説明

ボアカンガアフリカーナより得られるカンナビノイド受容体阻害薬およびその利用

【課題】カンナビノイド受容体阻害作用に優れ、カンナビノイド受容体関連疾患または障害の処置に優れた新規な物質。
【解決手段】本発明はボアカンガアフリカーナの植物抽出物およびそれに含まれるアルカロイドを含有するカンナビノイド受容体阻害薬に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンナビノイド受容体リガンドとして、特にカンナビノイド受容体(CB1)アンタゴニストまたはインバースアゴニストとして、並びにカンナビノイド受容体アンタゴニストにより変調される疾患、状態および/または障害を治療するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
カンナビノイド(非特許文献1)はマリファナに含まれる化学物質の総称であり、精神賦活性を有しており、主なものにデルタ−9−テトラヒドロカンナビノールがある。カンナビノイド受容体としては、CB1およびCB2の2つがこれまでクローン化されている。CB1は主に中枢神経系に発現し、一方CB2は末梢組織、主として免疫系に発現される。両受容体ともG−タンパク質共役クラスであり、それらの阻害はアデニレートシクラーゼ活性に関連する。
【0003】
中枢神経系に発現するCB1受容体は食欲に関係すると考えられており、これを阻害することによって、食欲を抑制することができ、肥満などに有効であると考えられる。また、記憶、学習に重要な脳部位にCB1受容体が高密度に分布していることから記憶障害にも関連すると考えられ、認知障害などの疾患に有用であると考えられる。一方、カンナビノイド受容体の阻害剤としてリモナバン(rimonabant)が有名であるが、自殺企図などの副作用が問題となっており、安全性の高い阻害剤は少ない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)130, 135-140 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、カンナビノイド受容体阻害作用に優れ、カンナビノイド受容体関連疾患または障害の処置に優れた新規な物質を提供すべく、さまざまな天然由来の物質を検討した結果、ある特定の植物から得られた抽出物及びそれから単離された化合物にこの課題を解決しうる有効な作用を見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ボアカンガアフリカーナ(Voacanga africana)由来の物質がカンナビノイド受容体阻害作用を示すことを発見し、本発明を完成させた。
【0007】
上記課題を解決する本発明は、以下の発明を包含する。
[1]ボアカンガアフリカーナの植物抽出物を含むことを特徴とするカンナビノイド受容体阻害薬。
【0008】
[2]式(1):
【化1】

で表されるアルカドイドを含有するカンナビノイド受容体阻害薬。
【0009】
[3]式(2):
【化2】

で表されるアルカドイドを含有するカンナビノイド受容体阻害薬。
【0010】
[4]式(3):
【化3】

で表されるアルカドイドを含有するカンナビノイド受容体阻害薬。
【0011】
[5]上記式(1)〜(3)の2または3の混合物を含有するカンナビノイド受容体阻害剤。
【0012】
[6]カンナビノイド受容体阻害剤を製造するための、上記ボアカンガアフリカーナの植物抽出物、または上記式(1)〜(3)のいずれかの化合物もしくはその混合物の使用。
【0013】
[7]カンナビノイド受容体関連疾患または障害の患者に、治療上の有効量の上記ボアカンガアフリカーナの植物抽出物、または上記式(1)〜(3)のいずれかの化合物もしくはその混合物を投与することからなるカンナビノイド受容体関連疾患または障害の予防及び/又は治療方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の植物抽出物および化合物は、CB1の活性を阻害し、従って、例えば精神病、記憶欠損、認知障害、片頭痛、ニューロパシー、神経炎症性障害、脳血管障害、頭部外傷、不安障害、物質濫用(例えば禁煙)、ストレス、癲癇、パーキンソン病、統合失調症、骨粗鬆症、便秘、慢性偽性腸閉塞、肝臓の硬変、喘息、肥満、および過度の摂食が関連する他の摂食障害を含むが、これらに限定されないCB1関連疾患または障害の処置に有用であることが期待される。
本発明のカンナビノイド受容体リガンドはカンナビノイド受容体の変調と関連した病気の治療に有用である。
【0015】
本発明のカンナビノイド受容体リガンドは、天然成分のボアカンガアフリカーナ由来の物質であり、副作用の問題が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】各試料のカンナビノイド受容体阻害活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のカンナビノイド受容体リガンドは、ボアカンガアフリカーナ由来で、カンナビノイド受容体阻害作用を示す物質を有効成分として含有する。
【0018】
本発明で用いるボアカンガアフリカーナの生産地または品種は特に制限されないが、生産地としては例えばガーナが挙げられる。ボアカンガアフリカーナは、粉砕、破砕などにより粉末化処理したものを用いてもよいが、抽出物またはその処理物として用いることが好ましい。
【0019】
抽出溶媒としては、メタノールが好ましいが、ヘキサン、ジクロロメタン、エタノールなどを使用することもできる。例えば、粉砕した試料50mgにメタノール1mLを使用して、超音波下で1時間抽出を行ってもよい。
【0020】
このようにして得られる抽出物は、そのまま本発明のカンナビノイド受容体阻害薬の有効成分として用いることができる。また、当該抽出物をイオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、透析等の各種精製手段により処理し、さらに活性を高めた処理物として用いてもよい。
【0021】
本発明者らはさらに、メタノール抽出したボアカンガアフリカーナを活性成分の分離精製を行ったところ、次式で表される3種類のアルカロイドを単離・同定することに成功した。
【化4】

【化5】

【化6】

【0022】
これら3種類のアルカロイドのカンナビノイド受容体阻害作用は、カンナビノイド受容体阻害薬として知られるリモナバントの阻害活性(IC50:2μg/L)と比較しても、遜色がないものであることがわかった。
【0023】
本発明において、これら3種類のアルカロイドの混合物とは、これら3種類の混合物または任意の2種類の混合物を意図し、その含有する比率は特に問わない。
特に断りがなければ、本発明における化合物の立体構造は、立体的に可能ならいずれの立体配置も含みうる。
【0024】
本発明の植物抽出物、並びに単離された個々の化合物およびその混合物は、抽出エキスもしくは化合物のバルクの形態で、または好ましくは通常の医薬担体もしくは希釈剤で医薬製剤の形態で用いられ得る。投与形態は特定の形態に制限されないが、具体的には例えば、いずれの通常の投与形態、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤のような経口投与の製剤、経口投与に適した様々な液体製剤、または注射剤、坐剤のような非経口投与用製剤であってもよい。植物抽出物または活性化合物はその製剤の組成物に対して0.1〜70重量%含まれる。
【0025】
注射用製剤は通常、液剤、乳濁液、または懸濁液の形態で調製され、無菌化し、更に好ましくは血液に対して等張にされる。液体、乳濁液または懸濁液の形態の製剤は一般的に、通常の医薬希釈剤、例えば、水、エチルアルコール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを用いて調製される。これらの製剤には、塩化ナトリウム、ブドウ糖、グリセリンのような等張剤と、等張にするのに十分な量で混合してもよく、更に通常の可溶化剤、緩衝剤、麻酔剤、および適宜、着色剤、保存剤、芳香物質、香料、甘味料、および他の薬剤で混合してもよい。
【0026】
錠剤、カプセル剤、経口投与用液剤のような製剤は、通常の方法で調製され得る。錠剤は、ゼラチン、デンプン、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アラビアガムなどのような通常の医薬担体と混合して調製され得る。カプセル剤は、不活性な医薬充填剤または希釈剤と共に混合して調製し、硬ゼラチンカプセルまたは軟カプセルに詰められ得る。シロップ剤またはエリキシル剤のような経口液体製剤は、活性化合物と、甘味料(例えば、ショ糖)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、着色料、香料などとを混合して調製する。非経口投与用製剤はまた、通常の方法、例えば本発明の植物抽出物または活性化合物を無菌の水性担体、好ましくは水または生理食塩水溶液に溶解しても調製され得る。非経口投与に適した好ましい液体製剤は、約1〜100 mgの本発明の植物抽出物または活性化合物を、水および有機溶媒中に、更に分子量300〜5000を有するポリエチレングリコール中に溶解して調製し、好ましくは、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、およびポリビニルアルコールのような滑沢剤と混合される。上記の液体製剤には好ましくは更に、消毒剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール、チメロサール)、殺菌剤、および更に適宜、等張剤(例えば、ショ糖、塩化ナトリウム)、局所麻酔剤、安定化剤、緩衝剤などを加えてよい。安定性を保つために、非経口投与用製剤は、小さな容器に充填し、続いて通常の凍結乾燥技術で水性溶媒を除いてもよく、これを使用に際して水性溶媒に溶解して液体製剤に戻す。
【実施例】
【0027】
実施例1(ボアカンガアフリカーナの植物抽出物)
1.抽出操作
ボアカンガアフリカーナの根皮(粗粉末)601g(乾燥重量)をメタノール(1.7L×2)に2日間冷浸した後、さらに熱メタノール(70℃)にて2回(8.5時間、10.5時間)抽出し、抽出液を減圧下濃縮してメタノールエキス(抽出物)70.12gを得た。
2.分液操作
メタノールエキス70.12gを酢酸エチル(0.5L)に溶解し、1N HCl(0.5L×3)で抽出した。水層をNa2CO3で塩基性にした後、CHCl3で8回(各0.5L×8)抽出した。有機層の溶媒を減圧下留去し、CHCl3層から15.45gの粗塩基を得た。
【0028】
実施例2(SKB−OH11(ボアカミン voacamine))
【化7】

1.SKB−OH11の単離と同定
実施例1で得た粗塩基をシリカゲルオープンカラムに付し、3〜5%メタノール/CHCl3溶出部をシリカゲルフラッシュカラムに付した。その80%酢酸エチル/ヘキサン溶出部をさらにシリカゲルフラッシュカラム(5%メタノール/酢酸エチル)にて順次精製することにより、SKB−OH11を1441mg得た。
【0029】
本化合物は、UVスペクトル(メタノール)において、294.0、287.0、224.5 nmに5−メトキシインドールに特徴的な吸収が認められ、FABMS(NBA)スペクトルにおいては705 [M+H]+にピークが認められた。1H−NMRにおいて、6H分の芳香族プロトンがδ7.54 (1H,br-d, J=6.8 Hz, H-9')、δ7.04-7.06 (3H, overlapped, H-10', H-11', H-12')、δ6.92 (1H, s, H-9)、δ6.75 (1H, br-s, H-12) に観測された。特徴的なシグナルとして、δ3.99 (3H, s, 10-OMe)にメトキシ基のプロトン、δ3.64 (3H, s, CO2Me)にカルボン酸メチルのプロトン、δ7.70 (1H, br-s, NH) にインドールのN−Hのプロトンが観測されたことから、ボアカンギン(voacangine)ユニットの存在が示唆された。また、δ2.46 (3H, s, CO2Me') にベンゼン環によって遮蔽され高磁場シフトしたカルボン酸メチルのプロトン、δ2.59 (3H, s, NMe') にN-Meのプロトン、δ5.31 (1H, q, J=6.8 Hz, H-19')およびδ1.65 (3H, d, J=6.5 Hz, H3-18') にエチリデンのプロトン、およびδ7.45 (1H, br-s, N'H) にインドールのN−Hのプロトンが観測されたことから、ボバシン(vobasine)ユニットの存在が示唆された。
以上のスペクトル解析よりボアカンギンユニットとボバシンユニットからなるビスインドールアルカロイドと推定した。両ユニットの結合様式については、δ6.92 (H-9)、δ6.75 (H-12)にシングレットの芳香族プロトンのシグナルが2本観測されたことからボアカンギンユニットのパラの位置関係にプロトンが存在すると考え、ボアカンギンユニットの11位と、ボバシンユニットの3’位が結合していると推定した。従って、本化合物をボアカミンと推定し、各種スペクトルデータを下記の文献(1)〜(3)と比較したところ一致したので、本化合物をボアカミンと確認した。
(1) H. Achenbach and E. Schaller,Chem. Ber.,1976,109,3527-3536.
(2) W. L. B. Medeiros,I. J. C. Vieira,L. Mathias,R. B-Filho,K. Z. Leal,E. R-Filho,and J. Schripsema,Magn. Reson. Chem.,1999,37,676-681.
(3) V. Agwada,M. B. Patel,M. Hesse,and H. Schmid,Helv. Chim. Acta,1970,53,1567-1577.
【0030】
2.SKB−OH11のデータ
FABMS(NBA) m/z : 705 [M+H]+,
UV (MeOH)λmax nm : 294.0, 287.0, 224.5,
[α]D25 : -66 (c 0.6, CHCl3),
CD (MeOH, 24 ℃, c 0.13 mM): Δε(λnm) : 0 (321), -8.33 (306), 0 (300), +11.72 (297), 0 (291), +1.68 (288), 0 (287), -7.73 (278), 0 (264), +58.81 (240), 0 (234), -97.80 (223), 0 (208),
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): 7.70 (1H, br-s, NH), 7.54 (1H, br-d, J=6.8 Hz, H-9'), 7.45 (1H, br-s, N'H), 7.04-7.06 (3H, overlapped, H-10', H-11', H-12'), 6.92 (1H, s, H-9), 6.75 (1H, br-s, H-12), 5.31 (1H, q, J=6.8 Hz, H-19'), 5.13 (1H, br-d, J=12.0 Hz, H-3'), 4.04 (1H, m, H-5'), 3.99 (3H, s, 10-OMe), 3.70-3.79 (2H, overlapped, H-15', H-21'), 3.64 (3H, s, CO2Me), 3.50 (1H, s, H-21), 3.48 (1H, m, H-6'), 3.35 (1H, m, H-5), 3.07-3.23 (3H, overlapped, H-5, H-6, H-6'), 2.85-2.99 (3H, overlapped, H-3, H-6, H-21'), 2.70-2.73 (2H, overlapped, H-3, H-16'), 2.59 (3H, s, NMe'), 2.58 (1H, m, H-14'), 2.48 (1H, m, H-17), 2.46 (3H, s, CO2Me'), 1.98 (1H, br-d, J=13.2 Hz, H-14'), 1.80 (1H, m, H-14), 1.70-1.76 (2H, overlapped, H-15, H-17), 1.65 (3H, d, J=6.5 Hz, H3-18'), 1.53 (1H, m, H-19), 1.41 (1H, m, H-19), 1.28 (1H, m, H-20), 1.07 (1H, m, H-15), 0.87 (3H, dd, J=7.3, 7.3 Hz, H3-18),
13C-NMR (125 MHz, CDCl3): 175.2 (CO2Me), 171.6 (CO2Me'), 150.9 (C-10), 138.1 (C-2', C-20'), 137.2 (C-2), 135.8 (C-13'), 130.2 (C-13), 130.0 (C-8'), 129.8 (C-11), 127.3 (C-8), 121.5 (C-11'), 118.9 (C-10'), 118.8 (C-19'), 117.5 (C-9'), 110.3 (C-12), 110.0 (C-7, C-7'), 109.8 (C-12'), 92.2 (C-9), 59.9 (C-5'), 57.2 (C-21), 56.1 (10-OMe), 54.9 (C-16), 53.1 (C-5), 52.5 (CO2Me, C-21'), 51.8 (C-3), 49.9 (CO2Me'), 47.1 (C-16'), 42.4 (NMe'), 39.0 (C-20), 37.3 (C-3'), 36.5 (C-17), 36.4 (C-14'), 33.6 (C-15'), 32.0 (C-15), 26.7 (C-19), 27.3 (C-14), 22.2 (C-6), 19.4 (C-6'), 12.3 (C-18'), 11.6 (C-18)
【0031】
実施例3(SKB−OH23(3,6−オキシドボアカンギン 3,6-oxidovoacangine))
【化8】

1.SKB−OH23の単離と同定
実施例1で得た粗塩基をシリカゲルオープンカラムに付し、3〜5%メタノール/CHCl3溶出部をシリカゲルフラッシュカラムに付した。その40%酢酸エチル/ヘキサン溶出部をさらにシリカゲルフラッシュカラム(20〜30%酢酸エチル/ヘキサン)、NH−SiO2オープンカラム(20〜30%酢酸エチル/ヘキサン)、NH−SiO2ペンシルカラム(25%酢酸エチル/ヘキサン)、SiO2オープンカラム(10%酢酸エチル/CHCl3)にて順次精製することにより、SKB−OH23を6.8mg得た。
【0032】
本化合物は、UVスペクトル(メタノール)において、288.0、206.5 nmに5−メトキシインドールに特徴的な吸収が認められ、EIMSスペクトルにおいてはボアカンギンより14マス大きい382 [M]+ にピークが認められた。1H−NMRにおける特徴的なシグナルとして、δ5.17 (1H,d,J=3.3 Hz,H-6) に酸素が結合したベンジル位のメチンプロトン、δ4.98 (1H,d,J=4.6 Hz,H-3) にアミナールのメチンプロトンのシグナルが観測された。13C−NMRにおいては、ボアカンギンでδ51.5 (C-3)、δ22.2 (C-6) に観測されたシグナルがそれぞれ本化合物では、δ93.7 (C-3)、δ69.0 (C-6) へと大きく低磁場シフトして観測された。1H−1H COSY測定において、δ7.13 (H-12) のプロトンとδ6.78 (H-11) のプロトン間、δ5.17 (H-6) のプロトンとδ3.47-3.48 (H2-5) のプロトン間、δ4.98 (H-3) のプロトンとδ2.30 (H-14) のプロトン間、δ1.90 (H-15)のプロトンとδ1.27 (H-20)のプロトン間、δ1.57 (H-19)のプロトンとδ0.88 (H3-18)のプロトン間に相関が認められた。HMBC測定において、δ3.87 (CO2Me) のプロトンからδ175.6 (CO2Me) の炭素への相関からカルボン酸メチルの存在、δ0.88 (H3-18)のプロトンからδ38.8 (C-20) の炭素への相関から孤立したエチル基の存在、δ3.84 (10-OMe) のプロトンからδ154.5 (C-10)の炭素への相関から芳香環上のメトキシ基の存在が確認された。さらに、δ7.13 (H-12) のプロトンからδ154.5 (C-10) の炭素への相関、およびδ6.98 (H-9) のプロトンからδ117.6 (C-7) の炭素への相関からメトキシ基が10位に存在すると推定した。他にδ5.17 (H-6) のプロトンからδ126.9 (C-8)、δ93.7 (C-3) の炭素、δ3.54 (H-21) のプロトンからδ60.5 (C-6)、δ26.5 (C-19) の炭素、δ1.10 (H-15) のプロトンからδ31.4 (C-17) の炭素、δ2.41 (H-17) のプロトンからδ175.6 (CO2Me) の炭素への相関が認められたことから、標題に示した基本構造であると推定した。CDスペクトルにおいて、265 nmで負のコットン効果を示したことから、16位はボアカンギンと同様にS配置と推定した。さらに本化合物はリジッドな環構造を組むことより、3位S配置、6位R配置、14位R配置、21位S配置となる。このことは、差NOE測定において、δ4.98 (H-3) のプロトンを照射した際、δ5.17 (H-6)、δ3.47-3.48 (H-5)、δ2.30 (H-14)、δ1.10 (H-15) のプロトンにNOEが認められたことからも確認した。また、1H−NMRにおいて、21位のシグナルがシングレットであることから、20位の立体配置をS配置と推定した。以上のスペクトル解析より3,6−オキシドボアカンギンと推定し、各種スペクトルデータを下記の文献(4)と比較したところ一致したので、本化合物を3,6−オキシドボアカンギンと確認した。
(4) N. Ghorbel,M. Damak,A. Ahond,E. Philogene,C. Poupat,P. Potier,and H. Jacquemin,J. Nat. Prod.,1981,44,717-721.
【0033】
2.SKB−OH23のデータ
EIMS m/z (%) : 382 ([M]+, 42), 135 (100),
UV (MeOH)λmax nm (log ε) : 288.0 (3.68), 206.5 (4.26),
CD (MeOH, 24 ℃, c 0.29 mM): Δε(λnm) : 0 (321), +0.31 (311), 0 (292), -0.78 (265), 0 (249), +2.79 (224), 0 (212),
1H-NMR (500 MHz, CDCl3): 7.47 (1H, br-s, NH), 7.13 (1H, d, J=8.8 Hz, H-12), 6.98 (1H, d, J=2.2 Hz, H-9), 6.78 (1H, dd, J=8.8, 2.2 Hz, H-11), 5.17 (1H, d, J=3.3 Hz, H-6), 4.98 (1H, d, J=4.6 Hz, H-3), 3.87 (3H, s, CO2Me), 3.84 (3H, s, 10-OMe), 3.54 (1H, br-s, H-21), 3.47-3.48 (2H, overlapped, H2-5), 2.41 (1H, br-d, J=14.0 Hz, H-17), 2.30 (1H, m, H-14), 2.15 (1H, br-ddd, J=14.0, 4.2, 2.8 Hz, H-17), 1.90 (1H, ddd, J=13.0, 9.5, 4.4 Hz, H-15), 1.57 (1H, m, H-19), 1.40 (1H, m, H-19), 1.27 (1H, m, H-20), 1.10 (1H, br-dd, J=13.0, 7.5 Hz, H-15), 0.88 (3H, dd, J=7.5, 7.5 Hz, H3-18)
13C-NMR (125 MHz, CDCl3): 175.6 (CO2Me), 154.5 (C-10), 138.6 (C-2), 128.8 (C-13), 126.9 (C-8), 117.6 (C-7), 112.0 (C-11), 111.6 (C-12), 99.4 (C-9), 93.7 (C-3), 69.0 (C-6), 60.5 (C-5), 59.6 (C-21), 55.9 (10-OMe), 54.1 (C-16), 52.8 (CO2Me), 38.8 (C-20), 31.4 (C-17), 29.9 (C-14), 29.8 (C-15), 26.5 (C-19), 11.6 (C-18)
【0034】
実施例4(SKB−OH28)
【化9】

1.SKB−OH28の単離と構造決定
実施例1で得た粗塩基をシリカゲルオープンカラムに付し、3〜5%メタノール/CHCl3溶出部をシリカゲルフラッシュカラムに付した。その10%メタノール/酢酸エチル溶出部をさらにシリカゲルフラッシュカラム(3%メタノール/CHCl3)、NH−SiO2オープンカラム(40%酢酸エチル/ヘキサン)、SiO2フラッシュカラム(3%メタノール/CHCl3)にて順次精製することによりSKB−OH28を1.4mg得た。
【0035】
本化合物は、UVスペクトル(メタノール)において、285.0、203.5 nmに5−メトキシインドールに特徴的な吸収が認められた。またEIMSスペクトルにおいて、3,6−オキシドボアカンギン(SKB−OH23)より16マス大きい398 [M]+ にピークが認められ、高分解能EIMSスペクトルの結果、分子式C22H26N2O5が得られた。1H−NMR (600 MHz,CDCl3)、13C−NMR (150 MHz,CDCl3) は、ともに3,6−オキシドボアカンギンとよく類似したチャートを与えた。1H−NMRにおいて、3,6−オキシドボアカンギンでδ3.47-3.48 (H2-5)に観測された5位メチレンプロトンが1H分しか認められず、さらにδ5.16 (H-5) へ低磁場シフトして観測された。また13C−NMRにおいて、5位炭素のシグナルが低磁場シフトして観測されたことから、本化合物は3,6−オキシドボアカンギンの5位に水酸基が導入された構造を有すると推定した。1H−1H COSY測定において、δ7.13 (H-12)のプロトンとδ6.80 (H-11)のプロトン間、δ5.24 (H-3) のプロトンとδ2.30 (H-14) のプロトン間、δ1.41 (H-19)のプロトンとδ0.89 (H3-18)のプロトン間に相関が認められた(下図参照)。
【化10】

【0036】
HMBC測定において、δ3.88 (CO2Me) のプロトンからδ175.0 (CO2Me) の炭素への相関からカルボン酸メチルの存在、δ0.89 (H3-18)のプロトンからδ38.4 (C-20) の炭素への相関から孤立したエチル基の存在、δ3.84 (10-OMe) のプロトンからδ154.7 (C-10)の炭素への相関から芳香環上のメトキシ基の存在が確認された。さらに、δ7.13 (H-12)のプロトンからδ154.7 (C-10)の炭素への相関からメトキシ基が10位に存在すると推定した。他にδ5.27 (H-6) のプロトンからδ139.0 (C-2)、δ93.4 (C-3) の炭素、δ5.16 (H-5) のプロトンからδ59.0 (C-21) の炭素、δ2.43 (H-17) のプロトンからδ175.0 (CO2Me)、δ29.5* (C-15) の炭素、δ1.57 (H-19) プロトンからδ29.5* (C-15) 炭素への相関が認められたことから平面構造を推定した。
CDスペクトルにおいては、281 nmで負のコットン効果を示したことから、16位はボアカンギンと同様にS配置と推定した。さらに本化合物はリジッドな環構造を組むことより、6位、14位をR配置、3位、21位をS配置となる。差NOE測定では、δ5.16 (H-5) のプロトンを照射したところ、δ5.27 (H-6)、δ3.69 (H-21) のプロトンにNOEが認められた。これより、5位R配置と推定した。20位の立体配置については1H−NMRにおいて、21位のシグナルがシングレットであることから、S配置と決定した(下図参照)。
【化11】

以上のスペクトル解析より本化合物は、3,6−オキシドボアカンギンの5β位に水酸基が導入された構造を有する新規化合物と決定した。
【0037】
2.SKB−OH28のデータ
EIMS m/z (%) : 398 ([M]+, 27), 75 (100),
HR-EIMS : observed 398.1844, calculated for C22H26N2O5 398.1841,
UV (MeOH)λmax nm (log ε) : 285.0 (3.43), 203.5 (4.01),
CD (MeOH, 24 ℃, c 0.29 mM): Δε(λnm) : 0 (356), -0.24 (320), 0 (306), -0.54 (281), 0 (265), +0.15 (255), 0 (251), -0.26 (241), 0 (231), +2.38 (217),
1H-NMR (600 MHz, CDCl3): 7.53 (1H, br-s, NH), 7.13 (1H, d, J=8.8 Hz, H-12), 7.01 (1H, d, J=2.5 Hz, H-9), 6.80 (1H, dd, J=8.8, 2.5 Hz, H-11), 5.27 (1H, s, H-6), 5.24 (1H, d, J=3.8 Hz, H-3), 5.16 (1H, s, H-5), 3.88 (3H, s, CO2Me), 3.84 (3H, s, 10-OMe), 3.69 (1H, br-d, J=2.8 Hz, H-21), 2.43 (1H, br-d, J=14.0 Hz, H-17), 2.30 (1H, br-s, H-14), 2.13 (1H, br-ddd, J=14.0, 3.0, 3.0 Hz, H-17), 1.91 (1H, m, H-15), 1.57 (1H, m, H-19), 1.41 (1H, dq, J=13.8, 7.1 Hz, H-19), 1.30 (1H, m, H-20), 1.08 (1H, m, H-15), 0.89 (3H, dd, J=7.1, 7.1 Hz, H3-18),
13C-NMR (150 MHz, CDCl3): 175.0 (CO2Me), 154.7 (C-10), 139.0 (C-2), 130.0 (C-13), 128.8 (C-8), 127.1 (C-7), 112.6 (C-11), 111.7 (C-12), 99.5 (C-9), 93.4 (C-3), 92.7 (C-5), 74.9 (C-6), 59.0 (C-21), 55.9 (10-OMe), 53.0*1 (C-16), 52.9*1 (CO2Me), 38.4 (C-20), 32.4 (C-17), 29.7*2 (C-14), 29.5*2 (C-15), 26.6 (C-19), 11.7 (C-18), *1, *2: interchangeable
【0038】
実施例5 カンナビノイド受容体阻害作用の測定
実施例1の抽出操作で得られたメタノールエキス(抽出物)および実施例2〜4で得られた3種類のアルカロイドについてカンナビノイド受容体阻害作用を測定した。
各試料をメタノールに溶解し、メタノール溶液(実施例1からのメタノールエキスについては10mg/mL、実施例2〜4の同定された化合物については10mM)を作成した。次にこの溶液をDMEM/F12培地で100倍に希釈し、試料溶液を7つの濃度に調整し、マイクロプレートに各濃度の試料溶液10μLを分注した。そこに90μLのカンナビノイド受容体1と発光タンパク質であるイクオリンおよびGα16を安定的に発現させた細胞を加えた。その後、代表的なCB1受容体アンタゴニストであるCP55940(Tocris社製:CAS No.83002−04−4、最終濃度が2×10-6M)を添加し、その発光強度(RLU)をFDSS7000(浜松フォトニクス)を用いて測定し評価した。測定は各試料、各濃度について3ウェルずつ行い、平均値を求めて図1に示した。IC50値をグラフより求めた。
図1よりSKB−OH11、SKB−OH23およびSKB−OH28についてIC50を求めたところ、それぞれ29、76、56μg/Lであった。これはカンナビノイド受容体阻害薬として知られるリモナバン(rimonabant)のIC50:2μg/Lにくらべても遜色がない活性であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボアカンガアフリカーナの植物抽出物を含むことを特徴とするカンナビノイド受容体阻害薬。
【請求項2】
式(1):
【化1】

で表されるアルカドイドを含有するカンナビノイド受容体阻害薬。
【請求項3】
式(2):
【化2】

で表されるアルカドイドを含有するカンナビノイド受容体阻害薬。
【請求項4】
式(3):
【化3】

で表されるアルカドイドを含有するカンナビノイド受容体阻害薬。

【図1】
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【公開番号】特開2011−121895(P2011−121895A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280291(P2009−280291)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(597128004)国立医薬品食品衛生研究所長 (22)
【Fターム(参考)】