説明

ホログラム記録材料

【課題】 可視光レーザーにより屈折率を効率的に変調させることができ、この変調後の透明性にも優れるホログラム記録材料を提供する。


【解決手段】 CH2 =C(R1 )C(=O)O−R2 =CH2 (式中、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は炭素数1〜20の飽和または不飽和炭化水素基であって、分子内にヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい)で表されるアクリル・ビニル単量体を必須成分とした単量体の重合体であって、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する重合体(A)と、可視光により活性種を発生する光重合開始源(B)を含むことを特徴とするホログラム記録材料、特に上記の光重合開始源(B)が可視光を吸収して活性種を発生する光重合開始剤であるか、または可視光増感色素と光重合開始剤との混合系である上記構成のホログラム記録材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広い波長領域にわたり高感度で、化学的に安定であり、かつ操作性に優れた屈折率変調重合体組成物からなるホログラム記録材料に関する。

【背景技術】
【0002】
ホログラムは、三次元立体像の記録、再生が可能なため、その優れた意匠性、装飾性効果を活かして、書籍、雑誌等の表紙、POP等のディスプレイ、ギフト等に利用されている。また、サブミクロン単位での微細な情報記録が可能なため、有価証券、クレジットカード、プリペイドカード等の偽造防止用のマーク等にも応用されている。

特に体積位相型ホログラムは、ホログラム記録媒体中に屈折率の異なる空間的な干渉縞を形成することで、形成されたホログラムを通過する光を変調することが可能となるため、ディスプレイ用途のほか、POS用スキャナーやヘッドアップディスプレイ(HUD)に代表されるホログラム光学素子(HOE)への応用が期待されている。

【0003】
このような体積位相型ホログラムヘの要望から、フォトポリマーを利用した体積位相型ホログラム記録材料の提案がこれまでになされている。

具体的には、フォトポリマーを使用したホログラムの製造方法として、フォトポリマーからなるホログラム記録媒体を輻射線の干渉パターンに露光したのち、現像液による現像処理を施す方法が提案されている。

【0004】
例えば、担体となる重合体に2個以上のエチレン性不飽和結合を有する多官能単量体と光重合開始剤を組み合わせた感材を、輻射線の干渉パターンに露出する第1の工程、この感材を第1の溶剤で処理して膨潤させる第2の工程、膨潤作用の乏しい第2の溶剤で処理して収縮させる第3の工程とを具備することを特徴とした、フォトポリマーを使ったホログラムの製造方法が開示されている(特許文献1参照)。

この公知技術によると、回折効率、解像度および耐環境特性等の点において優れたホログラムを製造することができる。しかしながら、この方法には、感度特性や感光波長領域特性に劣る、あるいはホログラムの製造において湿式処理工程を採用している等の製造上の煩雑性、また溶媒浸漬操作時に生じる空隙やひび割れに起因した現像むらや白化による透明性の低下等の問題を生じる欠点があった。

【0005】
一方、ホログラムの製造工程において複雑なあるいは煩雑な湿式処理工程を必要としない、唯一の処理工程として干渉露光のみでホログラムを製造することが可能なフォトポリマーを使ったホログラム記録材料とその製造法が開示されている。例えば、脂肪族系高分子バインダーと脂肪族系アクリルモノマーおよび光重合開始剤からなることを特徴とするホログラム記録用感光性層が提案されている(特許文献2参照)。

しかし、この公知技術は、使用される高分子重合体と脂肪族系アクリルモノマーとの屈折率が近いため、ホログラム露光で得られる屈折率変調度は0.001から0.003の範囲で、その結果、高い回折効率が得られないという欠点があった。

【0006】
さらに、従来より、代表的な光学用ポリマーとして知られるポリメチルメタクリレート(PMMA)に関し、低分子を導入することなく光照射のみにより屈折率を高くする試みがなされている。しかし、この技術は、325nmの光の照射により0.051という光デバイスにとって十分に大きい屈折率差が得られるものの、PMMAに反応性を付与するため、モノマーであるメチルメタクリレートをあらかじめ酸化してから重合させており、そのため、作製に長時間を要し、工程も煩雑になる問題があった。

なお、モノマーであるメチルメタクリレートを酸化しないで重合した場合は、PMMAの屈折率は上記光を照射しても全く増加しないとの報告がなされている(非特許文献1参照)。また、照射する光の波長をより短くした場合では、例えば、0.2537μmの照射では、PMMAの主鎖を切断して、密度を下げる傾向があるとされとされ(非特許文献2参照)、Lorentz−Lorenzの式から屈折率を上げることは不可能であることが示唆されている。

【0007】
また、無機材料の場合は、ゲルマニウムをドープしたガラスに光照射し、屈折率を変化させて光回折格子を作製する方法が知られている。また、ポリマー材料の場合は、光化学反応活性な低分子をポリマー中に分散させた材料に対してレーザー光を照射して、フォトクロミック反応(フォトブリーチング)を誘起し、それに伴い屈折率を変化させて光回折格子を作製する技術が開示されている(特許文献3参照)。さらに、上記フォトブリーチングを利用して、屈折率が材料中で連続的に変化した、いわゆる屈折率分布型材料(GRIN材料)を製造する技術も開示されている(特許文献4参照)。

これらの公知技術では、低分子をドープするか、または低分子をポリマー分子中に導入した材料を用いており、場合により、その低分子による光吸収が大きくなり、デバイスの十分な透明性が得られないことがあった。

【0008】
【特許文献1】特公昭62−22152号公報
【特許文献2】米国特許第3,658,526号公報
【特許文献3】特開平7−92313号公報
【特許文献4】特開平9−178901号公報
【非特許文献1】M.J.Bowden,E.A.Chandross,I.P.Kaminow,「Applied Optics」vol.13,p.113(1974)
【非特許文献2】W.J.Tomlinson,I.P.Kaminow,E.A.Chandross,R.L.Fork,W.T.Silfvast,「Applied Physics Letters」vol.16,p.486(1970)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、光の照射により屈折率を変調させることによりホログラムとする材料が、今日まで、種々提案されてきたが、その作製に長時間を要したり工程が煩雑となったり、光照射後の透明性を満足できない等の問題があった。

本発明は、このような事情に照らし、上記従来のような煩雑な工程を要することなく、可視光レーザーにより屈折率を効率的に変調(変化)させることができ、またこの変調後の透明性にも優れるホログラム記録材料を提供することを課題とする。

【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意検討した結果、特定の重合方法により分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する重合体を効率良く得る方法を見出し、この重合体に特定の光重合開始源を混合すると、可視領域レーザー光の干渉露光により上記ラジカル重合性の側鎖ビニル基が架橋反応して密度変化が大きくなり、これにより屈折率を効率的に変化(増加)させることができると共に、この変化後の透明性にも優れるホログラム記録材料が得られることを知り、本発明を完成した。

【0011】
すなわち、本発明は、つぎの式(1);

CH2 =C(R1 )C(=O)O−R2 =CH2 … (1)

(式中、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は炭素数1〜20の飽和または不飽和炭 化水素基であって、分子内にヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい)

で表されるアクリル・ビニル単量体を必須成分とした単量体の重合体であって、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する重合体(A)と、可視光により活性種を発生する光重合開始源(B)を含むことを特徴とするホログラム記録材料、特に重合体(A)が、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体を20モル%以上含む単量体の重合体である上記構成のホログラム記録材料と、立体規則性が、シンジオタクティシティー(rr)で70%以上である上記構成のホログラム記録材料と、さらに重合体(A)の重量平均分子量が8万以下である上記構成のホログラム記録材料とに係るものである。

【0012】
また、本発明は、光重合開始源(B)が、可視光を吸収して活性種を発生する光重合開始剤である上記構成のホログラム記録材料、光重合開始源(B)が、可視光増感色素と光重合開始剤とからなる上記構成のホログラム記録材料、光重合開始剤の量が、ホログラム記録材料の全体中、1〜50重量%である上記構成のホログラム記録材料、可視光増感色素の含有量が、ホログラム記録材料の全体中、0.1〜10重量%である上記構成のホログラム記録材料を提供できるものである。

さらに、本発明は、重合体(A)および光重合開始源(B)のほかに、エチレン性不飽和結合含有モノマー(C)を含む上記構成のホログラム記録材料、エチレン性不飽和結合含有モノマー(C)が、重合体(A)との屈折率差が0.005以上である上記構成のホログラム記録材料、重合体(A)および光重合開始源(B)あるいはこれらとエチレン性不飽和含有モノマー(C)のほかに、可塑剤および/または連鎖移動剤を含む上記構成のホログラム記録材料を提供できるものである。

【0013】
また、本発明は、つぎの式(1);

CH2 =C(R1 )C(=O)O−R2 =CH2 … (1)

(式中、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は炭素数1〜20の飽和または不飽和炭 化水素基であって、分子内にヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい)

で表されるアクリル・ビニル単量体を必須成分とした単量体を、重合開始剤として、希土類金属を活性中心とする金属錯体触媒を使用して、アニオン重合させることにより、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する重合体(A)を生成し、これに可視光により活性種を発生する光重合開始源(B)を含ませて、ホログラム記録材料を製造することを特徴とするホログラム記録材料の製造方法に係るものである。

【0014】
特に、本発明は、希土類金属を活性中心とする金属錯体触媒が、つぎの式(2);

(Cp1)(Cp2)Mr−(R)p・(L)q …(2)

(式中、Cp1,Cp2は、相互に独立して、非置換のシクロペンタジエニルまたは置 換されたシクロペンタジエニルであり、Cp1とCp2とは直接または連結基を介し て結合していてもよい。Mrはr価の希土類金属原子でrは2〜4の整数である。R は水素原子または炭素数1〜3の直鎖アルキル基である。Lは配位能を有する溶媒で ある。pはRの数、qはLの数で、それぞれ0〜2の整数であり、上記rに対してr =p+2となるように選択される。)

で表される金属錯体化合物である上記構成のホログラム記録材料の製造方法を提供できるものである。

【発明の効果】
【0015】
このように、本発明は、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する特定の重合体に特定の光重合開始源を加えて、広い波長領域にわたり高感度で、化学的に安定であり、かつ操作性に優れた屈折率変調重合体組成物を構成したことにより、従来のような煩雑な工程を要することなく、可視光レーザーにより屈折率を効率的に変調(変化)させることができると共に、この変調後の透明性にも優れる、つまり可視光レーザーにより回折効率の高い透明なホログラム記録材料を提供することができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のホログラム記録材料は、400〜800nmの広い波長領域の可視光の照射で光重合開始源(B)を構成する光重合開始剤またはこれと可視光増感色素とから生成するラジカル重合開始源にて、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する重合体(A)の上記側鎖ビニル基の重合反応が起こり、それに伴う密度変化により、屈折率が変調する(屈折率が増加する)ことを骨子としたものである。

【0017】
上記の重合体(A)としては、ポリビニルメタクリレート(以下、PVMAという)が好適に用いられる。PVMAは、光学ポリマーの中でも優れた透明性を有すると共に、複屈折が起こりにくく、また成形性が良好で機械的強度もバランスしており、さらに可視光の照射で得られる屈折率差も最も大きいため、本発明に特に好ましい。

また、本発明では、上記の重合体(A)として、PVMAを構成成分とした共重合体等のように、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する重合体に対して、共重合可能なモノマーを任意の組成比率で共重合させることにより、PVMA等の単独重合体よりも低い照度で大きな屈折率の増加を得ることができる。

【0018】
本発明においては、上記の重合体(A)に可視光により活性種を発生する光重合開始源(B)を含ませたホログラム記録材料に、可視光レーザーを照射するが、このレーザーの波長は、上記重合体(A)を構造変化させ、その密度変化を大きくできる波長であれば、特に限定されることなく設定可能である。照射強度等との関係で一概には決まらないが、好適には400〜800nm、特に400〜650nmである。

可視光レーザの光源は、照射する波長を考慮して、適宜選択される。具体的には、Kr(波長647nm、413nm、407nm)、He−Ne(波長633nm)、Ar(波長514.5nm、488nm)、YAG(波長532nm)、He−Cd(波長442nm)等が挙げられる。また、照射するにあたっては、特定の波長を照射するために、波長フィルターを用いることができる。

【0019】
可視光レーザーの照射強度は、小さすぎると分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する重合体(A)の光化学反応を誘起することができず、したがって屈折率変化を得ることができないため不適であり、また大きすぎると成形体が不透明になったり、成形体の強度が低下する場合があるため、これらを考慮して適宜設定される。

具体的には、照射する波長によっても異なるが、0.001〜3W/cm2 程度とするのが適当であり、特に好ましくは0.1〜1W/cm2 である。

【0020】
可視光レーザーを照射する時間は、得ようとする屈折率差を考慮して適宜設定される。すなわち、本発明の屈折率変調重合体組成物によれば、その成形体の屈折率は可視光レーザーの照射によって連続的に増加するので、照射時間を適当な値に設定することにより、屈折率を任意に制御することができる。

具体的な照射時間は、可視光レーザーの照射波長・強度によって異なるが、一例としてPVMAの成形体に対して、532nmを含むYAGレーザーを300mW/cm2 の強度で照射することにより、屈折率を0.005程度増加させるときの照射時間としては、約0.5〜2分程度とするのが適当である。

【0021】
また、可視光レーザーを照射するにあたっては、成形体の温度を高くして行うことができる。これにより分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する重合体(A)の反応性が高まり、屈折率をより効率的に変化させることができる。

具体的な温度は、成形体の溶融温度を超えない範囲で適宜設定できるが、例えば、PVMAからなる成形体の場合は、約40〜80℃が適当である。

【0022】
このような条件で可視光レーザーを照射すると重合体(A)の側鎖ビニル基が架橋し、これにより密度が上がり、成形体の屈折率が増加する。架橋反応は、成形体の一部を架橋させる等、密度が大きくなる反応であれば、有効に利用できる。

なお、本発明においては、上記の光照射で最大0.01以上の屈折率の増加を得ることができるが、実際には、0.005以上の屈折率差を得ることができれば、光ファイバ、光回折格子等の光デバイスにとって、十分に高い値である。

【0023】
本発明に用いられる重合体(A)は、つぎの式(1);

CH2 =C(R1 )C(=O)O−R2 =CH2 … (1)

(式中、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は炭素数1〜20の飽和または不飽和炭 化水素基であって、分子内にヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい)

で表されるアクリル・ビニル単量体を必須成分とした単量体の重合体であって、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する重合体である。

【0024】
上記式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体としては、特に限定されず、例えば、ビニルメタクリレート、ビニルエチルメタクリレート、ビニルオクチルメタクリレート、ビニルヘキシルメタクリレート、ビニルブチルメタクリレート、ビニルアクリレート、ビニルエチルアクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。汎用性や入手性の面より、特にビニルメタクリレートを使用するのが望ましい。

【0025】
本発明の重合体(A)は、PVMAのようなアクリル・ビニル単量体の単独重合体だけでなく、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体と他の単量体との共重合体とすることにより、耐熱特性や熱硬化性樹脂との相溶性を向上させることができる。

このような共重合体としては、例えば、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体Aと他の単量体Bとの共重合配列がAAAAAA−BBBBBB…のようなブロック連鎖となるブロック共重合体か、上記配列がABAABABABBA…のようなランダム連鎖となるランダム共重合体のいずれであってもよい。

【0026】
上記の共重合体において、可視光レーザーの低い照射強度で大きな屈折率変化を得るには、ランダム共重合体の方が望ましい。ブロック共重合体であっても、屈折率の増加と所望する物性を勘案して、適宜利用することができる。

このように、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体と他の単量体との共重合体とすると、成形体のフィルム物性、透明性、製造コスト等の観点より、ポリマー材料の種類が最適化され、特にランダム共重合体では、側鎖ビニル基の初期反応性が向上するため、より低い光量で屈折率の増加を可能とできる組み合せが存在する。

【0027】
このような目的で用いられる他の単量体は、アクリル・ビニル単量体と共重合可能で、アニオン重合用の触媒に対して、不活性または触媒を失活させないものであればよい。共重合性の面より、(メタ)アクリレート類が好ましい。

具体的には、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等が挙げられる。また、トリフルオロエチルメタクリレート等のハロゲン原子を含む単量体やジエチルアミノエチルメタクリレート等のヘテロ原子を含む単量体も使用できる。

また、触媒を失活させる官能基を有する単量体であっても、官能基をキャップすることで使用することができる。例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート類等は、水酸基をあらかじめトリメチルシリル基等でキャップすると、使用できる。同様に、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸類も、使用できる。

【0028】
このような共重合体において、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体と上記他の単量体との使用割合は、可視光の照射前後で所望の屈折率変化が得られる範囲であれば、特に限定されない。一般には、後者の他の単量体が単量体全体の10〜80モル%、特に10〜50モル%となるようにすると、前者の単量体の側鎖ビニル基の反応性を低下させることなく共重合化のメリットを発揮させることができる。

このように、本発明に用いられる重合体(A)は、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体を単量体全体の20モル%以上含むものであれば、側鎖ビニル基の反応性により可視光の照射前後で所望の屈折率変化が得られるのであり、共重合体では、他の単量体が単量体全体の10〜80モル%となるようにすればよい。

【0029】
本発明において、上記の重合体(A)は、上記の式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体単独またはこれと他の単量体との混合物を、重合触媒として特定のアニオン開始剤を使用して重合反応させることにより、得ることができる。

ラジカル開始剤では、重合中に側鎖ビニル基も消費されてしまうため、屈折率の変化に使用する側鎖ビニル基を残すことができず、また溶剤に不溶なネットワークポリマー(ゲル)になってしまう。また、有機金属化合物であるBuLiやグリニヤー試薬等の汎用的なアニオン開始剤では、側鎖ビニル基の一部が重合中に架橋反応してしまい、また得られる重合体の収率や分子量が低くなるため、好ましくない。

【0030】
このため、本発明では、上記重合体を得るためのアニオン開始剤として、希土類金属を活性中心とする金属錯体触媒を使用する。

ここで、希土類金属とは、Sc、Y、ランタノイドまたはアクチノイド等の13族金属を指し、また活性中心とは、単量体に配位または結合して直接重合反応を開始する部位をいう。このような金属錯体触媒は、いわゆるメタロセン触媒と呼ばれており、これには、シクロペンタジエニルと金属イオンとの錯体、インデニルと金属イオンとの錯体、フルオレニルと金属イオンとの錯体等が挙げられる。

【0031】
このような金属錯体触媒の中でも、シクロペンタジエニルと金属イオンとの錯体、特につぎの式(2)で表される金属錯体化合物が好ましく用いられる。

(Cp1)(Cp2)Mr−(R)p・(L)q …(2)

(式中、Cp1,Cp2は、相互に独立して、非置換のシクロペンタジエニルまたは置 換されたシクロペンタジエニルであり、Cp1とCp2とは直接または連結基を介し て結合していてもよい。Mrはr価の希土類金属原子でrは2〜4の整数である。R は水素原子または炭素数1〜3の直鎖アルキル基である。Lは配位能を有する溶媒で ある。pはRの数、qはLの数で、それぞれ0〜2の整数であり、上記rに対してr =p+2となるように選択される。)

【0032】
上記の式(2)おいて、Cp1またはCp2が置換されたシクロペンタジエニルである場合、置換基としては、メチル基またはトリメチルシリル基が好ましい。Cp1またはCp2中の置換基の数としては、3〜5が好ましい。

Cp1またはCp2には、C5 5 、C5 (CH3 5 、C5 2 (CH3 3 、C5 (CH2 CH3 5 、C5 2 (CH2 CH3 3 、C5 2 〔CH(CH3 2 3 、C5 2 〔Si(C H3 3 3 5 2 〔CH(CH3 2 3 等がある。

【0033】
Cp1とCp2とは、直接または連結基を介して結合していてもよく、特に連結基を介して結合しているのが望ましい。

連結基としては、−(CH2 )n〔Si(CH3 2 〕m−〔n、mはそれぞれ0〜3の整数であり、(m+n)は1〜3である〕が好ましく、特にジメチルシリル基(nが0でmが1)、ジメチレン(nが2でmが0)であるのが好ましい。また、連結基は、エーテル性の酸素原子等のヘテロ原子を含む基であってもよい。

【0034】
また、上記の式(2)おいて、Mは活性中心となるr価の希土類金属原子で、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、サマリウム(Sm)、ルテチウム(Lu)が好ましい。その価数(r)は2、3または4であり、特に2または3が好ましい。

Rは、水素原子または炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、メチル基が好ましい。Lは配位能を有する溶媒であり、ヘテロ原子を含む溶媒が好ましく、エーテル系溶媒が好ましい。エーテル系溶媒は、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の環状エーテル系溶媒、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル等が好ましい。

【0035】
上記の式(2)で表される金属錯体化合物の中でも、つぎの式(3)〜(5)で表される金属錯体化合物が特に好ましく用いられる。

(Cp※)2 SmIII −(CH3 )・(THF) …(3)

(Cp※)2 YbIII −(CH3 )・(THF) …(4)

(Cp※)2 III −(CH3 )・(THF) …(5)

(式中、Cp※は1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニルであり、T HFはテトラヒドロフランである。)

【0036】
本発明において、アニオン開始剤として使用する上記した希土類金属を活性中心とする金属錯体触媒は、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体単独またはこれと他の単量体との混合物に対して、0.01〜10モル%の使用量とするのが好ましく、0.1〜5モル%の使用量とするのがより好ましい。

上記金属錯体触媒の使用量が過少ではアニオン重合を進めにくく、また過多となると分子量や分子量分布等の重合体の特性に支障をきたしやすい。

【0037】
アニオン重合は、無水かつ無酸素の条件下で行うのが望ましく、また窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で実施するのが好ましい。さらに、アニオン重合は、溶媒の存在下で実施するのが望ましい。溶媒としては非極性溶媒が好ましく、特に、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系非極性溶媒が好ましい。

重合時の単量体の量は、溶媒中5〜30重量%とするのが好ましい。5重量%未満では分子量を十分に大きくできなくなるおそれがあり、30重量%を超えると重合中に系の粘性が上がり、重合転化率が低下するおそれがある。

重合時の反応温度は、100℃以下が好ましく、特に−95℃〜+30℃程度が好ましい。さらに好ましくは−95℃〜−25℃である。低温で重合反応を行うほど、生成する重合体の立体規則性が向上し、シンジオタクティシティーが向上する傾向がある。

【0038】
このようにして得られる重合体(A)は、重合体分子内に未反応のラジカル重合性の側鎖ビニル基が残存しており、その残存率は90%以上であるのが好ましく、さらに95%以上であるのが望ましい。

ここで、未反応のラジカル重合性の側鎖ビニルの残存率は、例えば1H−NMRにより求めることができる。例えば、PVMAの場合、ビニル基由来のプロトンに帰属されるピーク(4.9ppm付近)と、α位のメチル基由来のプロトンに帰属されるピーク(1.3〜0.6ppm)との面積比より、算出することができる。

【0039】
また、上記のアニオン重合方法により得られる本発明の重合体(A)は、単量体の選択により、立体規則性がシンジオタクティシティー(rr)で70%以上であるのが望ましい。そうであることにより、重合体(A)のガラス転移点(Tg)がはるかに高くなり、耐熱性にすぐれたものとなる。

すなわち、希土類金属を活性中心とする金属メタロセン錯体触媒の存在下に重合して得られる重合体、つまり分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する重合体(A)は、シンジオタクティシティー(rr)が70%以上となりうる。

【0040】
一般に、シンジオタクティシティーとは、以下のように説明される。

鎖状重合体分子の主鎖を形成する繰り返し単位の炭素原子に2種の異なる原子または原子団(置換基)が結合していると、この炭素原子を中心にして立体異性が生じる。このとき、任意の繰り返し単位において、主鎖に沿って隣の単位が常に反対の立体配置を採るものをシンジオタクティック、主鎖に沿って隣の単位が常に同じ立体配置を採るものをアイソタクティック、主鎖に沿って隣の単位の立体配置が任意であるものをアタクティック、とそれぞれいう。また、ポリマー鎖中の全立体配置のシンジオタクティック部分の割合をシンジオタクティシティー、アイソタクティック部分の割合をアイソタクティシティー、アタクティック部分の割合をアタクティシティー、とそれぞれいう。

【0041】
シンジオタクティシティーは、ポリマーの立体規則性を表す指標である。

本発明におけるシンジオタクティシティーの値は、重合体を構成する単量体由来の重合単位の全量のうち、シンジオタクティックなトリアドの重合単位の割合をモル%で表した値である。本明細書において、トリアドとは、重合体の繰り返し単位の3つからなる連鎖をいう。3つの繰り返し単位のカルボニル基のα−炭素(不斉炭素)の立体配置の一方をd、他方をlと表現した場合、dddまたはlllで連なる連鎖をアイソタクティックなトリアド、dldまたはldlで連なる連鎖をシンジオタクティックなトリアド、ddl、lld、dll、lddで連なる連鎖をヘテロタクティックなトリアドという。

【0042】
シンジオタクティシティーは、核磁気共鳴スペクトル(NMR)法により、求められる。すなわち、本発明の重合体(A)をこれを溶解する重水素化溶媒で溶解または膨潤させ、1H−NMR法または13C−NMR法により測定し、シンジオタクティシティー、アイソタクティシティー、アタクティシティーを反映するシグナルの積分値を測定し、これらの比を求めることにより、算出できる。

【0043】
本発明の重合体が重水素化溶媒に難溶性である場合には、必要に応じて、重水素化溶媒または重水素化されていない溶媒を追加して、用いてもよい。重水素化されていない溶媒を用いる場合は、NMRの測定に影響を及ぼさない原子を含む溶媒を選択するのが好ましく、たとえば1H−NMRスペクトルデータに影響をおよぼさない重クロロホルム、重ベンゼンが挙げられる。

なお、NMRにおける測定核の選択は、重合体のスペクトルパターンに応じて適宜変更することができる。基本的には、1H−NMRスペクトルによるのが好ましく、1H−NMRデータにおける必要なピークが、他の不要なピークと重なる場合または1H−NMRでは測定できない場合には、13C−NMRスペクトルによるのが好ましい。

【0044】
具体的には、ビニル(メタ)アクリレート単量体のカルボニル基のα−炭素に結合する置換基Xが水素原子またはメチル基である場合、このXに由来する1H−NMRのシグナルは、シンジオタクティックなトリアド中の水素原子、アイソタクティックなトリアド中の水素原子、アタクティックなトリアド中の水素原子で異なるケミカルシフトを持つことを利用し、これらのシグナルの面積比を求めることにより、シンジオタクティックなトリアド(rr)、アタクティック(ヘテロタクティックともいう)なトリアド(mr)、アイソタクティックなトリアド(mm)の割合(rr/mr/mm)が求められる。

なお、NMRスペクトルの帰属の参考として、新版高分子分析ハンドブック、日本分析化学会編(1995)、Mackromol.Chem.,Rapid.Commun.,14,719(1993)を使用した。

【0045】
また、ビニル(メタ)アクリレート単量体のカルボニル基のα−炭素に結合する置換基がフッ素原子またはトリフルオロオメチル基である場合のシンジオタクティシティーは、13C−NMRピークの面積比によって求められる。

すなわち、カルボニル基のα−炭素の13C−NMRシグナルが、シンジオタクティックなトリアド中の炭素原子、アイソタクティックなトリアド中の炭素原子、アタクティックなトリアド中の炭素原子で異なることを利用して、これらのピークの面積比を求めることにより、(rr/mr/mm)が求められる。

【0046】
本発明におけるシンジオタクティシティーは、このように求められる各タクティシティーから、〔rr/(rr+mr+mm)〕×100(%)として、算出される値である。本発明の製造方法により得られる重合体(A)は、このシンジオタクティシティー(rr)が、50%以上であり、特に70%以上という高い値をとることにより、アタクティックなポリマーと比べて、耐熱性や強度の点ですぐれたものとなる。シンジオタクティシティーが高いほど、これらの物性が向上する。

このように、本発明の重合体(A)は、従来の重合体に比べて、耐熱性や強度の面で、優位な物性を有している。この重合体(A)は、重量平均分子量が1,000以上、好ましくは2,000以上であるのが、強度および物性面から、好ましい。一方、重量平均分子量を8万以下、好ましくは7万以下、特に好ましくは5万以下とすることで、側鎖ビニル基の反応性を高くすることができ、少ない露光量で屈折率変化を引き起こすことができるので、好ましい。なお、重量平均分子量は、GPC法により測定した標準ポリスチレン換算の値を用いる。

【0047】
つぎに、本発明に用いられる光重合開始源(B)は、可視光により活性種を発生するものであり、さらに詳しくは、可視光(400〜800nm)の光を吸収し、活性種(ラジカル、カチオン、アニオン等)を発生するものである。

このような特性を備えたものであれば、その種類は、特に限定されない。代表的には、可視光を吸収して活性種を発生する光重合開始剤か、または可視光を吸収する可視光増感色素と光重合開始剤(この光重合開始剤は、可視光を吸収する光重合開始剤であってもよいし、吸収しない光重合開始剤であってもよい)との混合系が挙げられる。後者の場合、可視光または近赤外光エネルギーを吸収した可視光増感色素からのエネルギーあるいは電子移動反応により、光重合開始剤が分解して活性種を発生する。

【0048】
光重合開始剤のうち、可視光を吸収して活性種を発生する光重合開始剤としては、ビス(η5 −2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス〔2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル〕チタニウム(チバガイギー社製の「イルガキュア784」)、フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド(チバガイギー社の「イルガキュア819」)等が挙げられる。

また、光重合開始剤のうち、可視光を吸収しない光重合開始剤としては、ビスイミダゾール化合物、2,4,6−置換−1,3,5−トリアジン化合物、オニウム塩化合物、金属アレーン錯体、ベンゾインエーテル化合物、ケタール化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾフェノン化合物、チオキサントン化合物、過酸化物、N−アリールグリシン化合物、アントラキノン化合物等を挙げることができる。

【0049】
具体的には、ビスイミダゾール化合物として、2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニル−1,1′−ビイミダゾールや2,2′−ビス(o−クロロフェニ)−4,4′,5,5′−テトラキス(2,3−ジメトキシフェニル)−1,1′−ビイミダゾール等が挙げられる。

2,4,6−置換−1,3,5−トリアジン化合物として、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−メチル−4,6ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(トリクロロメチルト)−6−(p−メトキシフェニルビニル)1,3,5−トリアジン、2−(4′−メトキシ−1′−ナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。

【0050】
オニウム塩化合物として、ジフェニルヨードニウム、4,4’−ジシクロロジフェニルヨードニウム、4,4′−ジメトキシジフェニルヨードニウム、4,4′−ジ−t−ブチルジフェニルヨードニウム、4−メチル−4′−イソプロピルジフェニルヨードニウム、3,3′−ジニトロジフェニルヨードニウム等と、クロリド、ブロミド、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、ヘキサフルオロアンチモネート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフルオロメタンスルホン酸とを組み合わせたジアリールヨードニウム塩やトリアリールスルホニウム塩等のオニウム塩化含物が挙げられる。

金属アレーン錯体として、チタノセンおよびフェロセン等が挙げられる。ベンゾインエーテル化合物として、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。

【0051】
ケタール化合物として、ベンジルアルキルケタール等が挙げられる。

アセトフェノン化合物として、2,2′−ジアルコキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、p−t−ブチルシクロアセトフェノン等が挙げられる。

ベンゾフェノン化合物として、ベンゾフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4′−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、3,3′−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4′−メチルジフェニルスルフィド、ジベンゾスベロン等が挙げられる。

【0052】
チオキサントン化合物として、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−アルキルチオキサントン、2,4−ジアルキルチオキサントン等が挙げられる。

過酸化物として、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等が挙げられる。

N−アリールグリシン化合物として、N−フェニルグリシン、N−(p−クロロフェニル)グリシン、N−ヒドロキシエチル−N−フェニルグリシン、N−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロピル)−N−フェニルグリシン等が挙げられる。

【0053】
可視光増感色素は、可視光または近赤外光エネルギーを吸収しうる色素として、アゾ色素、アントラキノン色素、ベンゾキノン色素、ナフトキノン色素、ジアリールおよびトリアリールメタン系色素、シアニン色素、メロシアニン色素、フルオラン系色素、スクワリリウム系色素、クロコニウム系色素、ピリリウム系色素、チオピリリウム系色素、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、インジゴ系色素、クマリン色素、ケトクマリン系色素、キナクリドン系色素、キノフタロン系色素、ピロロピロール系色素、ベンゾジフラノン系色素、アクリジン色素、オキサジン色素、チアジン色素、キサンテン系色素、チオキサンテン系色素、スチリ系色素、スピロピラン系色素、スピロオキサジン系色素、有機ルテニウム錯体等が用いられる。

【0054】
また、可視光増感色素には、上記色素のほか、既知の刊行物:大河原信ら著「機能性色素」(1992年、講談社サイエンティフィク)、松岡賢著「色素の化学と応用」(1994年、大日本図書)および大河原信ら著「色素ハンドブック」(1986年、講談社)等に記載されている色素を使用することもできる。

本発明では、光重合開始剤と組み合わせて使用する可視光増感色素として、上記の各種色素の中から、対応する波長の光を吸収するように、その1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。

【0055】
本発明において、上記構成の光重合開始源(B)の使用量としては、特に限定するものではないが、光重合開始剤では、重合体(A)を含む光屈折率変調重合体組成物からなるホログラム記録材料の全体中、通常約0.1〜50重量%、好ましくは約2.0〜20重量%となるような割合とするのがよい。

また、可視光増感色素では、重合体(A)を含む光屈折率変調重合体組成物からなるホログラム記録材料の全体中、約0.1〜10重量%、好ましくは約0.2〜5重量%となるような割合とするのがよい。

【0056】
本発明のホログラム記録材料は、上記の重合体(A)および可視光により活性種を発生する光重合開始源(B)のほかに、エチレン性不飽和結合含有モノマー(C)を配合することができる。エチレン性不飽和結合含有モノマー(C)を配合することで、少ない露光量で屈折率変化を引き起こすことができる。

本発明に用いられるエチレン性不飽和結合含有モノマー(C)としては、分子内にエチレン性の不飽和結合を有するモノマーであれば、特に限定されないが、ラジカル重合性の高い(メタ)アクリル系モノマーやスチレン系モノマーを好適に用いることができる。また、1分子中に不飽和結合を1個のみ有する単官能のモノマーであってもかまわないし、複数の不飽和結合を有する多官能のモノマーであってもかまわない。さらに、モノマーの分子量も特に限定されず、オリゴマーのような分子量が数千のものであってもよい。

【0057】
このようなモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル系モノマーとして、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、フォスファゼン骨格を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。

また、多官能のモノマーまたはオリゴマーとして、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等の2官能モノマー、またトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート等の3官能モノマー、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート等の4官能モノマー、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の5官能以上のモノマーが挙げられる。

さらに、その他のモノマーとして、スチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ブロモスチレン、ジビニルベンゼン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、N−ビニルピロリドン等のビニル化合物、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、トリメチロールプロパンジアリル、ジアリルフタレート、ジメタクリルフタレート、ジアリルイソフタレート等のアリル化合物を用いることもできる。
【0058】
特に、本発明において、エチレン性不飽和結合含有モノマー(C)は、重合体(A)との屈折率差が0.005以上であることが好ましい。このようなモノマー(C)として、例えば重合体(A)としてポリビニルメタクリレート(屈折率1.49)に対しては、p−ブロモスチレン(屈折率1.59)、9,9−ビス〔4−(2−アクリルオキシエトキシ)フェニル〕フルオレン(屈折率1.62)等を用いることができる。

ここで、重合体(A)の屈折率は、m−line法(プリズムカップリング法)を用い、He−Neレーザー(波長633nm)、TE(トランスバース・エレクトリック)モード(材料のフィルム面と平行方向の光の偏波モード)およびTM(トランスバース・マグネチック)モード(材料のフィルム面と垂直方向の光の偏波モード)で測定することができる。また、モノマーの屈折率は、アッベ屈折率計にて測定できる。

【0059】
このようにエチレン性不飽和結合含有モノマー(C)を配合することで、少ない露光量で屈折率変化を引き起こすことができる理由は明確ではないが、モノマー自体、低粘度で流動性が高いため、重合の反応性が高く、応答時間(露光時間)が短縮されるためと考えられる。また、重合体(A)との屈折率差が0.005以上のモノマーを配合することで、屈折率を高くすることができ、短時間で一定レベルの回折効率を得ることができるためと考えられる。

このようなエチレン性不飽和結合含有モノマー(C)の配合量としては、重合体(A)100重量部に対し、0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部とするのがよい。0.1重量部未満では露光時間短縮の効果が得にくく、50重量部を超えると回折効率の低下や強度の低下が起こる場合がある。

【0060】
本発明のホログラム記録材料は、上記の重合体(A)および可視光により活性種を発生する光重合開始源(B)あるいはこれらとエチレン性不飽和結合含有モノマー(C)のほかに、必要に応じて、可塑剤および/または連鎖移動剤を配合することができる。これらの配合により、側鎖ビニル基の架橋反応性が向上し、屈折率変化(増加)をより良く引き起こすことができる。

【0061】
可塑剤としては、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジプロピオネート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールビス(2−エチルヘキサノエート)、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル、イソプロピルナフタレン、ジイソプロピルナフタレン、ポリ(プロピレングリコール)、トリ酪酸グリセリル、アジピン酸ジエチル、セバシン酸ジエチル、スベリン酸ジブチル、燐酸トリブチル、燐酸トリス(2−エチルヘキシル)等を挙げることができる。

【0062】
連鎖移動剤としては、光重合開始剤と併用して光硬化システムを構成させるのが有効であることが知られている(例えば、米国特許第3,652,275号公報に記載される)連鎖移動剤が好ましく用いられる。

具体的には、トリメチロールプロパントリス−3−メルカプトプロピオネート、N−フェニルグリシン、1,1−ジメチル−3,5−ジケトシクロヘキセン、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンズオキサゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、ペンタエリスリトールテトラキス(メルカプトアセテート)、4−アセトアミドチオフエノール、メルカプトコハク酸、ドデカンチオール、β−メルカプトエタノール、2−メルカプトエタンスルホン酸、1−フエニル−4H−テトラゾール−5−チオール、6−メルカプトプリンモノハイドレート、ビス−(5−メルカプト−1,3,4−チオジアゾール−2−イル、2−メルカプト−5−ニトロベンズイミダゾール、2−メルカプト−4−スルホ−6−クロロベンズオキサゾール等が挙げられる。

これらの中でも、重合体との相溶性、反応促進性や汎用性の観点から、特に好ましいものは、2−メルカプトベンズオキサゾール(2−MBO)、2−メルカプトベンズイミダゾール(2−MBI)、2−メルカプトベンゾチアゾール(2−MBT)、トリメチロールプロパントリス−3−メルカプトプロピオネート等である。

【0063】
本発明において、上記の可塑剤は、重合体(A)および光重合開始源(B)を含む光屈折率変調重合体組成物からなるホログラム記録材料の全体中、通常約2〜25重量%、好ましくは5〜15重量%の使用量とするのがよい。

同様に、上記の連鎖移動剤は、重合体(A)および光重合開始源(B)を含む光屈折率変調重合体組成物からなるホログラム記録材料の全体中、通常約2〜25重量%、好ましくは約5〜15重量%の使用量とするのがよい。

【0064】
以下に、本発明の実施例として、重合体(A)としてPVMAつまりビニルメタクリレートの単独重合体を用いたホログラム記録材料(実施例1〜10)につき、さらに具体的に説明する。また、比較のため、重合体としてポリメチルメタクリレートやポリスチレンを用いたホログラム記録材料(比較例1,2)につき、併せて記載する。

【実施例1】
【0065】
<触媒の合成>
配位アニオン重合触媒を、以下のように合成した。

アルゴン置換した1リットルのフラスコに、SmI2 3.9616gと、テトラヒドロフラン330mlを加えて、撹拌しながら、ペンタメチルシクロペンタジエニルカリウム塩〔(C5 Me5 )K〕45.858gを加え、室温で反応させ、その後、THFを減圧除去し、固形物にトルエンを加えて、上澄みを回収し、減圧乾燥させたのち、THFとヘキサンで〔(C5 Me5 2 Sm(THF)2 〕の再結晶を行った。この〔(C5 Me5 2 Sm(THF)2 〕2.5gを、トルエン60mlに溶解し、トリエチルアルミニウム2.2mlを加え、撹拌して反応を行った。沈殿物を除去したのち、再結晶を行い、(C5 Me5 2 SmMe(THF)を得た。

【0066】
<PVMAの合成>
十分に水分、空気を除いたシュレンク管に、十分に乾燥、脱気したトルエンを80ml加え、CaH2 で乾燥後、蒸留精製したビニルメタクリレート20ml(18.7g/166.4ミリモル)を加えた。内温を−78℃に調整したのち、前記の方法で合成した触媒である(C5 Me5 2 SmMe(THF)0.189g(0.373ミリモル)を乾燥トルエン5mlで希釈したものを仕込み、重合を開始した。触媒量は、単量体/触媒比が446となるようにした。重合温度−78℃で3時間反応させたのち、反応系にメタノールを加えて重合反応を停止した。さらに、メタノールを加えて生成した重合体(ポリビニルメタクリレート)を沈降させて単離し、酢酸エチルに溶解したのち、再度メタノールで再沈殿させて、精製した。

【0067】
重合体の乾燥は、減圧乾燥により行った。生成した重合体の収量は18.7g(収率>99重量%)であった。また、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)により求めた数平均分子量(Mn)は77,000、重量平均分子量(Mw)は115,000で、分子量分布(Mw/Mn)は1.49であった。

さらに、1H−NMRにより求めた重合体中のラジカル重合性の側鎖ビニル基の残存率〔ビニル基の残存率(%)=ビニル基(4.9ppm)/メチル基(1.3〜0.6ppm)×100〕は100%であり、主鎖の立体規則性は、シンジオタクティシティー(rr)が92%であった。

【0068】
上記重合体(ポリビニルメタクリレート)の1H−NMRチャートを、図1に示した。また、この1H−NMRチャートにおけるタクティシティーの算出に用いた主鎖メチル基の拡大図を、図2に示した。上記タクティシティーの算出には、1.2〜0.9ppmに検出されるポリビニルメタクリレートの主鎖のメチル基〔1.19ppm付近(mm)、1.07ppm(mr)、0.92ppm(rr)〕の積分曲線を用いた。

つぎに、このようにして得たポリビニルメタクリレート(PVMA)約0.1gを酢酸エチル50mlに浸漬し、2日間振騰した。酢酸エチル不溶成分を抽出し十分に乾燥させ、その重さを酢酸エチル溶解前の全重合体量で割り、不溶成分の割合(ゲル分率)を求めたところ、0重量%であった。

【0069】
<ホログラム記録材料の作製>
50mlのサンプル管瓶に、上記のPVMAを0.25g、光重合開始剤としてつぎの(化1)で表されるビス(η5 −2,4−シクロペンタジエン−1−イル)ビス〔2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル〕チタニウム(チバガイギー社製の「イルガキュアー784」)を0.05g、可塑剤としてセバシン酸ジエチル(東京化成社製)(以下、SEDという)を0.05g、連鎖移動剤としてメルカプトベンゾオキサゾール(アルドリッチ社製)(以下、MBOという)を0.05mg、溶媒として1,1,2,2−テトラクロロエタン(東京化成社製)(以下、TCEという)を1.40g入れ、撹拌して完全に溶解させ、TCE溶液を得た。

【0070】
【化1】

【0071】
つぎに、クリーンルーム内において、上記のTCE溶液を、「スピンコーター1H−DX」(MIKASA社製の商品名)により、青板ガラス板上にスピンコートした。スピンコートの条件は、500rpmで5秒、その後750rpmで10秒の設定で行い、その後、100℃に設定した乾燥機で約1時間乾燥させ、青板ガラス板に厚さが約25μmのホログラム記録材料からなるフィルムを作製した。

なお、上記の青板ガラス板は、特に洗浄処理せずに使用した。

【0072】
ついで、コヒーレンス性に優れた単一周波数を有する532nmのYAGレーザーを偏光ビームスプリッダーで等価に分け、反射ミラーにより夫々のレーザーが45°で交わる位置にこの青板ガラス板上のフィルムを設置し、ホログラム記録を行った。

このときに形成される干渉縞は、YAGレーザーの背面から、材料中の光重合開始剤に吸収のない波長である633nmのHe−Neレーザーを入射させ、回折光と透過光の強度をそれぞれフォトディテクターにより検出し、回折効率(%)〔=回折光強度/(回折光強度+透過光強度)×100〕を求めた。

その結果、光強度25mW/cm2 の照射で回折効率は最大15.3%に達し、このときの照射時間は479秒となることがわかった(露光量12J/cm2 )。また、サンプル中の2光束レーザーが照射された部分は透明であった。

【実施例2】
【0073】
光重合開始剤である「イルガキュアー784」の使用量を、0.05gから0.1gに変更した以外は、実施例1と同様にして、評価した。

その結果、光強度25mW/cm2 の照射で回折効率は最大20.5%に達し、このときの照射時間は439秒となることがわかった(露光量11.0J/cm2 )。また、サンプル中の2光束レーザーが照射された部分は透明であった。

【実施例3】
【0074】
50mlのサンプル管瓶に、実施例1で得たPVMAを0.25g、光重合開始剤としてつぎの(化2)で表される2,2′−ビス(2−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニル−1,2′−ビイミダゾール(保土ヶ谷化学社製の「B−CIM」)を0.0375g、増感色素としてつぎの(化3)で表される3−エチル[2−{〔3−エチル−5−フェニル−2(3H)−ベンズオキサゾリデン〕メチル}−1−ブテニル]−5−フェニルベンズオキサゾリウム(林原生物化学研究所社製の「NK−1538」)を0.002g、可塑剤としてSEDを0.05g、連鎖移動剤としてMBOを0.05mg、溶媒としてTCEを1g入れ、撹拌して完全に溶解させ、TCE溶液を得た。

【0075】
【化2】

【0076】
【化3】

【0077】
その後は、実施例1と同様にサンプルを作製して、評価した。

その結果、光強度25mW/cm2 の照射で回折効率は最大12.5%に達し、このときの照射時間は393秒となることがわかった(露光量9.8J/cm2 )。また、サンプル中の2光束レーザーが照射された部分は透明であった。

【実施例4】
【0078】
触媒量を0.0473g(0.0933ミリモル)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で重合体(PVMA)を得た。上記の触媒量は、単量体/触媒比が1,784となるようにした。

生成した重合体の収量は18.8g(収率>99重量%)であった。また、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)により求めた数平均分子量(Mn)は72,600、重量平均分子量(Mw)は521,000であり、分子量分布(Mw/Mn)は7.17であった。さらに、1H−NMRにより求めた重合体中のラジカル重合性の側鎖ビニル基の残存率〔ビニル基の残存率(%)=ビニル基(4.9ppm)/メチル基(1.3〜0.6ppm)×100〕は100%であり、主鎖の立体規則性はシンジオタクティシティー(rr)が90%であった。

つぎに、このPVMA約0.1gを酢酸エチル50mlに浸漬し、2日間沸騰させた。酢酸エチル不溶成分を抽出し十分に乾燥させ、その重さを酢酸エチル溶解前の全ポリマー量で割り、不溶成分の割合(ゲル分率)を求めた結果、0重量%であった。

【0079】
上記のPVMAを用い、これに実施例1と同様に各成分を配合し、サンプルを作製して、評価した。

その結果、光強度25mW/cm2 の照射で回折効率は最大13.2%に達し、このときの照射時間は520秒となることがわかった(露光量13.0J/cm2 )。また、サンプル中の2光束レーザーが照射された部分は透明であった。

【実施例5】
【0080】
触媒量を0.756g(1,492ミリモル)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で重合体(PVMA)を得た。上記の触媒量は、単量体/触媒比が112となるようにした。

生成した重合体の収量は18.6g(収率>99重量%)であった。また、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)により求めた数平均分子量(Mn)は24,800、重量平均分子量(Mw)は48,700であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.96であった。さらに、1H−NMRにより求めた重合体中のラジカル重合性の側鎖ビニル基の残存率〔ビニル基の残存率(%)=ビニル基(4.9ppm)/メチル基(1.3〜0.6ppm)×100〕は100%であり、主鎖の立体規則性はシンジオタクティシティー(rr)が92%であった。

つぎに、このPVMA約0.1gを酢酸エチル50mlに浸漬し、2日間振騰させた。酢酸エチル不溶成分を抽出し十分に乾燥させ、その重さを酢酸エチル溶解前の全ポリマー量で割り、不溶成分の割合(ゲル分率)を求めた結果、0重量%であった。

【0081】
上記のPVMAを用い、これに実施例1と同様に各成分を配合し、サンプルを作製して、評価した。

その結果、光強度25mW/cm2 の照射で回折効率は最大14.3%に達し、このときの照射時間は204秒となることがわかった(露光量5.1J/cm2 )。また、サンプル中の2光束レーザーが照射された部分は透明であった。

【実施例6】
【0082】
実施例5で得たPVMAを用い、これに実施例2と同様に各成分を配合し、サンプルを作製して、評価した。

その結果、光強度25mW/cm2 の照射で回折効率は最大16.7%に達し、このときの照射時間は176秒となることがわかった(露光量4.4J/cm2 )。また、サンプル中の2光束レーザーが照射された部分は透明であった。

【実施例7】
【0083】
実施例5で得たPVMAを用い、これに実施例3と同様に各成分を配合し、サンプルを作製して、評価した。

その結果、光強度25mW/cm2 の照射で回折効率は最大12.6%に達し、このときの照射時間は220秒となることがわかった(露光量5.5J/cm2 )。また、サンプル中の2光束レーザーが照射された部分は透明であった。

【実施例8】
【0084】
実施例1で得たPVMAを用い、これに実施例2と同様に各成分を配合し、さらにエチレン性不飽和結合含有モノマーとしてp−ブロモスチレン(屈折率:1.59)0.0025g(東京化成社製)を配合し、サンプルを作製して、評価した。

その結果、光強度25mW/cm2 の照射で回折効率は最大15.1%に達し、このときの照射時間は185秒となることがわかった(露光量4.6J/cm2 )。また、サンプル中の2光束レーザーが照射された部分は透明であった。

【実施例9】
【0085】
実施例8に記載のエチレン性不飽和結合含有モノマーを、9,9−ビス〔4−(2−アクリルオキシエトキシ)フェニル〕フルオレン(共栄社化学社製の商品名「AF400」)0.0025gに変更した以外は、実施例8と同様にして、評価した。

その結果、光強度25mW/cm2 の照射で回折効率は最大8.8%に達し、このときの照射時間は222秒となることがわかった(露光量5.6J/cm2 )。また、サンプル中の2光束レーザーが照射された部分は透明であった。

【実施例10】
【0086】
実施例1で得たPVMAを用い、これに実施例3と同様に各成分を配合し、さらにエチレン性不飽和結合含有モノマーとしてP−ブロモスチレン(屈折率:1.59)0.0025g(東京化成社製)を配合し、サンプルを作製して、評価した。

その結果、光強度25mW/cm2 の照射で回折効率は最大12.6%に達し、このときの照射時間は220秒となることがわかった(露光量5.5J/cm2 )。また、サンプル中の2光束レーザーが照射された部分は透明であった。

【0087】
比較例1
PVMAに代えて、光反応性基を持たないポリメタクリル酸メチル(PMMA)を同量使用した以外は、実施例1と同様にサンプルを作製して、評価した。

その結果、光強度25mW/cm2 の照射を約400秒照射しても回折効率は0.1%未満であった(露光量10.0J/cm2 )。サンプル中の2光束レーザーが照射された部分は透明であった。

【0088】
比較例2
PVMAに代えて、光反応性基を持たないポリスチレン(PSt)を同量使用した以外は、実施例2と同様にサンプルを作製して、評価した。

その結果、光強度25mW/cm2 の照射で回折効率は最大0.67%であり、このときの照射時間は447秒であった(露光量11.2J/cm2 )。また、サンプル中の2光束レーザーが照射された部分は透明であった。

【0089】
以上の実施例および比較例の結果から、本発明により分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する重合体(A)を用い、これに光重合開始源(B)を配合することにより、さらにはエチレン性不飽和結合含有モノマーを配合することにより、分子内に光反応性基を持たない重合体を用いたものに比べて、可視光レーザーにより回折効率の高い透明なホログラム記録材料が得られるものであることがわかる。

【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例1で得た重合体(A)(ポリビニルメタクリレート:PVMA)の1H−NMRチャートを示す特性図である。
【図2】図1の1H−NMRチャートにおけるタクティシティーの算出に用いた主鎖メチル基の拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
つぎの式(1);

CH2 =C(R1 )C(=O)O−R2 =CH2 … (1)

(式中、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は炭素数1〜20の飽和または不飽和炭 化水素基であって、分子内にヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい)

で表されるアクリル・ビニル単量体を必須成分とした単量体の重合体であって、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する重合体(A)と、可視光により活性種を発生する光重合開始源(B)を含むことを特徴とするホログラム記録材料。

【請求項2】
重合体(A)は、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体を20モル%以上含む単量体の重合体である請求項1に記載のホログラム記録材料。

【請求項3】
重合体(A)は、立体規則性が、シンジオタクティシティー(rr)で70%以上である請求項1または2に記載のホログラム記録材料。

【請求項4】
重合体(A)は、重量平均分子量が8万以下である請求項1〜3のいずれかに記載のホログラム記録材料。

【請求項5】
光重合開始源(B)は、可視光を吸収して活性種を発生する光重合開始剤である請求項1〜4のいずれかに記載のホログラム記録材料。

【請求項6】
光重合開始源(B)は、可視光増感色素と光重合開始剤とからなる請求項1〜4のいずれかに記載のホログラム記録材料。

【請求項7】
光重合開始剤の量は、ホログラム記録材料の全体中、1〜50重量%である請求項5または6に記載のホログラム記録材料。

【請求項8】
可視光増感色素の含有量は、ホログラム記録材料の全体中、0.1〜10重量%である請求項6に記載のホログラム記録材料。

【請求項9】
重合体(A)および光重合開始剤源(B)のほかに、エチレン性不飽和結合含有モノマー(C)を含む請求項1〜8のいずれかに記載のホログラム記録材料。

【請求項10】
エチレン性不飽和結合含有モノマー(C)は、重合体(A)との屈折率差が0.005以上である請求項9に記載のホログラム記録材料。

【請求項11】
重合体(A)および光重合開始源(B)あるいはこれらとエチレン性不飽和結合含有モノマー(C)のほかに、可塑剤および/または連鎖移動剤を含む請求項1〜10のいずれかに記載のホログラム記録材料。

【請求項12】
つぎの式(1);

CH2 =C(R1 )C(=O)O−R2 =CH2 … (1)

(式中、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は炭素数1〜20の飽和または不飽和炭 化水素基であって、分子内にヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい)

で表されるアクリル・ビニル単量体を必須成分とした単量体を、重合開始剤として、希土類金属を活性中心とする金属錯体触媒を使用して、アニオン重合させることにより、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する重合体(A)を生成し、これに可視光により活性種を発生する光重合開始源(B)を含ませて、ホログラム記録材料を製造することを特徴とするホログラム記録材料の製造方法。

【請求項13】
希土類金属を活性中心とする金属錯体触媒は、つぎの式(2);

(Cp1)(Cp2)Mr−(R)p・(L)q …(2)

(式中、Cp1,Cp2は、相互に独立して、非置換のシクロペンタジエニルまたは置 換されたシクロペンタジエニルであり、Cp1とCp2とは直接または連結基を介し て結合していてもよい。Mrはr価の希土類金属原子でrは2〜4の整数である。R は水素原子または炭素数1〜3の直鎖アルキル基である。Lは配位能を有する溶媒で ある。pはRの数、qはLの数で、それぞれ0〜2の整数であり、上記rに対してr =p+2となるように選択される。)

で表される金属錯体化合物である請求項12に記載のホログラム記録材料の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−292933(P2006−292933A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112136(P2005−112136)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】