説明

ボイラの過熱器スプレ流量計測回路

【目的】 ボイラの暖機状態での起動において、過熱器スプレ流量信号の突変に対して動作が不安定にならないスプレ流量計測回路を提供する。
【構成】 ボイラの過熱器1,2からの主蒸気管a,bに属するスプレc,dへの給水を、主給水配管4から遮断弁3,中間配管5,6及びスプレ弁7,8を介して行い、中間配管5,6を流れる流量をスプレ流量検出器9,10で検出し、その検出に基づく加算器29のスプレ流量信号30を加算器34により主給水流量33に加味して給水制御量35とし、加算器29及び加算器34間に切替器32を介設して、上記遮断弁3が全開になるまでは、該切替器32を流量ゼロ設定器31側に切り替え且つスプレ流量の異常信号を無効とし、上記遮断弁3が全開になったときは上記加算器29側に切り替え且つ、スプレ流量の異常信号を有効とする構成とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ボイラの過熱器スプレ流量計測回路に係り、特にホットバイキング起動時におけるスプレ流量検出信号の突変現象に基づく不都合を回避するようにしたスプレ流量計測回路に関するものである。
【0002】
【従来の技術】最近の発電プラントには1000MW級の大容量のものがあり、その蒸気ボイラの水・蒸気系には一次,二次,三次の過熱器が設けられる。例えば重油用の変圧貫流ボイラにおいて、その水・蒸気系に再循環系を備え、気水分離器及び分離タンクで分離されたドレンをボイラ再循環ポンプにより節炭器入口に再循環させ、低負荷時における火炉パス保護に必要な給水流量を確保する一方、ボイラ火炉から出た蒸気を一次,二次,三次の過熱器に通し、高圧タービン入口蒸気温度を538℃に保つといったことが行われる。
【0003】図2はこの一次過熱器1,二次過熱器2の前後のスプレ給水制御系を示したもので、各過熱器1,2の出口側からの二重化主蒸気管a,bにはそれぞれ過熱器スプレc,dが設けられており、これらスプレc,dに対する給水は、エコノマイザ出口(又は給水ポンプ出口)から、スプレ遮断弁3を具備するスプレ給水配管4,これに続く一次,二次への中間配管である分岐配管5,6及びスプレ流量制御弁(以下単にスプレ弁と称する)7,7,8,8を介して行われる。即ち、ホットバイキング起動において、スプレ弁7又は8が開くと、これを受けてスプレ遮断弁3が開き、スプレ水が注水される。このスプレ流量は、分岐配管5,6にそれぞれ設けたスプレ流量検出器(発信器)9,10により検出される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、ホットバイキング起動において、スプレ弁7又は8が開いてスプレ遮断弁3が開いた瞬間に、上記スプレ流量検出器9,10により検出されるスプレ流量信号が急激に大きく変化する突変現象を起こし、スプレ流量計器が振り切れることがあった。その原因としては、通常、スプレ弁7又は8のバルブ出口からスプレc,dの注入点までの区間eが水で充満されているが、この水が吸引されて上記区間から無くなってしまうためであることが分かった。
【0005】詳述するに、ボイラを止めてMFT(マスターフューエルトリップ)状態に入ると、強制的にスプレ弁7又は8は閉じられ、該弁が全閉になるとこれを受けてスプレ遮断弁3が全閉となる。このとき分岐配管5,6及び区間eには水が充満されている。しかし、次のボイラ立上げ後においてボイラが暖まって来ると、区間eの水は引かれて無くなってしまう。このため、ホットバイキング起動において、まずスプレ弁7又は8が閉じている時点から区間eに封じ込められていたスプレ水が流出し、次いでスプレ弁7又は8が1台でも開になった時点(図3のt1点)でスプレ遮断弁3が開き始め、スプレ水が一気に中間配管である分岐配管5,6に充満する。この分岐配管5,6の空間を埋めるべくスプレ水が勢いよく分岐配管5,6に流入することに起因して、スプレ流量検出器9,10が大きな流量変化を検出する。即ち、図3に示すように、スプレ流量検出器9,10から突変信号fが発生してスケールgを振り切ってしまうことになり、スプレ流量が正常か否かを監視している異常信号検出回路が応答して異常信号を出力する。
【0006】上記異常信号が発生すると、これを受けて給水流量制御系統が自動から手動の状態に切り替わる。このため運転監視員は機器の異常の有無をチェックした後、再度自動制御状態に戻す操作が必要となるだけでなく、給水ポンプも手動状態に戻ってしまう構成の下では、ボイラの再始動も容易にはできなくなる。
【0007】本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、ボイラの暖機状態での起動において、スプレ流量検出信号の上記突変現象に対して動作が不安定にならないようにしたボイラの過熱器スプレ流量計測回路を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するため、ボイラの過熱器出口側からの主蒸気管に属するスプレへの給水を、主給水配管から遮断弁,中間配管及びスプレ弁を介して行い、中間配管を流れる流量をスプレ流量検出器で検出し、その検出されたスプレ流量を加算器により主給水流量に加味して給水制御量とするスプレ流量計測回路において、スプレ流量ゼロを定める設定器を設け、上記加算器に入力するスプレ流量を遮断弁が全開になるまでは上記設定器に切り替え遮断弁が全開になると上記スプレ流量検出器に切り替える切替器を設け、且つスプレ流量が正常か否かを監視している異常信号検出器の異常信号を上記遮断弁が全開になるまで無効にするAND回路を設けたものである。
【0009】
【作用】切替器は、過熱器スプレ遮断弁が全開になるまでは流量ゼロ設定器側を選択しており、設定器が定めている流量ゼロの値が加算器に入力され、主給水流量が直接に給水制御量となる。従って、過熱器スプレ遮断弁が全開になるまでスプレ弁が中間開度でいる間において、スプレ流量検出器からのスプレ流量信号に突変現象が生じたとしても、その影響は加算器に入力されない。また、突変現象による異常信号が無効とされているので、給水量制御系統の自動が手動に切替わることがない。遮断弁が全開になったときは、もはや突変現象は生じないので、スプレ流量検出器からのスプレ流量信号が加算器に入力され、主給水流量に加味されて給水制御量となる。
【0010】
【実施例】以下、本発明の一実施例を添付図面に基づいて説明する。
【0011】図1に示すボイラの過熱器スプレ流量の計測回路は、図2で説明したボイラの一次過熱器1,二次過熱器2の前後のスプレ給水制御系を前提としている。即ち、各過熱器1,2の出口側からの二重化主蒸気管a,bにはそれぞれ過熱器スプレc,dが設けられ、これらスプレc,dに対する給水は、エコノマイザ出口(又は給水ポンプ出口)から、スプレ遮断弁3を具備するスプレ給水配管4,これに続く一次,二次への分岐配管5,6及びスプレ弁7,7,8,8を介して行われる。スプレ遮断弁3はスプレ弁7又は8がどれか1台でも開状態になった時点で開き、スプレ水を注水する。スプレ流量は、中間配管である分岐配管5,6にそれぞれ設けたスプレ流量検出器9,10により検出される。
【0012】図1はスプレ流量計測回路であり、上述した中間配管たる分岐配管5,6に属するスプレ流量検出器9,10と、平方根回路27,28と、加算器29とによりスプレ流量検出部26が構成されている。このスプレ流量検出部26は、スプレ流量検出器9,10の検出信号(瞬時値)を平方根回路27,28に通して実効値とした後に加算器29で加算することにより、一次過熱器1及び二次過熱器2のスプレ全体のスプレ流量信号30を作成する。スプレ流量信号30は、切替器32を通って加算器34に送られ、ここで主給水流量33との減算が行われ、その減算結果が火炉パス通過流量35として給水流量制御系統22に入力されるようになっている。加算器29及び加算器34間に挿入された切替器32は、a,b2つの入力端子を二者択一的に選択するものであり、通常はb側入力を選択していて、設定器31が定める流量ゼロ(トン/時間)の設定信号を加算器34に与えている。しかし、上記過熱器スプレ遮断弁3の遮断弁全開信号25が成立した合には、該信号を受けてb側入力からa側入力に切り替わり、スプレ流量信号30を加算器34に与える。
【0013】各スプレ流量検出器9,10には、それぞれシグナルモニタから成る上下限振り切れ検出器16、単独信号の突変検出器17が接続されており、これら上下限振り切れ検出器16、単独信号の突変検出器17の出力がそれぞれOR回路19に入力されるようになっている。
【0014】上記OR回路19の出力信号はAND回路20の一方の入力として加えられており、このAND回路20を通し、制御許可信号21として給水流量制御系統(制御回路)22に加わり、該給水流量制御系統22の自動制御を許すようになっている。但し、上記AND回路20の他方の入力端子には、OR回路23を通し、MFT(マスターフューエルトリップ)信号24と加熱器スプレ遮断弁3の遮断弁全開信号25とが入力されており、いずれかの信号が成立した場合にのみAND条件が成立する。
【0015】次に動作について説明する。
【0016】まず上記設定器31及び切替器32が無く、スプレ流量信号30が直接に加算器34に加えられている回路構成の場合から説明する。現在、ボイラに火が入ってないMFT状態にあるものとすると、スプレ弁7,8及びスプレ遮断弁3は閉じられており、分岐配管5,6及び区間eは水で充満されている。次のボイラ立上げ後においてボイラが暖まって来ると、区間eの水が無くなる。ここで、まずスプレ弁7又は8が少し開くと分岐配管5,6のスプレ水が流出し、次いでスプレ弁7又は8が開状態になると、スプレ遮断弁3が開き始め(図3のt1点)、スプレ遮断弁3からのスプレ水が一気に分岐配管5,6内に流入する。このため、スプレ流量検出器9,10が大きな流量変化を検出し、スプレ流量信号30が図3に示した突変信号fとなり、スプレ流量検出器9,10に接続された異常信号検出回路(上下限振り切れ検出器16、単独信号の突変検出器17)が応答し、給水流量制御系統内の給水駆動ポンプ等の制御が自動から手動に切り替わってしまう。
【0017】しかし、設定器31及び切替器32を設けた本回路の場合、上記スプレ遮断弁3が中間開度にある期間中は、まだ遮断弁全開信号25が成立していないので、切替器32がb側入力側に切り替わっている。従って、設定器31からの流量ゼロ(トン/時間)の設定信号が加算器34の一方の入力となり、主給水流量33がそのまま火炉パス通過流量35として給水流量制御系統22に入力される。上記突変信号f(スプレ流量信号30)を発生するような突変現象によって、上記異常信号検出回路(上下限振り切れ検出器16、単独信号の突変検出器17)が応答しても、加熱器スプレ遮断弁全開信号25がMFT24のいずれかが成立していない限り、AND条件が成立せず給水流量制御系統22が自動制御から手動制御に切り替わってしまうことがない。また、突変信号fが火炉パス通過流量35に含まれて給水流量制御系統に入力されるということがない。
【0018】続いて、過熱器スプレ遮断弁3は、例えば10〜20秒後に全開状態になる。従って、遮断弁全開信号25が立ち、切替器32がb側入力からa側入力に、つまりスプレ流量検出部26側に切り替わり、スプレ流量信号30が加算器34に与えられる。これ以降においては、上述したスプレ流量検出部26からのスプレ流量信号30が突変信号fとなることはない。
【0019】尚、上記実施例では、一次過熱器と二次過熱器との間の突変信号について適用したが、更に三次過熱器を有するボイラの場合には、二次過熱器と三次過熱器との間の突変信号についても同様の構成を以て適用することができる。また、分岐配管によらないで各スプレが独立の中間配管により給水される場合においても、その中間配管でのスプレ流量計測にて生じる突変現象に関して、同様の構成を以てその影響を回避することができる。
【0020】
【発明の効果】以上要するに本発明のボイラの過熱器スプレ流量計測回路によれば、過熱器スプレ遮断弁が全開になるまでは、設定器が定めている流量ゼロの値が加算器に入力されるため、その間にスプレ流量検出器からのスプレ流量信号に突変現象が生じたとしても、その影響は出力に現れない。また、これ迄のようにスプレ流量信号の突変により給水流量制御系が自動から手動に切り替わってしまうことがなく、運転監視員による機器異常のチェックや、再度自動制御状態に戻す操作が必要でなくなる。また、給水ポンプが手動状態に戻ってボイラの再始動が困難となるという事態も生じない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の過熱器スプレ流量計測回路の一実施例を示す構成図である。
【図2】ボイラの過熱器スプレに対する給水系統を示す図である。
【図3】スプレ流量信号の突変現象を示す説明図である。
【符号の説明】
1 一次過熱器
2 二次過熱器
3 スプレ遮断弁
4 スプレ給水配管
5,6 分岐配管(中間配管)
7,8 スプレ流量制御弁(スプレ弁)
9,10 スプレ流量検出器(発信器)
16 上下限振り切れ検出器
17 突変検出器
19 OR回路
20 AND回路
21 制御許可信号
22 給水流量制系統
23 OR回路
24 MFT(マスターフーエルトリップ)信号
25 遮断弁全開信号
26 スプレ流量検出部
27,28 平方根回路
29 加算器
30 スプレ流量信号
31 設定器
32 切替器
33 主給水流量
34 加算器
35 火炉パス通過流量
a,b 主蒸気管
c,d 過熱器スプレ
e 区間
f 突変信号
g スケール

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ボイラの過熱器出口側からの主蒸気管に属するスプレへの給水を、主給水配管から遮断弁,中間配管及びスプレ弁を介して行い、中間配管を流れる流量をスプレ流量検出器で検出し、その検出されたスプレ流量を加算器により主給水流量に加味して給水制御量とするスプレ流量計測回路において、スプレ流量ゼロを定める設定器を設け、上記加算器に入力するスプレ流量を遮断弁が全開になるまでは上記設定器に切り替え遮断弁が全開になると上記スプレ流量検出器に切り替える切替器を設け、且つスプレ流量が正常か否かを監視している異常信号検出器の異常信号を上記遮断弁が全開になるまで無効にするAND回路を設けたことを特徴とするボイラの過熱器スプレ流量計測回路。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平6−82006
【公開日】平成6年(1994)3月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−238274
【出願日】平成4年(1992)9月7日
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)