説明

ホーニング加工用装置

【課題】マシニングセンタを用いたホーニング加工を低コストで実施可能にする。
【解決手段】定量ホーニング用と定圧ホーニング用の2種類の砥石3A、3Bのいずれか一方を選択的に外周部から突出させ得るホーニング工具2を回転可能に保持し、回転しつつ回転軸方向に進退動可能な主軸4を有する工作機械の主軸4に装着され、主軸4の回転をホーニング工具2に伝達するホーニング加工用装置100であって、外部から空気が供給されることで空気圧が上昇する定量用空気室31と、定量用空気室31の空気圧を利用して定量ホーニング用砥石3Aをホーニング工具2の外周部から突出させるよう作動する定量拡張用部材11と、外部から空気が供給されることで空気圧が上昇する定圧用空気室14と、定量空気室14の空気圧を利用して定圧ホーニング用砥石3Bをホーニング工具2の外周部から突出させるよう作動する定圧拡張用部材12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに形成された円筒状の孔の内周面をホーニング加工する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークに形成された円筒状の孔、例えば内燃機関のシリンダブロックに形成されたシリンダ、の内周面のホーニング加工には、第1に、回転する砥石を一定圧力でワーク内面に接触させつつシリンダの軸方向に移動させて加工を行う定圧ホーニングがある。第2に、回転する砥石の軌跡の径(以下、砥石径という)を一定の速度で拡張させつつシリンダの軸方向に移動させて加工を行う定量ホーニングがある。そして、これら2種類のホーニング加工は、仕上げの段階に応じて使い分けられる。一般的には、定圧ホーニングは精密仕上げに、定量ホーニングは粗仕上げに用いられる。
【0003】
このように、回転する砥石をシリンダの軸方向に移動させるだけでなく、砥石径を拡張させる機能が必要となる。このため、ホーニング加工は、専用の機械で行うことが一般的であった。そして、ホーニング加工を行う場合には、予めマシニングセンタ等の工作機械により円筒状の下穴を形成したワークを、マシニングセンタ等から外してホーニング専用の機械に取り付ける必要があった。このように、ワークに円筒状のシリンダを形成するために複数の工作機械が必要とされていた。そこで、設備費用やワークの取付けに要する工数を削減するために、マシニングセンタを用いてホーニング加工を行うことが検討されてきた。
【0004】
マシニングセンタでホーニング加工を行うためには、砥石径を拡張する機能を付加する必要がある。例えば、マシニングセンタでの加工時に用いるクーラントを利用して、液圧により砥石径を拡張する手段が知られている。しかし、クーラントを利用して液圧を発生させるためには、専用の液圧回路や精密な液圧制御を行う外部液圧供給装置が必要となり、マシニングセンタに大がかりな改造を施さなければならない。このため、改造費が高価になってしまう。
【0005】
そこで、砥石径の拡張をサーボモータにより行う装置が特許文献1に開示されている。これによれば、液圧回路等を設けるための改造は必要なくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−216015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の装置のようにサーボモータを用いる場合には、サーボモータの動きを砥石径の拡張に変換するために、新たな軸を追加する必要がある。すなわち、特許文献1の装置でも、新たな軸を追加するという大規模な改造を施す必要がある。
【0008】
そこで本発明では、マシニングセンタを用いたホーニング加工を低コストで実施可能にするための装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のホーニング加工用装置は、定量ホーニング用の砥石と、定圧ホーニング用の砥石の2種類の砥石のいずれか一方を選択的に外周部から突出させ得るホーニング工具を回転可能に保持する。また、回転しつつ回転軸方向に進退動可能な主軸を有する工作機械の主軸に装着され、前記主軸の回転を前記ホーニング工具に伝達する。そして、外部から空気が供給されることで内部の空気圧が上昇する定量用空気室と、定量用空気室の空気圧を利用して定量ホーニング用砥石をホーニング工具の外周部から突出させるよう作動する定量拡張用部材を備える。さらに、外部から空気が供給されることで内部の空気圧が上昇する定圧用空気室と、定量空気室の空気圧を利用して定圧ホーニング用砥石をホーニング工具の外周部から突出させるよう作動する定圧拡張用部材とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外部から供給される空気を定量用空気室または定圧用空気室のいずれに供給するかによって、定量拡張用部材または定圧拡張用部材を選択的に作動させることができる。そして、定量拡張用部材または定圧拡張用部材を選択的に作動させるために外部から供給する必要があるのは空気だけである。したがって、空気の供給源を加工機械の周辺に設置し、そこから空気を供給するための配管を接続するだけでよい。このため、加工機械にほとんど改造を施す必要が無く、低コストでマシニングセンタ等の汎用加工機械を用いたホーニング加工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る拡張ユニットの使用状態を示す図である。
【図2】拡張ユニットの定量ホーニング時の状態を示す構成図である。
【図3】ホーニング工具を先端側から見た図である。
【図4】拡張ユニットの定圧ホーニング時の状態を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る拡張ユニット100の使用状態を示す図である。拡張ユニット100は、マシニングセンタの主軸4に対して回転しない固定部100Aと、主軸4の回転軸4Aを軸として回転する回転部100Bとを有する。拡張ユニット100は、回転部100Bのテーパ部1が主軸4のテーパ穴6に固定される。ここでの固定方法は、一般的なマシニングセンタが工具を固定する方法と同様である。
【0014】
また、固定部100Aのピン101が、マシニングセンタの非回転部である主軸カバー5に係合する。例えば、主軸カバー5にピン101の一部が係合するボスを設ける。なお、マシニングセンタ側に一切の改造を施さず、ピン101をマシニングセンタのいずれかの非回転部分に係合するような形状にしてもよい。
【0015】
ホーニング工具2は、一端に後述する粗仕上げ用砥石3A及び精密仕上げ用砥石3Bを備え、他端が拡張ユニット100に固定される。具体的には、後述する図2における拡張ユニット100のシリンダ10に固定される。なお、以下の説明において、砥石を備える方の端部を先端、拡張ユニット100に固定される側の端部を基端とする。ホーニング工具2は、ホーニング加工の段階に応じて、2種類の砥石のいずれかを選択的に使用することができる。
【0016】
上記のような構成により、主軸4が回転すると回転部100B及びホーニング工具2が回転する。なお、このとき固定部100Aは回転しない。
【0017】
また、固定部100Aには、後述する空気配管27、45が接続されている。
【0018】
図2は、拡張ユニット100の構成を説明するための図であり、定量ホーニング時の状態を示している。なお、図中の破線は、拡張ユニット100の物理的な形状を示すものではなく、拡張ユニット100に含まれる構成とそれ以外の構成とを区別するためのものである。
【0019】
拡張ユニット100は、マシニングセンタの主軸4とホーニング工具2の間に設置し、外部からの空気圧供給によって、定圧ホーニングと定量ホーニングを切り替えて実行することができる。定圧ホーニングとは、一定圧力で砥石をワーク内面に押圧させながら行うホーニング加工である。一方、定量ホーニングとは、一定速度で砥石を工具の半径方向外側に送りながら行うホーニング加工である。ここでは、下穴を空けた後に、定量ホーニングで粗仕上げを行い、その後、定圧ホーニングで精密仕上げを行う。
【0020】
図2に示すように、固定部100Aには、空気配管27、45が接続されている。空気配管27はソレノイドバルブ50を介してIN配管52またはOUT配管53のいずれかと連通する。空気配管45も同様に、ソレノイドバルブ51を介してIN配管54またはOUT配管55のいずれかと連通する。なお、IN配管52及びIN配管54はいずれも図示しないコンプレッサに接続されている。このコンプレッサは一定の空気圧で空気を供給するものである。また、OUT配管53及びOUT配管55はいずれも大気解放されている。
【0021】
空気配管27は、固定部100A内で分岐し、一方の空気配管27Aは空気ポンプ20に接続されている。他方の空気配管27Bはオイルタンク30に接続されている。
【0022】
空気ポンプ20は、シリンダ22内に摺動可能に収められたピストン21と、ピストン21をシリンダ22の容積が小さくなる方向へ押圧するバネ23とを備える。また、ピストン21はシリンダ22と同径の空圧側ピストン部21Bとシリンダ22と反対方向に突出する油圧側ピストン部21Aを有する。油圧側ピストン部21Aは第1オイル配管24内に摺動可能に収められる。第1オイル配管24は、シリンダ10のオイル室10Aに接続されている。すなわち、空気ポンプ20は空気圧を油圧に変換する機能を有する。また、第1オイル配管24には、空気ポンプ20からシリンダ10方向の流れのみを許容するチェックバルブ25が介装されている。
【0023】
ピストン21は、図2から明らかなように、構造上そのストロークが制限される。ここでは、シリンダ22の容積が最小となるときの位置を上死点、最大となるときの位置を下死点とする。油圧側ピストン部21Aのチェックバルブ25側の端部は、ピストン21が上死点にあるときには、第2オイル配管26との合流部より空気ポンプ20側に位置し、ピストン21が下死点にあるときには、油圧漸増用エリア24Aに位置する。なお、油圧漸増用エリア24Aは、第1オイル配管24の、第2オイル配管26との合流部直下からチェックバルブ25までの空間である。
【0024】
このような構造により、ピストン21が1ストロークしたときにオイル室10Aに送り込まれるオイル量は一定になる。
【0025】
オイルタンク30は、内部に摺動可能に収められたオイルピストン32を備える。オイルタンク30内の、オイルピストン32に対して空気配管27Bとの接続部と反対側の空間はオイルが充填されたオイル室33、同じく空気配管27Bとの接続部側の空間は空気室31となっている。また、空気室31には、オイルピストン32をオイル室33側に押圧するバネ34を備える。オイル室33には第2オイル配管26、第3オイル配管35、及び第4オイル配管43が接続されている。したがって、空気室31内の圧力が上昇すると、オイルピストン32がオイル室33側に押圧されて、オイル室33内の圧力も上昇する。すなわち、オイルタンク30は、空気圧を油圧に変換する機能を有する。
【0026】
第2オイル配管26は第1オイル配管24のチェックバルブ25と空気ポンプ20との間に接続されている。
【0027】
第3オイル配管35は、シリンダ10のオイル室10Aに接続されており、チェックバルブ36が介装されている。チェックバルブ36は、オイルタンク30からシリンダ10方向の流れのみを許容する。つまりチェックバルブ36は、IN配管52から入力されてオイルタンク30で変換された圧力よりシリンダ10側の圧力の方が低いときに開く。
【0028】
第4オイル配管43は、シリンダ10のオイル室10Aに接続されており、シリンダ10からオイルタンク30方向への流れのみを許容するチェックバルブ44が介装されている。また、第4オイル配管43のオイルタンク30とチェックバルブ44の間には、切り替え弁40が介装されている。切り替え弁40は、第4オイル配管43の流路方向に対して直交する向きに進退動するピストン41を備える。ピストン41は、第4オイル配管43の流路を遮断するロッド部41Bと、ロッド部41Bを第4オイル配管43の流路と同方向に貫通する貫通孔41Aとを備える。切り替え弁40は、初期状態ではバネ42の弾性力によって、ロッド部41Bが第4オイル配管43の流路を遮断した状態に維持される。また、後述するように空気圧が供給することによって、貫通孔41Aが第4オイル配管43の位置になるまで、ピストン41をバネ42の弾性力に抗して移動させることで、オイルタンク30とシリンダ10のオイル室10Aが連通した状態になる。
【0029】
空気配管45は、後述するシリンダ10の空気室14に接続されている。また、その一部は分岐して、切り替え弁40に接続される切り替え弁用配管46となっている。
【0030】
また、図2ではソレノイドバルブ50及びソレノイドバルブ51が拡張ユニット100の外部にあるが、両ソレノイドバルブ50、51を拡張ユニット100に収納し、拡張ユニット100にIN配管52、OUT配管53、IN配管54、及びOUT配管55を接続するようにしてもよい。
【0031】
次に、回転部100Bについて説明する。回転部100Bは、シリンダ10と、シリンダ10の一端に設けられたテーパ部1とを備える。シリンダ10の内部には、定量拡張用ロッド11と、定圧拡張用ロッド12とが摺動可能に収められている。定量拡張用ロッド11と定圧拡張用ロッド12は、後述するように直接または間接的に砥石を径方向外側に移動させるためのものである。
【0032】
定量拡張用ロッド11及び定圧拡張用ロッド12は、それぞれピストン部11A、12Aとロッド部11B、12Bを備える。定圧拡張用ロッド12のピストン部12A及びロッド部12Bは、中心部に貫通孔を有し、この貫通孔を定量拡張用ロッド11のロッド部11Bが貫通している。
【0033】
シリンダ10内部の、定量拡張用ロッド11のピストン部11Aよりテーパ部1側に画成される領域はオイル室10Aである。オイル室10Aには、第1オイル配管24、第3オイル配管35及び第4オイル配管43が接続されている。なお、図2における各配管の接続位置は便宜上のものであり、これに限られるわけではない。後述する図4についても同様である。
【0034】
また、定圧拡張用ロッド12のピストン部12Aと定量拡張用ロッド11のピストン部11Aの間に形成される空気室14には、両者が離れる方向に弾性力を付勢するバネ13が配置されている。
【0035】
ピストン部12Aのバネ13と反対側には、定圧拡張用ロッド12に対して基端方向に弾性力を付勢するバネ15が配置されている。定圧拡張用ロッド12の基端側には、定圧拡張用ロッド12の基端側への移動を制限するストッパー16が設けられている。
【0036】
なお、バネ15の弾性係数は、バネ13の弾性係数より大きい。
【0037】
第1オイル配管24、第3オイル配管35及び第4オイル配管43から、回転するシリンダ10のオイル室10Aへのオイルの供給、及び空気配管45から回転するシリンダ10内の空気室14への空気の供給は、公知の構成により実現すればよい。例えば、次のような公知の構成を適用し得る。
【0038】
固定部100Aにシリンダ10の外周を囲むように形成された筒状部200の内周面に、各配管24、35、43、45が開口している。また、筒状部200内周面の各配管24、35、43、45の開口部分には、環状溝201−204が形成されている。一方、シリンダ10には、各配管24、35、43、45に対応する軸方向位置に、シリンダ10の外周面から内周面まで貫通する貫通孔205−208を設ける。この構成により、筒状部200に対してシリンダ10が回転しても、各配管24、35、43、45とシリンダ10のオイル室10Aまたは空気室14とは、環状溝201−204を介して常時連通する。
【0039】
図3は、ホーニング工具2を先端側から見た図である。ホーニング工具2の先端側には複数のスリット2Aが放射状に設けられている。なお、本実施形態では、スリット2Aは6箇所に設けられている。そして、各スリット2Aには、砥石ホルダ3C、3Dが半径方向に進退可能に、かつ、砥石ホルダ3Cと砥石ホルダ3Dが周方向に交互に並ぶよう収容されている。砥石ホルダ3Cには粗仕上げ用砥石3Aが、砥石ホルダ3Dには精密仕上げ用砥石3Bがそれぞれ取り付けられている。粗仕上げ用砥石3Aは定量ホーニングに用い、精密仕上げ用砥石3Bは定圧ホーニングに用いる。
【0040】
粗仕上げ用砥石3Aと精密仕上げ用砥石3Bは、加工に使用する方が径方向外側に移動してホーニング工具2の外周から突出し、加工に使用しない方はホーニング工具2の外周より内側に収まっている。このような粗仕上げ用砥石3Aや精密仕上げ用砥石3Bを径方向外側に移動させることを、拡張という。この拡張によって、ホーニング工具2が回転した場合の砥石の軌跡の径が大きくなる。
【0041】
ホーニング工具2は、1つのホーニング工具2に2種類の砥石3A、3Bを設け、いずれかを選択的に拡張し得るものである。そのための構成は、公知のものを適用することができる。例えば、次のような構成である。
【0042】
砥石ホルダ3C、3Dの内周側の端面が、それぞれ専用の部材と当接する。そして、これらの専用部材は直線カムとしての機能を有しており、専用部材が回転軸4Aに沿って先端方向に移動すると、砥石ホルダ3C、3Dは径方向外側に移動する。逆に、専用部材が基端側に移動すると、砥石ホルダ3C、3Dは径方向内側へ移動する。なお、砥石ホルダ3C、3Dの径方向内側への移動を補助するための弾性部材を設けてもよい。
【0043】
そして、粗仕上げ用砥石3Aを拡張するための専用部材と、精密仕上げ用砥石3Bを拡張するための専用部材が同軸状に配置されており、いずれか一方の専用部材を選択的に先端方向へ押圧することが可能である。
【0044】
本実施形態では、粗仕上げ用砥石3Aを拡張する為の専用部材は、拡張ユニット100の定量拡張用ロッド11に、精密仕上げ用砥石3Bを拡張するための専用部材は拡張ユニット100の定圧拡張用ロッド12に、それぞれ押圧されるものとする。このような構成により、粗仕上げ用砥石3Aまたは精密仕上げ用砥石3Bのいずれかを選択的に拡張することができる。
【0045】
なお、定量拡張用ロッド11は、粗仕上げ用砥石3Aを拡張していない状態、つまり粗仕上げ用砥石3Aがホーニング工具2の外周より内側に有る状態における軸方向位置より基端側への移動が制限されている。例えば、図2に示すように、シリンダ10内の定量拡張用ロッド11が摺動する部位と油室10Aとの間に段差を設けることで制限する。
【0046】
次に、上述したような構成の拡張ユニット100を用いた定量ホーニング、及び定圧ホーニングについて図2、図4を参照して説明する。
【0047】
まず、定量ホーニングについて図2を参照して説明する。ホーニング工具2をワークのシリンダ穴に挿入したら、ソレノイドバルブ50をIN配管52と空気配管27が連通する状態に切り替えて、図示しないコンプレッサにより空気を供給する。このとき、ソレノイドバルブ51は、OUT配管55と空気配管45が連通する状態に切り替える。また、切り替え弁40で第4オイル配管43を遮断した状態とする。これにより、空気ポンプ20のシリンダ22に空気が供給されて、ピストン21にバネ23の弾性力に抗する方向の空気圧が作用する。また、オイルタンク30の空気室31にも空気が供給されて、オイルピストン32にバネ34の弾性力に抗する方向の空気圧が作用する。したがって、オイルタンク30のオイル室33内のオイルが、第2オイル配管26及び第3オイル配管35に流出する。
【0048】
第2オイル配管26を流れたオイルは、第1オイル配管24のチェックバルブ25とピストン21の間の空間に流入し、チェックバルブ25を通過してシリンダ10のオイル室10Aに流入する。
【0049】
第3オイル配管35を流れたオイルは、チェックバルブ36を通過してシリンダ10のオイル室10Aに流入する。オイルが流入することでオイル室10A内の圧力が高まると、定量拡張用ロッド11が先端方向へ移動する。そして、定量拡張用ロッド11の先端部が、後述する粗仕上げ用砥石3Aを拡張するための部材を、粗仕上げ用砥石3Aがワークに当接するまで押す。
【0050】
なお、定量拡張用ロッド11が先端方向へ移動すると、バネ15より弾性係数の低いバネ13が縮むだけで、定圧拡張用ロッド12はバネ15によりストッパー16に押し付けられたまま移動しない。つまり、定圧拡張用ロッド12を押圧する力はバネ13に吸収され、精密仕上げ用砥石3Bはスリット2A内に収まったままである。
【0051】
粗仕上げ用砥石3Aがワークに当接するまでオイル室10Aにオイルが流入したら、その後は、ソレノイドバルブ50を介した空気供給を間欠的に定量ずつ行う。一回当たりの空気供給量は、ピストン21を上死点から下死点までストロークさせる量とする。
【0052】
このとき、オイル室10A内の油圧が高まっているため、第3オイル配管35からオイル室10Aへのオイルの流入はない。一方、第2オイル配管26から油圧漸増用エリア24Aへ送り込まれたオイルは、ピストン21によってチェックバルブ25を介してオイル室10Aへ送り込まれる。上述したように、ピストン21が1ストロークしたときにオイル室10Aへ送り込まれるオイル量は一定である。具体的には、図2に示すように、油圧漸増用エリア24Aにあるオイル量となる。また、一回の空気供給でピストン21は1ストロークする。そして、空気供給を停止してピストン21を上死点に戻し、再び空気供給すれば、オイルタンク30から油圧漸増用エリア24Aへオイルが供給される。
【0053】
このように、空気を供給する度にオイル室10Aへ一定量のオイルが供給され、粗仕上げ用砥石3Aが一定量ずつ拡張する。したがって、空気供給回数に基づいて粗仕上げ用砥石3Aの拡張量を制御することができる。
【0054】
図2の構成では、直接の制御対象は圧縮媒体である空気であるが、空気圧を油圧に変換する機能を有する空気ポンプ20及びオイルタンク30を用いることにより、非圧縮媒体であるオイルを定量ずつ送り出すことが可能となっている。その結果、粗仕上げ用砥石3Aを定量ずつ拡張して行う定量ホーニングの実施が可能となっている。
【0055】
なお、第3オイル配管35を備え、粗仕上げ用砥石3Aがワークに当接するまでは第1オイル配管24と第3オイル配管35の両方からオイル室10Aへオイルを供給するので、定量ホーニング開始までの時間を短縮することができる。より短縮するために、粗仕上げ用砥石3Aがワークに当接するまでは、コンプレッサからの空気供給量は多い方が望ましい。
【0056】
次に図4を参照して定圧ホーニングについて説明する。図4は図2と同様に拡張ユニット100について示した図である。定圧ホーニングは定量ホーニングの終了後に行う。
【0057】
定量ホーニングが終了したら、ソレノイドバルブ50を空気配管27とOUT配管53が連通する状態に切り替える。また、ソレノイドバルブ51を空気配管45とIN配管54とが連通する状態に切り替える。これにより、切り替え弁40が空気圧によってバネ42の弾性力に抗して移動する。そして、貫通孔41Aが第4オイル配管43の位置まで移動して第4オイル配管43の遮断が解除される。
【0058】
OUT配管53と空気配管27が連通しているので、オイルタンク30の空気室31内の圧力は大気圧まで低下する。また、空気配管45から空気が供給されることで空気室14内の圧力が高まる。したがって、第4オイル配管43の遮断が解除されると、定量ホーニング時に圧力が印加されていたオイル室10Aのオイルが、チェックバルブ44を介してオイルタンク30に戻り、定量拡張用ロッド11が基端側へ移動する。
【0059】
なお、チェックバルブ44の開閉圧は、例えば、シリンダ10側とオイルタンク30側がいずれも大気圧になったら閉じ、オイルタンク30側が大気圧でシリンダ10側が大気圧を超えた場合に開くように設定する。
【0060】
定量拡張用ロッド11の基端側への移動が制限された後も空気配管45からの空気の供給を続けると、空気室14内の圧力がさらに高まり、定圧拡張用ロッド12がバネ15の弾性力に抗して先端方向に押圧される。これにより、精密仕上げ用砥石3Bが拡張する。
【0061】
精密仕上げ用砥石3Bが拡張した後に空気室14内の圧力を一定に保持した状態でホーニング加工を行うと、精密仕上げ用砥石3Bは一定圧力でワークに押し付けられることになるので、定圧ホーニングとなる。
【0062】
なお、上記説明では、拡張ユニット100がマシニングセンタに装着した状態で回転しない固定部100Aと、マシニングセンタの主軸と共に回転する回転部100Bとを含んで構成される場合について説明したが、これに限られるわけではない。例えば、上述した固定部100Aの構成が回転部100Bと一体に回転する構成であってもよい。この場合、空気配管27、45の接続部が、上述した環状溝201−203、貫通孔204−206、及び貫通孔207−209と同様の構造となる。
【0063】
以上説明した本実施形態の効果をまとめると、次のようになる。
【0064】
(1)外部から空気が供給されることで内部の空気圧が上昇する空気室31と、空気室31の空気圧を利用して粗仕上げ用砥石3Aをホーニング工具2の外周部から突出させるよう作動する定量拡張用ロッド11を備える。また、外部から空気が供給されることで内部の空気圧が上昇する空気室14と、空気室14の空気圧を利用して精密仕上げ用砥石3Bをホーニング工具2の外周部から突出させるよう作動する定圧拡張用ロッド12を備える。したがって、外部から供給される空気を空気室31または空気室14のいずれに供給するかによって、定量拡張用ロッド11または定圧拡張用ロッド12を選択的に作動させることができる。すなわち、空気の供給先を変更するだけで、ホーニング工具を交換することなく、マシニングセンタによる定量ホーニングと定圧ホーニングを連続して行うことができる。
【0065】
また、外部から供給するのは空気だけなので、空気の供給源をマシニングセンタの周辺に設置し、空気配管で拡張ユニット100と空気の供給源とを接続すれば足りる。したがって、拡張ユニット100を使用するにあたり、マシニングセンタにはほとんど改造を施す必要が無い。また、供給する空気を制御するだけで、粗仕上げから精密仕上げまでの一連の加工を、連続して行うことができる。なお、下穴を設けるボーリング加工からホーニング加工へ移行する際には、マシニングセンタのオートツールチェンジ機構によって拡張ユニット100を主軸4に装着することができる。
【0066】
(2)オイルタンク30に空気を供給すると、オイルタンク30からオイル室10Aにオイルが送られてオイル室10A内の油圧が上昇し、定量拡張用ロッド11が上昇した油圧に押圧されて作動する。すなわち、拡張ユニット100の外部からオイルを供給することなく、油圧を利用した定量ホーニングが可能となる。また、拡張ユニット100の外部からオイルを供給するための構成が不要なので、オイル供給用の大がかりな改造も不要となる。
【0067】
(3)空気ポンプ20に一定量の空気を周期的に供給することで、オイル室10Aの油圧を一定量ずつ上昇させることができるので、定量ホーニング時に、粗仕上げ用砥石3Aを一定量ずつ拡張することができる。
【0068】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。例えば、拡張ユニット100の空気圧を油圧に変換する構成を設けずに、定量拡張用ロッド11をシリンダ10内に空気を供給することで先端側へ移動させるようにしてもよい。この場合、シリンダ10内の圧力をより高圧にすることで、定量ホーニングが可能となる。
【0069】
また、定量拡張用ロッド11及び定圧拡張用ロッド12が砥石ホルダ3C、3Dをそれぞれ直接作動するようにホーニング工具2を構成してもよい。
【0070】
さらに、上記説明ではマシニングセンタを使用する場合について説明したが、工具を保持する主軸を、回転させながら進退動させる機能を有する加工機械であれば、同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 テーパ部
2 ホーニング工具
3A 粗仕上げ用砥石
3B 精密仕上げ用砥石
4 主軸
5 主軸カバー
6 テーパ穴
10 シリンダ(シリンダ部材)
11 定量拡張用ロッド(定量拡張用部材)
12 定圧拡張用ロッド(定圧拡張用部材)
14 空気室(定圧用空気室)
20 空気ポンプ(油圧漸増用シリンダ部材)
21 ピストン(油圧漸増用ピストン)
21A 油圧側ピストン部
21B 空圧側ピストン部(ロッド部材)
22 シリンダ(油圧漸増用空気室)
24 第1オイル配管(漸増用油圧配管)
24A 油圧漸増用エリア
26 第2オイル配管(漸増用オイル供給配管)
30 オイルタンク
31 空気室(定量用空気室)
35 第3オイル配管
40 切り替え弁
43 第4オイル配管
50 ソレノイドバルブ
51 ソレノイドバルブ
100 拡張ユニット
100A 固定部
100B 回転部
200 筒状部
201−204 環状溝
205−208 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する砥石の軌跡の径を一定量ずつ拡張させつつ加工を行う定量ホーニング用の砥石と、回転する砥石を一定圧力でワーク内面に接触させつつ加工を行う定圧ホーニング用の砥石の2種類の砥石のいずれか一方を選択的に外周部から突出させ得るホーニング工具を回転可能に保持し、回転しつつ回転軸方向に進退動可能な主軸を有する工作機械の主軸に装着され、前記主軸の回転を前記ホーニング工具に伝達するホーニング加工用装置において、
外部から空気が供給されることで内部の空気圧が上昇する定量用空気室と、
前記定量用空気室の空気圧を利用して前記定量ホーニング用砥石を前記ホーニング工具の外周部から突出させるよう作動する定量拡張用部材と、
外部から空気が供給されることで内部の空気圧が上昇する定圧用空気室と、
前記定圧用空気室の空気圧を利用して前記定圧ホーニング用砥石を前記ホーニング工具の外周部から突出させるよう作動する定圧拡張用部材と、
を備えることを特徴とするホーニング加工用装置。
【請求項2】
摺動可能に収められたオイルピストンによって内部が前記定量用空気室とオイルが充満するオイル室とに分けられたオイルタンクと、
前記定量拡張用部材が摺動可能に収められ、前記定量拡張用部材と内壁で油圧室を画成するシリンダ部材と、
前記オイルタンクと前記油圧室とを連通するオイル配管と、
を備え、
前記定量用空気室に空気を供給すると、上昇した空気圧により前記オイルピストンが押圧されることによって前記オイル室から前記油圧室にオイルが送られて前記油圧室内の油圧が上昇し、前記定量拡張用部材が上昇した油圧に押圧されて作動する請求項1に記載のホーニング加工用装置。
【請求項3】
内部に油圧漸増用ピストンが摺動可能に収められ、前記油圧漸増用ピストンと内壁で油圧漸増用空気室を画成する油圧漸増用シリンダ部材と、
前記油圧漸増用ピストンの前記油圧漸増用空気室とは反対側に突出するロッド部材と、
前記ロッド部材が摺動可能に収まり前記油圧室に接続される漸増用油圧配管と、
前記漸増用油圧配管に介装されたチェックバルブと、
前記オイルタンクの前記オイル室と前記漸増用油圧配管の前記チェックバルブと前記ロッド部材との間とを連通する漸増用オイル供給配管と、
をさらに備え、
前記油圧漸増用空気室に一定量の空気を周期的に供給することで、前記漸増用オイル供給配管を介して前記オイルタンクから前記漸増用油圧配管に供給されたオイルを一定量ずつ前記油圧室に供給し、前記定量拡張用部材を一定量ずつ作動させることができる請求項2に記載のホーニング用加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−75334(P2013−75334A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214979(P2011−214979)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000102865)エヌティーエンジニアリング株式会社 (13)
【Fターム(参考)】