説明

ホログラム記録媒体

【課題】ホログラムのセキュリティ性を高くする。
【解決手段】ホログラム記録層51には、ホログラムが記録されている。光機能性フィルム55は、光学的異方性を有する透明なフィルムの一部が「COPY」という文字のパターンに予め切り抜かれているものである。光機能性フィルム55は、ホログラム記録層51に透明なUVレジン層54によって密着されているため、この文字が見えない。ホログラムが記録された記録媒体を原版としてコンタクトプリントによって複製すると、複製に寄与する偏光成分が光機能性フィルム55を通過する部分とUVレジン層54しか通過しない部分とでは異なったものとなる。その結果、複製される干渉縞の鮮明度が相違したものとなり、見えなかった文字が見えるようになり、複製したホログラムであることが一見して分かるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、真贋判定目的に使われるホログラムのセキュリティ性を高めることができるホログラム記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
CDカード、プリペイドカード、定期券、通帳、パスポート、身分証明書、商品等が真実なもので偽造されたものでないことを保証するために、立体表示が可能なホログラムが使用されている。現状では、干渉膜を表面の凹凸として記録したエンボス型ホログラムからなるラベル、シール等を対象物に貼着することが広く行われている。しかしながら、エンボス型ホログラムは、偽造されやすい問題があった。これに対して、干渉膜を膜内部の屈折率の差として記録するリップマン型ホログラムは、偽造が極めて困難である。その理由は、記録画像を制作するのに高度な技術が必要とされ、また、記録材料が入手困難なことによる。
【0003】
体積型(リップマン型、ボリューム型ともいう)ホログラムの制作方法としては、被写体にレーザを照射する実写ホログラムと、多視点からの視差画像をもとに記録するホログラフィックステレオグラムとがある。体積型ホログラフィックステレオグラムを制作する過程は、概略的には、画像の取得と、取得した画像の編集等の処理からなるコンテンツ制作工程と、ホログラム原版作成工程と、複製(量産)工程とからなる。画像は、撮像、またはコンピュータグラフィックスにより取得される。画像編集工程で得られた複数の画像のそれぞれが例えば円筒状レンズによって短冊状の画像に変換される。画像の物体光と参照光との干渉縞が短冊状の要素ホログラムとしてホログラム記録媒体に順次記録されることによって原版が作製される。原版を使用したコンタクトプリントによってホログラムが複製される。すなわち、原版に対してホログラム記録媒体が密着され、レーザ光が照射され、ホログラムが複製される。
【0004】
このホログラムでは、例えば横方向の異なる観察点から順次撮影することにより得られた画像情報が短冊状の要素ホログラムとして横方向に順次記録されている。このホログラムを観察者が両目で見たとき、その左右の目にそれぞれ写る2次元画像は若干異なるものとなる。これにより、観察者は視差を感じることとなり、3次元画像が再生されることとなる。
【0005】
上述したように、短冊状の要素ホログラムを順次記録する場合には、水平方向のみに視差を持つHPO(Horizontal Parallax Only)ホログラフィックステレオグラムが作成される。HPO型は、プリントにかかる時間が短く、高画質記録が実現できる。さらに、記録方式において上下視差も入れることもできる。水平方向および垂直方向の両方向に視差を持つホログラムは、FP(Full Parallax) 型のホログラムと称される。
【0006】
従来、身分証明書に貼られた体積型ホログラムシールを剥離しようとすると、ホログラム層の破断強度より剥離強度が大きいために、ホログラム層が破壊され、再使用できなくすることが提案されている(特許文献1参照)。また、下記特許文献2には、偏光制御層が設けられたホログラムが提案されているが、偏光制御層自体はパターンニングされているものではないため、複製される画像の効率が全体的に悪くする効果はあっても潜像が顕在化するような顕著な効果までは生み出せなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−82593号公報
【特許文献2】特許第3342056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、体積型ホログラムは、未露光のホログラム用記録材料を近接させ、記録波長と近い波長のレーザを照射することにより、複製することができる。ホログラム用記録材料は、製作や入手が困難であり、違法に複製を作ることは容易ではない。しかしながら、二重三重にセキュリティ性を向上させるために、違法に複製ができない、または複製したものがオリジナルと違うことが分かる、というような対策が望まれている。
【0009】
特許文献1に記載の方法は、ホログラムシールを貼り替えることを防止するものであるが、真正なホログラム原版を使用してコンタクトプリントによってホログラムを偽造することを防止することはできないものであった。
【0010】
真贋判定技術には、一見してわかるオバート(Overt)と呼ばれる技術要素の他、器具な
どを使わないと判定しにくいコバート(Covert)と呼ばれる技術要素も望まれている。ホログラム記録媒体の場合、ホログラムの観察の邪魔となるので、記録済みのホログラムを観察する時に真贋判定のために付加された情報が見えないことが望ましい。
【0011】
したがって、この発明の目的は、複製による偽造を防止することができ、さらに、真贋判定にコバート要素を提供することが可能なホログラム記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、この発明は、体積型ホログラムにおいて、ホログラム記録層より観察者側に、部分的にパターンニングされている光機能性フィルムが空気を介さず被着され、
該光機能性フィルムの有無にかかわらず、外観を略同一に保持するようになされていることを特徴とするホログラム記録媒体である。
【0013】
光機能性フィルムは、光学的に異方性があるフィルムである。
さらに、光学的に異方性があるフィルムが部分的にくり抜かれたものであり、
くり抜かれた部分には、該フィルムと外観が略同一で、等方性のある材料が充填される。
光機能性フィルムは、光学的に等方性があるフィルムである。
さらに、光学的に等方性があるフィルムが部分的にくり抜かれたものであり、
くり抜かれた部分には、該フィルムと外観が略同一で、異方性のある材料が充填される。
【0014】
または、光機能性フィルムは、部分的にその光学軸の方向が異なるように形成されているフィルムである。
【0015】
光機能性フィルムは、位相差フィルムである。
光機能性フィルムは、偏光フィルムである。
光機能性フィルムは、ナノインプリントで形成された微細構造である。
光機能性フィルムは、ナノインプリントによりパターンニングされた微細構造である。
【0016】
光機能性フィルムとホログラム記録層との接着力は、ホログラム記録層の自己結集力よりも強くされている。
【発明の効果】
【0017】
この発明では、ホログラム記録層より観察者側に、部分的にパターンニングされている光機能性フィルムが被着されるので、複製を行った場合に複製後のホログラム記録媒体上にパターンが現れる。複製後のホログラムは、オリジナルと異なったものとなり、偽造防止の効果を発揮できる。さらに、複製を行わない状態では、ホログラムの外観上では、パターンを知覚できない。さらに、光機能性フィルムを剥がそうとすると、光機能性フィルムが剥がれる前にホログラム記録層が破壊されるので、複製防止効果がなくなることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明を適用できるホログラフィックステレオグラム作成システムの一構成例を示す略線図である。
【図2】ホログラフィックステレオグラム作成時の画像処理の一例の説明に用いる略線図である。
【図3】ホログラム記録媒体の一例を示す断面図である。
【図4】光重合型フォトポリマの感光プロセスを示す略線図である。
【図5】コンタクトプリント装置の説明に使用する略線図である。
【図6】この発明によるホログラム記録媒体の一実施の形態の構成を示す略線図である。
【図7】この発明によるホログラム記録媒体の一実施の形態の構成の変形例を示す略線図である。
【図8】この発明によるホログラム記録媒体の一実施の形態の各部の説明に用いる略線図である。
【図9】この発明によるホログラム記録媒体の一実施の形態の複製防止効果を説明するための略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について説明する。なお、説明は、以下の順序で行う。
1.ホログラム原版の作成
2.一実施の形態
3.変形例
なお、以下に説明する実施の形態は、この発明の好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、この発明の範囲は、以下の説明において、特にこの発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施の形態に限定されないものとする。
【0020】
<1.ホログラム原版の作成>
「ホログラフィックステレオグラム作成システム」
先ず、短冊状の複数の要素ホログラムを1つの記録媒体上に記録することにより、水平方向の視差情報を持たせたホログラフィックステレオグラムを構成するための装置について説明する。なお、この発明は、ホログラフィックステレオグラムに限らず、被写体にレーザを照射する実写ホログラムに対しても適用できる。
【0021】
このホログラフィックステレオグラム作成システムは、物体光と参照光との干渉縞が記録されたホログラム記録媒体をそのままホログラフィックステレオグラムとする、いわゆるワンステップホログラフィックステレオグラムを作成するシステムである。図1に示すように、記録対象の画像データの処理を行うデータ処理部1と、このシステム全体の制御を行う制御用コンピュータ2と、ホログラフィックステレオグラム作成用の光学系を有するホログラフィックステレオグラムプリンタ装置3とから構成されている。
【0022】
データ処理部1は、多眼式カメラや移動式カメラ等を備えた視差画像列撮影装置13から供給される視差情報を含む複数の画像データD1に基づいて、視差画像列D3を生成する。他のデータとして、画像データ生成用コンピュータ14によって生成された視差情報を含む複数の画像データD2に基づいて、視差画像列D3を生成する。
【0023】
ここで、視差画像列撮影装置13から供給される視差情報を含む複数の画像データD1は、複数画像分の画像データである。かかる画像データは、例えば、多眼式カメラによる同時撮影、または移動式カメラによる連続撮影等によって、実物体を水平方向の異なる複数の観察点から撮影することにより得られる。
【0024】
また、画像データ生成用コンピュータ14によって視差情報を含む複数の画像データD2が生成される。画像データD2は、例えば、水平方向に順次視差を与えて作成された複数のCAD(Computer Aided Design)画像やCG(Computer Graphics)画像等の画像データである。
【0025】
そして、データ処理部1は、視差画像列D3に対して画像処理用コンピュータ11によってホログラフィックステレオグラム用の所定の画像処理を施す。そして、所定の画像処理が施された画像データD4を、メモリまたはハードディスク等の記憶装置12に記録する。
【0026】
また、データ処理部1は、ホログラム記録媒体に画像を記録する際に、記憶装置12に記録された画像データD4から、1画像分毎にデータを順番に読み出し、この画像データD5を制御用コンピュータ2に送出する。
【0027】
一方、制御用コンピュータ2は、ホログラフィックステレオグラムプリンタ装置3を駆動する。データ処理部1から供給された画像データD5に基づく画像がホログラフィックステレオグラムプリンタ装置3内にセットされたホログラム記録媒体30に、短冊状の要素ホログラムとして順次記録される。
【0028】
このとき、制御用コンピュータ2は、ホログラフィックステレオグラムプリンタ装置3に設けられたシャッタ32、表示装置41および記録媒体送り機構等の制御を行う。すなわち、制御用コンピュータ2は、シャッタ32に制御信号S1を送出してシャッタ32の開閉を制御する。また、表示装置41に画像データD5を供給して表示装置41に当該画像データD5に基づく画像を表示させる。さらに、記録媒体送り機構に制御信号S2を送出して記録媒体送り機構によるホログラム記録媒体30の送り動作を制御する。
【0029】
画像処理は、図2に示すように、視差情報を含む複数の画像データD1のそれぞれを視差方向、すなわち、横(幅)方向にスリット状に分割し、分割後のスライスを寄せ集めて処理後の画像D5を再構成するものである。この画像D5が表示装置41に表示される。
【0030】
「ホログラム記録媒体の一例」
ここで、上述したホログラフィックステレオグラム作成システムにおいて使用されるホログラム記録媒体30の一例について説明する。このホログラム記録媒体30は、図3に示すように、テープ状に形成されたフィルムベース材30a上に光重合型フォトポリマからなるフォトポリマ層30bが形成される。さらに、当該フォトポリマ層30b上にカバーシート30cが被着されることにより形成された、いわゆるフィルム塗布タイプの記録媒体である。
【0031】
光重合型フォトポリマは、初期状態では、図4Aに示すように、モノマMがマトリクスポリマに均一に分散している。これに対して、図4Bに示すように、10〜400mJ/cm2 程度のパワーの光LAを照射すると、露光部においてモノマMが重合する。そして、ポリマ化するにつれて周囲からモノマMが移動してモノマMの濃度が場所によって変化し、これにより、屈折率変調が生じる。この後、図4Cに示すように、1000mJ/cm2 程度のパワーの紫外線または可視光LBを全面に照射することにより、モノマMの重合が完了する。このように、光重合型フォトポリマは、入射された光に応じて屈折率が変化するので、参照光と物体光との干渉によって生じる干渉縞を、屈折率の変化として記録することができる。
【0032】
このような光重合型フォトポリマを用いたホログラム記録媒体30は、露光後に特別な現像処理を施す必要が無い。したがって、光重合型フォトポリマを感光部に用いたホログラム記録媒体30を使用する本実施の形態に係るホログラフィックステレオグラムプリンタ装置3は、構成を簡略化することができる。なお、感光材料としては、他の材料を使用することができる。
【0033】
「コンタクトプリント」
図5に示すように、コンタクトプリントによる複製装置は、レーザ光源100からのレーザ光(S偏光)が空間フィルタ101によって拡大され、コリメーションレンズ102に入射される。コリメーションレンズ102によって平行光とされたレーザ光が感光性材料を含むホログラム記録媒体103およびホログラム原版104に照射される。
【0034】
ホログラム原版104は、上述したように制作され、観察時に水平方向に視差を有する反射型ホログラム例えば体積型ホログラムである。感光性材料の層を有するホログラム記録媒体103およびホログラム原版104は、直接密着されるか、屈折率調整液(インデックスマッチング液と称される)を介して密着される。ホログラム記録媒体103には、ホログラム原版104によって回折した光と、入射レーザ光とによって形成される干渉縞が記録される。
【0035】
図5に示すように、ホログラム記録媒体103に入射される参照光とホログラム原版104に照射されるレーザ光(直線偏光)とが同一とされており、参照光とホログラム原版104からの再生光との干渉縞の鮮明度が最大となる。若し、参照光および再生光の一方が偏光されている場合には、干渉縞の鮮明度が低下する。後述するように、この発明は、文字等のパターンに応じて意図的にホログラム記録媒体103に記録される干渉縞の鮮明度を制御するものである。
【0036】
<2.一実施の形態>
[ホログラム記録媒体の積層構造]
上述したプリンタ装置によって原版が作成され、原版に対してホログラム記録媒体が密着され、レーザ光が照射されることによって、原版が複製される。ホログラム記録媒体は、画像記録媒体であって、原版から複製を作成する場合に使用される。原版としては、上述したホログラム記録媒体30が使用される。フィルム状ベース材に代えてガラス板によってホログラム感光性材料を挟んだ構造の原版を使用しても良い。
【0037】
ホログラムを複製する場合に、原版に対してホログラム記録媒体が密着される。後述する複製防止用の光機能性フィルムが被着される前の状態で、複製が行われる。一方、偽造を目的とする複製の場合には、このように複製され、光機能性フィルムが被着された後のホログラム記録媒体を原版として複製がなされる。
【0038】
図6に示すように、この発明の一実施の形態による複製防止機能を有するホログラム記録媒体は、フォトポリマー等の厚さの厚いホログラム感光材料からなるホログラム記録層51を有する。ホログラム記録層51の観察者側(図6において上部)から反対側には粘着層(接着層とも呼ばれる)52を介在させてセパレータ53が配される。セパレータ53は、PET(ポリエチレン・テレフタレート)等の樹脂からなる剥離フィルムである。粘着層52は、黒色であることが好ましい。黒色とするのは、商品等に貼り付けた場合に、背景が透けて見えると、ホログラムの画像が見にくくなることを防止するためである。
【0039】
ホログラム記録層51の観察者側には、透明で、紫外線の照射によって硬化し、大きな剥離強度を有する紫外線硬化樹脂(UV(UltraViolet)レジンと称する)層54を介して
、2軸延伸されたPETフィルムやセロハンなどの透明なフィルムからなる光機能性フィルム55が被着される。光機能性フィルム55は、複製防止のために配されている。さらに、光機能性フィルム55上に透明な保護フィルム(ハードコートと適宜称する)56が形成されている。ハードコート56は、例えばUVレジンによって形成される。
【0040】
ホログラム記録層51の自己結集力または破断強度に比して、UVレジン層54の接着力が強くされていることが好ましい。その理由は、コピー防止機能を無くそうとして光機能性フィルム55を剥がそうとすると、ホログラム記録層51が破壊され、再使用できないからである。
【0041】
図7に示すように、ホログラム記録層51と粘着層52との間にブロッキング層57を設けるようにしても良い。
【0042】
ホログラム記録層51は、感光性材料として例えば屈折率Nが1.52のフォトポリマーを使用し、入射される光の明暗を屈折率の差として記録することができる。ホログラム記録層1として要求される特性は、下記のものである。
高回折効率(例えば90%以上)、回折波長半値幅:5〜30nm、高感度(例えば20mJ/cm2以下)、収縮率が低いこと
【0043】
ハードコート56は、傷の防止、帯電防止、フィルム形状形成、並びにホログラム形状の安定化のために設けられている。ハードコート56に要求される特性は、下記のものである。
高い表面硬度(傷つき防止のため)、低い表面抵抗、耐熱性(例えば100〜120°C)、低い吸湿性、良好な接着性および材料密着性、感光性材料にほぼ等しい光学屈折率(例えば1.52)、低い複屈折性(例えば±15nm(波長が633nmに対して))、低いヘイズ(表面または内部の不明瞭なくもり(外観上)の度合いのことをヘイズという)、高い透明性、表面の平滑性が良好なこと、薄い膜厚とできること(例えば20μm以下)
【0044】
図7に示す例において設けられているブロッキング層57は、材料透過防止とホログラム形状の安定化のために設けられている。感光性材料がセパレータ層53の樹脂フィルムに対して化学反応を起こすために、ブロッキング層57が設けられる。ハードコート3に要求される特性は、下記のものである。
耐溶剤性(感光性材料を液状とするための溶剤によって化学的ダメージを受けない)、耐熱性(例えば100〜120°C)、低い吸湿性、良好な接着性および材料密着性、薄い膜厚とできること(例えば20μm以下)
【0045】
上述したホログラム記録媒体は、塗布、接着等によって各層を形成することによって製造される。製造過程において、コンタクトプリントによってホログラム原版のホログラムが複製され、複製後に、光機能性フィルム55が貼り合わされる。
【0046】
「光機能性フィルム」
光機能性フィルムの用語は、複製防止機能を有する光学フィルムを意味する。光学フィルムは、光線を透過または反射することによって光学的効果を生じさせるフィルムを意味する。したがって、光機能性フィルムの用語を単にフィルム、または光学フィルムに置き換えても良い。一実施の形態における光機能性フィルム55は、合成樹脂フィルムをある程度加熱しながら二軸延伸加工したものである。すなわち、二軸方向にフィルムを引っ張る加工によって作成されている。延伸によって強度が増し、薄くすることができる。さらに延伸によって結晶構造が変化し、光学的性質が変化する。
【0047】
図8に示すように、ホログラム記録層51には、ホログラムが記録されている。ホログラムは、分かりやすくするために画像として図示されている。光機能性フィルム55は、光学的異方性を有する透明(例えば光透過率が90%以上)なフィルムの一部がパターン例えば「COPY」という文字のパターンが予めくり抜かれているものである。
【0048】
光機能性フィルム55は、ホログラム記録層51に対して空気を介さずに(透明なUVレジン層54によって)密着されている。光機能性フィルム55とUVレジン層54とは、屈折率も透過率も近いもので空気無く充たされているため、一見したところ、この「COPY」の文字は見えない。したがって、ホログラムを観察する上で文字が邪魔とならない。さらに、半硬化状態のUVレジン層54に対して光機能性フィルム55を貼り合わせることによって、切り抜き部分に対してUVレジンが入り込んだ状態とすることができる。UVレジン層54のUVレジンに限らず、UVレジン層54の材質以外の光機能性フィルムと色、透過度がほぼ同一の材質をくり抜かれた部分に充填しても良い。
【0049】
一般的に、屈折率が偏光方向によって均質でないことを複屈折があるという。複屈折のある材質を光学的異方性材質という。複屈折を示さない材質を光学的等方性材質という。高分子配向膜、液晶高分子、光学結晶等は、複屈折性を示す。ガラスは、光学的等方性材質である。UVレジン層54も複屈折が低い材質であり、等方性材質の一つということができる。一方、延伸によって異方性が増加されたフィルム(高分子配向膜のひとつ)が光機能性フィルム55として使用される。
【0050】
このようにホログラムが記録された記録媒体を原版としてコンタクトプリントによって複製すると、複製に寄与する偏光成分が光機能性フィルム55を通過する部分とUVレジン層54しか通過しない部分とでは異なったものとなる。その結果、複製される干渉縞の鮮明度が相違したものとなり、経路の違いに応じて明るさが異なるようにホログラムが複製される。すなわち、見えなかった文字が見えるようになり、複製したホログラムであることが一見して分かるようになる。
【0051】
図9Aに示すように、この発明によるホログラム記録媒体に対して複製用ホログラム記録媒体が観察者側に密着される。複製用ホログラム記録媒体は、例えば透明なベース部材62に対してホログラム記録層61が塗布等により形成されたものである。ホログラム記録層61がハードコート56に密着された状態で、レーザ光71がベース部材62を通じて照射される。
【0052】
図9Bに拡大して示すように、複製時の入射レーザ光71aがホログラム記録層61、ハードコート56、光機能性フィルム55およびUVレジン層54を順に経由してホログラム記録層51に照射される。ホログラム記録層51の反射レーザ光72aがUVレジン層54、光機能性フィルム55、ハードコート56を順に経由してホログラム記録層61に入射される。図9Bは、機能の説明に使用する模式的な図であって、ベース部材62の図示が省略され、入射レーザ光が垂直に入射され、その反射レーザ光が異なる点から垂直に反射されるものとしている。
【0053】
入射レーザ光71aの例では、光機能性フィルム55を通過するために、複屈折による位相差が生じる。この位相差によって、参照光と再生光の干渉縞の鮮明度が低下し、レーザ光71aにより複製される像が暗くなる。例えば、光機能性フィルム55として、入射レーザ光の波長の1/4波長に近い機能を持たせると、レーザ光72aは71aに対して二回光機能性フィルム55を通過するため、偏光が90°回転し干渉性が悪くなる。一方、入射レーザ光71bおよび反射レーザ光72bは、光機能性フィルム55を通過せず、UVレジン層54のみを通過するので、複屈折が少なく、レーザ光の偏光面が変わらない。全ての成分が干渉縞を記録するために使用され、記録された干渉縞の鮮明度が高くなる。その結果、レーザ光71b、72bにより複製された像が暗くならない。同様に、入射レーザ光71cおよび反射レーザ光72cは、光機能性フィルム55を通過するので、干渉縞の鮮明度が低くなる。さらに、入射レーザ光71dおよび反射レーザ光72dは、光機能性フィルム55を通過しないので、干渉縞の鮮明度が高くなる。複屈折の光学軸の向きをコントロールすることにより、ホログラムの理想的な参照光入射角において最も干渉性が悪くなるように配置することができる。
【0054】
このように、この発明によるホログラム記録媒体を原版として複製を行った場合には、光機能性フィルム55に形成されているパターンが複製後のホログラムに現れる。このことによって、複製であることが一見して分かるようになり、真贋判定のセキュリティを高くすることができる。複製されればウォーターマークのように出てくる効果が生じる。さらに、偏光板を組み合わせて自然光では見えなかった上述の模様や文字を見えるようにすることが可能である。
【0055】
光機能性フィルム55に切り抜かれるパターンとしては、「COPY」のような文字である必要は無く、模様等でも良い。さらに、レーザー加工や放電加工、電子線ビーム加工などによりマイクロ文字やマイクロ模様を記録することも可能である。さらに、個別ID、個人の顔写真、指紋等の個別情報を記録しても良い。
【0056】
光機能性フィルム55の具体例としては、1/2波長板、1/4波長板などの位相差板、位相差フィルムのような位相差をコントロールできるフィルムを使用できる。理想的には、記録するレーザ光の波長の1/4波長に近い位相差板を使うと効果的であるが、これに限るものではない。さらに、必ずしも位相差フィルムでなくとも、位相差を生じさせればよいので、大きな複屈折性を持つフィルムであればよい。セロファンや延伸PET等の安価なフィルムを使用することができる。
【0057】
さらに、パターンニングは、完全にフィルムを切り抜く必要はない。高アスペクトで微細構造を形成するいわゆるナノインプリントで、この位相差板機能を持たせることもできる。ナノインプリントは、金型に刻み込んだ数十nm〜数百nmの凹凸を基板上の樹脂材料に押し付けて形状を転写する加工方法である。一例として、透明基材に対し、レーザ光の波長等に応じた寸法の微細構造をナノインプリントで形成する。さらに、部分的にこの微細構造を面内直交方向に変化させることによってパターニングした材料を使うことができる。この場合、表面からの目視ではパターンニング自体が見えず、且つ、クロスニコル偏光板で見るとパターンニングが見えるという状況を作ることができた。さらに、ナノインプリントによってマイクロ文字を刻み込むようにしても良い。さらに、異方性のある高分子配向膜を部分的に加熱しながら型押しすることによって異方性の度合いを変えたフィルムを使用しても良い。
【0058】
光学的異方性をもつ部分と持たない部分とのパターンニングだけでなく、光学軸の向きが異なるようになっていると不正複製にはより効果を発揮する。例えば、光学軸が面内直交するようにパターンニングされていれば、どのような方向に配置しても潜像が不正複製時に顕在化してしまうことになる。
【0059】
さらに、光機能性フィルムは、偏光板でもよい。ホログラム記録に寄与するS偏光成分とP偏光成分に差が生じるためである。単純に部分的に直線偏光板が部分的に形成されているだけでは、自然光で照明した際に偏光板機能の有無で暗い部分・明るい部分がわかってしまうことになるが、部分的に偏光板の吸収軸を変えることにより自然光では認識できないものが、レーザー光では認識できたり、複製ができないようにしたりすることができるようになる。
【0060】
さらに、偏光板は、ナノインプリントのワイヤーグリッドにより形成されていても良い。すなわち、前述の高アスペクト構造に蒸着を行うような方法で形成したものを使うことができる。
【0061】
上述したように、体積型ホログラムの原版上に、未露光の体積型ホログラム記録材料を配置し、略平行光を照射すると、コンタクトプリントと呼ばれる方法で、元のホログラムを複製することができる。ここで、上述した位相差板機能、偏光板機能をもつ光機能性フィルムが、原版と該未露光材料の間にあると、このパターンニングまで複製されることになる。ホログラムの複製に寄与するレーザー光は、S偏光・P偏光により異なるが、この偏光成分にパターンニングがなされているからである。
【0062】
真贋判定目的に使われるホログラムとしては、同じものが違法にコピーされては困るため、上述のようなパターニングを形成することで、原版と同じものができないようにしておくことは意義ある。
【0063】
なお、該光機能性フィルムとホログラム記録材料との接着力は、ホログラムの記録材料の自己結集力よりも強くすることにより、剥がそうとしたら該機能性フィルムと記録材料とが剥がれる前にホログラム自体が脆弱破壊することになっている。このために、違法コピーをしようと該パターニングされたフィルムを剥がそうとしても先にホログラム自体が破壊される。
【0064】
<3.変形例>
以上、この発明の複製防止ホログラムをいくつかの実施例に基づいて説明してきたが、この発明はこれら実施例に限定されず種々の変形が可能である。例えば光機能性フィルムを等方性フィルムとし、等方性フィルムを部分的にくり抜いて、くり抜かれた部分に異方性のある材料を充填しても良い。さらに、光機能性フィルムは、ホログラム形成層よりも観察者側に形成されている場合について説明したが、ホログラム形成層よりも裏側すなわち観察者と反対側に配置されても良い。この場合、ホログラム形成層により回折される像に対しては、光機能性フィルムの効果は果たさないが、実際には光機能性フィルムを透過し、さらに裏面まで行って反射し、未露光記録材料にまで到達してくる光には、ホログラム記録に寄与できる偏向成分に差ができる。ホログラム裏面での正反射にパターンがコピーされることになるため、違法にコピーされたものはオリジナルとは異なるホログラムとなる。
【符号の説明】
【0065】
51・・・ホログラム記録層
52・・・粘着層
53・・・セパレータ
54・・・UVレジン層
55・・・光機能性フィルム
56・・・ブロッキング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積型ホログラムにおいて、ホログラム記録層より観察者側に、部分的にパターンニングされている光機能性フィルムが空気を介さず被着され、
該光機能性フィルムの有無にかかわらず、外観を略同一に保持するようになされていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項2】
前記光機能性フィルムは、光学的に異方性があるフィルムである請求項1に記載のホログラム記録媒体。
【請求項3】
前記光学的に異方性をもつフィルムは、部分的にその光学軸の方向が異なるように形成されていることを特徴とする請求項2に記載のホログラム記録媒体。
【請求項4】
前記光学的に異方性があるフィルムが部分的にくり抜かれたものであり、
前記くり抜かれた部分には、該フィルムと外観が略同一で、等方性のある材料が充填されていることを特徴とする請求項2に記載のホログラム記録媒体。
【請求項5】
前記光機能性フィルムは、位相差フィルムである請求項2に記載のホログラム記録媒体。
【請求項6】
前記光機能性フィルムは、偏光フィルムである請求項1に記載のホログラム記録媒体。
【請求項7】
前記光機能性フィルムは、ナノインプリントで形成された微細構造である請求項1に記載のホログラム記録媒体。
【請求項8】
前記光機能性フィルムは、ナノインプリントによりパターンニングされた微細構造である請求項1に記載のホログラム記録媒体。
【請求項9】
前記光機能性フィルムと前記ホログラム記録層との接着力は、前記ホログラム記録層の自己結集力よりも強くされた請求項1に記載のホログラム記録媒体。
【請求項10】
前記光機能性フィルムは、光学的に等方性があるフィルムである請求項1に記載のホログラム記録媒体。
【請求項11】
前記光学的に等方性があるフィルムが部分的にくり抜かれたものであり、
前記くり抜かれた部分には、該フィルムと外観が略同一で、異方性のある材料が充填されていることを特徴とする請求項9に記載のホログラム記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−217864(P2010−217864A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267209(P2009−267209)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(594064529)株式会社ソニー・ディスクアンドデジタルソリューションズ (88)
【Fターム(参考)】