説明

ホログラムパターン識別方法

【課題】紙幣に利用されているホログラムパターンを容易かつ明確に認識できる方法を実現させ、偽造防止効果を高める。また、ホログラムパターンをより安全性の高いコードとして利用するために、解読アルゴリズムを改良する。
【解決手段】紙幣に対しては、水平面内で互いに120度ずつ異なる方向から3種類の発光ダイオードにより光照射を行うことにより、各パターンを明確に識別できるようにする。また、重ね合わされた複数のホログラムコードに対し、複数の方向から同時に光照射を行うこと、光照射を行う順序を使用者が入力したコードによって決定すること等の工夫により、第三者に情報を盗まれる可能性を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣の偽造防止等の目的で使用されるホログラムパターンの識別を行うための方法、およびこれを利用した情報のコード化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
見る角度によってパターンが変化あるいは消滅するホログラムは、決して新しい技術ではないものの、その形成には高度な印刷技術が必要とされるため、主に偽造防止の目的で紙幣やクレジットカード等に利用されている。例えば一万円紙幣の場合、左下部に3種類のホログラムパターンが重ねて付与されており、紙幣を見る角度によって、これらのパターンが変化するようになっている。
【0003】
このような特殊な視覚効果をもつホログラムを、単に偽造が難しい印刷パターンとしてのみではなく、積極的に情報をコード化する手段として利用する方法も、一般的に知られている。例えば以下の特許文献1では、正面からはコードのパターンが見えにくいため、デザイン面で優れたコード作成方法として、ホログラムの使用も示唆されている。ホログラムは二次元のパターンとして記録が可能であることから、コードとしての利用形態では二次元バーコードとするものが多く、以下の特許文献2および3を例示することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−110888公報
【特許文献2】特開2000−75775公報
【特許文献3】特開2005−158115公報
【0005】
さらに、ホログラムはパターンに加えて光の進行方向も記録されるという特徴から、パターンを複数重ね合わせても、異なる方向からの検出光照射により、それぞれのパターンを独立して再現することが可能である。この場合、情報を二次元パターンとして記録したものを重ね合わせることにより、情報を三次元的に記録することができるため、情報の高密度化が実現される。多層に記録されたホログラムパターン情報を、それぞれ独立に読み出す方法としては、以下の特許文献4を例として挙げることができる。この例では、各ホログラム層への光入射位置をあらかじめ異なる位置に配置しておき、読み出し用の光源位置を移動させることにより、どの層へ読み出し光を入射させるかを制御している。
【0006】
【特許文献4】特開2000−19939公報
【0007】
二次元コードパターンを三次元化する方法としては、以下の特許文献5に記載されているように、二次元コードパターンをカラー化することによっても実現できるが、後述するように、この方式ではホログラムを利用する場合に比べて、信頼性に劣る点がある。
【0008】
【特許文献5】特開2001−195536公報
【0009】
また、ホログラムパターンを偽造などの犯罪防止目的で使用する場合、そのパターンを解読するアルゴリズムについても、不正利用を防止することが望ましい。高度な印刷技術が必要であるとはいえ、広く知られている技術である以上は偽造される可能性が低いとはいえず、その場合にはコードの解読アルゴリズムの機密性が高められていることが、偽造防止の目的では重要となるからである。この点については、以下の特許文献6に記載されているように、偽造判定プログラムを書き換え可能な構成にしておくというような方法を選択することができる。
【0010】
【特許文献6】特開2005−122754公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、ホログラムの原理を利用した偽造防止法、あるいは情報のコーディング法は、不正利用を防止する目的において高い効果を発揮することが期待でき、実際に紙幣やクレジットカードなどに利用されている。
【0012】
しかしながら、例えば紙幣に利用されているホログラムパターンの場合、通常の方向性のない照明下で観察すると、図1に示すように3つのパターンが重なったように見え、結果的に何を意味するパターンなのか容易には確認できないような状況となる。したがって、もしこのパターンが偽造されていたとしても、正しいパターンを認識している者は少ないため、それが偽造されたものであると気がつく可能性は低いという問題点がある。しかも、偽造であることを疑って、受け取った店員などが紙幣を凝視した場合、支払いを行った者にとっては非常に心象の悪い行動となるため、店員も容易にそのような確認は行えないのが実情である。これらのことから、紙幣のように多層に重ねられたホログラムパターンを偽造防止の目的で活用するためには、それらを容易に判別できる手段が必要であって、これを本発明の第一の目的とする。
【0013】
さらに、特許文献6を例示して述べたように、偽造防止目的においては、単純に印刷が難しいホログラムパターンをコードとして多層に重ね合わせるだけではなく、それらを解読するアルゴリズムも容易には理解されないようにしておくことが有効である。この目的を実現することが、本発明の第二の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
まず第一の目的である、紙幣に付与されたホログラムパターンを容易に判別できる方法について説明する。図2は、現在の一万円紙幣に付与されているホログラムパターンであるが、通常は図2(a)のように、複数のホログラムパターンが重なって見られる。これに対し、図2(b)のようにA-A'方向から光を照射すると、「10000」という数字のパターンだけが明確に現れる。このような検出に用いる光源には指向性が必要とされるが、レーザー光ほどの指向性は必要ではなく、発光ダイオードで十分である。
【0015】
同様に、図2(a)のA-A'方向とは60度異なるB-B'方向から光を照射すると、図2(c)のように花びらのパターンのみが明確に現れ、さらに60度異なるC-C'方向から光を照射すると、図2(d)のように日本国を表すマークのパターンのみが明確に現れる。
【0016】
上記のように、ホログラムパターンを可視化できる光の照射方向は決まっており、可視化に必要な光の照射方向が互いに異なる複数重ね合わされたホログラムパターンに、それぞれ異なる方向から可視光を照射することにより、任意のパターンのみを可視化することが可能である。
【0017】
したがって、図2のように3つのパターンを別々に目視できるように発光ダイオードを配置し、それぞれ個別に発光させることにより、ホログラムパターンが偽造されたものであるかどうかを容易に目視できるようになる。具体的には図3に示すように、少なくとも紙幣301のホログラムパターン302を覆うようにケース303を形成し、その内部に発光ダイオード群304を、水平面内で互いに120度ずつ異なる角度で配置しておく。発光ダイオード群304の方向は、ホログラムパターン302を照射できる方向とする。発光ダイオード群304は全て同色のものとしてもよいが、それぞれ異なる色(例えば青色、緑色、赤色、黄色、オレンジ色、白色の中から選択する)で構成しておくと、パターンは同じであっても、記録時の方向が異なるような偽造があった場合でも、判別することが可能になる。また、紙幣には蛍光インクも使用されていることから、これを同時に判別できるように、紫外発光ダイオードを合わせて配置しておいてもよい。発光ダイオード群304の電源としては、電池(充電池を含む)が好ましく、ケース303に組み込まれるものとする。
【0018】
さらに、ホログラムパターン302を目視できるようにするために、開口部305を設けておく。開口部が大きすぎると外光によって目視しにくくなるため、開口部の形状としては直径30mm以下の円形あるいは一片30mm以下の長方形が例示されるが、これに限るものではない。ケース303のサイズは、最小限ホログラムパターン302を覆うことができればよいが、蛍光インクや透かし、マイクロ印刷等の紙幣偽造防止技術も合わせて確認できるようにする場合には、さらに大きなサイズであってもよい。
【0019】
上記のように、図3に示した構成をもつ偽造紙幣判定器を作製すれば、紙幣のホログラムパターンを容易に判別することができ、第一の目的は達成される。パターンを確認することが主たる目的であるから、複数の光源は自動的かつ周期的に点灯状態が切り替わるようにしておくと、とくに操作することなく複数のホログラムパターンを確認できるため、便利である。なお、このような構成は紙幣の偽造判定のみならず、複数重なり合ったホログラムパターンを用いたものに対して一般的に利用できるものであるから、その利用目的は偽造紙幣の判別に限られるものではない。
【0020】
また、ホログラムパターンを何らかの情報を有するコードとして利用する場合には、既に述べたように、ホログラムパターンを複数層重ねることにより、情報の高密度化を実現させることができる。さらに図3に示したように、各層のホログラムパターンを個別に再現できるように複数の検出光源を配置すれば、それぞれのホログラムパターンによって表現されたコードを個別に可視化して検出するだけでなく、複数の方向から同時に可視光を照射することにより、複数のホログラムパターンが合成されて可視化されたパターンを新たなコードとして利用することができる。
【0021】
これについて図4の例を用いて説明する。図4(a)および図4(b)は、いずれもホログラムによって表現された独立の二次元バーコードの一例であり、これらはそれぞれ異なる検出光源によって、独立に再現されるものとする。ここで、双方のコードを再現するための検出光を同時に照射すれば、図4(c)のように、双方のコードを重ね合わせた新規の二次元バーコードが生成されることになる。検出光の方向が異なるホログラムパターンをn種類以上重ね合わせるとすれば、各光源を点灯させる組み合わせはn(n―1)/2通りと、飛躍的に増加する。したがって、単にホログラムパターンのみを偽造しても、それらを検出する光源の方向の組み合わせが不明である限り、ホログラムパターンが意味するコードの内容はわからないことになり、情報まで盗まれる可能性は低くなる。
【0022】
図4は同一色の光源を複数組み合わせて利用することを想定したものであるが、異なる検出光源は方向だけでなく発光波長も異なるように配置しておくと、さらに機密性の高い情報処理が可能になる。例えば図5において、図5(a)と図5(b)の検出光源の波長が異なっているとする。このとき、それぞれの光源を同時点灯させた場合に生成されるパターンは、図5(c)のようにコードが重なり合わない部分には元の光源の色が現れるが、重なり合う部分にはそれぞれの光源の色が重ね合わされた新規色501として現れる。そこで、二次元コードの読み取りをカラーで実行できるようにしておけば、重ねあわされた色の部分のみをコードとする、あるいは重ねあわされた色の部分をコードから除外する、といった処理も可能になる。このように、異なる色の光源を組み合わせて利用すれば、コード解読のアルゴリズムを複雑化することが可能になるため、さらにコード情報が盗まれにくくなるのである。この場合、同一の方向(同一のホログラム層)に複数色の検出光を入射できるようにしておくことも好ましい。なお、点灯する光源の位置や色が容易に目で確認できるようになっていると効果が低くなるため、光源は1秒当たり5回以上は異なる組み合わせで点灯するようにしておき、そのうち特定の1回でパターンの検出を実行するようにしておくのがよい。
【0023】
上記のように、複数のホログラムパターンを重ね合わせてコードとして利用する際に、それぞれのパターンは互いに異なる方向からの検出光によって独立に再現されるようにしておくと、検出光を点灯させる組み合わせを変えることによって、コード情報を盗まれる可能性が低くなる効果が得られる。したがって、コードを解読するアルゴリズムが容易に理解されないようにするという第二の目的も、達成されることになる。なお、光源を点灯させる組み合わせだけでなく順序も変更させる方法、光源を点灯させるアルゴリズムを利用者が入力する方法などを用いることにより、さらに解読アルゴリズムを複雑化させることが可能になるが、これについては後述する。
【発明の効果】
【0024】
検出光の方向が異なるホログラムパターンを重ね合わせて利用する場合において、各パターンを独立に再現できるように検出光源を配置することを基本構成とし、紙幣の確認の際には、ホログラムパターンを観察可能な開口部も有するケースを作製することにより、紙幣のホログラムパターン部の偽造の有無を容易かつ正確に確認できるようになる。また、上記のホログラムパターンを重ね合わせて二次元コードとして利用する場合には、やはり上記の基本構成とし、複数の検出光源を同時点灯させるなどの方法により、各パターンを重ねて新規のパターンが生成されるようにすれば、コード解読のアルゴリズムが複雑化され、コード情報を盗まれにくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図6に、本発明のホログラムパターン検出装置の一例を示す。ケース601には、本発明の基本構成である複数の光源602が配置され、それぞれ異なる方向からホログラムパターンを照射する構造となっている。光源602としては指向性を有するものが望ましく、発光ダイオードや半導体レーザーなどを用いることができる。ホログラムパターンは受光器603によって取り込まれるが、これはフォトダイオード等の受光素子が二次元的に配置されたイメージセンサーである。取り込まれたホログラムパターンは、ケース601の内部に組み込まれたプロセッサで解読されるか、あるいはホログラムパターン検出器が接続されたコンピュータにデータとして転送されて解読される。内部を観察するための開口部を設けてもよいが、受光器603の位置によってはホログラムパターンを上方から観察することは難しくなるため、ディスプレイ604をケース601の上面に設置し、ここに読み取ったホログラムパターンを表示してもよい。
【0026】
さらに図6の構成の特徴として、入力キー605を配置する。ホログラムパターンを二次元コードとして作成した者は、同時にそれを解読するために必要な複数の光源602の点灯方法も必要に応じて決定しておく。複数の光源602の点灯方法は、単に定められた数種類の光源を同時に点灯させるだけでなく、複数の方向から定められた順序に従って可視光を照射する方法を採ることも可能である。
【0027】
点灯方法を初めからホログラムパターン検出器に記憶させておいてもよいが、点灯方法を変更できないのは情報の保護において好ましくはない。実際の使用においては、ホログラムパターン作成者はパターンを配布するとともに、利用者に対して点灯方法を指定する解読コードを通知する。解読コードは数字や文字、記号などから構成され、利用者は入力キー605によって解読コードを入力する。これにより、本発明のホログラムパターン識別装置は複数の光源602を点灯させる組み合わせや順序を決定し、実際に光源602を点灯させてホログラムパターンとして表現されたコードを解読する。この方法であれば、単にホログラムパターンを入手しただけでは、その中に含まれる情報を解読できないという利点があるだけでなく、同じホログラムパターンであっても、利用者ごとに異なる解読キーワードを提供することにより、与える情報を変更することができる。例えばホログラムパターンとしてコード化した情報が、有料のソフトウェアのダウンロードサイトに関する情報であって、支払い料金に応じてダウンロードできるソフトウェアの種類を変えたい(すなわちソフトウェアごとにダウンロードサイトを用意する)ような場合に、このようなコード解読方法を活用することができる。
【0028】
なお、利用者にキー入力を求めることが望ましくない場合には、キーワードを通知する代わりに、複数の光源602を点灯させる組み合わせや順序の情報も二次元コードとして利用者に提供してもよい。すなわち利用者はまず、本発明のホログラムパターン検出装置に、光源点灯アルゴリズムをコード化したホログラムパターンを読み込ませ、次に解読させたいホログラムパターンを読み込ませるという手順を実行することになる。この方式であれば、とくに入力キー605は必要ではなくなる。
【0029】
また、既に入力インターフェイスやディスプレイを有している携帯電話等の情報機器に、複数の検出光源を取り付けることにより、上記のホログラムパターン検出機能を実現させてもよい。
【0030】
さらに、以上のパターン解読動作は、コードがホログラムパターンとして生成されていない場合にも応用できる場合がある。例えば、特定の波長の光源のみで発光する色素でパターンを印刷し、そのような組み合わせを複数用意することができれば、やはり光源の点灯の組み合わせや順序を制御することにより、同等の効果が得られることになる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のホログラムパターン検出装置は、既にホログラムパターンが利用されている紙幣やカード等の偽造の有無を判定する機器として利用できる。また、複数のホログラムパターンを組み合わせたコードを、可変である解読アルゴリズムによって安全に解読できる情報判定機として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】紙幣に付与されたホログラムパターンを示す図
【図2】紙幣に付与されたホログラムパターンへの検出光の照射方法を示す図
【図3】本発明のホログラムパターン検出装置の一例を示す図
【図4】ホログラムパターンで表された二次元コードの組み合わせの一例を示す図
【図5】ホログラムパターンで表された二次元コードの組み合わせの一例を示す図
【図6】本発明のホログラムパターン検出装置の一例を示す図
【符号の説明】
【0033】
301 紙幣
302 ホログラムパターン
303 ケース
304 検出光源
305 開口部
501 新規色
601 ケース
602 検出光源
603 受光器
604 ディスプレイ
605 入力キー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数重ね合わされたホログラムパターンに、それぞれ異なる方向から可視光を照射することにより、任意のパターンのみを可視化することを特徴とするホログラムパターン識別方法。
【請求項2】
前記複数重ね合わされたホログラムパターンは紙幣に付与されたものである請求項1記載のホログラムパターン識別方法。
【請求項3】
前記可視光の照射は発光ダイオードによって実行され、当該発光ダイオードは水平面内で互いに120度ずつ異なる角度で配置されていることを特徴とする請求項1〜2記載のホログラムパターン識別方法。
【請求項4】
前記任意のパターンとは、複数の方向から同時に可視光を照射することにより、複数のホログラムパターンが合成されて可視化されたパターンとなるものを含む請求項1記載のホログラムパターン識別方法。
【請求項5】
前記複数重ね合わされたホログラムパターンが二次元バーコードとして情報をコード化されたものである請求項4記載のホログラムパターン識別方法。
【請求項6】
前記複数の方向から照射する可視光の波長が、互いに異なるものであることを特徴とする請求項4〜5記載のホログラムパターン識別方法。
【請求項7】
前記複数重ね合わされたホログラムパターンに、複数の方向から定められた順序に従って可視光を照射することにより、コードの解読を実行することを特徴とする請求項5記載のホログラムパターン識別方法。
【請求項8】
前記可視光を照射する順序は、解読コードを入力することによって決定される請求項6記載のホログラムパターン識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−145991(P2008−145991A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336401(P2006−336401)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(706000539)
【Fターム(参考)】