説明

ボイラ用防食剤

【課題】ボイラにおいて、リン酸塩を所定の濃度よりも多く添加したり、Na/PO4のモル比を3.0よりも高くしたりすることなく、ボイラ水のpHをより効率的に維持することや、ボイラ缶内だけでなく、給復水も含めたボイラ全系を防食できる薬剤を提供する。
【解決手段】ジエタノールアミンを含む防食剤であって、さらにヒドラジン、1−アミノピロリジン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、アスコルビン酸(塩)等の脱酸素剤、及び他の中和性アミンからなる防食剤を含めることができ、主として過熱器や蒸気タービンを有するボイラ水に添加するボイラ用防食剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボイラ水処理用の薬剤に関し、さらに詳しくは主として過熱器や蒸気タービンを有するボイラや、過熱器、蒸気タービンを有するボイラと処理水とが混合するボイラ等で用いられるボイラプラントに適した防食剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラはボイラ水を高温にして蒸気を発生させる構造となっており、ボイラを構成する金属の腐食を防止するために防食剤が使用されている。特に、発電用ボイラやごみ焼却用ボイラなどの過熱器や蒸気タービンを有するボイラでは、補給水としてイオン交換水や脱塩水が主に使用されている。このため、これらボイラの水質管理項目の濃縮倍数は30〜200倍程度で運転されているケースが多い。このようなボイラでは、苛性アルカリを用いずにリン酸塩を添加して、ボイラ水のpHを調整して腐食を抑制すると共に、中和性アミンやアンモニアを添加して給復水系のpHを上昇させて、鉄の溶出を抑制し、ボイラ缶内に持込まれる鉄を低減している。
【0003】
しかし、近年では、原水の多様化や水質悪化による有機物のボイラ缶内への持込量の増加、省エネ・節水を意図したブロー量の低減、非ヒドラジン化のための有機系脱酸素剤の適用により、ボイラ缶水のpHが低下するトラブルが多く発生している。これらの対策として、ボイラ水中のリン酸塩濃度を高くすることや、Na/PO4のモル比が3よりも高いリン酸塩系清缶剤が使用される場合があるが、この場合には、リン酸塩のハイドアウト現象やアルカリ腐食の発生が懸念されている。
このような系で使用されている代表的な給復水系の防食剤としては、2−アミノエタノ−ル(MEA)が挙げられるが、ボイラ水のpHを上昇させる効果は十分ではない。また、これに替わるものとして、特許文献1にはメチルジエタノールアミン(MDEA)が提示されている。
この特許文献1に記載のMDEAを防食剤として用いると、少ない薬剤量で高温腐食環境におけるpH上昇が容易であり、揮発性が低くて蒸気への移行が少なく、このため反応系への影響が少ないうえ、脱酸素剤を併用する場合に脱酸素能力を高くすることができ、少ない添加量で高い防食効果が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−231980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のMDEAによる防食剤においては、給水への好ましい添加量は50〜200mg/Lであるため(段落〔0012〕)、さらに少量の添加で効果のある防食剤が求められていた。
本発明は、以上のような従来の課題を解決するために、鋭意研究の結果なされたものであり、前述したようなボイラにおいて、リン酸塩をより多く添加したり、Na/PO4のモル比を3.0よりも高くしたりすることなく、ボイラ水のpHをより効率的に維持することや、ボイラ缶内だけでなく、給復水も含めたボイラ全系を防食できる薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)ジエタノールアミンを含むボイラ用防食剤、
(2)ジエタノールアミン及び脱酸素剤を含むボイラ用防食剤、
(3)脱酸素剤がヒドラジン、カルボヒドラジド、1−アミノピロリジン、1−アミノ−4−メチルピペラジン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、エリソルビン酸(塩)、及びアスコルビン酸(塩)から選ばれる1種以上の化合物である前記(2)記載の防食剤、及び
(4)さらに中和性アミン及び/又はアンモニアを添加してなる前記(1)〜(3)のいずれか1に記載の防食剤、
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のボイラ用防食剤によれば、リン酸塩をより多く添加したり、Na/PO4のモル比を3.0よりも高くしたりすることなく、ボイラ水のpHをより効率的に維持することや、ボイラ缶内だけでなく、給復水も含めたボイラ全系を効果的に防食できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のボイラ用防食剤は、ジエタノールアミン(以下、「DEA」という場合がある。)を含むことを特徴とする。
ジエタノールアミンは、HOCH2CH2NHCH2CH2OHで表される化合物であり、熱安定性が高く、解離度が高い、低揮発性アミンであるため、蒸気側へ移行する量が少なく、ボイラ缶水中に留まるので、ボイラ缶水のpHを維持する能力が高い。
そのため、ジエタノールアミンはそれ単独で防食剤とすることもできるが、ジエタノールアミンと他の揮発性アミン、例えば高揮発度のアミンと併用することにより、蒸気中に移行するアミン量を調整でき、給復水のpHを含めて、ボイラの全系統を防食することができ、さらに、他の防食剤、皮膜性防食剤、安定剤その他の補助剤と併用してもよい。
【0009】
本発明においては、ジエタノールアミンと脱酸素剤とを併用する防食剤が好ましい。脱酸素剤としては、公知のものが使用できるが、ヒドラジン、カルボヒドラジド、1−アミノピロリジン、1−アミノ−4−メチルピペラジン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、エリソルビン酸(塩)、及びアスコルビン酸(塩)から選ばれる1種以上の化合物が好ましく、1−アミノ−4−メチルピペラジン(以下、「lA4MP」という場合がある。)がより好ましい。
さらに、非ヒドラジン系の有機脱酸素剤と併用する場合には、ボイラのpHの低下を生じることなく十分量添加することができる。
上記のとおり、本発明においては、有機物の流入に強く、ボイラの濃縮アップを実施することができる。
【0010】
ジエタノールアミン、またはジエタノールアミンと脱酸素剤との複合剤を含む防食剤は、これらのみからなるものでもよく、また水その他の溶媒、その他の成分を含むものであってもよい。複合剤の場合、それぞれの成分を別々にボイラに注入して複合させてもよく、また予め配合剤としてボイラに添加するようにしてもよい。
【0011】
本発明においてジエタノールアミン(DEA)の給水への添加量は、一般に0.01mg/L〜100mg/Lであり、好ましくは0.05mg/L〜50mg/L、より好ましくは0.1mg/L〜10mg/Lである。
また、本発明のボイラ用防食剤においては、復水系の防食を目的としてアンモニアや中和性アミンを併用することができる。
中和性アミンとしては、モノエタノールアミン(MEA)、シクロへキシルアミン(CHA)、モルホリン(MOR)、ジエチルエタノールアミン(DEEA)、モノイソプロパノールアミン(MIPA)、メトキシプロピルアミン(MOPA)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)等を用いることができる。
これらの〔中和性アミン及び/又はアンモニア〕とジエタノールアミン(DEA)との比率[DEA:〔中和性アミン及び/又はアンモニア〕](質量比)は、好ましくは0.01:100〜100:0.01、より好ましくは0.01:10〜10:0.01、さらに好ましくは0.1:10〜10:0.1である。
【0012】
また、本発明のボイラ用防食剤は、ジエタノールアミン及び脱酸素剤を含むことが好ましいが、脱酸素剤の添加量は、給水中の溶存酸素量に応じて必要量を添加する。脱気装置がある場合はその性能に応じて添加する。
なお、ジエタノールアミンと脱酸素剤とを含む防食剤とする場合、両者の配合割合はジエタノールアミンがボイラ水所定のpH、一般的にはpH8.8〜10.8に調整するのに必要な割合、また脱酸素剤がそのpHの給水中の溶存酸素を除去するのに十分な割合とする。具体的には、一般的にジエタノールアミンは0.1〜99.9質量%、好ましくは0.5〜95質量%、より好ましくは1〜90質量%とすることができ、脱酸素剤は99.9〜0.1質量%、好ましくは99.5〜5質量%、より好ましくは99〜10質量%とすることができる。
他の防食剤その他の薬剤の添加量は、その目的の範囲で任意に決めることができる。水その他の溶媒の配合割合は任意に決めることができるが、全く含まなくてもよく、薬剤自体の吸湿性により吸湿される範囲で含んでいてもよい。
【0013】
本発明の防食剤を適用しうるボイラに特に制限はないが、(i)過熱器や蒸気タービンを有するボイラ用や、(ii)過熱器、蒸気タービンを有するボイラと給復水とが混合するボイラ用等の防食剤として特に適している。
【0014】
本発明の防食剤は上記ボイラのボイラ水に添加した状態で防食効果を発揮する。ボイラ水に添加する方法としては給水系に添加することにより、防食剤が給水とともにボイラに至り、そこでボイラ水と混合する方法が好ましいが、ボイラ水に直接添加してもよい。ボイラ内ではジエタノールアミン(DEA)は一部揮発して蒸気とともに持ち出され、また脱酸素剤は脱酸素作用により消費されるので、給水に所定量添加することにより、ボイラ水における防食剤濃度を一定に保持することができる。
【実施例】
【0015】
以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
(1)圧力4MPa、ブロー率1%、復水回収率20%、純水(イオン変換水)給水、加熱脱気器〔出口脱気能力(DO値) 0.03mg/L〕の条件で試験用テストボイラを用いて防食試験を実施した。なお、本実施例では、給水に対して、Na/PO4モル比2.7でリン酸ナトリウムをリン酸イオンとして0.1mg/L、2−アミノエタノール(MEA) 1mg/Lを添加したところ、給復水のpHは9.1、ボイラ水のpHは10.0となった。ここに、補給水由来の有機物がボイラ水中で熱分解して生じる有機酸を想定して、給水に0.06mg/Lの蟻酸を添加した。このとき、ボイラ水のpH(25℃)は9.0にまで低下し、この圧力クラスのJIS基準値の下限値である9.4を下回った。
同じ薬注量のまま、MEAの替わりにメチルジエタノールアミン(MDEA) 1mg/L添加に切替えても、ボイラ水のpH(25℃)は同様に9.0であった。
(2)ここで、MDEAからジエタノールアミン(DEA)に切替えると、ボイラ水のpH(25℃)はJIS基準値以上である9.4にまで上昇した。
以上より、同量の添加量でも、ジエタノールアミン(DEA)はボイラ水のpHをより上昇させ易いことが判った。
【0016】
実施例2
(1)圧力4MPa、ブロー率1%、復水回収率20%、純水(イオン交換水)給水、加熱脱気器〔出口脱気能力(DO値) 0.03mg/L〕の条件で試験用テストボイラを用いて防食試験を実施した。本実施例では、給水に対して、Na/PO4モル比2.7でリン酸ナトリウムをリン酸イオンとして0.1mg/L、補給水由来の有機物がボイラ水中で熱分解して生じる有機酸として0.1mg/Lの蟻酸、2−アミノエタノール(MEA) 4mg/Lを添加したところ、ボイラ水のpH(25℃)は9.4、給復水のpH(25℃)は9.6となり、給復水のpHが必要以上に上昇した。ここで、MEAの替わりにメチルジエタノールアミン(MDEA)を使用し、ボイラ水のpH(25℃)9.4を維持するには、MDEAの添加量は4.3mg/Lまで増加した。また、MDEAの替わりにMIPAとし、同様にボイラ水のpH(25℃)9.4を維持するには、MIPAの添加量は7.1mg/Lまで増加した。
(2)ここで、モノイソプロパノールアミン(MIPA)からジエタノールアミン(DEA)へと切替え、同様にpH(25℃)9.4を維持するには、DEAの添加量は、2.5mg/Lまで低減できた。しかし、このときの給復水のpH(25℃)が9.1まで低下したため、ここにMEAを0.8mg/L追加添加すると、薬品のトータル添加量は3.3mgと低減できた上に、ボイラ水のpH(25℃)が9.5、給復水のpH(25℃)が9.3とJIS基準を満足する処理が施せるようになった。
同様に、ジエタノールアミン(DEA)2.5mg/LにMIPA 1.4mg/Lを追加添加すると、薬品のトータル添加量は3.9mg/LとMIPA単独時やMEA単独時と比べて低減できた上に、ボイラ水のpH(25℃)が9.4、給復水のpH(25℃)が9.3とJIS基準を満足する処理が施せるようになった。
【0017】
実施例3
圧力4MPa、ブロー率1%、復水回収率20%、純水(イオン交換水)給水、加熱脱気器〔出口脱気能力(DO値) 0.03mg/L〕の条件で試験用テストボイラを用いて、ジエタノールアミン(DEA)と脱酸素剤1−アミノ−4−メチルピペラジン(lA4MP)を含む系、及びメチルジエタノールアミン(MDEA)で防食試験を実施した。試験条件と結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1から、メチルジエタノールアミン(MDEA)のみを用いた試験No.5では、ボイラ水のpH(25℃)が8.8と低く、鉄低減に対する効果が不十分であることが分かる。
これに対して、MDEAからジエタノールアミン(DEA)に切替えた試験No.1では、同量であっても、鉄低減に対する効果が向上することが分かる。
また、DEAと脱酸素剤lA4MPを併用した試験No.2では、鉄低減に対する効果がより向上することが分かる。
さらに、試験No.1及びNo.2とNo.3及びNo.4を対比すると、DEAの添加量が少量であっても、DEAとその他のアミン〔試験No.3では、2−アミノエタノール(MEA)、試験No.4では、モノイソプロパノールアミン(MIPA)〕を併用することにより、鉄低減に対する効果がより向上することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の防食剤は、主として過熱器や蒸気タービンを有するボイラや、過熱器、蒸気タービンを有するボイラと処理水とが混合するボイラ等で好ましく使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエタノールアミンを含むボイラ用防食剤。
【請求項2】
ジエタノールアミン及び脱酸素剤を含むボイラ用防食剤。
【請求項3】
前記脱酸素剤がヒドラジン、カルボヒドラジド、1−アミノピロリジン、1−アミノ−4−メチルピぺラジン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、エリソルビン酸(塩)、及びアスコルビン酸(塩)から選ばれる1種以上の化合物である請求項2記載の防食剤。
【請求項4】
さらに中和性アミン及び/又はアンモニアを添加してなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の防食剤。

【公開番号】特開2011−174173(P2011−174173A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13405(P2011−13405)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】