説明

ボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置

【課題】ボイラに酸素および炭酸成分を除去した給水を安定的に供給でき、さらにボイラへの供給水の塩類濃度を低く抑えることができる節水型のボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置を提供する。
【解決手段】給水タンク、酸素および炭酸成分除去手段、酸素および炭酸成分が除去された水のpHを中性以上に上昇させるpH上昇手段と給水タンク、酸素および炭酸成分除去手段とを逆止弁および第1ポンプを順に介して接続する第1送水管、酸素および炭酸成分除去手段とpH上昇手段とを第2ポンプを介して接続する第2送水管、pH上昇手段と需要箇所とを第3ポンプを介して接続する第3送水管、逆止弁と第1ポンプの間の第1送水管および第2ポンプとpH上昇手段との間の第2送水管とを接続する第4送水管を有し、第2送水管の一部の水が第1送水管に返送されるとともに給水タンクへの逆流を逆止弁で防止するボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラに酸素および炭酸成分を除去した水を供給するボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種化学プラントや、工場、発電所等で使用されるボイラにおいては、給水に含まれている酸素や二酸化炭素等の溶存気体が、ボイラ本体や当該ボイラ本体の前段に配置されている熱交換器やエコノマイザなどの腐食を引き起こす原因となる。
【0003】
また、給水中の炭酸塩や炭酸水素塩は熱分解して二酸化炭素を生じ、その二酸化炭素が蒸気系に移行するため、蒸気や蒸気の凝縮水と接触する熱交換器や配管にもしばしば腐食が発生する。
【0004】
ボイラ本体や当該ボイラ本体の前段に配置されている熱交換器やエコノマイザ、蒸気・凝縮水ラインの配管や熱交換器などの関連機器に腐食が起こると、蒸気の漏洩によるエネルギーの損失が発生したり、配管や熱交換器等の損傷箇所の修復に多くの経費と時間が必要となる場合がある。
【0005】
従って、従来からボイラへの供給水では溶存気体の除去が行われている。溶存気体の除去装置としては、加熱脱気装置、真空式脱気装置、膜脱気装置等が提案されている。しかし、それら装置の単独使用では、水中の溶存気体を除去することはできるが、重炭酸イオンのようなイオン成分を除去することはできなかった。
【0006】
その為、水中から酸素および炭酸ガス、重炭酸イオン、炭酸イオン等の炭酸成分を除去し、ボイラ等の水の需要箇所に給水する装置として、図2に示すようなボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置10も提案されている。
【0007】
従来のボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置10は、給水2cに酸性液11aを供給し、給水のpHを酸性に調整するpH調整手段11と、酸性に調整された給水と窒素を接触させ酸素および炭酸成分を除去する窒素式脱酸素脱炭酸装置12と、酸性域で酸素および炭酸成分が除去された水にアルカリ性液13aを添加して中性以上のpHに調整するpH中和手段13と、からなる。なお、図2中の矢印は配管中の液体の流れ方向を示し、丸Pは液体を矢印方向に送水するポンプを意味する。
【0008】
ボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置10と同様の装置として、特許文献1が公開されている。さらに、窒素を再利用するものとして特許文献2が公開されている。また、脱気水供給装置として、特許文献3も公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−047950号公報
【特許文献2】特開2001−129305号公報
【特許文献3】特開2003−300062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図2に示すような従来のボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置10では、ボイラ6に必要な水需要量に応じてポンプ14が駆動するので、窒素式脱酸素脱炭酸装置12への供給水もボイラ6に必要な水需要量に応じて停止したり、給水量が変動したりする。このように、窒素式脱酸素脱炭酸装置12への供給水量が変化すると、運転条件によっては所定の脱酸素脱炭酸能力を確保することが困難となり、その場合、十分に脱酸素脱炭酸されていない水がボイラ6に供給されることとなり、ボイラ6およびその関連機器に腐食を生じる原因となる。
【0011】

窒素式脱酸素脱炭酸装置12への供給水量を一定に保つ方法として、特許文献3に記載されているように、ボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置10の処理水の一部を給水タンク等、ボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置10の供給水側に戻す方法も考えられるが、この場合、窒素式脱酸素脱炭酸装置12の前後で酸性液11a、アルカリ性液13aの添加を繰り返すことになり、ボイラ6に供給される水の塩類濃度が徐々に上昇してしまう。
【0012】
ボイラ給水の塩類濃度が上昇し、それに応じてボイラ本体内の水の塩類濃度が上昇すると、腐食、スケール、キャリーオーバー等の障害が生じやすくなる。障害防止のためには、ボイラ6のブロー率を上昇させたり、大量のボイラ処理剤(防食剤やスケール防止剤)の添加が必要であった。
【0013】
そこで、本発明は、ボイラに酸素および炭酸成分を除去した給水を安定的に供給でき、さらにボイラへの供給水の塩類濃度を低く抑えることができる節水型のボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記課題を解決するため、給水を貯留する給水タンクと、被処理水のpHを酸性にする手段および被処理水を窒素ガスと接触させる手段とを備え、被処理水中に含まれる酸素および炭酸成分を除去する酸素および炭酸成分除去手段と、酸素および炭酸成分が除去された水のpHを中性以上に上昇させるpH上昇手段とを有するボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置であって、さらに、(1)前記給水タンクと酸素および炭酸成分除去手段とを逆止弁および第1ポンプを順に介して接続する第1送水管と、(2)前記酸素および炭酸成分除去手段とpH上昇手段とを第2ポンプを介して接続する第2送水管と、(3)前記pH上昇手段と需要箇所とを第3ポンプを介して接続する第3送水管と、(4)前記逆止弁と第1ポンプの間の前記第1送水管および前記第2ポンプとpH上昇手段との間の前記第2送水管とを接続する第4送水管とを有し、前記酸素および炭酸成分除去手段では、前記需要箇所の最大水需要量以上の水を常に処理しており、前記酸素および炭酸成分が除去された水の一部が前記第4送水管を介して前記第1送水管に返送されるとともに、前記給水タンクへの逆流は前記逆止弁で防止されることを特徴とするボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置の構成とした。
【0015】
また、前記被処理水のpHを酸性にする手段が、りん酸、重合りん酸、ホスホン酸、カルボン酸系ポリマー、或いは水酸基とカルボキシル基をそれぞれ1つ以上有するか、又はカルボキシル基を2つ以上有する有機酸から選ばれた1種又は2種以上を被処理水に添加する手段であることを特徴とする前記ボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置の構成とした。或いは、前記被処理水のpHを酸性にする手段が、被処理水の全部又は一部をH型強酸性陽イオン交換樹脂と接触させる手段であることを特徴とする前記ボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置の構成とした。
【0016】
さらに、前記pH上昇手段が、アルカリ性のボイラ薬剤を添加することを特徴とする前記何れかに記載のボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置の構成、また前記アルカリ性のボイラ薬剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アミン類から選ばれた1種又は2種以上の薬剤を含むことを特徴とする前記ボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置の構成とした。
【0017】
加えて、前記pH上昇手段又は第3ポンプ上流側の第3送水管に分岐配管を設け、前記分岐配管にpH測定手段を設置すること特徴とする前記何れかに記載のボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置の構成、また前記pH測定手段と前記第2ポンプの上流側の前記第2送水管を戻し配管で接続することを特徴とする前記ボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置の構成とした。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、上記構成であるから次の効果を発揮する。ボイラの水需要量に関係なく、酸素および炭酸成分除去手段には、一定流量の水が常に供給されるので、発停や流量変動によって脱酸素および脱炭酸能力が変動する恐れが無く、十分に脱酸素および脱炭酸処理された水を、安定してボイラに供給することができる。また、酸素および炭酸成分除去手段ではボイラの最大水需要量以上の水を常に処理しているので、ボイラには必ず十分に脱酸素および脱炭酸処理された水を供給することができ、ボイラおよびその関連機器の腐食を有効に防止できる。
【0019】
さらに、万が一、酸素および炭酸成分除去手段の不具合、配管詰まりなどの問題が発生した場合には、給水が酸素および炭酸成分除去手段を経ることなく、給水タンクから第4送水管、pH上昇手段を経て直接ボイラに供給されるため、ボイラへの供給水の枯渇による事故を回避することができる。
【0020】
また、pH上昇手段が第1送水管の一部、第2送水管の一部、第4送水管で構成される循環ラインの後段にあるため、上記循環ラインには通常、酸性の水が流れることとなり、pH調整薬剤(酸性液、アルカリ性液)の添加によるpHの低下、上昇を繰り返すことが無く、ボイラへの供給水の塩類濃度を無駄に上昇させることが無い。従って、ボイラのブロー率を上昇させる必要が無く節水に繋がる。また、ボイラ水の塩類濃度上昇に伴うボイラ薬剤の大量添加も不要となる。さらに、給水タンクと第4送水管との接続部との間の第1送水管に逆止弁が設けられているので、循環ラインを流れる酸性の水が給水タンクに逆流、充満することが無く、給水タンクを耐酸性材質にせずに済む。
【0021】
さらに、酸素および炭酸成分除去手段の被処理水のpHを酸性にする手段として、ボイラの防食や防スケールを目的とした添加剤を用いることで、塩酸や硫酸等を添加する場合と比較して無駄な塩類濃度の上昇が避けられる。また、被処理水のpHを酸性にする手段として、被処理水の全部または一部をH型強酸性陽イオン交換樹脂と接触させる手段とすることで、ボイラへの供給水の塩類濃度上昇を一層抑制することができる。
【0022】
また、pH上昇手段が、本来、ボイラに添加する目的のアルカリ性のボイラ薬剤を用いることで、無駄な塩類濃度の上昇をより避けられる。
【0023】
加えて、pH上昇手段又は第3ポンプ上流側の第3送水管に分岐配管を設けて、その分岐配管にpH測定手段を設置することで、ボイラへの供給水のpHが適正かどうか監視することができる。また、pHの測定結果をpH上昇手段にフィードバックさせて、ボイラへの供給水のpHを適正範囲に制御することも可能である。さらに、pH測定手段の出口水を循環ラインに戻すことで、捨てる水が無くなり節水できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明であるボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置の一例の模式図である。
【図2】従来のボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置の一例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、添付図面に基づいて、本発明であるボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置について詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
図1に示すように、本発明の一例であるボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置1は、給水ライン2と、酸素および炭酸成分除去ライン3と、pH上昇手段4と、送水ライン5と、pH測定ライン7からなり、ボイラ6の需要箇所に脱酸素および脱炭酸水を供給する装置である。需要箇所とは、ボイラ6そのもの、或いはボイラ6の上流に設置された一時貯留タンク、熱交換器、その他給水を必要とするボイラ関連機器、設備などである。
【0027】
給水ライン2は、給水配管2aと、給水タンク2bと、仕切弁2e、逆止弁2f、T字配管2g、第1ポンプ2hがこの記載順に介設された第1送水管2dとからなる。ボイラ6への給水2cは、給水配管2aを通り、給水タンク2bに一時貯留される。貯留された給水2cは第1ポンプ2hの駆動により酸素および炭酸成分除去手段3aへ送水される。
【0028】
仕切弁2eは、給水2cの送水、中止を制御する開閉弁で必要に応じて設置する。ボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置1の可動中は、仕切弁2eは開放され給水2cを第1送水管2dに流入させる。逆止弁2fは、給水タンク2bへの酸素および炭酸成分が除去された水の逆流を防止する弁で、給水2cを給水タンク2b側からボイラ6方向へのみ通す。T字配管2gは、第1送水管2dをpH上昇手段4方向に分岐する。
【0029】
酸素および炭酸成分除去ライン3は、酸素および炭酸成分除去手段3aと、第2ポンプ3cが設けられた第2送水管3bと、T字配管3dと、第4送水管3eとからなり、酸素および炭酸成分除去手段3aで被処理水から酸素および炭酸成分が除去された水は、第2ポンプ3cによって、次のpH上昇手段4に送られるとともに、その一部は第1送水管2dに返送される。
【0030】
なお、被処理水とは、第1送水管2dを流れる給水2cと、第4送水管3eを通り第1送水管2dに返送された酸素および炭酸成分が除去された水のことである。また、酸素および炭酸成分が除去された水とは、必ずしも酸素および炭酸成分が完全に除去された水を意味するのではなく、後段のボイラおよび関連機器に腐食障害を起こさないレベルに水中の溶存酸素および炭酸成分が低減された水を示すものである。
【0031】
酸素および炭酸成分除去手段3aは、被処理水のpHを酸性にする手段および被処理水を窒素ガスと接触させる手段により構成される。図1では、被処理水pHの酸性域への調整と窒素ガスとの接触を一体として行うものとして、酸素および炭酸成分除去手段3aを記載している。
【0032】
被処理水のpHを酸性にする手段としては、被処理水に酸性液を添加するのが一般的であり、被処理水を窒素ガスと接触させる手段の手前で酸性液を供給する方法や被処理水を窒素ガスと接触させる手段内で酸性液を供給する方法等があるが、被処理水のpHを効率的に酸性域に調整し、窒素ガスとの接触により被処理水中の炭酸成分を効率的に除去可能な方法であれば特に制限されない。
【0033】
被処理水中の炭酸成分を効率的に除去するためには、被処理水のpHを6.5以下に調整し、被処理水中の炭酸成分の少なくとも一部を遊離の二酸化炭素とする必要がある。pHが低いほど炭酸成分が遊離の二酸化炭素となる比率は高くなり、窒素ガスと接触させた場合の炭酸成分の除去には有利となるが、調整pHが過度に低くても、それに見合う炭酸成分の除去効果は得られず、反面、強酸性水による装置の腐食の問題や、pH調整のための酸の使用量が増加するなどの不具合を生じる。従って、pHの調整範囲は5.0以上6.0以下とするのが好ましい。
【0034】
添加する酸性液としては塩酸、硫酸、硝酸、りん酸、重合りん酸等の無機酸や、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とポリアクリル酸との共重合体、ビス(ポリ−2−カルボキシエチル)ホスフィン酸等のカルボン酸系ポリマー、或いはコハク酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、安息香酸、シュウ酸、ソルビン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の有機酸等の水溶液を用いることができる。これらの酸は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0035】
添加する酸性液として、りん酸、重合りん酸、ホスホン酸、カルボン酸系ポリマー、或いはコハク酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、安息香酸、シュウ酸等の水酸基とカルボキシル基をそれぞれ1つ以上有するか、又はカルボキシル基を2つ以上有する有機酸から選ばれた1種又は2種以上の水溶液を使用した場合、塩酸や硫酸等を添加した場合と比較して無駄な塩類濃度の上昇が避けられるとともに、これらがボイラの防食剤、スケール防止剤としても機能するので有利である。
【0036】
また、被処理水のpHを酸性にする手段を、被処理水の全部または一部をH型強酸性陽イオン交換樹脂と接触させる手段とし、被処理水を窒素ガスと接触させる手段の前段に設置することもできる。この場合、ボイラへの供給水の塩類濃度上昇を一層抑制することが可能となる。
【0037】
被処理水を窒素ガスと接触させる手段は、窒素ガスと被処理水とを効率的に接触させ、窒素ガスと酸素及び二酸化炭素を置換させることができるものであればよく、特に制限は無い。例えば、被処理水中に窒素ガスをバブリングする方式のもの、塔上部からミキシングエレメントを介して被処理水を噴霧落下させ下部から窒素ガスを供給して接触させる方式のもの、また、両者を組み合わせた方式のものなど従来から用いられている種々の方式のものを用いることができる。詳しくは、特開2004−261691号公報、特開2005−95791号公報等に記載されている。
【0038】
窒素ガス源としては、特に制限はなく、例えば、液体窒素を貯蔵した窒素ボンベなどを使用することができる。なお、施設内に流出した過剰の窒素ガスによる酸欠の問題を回避するために、空気中の窒素を分離して窒素ガスを供給する形式のものが好ましい。空気中から窒素を分離する手段としては、例えば、PSA (Pressure Swing Adsorption) 方式や窒素分離膜を使用する手段を用いることができる。
【0039】
T字配管3dは、第2送水管3bの第2ポンプ3cの後段に設置され、一方は第2送水管3bをpH上昇手段4に接続させるとともに、他方は第1送水管2dのT字配管2gに第4送水管3eを介して接続する。これにより、第2送水管3b中の酸素および炭酸成分が除去された水はボイラ6の需要箇所の水需要量に応じてpH上昇手段4に送られ、ボイラ6に供給される。他方、ボイラ6の需要箇所の水需要量に対して過剰な酸素および炭酸成分が除去された水は、第4送水管3eを介して第2ポンプ3cにより、第1送水管2dに返送される。
【0040】
また、酸素および炭酸成分が除去された水のpHは酸性であるが、逆止弁2fの効果により、酸素および炭酸成分が除去された水が給水タンク2bに逆流することがない。給水タンク2bに逆流すると、酸性の水が給水タンク2bに充満することとなり給水タンク2b内面に腐食が発生し易くなる。
【0041】
その結果、第2送水管3bを流れる酸素および炭酸成分が除去された水の一部は、第4送水管3e、第1送水管2dの一部、第2送水管3bの一部を循環することになる。これら配管を循環ラインともいう。
【0042】
pH上昇手段4は、酸素および炭酸成分除去ライン3を経た酸性の酸素および炭酸成分が除去された水を中性以上のpHに調整する。酸性の酸素および炭酸成分が除去された水をそのままボイラ6に給水すると、ボイラ缶体や付属配管機器を腐食させる恐れがあるためである。ボイラ給水として好ましいpH範囲は、ボイラの種類によって異なるが、概ね7.0から9.0の範囲なので、pH上昇手段4の出口水を直接ボイラに供給する場合には、このpH範囲を目安として酸素および炭酸成分が除去された水のpHをpH上昇手段4で上昇させる。なお、pH上昇手段4によってpH調整された水を単に処理水ということもある。
【0043】
pH上昇手段としては、被処理水にアルカリ性液を添加するのが一般的である。添加するアルカリ性液としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の一般的なアルカリ剤の他、炭酸ナトリウム、りん酸3ナトリウム、或いはアルキルアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリン等の各種アミン類、更には糖類と水酸化アルカリとの反応生成物、リグニンと水酸化アルカリとの反応生成物、タンニンと水酸化アルカリとの反応生成物、没食子酸と水酸化アルカリとの反応生成物等、一般にボイラへの添加薬剤として知られているもので、アルカリ性を示す物質の1種または2種以上の水溶液を利用することができる。特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アミン類は、少量の添加でpHを上昇させる効果が高いため、好ましい。
【0044】
本発明では、pH上昇手段4を、酸素および炭酸成分が除去された水のうち、ボイラ6の需要箇所に送られる供給水のみを処理する位置に配置している。これにより、ボイラ6の需要箇所に供給されずに余った酸素および炭酸成分が除去された水は、pH上昇手段4を介することなく酸性状態を保ったまま循環ラインを循環することになる。従って、循環ラインを流れる水に対して、pH調整薬剤(酸性液、アルカリ性液)の添加によるpHの低下、上昇を繰り返すことが無く、ボイラ6への供給水の塩類濃度を無駄に上昇させることが無い。また、酸性液、アルカリ性液の使用量を削減することができることとなる。
【0045】
送水ライン5は、pH上昇手段4とボイラ6の需要箇所を接続する第3送水管5aと、第3送水管5aに設けられ、処理水をボイラ6の需要箇所に送水する第3ポンプ5bからなる。
【0046】
pH測定ライン7は、分岐配管7aと、pH測定部7bと、pH測定器7cと、戻し配管7dとからなり、必要に応じて設けられ、pH上昇手段4を経た処理水の一部を分岐配管7aに流し処理水のpH値を測定する。
【0047】
分岐配管7aは、pH上昇手段4または第3ポンプ5b上流側の第3送水管5aとpH測定部7bとを接続する。また、pH測定部7bは、分岐配管7a中であっても、分岐配管7aとは別に設けてもよい。図1ではpH上昇手段4から分岐配管7aを分岐し、処理水の一部を分岐配管7aとは別に設けたpH測定部7bに流す実施の形態を示した。
【0048】
戻し配管7dは、pH測定部7bと第2ポンプ3c上流側の第2送水管3bとを接続する。なお、pH測定部7bを別途設けない場合には、分岐配管7aと戻し配管7dは一本の連結した配管となる。
【0049】
また、戻し配管7dを設けることなく、pH測定部7bでpHを測定した処理水は、そのまま破棄してもよい。一方、戻し配管7dを設けることで、処理水をボイラ6の需要箇所の給水として再利用でき、水を節約することができる。
【0050】
pH測定ライン7を設けることで、pH上昇手段4からボイラ6の需要箇所に供給される処理水のpH値を把握、管理することができるようになる。これにより、pH測定器7cの測定データを基に、処理水のpH値が中性以上に調整されていないと判明した場合には、警報を発したり、警告灯を点滅させるなどして、処理水のpH異常を知らせることで、ボイラ6への酸性水の供給を防止する対策を適切に取ることができる。さらに、pH測定器7cで得られた測定データを制御信号として利用し、pH上昇手段4におけるアルカリ性液の添加量を増減させる自動制御なども可能になる。
【0051】
なお、給水タンク2bの給水2cが酸素および炭酸成分除去手段3aを介さず、直接第4送水管3eを通りボイラ6に送水されることを防ぐと共に、酸素および炭酸成分除去手段3aには常に一定流量の水を供給するため、第1ポンプ2h、第2ポンプ3cの吐出容量は、第3ポンプ5bの吐出容量よりも大きく設定しておく必要がある。例えば、第1、2ポンプ2h、3cの吐出容量を第3ポンプ5bの吐出容量の1.1〜1.5倍程度に設定するとよい。
【0052】
このようにしてなる本発明であるボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置1では、酸素および炭酸成分除去手段3aで処理される水の水量は、ボイラ6の負荷が変動し必要な水需要量が変動しても対応できるように、ボイラ6の最大水需要量より過剰に設定されている。従って、ボイラ6の水需要量に関係なく、酸素および炭酸成分除去手段3aには常に一定流量の水が供給されるので、発停や流量変動によって脱酸素および脱炭酸能力が変動する恐れが無く、十分に脱酸素および脱炭酸処理された水を、安定してボイラ6に供給することができる。また、酸素および炭酸成分除去手段3aではボイラ6の最大水需要量以上の水を常に処理しているので、ボイラ6には必ず十分に脱酸素および脱炭酸処理された水を供給することができ、ボイラ6およびその関連機器の腐食を有効に防止できる。
【0053】
さらに、万が一、酸素および炭酸成分除去手段3aの不具合、配管詰まりなどの問題が発生した場合には、給水タンク2bの給水2cが酸素および炭酸成分除去手段3aを経由せず、第1送水管2dの一部、第4送水管3e(図1中白抜き三角)、第2送水管3bの一部、pH上昇手段4、送水ライン5を経由してボイラ6に直接供給されるため、ボイラ6への供給水の枯渇による事故を回避することができる。
【0054】
なお、需要箇所はボイラ6、ボイラ関連機器及び設備でなくとも、他の酸素および炭酸成分除去水を必要とする機器或いは設備であっても、本発明であるボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置1を給水装置として利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明であるボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置は、各種工場等で用いられるボイラへの安定的な給水装置として利用でき、pH調整薬剤の使用量を軽減できるため、ボイラの需要箇所への供給水の塩類濃度を低く抑えることができ、ボイラ薬剤の使用量も軽減できる。さらに給水の無駄がなく、節水にも寄与する。
【符号の説明】
【0056】
1 ボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置
2 給水ライン
2a 給水配管
2b 給水タンク
2c 給水
2d 第1送水管
2e 仕切弁
2f 逆止弁
2g T字配管
2h 第1ポンプ
3 酸素および炭酸成分除去ライン
3a 酸素および炭酸成分除去手段
3b 第2送水管
3c 第2ポンプ
3d T字配管
3e 第4送水管
4 pH上昇手段
5 送水ライン
5a 第3送水管
5b 第3ポンプ
6 ボイラ
7 pH測定ライン
7a 分岐配管
7b pH測定部
7c pH測定器
7d 戻し配管
10 ボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置
11 pH調整手段
11a 酸性液
12 窒素式脱酸素脱炭酸装置
13 pH中和手段
13a アルカリ性液
14 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給水を貯留する給水タンクと、被処理水のpHを酸性にする手段および被処理水を窒素ガスと接触させる手段とを備え、被処理水中に含まれる酸素および炭酸成分を除去する酸素および炭酸成分除去手段と、酸素および炭酸成分が除去された水のpHを中性以上に上昇させるpH上昇手段とを有するボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置であって、
さらに、
(1)前記給水タンクと酸素および炭酸成分除去手段とを逆止弁および第1ポンプを順に介して接続する第1送水管と、
(2)前記酸素および炭酸成分除去手段とpH上昇手段とを第2ポンプを介して接続する第2送水管と、
(3)前記pH上昇手段と需要箇所とを第3ポンプを介して接続する第3送水管と、
(4)前記逆止弁と第1ポンプの間の前記第1送水管および前記第2ポンプとpH上昇手段との間の前記第2送水管とを接続する第4送水管とを有し、
前記酸素および炭酸成分除去手段では、前記需要箇所の最大水需要量以上の水を常に処理しており、前記酸素および炭酸成分が除去された水の一部が前記第4送水管を介して前記第1送水管に返送されるとともに、前記給水タンクへの逆流は前記逆止弁で防止されることを特徴とするボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置。
【請求項2】
前記被処理水のpHを酸性にする手段が、りん酸、重合りん酸、ホスホン酸、カルボン酸系ポリマー、或いは水酸基とカルボキシル基をそれぞれ1つ以上有するか、又はカルボキシル基を2つ以上有する有機酸から選ばれた1種又は2種以上を被処理水に添加する手段であることを特徴とする請求項1に記載のボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置。
【請求項3】
前記被処理水のpHを酸性にする手段が、被処理水の全部又は一部をH型強酸性陽イオン交換樹脂と接触させる手段であることを特徴とする請求項1に記載のボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置。
【請求項4】
前記pH上昇手段が、アルカリ性のボイラ薬剤を添加することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置。
【請求項5】
前記アルカリ性のボイラ薬剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アミン類から選ばれた1種又は2種以上の薬剤を含むことを特徴とする請求項4に記載のボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置。
【請求項6】
前記pH上昇手段又は第3ポンプ上流側の第3送水管に分岐配管を設け、前記分岐配管にpH測定手段を設置すること特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置。
【請求項7】
前記pH測定手段と前記第2ポンプの上流側の前記第2送水管を戻し配管で接続することを特徴とする請求項6に記載のボイラ用の脱酸素および脱炭酸水の供給装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−177680(P2011−177680A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46197(P2010−46197)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000101042)アクアス株式会社 (66)
【Fターム(参考)】