説明

ホース製造用マンドレル

【課題】ホース引抜性が4−メチル−1−ペンテン系樹脂製のマンドレルと同等であり、且つ安価なホース製造用マンドレルを提供すること。
【解決手段】ポリプロピレン構造を含むオレフィン系熱可塑性エラストマーを含有するホース製造用マンドレル4であり、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーが、140℃以上の融点および20〜80J/gの融解エントロピー(ΔH)を有するホース製造用マンドレル4。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホース製造用マンドレルに関する。
【背景技術】
【0002】
ホースは、ゴムやエラストマーなどをホース製造用マンドレル(以下マンドレルと記載することがある)上でホース状に成形し、ゴムの場合にはさらに加硫し、ホースからマンドレルを引き抜くことによって製造される。このようなホース製造に使用するマンドレルとしては、複数のマンドレルを融着により接続して行う長尺化が容易で、取り扱い性も良好であるなどの点から、熱可塑性樹脂製のマンドレルが多く使用されている。従来のマンドレル原料としては、例えば、4−メチル−1−ペンテン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などが使用されている。なかでも、4−メチル−1−ペンテン系樹脂製のマンドレルは、ホースから引き抜き易く、且つ耐熱性に優れるという特徴を有する。しかし、4−メチル−1−ペンテン系樹脂は、高価であるという欠点がある。
【0003】
そこで、ポリアミド系樹脂またはポリエステル系樹脂などから、マンドレルを製造することが検討されている。しかし、ポリアミド系樹脂またはポリエステル系樹脂製のマンドレルは、ホースとの密着力が高いため、ホースからマンドレルを引き抜く際に、ホースとマンドレルが滑りにくいため、マンドレルが引き抜きにくいという欠点を有する。そのため、ホース引抜き時にマンドレルのホースからの滑り易さ(以下「ホース引抜性」と記載することがある)を改良するために、ポリアミド系樹脂またはポリエステル系樹脂に無機質粉末や合成樹脂を配合した樹脂組成物を成形してマンドレルを製造し、このマンドレルの表面粗さを適度に粗くして、ホース引抜性を向上する方法などが提案されている(特許文献1)。
【0004】
ホースから引き抜かれたマンドレルは、性能に問題が無ければ、別のホース製造に再使用できるが、マンドレルがポリアミド系樹脂またはポリエステル系樹脂などからなる場合、ホース引抜きに使用する水によりマンドレルが加水分解するため、マンドレルの再利用率が低下するという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−266448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、ホース引抜性が4−メチル−1−ペンテン系樹脂製のマンドレルと同等であり、且つ安価なホース製造用マンドレルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、特定のオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いれば、ホース引抜性が良好なマンドレルを安価に製造し得ることを見出した。この知見に基づく本発明は、以下の通りである。
【0008】
[1] ポリプロピレン構造を含むオレフィン系熱可塑性エラストマーを含有するホース製造用マンドレルであり、
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーが、140℃以上の融点および20〜80J/gの融解エントロピー(ΔH)を有するホース製造用マンドレル。
[2] 前記オレフィン系熱可塑性エラストマーが、α−オレフィン単位を1〜40mol%の量で含有するプロピレン−α−オレフィン共重合体(但し、α−オレフィンとしてプロピレンは除く)および60〜75mol%のメソペンダッド分率を有するプロピレン単独重合体の群から選ばれる少なくとも1種である上記[1]に記載のホース製造用マンドレル。
[3] 前記オレフィン系熱可塑性エラストマーが、50〜600MPaの曲げ弾性率を有する上記[1]または[2]に記載のホース製造用マンドレル。
[4] 外径が8〜40mmである上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載のホース製造用マンドレル。
【発明の効果】
【0009】
本発明のホース製造用マンドレルは、ホース引抜性が良好であり、且つ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のマンドレルの製造に使用する装置の一例の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のホース製造用マンドレル(以下、単に「マンドレル」と略称することがある)は、140℃以上の融点および20〜80J/gの融解エントロピー(ΔH)を有する、ポリプロピレン構造を含むオレフィン系熱可塑性エラストマーを含有することを特徴とする。
ここでポリプロピレン構造を含むオレフィン系熱可塑性エラストマーとは、ポリプロピレンが結晶化した領域を有する熱可塑性エラストマーを意味する。前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの含有量は、マンドレル中、好ましくは60〜100質量%、より好ましくは75〜100質量%以上、さらに好ましくは90〜100質量%以上である。
【0012】
マンドレルのホース引抜性は、一般に、その原料の表面エネルギーが小さいほど良好である。表面エネルギーが小さい原料は、分子構造の対称性が高く、極性を持たない。その結果、表面エネルギーが小さい原料から製造されるマンドレルは、ホース引抜性が良好となる。この点、ポリプロピレン単独重合体の表面エネルギーは29mN/mであり、ポリエチレン単独重合体の表面エネルギーは31mN/mであるため、本発明で使用するオレフィン系熱可塑性エラストマーの表面エネルギーは、例えば29〜31mN/mである。これに対して、ポリアミド樹脂の表面エネルギーは46mN/mであり、4−メチル−1−ペンテン系樹脂の表面エネルギーは24mN/mである。そのためオレフィン系熱可塑性エラストマーとマンドレルの密着性が低下することから、オレフィン系熱可塑性エラストマー製のマンドレルのホース引抜性は、ポリアミド樹脂製のマンドレルよりも良好であり、4−メチル−1−ペンテン系樹脂製のマンドレルと同等であることが分かる。
【0013】
またオレフィン系熱可塑性エラストマーは、4−メチル−1−ペンテン系樹脂およびポリアミド樹脂と比較すると安価であるため、本発明のマンドレルは安価に製造することができる。
【0014】
本発明において、オレフィン系熱可塑性エラストマーは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上のオレフィン系熱可塑性エラストマーの混合物を使用する場合、上述の融点および融解エントロピーは、オレフィン系熱可塑性エラストマー混合物の値である。後述する曲げ弾性率、MFRおよびガラス転移温度も同様である。
【0015】
本発明において、オレフィン系熱可塑性エラストマーの融点は、JIS K7121:1987に従って測定した融解ピークのピーク温度を意味する。また、オレフィン系熱可塑性エラストマーの融解エントロピー(ΔH)は、JIS K7121:1987に従って測定した融解の際の転移熱を意味する。これらの測定法の詳細は、後述する実施例に記載する。
【0016】
ゴムホースを製造する場合、通常、ゴムの加硫温度は140℃以上である。そのため、ゴム加硫中におけるマンドレルの変形を抑制するためには、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの融点が140℃以上であることが求められる。前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの融点は、好ましくは145℃以上である。なお、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの融点は、好ましくは165℃以下、より好ましくは160℃以下である。
【0017】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの融解エントロピー(ΔH)は、20〜80J/gであり、好ましくは25〜60J/gであり、より好ましくは25〜40J/gである。この融解エントロピーが20J/gよりも小さいと、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの結晶性が低下するため、耐熱性が低下する。また、前記オレフィン系エラストマーの結晶性が低すぎると、マンドレルが太径となるにつれ、マンドレルの製造時にマンドレルの自重によりその断面のひずみが顕著になり、真円とならない傾向となる。逆に、融解エントロピーが100J/gを超えると、オレフィン系熱可塑性エラストマーの結晶性が高くなりすぎて硬くなり、マンドレルの柔軟性が損なわれ、ドラムへの巻きつけ性などの取り扱い性が低下する。
【0018】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの曲げ弾性率は、50〜600MPaが好ましい。この曲げ弾性率が50MPa以上であると、マンドレルの製造時に、偏平が生じ難くマンドレルの外径精度が良好であり、また得られるマンドレルの耐熱寸法安定性も良好である。一方、この曲げ弾性率が600MPa以下であると、得られるマンドレルが適度な柔軟性を有し、太径(例えば8〜40mm)のマンドレルであってもドラムに巻きつけやすいなど、作業性が良好である。
【0019】
マンドレルをホースから引き抜く際には、通常、マンドレルは、水圧をかけて引き抜かれる。マンドレルが細いと、ホースから引き抜く際にマンドレルには高い水圧がかかるため、高い剛性が求められる。
【0020】
一方、ドラム(胴径は、例えば1m〜1.5m)への巻きつけなどの取り扱い性に配慮した柔軟性も必要である。そのためマンドレルの外径が8〜40mm(例えば、8、13、20、30または40mmなど)の太径である場合、剛性が高すぎると、マンドレルをドラムに巻きつけられなくなるなど、作業性が低下する場合が有る。したがって、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの曲げ弾性率は、好ましくは50〜600MPa、より好ましくは100〜400MPa、さらに好ましくは100〜200MPaである。ここで、オレフィン系熱可塑性エラストマーの曲げ弾性率は、JIS K7171:2008に従って測定した値である。
【0021】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、低立体規則性のプロピレン単独重合体;プロピレンとα−オレフィンとの共重合体であるプロピレン−α−オレフィン共重合体(但し、α−オレフィンとしてプロピレンは除く)などが挙げられる。
【0022】
低立体規則性のプロピレン単独重合体は、いわゆるポリプロピレン樹脂のメソペンダット分率を低くして(例えば、メソペンダット分率を95mol%以下)、全ポリプロピレン構造における結晶可能なポリプロピレン構造を減少させることにより、熱可塑性エラストマーとしたものである。
【0023】
プロピレン−α−オレフィン共重合体としては、例えば、プロピレンとα−オレフィンとのブロック共重合体である、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(但し、α−オレフィンとしてプロピレンは除く);プロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体であるプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体(但し、α−オレフィンとしてプロピレンは除く);などが挙げられる。
【0024】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの中でも、マンドレルとして適度な軟らかさを有しつつ、高融点を維持することができる、60〜80mol%のメソペンダッド分率を有するプロピレン単独重合体;α−オレフィン単位を1〜35mol%の量で含有するプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体(但し、α−オレフィンとしてプロピレンは除く);およびα−オレフィン単位を0.5〜5mol%の量で含有するプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体(但し、α−オレフィンとしてプロピレンは除く)が好ましく、前記プロピレン単独重合体および前記プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体がより好ましく、前記プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体がさらに好ましい。これらを製造に用いると、マンドレルに適度な軟らかさと良好な耐熱性とを付与することができる。
【0025】
前記プロピレン単独重合体のメソペンダッド分率は、より好ましくは65〜75mol%であり、さらに好ましくは70〜75mol%である。前記プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体のα−オレフィン単位量は、より好ましくは10〜30mol%であり、さらに好ましくは20〜30mol%である。前記プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体のα−オレフィン単位量は、より好ましくは0.5〜3mol%であり、さらに好ましくは1〜2mol%である。
【0026】
前記メソペンタッド分率([mmmm])を測定するための高温NMR装置には、特に制限はなく、ポリオレフィン類の立体規則性度の測定が可能な一般に市販されている高温型核磁気共鳴(NMR)装置、例えば、日本電子株式会社製、高温型フーリエ変換核磁気共鳴装置(高温FT−NMR)、JNM−ECP500が利用可能である。観測核は、13C(125MHz)であり、測定温度は、135℃、溶媒には、オルト−ジクロロベンゼン(ODCB:ODCBと重水素化ODCBの混合溶媒(混合比=4/1))が用いられる。高温NMRによる方法は、公知の方法、例えば、「日本分析化学・高分子分析研究懇談会編、新版 高分子分析ハンドブック、紀伊国屋書店、1995年、610頁」に記載の方法により行なうことが出来る。測定モードは、シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング、パルス幅は9.1μsec(45°パルス)、パルス間隔5.5sec、積算回数4500回、シフト基準は、CH(mmmm)=21.7ppmとされる。
【0027】
立体規則性度を表すペンタッド分率は、同方向並びの連子「メソ(m)」と異方向並びの連子「ラセモ(r)」の5連子(ペンタッド)の組み合わせ(mmmmやmrrmなど)に由来する各シグナルの強度積分値より百分率で算出される。mmmmやmrrmなどに由来する各シグナルの帰属に関し、例えば、「T.Hayashi et al.,Polymer,29巻,138頁(1988)」などのスペクトルの記載が参照される。
【0028】
前記プロピレン−α−オレフィン共重合体において、αオレフィンの炭素原子数は、好ましくは2および4〜20であり、より好ましくは2および4〜10である。ここで、炭素原子数2および4〜20のα−オレフィンは、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセンおよび1−エイコセンなどが挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いて良い。中でも、マンドレルの耐熱性の点で、エチレン、1−ブテンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0029】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーのMFRは、好ましくは1〜10g/10min、より好ましくは1〜5g/10minである。このMFRの値は、JIS K7210:1999に従い、230℃、荷重2.16kgの条件で測定した値である。このようなMFRを有するオレフィン系熱可塑性エラストマーは、その溶融粘度が高く、十分な樹脂圧を加えることができるため、長尺品であるマンドレルを押出成形する場合に、溶融樹脂の冷却工程でマンドレル内部に発生する真空ボイドを軽減しつつ、寸法精度に優れたマンドレルを製造することができる。
【0030】
ここで、真空ボイドとは、押出成形および射出成形などにおいて、特に肉厚の大きい部位に空隙が発生する現象である。押出成形および射出成形などにおいて、溶融樹脂が冷却によって体積収縮する際、冷却速度の速い表層部の冷却固化が進行すると、冷却速度が遅い中心部では内部応力が小さくなり、さらには減圧となると、この真空ボイドが発生すると言われている。真空ボイドを防止するためには、溶融樹脂の冷却時における表層部と中心部との冷却速度差を小さくし(=徐冷する)、樹脂圧を高くし、内部応力が減圧にならないようにする(射出の場合は保圧を上げる)ことが効果的である。
【0031】
例えば、4−メチル−1−ペンテン系樹脂はガラス転移温度が0℃以上であるため、4−メチル−1−ペンテン系樹脂製のマンドレルをホースから引き抜く場合、冬場など引き抜き時の環境温度が低温(おおむね10℃以下)では、マンドレルが折れ易くなるという欠点がある。そこで、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーのガラス転移温度は、0℃未満であることが好ましい。このガラス転移温度が0℃未満であると、冬季など低温(おおむね10℃以下)でホース引き抜きを行なっても、マンドレルの強度が維持されて折れにくい。ここで、ガラス転移温度とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定したものである。
【0032】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの市販品としては、以下のものが例示される:プライムポリマー社製「プライムTPO E−2900H」(低立体規則性プロピレン単独重合体、融点160℃、融解エントロピー80J/g、曲げ弾性率590MPa、メソペンダッド分率72mol%、MFR2.8g/10min、ガラス転移温度0℃未満);「プライムTPO J−5710」(プロピレン−エチレン系ランダム共重合体、エチレン単位量1mol%、融点152℃、融解エントロピー58J/g、曲げ弾性率220MPa、MFR8.0g/10min、ガラス転移温度0℃未満);「プライムTPO T−310E」(プロピレン−エチレン系ブロック共重合体、エチレン単位量29mol%、融点153℃、融解エントロピー28J/g、曲げ弾性率110MPa、MFR1.5g/10min、ガラス転移温度0℃未満)。
【0033】
本発明のマンドレルは、本発明の目的を損なわない範囲で、前記オレフィン系熱可塑性エラストマー以外の樹脂(以下「他の樹脂」と記載する。)を含有していてもよい。他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、4−メチル−1−ペンテン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エラストマー、ゴムなどが挙げられる。他の樹脂の含有量は、マンドレル中、40質量%以下、好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0034】
本発明のマンドレルは、本発明の目的を損なわない範囲で、添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、ガラス繊維、ガラスビース、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、マイカ、水酸化アルミニウム、二硫化モリブデン等の充填剤、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、可塑剤などが挙げられる。添加剤の含有量は、マンドレル中、40質量%以下、好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0035】
但し、可塑剤を使用すると、ゴムホース製造時にホース側に含まれる架橋剤などと可塑剤とが反応し、得られるホースに不具合が生じる場合がある。そのため、本発明のマンドレルは、可塑剤を含まないことが好ましい。本発明のマンドレルは、可塑剤を含まなくとも、マンドレルに要求される適度な軟らかさを実現できる。
【0036】
本発明のマンドレルの形状は、製造すべきホースの内部貫孔の断面形状(軸線と直行する断面におけるホース内径面の形状)に対応させて種々変更される。例えば、マンドレルが、内部貫孔の断面形状が円形である一般的なホースの製造用である場合は、マンドレルの形状を円柱状(または円筒状)にすればよい。また、マンドレルが、内部貫孔の断面形状が多角形等である異形ホースの製造用である場合は、マンドレルの形状を多角柱状(または多角筒状)にすればよい。また、マンドレルの大きさ(断面径、長さ等)は、製造するホースの断面の外径、長さ等に応じて適宜選択される。前記オレフィン系熱可塑性エラストマーは非架橋であり、容易に融着可能であることから、複数のマンドレルを長手方向に連なるよう端面同士を融着して所望の長さとしてもよい。また、マンドレルは、多層(例えば、2層、3層など)構造でもよい。界面の影響(ホース引抜きの際に前記オレフィン系熱可塑性エラストマーに発生する応力割れなどの問題)を考慮すると、マンドレルは、単層構造であることが好ましい。
【0037】
本発明のマンドレルは、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーを射出成形機または押出成形機等の公知の成形装置を用いて、所望の形状に成形することによって製造される。また、長尺物を製造する場合は、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーを押出成形機で溶融した後、強制的に冷却されたロングランドダイを押出機の押出力のみをもって送り出して成形する方法が好ましい。この方法によると、前記オレフィン系熱可塑性エラストマー製のマンドレルの内部歪みが少ないために、高温環境下で使用しても寸法変化が小さいマンドレルを製造することができる。
【0038】
また、本発明のマンドレルを、金属製ワイヤや撚糸を内包する構造体にする場合は、例えば、金属製ワイヤおよび/または撚糸を挿入した金型を使用するインサート成形を行うか、或いは金属製ワイヤおよび/または外周側面に前記オレフィン系熱可塑性エラストマーを押し出す等の方法が採用される。
【0039】
なお、他の樹脂および添加剤を使用する場合には、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーに替えて、前記オレフィン系熱可塑性エラストマー、他の樹脂および添加剤を含有する混合物を使用すること以外は前記方法と同様にして、マンドレルを製造することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明のマンドレルについて実施例および比較例を示して具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
また、実施例および比較例に示したマンドレルは、以下の条件で製造し、その物性を測定した。
【0041】
(1)マンドレルの製造
特開2000−108191号公報に記載の方法に従って製造した。詳しくは、押出機の吐出口に連通連結させた、図1に示す長手方向の円孔7を有するロングランドダイ(成形品のサイジングを行う長尺のランドダイ)1と、該ロングランドダイ1を強制的に冷却する冷却手段3とを備えた装置を使用し、マンドレル原料を投入し、押出機からの押出力にてロングランドダイ1に通し、冷却手段3にてロングランドダイ1を強制的に冷却しつつ押出を行い、さらに、ロングランドダイ1から、押出力のみをもって送り出して製造した。該方法では、マンドレル原料2は、ロングランドダイ1にて押出力のみをもってサイジングされ、製造されるマンドレル4の外径Dは、ロングランドダイ1の円孔7の内径Eにて決まり、引き続き、上記押出力のみにてマンドレル原料2を送って、完全に固化させる。なお、図中の符号5側が上流側(押出機側)であり、符号6側が下流側である。
【0042】
(2)オレフィン系熱可塑性エラストマーの融点(Tm)、融解エントロピー(ΔH)およびガラス転位温度(Tg)の測定
JIS K7121:1987に従って、オレフィン系熱可塑性エラストマーの融解ピークのピーク温度および転移熱を測定し、前者を融点(Tm)とし、後者を融解エントロピー(ΔH)とした。詳しくは、セイコーインスツル社製の示差走査熱量計(Exter6000DSC)を用い、窒素下、−50℃から220℃まで、昇温速度10℃/分で、オレフィン系熱可塑性エラストマーの融解ピークのピーク温度および転移熱を測定した。また、転移熱は、DSC曲線が120℃である点と170℃である点とを結んだ直線をベースラインとして用いて算出した。また、このDSC測定にて、オレフィン系熱可塑性エラストマーのガラス転位温度も測定した。
【0043】
(3)オレフィン系熱可塑性エラストマーの曲げ弾性率の測定
JIS K7152−1:1999に従って射出成形法により作製した短冊試験片を用い、JIS K7171:2008に従って、試験速度5mm/分にてオレフィン系熱可塑性エラストマーの曲げ弾性率を測定した。
【0044】
(4)オレフィン系熱可塑性エラストマーのMFRの測定
JIS K7210:1999に従って、230℃、荷重2.16kgの条件で、オレフィン系熱可塑性エラストマーのMFRを測定した。
【0045】
(5)ヒートサイクル試験によるマンドレルの耐熱性の評価
製造したマンドレルの任意の位置から約200mmの試験片を3本採取し、ノギスを用いて加熱前の外径の最大値および最小値を測定した。その後、試験片をステンレスバットに乗せ、145℃に設定した熱風乾燥機中にて1時間加熱処理後、試験片をステンレスバットに乗せたまま常温中で1時間冷却し、ノギスを用いて試験片の中央部における外径寸法の最大値および最小値を求めた。これを5回繰り返し、寸法変化を測定した。
【0046】
実施例1
オレフィン系熱可塑性エラストマーとして、プライムポリマー社製「プライムTPO E−2900H」(メソペンダッド分率72mol%のプロピレン単独重合体)を用い、前述のマンドレルの製造方法に従って、設計寸法がφ24.5mm(公差±0.20mm)のマンドレルを製造した。得られたマンドレルから約200mmの試験片を採取し、ヒートサイクル試験を行った。用いたオレフィン系熱可塑性エラストマーの特性を表1に、ヒートサイクル試験の結果を表2に示す。
【0047】
実施例2
オレフィン系熱可塑性エラストマーとして、プライムポリマー社製「プライムTPO J−5710」(エチレン単位量1mol%のプロピレン−エチレン系ランダム共重合体)を用い、前述のマンドレルの製造方法に従って、設計寸法がφ24.5mm(公差±0.20mm)のマンドレルを製造した。得られたマンドレルから約200mmの試験片を採取し、ヒートサイクル試験を行った。用いたオレフィン系熱可塑性エラストマーの特性を表1に、ヒートサイクル試験の結果を表2に示す。
【0048】
実施例3
オレフィン系熱可塑性エラストマーとして、プライムポリマー社製「プライムTPO E−2740」(エチレン単位量4mol%のプロピレン−エチレン系ランダム共重合体)を用い、前述のマンドレルの製造方法に従って、設計寸法がφ24.5mm(公差±0.20mm)のマンドレルを製造した。得られたマンドレルから約200mmの試験片を採取し、ヒートサイクル試験を行った。用いたオレフィン系熱可塑性エラストマーの特性を表1に、ヒートサイクル試験の結果を表2に示す。
【0049】
実施例4
オレフィン系熱可塑性エラストマーとして、プライムポリマー社製「プライムTPO T310E」(エチレン単位量29mol%のプロピレン−エチレン系ブロック共重合体)を用い、前述のマンドレルの製造方法に従って、設計寸法がφ24.5mm(公差±0.2mm)のマンドレルを製造した。得られたマンドレルから約200mmの試験片を採取し、ヒートサイクル試験を行った。用いたオレフィン系熱可塑性エラストマーの特性を表1に、ヒートサイクル試験の結果を表2に示す。
【0050】
比較例1
オレフィン系熱可塑性エラストマー以外のオレフィン系熱可塑性エラストマーとして、プライムポリマー社製「プライムTPO R110MP」(エチレン単位量40mol%のプロピレン−エチレン系ブロック共重合体)を用い、前述のマンドレルの製造方法に従って、設計寸法がφ24.5mm(公差±0.20mm)のマンドレルを製造した。得られたマンドレルから約200mmの試験片を採取し、ヒートサイクル試験を行った。用いたオレフィン系熱可塑性エラストマーの特性を表1に示す。比較例1のマンドレルは、1回目のヒートサイクル試験で変形した。
【0051】
比較例2
ポリプロピレン系樹脂として、プライムポリマー社製「プライムポリプロJ−750HP」(プロピレン−エチレン系ブロック共重合体)を用い、前述のマンドレルの製造方法に従って、設計寸法がφ24.5mm(公差±0.20mm)のマンドレルを製造した。用いたポリプロピレン系樹脂の特性を表1に示す。比較例2のマンドレルは、硬すぎて、ドラムに巻き取ることができなかった。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【符号の説明】
【0054】
1 ロングランドダイ
2 マンドレル原料
3 冷却手段
4 マンドレル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン構造を含むオレフィン系熱可塑性エラストマーを含有するホース製造用マンドレルであり、
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーが、140℃以上の融点および20〜80J/gの融解エントロピー(ΔH)を有するホース製造用マンドレル。
【請求項2】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーが、α−オレフィン単位を1〜40mol%の量で含有するプロピレン−α−オレフィン共重合体(但し、α−オレフィンとしてプロピレンは除く)および60〜75mol%のメソペンダッド分率を有するプロピレン単独重合体の群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のホース製造用マンドレル。
【請求項3】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーが、50〜600MPaの曲げ弾性率を有する請求項1または2に記載のホース製造用マンドレル。
【請求項4】
外径が8〜40mmである請求項1〜3のいずれか一項に記載のホース製造用マンドレル。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−28076(P2013−28076A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165855(P2011−165855)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】