説明

ホログラム記録用フォトポリマー組成物及びホログラム記録媒体

【課題】
高い記録特性すなわち、高い回折効率と回折波長に対する大きな半値全幅を有し、未記録状態での保存安定性に優れたホログラム記録用フォトポリマー組成物を提供する。
【解決手段】
熱可塑性のバインダーポリマー(A)と、エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)と、カチオン重合可能な化合物(C)と、光ラジカル重合開始剤である有機ホウ素系化合物(D)と、光増感色素(E)と、カチオン重合開始剤(F)とを少なくとも含み、前記光増感色素(E)のカチオン部が発色団を有するイオン性の化合物であることを特徴とする、ホログラム記録用フォトポリマー組成物。前記ホログラム記録用フォトポリマー組成物から構成される記録層を有するホログラム記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラム記録用フォトポリマー組成物及び前記ホログラム記録用フォトポリマー組成物からなるホログラム記録層を有するホログラム記録媒体に関する。より詳しくは本発明は、未記録状態での長期保存に対しても安定なホログラム記録用フォトポリマー組成物及びホログラム記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂を用いた体積位相型ホログラム記録材料が数多く提案され、それらの一部は実用化されている。感光性樹脂は一般にフォトポリマーと呼ばれ、フォトポリマーからなるホログラム記録材料は従来のハロゲン化銀感光材料などと比較し、現像処理を必要としないことが大きな利点となっている。
【0003】
しかし一方で、フォトポリマー材料からなるホログラム記録層は熱的、化学的に不安定であることが多く、未記録の状態で長期間保管すると、ホログラム記録材料が劣化し、記録特性が低下したり、記録できなくなったりする。そのため、熱的、化学的に安定な材料が強く求められている。また、ホログラム記録材料を画像記録に使用する場合には、上記安定性に加え、ホログラム記録材料の屈折率変調度を高めることが必要である。例えば、反射型ホログラムによって画像記録を行った際に、屈折率変調度が高ければ、回折効率が高くなると同時に回折スペクトルの半値全幅(FWHM)の拡大が図られるため、結果としてコントラストの良好な画像が得られる。
【0004】
フォトポリマー材料からなるホログラム記録層の安定性を損なう原因の一つとして、光重合開始剤が挙げられる。例えば特許第4325404号公報(特許文献1)では、有機過酸化物や、ビスイミダゾールを光重合開始剤として使用することで反射型ホログラム記録において比較的高い回折効率を得ているが、光重合開始剤として有機過酸化物を用いると、その高い活性のためにホログラム記録媒体作製後、数日間で光重合開始剤が分解し、その結果ホログラム記録特性が低下するという実用上の問題点を有していた。
【0005】
また、ビスイミダゾールを光重合開始剤として使用すると、熱的、化学的な安定性は確保されるが、過酸化物系の光重合開始剤と比較して記録特性が悪化する。例えば、特許文献1に記載されている組成で反射型ホログラム記録時の回折効率を確認したところ、その回折効率は過酸化物系の光ラジカル重合開始剤においては約95%と高い値であったが、ビスイミダゾール光ラジカル重合開始剤では約80%にとどまることがわかった。
【0006】
一方、室温暗所で安定なフォトポリマー材料として、例えば特許第2677457号公報(特許文献2)では、光ラジカル重合開始剤としてヨードニウム塩を用いる系が開示されている。さらに、特許第3532675号公報(特許文献3)では、ラジカル重合性モノマーと光ラジカル重合開始剤としてのヨードニウム塩を含む系に対し、さらにカチオン重合性モノマーおよびカチオン重合開始剤を併用し、ホログラム記録後に前記カチオン重合性モノマーをカチオン重合させることで、ホログラム記録後の高い耐光性、耐熱性が得られることが開示されている。しかしフォトポリマー材料中に、ラジカル重合性モノマー以外にカチオン重合性化合物(例えばエポキシ化合物)が含まれていると、ヨードニウム塩を用いた組成においても、室温暗所での安定性が低下する。これは室温暗所において、ヨードニウム塩とカチオン重合性化合物とが徐々に反応していることを示唆しており、ホログラム記録媒体を未記録状態で長期間保存すると、ホログラム記録特性が劣化するという問題点を有している。
【0007】
また、特許第2010−084147号公報(特許文献4)では有機ホウ素系化合物を光ラジカル重合開始剤として使用することで、熱的、化学的な安定性の高いホログラム記録媒体を提供している。この組成におけるホログラム記録時の屈折率変調度(Δn)は、最大でΔn=0.0205と報告されている。これは、Kogelinkの結合波理論に基づけば、回折効率が約97%、FWHMが約10nmに相当するが、明るいホログラム画像を得るためには、不十分である。
【0008】
特許第3370762号公報(特許文献5)では、光ラジカル重合開始剤としてヘキサアリールビスイミダゾール(HABI)を用いることで、室温暗所安定性と記録特性の両立を図っている。しかし、高い屈折率変調度を得るためにはホログラム露光後にポストベーク(加熱処理)を行う必要があり、実用化の障害となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4325404号公報
【特許文献2】特許第2677457号公報
【特許文献3】特許第3532675号公報
【特許文献4】特許第2010−084147号公報
【特許文献5】特許第3370762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1で開示されている光ラジカル重合開始剤(有機過酸化物)を使用すれば、良好なホログラム記録特性が得られる一方で、未記録媒体の保存安定性には問題が残る。上記特許文献2で開示されている開始剤(ヨードニウム塩)を使用すると、ラジカル重合性モノマーのみを含む組成においては保存安定性が確保される一方、カチオン重合性モノマーを併用した系では、やはり室温暗所安定性が低下する。また、上記特許文献1(ビスイミダゾール)や特許文献3(有機ホウ素系化合物)で開示されている光ラジカル重合開始剤を用いると、保存安定性は向上するが、必要十分なホログラム記録特性が得られない。さらに、上記特許文献4で開示されている光ラジカル重合開始剤(ヘキサアリールビスイミダゾール)を用いると、室温暗所安定性と、高い回折効率、広いFWHMの両立が図れるが、ホログラム記録後にポストベークが必要になり、実用化の障害となっている。
【0011】
本発明の目的は、高い記録特性すなわち、高い回折効率と回折波長に対する大きな半値全幅(FWHM)を有し、未記録状態での保存安定性に優れたホログラム記録用フォトポリマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが検討した結果、特定の組成において、光ラジカル重合開始剤として有機ホウ素系開始剤を使用し、且つカチオン部が発色団を有するイオン性の光増感色素を用いることにより、未記録状態での保存安定性が格段に向上することを見出した。
本発明には、以下の発明が含まれる。
【0013】
(1)熱可塑性のバインダーポリマー(A)と、エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)と、カチオン重合可能な化合物(C)と、光ラジカル重合開始剤である有機ホウ素系化合物(D)と、光増感色素(E)と、カチオン重合開始剤(F)とを少なくとも含み、前記光増感色素(E)のカチオン部が発色団を有するイオン性の化合物であることを特徴とする、ホログラム記録用フォトポリマー組成物。
【0014】
(2)
前記有機ホウ素系化合物(D)が下記式(I)で表される化合物であることを特徴とする上記(1)に記載のホログラム記録用フォトポリマー組成物。
【化1】

(I)
(Zは、任意の陽イオンを示し、R、R、R及びRは、それぞれ独立してアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、複素環基、ハロゲン原子、置換アルキル基、置換アリール基、置換アルケニル基、置換アルキニル基または置換シリル基を示す。)
【0015】
(3)
前記カチオン重合開始剤(F)が、スルホニウム塩類、ホスホニウム塩類、N−アルコキシピリジニウム塩類、鉄アレーン錯体類、潜在性スルホン酸類、有機シラン類、ベンジルピリジニウム塩類、ベンジルアンモニウム塩類、からなる群から選ばれる化合物である、上記(1)または(2)に記載のホログラム記録用フォトポリマー組成物。
【0016】
(4)
基材と、前記基材上に形成された上記(1)〜(3)のうちのいずれかに記載のホログラム記録用フォトポリマー組成物からなるホログラム記録層とを有しているホログラム記録媒体。
【発明の効果】
【0017】
本発明のホログラム記録材料は光ラジカル重合開始剤として有機ホウ素系化合物を用いているため、未記録媒体の長期にわたる保存安定性に優れる。また、カチオン部が発色団を有するイオン性の増感色素を用いることで、有機ホウ素系開始剤とイオン性の増感色素が塩形成可能になるため、より効率の高い光増感作用が可能となり、記録特性が向上する。さらに、光ラジカル重合開始剤及び増感色素以外の構成成分として、特定の化合物を用いることにより、優れた記録特性と、記録済み信号の経時安定性との両立が図られる。
【0018】
このようにして、本発明によれば、高い記録特性すなわち、高い回折効率と回折波長に対する大きな半値全幅を有し、保存安定性に優れたホログラム記録用フォトポリマー及びホログラム記録媒体が提供される。ホログラム記録媒体は各種データの記録用のみならず、画像記録用として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例で用いられたホログラム記録光学系の概略を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のホログラム記録材料は、熱可塑性のバインダーポリマー(A)と、エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)と、カチオン重合可能な化合物(C)と、光ラジカル重合開始剤である有機ホウ素系化合物(D)と、光増感色素(E)と、カチオン重合開始剤(F)とを少なくとも含み、且つ、前記光増感色素(E)は、カチオン部が発色団を有するイオン性の化合物である。本発明のホログラム記録媒体は、基材と、前記基材上に形成された前記本発明のホログラム記録材料からなるホログラム記録層とを有している。本明細書において、ホログラム記録層をホログラム記録材料層、又は単に記録材料層ということもある。
【0021】
前記熱可塑性のバインダーポリマー(A)としては、エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)、カチオン重合可能な化合物(C)、光ラジカル重合性開始剤である有機ホウ素系化合物(D)、光増感色素(E)、及び、カチオン重合開始剤(F)のいずれとも相溶性がよいポリマーを用いる。ここでのポリマーとは、オリゴマー(低重合度で分子量の低い高分子)をも含む概念である。
【0022】
前記熱可塑性のバインダーポリマー(A)としては、例えばエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーの単独重合体、又は該モノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、ジオールとジカルボン酸との縮合重合体、ヒドロキシカルボン酸の重合体、セルロース誘導体等の熱可塑性樹脂を用いることができる。具体例としては、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラート、ポリビニルホルマール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸又はポリメタクリル酸のエステル、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチラート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン−酢酸ビニル共重合体等、種々のものが挙げられる。バインダーポリマーとして1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記熱可塑性のバインダーポリマー(A)の屈折率は、後述するエチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)の平均屈折率よりも0.03以上低い屈折率を有するものであることが好ましい。さらに、0.05以上低い屈折率を有するものであることがより好ましい。本明細書における屈折率は、n20/D(Na D線での20℃における屈折率)またはその加重平均と定義する。
【0024】
前記エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)としては、分子中に芳香環を有する単官能又は多官能の(メタ)アクリル酸エステルモノマーから選択するとよい。分子中に芳香環を導入することにより、屈折率が高くなる。また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの2量体、3量体などのオリゴマーであってもよい。
【0025】
前記エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)の具体例としては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エピクロルヒドリン(ECH)変性フェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキシド(EO)変性クレゾール(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタル酸、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、o−フェニルフェノール(メタ)アクリレート、p−クミルフェノール(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、1,4−ジヒドロキシナフタレン(メタ)アクリレート、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス(6−ヒドロキシナフチル)フルオレンジ(メタ)アクリレート、及びこれらのEO変性、プロピレンオキシド(PO)変性又はECH変性化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのうち、9,9−ジアリールフルオレン骨格を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーが特に好ましい。
【0026】
前記エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)として、上記の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、芳香環を有しない(メタ)アクリル酸エステルモノマーを併用してもよい。本発明において、前記エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)を高屈折率とするために、上記エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)の平均屈折率は、例えば1.50以上であることが好ましく、1.55以上であることがより好ましい。
【0027】
前記カチオン重合可能な化合物(C)としては、高屈折率カチオン重合性化合物(C1)を用いる場合と、低屈折率カチオン重合性化合物(C2)を用いる場合とがあり、ともに本発明の範囲に包含される。さらに、高屈折率カチオン重合性化合物(C1)と低屈折率カチオン重合性化合物(C2)とを併用しても差し支えない。
【0028】
前記カチオン重合可能な化合物(C)として、高屈折率カチオン重合性化合物(C1)を用いる場合、化合物(C1)は、前記エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)と共に屈折率格子を形成する。より具体的には、ホログラム記録時に形成された、前記不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)に由来する濃度分布に従って、記録後に高屈折率カチオン重合性化合物(C1)が拡散することにより、屈折率変調度Δnが増幅される。高屈折率カチオン重合性化合物(C1)の平均屈折率は、例えば1.50以上であることが好ましく、1.55以上であることが好ましい。
【0029】
前記高屈折率カチオン重合性化合物(C1)としては、分子中に芳香環などの高屈折率部位を有する単官能または多官能のエポキシ基及び/またはオキセタニル基含有化合物から選択するとよい。また、エポキシ基及び/又はオキセタニル基含有モノマーの2量体、3量体などのオリゴマーであってもよい。エポキシ基としては、例えば1,2−エポキシエチル基(エチレンオキシド基)及び3,4−エポキシシクロヘキシル基が挙げられる。前記高屈折率部位としては、芳香環以外に、フッ素以外のハロゲン原子、及び、環状スルフィド及びメルカプト基以外に由来する硫黄原子などが挙げられる。
【0030】
前記高屈折率カチオン重合性化合物(C1)のうち、1,2−エポキシエチル基を有する化合物の具体例としては、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、o−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、o−フェニルフェノールグリシジルエーテル、4,4’−ビス(ヘキサフルオロプロピリデン)ビスフェノール ジグリシジルエーテル、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール ジグリシジルエーテル、4,4’−オキシビスフェノール ジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールA
ジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールF ジグリシジルエーテル、9,9’−ビス[4−(グリシジルオキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[3−メチル−4−グリシジルオキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[3,5−ジメチル−4−(グリシジルオキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[3−フェニル−4−(グリシジルオキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[6−(グリシジルオキシ)ナフチル]フルオレン、及びこれらのEO変性、PO変性又はECH変性化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのうち、9,9−ジアリールフルオレン骨格を有する1,2−エポキシエチル基含有モノマーが特に好ましい。
【0031】
前記高屈折率カチオン重合性化合物(C1)のうち、3,4−エポキシシクロヘキシル基を有する化合物の具体例としては、1,4−ビス[(3,4−エポキシシクロヘキシル)メトキシメチル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3,4−エポキシシクロヘキシル)メトキシメチル]−1,1’−ビフェニル、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルジフェニルホスフィンオキシド、10−[2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル]−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド、及びこれらのEO変性、PO変性又はECH変性化合物等が挙げられる。また、特開2009−179568号公報に開示されている、芳香族骨格含有脂環式エポキシ化合物も好適に用いることができるが、これらに限定されるものではない。これらのうち、9,9−ジアリールフルオレン骨格を有する3,4−エポキシシクロヘキシル基含有モノマーが特に好ましい。
【0032】
前記高屈折率カチオン重合性化合物(C1)のうち、オキセタニル基を有する化合物の具体例としては、1,4−ビス{[3−(エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}ベンゼン、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン、4,4’−ビス[3−(エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]−1,1’−ビフェニル、2,2’−ビス[3−(エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]−1,1’−ビフェニル、ビス[3−(エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]ナフタレン、ビスフェノールAビス[3−(エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、ビスフェノールFビス[3−(エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、4,4’−(ヘキサフルオロプロピリデン)ビスフェノール ビス[3−(エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、テトラブロモビスフェノールAビス[3−(エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、テトラブロモビスフェノールFビス[3−(エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、4,4’−(ヘキサフルオロプロピリデン)テトラブロモビスフェノール ビス[3−(エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール ビス[3−(エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、4,4’−オキシビスフェノール ビス[3−(エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、9,9−ビス{4−[3−(エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]フェニル}フルオレン、及びこれらのEO変性、PO変性又はECH変性化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのうち、9,9−ジアリールフルオレン骨格を有するオキセタニル基含有モノマーが特に好ましい。
【0033】
前記高屈折率カチオン重合性化合物(C1)として、上記のエポキシ基及び/又はオキセタニル基を有するモノマーの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
一方、前記カチオン重合可能な化合物(C)として、低屈折率カチオン重合性化合物(C2)を用いる場合、低屈折率カチオン重合性化合物(C2)は、記録材料中で前記エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)と相補的な濃度分布を形成し、屈折率変調度Δnの向上に寄与する。好ましい実施態様において、低屈折率カチオン重合性化合物(C2)は、前記エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)のいずれの平均屈折率よりも0.03以上低い屈折率を有する。より好ましくは、0.05以上低い屈折率を有する。また、低屈折率カチオン重合性化合物(C2)は記録時に可塑剤として作用するため、室温(25℃)で液状の化合物であることが好ましい。低屈折率カチオン重合性化合物(C2)はカチオン反応性基を有しているため、ホログラム記録後にカチオン重合させることによってホログラム記録後の材料のガラス転移温度を向上させ、その結果、ホログラム記録後の保存安定性を向上させることができる。
【0035】
前記低屈折率カチオン重合性化合物(C2)として、具体的には、
2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,2−シクロヘキサンカルボン酸ジグリシジル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル、1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン等の、1,2−エポキシエチル基を有する化合物;
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサン カルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)スベレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)セバケート、ビス[2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル]テトラメチルジシロキサン等の、3,4−エポキシシクロヘキシル基を有する化合物;
3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、2−エチルヘキシルオキセタン、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ポリ(エチレングリコール)ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ポリ(プロピレングリコール)ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等の、オキセタニル基を有する化合物;
1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ポリ(カプロラクトン)ジオール、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、1,3−ビス(3−ヒドロキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン等の、ヒドロキシ基を有する化合物が挙げられる。
【0036】
また、本発明では必要に応じ、カチオン非反応性可塑剤(G)も使用することができる。カチオン非反応性可塑剤(G)の働きは、カチオン重合しないことを除けば、前述した低屈折率カチオン重合性化合物(C2)と同等である。
【0037】
前記カチオン非反応性可塑剤(G)の具体例としては、マロン酸ジペンチル、マロン酸ジヘキシル、コハク酸ジドデシル、コハク酸ビス(2−エチルヘキシル)、グルタル酸ジドデシル、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)アジピン酸ジデシル、スベリン酸ジドデシル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジブチル、マレイン酸ビス(2−エチルヘキシル)、フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)、シトラコン酸ジドデシル、メサコン酸ジドデシル等の二塩基酸エステル類;ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)等のポリエーテルグリコール類およびそのアルキルエーテル類;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ビニレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類;ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(メチルフェニルシロキサン)、ヘキサエチルジシロキサン、1,3−ジブチル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(3−アセトキシプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等のオルガノシロキサン類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
前記有機ホウ素系化合物(D)は光ラジカル重合開始剤として働き、記録時に前記エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)を重合させ、記録材料中に屈折率格子を形成する。
【0039】
前記有機ホウ素系化合物(D)は下記式(I)で表される化合物である。Zは任意の陽イオンを示し、記録光に対する感光性の有無は問わない。R、R 、R 及びR はそれぞれ独立してアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、複素環基、ハロゲン原子、置換アルキル基、置換アラルキル基、置換アルケニル基、置換アルキニル基または置換シリル基である。さらに、R〜Rのうちの少なくとも1つがアリール基であることがより好ましい。
【0040】
【化1】

(I)
有機ホウ素系化合物(D)の3重量部以下とすることが好ましい。
【0041】
前記光増感色素(E)は、記録に用いられる波長域の光を吸収し、前記有機ホウ素系化合物(D)を光酸化させることによって前記有機ホウ素系化合物(D)からのラジカル生成を促す。このように効率よく働くためには光増感色素(E)と有機ホウ素系化合物(D)は塩を形成していることがより好ましく、そのために、本発明では光増感色素(E)として、カチオン部が発色団を有するイオン性の化合物を用いる。
【0042】
前記光増感色素(E)として、具体的には、シアニン系色素、スチリル系色素等のポリメチン系化合物、ローダミンB、ローダミン6G、ピロニンGY等のキサンテン系化合物、サフラニンO等のフェナジン系化合物、クレシルバイオレット、ブリリアントクレシルブルー等のフェノキサジン系化合物、メチレンブルー等のフェノチアジン系化合物、オーラミン等のジアリールメタン系化合物、クリスタルバイオレット、ブリリアントグリーン、リサミングリーン等のトリアリールメタン系化合物、(チオ)ピリリウム塩系化合物、スクアリリウム系化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
これらのうち、シアニン系色素の具体例としては、下式(II)で表される化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
―(CH=CH)―CH=R (II)
(ここで、R、Rはそれぞれ独立にチアゾール核、チアゾリン核、オキサゾール核、オキサゾリン核、イミダゾール核、イミダゾリン核、セレナゾール核、セレナゾリン核、ピリジン核およびそれらの誘導体であり、メチン鎖長nは0〜3である。)
【0044】
前記カチオン重合開始剤(F)は、前記カチオン重合可能な化合物(C)を反応させるための開始剤であり、例えば、トリフェニルスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、(4−フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート等のトリアリールスルホニウム塩類;トリフェニル(ピレニルメチル)ホスホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルブチル(ピレニルメチル)ホスホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルフェナシルホスホニウム ヘキサフルオロアンチモネート等のアリールホスホニウム塩類;N−エトキシ−2−メチルピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、N−エトキシ−4−シアノピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、N−エトキシキノリニウム ヘキサフルオロホスフェート等のN−アルコキシピリジニウム塩類;シクロペンタジエニル(イソプロピルベンゼン)鉄(II)ヘキサフルオロホスフェート、シクロペンタジエニル(フルオレン)鉄(II)ヘキサフルオロホスフェート等の鉄アレーン錯体類;α−ヒドロキシメチルベンゾインスルホネート、ニトロベンジルトシレート、α−スルホニルアセトフェノン等の潜在性スルホン酸類;o−ニトロベンジルオキシトリフェニルシラン/トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリフェニルシリルパーオキサイド/トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリフェニル(フェナシル)シラン/トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等のシラノール−アルミニウム(III)錯体類、N−ベンジル−4−シアノピリジニウム ヘキサフルオロアンチモネート等のベンジルピリジニウム塩類;ベンジルジメチルフェニルアンモニウム ヘキサフルオロホスフェート等のベンジルアンモニウム塩類;等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
前記カチオン重合開始剤(F)としてヨードニウム塩系の化合物を使用すると、ホログラム記録媒体の未記録状態における安定性が低下するため、本発明においては用いないことが好ましい。
【0046】
本発明のホログラム記録用フォトポリマー組成物における各成分の配合重量の好ましい範囲については、
前記熱可塑性のバインダーポリマー(A)5〜50重量部、
前記エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)10〜70重量部、
前記カチオン重合可能な化合物(C)10〜70重量部、
前記光ラジカル重合開始剤である有機ホウ素化合物(D)0.1〜5重量部、
前記光増感色素(E)0.05〜3重量部、
前記カチオン重合開始剤(F)0.1〜5重量部
前記カチオン非反応性可塑剤(G)0〜40重量部
とすることが好ましく、
前記熱可塑性のバインダーポリマー(A)10〜40重量部、
前記エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)20〜60重量部、
前記カチオン重合可能な化合物(C)20〜60重量部、
前記光ラジカル重合開始剤である有機ホウ素化合物(D)0.3〜3重量部、
前記光増感色素(E)0.1〜1.5重量部、
前記カチオン重合開始剤(F)0.3〜3重量部
前記カチオン非反応性可塑剤(G)0〜20重量部
とすることがより好ましい。
また、上記の各成分以外に、界面活性剤、重合禁止剤、連鎖移動剤、ラジカル重合反応及び/又はカチオン重合反応を促進するための助触媒、紫外線吸収剤などの各種添加剤を添加してもよい。
【0047】
本発明のホログラム記録材料は、各成分を混合して、均一な組成物として製造することができる。混合方法は、公知の各種方法によればよい。混合の際には、各成分の均一化を促し、塗布に適した粘度とするための希釈溶媒を加えることが好ましい。希釈溶媒としては、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トルエン、キシレン、アニソール、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等の、沸点が50℃以上200℃以下の各種有機溶剤又はその混合物を用いることができる。
【0048】
得られたホログラム記録材料組成物溶液を、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース樹脂(TAC)、ポリイミド等の樹脂製透明基材上に塗布し、前記希釈溶媒を乾燥して、フィルム状のホログラム記録材料層が得られる。このようにして、前記の各成分が均一に分散または溶解されたホログラム記録材料層が作製される。
【0049】
本発明のホログラム記録媒体は、基材と、前記基材上に形成されたホログラム記録材料層とを有している。ホログラム記録材料層の上に、さらに基材を被覆して3層構成とすることもできる。また、ホログラム記録材料層の厚さは、特に限定されるものではなく、本記録媒体が用いられる記録装置の要求仕様等から適宜決定すればよく、例えば5〜500μm程度とするとよい。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
(ホログラム記録媒体サンプルの作製)
以下の手順に従って、表1に示す配合組成の記録材料組成物溶液を調整した。
熱可塑性のバインダーポリマー(A)として酢酸ビニルポリマー(シグマアルドリッチ社製、重量平均分子量 Mw =100,000、n20/D =1.47) 1.6gに、エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)として9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン(新中村化学工業(株)製 NKエステル A−BPEF、n20/D =1.62)2.0g、低屈折率カチオン重合性化合物(C2)としてネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(シグマアルドリッチ社製、n20/D =1.46)0.8g、カチオン非反応性可塑剤(G)としてセバシン酸ジエチル(東京化成工業(株)製、n20/D=1.44)0.4gを加えた。この混合物に、さらに、20mgの光増感色素(E) 3−エチル−2−[3−(3−エチル−1,3−ベンゾチアゾール−2(3H)−イリデン)プロパ−1−エン−1−イル]−1,3−ベンゾチアゾール−1−イウム=ヘキサフルオロ−λ5ホスファヌイド(Dye−1)と、光ラジカル重合開始剤(D)として有機ホウ素系化合物であるテトラブチルアンモニウム ブチルトリフェニルボレート (昭和電工(株)製 P3B)を50mg、カチオン重合開始剤(F)としてトリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート(三新化学工業(株)製サンエイド SI−100L)を50mg溶解させた1.12gのアセトン溶液(アセトンとして1.00g)を添加し、攪拌して溶解させた。このようにして記録材料組成物溶液を得た。
【0052】
得られた記録材料組成物溶液を、バーコータを用いて100μm厚のPETフィルム上に塗布し、室温で1晩減圧乾燥させた。乾燥後の記録材料層の膜厚は約25μmであった。これを1.00mm厚のスライドガラスに、記録材料層がガラス面に密着するように貼り付け、ホログラム記録媒体サンプルとした。
【0053】
(特性評価)
実施例1のホログラム記録媒体サンプルについて、図1に示すようなホログラム記録光学系を用いて、特性評価を行った。図1の紙面の方向を便宜的に水平方向とする。
【0054】
図1において、ホログラム記録媒体サンプル(1)は、記録材料層が水平方向と垂直になるようセットされている。
【0055】
図1のホログラム記録光学系において、記録用の光源(11)としてNd:YAGレーザ(波長532nm)を用い、この光源(11)から発振した光を、電磁シャッター(12)、凸レンズ(13)、ピンホール(14)、及び凸レンズ(15)によって空間的にフィルタ処理及びコリメートし、ミラー(16)及び1/2波長板(17)を介してビームスプリッタ(18)で2つの光束に分割し、分割された各光束それぞれが、ミラー(19、20)及びアパーチャ(21、22)を介して、ホログラム記録媒体サンプル(1)の記録材料層に対して垂直に入射するように調整した。
【0056】
この光学系を用いて、ホログラム記録媒体サンプル(1)に対して反射型ホログラムを記録した。記録条件は、光強度30mW/cmで露光時間0.5〜2秒(露光エネルギー:15〜60mJ/cm)とした。その後、記録媒体サンプル(1)の全面に、50mW/cmのUV光を60秒間照射した(露光エネルギー:3000mJ/cm)。UV光の照射(光ポストキュア)により、カチオン開始剤(F)を反応させ、前記カチオン重合可能な化合物(C) の重合を進行させるとともに、増感色素に由来する着色を完全に消失させた。
【0057】
ポストキュア後の記録媒体サンプルを、分光光度計(日本分光(株)製V−660)にセットし、透過スペクトルを測定した。その際のピーク強度及びピーク波長から反射型ホログラムの初期における回折効率及び回折波長を求めた。さらに、前記透過スペクトルから、その半値全幅(FWHM)を求めた。
【0058】
回折効率ηは、分光光度計により求めた回折波長およびその回折波長における透過率T(%)、及びベースライン透過率T(%)から、以下の式により算出した。結果を表1に示す。
回折効率η(%)=[(T−T)/T]×100
【0059】
ホログラム記録媒体の室温暗所安定性の評価として、ホログラム記録媒体作製直後の吸収スペクトルと1ヶ月後の吸収スペクトルとを比較した。表1に結果を示す。表1中の未記録ホログラム記録媒体の室温暗所安定性の欄には、1ヶ月後に測定された前記増感色素に由来する吸収スペクトルの吸収極大における吸光度が、媒体作製直後と比較して5%以内の低下量にとどまった場合を「○」、5%を超えて低下した場合を「×」として示した。吸光度が低下している場合、増感色素が重合開始剤と反応していることを意味する。すなわち、吸光度が5%以上低下したものは室温暗所安定性が低いと判断される。
【0060】
また、上記室温安定性の評価とは別に、サンプル作製直後及び1週間後、1ヶ月後にそれぞれ反射型ホログラムを記録し、その回折効率を測定した。結果を併せて表1に示した。
【0061】
[実施例2]
(ホログラム記録媒体サンプルの作製)
以下の手順に従って、表1に示す配合組成の記録材料組成物溶液を調整した。
熱可塑性のバインダーポリマー(A)として酢酸ビニルポリマー(シグマアルドリッチ社製、重量平均分子量 Mw=100,000、n20/D=1.47) 1.6gに、エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)として9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン(新中村化学工業(株)製 NKエステル A−BPEF、n20/D=1.62)1.0g、高屈折率カチオン重合性化合物(C1)として1,2−エポキシエチル基を有し、且つ9,9−ジアリールフルオレン骨格を有するフルオレンモノマー(大阪ガスケミカル(株)製オグソールEG−250、n20/D=1.58)1.0g、低屈折率カチオン重合性化合物(C2)として、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(シグマアルドリッチ社製、n20/D= 1.46)0.8g、カチオン非反応性可塑剤(G)としてセバシン酸ジエチル(東京化成工業(株)製、n20/D=1.44)0.4gを加えた。この混合物に、さらに、20mgの光増感色素(E)として、3−エチル−2−[3−(3−エチル−1,3−ベンゾチアゾール−2(3H)−イリデン)プロパ−1−エン−1−イル]−1,3−ベンゾチアゾール−1−イウム=ヘキサフルオロ−λ−ホスファヌイド (Dye−1) と光ラジカル重合開始剤(D)として有機ホウ素系化合物であるテトラブチルアンモニウム ブチルトリフェニルボレート (昭和電工(株)製 P3B)を50mg、 カチオン重合開始剤(F)としてトリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート(三新化学工業(株)製サンエイド SI−100L)を50mg溶解させた1.12gのアセトン溶液(アセトンとして1.00g)を添加し、攪拌して溶解させた。このようにして記録材料組成物溶液を得た。
【0062】
得られた記録材料組成物溶液を、バーコータを用いて100μm厚のPETフィルム上に塗布し、室温で1晩減圧乾燥させた。乾燥後の記録材料層の膜厚は約25μmであった。これを1.0mm厚のスライドガラスに、記録材料層がガラス面に密着するように貼り付け、ホログラム記録媒体サンプルとした。
【0063】
その後、実施例1と同様にて特性評価を行った。結果を併せて表1に示す。また、バインダーポリマー(A)、 重合性化合物(B)、 成分(C)の各成分の屈折率(n20/D)も併せて表1に付記した。
【0064】
[実施例3〜5、比較例1〜2]
各構成成分を、表1に示すような化合物及び配合組成とした以外は、実施例1と同様にしてホログラム記録媒体サンプルをそれぞれ作製し、その特性評価を行った。結果を併せて表1に示す。また、バインダーポリマー(A)、 重合性化合物(B)、 成分(C)の各成分の屈折率(n20/D)も併せて表1に付記した。
【0065】
[用いた成分の説明]
バインダーポリマー(A)
・酢酸ビニルポリマー (シグマアルドリッチ社製、 Mw=100,000)
【0066】
不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)
・A−BPEF:9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン (新中村化学工業(株)製)
【0067】
カチオン重合可能な化合物(C)
高屈折率カチオン重合性化合物(C1)
・EG−250::1,2−エポキシエチル基を有し、且つ9,9−ジアリールフルオレン骨格を有するフルオレンモノマー(大阪ガスケミカル(株)製)
低屈折率カチオン重合性化合物(C2)
・ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(シグマアルドリッチ社製)
【0068】
カチオン非反応性可塑剤(G)
・セバシン酸ジエチル(東京化成工業(株)製)
【0069】
ラジカル開始剤(D)
・BT−2: 3,3’−ジ(tert−ブチルパーオキシカルボニル)−4,4’−ジ(メトキシカルボニル)ベンゾフェノンほか位置異性体混合物(チッソ(株)製、40%アニソール溶液)
・P3B:
テトラブチルアンモニウム ブチルトリフェニルボレート (昭和電工(株) 製)
・MN3B: テトラブチルアンモニウム ブチルトリ(4−メチル−1−ナフチル)ボレート
【0070】
イオン性の光増感色素(E)
・Dye−1: 3−エチル−2−[3−(3−エチル−1,3−ベンゾチアゾール−2(3H)−イリデン)プロパ−1−エン−1−イル]−1,3−ベンゾチアゾール−1−イウム=ヘキサフルオロ−λ−ホスファヌイド(下記式(1)の化合物)
【0071】
【化2】

(1)
・Dye−2: 3−ブチル−2−[3−(3−ブチル−5−フェニル−1.3−ベンゾオキサゾール−2(3H)−イリデン)プロパ−1−エン−1−イル]−5−フェニル−1,3−ベンゾオキサゾール−1−イウム=ヘキサフルオロ−λ−ホスファヌイド(下記式(2)の化合物)
【0072】
【化3】

(2)
・クマリン6: 3−(2−ベンゾチアゾリル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン(下記式(3)の化合物)
【0073】
【化4】

(3)
【0074】
カチオン重合開始剤(F)
・SI−100L:トリアリールスルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート (三新化学工業(株)製)
・DAI−B: 4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(東京化成工業 (株)製)
【0075】
なお、表1において、各成分の配合量(g)は、不揮発分としての量を示している。例えば、表1中でのBT−2(40%アニソール溶液)の(不揮発分としての)量0.55gは、アニソールを含む実際の添加量の1.375gに相当する。
【0076】
【表1】

【0077】
実施例1〜5のホログラム記録媒体サンプルでは、光ラジカル重合開始剤(D)として、有機ホウ素系の光ラジカル重合開始剤(実施例1、2ではP3B、 実施例3ではMN3B)を使用し、且つそれ以外の成分として所定の化合物を用いることで、反射型ホログラム記録において高い回折効率と広いFWHMが得られ、かつ未記録媒体において室温暗所安定性に優れた結果が得られた。
【0078】
実施例1、4のホログラム記録媒体サンプルでは、カチオン部が発色団を有するイオン性の光増感色素(実施例1ではDye−1、 実施例4ではDye−2)を使用することで、イオン性の光増感色素を使用しない場合(比較例2)と比較して、それ以外の組成は同一であるにもかかわらず、高い回折効率と広いFWHMが得られ、かつ未記録媒体において室温暗所安定性に優れた結果が得られた。
【0079】
一方、実施例5のホログラム記録媒体サンプルでは、カチオン重合開始剤としてヨードニウム塩系の化合物を使用したため、ホログラム記録媒体サンプル作製1ヶ月後の未記録媒体の暗所安定性が、実施例1に比べやや劣る結果となった。しかし、同1週間後の記録特性にはほとんど変化がみられないことから、必要最低限の安定性は得られていることがわかる。
【0080】
比較例1のホログラム記録媒体サンプルでは、光ラジカル重合開始剤(D)として、過酸化物系の光ラジカル重合開始剤を使用している。反射型ホログラム記録後の回折効率は実施例1〜5とほぼ同等であったが、表1に示したとおり、未記録媒体の暗所安定性は非常に低く、実施例1〜5と比較して大きく劣っていた。
【0081】
比較例2のホログラム記録媒体サンプルでは、光増感色素(E)として非イオン性の色素であるクマリン6を使用している。この場合、表1に示しように反射型ホログラムの回折効率およびFWHMが、カチオン部が発色団を有するイオン性の色素を使用している実施例1(Dye−1)および実施例2(Dye−2)と比較して非常に劣っていた。
【符号の説明】
【0082】
(1):ホログラム記録媒体サンプル
(11):光源
(12):シャッター
(13)、(15):凸レンズ
(14):ピンホール
(16)、(19)、(20):ミラー
(17):1/2波長板
(18):ビームスプリッター
(21)、(22):アパーチャー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性のバインダーポリマー(A)と、エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(B)と、カチオン重合可能な化合物(C)と、光ラジカル重合開始剤である有機ホウ素系化合物(D)と、光増感色素(E)と、カチオン重合開始剤(F)とを少なくとも含み、前記光増感色素(E)のカチオン部が発色団を有するイオン性の化合物であることを特徴とする、ホログラム記録用フォトポリマー組成物。
【請求項2】
前記有機ホウ素系化合物(D)が下記式(I)で表される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のホログラム記録用フォトポリマー組成物。
【化1】

(I)
(Zは、任意の陽イオンを示し、R 、R 、R 及びR は、それぞれ独立してアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、複素環基、ハロゲン原子、置換アルキル基、置換アリール基、置換アルケニル基、置換アルキニル基または置換シリル基を示す。)
【請求項3】
前記カチオン重合開始剤(F)が、スルホニウム塩類、ホスホニウム塩類、N−アルコキシピリジニウム塩類、鉄アレーン錯体類、潜在性スルホン酸類、有機シラン類、ベンジルピリジニウム塩類、ベンジルアンモニウム塩類、からなる群から選ばれる化合物である、請求項1または2に記載のホログラム記録用フォトポリマー組成物。
【請求項4】
基材と、前記基材上に形成された請求項1〜3のいずれかに記載のホログラム記録用フォトポリマー組成物からなるホログラム記録層とを有しているホログラム記録媒体。

【図1】
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