均一となる結果、スクリーンシステム全体として均一な明るさを有することになる。
【0016】
請求項5に記載のホログラムスクリーンは、さらに、設定回折角での入射光に対する透過率Tminが20〜80%であり、入射光に対する透過率が最大となる角度での透過率Tmaxが60〜95%、かつTmax[%]≧(Tmin+15)[%]であることを特徴とする。
Tminは、回折してほしい入射光(すなわち映像投影装置からの映像光)の透過率であり、Tmaxは、透過(直進)してほしい入射光(すなわちスクリーンの背景)の透過率である。なお、直進とは、必ずしも0°というわけではない。
このホログラムスクリーンは、TminとTmaxがどちらも十分高い値で、しかも両者の差が15%以上と大きいので、透明性に優れ、曇りがほとんどなく、明瞭な背景を観察できる。回折しないところは抜け、回折すべきところは回折するからである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、透明性を損なうことなく、色収差、輝度ムラのない高輝度なホログラムスクリーンを得ることが出来る。
請求項1によるホログラムスクリーンの製造方法は、スクリーン面内での輝度ムラや収差のない均質なホログラムスクリーンの作製を可能にする。
請求項2によるホログラムスクリーンの製造方法は、さらに、光源利用率が高いホログラムスクリーンの作製を可能にする。
請求項3によるホログラムスクリーンは、輝度ムラや収差がなく、光源利用率が高い。
請求項4によるホログラムスクリーンは、さらに、透明性や回折効率に優れている。
請求項5によるホログラムスクリーンは、またさらに、透明性に優れ、曇りがほとんどなく、明瞭な背景を観察できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明に係るホログラムスクリーン製造方法の一実施形態について説明する。
【0019】
<ホログラムスクリーン撮影の為の光学系>
図1は、本発明の一実施形態に係るホログラムスクリーン撮影の為の光学系(以下、適宜「スクリーン撮影用光学系」という)の概略を示す図である。スクリーン作製用光学系1について図1を参照しつつ説明する。まず、感光材料(本例ではフォトポリマー感光材料)が感度を持つ波長を発振し、かつ十分なコヒーレンス性を有するレーザー10からビームが発振される。これをミラー20によってビームスプリッター30へと導く。ビームスプリッターにより光を分割することで、任意の強度比で物体光LOと参照光LRを得ることができる。
【0020】
図1においてミラー21へと直進する光LOを対物レンズ41へと入射させ、ピンホール51を用いてスペイシャルフィルタリングすることで、不要な迷光や散乱光をカットする。なお、対物レンズ41は、倍率の大きなもの(20倍程度)を用いることが感光材料面内になるべく均一な強度の拡散光を入射させる上で好ましいが、レーザーの出力が不足する場合は5倍〜10倍程度のレンズを用いると良い。スペイシャルフィルタリングされた光を光拡散体70へと入射させる。光拡散体70は、すり硝子などの拡散板を用いることが出来る。この時に用いる光拡散体70の面積は、感光材料(図1における記録媒体100とほぼ同面積。図3参照)の1/4倍から2倍程度が好ましく、小さ過ぎると視野角が狭くなり過ぎたり、物体光強度の不均一を招いたりする。また、大き過ぎると不要な拡散光同士の干渉を増やすことに繋がる。対物レンズ41により拡大された光で光拡散体70に入射しない不要な光は、本来の意図した光の経路以外で感光材料(記録媒体100)に入射することを防ぐ為、アパーチャー61を使用してカットする事が好ましい。
【0021】
図1においてビームスプリッター30からミラー22へと直進する光LRを対物レンズ42へと入射させピンホール52を用いて、物体光LO同様にスペイシャルフィルタリングすることで不要な迷光や散乱光をカットする。なお、対物レンズ42は、倍率の大きなもの(20倍程度)を用いることが感光材料面内になるべく均一な強度の光を入射させる上で好ましいが、レーザーの出力が不足する場合は5倍〜10倍程度のレンズを用いると良い。スペイシャルフィルタリングされた光をコリメーターレンズ80へと入射させ平行光を得る。続いて平行光をズームレンズ(組合せレンズ)90へと入射させることで、強度が均一かつ収差のない参照光が得られる。この時、平行光のうちズームレンズ90に入射しない不要な光は、本来の光の経路以外で感光材料(記録媒体100)に入射することを防ぐ為、アパーチャー62を使用してカットする事が好ましい。
【0022】
強度が均一かつ収差のない参照光を得る為に使用されるズームレンズ90について説明する。図2は、ズームレンズ90の構成の一例を示すもので、映像投影機に使われているものと同じ組合せレンズである。図2において、平行光L1が両凹レンズ110に入射する。これにより収差の補正が行われ、次いでアクロマートレンズ210に入射させることで、収差を発生させることなく光を拡大させることが出来る。アクロマートレンズは、屈折率や分散率の異なる凸レンズと凹レンズを貼り合せたレンズである。アクロマートレンズの代わりに、アクロマートレンズに更に凸レンズを組み合わせた2群3枚レンズやアポクロマートレンズ等の収差を抑えた拡大レンズを用いても良い。この一連の収差補正、拡大の工程を、絞り300を挟んでもう一組の両凹レンズ120、アクロマートレンズ220を通して行う。最後に凹レンズ400を通すことでフォーカスを短くした拡大光L2を得ることが出来る。本例では、光源利用率を高くするため、ホログラムスクリーンの作製時に、再生時と同じ組合せのズームレンズを使用しているが、当然のことながら、ズームレンズは上記の組合せに限られるものではなく、収差を発生させることなく光を拡大させることができるものであれば、他のレンズでもよい。
【0023】
図1において、物体光LOと参照光LRを感光材料(記録媒体100)に入射させる際に、それらの光軸がなす角をθとすると、好ましいθの範囲は20°〜70°である。また、物体光LOと参照光LRの露光強度比は、物体光強度を1とするとき、参照光強度2〜10が好ましい。より好ましくは、物体光強度1に対して、参照光強度4〜8の範囲である。なお、レーザー光の光量は、光強度と照射時間の積で表せば、好ましくは0.1〜10,00mJ/cm、より好ましくは1〜100mJ/cmである。
【0024】
記録媒体100の構成と設置について、図3を用いて説明する。記録媒体100は、基板1A、感光材料からなる記録層1B、保護層1Cの3層からなる。物体光LO、および参照光LRは、光学的な異方性を持たない材質(例:硝子)の基板1Aから入射させることが好ましい。また、記録層1Bの保護層1Cには、保護層1Cと空気の界面での反射光を防止するために、レーザーの発振波長の光を吸収するように着色されたものを用いることがより好ましい。
【0025】
<フォトポリマー感光材料>
本実施形態に係る感光材料としては、屈折率変調型フォトポリマーであって、可干渉性の2光束を干渉させて露光することによって干渉縞を記録する記録工程のみにより、露光された部位の屈折率と未露光部位の屈折率との差が少なくとも0.001以上の屈折率変化を生じるものを用いることが好ましい。また、屈折率の差を増幅させるための湿式現像処理が不要であることは必須要件である。光や熱等による乾式現像処理は必要に応じて用いることが出来る。
【0026】
さらに、フォトポリマー組成物としては、コヒーレンス性に優れた光を干渉させることによって得られる干渉縞の明暗の強度分布を大きな屈折率の変化として記録できる、(A)ラジカル重合可能な不飽和二重結合を少なくとも1つ含有するラジカル重合性モノマーと、(B)バインダーポリマーおよび/または(C)カチオン重合性モノマーを含有するものが好適に用いられる。
【0027】
より好適なフォトポリマー組成物としては、可視光の波長領域を有する干渉性の第一の光の干渉によって得られる干渉縞の照射により、ラジカル重合性化合物(A)の重合を開始させる(D)光ラジカル重合開始剤と、光ラジカル重合開始剤(D)を増感させる(E)光増感色素、およびカチオン重合性化合物(C)を含有する場合は、第一の光とは異なる波長領域を有する第二の光の照射によりカチオン重合性化合物(C)の重合を開始させる(F)光カチオン重合開始剤とからなり、ラジカル重合性化合物(A)の屈折率が、バインダーポリマー(B)および/またはカチオン重合性化合物(C)との屈折率との加重平均値よりも大きいように調整したフォトポリマー組成物である。
【0028】
光カチオン重合開始剤(F)は、第二の光の照射によりカチオン重合性モノマー(C)の重合を開始させるものであるが、第一の光の干渉によって得られる干渉縞の照射に対する感光性が低くてカチオン重合性モノマー(C)の重合を実質上開始させないものが好ましい。
【0029】
ラジカル重合性モノマー(A)
本発明で用いられるラジカル重合性モノマー(A)は、本発明で用いられるバインダーポリマー(B)および/または(C)カチオン重合性モノマー等とともに本発明による組成物を調製した場合に、相溶性を有しさえすれば広範囲の化合物を使用することができるが、常圧で100℃以上の沸点を持つ非ガス状、即ち、液状または固体状であるラジカル重合性化合物(A)が好ましい。
特に、エチレン性不飽和二重結合を有する(メタ)アクリルモノマー、ビニルモノマー、(メタ)アリルモノマーが好ましい。また、これらは単独で用いても、2つ以上の組み合わせで用いてもよい。
【0030】
バインダーポリマー(B)
本発明で用いられるバインダーポリマー(B)は、ラジカル重合性化合物(A)およびカチオン重合性化合物(C)と相溶性が良く、有機溶媒中に完全に溶解しうるものであればよい。代表的なものは、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーの単独重合体、または、該モノマーと、これと共重合可能な共重合性モノマーとの共重合体、ジフェノール化合物とジカルボン酸化合物の縮合重合体、分子内に炭酸エステル基を有する重合体、分子内に−SO−基を有する重合体、セルロース誘導体、およびこれらの2以上の組み合わせからなる群より選ばれるものである。
【0031】
カチオン重合性モノマー(C)
本発明で用いられるカチオン重合性モノマー(C)は、他のいずれの成分とも相溶性がよく、ラジカル重合性モノマー(A)よりも屈折率が極力低く、常温常圧で液体であることが好ましい。このようなカチオン重合性モノマーを用いることによって、ホログラム記録前では全組成物が十分に相溶しているが、ホログラム記録が開始されるとともにラジカル重合性モノマー(A)の拡散移動が起こりやすくなる。屈折率が低いものを選択することによって、ラジカル重合性モノマー(A)の拡散移動によるカチオン重合性モノマー(C)との分離において、両者の間でわずかな分離しか起こらなくても、大きな屈折率差(屈折率変調)を得ることができる。カチオン重合性モノマー(C)は第一の光(好ましくは可視光線)と異なる波長領域を有す第二の光(好ましくは紫外線)を照射し、カチオン重合開始剤(F)の反応により重合させられる。
【0032】
カチオン重合性モノマー(B)の具体例としては、オキシラン構造およびオキセタン構造のいずれかを1分子中に少なくとも1つ以上、あるいは両者を有する化合物を挙げることができる。
【0033】
光重合開始剤(D)
光重合開始剤(D)としては、光重合開始剤(D)単独、あるいは光増感色素(E)と組み合わせて用いることにより、He−Ne(波長633nm)、YAG(波長532nm)、Ar(波長515、488nm)、He−Cd(波長442nm)等のレーザー光源から出射される光を吸収してラジカルを発生するものを好適に用いることができる。このような光重合開始剤としては、例えば、カルボニル化合物、アミン化合物、アリールアミノ酢酸化合物、有機錫化合物、アルキルアリールホウ素塩、オニウム塩類、鉄アレーン錯体、トリハロゲノメチル置換トリアジン化合物、有機過酸化物、ビスイミダゾール誘導体、チタノセン化合物、及びこれらの光重合開始剤と光増感色素との組み合わせが挙げられる。
【0034】
光増感色素(E)
上記光増感色素(E)としては、ミヒラケトン、アクリジンイエロー、メロシアニン、メチレンブルー、カンファーキノン、エオシン、脱カルボキシル化ローズベンガル等を好適に用いることができる。光増感色素としては、可視領域の光に吸収を示すものであればよく、上記以外にも、例えば、シアニン誘導体、メロシアニン誘導体、フタロシアニン誘導体、キサンテン誘導体、チオキサンテン誘導体、アクリジン誘導体、ポルフィリン誘導体、クマリン誘導体、ベーススチリル誘導体、ケトクマリン誘導体、キノロン誘導体、スチルベン誘導体、オキサジン誘導体、チアジン系色素等も使用可能である。これらの光増感色素は単独で用いても2種以上の組み合わせで用いてもよい。
【0035】
有機溶媒
有機溶媒は、フォトポリマー感光材料の粘度調整、相溶性調節の他、成膜性等を向上させるために有効であり、例えば、アセトン、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、塩化メチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、メタノール等を用いることができる。
【0036】
<フォトポリマー感光材料の調整>
以上に説明した本実施形態に係るフォトポリマー感光材料を調製するには、ラジカル重合性化合物(A)、有機溶媒に可溶なバインダーポリマー(B)および/またはカチオン重合性化合物(C)と、光重合開始剤(Dおよび/またはF)等をガラスビーカー等の耐有機溶剤性容器に入れて全体を撹拌すればよい。この場合、固体成分の溶解を促進するために、組成物の変性が生じない範囲であれば、これを加熱してもよい。
【0037】
<ホログラム記録媒体の作製方法>
本実施形態に係るフォトポリマー感光材料を用いたホログラム記録媒体(ホログラム記録前)は、フォトポリマー感光材料を基板の片面に塗布し、生じた塗膜(記録層)と基板とからなる2層構造の記録媒体(図示せず)を作製することによって得られる。或いは、好ましい態様として、図3に示すように、基板1A上の記録層1Bの上にフィルム状、シート状或いは板状の保護材1Cを被覆して3層構造の記録媒体100を作製しても良い。
【0038】
フォトポリマー感光材料の調製工程で有機溶媒を用いる場合、ラジカル重合性化合物(A)、有機溶媒に可溶なバインダーポリマー(B)および/またはカチオン重合性化合物(C)と、光重合開始剤(Dおよび/またはF)を初めとする上記任意添加成分を有機溶媒(溶剤)に溶解させ、これにより得られた溶液を基板上に塗布し、その後、溶剤を揮散させて記録層を形成すれば良い。また、記録層に保護材を被覆する場合(図3参照)には、保護材を被覆する前に有機溶媒を風乾や減圧蒸発等によって除去しておくことが好ましい。
【0039】
フォトポリマー感光材料を塗布する基板としては、光学的に透明な素材、例えば、ガラスや石英の他、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィン、脂環式ポリオレフィンなどの透明樹脂を用いることができる。好ましくは、光学異方性を持たないガラスや脂環式ポリオレフィンなどが良い。基板の厚みは、好ましくは0.02〜10mmとされる。基板は、必ずしも平面である必要はなく、屈曲や湾曲或いは表面に凹凸構造のあるものでも良い。保護材も基板と同じ材質の光学的に透明な材料から形成することができる。保護材をスクリーン記録後に剥離する場合、用いているレーザーの発振波長の光を吸収するように着色されたものを用いることが好ましい。保護材の厚みは、好ましくは0.02〜10mmとされる。
【0040】
フォトポリマー感光材料の塗布方法としては、グラビア塗布、ロールコーティング塗布、バーコート塗布、スピンコート塗布等を用いることができる。そして、溶媒除去後の記録層の厚みが、1〜500μm、好ましくは5〜50μmとなるように塗布する。
【0041】
<ホログラム記録用の光源>
本実施形態に係るホログラム記録用の光源としては、フォトポリマー感光材料に含まれる光重合開始剤又は光重合開始剤と光増感色素の組み合わせからなる光重合開始剤系に光源から発する光を照射した際に、電子移動を伴って重合性化合物の重合を誘発させるものであればよい。
【0042】
本実施形態に係るホログラム記録用の光源として、前述のようにレーザー光源10を用いることができる。レーザー光源から出射されるレーザー光は単一波長であり、可干渉性(コヒーレンス性)を有しているため、ホログラム記録(干渉縞記録)用として好適に用いることができる。より好ましい光源としては、コヒーレンス性により一層優れた光源、例えば、上記レーザー光源にエタロン等の光学素子を装着し、前記単一波長の周波数を単一周波数にしたものを例示することができる。
【0043】
代表的なレーザー光源としては、発振波長200〜800nmのレーザー光源、具体的にはKr(波長647nm)、He−Ne(波長633nm)、Ar(波長514.5nm、488nm)、YAG(波長532nm)、He−Cd(波長442nm)等のレーザー光源を例示することができる。これらのレーザー光源は、単独で用いても或いは2個以上組み合わせて用いても良い。また、レーザー光源は連続光を発振するタイプでも、一定の又は任意の間隔でパルス発振するタイプでも良い。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を示すことにより、本発明の特徴とするところをより一層明らかにする。
【0045】
<ホログラム記録媒体の作製>
9,9−ビス[4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシ)プロポキシフェニル]フルオレン(単体の屈折率:1.63)1.08g(全組成物に対する重量百分率:28.1重量%)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(単体の屈折率:1.46)1.05g(27.4重量%)、ポリメチルメチルメタクリレート(単体の屈折率:1.49)1.25g(32.6重量%)、3,3',4,4'−テトラ(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン0.25g(6.5重量%)、シアニン系色素(2,5−ビス[(4−ジエチルアミノ)−2−メチルベンジリデン]シクロペンタノン)0.0082g(0.2重量%)、トリアリールスルホニウム系化合物(旭電化工業社製、「SP−170」、塩がヘキサフルオロアンチモネート)0.2g(5.2重量%)、および溶媒としてアセトン5gを常温で混合し、フォトポリマー感光材料を調製した。
【0046】
上記調整後のフォトポリマー感光材料を200mm×250mmのガラス基板1A(MATSUNAMI MICRO SLIDE GLASS)の片面に、乾燥後の厚みが20〜25μmとなるようにスピンコートにより塗布した後、加熱処理を施すことによって塗布層から溶媒を除去して、基板1Aと記録層1Bとからなる2層構造の記録媒体を作製した。
【0047】
さらに、上記記録層1B上に、保護材1Cとして厚みが50μmのPETフィルムを被覆することにより、3層構造のホログラム記録媒体100を作製した。
【0048】
<ホログラムスクリーンの作製>
YAG(波長532nm)レーザー光源10から発振されたレーザー光をビームスプリッター30で分割し、一方の光を対物レンズ41(20倍)とピンホール51(20μm)を用いてスペイシャルフィルタリングし、その光を両面すりガラス(#1000)を3枚重ねた光拡散体70に入射させ、そこからの出射光(拡散光)を物体光LOとした(図1参照)。物体光LOの強度は、20μW/cmとした。ビームスプリッター30により分割されたもう一方の光を対物レンズ42(10倍)とピンホール52(20μm)を用いてスペイシャルフィルタリングし、コリメーターレンズ80を通して平行光とし、ズームレンズ90(図2参照)へと入射させ、そこからの出射光を参照光LRとした。フォトポリマー感光材料を9分割したもののうち中央部22b(図4参照)での参照光LRの強度は80μW/cmとした。このときの感光材料の各部分ごとの参照光強度を表1に示した。参照光強度は、感光材料の場所によらずほぼ一定(60〜80μW/cm)であった。ところで、参照光LRと物体光LOの光軸の成す角度θは45度に設定し、参照光LRの光軸が感光材料面に対し入射角45度となるようにした(図1、図4参照)。また、露光エネルギーは8J/cm、露光時間は80秒とした。
【表1】

【0049】
<ホログラムスクリーンの評価>
上記のようにして作製されたホログラムスクリーン11について、図5のように再生照明光を照射し、光パワーメーター(PHOTODYNE社製、OPTICAL POWER/ENERGY METER,MODEL 66XLA)を用いて入射光に対する透過光強度が最大となる角度での透過光強度(透過率:Tmax)と設定回折入射角度での入射光に対する透過光強度(透過率:Tmin)をそれぞれ測定し、以下の式(1)に基づいて回折効率を算出し評価した。
回折効率(%)=(Tmax−Tmin)/Tmax×100
なお、上記の光学系においては、入射角0度でTmaxとなり、入射角45度でTminとなる。
【0050】
作製されたホログラムスクリーン11を9分割したうちの中央部分52b(図5参照)における最大透過率Tmaxは82%と非常に透明で、設定入射角での透過率Tminは40%、回折効率60%と非常に大きな回折効率を示した。
【0051】
作製されたホログラムスクリーン11の各部分(図5参照)における最大透過率Tmax、設定入射角での透過率Tmin、および回折効率を表2に示した。いずれの場所においても高透明(Tmaxが80〜82%)、高回折効率(ηが58〜61%)であり、数値のばらつきも小さかった。また、輝度ムラも小さかった。
【表2】

【0052】
また、ホログラムスクリーン11に白色光を照射した時のスクリーンの各部分における色調も、すべての部分でムラなく白色が再現されており、色収差が小さいことも確認できた。
【比較例】
【0053】
<ホログラム記録媒体の作製>
ホログラム記録媒体の作製方法は実施例とすべて同じとした。
【0054】
<ホログラムスクリーンの作製>
図6は、本発明の一比較例に係るホログラムスクリーン撮影の為の光学系1’の概略を示す図である。上記ホログラムスクリーン撮影用光学系1と同一の要素には、同一の符号を付している。
YAG(波長532nm)レーザー光源10から発振されたレーザー光をビームスプリッター30で分割し、一方の光を対物レンズ41(20倍)とピンホール51(20μm)を用いてスペイシャルフィルタリングし、その光を両面すりガラス(#1000)を3枚重ねた光拡散体70に入射させ、そこからの拡散光(出射光)を物体光LOとした。物体光LOの強度は、20μW/cmとした。ビームスプリッター30により分割されたもう一方の光を対物レンズ42(40倍)とピンホール52(20μm)を用いてスペイシャルフィルタリングし、その出射光を参照光LR’とした。フォトポリマー感光材料中央部22b(図4参照)での参照光LR’の強度は80μW/cmとした。このときの感光材料の部分ごとの参照光強度を表1に示した。参照光強度は、感光材料の中央部22b以外では80μW/cmを大きく下回った。ところで、参照光LR’と物体光LOの光軸の成す角度θは45度に設定し、参照光LR’の光軸が感光材料面に対し入射角45度となるようにした(図6参照)。また、露光エネルギーは8J/cm、露光時間は80秒とした。
【0055】
<ホログラムスクリーンの評価>
実施例と同様の評価を行った。
【0056】
作製されたホログラムスクリーン11’の中央部分52b(図5参照)における最大透過率Tmaxは80%と非常に透明で、設定入射角での透過率Tminは41%、回折効率59%と実施例同様に非常に大きな回折効率を示した。
【0057】
作製されたホログラムスクリーン11’の各部分(図5参照)における最大透過率Tmax、設定入射角での透過率Tmin、および回折効率を表2に示した。ホログラムスクリーン11’中央部分では最大透過率Tmaxは高く透明性に優れていた。また、高い回折効率を示していた。しかしながら、その周辺部では、最大透過率Tmaxが中央部に比べ低下していた。これは参照光強度が弱く物体光同士の干渉の影響が強く現れた為と考えられる。また、回折効率にもばらつきがあり、輝度ムラが観察された。これは参照光強度にムラがあったことにより、露光量が不十分な箇所があった為と考えられる。
【0058】
また、ホログラムスクリーン11’の中心部の区画(42b、52b、62b)では、白色光がほぼ再現されていたが、ホログラムスクリーンの区画41a、51a、61aではやや青みがかった白色光になっていた。また、区画43c、53c、63cでは黄色っぽくみえた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
発明のホログラムスクリーンは、2次元像の再生に利用できるほか、レンズと組み合わせることにより3次元像の再生にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るホログラムスクリーン作製の為の光学系1を上方より見た図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係るホログラムスクリーン作製において用いるズームレンズ90のレンズ構成の一例を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係るホログラムスクリーン作製における感光材料(記録媒体100)の構成、および設置を示す図である。
【図4】図4は、本発明に係るホログラムスクリーン作製法の評価の為の感光材料の分割の仕方を示した図で、同(a)は、感光材料(記録媒体100)を上方から見た図、同(b)は正面から見た図である。
【図5】図5は、本発明に係るホログラムスクリーン評価の為のスクリーン11の分割の仕方を示した図で、同(a)は、スクリーン11を上方から見た図、同(b)は正面から見た図である。
【図6】図6は、本発明の一比較例に係るホログラムスクリーン作製の為の光学系1’を上方より見た図である。
【符号の説明】
【0061】
1 ホログラムスクリーン撮影用光学系
11 ホログラムスクリーン
90 ズームレンズ(組合せレンズ)
100 記録媒体
LO 物体光
LR 参照光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像投影装置より投影された映像光を散乱、回折させて出射光とすることにより映像を再生させるホログラムスクリーンの製造方法において、
光拡散体により得られた拡散光である物体光と、非拡散光である参照光とを感光材料上に干渉露光するとき、光の強度の場所的分布を均一化する組合せレンズを介して参照光を照射することを特徴とするホログラムスクリーンの製造方法。
【請求項2】
上記の組合せレンズが、映像投影装置に使用するものであることを特徴とする請求項1に記載のホログラムスクリーンの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法で製造されたことを特徴とするホログラムスクリーン。
【請求項4】
フォトポリマーを主成分とすることを特徴とする請求項3に記載のホログラムスクリーン。
【請求項5】
設定回折角での入射光に対する透過率Tminが20〜80%であり、入射光に対する透過率が最大となる角度での透過率Tmaxが60〜95%、かつ Tmax[%]≧(Tmin+15)[%]であることを特徴とする請求項3または4に記載のホログラムスクリーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−102263(P2008−102263A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283750(P2006−283750)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】