説明

ホース補強用コードおよびそれを用いた自動車用ホース

【課題】耐破裂性、耐久性、非膨張性等に優れたホースを与えることができ、かつ接着剤カスの脱落が少なくホース製造工程通過性に優れたホース補強用コードおよびそれを用いた自動車用ホース、特にブレーキホースを提供する。
【課題を解決するための手段】レゾルシン・ホルマリン初期縮合物(RF)、ビニルピリジンラテックス(VP)を含むラテックス(L)、およびクロル変性レゾルシン(P)を特定の割合で配合した接着剤成分を付着させたポリエステル繊維からなるホース補強用コードであって、特定の強度、伸度、中間伸度(ME)、乾熱収縮率(ΔS)、ME+ΔS、重量平均分子量(Mw)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホース補強用コードに関する。詳しくは、耐破裂性、耐久性、非膨張性等に優れたホースを与えることができ、かつ接着剤カスの脱落が少なくホース製造工程通過性に優れたホース補強用コードおよびそれを用いた自動車用ホース、特にブレーキホースにに関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキホース、エアコンホースおよび燃料ホース等の自動車用ホース、特にブレーキホースに対する要求特性としては、重要な安全部品としての耐破裂性、耐久性、ブレーキ応答性およびカシメ部での耐オイル洩れ性等が挙げられる。ここで、耐破裂性は、主に補強用コードの強力、タフネス、および接着性等の、耐久性は、主に補強用コードの耐屈曲摩耗性、耐薬品性等の、ブレーキ応答性は、主に補強コードのモジュラス、寸法安定性等の、また耐カシメ性は、ホースの柔軟性および寸法安定性等の代替特性によって表され、これらの特性がいずれも優れ、バランスよく有することが重要である。
【0003】
ブレーキホースに要求される上記性能を満足させるため、ゴム種としては主にエチレン−α−オレフィン−共役ジエンゴム(EPDMゴム)が適用されてきた。
【0004】
したがって、ブレーキホース用補強コードとしては、EPDMゴムとの接着性が良く、かつ上記ホース性能を満足させることのできるものを採用することが必要である。かかる要求性能を満足するブレーキホース補強用コード素材としては、従来からポリビニルアルコール(PVA)繊維が多く用いられ、次いでポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステル繊維が用いられている。PVA繊維は、特にモジュラス、収縮率等および耐薬品性等に優れるため、最も好まれて使用されてきた。一方、ポリエステル繊維は、耐加水分解性および耐アミン分解性等の耐薬品性に不安があるものの、耐屈曲摩耗性がPVA繊維コードに比べ著しく優れていること、およびモジュラスおよび寸法安定性の改良によって近年その需要が伸びつつある。また、ポリエステル繊維はコストが安いことから、ホース補強用コードの特性を向上させることができれば、更に伸長するものと期待されている。
【0005】
本発明者らは、ブレーキホースに要求される耐破裂性、耐久性、ブレーキ応答性およびカシメ部での耐オイル洩れ性等の低下の真の原因を追求し、これらの特性の改良を図ることによりポリエステル繊維からなるブレーキホース補強コードを展開することを試みてきた。また、本発明者らは、ホース製造工程において、接着剤カスの脱落が少なく工程通過性に優れたブレーキホース補強用コードおよびそれを用いたホースを提供できる技術の開発を進めてきた。
【0006】
なお、ポリエステル繊維を用いたブレーキホース用補強コードの改良に関しては、従来から主に接着技術の改良によるアプローチがなされ、下記特許文献1〜6に示したような多くの改良技術が提案されている。
【0007】
例えば、ポリエステル繊維表面にゴム用接着剤が付着したポリエステル繊維コードであって、該繊維コードの撚り数が0.5〜25ターン/10cmであり、該コードの強度が5cN/dtex以上、伸度が10〜20%、荷重2cN/dtex時の中間伸度が3%以下、150℃、30分における乾熱収縮率が0.5〜7%、かつ該中間伸度と該乾熱収縮率の和が4〜7%であるゴムホース補強用ポリエステル繊維(例えば、特許文献1参照)が知られており、当該技術は、耐疲労性と熱膨張性に優れたポリエステル接着処理コードを得るために、接着剤処理後のポリエステルコードの物性を開示したものである。
【0008】
しかしながら、この技術で得られるゴムホース補強用ポリエステル繊維は、コードの物性を規定し、熱膨張性、耐疲労性については言及しているものの、コードとゴムの接着性については何も言及されているものではない。
【0009】
また、予めポリエポキシド化合物を含む処理剤で処理したポリエステル繊維に、脂肪族ポリエポキシド(A)とエチレン−α−オレフィン−共役ジエンゴムラテックス(B)を含有する第一処理剤を付与し、熱処理し、続いてレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(C)とビニルピリジン・スチレン・ブタジエン三元共重合体ラテックス(D)ならびにパラクロロフェノール・レゾルシン・ホルムアルデヒド共縮合物(E)を含む第2処理剤を付与し、熱処理することからなるゴムホース補強用ポリエステル繊維の製造方法(例えば、特許文献2参照)についても知られており、当該技術は、EPDMゴム(エチレン−α−オレフィン−共役ジエンゴム)との接着性、ホースのカシメ部での液漏れ防止、ブレード工程での汚れが少ない工程の安定化等を目的として、紡糸油剤と共にポリエポキシド化合物を付着させて製糸して得たポリエステル繊維を、撚糸してコードとした後、2浴処理法によって接着剤を付与する方法を開示したものである。しかしながら、この技術で得られるゴム補強用ポリエステル繊維は、接着力、柔軟性、および摩擦特性等の向上効果は認められるものの、強度、伸度、寸法安定性および耐屈曲摩耗性等の改良については何も言及するものではない。
【0010】
さらに、パラクロロフェノール・レゾルシン・ホルムアルデヒド共縮合物(A)とゴムラテックス(B)およびレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(C)を含む繊維・ゴム接着剤の製造方法において、該パラクロロフェノール・レゾルシン・ホルムアルデヒド共縮合物(A)と該ゴムラテックス(B)とを混合して熟成させた後、この混合物に、レゾルシンとホルムアルデヒドと総固形分濃度が3〜8重量%ある状態で、温度25〜35℃で4〜8時間熱熟成させて得たレゾルシン・ホルムアルデヒドの初期縮合物(C)を添加することを特徴とする繊維・ゴム用接着剤の製造方法(例えば、特許文献3参照)についても知られており、当該技術は、接着性が良好で、過剰な粘着性や接着剤カス等による工程トラブルが少ない繊維・ゴム用接着剤の製造方法の提供を目的として、紡糸油剤と共にポリエポキシド化合物を付着させて製糸して得たポリエステル繊維を、撚糸してコードとした後、1浴処理法によって接着剤付与する方法を開示したものである。しかしながら、この技術で得られるゴム補強用ポリエステル繊維もまた、接着性や行程通過性の改良効果については認められるものの、強度、伸度、寸法安定性および耐屈曲磨耗性などの改良については何も言及するものではない。
【0011】
さらにまた、ポリエステル繊維コードまたはアラミド繊維コードをポリエポキシド化合物(A)およびゴムラテックス(B)を含む第1処理剤で処理した後、200〜250℃で熱処理し、引き続いてレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテツクス(C)と特定構造を有するパラクロロフェノール化合物(D)を含む第2処理剤で処理した後、60〜150℃で熱処理する高圧ホース補強用繊維コードの製造方法(例えば、特許文献4参照)が知られており、当該技術は、EPDMゴムとの接着性が良好で、かつカシメ部での液漏れを生じにくいゴムホース補強用ポリエステル繊維の製造方法およびホースの提供を目的として、予めポリエポキシド化合物を付与されたポリエステル繊維を撚糸した後、1浴処理で接着剤を付与してホース補強用コードとすることを開示したものである。しかしながら、この技術で得られるゴムホース補強用ポリエステル繊維は、予めポリエポキシド化合物を付与してホース用補強コードとすることでゴムとコードの接着性について改良効果は認められるものの、該特許文献の実施例1に見られるように150℃乾熱収縮率が9%であることから寸法安定性については不十分であるという問題を残すものであった。
また、レゾルシン・ホルムアルデヒドの初期縮合物(A)とゴムラテックス(B)および芳香族ポリエポキシドが付着した、1mあたり150回以下の片撚りコードが施されたポリエステル繊維からなり、下記(a)繊維コードと金属管の動摩擦係数が0.15〜0.35、(b)繊維コードと金属間の動摩擦係数の変動幅が0.05以下、(c)剥離テスト時のゴム被覆量が3重量%以上としたゴム補強用ポリエステル繊維コードおよびその製造方法(例えば、特許文献5参照)が知られており、当該技術は、繊維コードの柔軟性、EPDMゴムとの接着性、繊維コードの平滑性、処理剤カスの問題を同時に満足できるゴム補強用ポリエステル繊維コードの提供を目的として、2浴処理法によって特定の接着剤を付与することによって解決したものである。しかしながら、この技術で得られるゴム補強用ポリエステル繊維コードは、接着力、柔軟性、摩擦特性、および処理剤カスの生成ランクについてはある程度の改良効果が認められるものの、強度、伸度、寸法安定性および耐屈曲摩耗性等の改良については何も言及するものではない。
【0012】
さらに、ポリエステル繊維の紡糸、或いは延伸時にポリエポキシド化合物を含む処理剤で処理し、コードとした後にレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)、クロロフェノール系化合物を含む処理剤で処理する際に、該処理剤コードのガーレー硬さが300mg以下になるように処理するゴムホース補強用ポリエステル繊維の製造方法(例えば、特許文献6参照)が知られており、当該技術は、EPDMとの接着性に優れ、柔軟で制振性に優れたゴムホース補強用ポリエステル繊維の製造方法の提供を目的とし、その解決のために、予めポリエポキシド化合物を付与したポリエステル繊維を撚糸し、1浴処理法で接着剤を付与する方法を開示するものである。しかしながら、この技術で得られるゴムホース補強用ポリエステル繊維は、接着力およびコードの柔軟性についての改良効果こそ発揮するものの、強度、伸度、寸法安定性および耐屈曲磨耗性などの改良については何も言及するものではない。
【特許文献1】特開2005−54304号公報
【特許文献2】特開2003−293267号公報
【特許文献3】特開2003−206461号公報
【特許文献4】特開2001−3267号公報
【特許文献5】特開2000−265375号公報
【特許文献6】特開平11−286876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、耐破裂性、耐久性、非膨張性等に優れたホースを与えることができ、かつ接着剤カスの脱落が少なくホース製造工程通過性に優れたホース補強用コードおよびそれを用いた自動車用ホース、特にブレーキホースの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明によれば、レゾルシン・ホルマリン初期縮合物(RF)、ビニルピリジンラテックス(VP)を含むラテックス(L)、およびクロル変性レゾルシン(P)からなる接着剤成分を付着させたポリエステル繊維からなるホース補強用コードであって、前記接着剤成分が以下の(イ)〜(ハ)の組成比で調整されたものであり、かつ前記ホース補強用コードが以下の(1)〜(6)の特性を有することを特徴とするホース補強用コードが提供される。
(イ)R/F=0.5〜1.0 (モル比)
(ロ)RF/L=0.1 〜0.5 (重量比)
(ハ)P/RFL(RF+L)=0.4〜1.0 (重量比)
ここで、R:レゾルシン、F:ホルマリン、L:ラテックス、RF:レゾルシン・ホルマリン初期縮合物、RFL:レゾルシン・ホルマリン・ラテックスを示す。
(1)強度=5.0〜7.0cN/dtex
(2)伸度=9.0〜13.0%
(3)中間伸度(1.5cN/dtex応力時伸度:ME)=1.0〜2.0%
(4)乾熱収縮率(ΔS)=1.5〜4.0%
(5)ME+ΔS=3.0.〜6.0%
(6)重量平均分子量(Mw)=40,000〜50,000
【0015】
なお、本発明のホース補強用コードにおいては、
JIS L2601−1997、6.6に準じた耐屈曲摩耗試験後におけるホース破裂部の補強用コード(ポリエステル繊維)の重量平均分子量(Mw)が30,000〜40,000であること、
試験管にブレーキ液およびコード試料を入れ、これを封入した耐圧容器をオーブン内に120℃で、20日間または5日間放置後、JIS L1017(2002)8.5の強伸度測定法に準じて測定したブレーキ液浸漬試験後におけるホース補強用コードの強力保持率が55〜95%であり、かつホース補強用コード(ポリエステル繊維)の重量平均分子量(Mw)が15,000〜35,000であること、
前記ポリエステル繊維が、以下の(A)〜(F)の特性を有すること、
(A)単糸繊度=2.5〜4.5dtex
(B)強度=5.5〜7.0cN/dtex
(C)中間伸度(4.0cN/dtex応力時伸度:ME)=5.5〜6.7%
(D)乾熱収縮率(ΔS)=1.5〜4.0%
(E)複屈折(Δn)=160〜180×10−3
(F)カルボキシル末端基(COOH)=12〜30eq/t
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0016】
また、本発明の自動車用ホースは、上記のホース補強用コードを上糸および/または下糸として用いたことを特徴とし、なかでもブレーキホースであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下に説明するとおり、耐破裂性、耐久性、非膨張性等に優れたホースを与えることができ、かつ接着剤カスの脱落が少なくホース製造工程通過性に優れたホース補強用コードおよびそれを用いた自動車用ホース、特にブレーキホースを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】

まずここで、本発明について、その特徴をまとめると、以下の通りである。
(1)従来のポリエステル繊維よりも、より低収縮率コードが得られる高強度ポリエステル繊維を用いること。
(2)従来からホース用コードの接着処方として一般的に採用されている、予め製糸工程でポリエポキシド化合物を付与したポリエステル繊維を用いることなく、十分な接着性を有すること。
(3)接着剤処理としては、2浴処理法を用いる必要はなく、1浴処理法で十分な接着が可能であること。
(4)接着剤としては、特別なものを用いる必要はなく、従来から用いられていた汎用的な市販の接着剤を組み合わせて用いることができること。
(5)接着剤の配合比および調合方法等を、特定の条件で行うことによって、十分な接着効果を得ることができること。
(6)ホース用として主に用いられるEPDMゴム(エチレン−α−オレフィン非共役ジエンゴム)との接着性に優れると共に、ホースの編網ブレーディング工程で、接着剤カスの脱落が少ないため、接着剤カスがガイド類に付着して摩擦を高め、ブレーディング時にコード張力を変動させコード切れを起こすようなことがないこと。
(7)ホース作製後、耐屈曲摩耗試験における破裂部と未破裂部の差を明確にする手法として重量平均分子量(Mw)を採用したことにより、定量的に劣化の程度を評価できること。
【0019】
本発明のホース補強用コードは、レゾルシン・ホルマリン初期縮合物(RF)、ビニルピリジンラテックス(VP)を含むラテツクス(L)、およびクロル変性レゾルシン(P)からなる接着剤成分が付着しているポリエステル繊維からなることを特徴としている。
【0020】
レゾルシン・ホルマリン初期縮合物(RF)とは、アルカリ触媒または酸触媒の存在下で、レゾルシンとホルムアルデヒドを縮合させたものである。このレゾルシン・ホルムアルデヒドは、特にアルカリ触媒下で初期縮合して得たレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を用いて調製することが好ましい。例えば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性化合物を含むアルカリ性水溶液内に、レゾルシンとホルムアルデヒドを添加混合して、室温で数時間静置し、レゾルシンとホルムアルデヒドを初期縮合させた後、ゴムラテックスを加えて混合エマルジョンとする方法により調製される。
【0021】
レゾルシン(R)とホルマリン(F)との初期縮合物(RF)、ビニルピリジンラテックス(VP)を含むラテックス(L)、およびクロル変性レゾルシン(P)からなる接着剤成分は、以下の組成比(重量比)で調製されたものである。
(イ)R/F=0.5〜1.0
(ロ)RF/L=0.1 〜0.5
(ハ)P/RFL(RF+L)=0.4〜1.0
【0022】
ここで、R/Fは0.5〜1.0、好ましくは0.6〜0.9、RF/Lは0.1 〜0.5、好ましくは0.15 〜0.3、P/RFLは0.4〜1.0、好ましくは0.5〜0.8の範囲である。
【0023】
上記配合比は、下記する接着剤の熟成条件と合わせて、本発明の接着処方の特徴を構成するものである。したがって、本発明のホース補強用コードに適用する接着剤の配合比は、上記を全て満足させることが必要である。どれか一つの条件を外しても、接着性が低下したり、コードが硬くなったりする等の不具合を生ずる。
【0024】
次に、本発明のホース補強用コードは、レゾルシン(R)とホルマリン(F)との初期縮合物(RF)、ビニルピリジンラテックス(VP)を含むラテックス(L)、およびクロル変性レゾルシン(P)からなる接着剤成分が、下記熟成条件(ア)〜(ウ)を満足するように調製された接着剤を付与したものであることが好ましい。
(ア)RとFの混合・熟成:20〜35℃で1〜10時間、好ましくは25〜30℃で2〜8時間、
(イ)RFとLの混合・熟成:20〜35℃で15〜40時間、好ましくは25〜30℃で20〜30時間、
(ウ)RFLとPの混合・熟成:20〜35℃で15〜50時間、好ましくは25〜30℃で20〜30時間。
【0025】
同様に、本発明のホース補強用コードに適用する接着剤の配合比は、上記を全て満足させることが必要である。
【0026】
上記ビニルピリジンラテックス(VP)とは、上記RFと混合、熟成させてRFLを調製するゴムラテツクス成分であり、例えば、ビニルピリジン・スチレン・共役ジエンゴムラテックス(日本A&L製”V9625”)がある。
【0027】
また、上記クロル変性レゾルシン(P)とは、パラクロロフェノール・レゾルシン・ホルムアルデヒド共縮合物であり、主成分として下記一般式(I)を含んでいる化合物をいう。
【0028】
【化1】

【0029】
但し、一般式(I)の中のnは、0または1〜10の整数を表す。
【0030】
上記一般式(I)で示される化合物の具体的な例は、2,6−ビス(2’,4’−ジヒドロキシ−フェニルメチル)−4−クロロフェノールであり、市販のナガセ化成社製”デナボンドE”が挙げられる。
【0031】
本発明のホース補強用コードは、上記成分からなる接着剤成分を付着してなるポリエステル繊維からなり、以下のコード物性を有するものである。
(1)強度=5.0〜7.0cN/dtex
(2)伸度=9.0〜13.0%
(3)中間伸度(1.5cN/dtex応力時伸度:ME)=1.0〜2.0%
(4)乾熱収縮率(ΔS)=1.5〜4.0%
(5)ME+ΔS=3.0.〜6.0%。
(6)重量平均分子量(Mw)=40,000〜50,000
【0032】
本発明のホース補強用コードに用いられるポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレート繊維であり、このポリエチレンテレフタレート繊維は、本発明のホース補強用コードの物性を満足する範囲で、共重合成分または他種のブレンドポリマを含有することができる。また、本発明で使用するポリエステル繊維は、酸化チタン、酸化珪素、炭酸カルシウム、窒化珪素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸等の各種無機粒子や、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、界面活性剤、末端封鎖剤等を少量含むこともできる。
【0033】
本発明のホース補強用コードの強度は、5.0〜7.0cN/dtex、好ましくは6.0〜6.5cN/dtexである。5.0cN/dtex未満の場合は、本発明のホース用補強コードとしては、強度が十分でなく、ホースの耐破劣性、耐久性を満足しない。一方、7.0cN/dtexを越える強度を、本発明のコードの寸法安定性を満足して達成することは困難である。
【0034】
本発明のホース補強用コードの伸度は、9.0〜13.0%、好ましくは、9.5〜12.0%である。9.0%未満の場合は、ホースの耐破裂性、耐久性を満足できない。一方、13.0%を越えると、中間伸度を満足することができず、強度も十分得られないため好ましくない。
【0035】
本発明のホース補強用コードの中間伸度は、1.4cN/dtex応力時伸度であり、1.0〜3.0%、好ましくは1.0〜2.0%である。中間伸度は低い程、モジュラスが高いことを意味する。
【0036】
本発明のホース補強用コードは、従来のポリエステル繊維からなるコードに比べモジュラスが高く、ブレーキホースとした時に非膨張性およびブレーキ応答性に優れていることが特徴である。
【0037】
本発明のホース補強用コードの乾熱収縮率は1.5〜4.0%、好ましくは2.0〜3.5%である。1.5%未満の収縮率を得ようとすると、中間伸度を上記の範囲に保持することが困難である。一方、4.0%を越えると、収縮率が高いため、ホースの形状均一性が低下し、耐破裂性も低下することになる。
【0038】
また、本発明のホース補強用コードにおける中間伸度と乾熱収縮率の和、ME+ΔSは3.0〜6.0%、好ましくは、3.5〜5.0%である。3.0%未満の値は、現行技術では得ることが困難である。一方、6.0%を越えると、中間伸度または乾熱収縮率のいずれかを満足しないことになるため好ましくない。
【0039】
本発明のホース補強用コードの重量平均分子量(Mw)は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ジメチルテレフタレート(DMT)を分子量基準としGPC法によって測定した値であり、40,000〜50,000、好ましくは43,000〜48,000である。40,000未満では、十分なコード強度が得られず、耐破裂性、耐久性に優れたホースが得られない。一方、50,000を越えるものは、粘度が高すぎるため、最近のポリエステル繊維の高速紡糸延伸法では安定して製糸することが困難であり、ホース用補強コードに供するポリエステル繊維が得られない。
【0040】
次に、本発明のホース補強用コードは、JIS L2601−1997、6.6に準じた耐屈曲摩耗試験後におけるホース破裂部の補強用コード(ポリエステル繊維)の重量平均分子量(Mw)が30,000〜40,000、好ましくは、33,000〜48,000であることが好ましい。
【0041】
重量平均分子量が35,000未満では、耐破裂性および耐久性が不十分なホースしか得られない。耐屈曲摩耗試験は、ブレーキホースを装着して使用した際に、ブレーキホース中の補強コードが伸長・圧縮の繰り返し荷重を受け、屈曲摩耗して強力低下および分子量低下する現象を評価した値である。すなわち、破裂したチューブ中の切断コードに近接したコードの強力保持率の値、および破裂したチューブから取り出した切断コードの切断部および切断部から2mmのコードを切り取り重量平均分子量を求めた値である。
【0042】
また、本発明のホース補強用コードは、試験管にブレーキ液およびコード試料を入れ、これを封入した耐圧容器をオーブン内に120℃で、20日間または5日間放置後、JIS L1017(2002)8.5の強伸度測定法に準じて測定したブレーキ液浸漬試験後ホース補強用コードの強力保持率が55〜95%であり、かつ該ホース補強用コード(ポリエステル繊維)の重量平均分子量(Mw)が15,000〜35,000である。
【0043】
実際のポリエステル繊維からなるコードを用いたブレーキホースでは、ホースの破裂は主に耐屈曲摩耗による強力低下によって生じることを確認しているが、ブレーキ液の種類によっては耐屈曲摩耗よりも強力低下を促進することもあるので、両特性を満足することが必要であることが好ましい。
【0044】
さらに、本発明のホース補強用コードに用いられるポリエステル繊維は、以下の(A)〜(F)の特性を有することが好ましい。
(A)単糸繊度=2.5〜4.5dtex
(B)強度=5.5〜7.0cN/dtex
(C)中間伸度(4.0cN/dtex応力時伸度)=5.5〜6.7%
(D)乾熱収縮率(ΔS)=1.5〜4.0%
(E)複屈折(Δn)=160〜180×10−3
(F)カルボキシル末端基(COOH)=12〜20eq/t
【0045】
ポリエステル繊維の単糸繊度は、2.5〜4.5dtex、好ましくは3.0〜4.0dtexである。2.5dtex未満では耐屈曲摩耗性が低く、またブレーキオイル浸漬試験後の強力低下および重量平均分子量が低下するため好ましくない。4.5dtexを越えると、低収縮率が得にくいため好ましくない。勿論、製糸速度を高めたり、紡出糸を急冷する等の方法でカバーすることは可能であるが、いずれも安定な製糸を行うためには好ましくない。
【0046】
ポリエステル繊維の強度は、5.5〜7.0cN/dtex、好ましくは5.8〜6.5cN/dtexである。5.5cN/dtex未満では、本発明ホース補強用コードの強度および耐屈曲摩耗試験後の強力保持率が得られず、ブレーキホースの耐破裂性も満足しない。7.0cN/dtexを越える強度を得ようとすると、安定な製糸が困難になるため好ましくない。
【0047】
ポリエステル繊維の中間伸度は、4.0cN/dtex応力時伸度であるが、5.5〜6.7%、好ましくは5.8〜6.5%である。5.5%未満の中間伸度を得ようとすると、本発明の乾熱収縮率を得ることが困難である。一方、6.7%を越える中間伸度の場合は、本発明の強度が得られない。
【0048】
ポリエステル繊維の複屈折は、160〜180×10−3、好ましくは165〜175×10−3である。160×10−3未満では、本発明のポリエステル繊維およびホース補強用コードの強度が得られない。一方、180×10ー3を越えると、本発明ホース補強用コードの収縮率およびME+ΔSを満足させることができず、結果として耐久性に優れたブレーキホースが得られない。
【0049】
ポリエステル繊維のカルボキシル末端基は、12〜20eq/t、好ましくは14〜18eq/tである。カルボキシル末端基は少ないほど耐加水分解性、耐薬品性に優れ、ゴム中耐熱性や耐ブレーキ液性も良好となるが、重合速度が下がり生産効率が低下するため、12eq/t未満は好ましくない。一方、20eq/tを越えると、上記特性が低下し、ホースの耐久性が低下するため好ましくない。
【0050】
本発明のホース補強用コードに好適なポリエステル繊維の物性は上記のとおりであるが、本発明では予めポリエポキシドを付着させたポリエステル繊維を用いないため、上記ポリエステル繊維の物性を比較的容易に得ることができる。
【0051】
予めポリエポキシド化合物を付与されたポリエステル繊維は、EPDMゴムのような比較的難接着性ゴムとの接着が良好なことから、ホース補強用コードによく用いられている。しかし、ポリエポキシド化合物を紡糸油剤と共にポリエステル繊維に付着させると、延伸および熱処理用の加熱ローラの表面がエポキシド化合物および該化合物の熱分解物によって汚れ、糸切れや毛羽が頻発する原因となる。そこで、加熱ロールの温度を下げたり、加熱ロールを頻繁にクリーニングしたりする等の方法で対処しているものの、安定に製糸することが困難である。また、加熱温度を下げざるを得ないため、十分な延伸・熱固定ができず、高強度・低収縮率の繊維が得られない等の問題がある。
【0052】
また、上記問題を解決するため、通常の延伸・熱固定を完了したポリエステル繊維に、ポリエポキシド化合物を付与した後巻き取る方法も採用されている。この方法によれば、上記加熱ロール汚れおよび繊維物性の問題は解決するものの、十分な接着効果をだすためには多量のエポキシド化合物を付与させる必要があること、その結果、コストが上がり、かつ接着剤付与後のコードが硬くなること等の欠点を有している。
【0053】
かかる製糸障害および繊維物性の低下を避けるためには、予めポリエポキシ化合物を付与しないでも接着性のよい接着処方の開発が求められていたが、本発明によればその要求を解決することができた。
【0054】
以上の接着剤の配合比および熟成条件を満足させることによって、従来のホース補強用コードに適用されていた接着処方とは異なり、予めポリエステル繊維にポリエポキシド化合物を付与することなく、従来一般に用いられている汎用性のある接着剤を1浴処理法で付与することによって、十分な接着性を達成できるという画期的な処方を完成するに至ったのである。
【0055】
本発明のホース補強用コードは、各種ホース、例えばブレーキホース、エアコンホース、燃料ホース等の自動車用ホースの補強用コードとして用いることができる。特にブレーキホースとして好適であり、上糸およびあるいは下糸として用いることができる。
【0056】
本発明のホース補強用コードを用いたブレーキホースは、ホースの耐破裂性、耐久性、非膨張性等に優れ、かつ接着剤カスの脱落が少ないためホース製造工程通過性に優れている。
【0057】
次に、本発明のホース補強用コードおよび自動車用ホースの製造法の概略について以下に説明する。
【0058】
ポリエステル繊維の製造法:固有粘度(IV)1.00〜1.50、好ましくは1.20〜1.50のポリエチレンテレフタレートチップを、エクストルーダー型紡糸機を用いて紡糸温度285〜300℃で溶融紡糸する。紡糸速度は2200〜2800m/分、延伸倍率2.1〜2.4倍で多段熱延伸し、1.0〜4.0%の弛緩を与えた後巻き取り、ポリエステル繊維を得る。ポリエステル繊維の繊度構成および単糸繊度は口金の孔数および吐出量を変更して行う。
【0059】
ポリエステル繊維の熱延伸は、80〜250℃の加熱ロールに糸条を捲回させて行なう。
【0060】
ホース補強用コードの製造法:上記ポリエステル繊維に、1m当たり50〜150回の撚をかけて未処理(片撚り)コードとする。該未処理コードを、リツラー社製コンピュートリーターまたは多錘型コードセッター機を用いて1浴処理法で接着剤を付与する。接着剤はコード重量に対し、1.0〜6.0重量%、好ましくは1.5〜4.0重量%付与されるよう、接着剤濃度、接着剤液浸漬後の液除去条件を設定する。
【0061】
接着剤を付与し、乾燥を80〜150℃で30秒〜3分行った後、230〜250℃で1〜3分熱処理する。乾燥は0〜3%のストレッチ、熱処理は0〜3%のストレッチをかけた後0〜−3%の弛緩を与えながら行う。
【0062】
ホースの製造:本発明のホース補強用コードを上糸およびまたは下糸として用い、場合によっては該上糸または下糸に他のポリエステル繊維からなるホース補強用コードを用い、ブレード機によって上糸および下糸を編み込んでホースとする。次に該ホースを加硫して本発明の自動車用ホースを得る。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。
【0064】
なお、本文および実施例に示した各特性の定義および測定法は以下の通りである。
【0065】
(1)強度、伸度、中間伸度:JIS L1017―20028.5の方法で測定した。原糸の中間伸度は4.0cN/dtex応力時伸度、コードの中間伸度は、1.5cN/dtexとした。
【0066】
(2)乾熱収縮率:JIS L−1017―2002、7.10(B法)の方法で測定した。加熱処理温度は150℃で行った。
【0067】
(3)重量平均分子量:GPC法により以下の方法で測定した。
装置および検出器としては、Waters製ゲル浸透クロマトグラフ、示差屈折率検出器RI2414を用い、カラムは昭和電工製Shodex HFIP−806Mを用いた。溶媒はセントラル硝子製ヘキサフルオロイソプロパノールを用い、流速は0.5ml/min、温度は23℃とした。試料濃度は約0.04w/v%で注入量は200μlとした。分子量校正には昭和電工製単分散ポリエチルメタクリレート(PMMA)、ジメチルテレフタレート(DMT)を用いた。
【0068】
(4)接着剤付着量:JIS L1017−1995の溶解法試験に従って測定した。
【0069】
(5)接着性:コードとゴム間の接着テスト(コードストリッピングテスト)を行った。コード試料を隙間がないようにアルミ板に巻き付け、アルミ板の両側に下記表1に示した配合組成のEPDMゴムを貼り付け、180℃で10分間プレス加硫を行った。この時、ゴムの厚さは3mmとし、プレス圧力を50kg/cmに調製した。
【0070】
【表1】

【0071】
放冷後、20℃、65%RHの温室度調節室で、剥離評価を行った。速度50mm/分で、ゴムとコード試料が90°の角度になるように保ちながらゴムからコード試料を剥離した時の剥離力を測定した。
【0072】
ゴム被覆率は、上記コード剥離テストの際に、ゴムから剥離されたコード試料を肉眼で観察し、ゴムと接触していた部分のコード試料表面に、ゴムが残存している面積を百分率で表した。
【0073】
ゴム被覆量は、JIS L1017−1995のポリエステルのディップピックアップの溶解法試験に従って、コードストリッピングテストの際にゴムから剥離されたコード試料の被覆ゴムおよび接着剤付着量の合計を求め、コードストリッピングテストを行う前の試料より求めた接着剤付着量を差し引くことにより測定し、次式により求めた。
ゴム被覆量(重量%)=[(E−F)/(G−F)]×100%
ここで、E:被着ゴム+接着剤付着の絶乾重量
F:接着剤付着の絶乾重量
G:コード試料の絶乾重量
を表す。
【0074】
(6)ブレード工程での接着剤カス付着評価:表記平滑性の指標として用いたコード試料と梨地クロムメッキ加工管間の動摩擦係数の測定時におけるガイド類へのカスの付着状況を指標とした。カスの発生の極端に少ないものは◎、少ないものは○、多量のカスが発生するものは×、○と×の中間のものを△とした。
【0075】
(7)耐屈曲摩耗性:JIS L2601−1997、6.6に示されている方法を採用し疲労性試験を行った。疲労試験後、破裂部および未破裂部のGPCを測定した。
【0076】
(8)膨張性:JIS L2601−1997、6.4に示されている方法を採用し一定圧力下での膨張量を測定し、膨張量の少ないものを○、大きいものを×とした。
【0077】
(9)耐ブレーキ液性:試験管にブレーキ液およびコード試料を入れ、これを封入した耐圧容器をオーブン内に120℃で、20日間または5日間放置後、JIS L1017(2002)8.5の強伸度測定法に準じて測定した。
【0078】
(10)総合判定 (1)〜(9)を総合的に判定してブレーキホースとして適応可能かどうか、適応できるものに○、適応できないものに×と示した。
【0079】
[実施例1〜6]
IVが1.35のポリエチレンテレフタレートポリマを、エクストルーダー型紡糸機を用いて溶融紡糸した。紡糸温度は295℃とし、1670dtex−480filamentのポリエステル繊維を製糸した。口金下には加熱筒を設置して、口金面から12cm間を300℃の高温雰囲気ゾーンとした。紡出糸条は該高温雰囲気ゾーンを通過させた後、70℃の温風を吹き付けて冷却固化させ、次いで油剤を付与させた。次に該糸条を2800m/分で回転する80℃に加熱されたネルソン型供給ロール(FR)に捲回して引取った。
【0080】
続いて、引取糸条を連続して設置されたネルソンロール群、1DR、2DR、3DRに捲回させて延伸を行った。1DRは120℃、2DRは160℃、3DRは240℃とした。全延伸倍率は2.10で、延伸比率は1段延伸(1DR/FR):1.47倍(70%)、2段延伸(2DR/1DR):1.45倍(25%)、3段延伸(3DR/2DR):5%(5%)とした。延伸繊維を連続して弛緩処理ロール(RR)との間で2%の弛緩を与えた後、巻き取った。
【0081】
次に、上記得られたポリエステル繊維に、80t/mの片撚りをかけて、未処理コードを得た。
【0082】
レゾルシン(R)/ホルマリン(F)のモル比を1/1.45の割合で、苛性ソーダの存在下混合し、固形分濃度が10%となるように調整し、2時間熟成することで、レゾルシン/ホルマリンの初期縮合物を得た。次に、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックス(V9625(日本A&L社製))とスチレンーブタジエンゴムラテックス(LX110(製))を固形分重量比で70/30の割合で混合し、初期縮合物と100/20の割合で混合し24時間熟成した。さらに、クロロ変性レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(デナボンド−E(ナガセ化成製))を、上記レゾルシン・ホルマリン・ラテックスの固形分重量100重量部に対し、40重量部混合し、さらに20時間熟成した。この混合物を水で希釈し、固形分重量8%の接着剤を得た。上述したR/F(モル比)、RF/L(重量比)、P/RFL(重量比)を表1に示すような配合比で混合し、実施例2〜4とした。
【0083】
上記未処理コードを、コンピュートリーター処理機(CAリッツラー株式会社製)を用いて、上記の内層接着剤に浸漬した後、120℃で65秒間乾燥し、引き続き240℃で60秒の熱処理を行った。
【0084】
熱処理時に延伸を行い、中間伸度および乾熱収縮率を表1のように変化させることにより、実施例5,6とした。
【0085】
得られた処理コードの各特性を表2に示した。
【0086】
[比較例1〜3]
R/F(モル比)、RF/L(重量比)、P/RFL(重量比)を表2に示すような配合比で混合した以外は、実施例1と同様の操作を行った。この結果を表2に示した。
【0087】
[比較例4、5]
中間伸度、乾熱収縮率を表2のように変化させた以外は、表2と同様の操作を行った。この結果を表2に示した。
【0088】
また、(7)耐屈曲摩耗性、(8)膨張性、(9)耐ブレーキ液性の測定について、実施例1と比較例4いついて実施し、その結果を表3に示した。
【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
表2に示すようにR/F(モル)比、RF/L(重量)比、P/RFL(重量)比(ここで、R:レゾルシン、F:ホルマリン、L:ラテックス、RF:レゾルシン・ホルマリン初期縮合物、RFL:レゾルシン・ホルマリン・ラテックスを示す)を適正化することで、接着性が向上し、カス付着量が低減する。またコードの物性も同様に適正化することで膨張性、耐屈曲磨耗性も向上する。表3よりコード物性を適正化することで破裂部の分子量も増加し高耐久のホースを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、耐破裂性、耐久性、非膨張性等に優れたホースを与えることができ、かつ接着剤カスの脱落が少なくホース製造工程通過性に優れたホース補強用コードを得ることができ、このホース補強用コードは、ブレーキホース、エアコンホースおよび燃料ホース等の自動車用ホース、特にブレーキホースの素材として有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レゾルシン・ホルマリン初期縮合物(RF)、ビニルピリジンラテックス(VP)を含むラテックス(L)、およびクロル変性レゾルシン(P)からなる接着剤成分を付着させたポリエステル繊維からなるホース補強用コードであって、前記接着剤成分が以下の(イ)〜(ハ)の組成比で調整されたものであり、かつ前記ホース補強用コードが以下の(1)〜(6)の特性を有することを特徴とするホース補強用コード。
(イ)R/F=0.5〜1.0 (モル比)
(ロ)RF/L=0.1 〜0.5 (重量比)
(ハ)P/RFL(RF+L)=0.4〜1.0 (重量比)
ここで、R:レゾルシン、F:ホルマリン、L:ラテックス、RF:レゾルシン・ホルマリン初期縮合物、RFL:レゾルシン・ホルマリン・ラテックスを示す。
(1)強度=5.0〜7.0cN/dtex
(2)伸度=9.0〜13.0%
(3)中間伸度(1.5cN/dtex応力時伸度:ME)=1.0〜2.0%
(4)乾熱収縮率(ΔS)=1.5〜4.0%
(5)ME+ΔS=3.0.〜6.0%
(6)重量平均分子量(Mw)=40,000〜50,000
【請求項2】
JIS L2601−1997、6.6に準じた耐屈曲摩耗試験後におけるホース破裂部の補強用コード(ポリエステル繊維)の重量平均分子量(Mw)が30,000〜40,000であることを特徴とする請求項1記載のホース補強用コード。
【請求項3】
試験管にブレーキ液およびコード試料を入れ、これを封入した耐圧容器をオーブン内に120℃で、20日間または5日間放置後、JIS L1017(2002)8.5の強伸度測定法に準じて測定したブレーキ液浸漬試験後におけるホース補強用コードの強力保持率が55〜95%であり、かつホース補強用コード(ポリエステル繊維)の重量平均分子量(Mw)が15,000〜35,000であることを特徴とする請求項1または2記載のホース補強用コード。
【請求項4】
前記ポリエステル繊維が、以下の(A)〜(F)の特性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のホース補強用コード。
(A)単糸繊度=2.5〜4.5dtex
(B)強度=5.5〜7.0cN/dtex
(C)中間伸度(4.0cN/dtex応力時伸度:ME)=5.5〜6.7%
(D)乾熱収縮率(ΔS)=1.5〜4.0%
(E)複屈折(Δn)=160〜180×10−3
(F)カルボキシル末端基(COOH)=12〜30eq/t
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項のホース補強用コードを上糸および/または下糸として用いたことを特徴とする自動車用ホース。
【請求項6】
ブレーキホースであることを特徴とする請求項5記載の自動車用ホース。

【公開番号】特開2007−56389(P2007−56389A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241232(P2005−241232)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】