説明

ホールブロック層の製造方法、ホールブロック層、光電変換素子、光電変換装置、有機薄膜太陽電池パネル、および発光装置

【課題】高い光電変換効率など基本特性に優れつつ、基材が樹脂系材料を含む場合であっても適用可能なホールブロック層の製造方法を提供する。
【解決手段】 ビス(アセチルアセトナト)亜鉛を含む亜鉛源、アセチルアセトンを含む錯化剤、および極性溶媒を含有する液状組成物と前記ホールブロック層を形成すべき部材の表面とを接触させて、当該ホールブロック層を形成すべき部材の表面上に前記液状組成物からなる液層を形成する液層形成工程と、前記液層形成工程により形成された前記液層を加熱して、前記錯化剤および前記極性溶媒を前記液層から蒸発させて、前記ホールブロック層を形成すべき部材の表面上に酸化亜鉛を含んでなるホールブロック層を形成する乾燥工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体層と電極との間に配置され、これらの間の電気伝導がホールによって担われることを抑制するホールブロック層の製造方法、ホールブロック層、光電変換素子、光電変換装置、有機薄膜太陽電池パネル、および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在主流のシリコン系太陽電池は高い光電変換効率を誇るが、資源量、製作時の二酸化炭素の排出、コスト等の面から環境負荷が大きい。そこで、クリーンで資源の制約の少ない太陽電池として、有機半導体材料を用いた光電変換素子、特に、仕事関数の異なる電極で有機半導体をはさんだ構造のいわゆる有機薄膜太陽電池の研究が世界的になされている。
【0003】
2005年にHeegerらは、ITO/PEDOT:PSS/P3HT:PCBMブレンド膜/Al型のセル(以下、「ノーマル型太陽電池」とも記す。)を製作し、光電変換
効率(PCE)5%を達成している(非特許文献1)。
ここで、「ITO」とは酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide)である。
【0004】
「PEDOT:PSS」とは、ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)とからなる高分子化合物であり、下記の構造を有する。
【0005】
【化1】

【0006】
「P3HT:PCBMブレンド膜」とは、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)と[6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル(PCBM)との混合物からなる膜状体であり、構成物質のそれぞれは次の構造を有する。
【0007】
【化2】

【0008】
現在報告されている有機薄膜太陽電池の光電変換効率の最高値は、2010年にLuping Yuらが製作したPTB7:PC70BMブレンド膜を用いたシングル型のセルで7.4%である(非特許文献2)。
【0009】
ここで、有機薄膜太陽電池においては、光照射により有機半導体内に発生した正負双方のキャリアを各電極に効率的に輸送することが光電変換素子としての性能向上に特に重要である。
【0010】
例えば、上記のノーマル型太陽電池においては、PEDOT:PSSからなるホール輸送層がホール輸送効率を高めていると期待されている。
【0011】
本発明者らは、電子の輸送効率を高める観点から、ホールブロック層として機能する酸化物半導体をアノード電極と有機半導体層との間に存在させる技術を提案してきている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−319705号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Wanli Ma, Cuiying Yang, Xiong Gong, Kwaghee Lee, Alan J. Heeger, Adv. Funct. Mater. 15, 1617-1622 (2005).
【非特許文献2】Yongye Liang, Zheng Xu, Jiangbin Xia, Szu-Ting Tsai, Yue Wu, Gang Li, Claire Ray, Luping Yu, Adv. Mater., 2010, 22, E135-E138.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記のように、キャリア輸送効率を高める中間層を電極と有機半導体との間に介在させることにより有機薄膜太陽電池型の光電変換素子の特性を向上させることは可能である。しかしながら、この中間層の組成や構造については、さらなる改善が求められている。
【0015】
また、他の構造の光電変換素子に対する優位性を確保するためには、光電変換効率を高めることのみでは不十分であって、高い光電変換効率を有しつつ、生産性や品質安定性も高い素子が必要である。しかしながら、有機薄膜太陽電池型の光電変換素子の開発はいまだ光電変換効率の向上のみが重視され、生産技術的な観点での技術開発は重視されていない。
【0016】
有機半導体を用いる光電変換素子は有機半導体からなる層が可撓性を有するため、光電変換素子を支持する基板の素材として同じように可撓性を有する樹脂系材料を用いて可撓性を有する光電変換装置を形成することが、有機半導体を用いる光電変換素子に係る技術の最終目的の一つとなっているが、現実には、基板の素材を樹脂系材料にすると生産プロセスにおける温度制限が極めて厳しくなるため、可撓性を有する光電変換装置を実現することは容易でない。
【0017】
本発明は、かかる現状を鑑み、高い光電変換効率など基本特性に優れつつ、基板が樹脂系材料を含む場合であっても適用可能なホールブロック層およびその製造方法、ならびにこのホールブロック層を有する光電変換素子を備える光電変換装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために提供される本発明は次のとおりである。
(1)有機半導体層およびこれに電気的に接続される電極を備える光電変換素子における前記有機半導体層と前記電極との間に配置されて、該有機半導体層と該電極との間の電気伝導がホールによって担われることを抑制するホールブロック層の製造方法であって、ビス(アセチルアセトナト)亜鉛を含む亜鉛源、アセチルアセトンを含む錯化剤、および極性溶媒を含有する液状組成物と前記ホールブロック層を形成すべき部材の表面とを接触させて、当該ホールブロック層を形成すべき部材の表面上に前記液状組成物からなる液層を形成する液層形成工程と、前記液層形成工程により形成された前記液層を加熱して、前記錯化剤および前記極性溶媒を前記液層から蒸発させて、前記ホールブロック層を形成すべき部材の表面上に酸化亜鉛を含んでなるホールブロック層を形成する乾燥工程を備えることを特徴とするホールブロック層の製造方法。
【0019】
(2)前記極性溶媒がアルコールを含む、上記(1)記載のホールブロック層の製造方法。
【0020】
(3)前記極性溶媒の1気圧における沸点Tb1が120℃以上160℃以下である、上記(1)または(2)記載のホールブロック層の製造方法。
【0021】
(4)前記ホールブロック層を形成すべき部材が、前記乾燥工程において前記液層に与えられる加熱温度よりも高い温度のガラス転移点温度を有する樹脂系材料からなる樹脂系部材を備える上記(1)から(3)のいずれかに記載のホールブロック層の製造方法。
【0022】
(5)前記樹脂系部材がポリエチレンテレフタレートである上記(4)記載のホールブロック層の製造方法。
【0023】
(6)前記乾燥工程の加熱温度が100℃以下である上記(1)から(5)のいずれかに記載のホールブロック層の製造方法。
【0024】
(7)有機半導体層およびこれに電気的に接続される電極を備える光電変換素子における前記有機半導体層と前記電極との間に配置されて、該有機半導体層と該電極との間の電気伝導がホールによって担われることを抑制するホールブロック層であって、上記(1)から(6)のいずれかに記載される製造方法により製造されたものであることを特徴とするホールブロック層。
【0025】
(8)前記ホールブロック層の厚さが5nm以上200nm以下である上記(7)記載のホールブロック層。
【0026】
(9)前記ホールブロック層の表面粗さがRaで5nm以下である上記(8)記載のホールブロック層。
【0027】
(10)第1の集電極層、上記(7)から(9)のいずれかに記載されるホールブロック層、有機半導体層および第2の集電極層がこの順で配置された積層体を備えることを特徴とする光電変換素子。
【0028】
(11)前記第1の集電極層が光透過性を有する上記(10)記載の光電変換素子。
【0029】
(12)前記有機半導体層と前記第2の集電極層との間の電荷移動がホールにより担われることを促進するホール輸送層を、前記有機半導体層と前記第2の集電極層との間に備える上記(10)または(11)記載の光電変換素子。
【0030】
(13)上記(10)から(12)のいずれかに記載される光電変換素子と、当該光電変換素子の第1または第2の集電極層と接するように配置された光透過性の基板とを備える光電変換装置。
光透過性の基板が第1の集電極層と接するように配置された場合には、前述の「ホールブロック層を形成すべき部材」は、一例として、光透過性の基板と第1の集電極層とからなる部材となる。
【0031】
(14)前記基板は、樹脂系材料からなる樹脂系部材を備え、前記光電変換素子の第1の集電極層と接するように配置される上記(13)記載の光電変換装置。
【0032】
(15)前記樹脂系材料はポリエチレンテレフタレートである上記(14)記載の光電変換装置。
【0033】
(16)上記(13)から(15)のいずれかに記載される光電変換装置、および当該光電変換装置を収容する筐体を備える有機薄膜太陽電池パネル。
【0034】
(17)上記(13)から(15)のいずれかに記載される光電変換装置を備え、当該光電変換装置が備える光電変換素子が発光素子である発光装置。
【発明の効果】
【0035】
本発明のホールブロック層は、ホールブロック性に優れるとともに光透過性を有する。しかも、ホールブロック層が形成されるべき部材の素材がポリエチレンテレフタレートのようなガラス転移点が比較的低い材料であっても、膜厚の均一性に優れるホールブロック層を容易に得ることができる。このため、ホールブロック層の機能が安定し、本発明のホールブロック層を備える光電変換素子は安定した光電変換性能を有する。
【0036】
また、かかる本発明の光電変換素子は樹脂系部材を備える基板上に形成することができるため、そのような構成の光電変換装置は、優れた可撓性を有する。
【0037】
さらに、本発明のホールブロック層の製造方法は特別な雰囲気制御を必要としないため、バッチあたりの面積を増やしたり、連続的な製造をしたりすることも可能であり、生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1に係る酸化亜鉛付基板のSPM測定結果を示す画像である。
【図2】実施例1に係る太陽電池パネルの電流―電圧特性の評価結果を示すグラフである。
【図3】実施例2に係る酸化亜鉛付基板のSPM測定結果を示す画像である。
【図4】実施例2に係る太陽電池パネルの電流―電圧特性の評価結果を示すグラフである。
【図5】比較例3に係る酸化亜鉛付基板のSPM測定結果を示す画像である。
【図6】比較例3に係る太陽電池パネルの電流―電圧特性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係るホールブロック層、およびこのホールブロック層を備える素子や装置について詳細に説明する。
1.ホールブロック層
本発明において、ホールブロック層とは、有機半導体層およびこれに電気的に接続される電極を備える素子における有機半導体層と電極との間に配置されて、有機半導体層と電極との間の電気伝導がホールによって担われることを抑制するものをいい、ホールブロック層によるホールの通過を抑制する特性をホールブロック性という。
【0040】
本発明に係るホールブロック層は酸化亜鉛を含み、好適態様においては実質的に酸化亜鉛からなる。以下、この本発明に係る、酸化亜鉛を含んでなるホールブロック層を「酸化亜鉛層」という。ここで、「実質的」とは、本発明に係るホールブロック層が、その製造上の理由により酸化亜鉛以外に溶媒成分などからなる不純物を若干量不可避的に含有することを意味する。
【0041】
本発明に係る酸化亜鉛層はホールブロック性に優れるため、この酸化亜鉛層を挟むように配置される有機半導体層と電極との間の電荷輸送は電子によって優先的に行われ、有機半導体層とこの電極との間をホールが移動することが効率的に抑制される。このため、このホールブロック層を備える光電変換素子が太陽電池であれば、光照射により有機半導体層内に生成した電子が効率的に電極に到達することが実現される。また光電変換素子が有機EL素子のような発光素子であれば、電子注入電極から注入された電子が発光層をなす有機半導体層に効率的に注入されることが実現される。したがって、かかる酸化亜鉛層を備える光電変換素子は、光照射された場合でも電荷注入された場合でも光電変換効率が高い。
【0042】
光電変換素子が有機薄膜太陽電池である場合については後に詳述するため、ここでは、光電変換素子が有機EL素子である場合について以下に説明する。
有機EL素子は、電子注入電極とホール注入電極との間に有機半導体を含む有機発光層(すなわち有機半導体層)が介在する構成を基本構造とする。この素子の両端に電圧を印加すると、電子注入電極から有機発光層に電子が注入され、ホール注入電極から有機発光層にホールが注入される。そして、注入された電子とホールとが有機発光層内で再結合することにより発光現象が生じる。
【0043】
ここで、この有機発光層に対する電子注入電極からの電子注入に比してホール注入電極からのホール注入が勝っている場合には、有機発光層内をホールが優先的に通過することによって電流が主に流れてしまう。このため、発光が起こらないか、あるいは、発光効率が非常に低い状態となってしまう。
【0044】
そこで、本発明に係る酸化亜鉛層を電子注入電極(電極)と有機発光層(有機半導体層)との間に挿入すると、酸化亜鉛層においてホールの通過が阻止され、電子注入層から有機発光層への電子注入が促進される。さらに、酸化亜鉛層と有機発光層との界面の有機発光層側にホールが蓄積される。このため、電子注入電極から酸化亜鉛層へと注入された電子とブロックされたホールとがこの界面近傍で再結合する確率が増加する。その結果として、発光効率の向上が期待される。
【0045】
以上説明したように、本発明に係る酸化亜鉛層を用いることにより有機EL素子の機能を高めることが実現される。
【0046】
また、本発明に係る酸化亜鉛層は優れた光透過性を有する。このため、光照射面または発光面側に設けられた電極と有機半導体層との間に配置されても、有機半導体層における光電変換反応を阻害しにくい。この観点からも、本発明に係るホールブロック層を備える光電変換素子は光変換効率に優れる。
【0047】
なお、酸化亜鉛層は、ホールブロック層としてのホールブロック性が酸化亜鉛により支配的にもたらされている限り、他の材料を含有してもよい。例えば、電子輸送効率を高めるためにドーパントが含有されていてもよい。
【0048】
この本発明に係る酸化亜鉛層は、ビス(アセチルアセトナト)亜鉛を含む亜鉛源、アセチルアセトンを含む錯化剤、および極性溶媒を含有する液状組成物と酸化亜鉛層を形成すべき部材(以下、「被形成部材」という。)の表面と接触させて、被形成部材の表面上に液状組成物からなる液層を形成する液層形成工程と、液層形成工程により形成された液層を加熱して、錯化剤および極性溶媒を液層から蒸発させて、被形成部材の表面上に酸化亜鉛層を形成する乾燥工程とを備える製造方法により製造される。
【0049】
以下に、上記の製造方法における各工程について詳しく説明する。
(1)液層形成工程
液層形成工程では、ビス(アセチルアセトナト)亜鉛を含む亜鉛源、アセチルアセトンを含む錯化剤、および極性溶媒を含有する液状組成物と、被形成部材の表面とを接触させて、被形成部材の表面上に液状組成物からなる液層を形成する。
【0050】
液状組成物に含有される亜鉛源は、ビス(アセチルアセトナト)亜鉛を主成分とすることが好ましく、全量ビス(アセチルアセトナト)亜鉛とすることが好ましい。ビス(アセチルアセトナト)亜鉛以外の亜鉛源として酢酸亜鉛が例示されるが、実施例において後述するように、酢酸亜鉛は液状組成物に相対的に溶解しにくい。
【0051】
液状組成物に含有される錯化剤は、アセチルアセトンを主成分とすることが好ましく、全量アセチルアセトンとすることが好ましい。アセチルアセトン以外の錯化剤としてエタノールアミンが例示されるが、実施例において後述するように、エタノールアミンを錯化剤とすると液状組成物の安定性が低下する場合がある。
【0052】
液状組成物に含有される極性溶媒は非水系溶媒(水を実質的に含有しない溶媒)であることが好ましく、アルコールなどのプロトン性の極性溶媒であっても、ケトンやエーテルなどの非プロトン性の極性溶媒であってもよい。極性溶媒の蒸発乾燥速度は錯化剤であるアセチルアセトンの蒸発乾燥速度と近接していることが膜厚の均一性に優れる酸化亜鉛層を得る観点から好ましいため、極性溶媒の1気圧における沸点(以下、ことわりのない「沸点」は1気圧における沸点を意味する。)Tb1が、アセチルアセトンの沸点である140℃に近接していることが好ましい。具体的には、Tb1が120℃以上160℃以下であることが好ましい。
【0053】
極性溶媒はアルコールであることが好ましく、特に2−メトキシエタノール(沸点:125℃)が好ましい。
【0054】
なお、亜鉛源として用いられるビス(アセチルアセトナト)亜鉛は、一価の陰イオンであるアセチルアセトナト二つと二価の陽イオンである亜鉛イオン一つとからなるため、形式的には電気的に中性である。したがって、アルコールのような極性溶媒に対する溶解度は低いことが予想される。しかしながら、本発明者らが検討した結果、ビス(アセチルアセトナト)亜鉛は極性溶媒、特にアルコールと錯化剤であるアセチルアセトンとからなる混合溶媒に対する溶解度が高く、安定な溶液を形成することができることが明らかになった。
【0055】
液状組成物に対する亜鉛源の含有量は、亜鉛換算で、0.1mol/L以上1.0mol/L以下とすることが好ましい。かかる含有量が過度に低い場合には、酸化亜鉛層が形成されにくくなったり、混合溶媒を除去するために要する時間やエネルギーが増加したりするなどの不具合が顕在化することが懸念される。また、上記の含有量が過度に高い場合には、亜鉛源を溶解させるために過度に時間が必要となって生産性が低下したり、液状組成物の安定性が低下したりすることが懸念される。
【0056】
極性溶媒と錯化剤とからなる混合溶媒が極性溶媒としてアルコールを含有する場合における、混合溶媒に対する錯化剤に含まれるアセチルアセトンの体積比(以下、「AA比」ともいう。)は特に限定されない。AA比が高いほど亜鉛源であるビス(アセチルアセトナト)亜鉛の溶解しやすさは高まるが、AA比が過度に高い場合には錯体の安定化によるアセチルアセトンの残存が懸念される。したがって、実用的には、AA比は20%程度を上限とすることが好ましい。
【0057】
また、極性溶媒と錯化剤とからなる混合溶媒が極性溶媒としてアルコールを含有する場合における、亜鉛源であるビス(アセチルアセトナト)亜鉛の亜鉛換算モル濃度に対するアセチルアセトンのモル濃度の比率(以下、「AA/Zn比」ともいう。)は、2以上であることが好ましい。AA/Zn比の上限は特に限定されない。AA/Zn比が過度に高い場合には、前駆体(液状組成物中で溶解状態にある亜鉛のビスアセチルアセトナト錯体)の安定性が高くなり、かつ、相対的に亜鉛源の含有量が少なくなるため、酸化亜鉛層が形成されにくくなったり、混合溶媒を除去するために要する時間やエネルギーが増加したりするなどの不具合が顕在化することが懸念される。したがって、実用的には、AA/Zn比は4程度を上限とすることが好ましい。
【0058】
液状組成物は他の成分を含有してもよいが、その成分は酸化亜鉛層のホールブロック層としての機能を著しく阻害しないことが必要である。そのような他の成分として、粒子状ドーパントや、光透過性を高めるための部材(例えばヒュームドシリカなど)が例示される。
【0059】
液状組成物と被形成部材の表面との接触方法は任意である。液状組成物内に被形成部材を浸漬してもよいし、被形成部材の表面に液状組成物をスプレーやロールを用いて塗布してもよい。あるいは、インクジェット装置によって液状組成物の液滴を吐出して被形成部材の表面に液層を形成してもよい。
【0060】
液層を形成するときの液状組成物の温度は、液層の膜厚の均一性を著しく低下させない限り任意である。実用的には室温で行えばよく、加温する場合であっても、50℃程度を上限とすることが好ましい。
【0061】
(2)乾燥工程
乾燥工程では、液層形成工程により形成された液層を加熱して、錯化剤および極性溶媒を液層から蒸発させて、被形成部材の表面上に酸化亜鉛層を形成する。
【0062】
乾燥手段、乾燥温度および乾燥時間は、溶媒、錯化剤などが揮発するように、公知技術に基づき適宜設定すればよい。本発明の一実施形態に係る液状組成物は含有する溶媒および錯化剤の沸点が比較的低いため、乾燥温度を100℃程度としても、膜厚の均一性に優れる酸化亜鉛層を得ることが実現される。すなわち、本発明に係るホールブロック層の製造方法は、一態様において、低温プロセスに対応したホールブロック層の製造方法である。
【0063】
被形成部材が樹脂系部材を備える場合、具体的には例えば、ITO電極パターンが形成されたポリエチレンテレフタレート(PET)シートから被形成部材が構成される場合には、上記のように乾燥温度を100℃程度とすれば、PETシートのガラス転移点が110℃程度であることから、PETシートが乾燥工程中に平坦性を大きく低下させるほどの変形を起こさない。このため、得られた被形成部材上に酸化亜鉛層を備える部材は、可撓性を有する光電変換装置の構成部材として好適に使用することができる。
【0064】
酸化亜鉛層の厚さは、その酸化亜鉛層を備える素子に求められる特性に応じて適宜設定すればよい。そのような特性として、素子が光電変換素子である場合を例とすれば、ホールブロック性および光透過性のバランス、さらには生産性が挙げられる。酸化亜鉛層の厚さの好ましい一例を挙げれば、5〜200nmである。より好ましい酸化亜鉛層の厚さは10〜100nmであり、10〜50nmとすれば特に好ましい。
【0065】
2.光電変換素子
本発明に係る光電変換素子は、好ましい一態様として、第1の集電極層、ホールブロック層、有機半導体層、ホール輸送層および第2の集電極層がこの順で配置された積層体であり、第1の集電極層および第2の集電極層の少なくとも一方が光透過性を有する。
【0066】
上記の本発明に係る光電変換素子の具体的な一例について詳しく説明すれば、薄膜状の第1の集電極層、第1の集電極層の表面上に設けられた酸化亜鉛層からなるホールブロック層、ホールブロック層における第1の集電極層と接している面と反対側の面上に設けられた有機半導体層、有機半導体層におけるホールブロック層と接している面と反対側の面上に設けられたホール輸送層、およびホール輸送層における有機半導体層と接している面と反対側の面上に設けられた薄膜状の第2の集電極層を、本発明の一例に係る光電変換素子は備え、第1の集電極層および第2の集電極層の少なくとも一方が光透過性を有する。
【0067】
光電変換素子が有機薄膜半導体である場合を例として、各層について以下に詳しく説明する。
(1)第1の集電極層
本発明に係る第1の集電極層は、有機系、無機系、または金属の導電性材料からなり、後述する第2の集電極層との少なくとも一方が光透過性を有する。以下の説明では、第1の集電極層が光透過性を有する光透過性電極層であり、第2の集電極層が光透過性を有さない金属からなる場合を例として説明する。
【0068】
本発明に係る光透過性電極層は、光電変換素子に照射される光を効率的に有機半導体層に供給できる光透過性の高い層が好ましい。また、有機半導体層で生成した電気エネルギーを効率的に取り出せる導電性の高い層が好ましい。
【0069】
光透過性電極層の材料として、ITO、FTO(Fluorine−doped Tin Oxide)等の導電性金属酸化物、PEDOT:PSSのような有機系の透明導電性物質が例示される。このほか、金属薄膜からなる層として光透過性を有させてもよい。そのような金属薄膜として、10nm以下、好ましくは5nm程度の厚さの金膜、銀膜およびアルミニウム膜が例示される。
【0070】
光透過性電極層の厚さは構成材料の光透過性と導電性とを考慮して適宜設定される。1〜10000nm程度が好ましく、10〜300nm程度がより好ましい。
【0071】
(2)ホールブロック層
本発明に係る酸化亜鉛層からなるホールブロック層を適用すればよい。かかるホールブロック層は前述のように優れた特性を有する。
【0072】
酸化亜鉛層の厚さは、ホールブロック性および光透過性のバランス、さらには生産性を考慮して適宜設定すればよい。基本的な傾向として、酸化亜鉛層が厚いほど、ホールブロック性は高くなるが光透過性が低下する。また、酸化亜鉛層の厚さを大きくするためには液状組成物からなる液膜の厚さを増やす必要があり、液膜が過度に厚い場合には生産性の低下が懸念される。光電変換効率の観点からは、酸化亜鉛層の厚さは5〜200nmの範囲でほぼ一定である。したがって、酸化亜鉛層の厚さを5〜200nmとすることが好ましい。より好ましい酸化亜鉛層の厚さは10〜100nmであり、10〜50nmとすれば特に好ましい。
【0073】
(3)有機半導体層
本発明において、「有機半導体層」とは、半導体としての性質を有する有機物を備える膜状体であって、その層の半導体として性質がその有機物により主としてもたらされるものをいう。
【0074】
特に、光電変換素子の一要素として用いられる有機半導体層は、光照射によって電荷分離状態が発生する程度のバンドギャップを有し、光照射により生じた正負の電荷が、それぞれ第1および第2の集電極層に継続的に移動できる程度の移動度を有していることが必要とされる。
【0075】
そのような有機半導体層を構成する材料として、ペンタセンの他、例えば、低分子系材料としては、フタロシアニン系誘導体、ナフタロシアニン系誘導体、アゾ化合物系誘導体、ペリレン系誘導体、インジゴ系誘導体、キナクリドン系誘導体、アントラキノン類などの多環キノン系誘導体、シアニン系誘導体、フラーレン類誘導体、あるいはインドール、カルバゾール、オキサゾール、インオキサゾール、チアゾール、イミダゾール、ピラゾール、オキサアジアゾール、ピラゾリン、トリアゾールなどの含窒素環式化合物誘導体、ヒドラジン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、スチルベン類、アントラキノンジフェノキノン等のキノン化合物誘導体、ポルフィリン誘導体、アントラセン、ピレン、フェナントレン、コロネンなどの多環芳香族化合物誘導体などが挙げられる。高分子材料としては、ポリパラフェニレン等の芳香族系共役性高分子、ポリアセチレン等の脂肪族系共役性高分子、ポリピノールやポリチオフェン等の複素環式共役性高分子、ポリアニリン類やポリフェニレンサルファイド等の含ヘテロ原子共役性高分子、ポリ(フェニレンビニレン)やポリ(アニーレンビニレン)やポリ(チェニレンビニレン)等の共役性高分子の構成単位が交互に結合した構造を有する複合型共役系高分子等の炭素系共役高分子が挙げられる。また、ポリシラン類やジシラニレンアリレンポリマー類、(ジシラニレン)エテニレンポリマー類、(ジシラニレン)エチニレンポリマー類のようなジシラニレン炭素系共役性ポリマー構造などのオリゴシラン類と炭素系共役性構造が交互に連鎖した高分子類などが挙げられる。他にもリン系、窒素系等の無機元素からなる高分子鎖でも良く、さらにフタロシアナートポリシロキサンのような高分子鎖の芳香族系配位子が配位した高分子類、ペリレンテトラカルボン酸のようなペリレン類を熱処理して縮環させた高分子類、ポリアクリロニトリルなどのシアノ基を有するポリエチレン誘導体を熱処理して得られるラダー型高分子類、さらにペロブスカイト類に有機化合物がインターカレートした複合材料が挙げられる。
【0076】
有機半導体層は、単一の有機材料から構成されていてもよいし、複数の有機材料から構成されていてもよい。複数の有機材料から構成される場合には、積層構造を有していてもよいし、混合物であってもよい。例えば、有機半導体層におけるホールブロック層との界面には自己組織化膜(SAM:Self-Assembled Monolayer)、具体的にはフラーレン誘導体が例示される、が形成され、有機半導体のその他の部分は複数の有機半導体の混合物、具体的には前述のP3HTおよびPCBMの混合物が例示される、からなる構成が挙げられる。
【0077】
本発明に係る有機半導体層は、有機材料以外の材料、例えば無機材料が含有されていてもよいが、有機半導体層が有する半導体特性は、主として有機材料によりもたらされているべきである。
【0078】
光電変換素子としての機能を高める観点から、本発明に係る有機半導体層は、電子ドナーとしての共役高分子と電子アクセプターとしてのフラーレン誘導体とを備えることが好ましい。すなわち、本発明に係る光電変換素子の好ましい一態様は、いわゆるバルクへテロジャンクション型有機薄膜太陽電池に属する。
【0079】
電子ドナーとしての共役高分子の具体例には、上記のP3HT、PCPDTBT(ポリ[2,6−(4,4−ビス(2−エチル−ヘキシル)−4H−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]チジオフェン)−alt−4,7−(2,1,3−ベンゾチアジアゾール)])のほかに、PA−PPV(ポリ(フェニルイミノ−1,4−フェニレン−1,2−エチニレン−2,5−ジヘキシロキシ−1,4−フェニレン−1,2−エチニレン−1,4−フェニレン))、PTB(ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)−ベンゾジチオフェン)誘導体が例示される。
電子アクセプターとしてのフラーレン誘導体の具体例には、上記のPCBM、PC70BMのほかに、下記式で示されるbis[60]PCBMやbis[70]PCBM、ICBA(インデンC60ビスアダクト)が例示される。
【0080】
【化3】

【0081】
上記の有機半導体層は、共役高分子とフラーレン誘導体との2成分のみから形成すればよいが、適宜、光電変換作用を有する導電性材料や色素などを更に添加してもよい。
【0082】
導電性材料としては、例えば、ポリアセチレン系、ポリピロール系、ポリチオフェン系、ポリパラフェニレン系、ポリパラフェニンビニレン系、ポリチエニレンビニロン系、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)系、ポリフルオレン系、ポリアニリン系、ポリアセン系の導電性材料が挙げられる(但し、PEDOT:PSSは除く)。
【0083】
また、色素としては、例えば、シアニン系、メロシアニン系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、アゾ系、キノン系、キノイシン系、キナクドリン系、スクアリリウム系、トリフェニルメタン系、キサンテン系、ポルフィリン系、ペリレン系、インジコ系の色素が挙げられる。
【0084】
有機半導体層を共役高分子とフラーレン誘導体との2成分から構成する場合には、両者の配合割合は特に限定されない。共役高分子としてP3HTを用い、フラーレン誘導体としてPCBMを用いる場合には、P3HT:PCBM(質量比)は5:3〜5:6程度が好ましく、5:3〜5:4程度がより好ましい。
【0085】
その他の添加剤(導電性材料や色素)を添加する場合には、これらの添加量は限定的ではないが、共役高分子とフラーレン誘導体との合計量を100質量部として、1〜100質量部程度が好ましく、1〜40質量部程度がより好ましい。
【0086】
有機半導体層の形成方法は限定されない。例えば、ホールブロック層を備える部材のホールブロック層上に、共役高分子とフラーレン誘導体とを含有する溶液をスピンコートすることにより形成される。この溶液の溶媒としてはクロロベンゼンや1,2−ジクロロベンゼン、テトラリン:1,8−オクタンジチオール混合溶媒が例示される。
【0087】
その他の添加剤を含む場合には、前記溶液に予めその添加剤を混合または溶解しておくことが好ましい。
【0088】
有機半導体層の厚さは限定的ではないが、50〜400nm程度が好ましく、200〜300nm程度がより好ましい。
【0089】
(4)ホール輸送層
本発明に係る光電変換素子は、上記の有機半導体層と第2の集電極層との間に、ホール輸送層を有してもよい。「ホール輸送層」とは、有機半導体層と第2の集電極層との間の電荷移動がホールにより担われることを促進し、好ましくは電子によって担われることを抑制する機能を有する層をいう。すなわち、ホール輸送層はホールにより電気伝導が行われるp型の半導体特性を有する。
【0090】
有機半導体層と第2の集電極層との間にホール輸送層を有することにより、光照射により有機半導体層に発生した電荷のうち、ホールが第2の集電極層に優先的に到達することになり、光電変換効率が高くなる。
【0091】
本発明に係る光電変換素子におけるホール輸送層を構成する材料は、ホール輸送層としての機能を果たすことができる限り特に限定されない。具体例を挙げれば、銅フタロシアニンなどのフタロシアニン誘導体、ビス(ジ(p−トリル)アミノフェニル)−1,1−シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラアミノ−4,4’−ジアミノビフェニル、前述のNPD等のトリフェニルジアミン類や、トリス(4−(N,N−ジ−m−トリルアミノ)フェニル)アミン等のスターバースト型分子、アントラセン、テトラセン、ペンタセン等アセン類か、上述のP3HT、ポリ−3−オクチルチオフェン(P3OT)、ポリ−3−ドデシルチオフェン(P3DDT)などのポリアルキルチオフェン類が例示される。このほか、ポリ[bis(4−フェニル)(2,4,6−トリメチルフェニル)アミン(PTAA)、ポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[2−メトキシ−5−(3’、7’−ジメチルオクチルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン](MDMO−PPV)、ポリ[9,9−ジ−n−オクチルフルオレニル−2,7−ジイル]−alt−(ベンゾ[2,1,3]チアジアゾール−4,8−ジイル)](F8BT)、ポリ[9,9−ジ−n−オクチルフルオレニル−2,7−ジイル]−co−ビチオフェニル](F8T2)なども例示される。
【0092】
これらの材料は単独でも用いてもよいし、複数を積層したり混合したりして用いてもよい。
【0093】
これらの材料の中でも、ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)およびポリスチレンスルホン酸(PSS)の混合物であるPEDOT:PSSが最も一般的である。
【0094】
本発明に係る光電変換素子も、ホール輸送層としてPEDOT:PSSを用いることが好ましい。特に、光透過性電極層、ホールブロック層および有機半導体層が積層された部材における有機半導体層の表面と、PEDOTおよびPSSならびに非イオン性界面活性剤を含有する水溶液とを接触させるステップを有するプロセスにより製造されたものであることが好ましい。
【0095】
ホール輸送層の形成方法は限定されない。例えば、有機半導体層を備える部材の有機半導体層上に、PEDOTとPSSとを含有する水分散液に非イオン性界面活性剤が添加されたものをスピンコートすることにより形成される。上記の分散液に対する有機半導体層への濡れ性を向上させるために、分散液を加温(例えば50〜90℃)してもよい。
【0096】
ホール輸送層の厚さは限定的ではないが、20〜120nm程度が好ましく、30〜90nm程度がより好ましい。
【0097】
(5)第2の集電極層
本発明に係る第2の集電極層は、有機系、無機系、または金属の導電性材料からなり、上記の第1の集電極層との少なくとも一方が光透過性を有する。
本発明に係る第2の集電極層が光透過性を有さない金属からなる場合には、第2の集電極層は金電極からなることが好ましい。その製造方法は限定されない。公知の方法、例えば真空蒸着法により、有機半導体層またはその上に形成されたホール輸送層の上に金を成膜してもよい。
【0098】
なお、真空成膜プロセスにより有機半導体層またはその上に形成されたホール輸送層がダメージを受けることが問題となる場合には、金あるいは銀をその表面にあらかじめ薄く蒸着した金属箔やITO(具体的にはアルミニウム箔やフィルムITOが例示される。)を、有機半導体層またはその上に形成されたホール輸送層の表面に接触させてもよい。
【0099】
いずれの方法により第2の集電極層を形成した場合でも、有機半導体層またはその上に形成されたホール輸送層と第2の集電極層との間の導電性を向上させる目的で、80〜150℃程度の温度で5分間程度、有機半導体層またはその上に形成されたホール輸送層と第2の集電極層との界面を含む領域を加熱することが好ましい。
【0100】
さらに、光電変換素子が形成された部材全体を70℃程度の温度で1時間程度エージング処理することが好ましい。
【0101】
なお、本発明に係る第1および第2の集電極層が光透過性を有する場合には、光電変換素子全体が光透過性を有する構造とすることが可能である。そのような光電変換素子を例えば窓ガラスなどに貼り付ければ、採光しつつ発電することが実現される。
【0102】
また、第1の集電極層、ホールブロック層、有機半導体層および第2の集電極層、ならびに必要に応じホール輸送層からなる光電変換素子を、複数積層させてタンデム型の光電変換素子としてもよい。この場合において、積層される光電変換素子の接続部をなす2つの集電極層は一体化していてもよい。そのような光電変換素子として、第1の集電極層、ホールブロック層、有機半導体層、第2の集電極層兼第1の集電極層となる集電極層、ホールブロック層、有機半導体層および第2の集電極層のような配列で各層が積層された光電変換素子が例示される。
【0103】
さらに、ホール輸送層を追加して、ホールブロック層とホール輸送層とのホール移動性の差に基づいて光電変換を行う場合には、透明集電極層、ホールブロック層、有機半導体層、ホール輸送層、透明集電極層、ホールブロック層、有機半導体層、ホール輸送層、透明集電極層、・・・といった積層構造の光電変換素子を得ることが可能である。
【0104】
3.光電変換装置
本発明に係る光電変換素子に対して、その光電変換素子における第1および第2の集電極層の少なくとも一方に接するように光透過性基板を配置することにより、光電変換装置が得られる。この光電変換装置は、光電変換素子の電極と接続するための配線パターンを有していてもよい。
【0105】
本発明に係る光電変換素子は、前述のようにホールブロック層である酸化亜鉛層を形成するにあたり、その加熱温度を100℃程度とすることができる。したがって、光透過性基板を樹脂系材料からなる樹脂系部材、具体例を示せばPETを備えるものとして、この基板上に光透過性を有する第1の集電極層を形成し、さらに酸化亜鉛層を形成すれば、本発明に係る光電変換素子の第1の集電極層と接するように配置された光透過性の基板とを備え可撓性を有する光電変換装置を得ることができる。
【0106】
4.有機薄膜太陽電池パネル
本発明に係る有機薄膜太陽電池パネルは、光透過性基板、この光透過性基板上に光透過性を有する電極層が接するように設けられた本発明に係る光電変換素子、およびこの光電変換素子を封止する筐体を備える。
【0107】
光透過性基板としては、例えば、ガラス基板、樹脂フィルム等の公知の透明性基板が使用できる。特に樹脂フィルム等を用いる場合には、有機薄膜太陽電池パネルに柔軟性を持たせてフレキシブル化できる点で好ましい。
【0108】
本発明に係る光電変換素子を封止する筐体としては、光電変換素子を透明性基板と筐体間で挟み込んで外気から封止できる部材であれば特に限定されない。その形状は限定されず、箱型、プレート型が例示される。有機薄膜太陽電池筐体封止パネルを薄膜化する観点からは、平坦な薄板状のガラス板が好ましい。なお、筐体として柔軟性のある樹脂フィルムを用いる場合には、有機薄膜太陽電池パネルに柔軟性を持たせてフレキシブル化できるため、好ましい。
【実施例】
【0109】
以下、実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は実施例に限定されない。
(実施例1)
(1)有機薄膜太陽電池パネルの製作
ガラス基板(22mm×38mm、厚さ1.1mm)の一方の面上にスパッタリングによってITO膜が積層されたITO膜付きガラス基板(フルウチ化学(株)製)を準備した。その膜厚は200nmであり、光透過性電極層をなすITO膜のシート抵抗は10Ω/□であった。
【0110】
このITO被覆ガラス基板を2−プロパノール中で超音波洗浄および煮沸洗浄した。以下、こうして得られた基板を「ITO基板」という。
【0111】
亜鉛源としてのビス(アセチルアセトナト)亜鉛を0.35mol/L、異なる含有量の錯化剤としてのアセチルアセトン、および極性溶媒としての2−メトキシエタノールを含有する複数種類の液状組成物1から3を、これらの成分からなる混合物を室温、50%RHの環境で攪拌することにより調製した。これらの液状組成物1から3におけるAA比は、それぞれ、3.6%(AA/Zn比は1)、7.2%(AA/Zn比は2)、および10.8%(AA/Zn比は3)であった。
【0112】
上記の手順で調製した液状組成物2(AA比が7.2%、AA/Zn比が2)を被処理部材としてのITO基板上に0.3mL程度滴下し、1000rpmで1分間スピンコートした。
【0113】
液状組成物2の液層が表面に形成されたITO基板を、100℃に設定したホットプレート上で1時間乾燥させて、溶媒等を揮発させた。
こうして、厚さが100nmのホールブロック層となる酸化亜鉛層がITO上に形成されたITO基板を得た。以下、この基板を「酸化亜鉛層付基板」という。
【0114】
P3HT(ポリチオフェン誘導体、Aldrich製)とフラーレン誘導体bis[60]PCBM(Solenne製)との質量比5:4混合物を3.9質量%含有するクロロベンゼン溶液を調製した。
【0115】
酸化亜鉛層の上に上記クロロベンゼン溶液をスピンコート(1500rpm,60s)し、室温にて約30分間乾燥させて、有機半導体層を250nm成膜した。
【0116】
ポリオキシエチレントリデシルエーテル(PTE、C1327(OCHCHOH,n=6)を1質量%およびキシレンを1質量%含有し、水およびイソプロパノールを溶媒とする非イオン性界面活性剤(Aldrich製)を用意し、1.3質量%PEDOT:PSS水分散(Aldrich製)100質量部に対してこの非イオン性界面活性剤0.5質量部を混合してPTE含有PEDOT:PSS水分散液を調製した。
【0117】
上記のPTEを含有するPEDOT:PSS水分散液を50〜90℃に加温し、これを有機半導体層の上にスピンコート(6000rpm,60s)し、室温での自然乾燥によりホール輸送層を80nm成膜した。
【0118】
次に、ホール輸送層の上にAu電極層(集電極層)を膜厚約100nmになるように真空蒸着した。詳細には、4mm×25mmの電極形状に対応するシャドウマスクおよびホール輸送層までが形成されたガラス基板をチャンバー内に設置し、ロータリーポンプおよびターボ分子ポンプを用いてチャンバー内を減圧とし、チャンバー内圧力を2×10−3Pa以下とした。このチャンバー内で金線を抵抗加熱し、シャドウマスクを介して、ホール輸送層上に金を100nm成膜した。成膜速度は10〜15nm/minとし、成膜時の圧力は1×10−2Pa以下であった。
【0119】
その後、上記の製造方法により一方の面上にITO膜(光透過性電極層)、ホールブロック層、有機半導体層、ホール輸送層、および集電極層としての金膜が形成されたガラス基板を150℃で5分間加熱処理し、さらに70℃で1時間保持した。
以上の工程を経て、4mm×25mm、すなわち1.0cmの光電変換面積をもつ有機薄膜太陽電池パネルを作製した。
【0120】
(2)評価
i)液性状
液状組成物を調整する過程における亜鉛源の溶解の程度、および得られた液状組成物を室温、50%RHの環境に静置したときの性状変化について確認した。
【0121】
ii)表面性状
液状組成物2を用いて作製された酸化亜鉛層付基板の表面性状を、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いて評価した。評価方法の詳細は次のとおりであった。
装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製 原子間力顕微鏡SPI−400
観察モード:タッピング・モード(DFM)
測定範囲:2μm×2μmまたは10μm×10μm
測定項目:RaおよびRMS
その他の測定条件:カンチレバーのばね係数(k)40N/m
【0122】
iii)電流−電圧特性
上記の製造方法により製造された有機薄膜太陽電池パネルに対して、大気中未封止で次の評価を行った。
【0123】
太陽擬似光源装置(SAN−EI Electric製,XES−502S)を用いて、AM1.5Gのスペクトル分布を有し、100mW/cmの光強度を有する擬似太陽光を、有機薄膜太陽電池パネルに対してITO電極層側から照射した。この状態でリニアスイープボルタンメトリー(LSV)測定装置(Hokuto Denko製,HZ−5000)を用いて、有機薄膜太陽電池の光電流−電圧プロフィールを測定した。
【0124】
このプロフィールから短絡電流(絶対値、Jsc/mAcm−2)、開放電圧(Voc/V)、曲線因子(FF)、エネルギー変換効率(PCE/%)を算出した。
【0125】
(3)評価結果
i)液性状
液状組成物1に関し、各成分からなる混合物は白濁した液体であったが、これを一晩攪拌することによって透明な溶液となった。しかしながら、この溶液には小さな針状結晶が浮遊していることが確認された。また、液状組成物1は攪拌停止後、室温、50%RHの環境に静置してもこの状態(透明溶液、小浮遊物あり)に変化はなかった。
【0126】
液状組成物2および3に関し、各成分からなる混合物は白濁した液体であったが、これを一晩攪拌することによって透明な溶液となり、この溶液には液状組成物1の場合のような浮遊物は認められなかった。また、液状組成物2および3は室温、50%RHの環境に静置してもこの状態(透明溶液、浮遊物なし)に変化はなかった。
【0127】
ii)表面性状
液状組成物2を用いて作製された酸化亜鉛付基板をSPMにより測定して得られたイメージを図1に示す。高さ20nm程度以下の微粒子が密に敷き詰められており、この測定結果から得られる表面粗さパラメータは、Raが1.73nm、RMSが2.20nmであった。
【0128】
iii)電流−電圧特性
有機薄膜太陽電池の光電流−電圧プロフィールを図2に示す。また、このプロフィールに基づき得られた各種パラメータについて表1に示す。
【0129】
【表1】

【0130】
(実施例2)
実施例1におけるITO基板に代えて、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にITOによる電極パターンが形成された部材((株)麗光製、22mm×38mm、厚さ0.1mm、40Ω/□、以下、「PET基板」ともいう。)を被処理部材とした以外は、実施例1と同様の製造方法により、液状組成物2を用いて酸化亜鉛付基板および有機薄膜太陽電池パネルを得た。
【0131】
これらの基板およびパネルに対して、実施例1において行った表面性状および電流−電圧特性の評価を行った。
【0132】
酸化亜鉛付基板をSPMにより測定して得られたイメージを図3に示す。実施例1の場合と同様に、高さ20〜40nm程度以下の微粒子が密に敷き詰められており、この測定結果から得られる表面粗さパラメータは、Raが4.86nm、RMSが5.87nmであった。
【0133】
また、図4に示されるような有機薄膜太陽電池の光電流−電圧プロフィールが得られた。この光電流−電圧プロフィールに基づき得られた各種パラメータについて表1に示す。
【0134】
(比較例1)
液状組成物2において錯化剤としてのアセチルアセトンを含有しない液状組成物4(亜鉛源としてのビス(アセチルアセトナト)亜鉛は0.35mol/L)を調製した。
得られた液状組成物4について、実施例1において行った液性状の評価を行った。
【0135】
その結果、一晩の攪拌でもビス(アセチルアセトナト)亜鉛はほとんど溶解しなかった。
【0136】
(比較例2)
亜鉛源としての酢酸亜鉛を0.35mol/L、錯化剤としてのアセチルアセトンをAA比で11体積%、および極性溶媒としての2−メトキシエタノールを含有する液状組成物5を調製した。
得られた液状組成物5について、実施例1において行った液性状の評価を行った。
【0137】
その結果、一晩の攪拌により亜鉛源は溶解したが、静置すると15分以内に白濁し、沈澱が生成した。
【0138】
(比較例3)
亜鉛源としての酢酸亜鉛を0.35mol/L、錯化剤としてのエタノールアミンおよび極性溶媒としての2−メトキシエタノールを含有し、錯化剤と極性溶媒とからなる混合溶媒に対する錯化剤の比率が4体積%である液状組成物6を調製した。
【0139】
実施例1における液状組成物2に代えて液状組成物6を使用した以外は実施例1と同様の製造方法により、酸化亜鉛付基板および太陽電池パネルを得た。
【0140】
これらの基板およびパネルに対して、実施例1において行った表面性状および電流−電圧特性の評価を行った。
【0141】
酸化亜鉛付基板をSPMにより測定して得られたイメージを図5に示す。高低差200nm程度の激しい凹凸が観察され、この測定結果から得られる表面粗さパラメータは、Raが39.3nm、RMSが46.9nmであった。
【0142】
電流−電圧特性に関し、図6に示されるような有機薄膜太陽電池の光電流−電圧プロフィールが得られた。この光電流−電圧プロフィールに基づき得られた各種パラメータについて表1に示す。なお、本実施例に係る太陽電池パネルから得られた光電流−電圧プロフィールは安定せず、再現性が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体層およびこれに電気的に接続される電極を備える光電変換素子における前記有機半導体層と前記電極との間に配置されて、該有機半導体層と該電極との間の電気伝導がホールによって担われることを抑制するホールブロック層の製造方法であって、
ビス(アセチルアセトナト)亜鉛を含む亜鉛源、アセチルアセトンを含む錯化剤、および極性溶媒を含有する液状組成物と前記ホールブロック層を形成すべき部材の表面とを接触させて、当該ホールブロック層を形成すべき部材の表面上に前記液状組成物からなる液層を形成する液層形成工程と、
前記液層形成工程により形成された前記液層を加熱して、前記錯化剤および前記極性溶媒を前記液層から蒸発させて、前記ホールブロック層を形成すべき部材の表面上に酸化亜鉛を含んでなるホールブロック層を形成する乾燥工程を備えること
を特徴とするホールブロック層の製造方法。
【請求項2】
前記極性溶媒がアルコールを含む、請求項1記載のホールブロック層の製造方法。
【請求項3】
前記極性溶媒の1気圧における沸点Tb1が120℃以上160℃以下である、請求項1または2記載のホールブロック層の製造方法。
【請求項4】
前記ホールブロック層を形成すべき部材が、前記乾燥工程において前記液層に与えられる加熱温度よりも高い温度のガラス転移点温度を有する樹脂系材料からなる樹脂系部材を備える請求項1から3のいずれかに記載のホールブロック層の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂系部材がポリエチレンテレフタレートである請求項4記載のホールブロック層の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程の加熱温度が100℃以下である請求項1から5のいずれかに記載のホールブロック層の製造方法。
【請求項7】
有機半導体層およびこれに電気的に接続される電極を備える光電変換素子における前記有機半導体層と前記電極との間に配置されて、該有機半導体層と該電極との間の電気伝導がホールによって担われることを抑制するホールブロック層であって、
請求項1から6のいずれかに記載される製造方法により製造されたものであることを特徴とするホールブロック層。
【請求項8】
前記ホールブロック層の厚さが5nm以上200nm以下である請求項7記載のホールブロック層。
【請求項9】
前記ホールブロック層の表面粗さがRaで5nm以下である請求項8記載のホールブロック層。
【請求項10】
第1の集電極層、請求項7から9のいずれかに記載されるホールブロック層、有機半導体層および第2の集電極層がこの順で配置された積層体を備えることを特徴とする光電変換素子。
【請求項11】
前記第1の集電極層が光透過性を有する請求項10記載の光電変換素子。
【請求項12】
前記有機半導体層と前記第2の集電極層との間の電荷移動がホールにより担われることを促進するホール輸送層を、前記有機半導体層と前記第2の集電極層との間に備える請求項10または11記載の光電変換素子。
【請求項13】
請求項10から12のいずれかに記載される光電変換素子と、当該光電変換素子の第1または第2の集電極層と接するように配置された光透過性の基板とを備える光電変換装置。
【請求項14】
前記基板は、樹脂系材料からなる樹脂系部材を備え、前記光電変換素子の第1の集電極層と接するように配置される請求項13記載の光電変換装置。
【請求項15】
前記樹脂系材料はポリエチレンテレフタレートである請求項14記載の光電変換装置。
【請求項16】
請求項13から15のいずれかに記載される光電変換装置、および当該光電変換装置を収容する筐体を備える有機薄膜太陽電池パネル。
【請求項17】
請求項13から15のいずれかに記載される光電変換装置を備え、当該光電変換装置が備える光電変換素子が発光素子である発光装置。

【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−55125(P2013−55125A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190743(P2011−190743)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(502344178)株式会社イデアルスター (59)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】