説明

ボイラ腐食抑制方法

【課題】 本発明の課題は、補給水としてイオン交換水を使用しており鋼材と銅合金を含むボイラシステム(ボイラ本体だけでなく脱気器、給水配管、給水ポンプ、給水予熱器、エコノマイザー等のボイラの給水系統ならびに過熱器、タービン、蒸気配管、復水器、復水配管等の蒸気・復水系統も含む)において、鋼材と銅合金の腐食を同時に防止できる腐食抑制方法を提供することである。
【解決手段】 補給水としてイオン交換水を使用し、鋼材と銅合金を含むボイラシステムの腐食抑制方法において、(A)炭素数が3〜5のアルコキシアルキルアミンと(B)モルホリン、更には(C)2−アミノエタノールを添加して、給水のpH(25℃)を9.0〜9.5に調整することを特徴とするボイラの腐食抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
補給水としてイオン交換水を使用し、鋼材と銅合金を含むボイラシステムにおける水と接触する金属の腐食を抑制するボイラ腐食抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラシステムにおけるボイラドラム、蒸発管、エコノマイザー、脱気器、給水系統や蒸気・復水系統の各種配管等の水と接触する構成材質として主に鋼材が使用されている。また、復水器や給水予熱器の伝熱管材質にはアルミニウム黄銅やキュプロニッケル等の銅合金が使用され、通常のボイラシステムでは鋼材と銅合金が混在している。鉄や銅の水酸化物及び酸化物の溶解度は温度が上がるほど低下し、水温が200℃以下の給水や復水では鉄や銅の水酸化物及び酸化物の溶解度は十分高いが、ボイラ水のように水温が250℃を超えるような条件ではその溶解度は小さくなる。その結果、給水系統や復水系統の鋼材や銅合金から溶出した鉄イオンや銅イオンは、主にボイラ内の蒸発管で鉄や銅の水酸化物及び酸化物として再析出する。蒸発管における析出物は、伝熱を阻害して燃料消費量の増加や蒸気発生量の低下をもたらすだけでなく、析出物と管表面の隙間内でアルカリや酸が濃縮されることによる二次腐食の原因にもなる。そのために給水系統や復水系統における鋼材や銅合金から鉄イオンや銅イオンの溶出を抑制することは、ボイラシステムの安全操業と経済的な面から重要な問題である。
【0003】
鋼材や銅合金の腐食反応は電気化学的に進行する。例えば、水に溶解している酸素は鋼材や銅合金の金属表面で鉄や銅から電子を引き抜いて水酸化物イオンを生成することにより、鋼材や銅合金から鉄イオンや銅イオンとしての溶解を促進する(酸素還元反応)。一方、水中の水素イオンは鋼材や銅合金の金属表面で鉄や銅から電子を引き抜いて水素となることにより、鋼材や銅合金が電子を放出して鉄イオンや銅イオンとして溶解する反応を促進する(水素還元反応)。酸素還元反応型の腐食では水中の溶存酸素を除去することにより防止できるが、水の解離により水素イオンは必ず存在するため、水素還元反応型の腐食を完全に抑制することはできない。特にボイラシステムのように温度が高い系では水の解離定数が大きくなり、水素還元反応型の腐食が発生し易くなる。例えば25℃における純水のpHは7であるが、100℃における純水のpHは6.15、250℃では5.6まで低下する。この場合でも水のpHを高くして水素イオン濃度を低下させれば、腐食は低下し、更に鉄や銅の水酸化物及び酸化物が安定であるpH領域までpHを高くすれば、これらの水酸化物及び酸化物が保護皮膜となり腐食が低減する。しかし、pHを過度に高くすると、水酸化物及び酸化物が保護皮膜を再溶解させるため、好ましくない。
【0004】
そこで、従来よりボイラシステムの腐食抑制のために水中の溶存酸素を除去するとともに、給水、ボイラ水ならびに復水のpHを適正値に調整させる処理が実施されてきた。例えば、アンモニアを添加して給水ならびに復水のpHを9.0以上にすることにより給水系ならびに復水系における鋼材の腐食を低減できることが知られている(例えば非特許文献1、非特許文献2参照)。一方、アンモニアは高pHにおいて銅と安定な水溶性キレート化合物を生成して銅合金の腐食を促進するため、銅合金のアンモニア腐食を防止するには、給水ならびに復水のpHを9.0以下で管理する必要がある(例えば非特許文献3参照)。いずれのpH域で管理しても、鋼材と銅合金の両方の腐食を同時に防止することは困難であった。このような銅合金のアンモニア腐食に対する懸念から、pH上昇剤としてシクロヘキシルアミン、モルホリン、2−アミノエタノール等の揮発性アミンを使用する方法が開示されている(例えば非特許文献4参照)。しかし、シクロヘキシルアミンのように気相への分配比が大きい揮発性アミンは、蒸気系統の初期凝縮部に溶け込み難いため、初期凝縮部の腐食を有効に防止できないという問題点があった。また、モルホリンは気相への分配比が小さく、蒸気系統の初期凝縮部に溶け込み易い反面、pH上昇能力が低いためにpH9.0以上に維持するには多量の添加量が必要であるという問題点があった。さらに2−アミノエタノールは気相への分配比が小さ過ぎるため、初期凝縮部でアミンの濃厚液が生成して初期凝縮部にアルカリ腐食が発生し易いという問題点があった。更にこれらの揮発性アミンを使用しても、pHが9.0を超えると銅合金の腐食を十分抑制するには至っていない。
【0005】
【非特許文献1】「最近のボイラ等における腐食とその対策」、社団法人日本ボイラ協会発行、平成9年10月15日、138頁
【非特許文献2】「ボイラの水管理」、社団法人日本ボイラ協会発行、平成13年1月15日、230頁、
【非特許文献3】「火力原子力発電」、134頁(1270頁)、433号、43巻、1992年
【非特許文献4】「ボイラの水管理」、社団法人日本ボイラ協会発行、平成13年1月15日、261頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、補給水としてイオン交換水を使用し、鋼材と銅合金を含むボイラシステム(ボイラ本体だけでなく脱気器、給水配管、給水ポンプ、給水プレヒーター、エコノマイザー等のボイラの給水系統も含むボイラシステム)において、鋼材と銅合金の腐食を同時に防止できる腐食抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、補給水としてイオン交換水を使用し、鋼材と銅合金を含むボイラシステムにおける鋼材と銅合金の腐食を同時に防止できる腐食の抑制について鋭意検討した結果、驚くべきことに特定の炭素数のアルコキシアルキルアミンとモルホリンを特定の比率で用いることにより、水のpHを9.0以上に調整しても銅合金の腐食が増加しないことを見出し本発明に到達した。
【0008】
即ち、請求項1に係る発明は、補給水としてイオン交換水を使用し、鋼材と銅合金を含むボイラシステムの腐食抑制方法において、(A)炭素数が3〜5のアルコキシアルキルアミンと、(B)モルホリンを90:10〜20:80の重量比でボイラシステム水系に添加し、当該給水のpH(25℃)を9.0〜9.5に調整することを特徴とするボイラの腐食抑制方法である。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のボイラの腐食抑制方法であり、(A)成分、(B)成分と共に(C)2−アミノエタノールを添加することを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2記載のボイラの腐食抑制方法であり、(A)成分と(B)成分の合計量に対して、(C)2−アミノエタノールを100:1〜100:10の重量比で添加することを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のボイラの腐食抑制方法であり、(A)成分が3−メトキシプロピルアミン、2−メトキシエチルアミン、1−メトキシ−sec−ブチルアミン、2−エトキシエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、N−(2−メトキシエチル)エチルアミンから選ばれた1種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
給水系統や復水系統における鋼材や銅合金の腐食による鉄イオンや銅イオンの溶出を抑制し、ボイラの蒸発管における鉄や銅の水酸化物や酸化物の再析出を防止することにより、燃料消費量の増加、蒸気発生量の低下、ならびに析出物による二次腐食の発生を抑制して、ボイラシステムの安全操業と経済的損失の抑止に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、補給水としてイオン交換水を使用し、鋼材と銅合金を含むボイラシステムにおいて、(A)炭素数が3〜5のアルコキシアルキルアミンと、(B)モルホリンを90:10〜20:80の重量比でボイラシステム水系に添加して、当該補給水のpH(25℃)を9.0〜9.5に調整することを特徴とするボイラの腐食抑制方法である。更には(A)炭素数が3〜5のアルコキシアルキルアミン、(B)モルホリンと共に(C)2−アミノエタノールを添加することを特徴とするボイラの腐食抑制方法である。
【0014】
本発明の腐食抑制方法の対象となるボイラシステムは、ボイラ本体だけでなく脱気器、給水配管、給水ポンプ、給水予熱器、エコノマイザー等のボイラの給水系統ならびに過熱器、タービン、蒸気配管、復水器、復水配管等の蒸気・復水系統も包含し、ボイラシステム水系は補給水、給水、復水、ボイラ循環水、蒸気に関わるボイラの給水系統から蒸気・復水系統を含むボイラシステム全般を流れる水系である。
【0015】
本発明の対象となるボイラの蒸気圧は20MPa以下であることが好ましく、蒸気圧が20MPaを超えるボイラでは、本発明で用いるアルコキシアルキルアミン、モルホリン、2−アミノエタノールが熱分解するために十分な腐食抑制効果が期待できない。また、適用できるボイラの種類に特に制限はなく、立てボイラ、炉筒ボイラ、煙筒ボイラ、炉筒煙筒ボイラ等の丸ボイラ、水管ボイラ、特殊循環ボイラ、各種廃熱ボイラ、貫流ボイラ等のいずれであっても良い。
【0016】
本発明で用いるボイラの補給水は、イオン交換水である。イオン交換水は、軟化水、工業用水、水道水、地下水等をイオン交換樹脂により処理した水であり、その水質としては、JIS B8223 1999「ボイラの給水及びボイラ水の水質」によってボイラ種別ならびに最高使用圧力別に規定されているイオン交換水を用いる。イオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換樹脂、弱強酸性陽イオン交換樹脂、強塩基性陰イオン交換樹脂、弱塩基性陰イオン交換樹脂を用い、これらを組み合わせて、例えば強酸性陽イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂の組み合わせ、強酸性陽イオン交換樹脂−弱酸性陽イオン交換樹脂併用と強塩基性陰イオン交換樹脂の組み合わせ、強酸性陽イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂−弱塩基性陰イオン交換樹脂併用の組み合わせ等により、本発明で用いるイオン交換水が得られる。ボイラの補給水として軟化水、工業用水、水道水、地下水等をそのまま使用すると、共存成分やその分解成分のpH緩衝作用の影響によりアミン濃度が過大となったり、塩化物イオンや硫酸イオン等の腐食性イオンが存在するため、好ましくない。
【0017】
本発明で用いる(A)アルコキシアルキルアミンは、炭素数が3〜5の1級アミン、2級アミン及び3級アミンである。具体的には、2−メトキシエチルアミン、1−メトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、2−メトキシプロピルアミン、1−メトキシプロピルアミン、2−メトキシ−1−メチルエチルアミン、1−メトキシ−1−メチルエチルアミン、4−メトキシブチルアミン、3−メトキシブチルアミン、2−メトキシブチルアミン、1−メトキシブチルアミン、3−メトキシ−2−メチルプロピルアミン、2−メトキシ−2−メチルプロピルアミン、1−メトキシ−2−メチルプロピルアミン、2−メトキシ−1、1−ジメチルアミン、エトキシメチルアミン、2−エトキシエチルアミン、1−エトキシエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、2−エトキシプロピルアミン、1−エトキシプロピルアミン、2−エトキシ−2−メチルエチルアミン、1−エトキシ−1−メチルエチルアミン、プロポキシメチルアミン、プロピキシエチルアミン、イソプロポキシメチルアミン、2−イソプロポキシエチルアミン、1−イソプロポキシエチルアミン、n−ブトキシメチルアミン、sec−ブトキシメチルアミン、tert−ブトキシメチルアミン、N−(メトキシメチル)メチルアミン、N−(2−メトキシエチル)メチルアミン、N−(1−メトキシエチル)メチルアミン、N−(3−メトキシプロピル)メチルアミン、N−(2−メトキシプロピル)メチルアミン、N−(1−メトキシプロピル)メチルアミン、N−(2−メトキシ−2−メチルエチル)メチルアミン、N−(エトキシメチル)メチルアミン、N−(2−エトキシエチル)メチルアミン、N−(1−エトキシエチル)メチルアミン、N−(n−プロポキシメチル)メチルアミン、N−(イソプロポキシメチル)メチルアミン、N−(メトキシメチル)エチルアミン、N−(2−メトキシエチル)エチルアミン、N−(1−メトキシエチル)エチルアミン、N−(エトキシメチル)エチルアミン、N−(メトキシメチル)n−プロピルアミン、N−(メトキシメチル)イソプロピルアミン、N、N−ジメチルメトキシメチルアミン、N、N−ジメチル−2−メトキシエチルアミン、N、N−ジメチル−1−メトキシエチルアミン、N、N−ジメチルエトキシメチルアミン、N−メトキシメチル−N−メチルエチルアミン、N、N−ジ(メトキシメチル)メチルアミン等が挙げられる。好ましくは、3−メトキシプロピルアミン、2−メトキシエチルアミン、1−メトキシ−sec−ブチルアミン、2−エトキシエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、N−(2−メトキシエチル)エチルアミンである。炭素数が3未満では気相部(蒸気)への分配比が過大となり、炭素数が5を超えるとpH上昇能力が低下したり、気相部への分配比が過小となり、好ましくない。
【0018】
本発明で用いるモルホリンは、特に限定されるものではなく、一般の工業的モルホリン、精製モルホリンが使用できる。
【0019】
本発明の腐食抑制方法において、アルコキシアルキルアミンとモルホリンの添加量は、重量比として90:10〜20:80であり、好ましくは80:20〜60:40である。アルコキシアルキルアミンとモルホリンの合計量に対するアルコキシルアルキルアミンの比率が20重量%未満では、pH上昇能力が低下するだけでなく、銅合金に対する腐食抑制効果が低下するため好ましくない。また、アルコキシアルキルアミンとモルホリンの合計量に対するアルコキシルアルキルアミンの比率が90重量%を超えると、銅合金に対する腐食抑制効果が低下するため、好ましくない。
【0020】
本発明の腐食抑制方法において補給水や復水の純度が十分高い場合は問題ないが、復水器からの冷却水の漏れや補給水からの有機物やコロイダルシリカの混入があると、冷却水中の塩化マグネシウムがボイラ内で加水分解して塩酸を生成したり、補給水からの有機物がボイラ内で分解してギ酸や酢酸を生成したり、補給水からのコロイダルシリカがボイラ内で溶解して水溶性のオルトケイ酸を生成したりするため、アルコキシアルキルアミンとモルホリンだけでは、ボイラ水のpHが十分に上昇しない場合がある。そのような場合は、アルコキシアルキルアミンとモルホリンに、さらに2−アミノエタノールの添加が好ましい。2−アミノエタノールを添加する場合、補給水や復水の状況を考慮して適宜決定すればよいが、通常、アルコキシアルキルアミンとモルホリンの合計量と、2−アミノエタノールの重量比が100:1〜100:10の比率で添加することが好ましい。アルコキシアルキルアミンとモルホリンの合計量に対して、2−アミノエタノールの重量比が100:10を超えると、初期凝縮部のpHを上げ過ぎるため、好ましくない場合がある。また、100:1未満では本発明の効果を十分に発揮することができない場合がある。
【0021】
アルコキシアルキルアミンとモルホリン、あるいはアルコキシアルキルアミンとモルホリンと2−アミノエタノールの添加量は、給水中の溶存炭酸や不純物の濃度を考慮して適宜決定されればよいが、通常は給水量に対してアルコキシアルキルアミンとモルホリンの合計量、あるいはアルコキシアルキルアミンとモルホリンと2−アミノエタノールの合計量が1〜10mg/Lの範囲である。
【0022】
本発明の腐食抑制方法における給水のpH(25℃)は9.0〜9.5であり、好ましくは9.1〜9.4である。給水のpHが9.0未満では、鋼材の腐食抑制効果が低下して好ましくなく、給水のpHが9.5を超えると銅合金の腐食抑制効果が低下するため、好ましくない。
【0023】
アルコキシアルキルアミンとモルホリンを例に添加方法等を以下に説明する(アルコキシアルキルアミンとモルホリンと2−アミノエタノールの場合も同様な添加方法が行われる)。アルコキシアルキルアミンとモルホリンの添加箇所は、通常、ボイラの補給水ないし給水に対して添加するが、給水系統、蒸気・復水系統のボイラシステムにおけるいずれの場所に添加してもよい。また、アルコキシアルキルアミンとモルホリンの添加は、これらを混合して一液性組成物として薬液注入ポンプを用いて添加する方法、あるいはそれぞれ別々に薬液注入ポンプを用いて添加する方法のいずれでもよい。また、アルコキシアルキルアミンとモルホリンの添加方法では、通常、連続添加方法が用いられるが、間歇添加方法でもよく、また、アルコキシアルキルアミンとモルホリンを別々に連続添加と間歇添加を組み合わせて添加する方法でもよく、アルコキシアルキルアミンとモルホリンを添加して給水のpH(25℃)を9.0〜9.5に維持すれば、その添加方法は特に限定されない。
【0024】
ボイラ水のpHは通常8.5〜12.0の範囲に調整されるが、pHが低過ぎてもpHが高過ぎても腐食が発生し易くなる。ボイラの使用圧力が2MPaを超えるボイラではpHは8.5〜11.0程度に調整するのが好ましいが、アルカリ腐食の防止のため使用圧力が高いボイラほどpHの上限値を低く抑えることが好ましい。使用圧力別のボイラ水pHの適正値は、例えばJIS B8223:1999『ボイラの給水及びボイラ水の水質』に規定されている。
【0025】
復水のpHは給水pHと同様に9.0〜9.5の範囲に調整するのが好ましいが、本発明の腐食抑制方法では給水pHと復水pHは、ほぼ同じ値に維持できるため好適である。
【0026】
具体的にアルコキシアルキルアミンとモルホリンの添加方法を示すと、
(1)給水系統に設置したpH計の測定値をもとにpHが設定範囲になるように薬液注入ポンプ等を用いて注入する方法、
(2)電気伝導率とpHの関係を予め求めておき、給水系統に設置した電気伝導率計の測定値をもとに、pHの設定範囲に相当する電気伝導率の設定範囲になるように薬液注入ポンプ等を用いて注入する方法、
等がある。この場合、薬液注入を自動注入方法としてもよい。
【0027】
本発明の腐食抑制方法において、アルコキシアルキルアミンとモルホリン、あるいはアルコキシアルキルアミンとモルホリンと2−アミノエタノールの液相に対する気相への分配比はほぼ1であるため、他のpH調整剤を併用しない場合の給水のpHはボイラ水のpHならびに復水のpHとほぼ同等になる。更に蒸気配管における凝縮部のpHは初期凝縮部から全凝縮部に至るまでほぼ一定のpHになるため、全ボイラシステムのpHを適正範囲に維持するのが容易である。また、本発明の腐食抑制方法では、ボイラ水のpH上昇能力も優れているため、ボイラ水のpH調整に必要なリン酸塩やアルカリ金属水酸化物の添加量を低減することができる。特に高圧ボイラに対してリン酸塩を過剰に添加するといわゆるハイドアウト現象により、蒸発管にNa2.850.15PO、NaFePO(maricite)やNaFeOH(PO2.1/3NaOH等のリン酸塩が析出して、析出部と鋼材表面の隙間に酸やアルカリが濃縮されて腐食が進行する。一方、本発明の腐食抑制方法では微量のリン酸塩でpH調整が可能なため、リン酸塩の析出が起こり難くなりハイドアウトによる腐食を有効に防止できる。
【0028】
給水中の溶存酸素濃度は、酸素による腐食を防止するために脱気器等により200μg/L以下、より好ましくは30μg/L以下、更に好ましくは7μg/L以下まで低下させることが好ましい。脱気器による脱酸素処理によっても除去できなかった溶存酸素を除去するために脱酸素剤の添加が好ましい。本発明の腐食抑制方法と併用できる脱酸素剤に特に制限はなく、ヒドラジン、ジエチルヒドロキシルアミン、カルボヒドラジド、エリソルビン酸、メチルエチルケトオキシム等の脱酸素剤として公知の化合物が使用できる。
【0029】
本発明の腐食抑制方法では、脱酸素剤を添加する替わりに酸素や過酸化水素を添加して溶存酸素濃度を20〜200μg/Lに維持して鋼材表面にヘマタイトからなる保護皮膜を形成させてボイラシステムの腐食を抑制する方法(いわゆる酸素処理)と併用することもできる。
【0030】
本発明の腐食抑制方法を適用するボイラのブロー率は特に制限はないが、ボイラ水中における溶解成分の過度の濃縮を防止するため、循環ボイラでは給水量に対して1〜20%のブローダウンを連続的あるいは断続的に実施するのが好ましい。貫流ボイラではブローダウンは実施できないため、高純度のイオン交換水を補給水として用いる必要がある。
本発明の腐食抑制方法において、貫流ボイラ以外の固形分の混入が許容できるボイラシステムでは、ボイラ水のpHを調整するためにアルカリ金属水酸化物、リン酸塩から選択される1種以上の化合物と併用しても良い。蒸気圧力が3MPaを超えるボイラでは、水酸化カリウムやリン酸カリウム等のカリウム塩を使用するとアルカリ腐食が発生し易くなるため、アルカリ金属水酸化物としては水酸化ナトリウム、リン酸塩としては第2リン酸ナトリウム、第3リン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等のナトリウム塩を使用するのが好ましい。
【実施例】
【0031】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(本発明で用いるアルコキシアルキルアミン)
・A−1:3−メトキシプロピルアミン(試薬、関東化学(株)製)
・A−2:2−メトキシエチルアミン(試薬、関東化学(株)製)
・A−3:1−メトキシ−sec−ブチルアミン(試薬、関東化学(株)製)
・A−4:2−エトキシエチルアミン(試薬、関東化学(株)製)
・A−5:3−エトキシプロピルアミン(試薬、関東化学(株)製)
・A−6:N−(2−メトキシエチル)エチルアミン(試薬、関東化学(株)製)
【0033】
(モルホリン)
・B−1:モルホリン(試薬、関東化学(株)製)
【0034】
(2−アミノエタノール)
・C−1:2−アミノエタノール(試薬、関東化学(株)製)
【0035】
(その他)
・D−1:シクロヘキシルアミン(試薬、関東化学(株)製)
・D−2:アンモニア(試薬、関東化学(株)製)
【0036】
(腐食試験1)
400番研磨紙で研磨仕上げした寸法が1×13×75mmの低炭素鋼試験片(材質:JIS G3141 SPCC−SB)とアルミニウム黄銅製試験片(材質:JIS H3100 C6871)をアセトンで脱脂後、乾燥して試験前の質量を測定した。四日市市水をミリポア社製Milli-Qプラスシステム(商品名)に通水して得られたイオン交換水(比抵抗18MΩ・cm)に表1に示す腐食抑制剤を添加してpH(25℃)を9.4に調整して試験液として用いた。試験液100mLと試験片1枚を密閉容器に入れ、窒素ガスを通気して試験液の溶存酸素濃度を10μg/Lまで低下させた後、密閉して温度70℃で7日間保持した。7日後、試験片を取り出して付着物を除去後、試験後の質量を測定し、下記式より腐食速度(mdd)を計算した。結果を表1に示す。
腐食速度(mdd)=(W−W)/(S×T)
:試験前の質量(mg)、W:試験後の質量(mg)
S:試験片の表面積(dm
T:試験期間(日数)
【0037】
【表1】

【0038】
アルコキシアルキルアミン、モルホリン及び2−アミノエタノールを併用した本発明の腐食抑制方法は、低炭素鋼と黄銅に対してそれぞれ単独で使用するよりも相乗的な腐食抑制効果を示すことが分かる。
【0039】
(pH測定試験)
蒸気圧10MPaの試験ボイラにおいて、四日市市水を強酸性陽イオン交換樹脂〔ダウエックス マラソンC(商品名、ダウケミカル社製)〕と強塩基性陰イオン交換樹脂〔ダウエックス マラソンA(商品名、ダウケミカル社製)〕を含む混床式イオン交換水製造装置に通水して得られたイオン交換水(電気伝導率0.2μS/cm以下)を補給水に使用し、給水中の溶存炭酸濃度は0.1ppm、ブロー率は2%としてボイラを運転した。腐食防止剤を給水に対して3mg/L添加し、その時の給水、ボイラ水、蒸気の初期凝縮水、復水の各pH(25℃)を測定した。蒸気の初期凝縮部のpHは、蒸気の湿り度が2%の箇所における凝縮水のpHとした。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
本発明の腐食抑制方法では、いずれもpHは9.0〜9.5の範囲にあり、給水系統、ボイラ水、蒸気・復水系統のボイラシステムの全領域にわたって腐食抑制に最適なpHを維持できることが分かる。一方、モルホリン単独ではpHは9未満、シクロヘキシルアミンでは給水pHは9.4であったが、ボイラ水の初期凝縮部のpHは9未満と低下、また、2−アミノエタノールでは給水pHは9.4であったが、ボイラ水と初期凝縮部のpHは10以上となり、いずれも腐食抑制に最適なpHの範囲を維持できないことが分かる。
【0042】
(腐食試験2)
蒸気圧力11MPa、蒸気量200t/hの水管式自然循環ボイラーにおいて本発明の腐食抑制方法の実機試験を実施した。該ボイラシステムにおけるボイラドラム、蒸発管、エコノマイザー、脱気器、給水系統や蒸気・復水系統の各種配管等の主要な構成材質は低炭素鋼であった。復水器と給水予熱器の伝熱管の材質はアルミニウム黄銅(JIS H3100 C6871)であった。四日市工業用水を2床3塔式モノベッドポリッシャー式イオン交換水製造装置に通水して得られたイオン交換水(電気伝導率0.2μS/cm以下)をボイラ補給水として使用し、給水中の溶存酸素濃度は0.007mg/Lであった。3−メトキシプロピルアミンを70重量%とモルホリンを30重量%含む組成物を補給水量に対して2.4mg/L添加した。第三リン酸ソーダと第二リン酸ソーダをNa/POのモル比が2.6になるように配合比を調整した混合物をボイラドラムに添加して、ボイラ水のPO濃度が0.5〜2mg/Lになるように調整した。ボイラーのブロー率は2%、復水回収率は60%であった。試験期間中は脱気器出口の給水、ボイラ水、復水を週1回毎にサンプリングして、JIS B8224:2005『ボイラの給水及びボイラ水−試験方法』の方法に基づき各サンプルのpH(pH計)、鉄濃度(2、4、6−トリ−2−ピリジル−1、3、5−トリアジン吸光光度法)、銅濃度(ICP発光分光分析法)をそれぞれ測定した。比較例として3−メトキシプロピルアミンとモルホリンの混合物の替わりにモルホリンを単独で補給水量に対して6mg/L添加して同様に実施した。各試験の試験期間は30日間として、各測定項目の平均値を求めた。鉄濃度と銅濃度がいずれも10μg/L以下であれば、良好と判断した。結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
本発明の腐食抑制方法によれば、給水、ボイラ水、復水の鉄濃度と銅濃度はいずれも10μg/L以下であり良好な結果であった。一方、モルホリン単独では給水中と復水中の鉄濃度と銅濃度はいずれも10μg/Lを超えていた。モルホリン単独処理におけるボイラ水の鉄濃度と銅濃度は、給水や復水の鉄濃度と銅濃度よりも低かったが、これは給水から持ち込まれた鉄イオンや銅イオンがボイラ内で鉄や銅の酸化物や水酸化物として析出していることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補給水としてイオン交換水を使用し、鋼材と銅合金を含むボイラシステムの腐食抑制方法において、(A)炭素数が3〜5のアルコキシアルキルアミンと(B)モルホリンを90:10〜20:80の重量比でボイラシステム水系に添加し、当該給水のpH(25℃)を9.0〜9.5に調整することを特徴とするボイラの腐食抑制方法。
【請求項2】
(A)成分、(B)成分と共に(C)2−アミノエタノールを添加することを特徴とする請求項1記載のボイラの腐食抑制方法。
【請求項3】
(A)成分と(B)成分の合計量に対して、(C)2−アミノエタノールを100:1〜100:10の重量比で添加することを特徴とする請求項2記載のボイラの腐食抑制方法。
【請求項4】
(A)成分が3−メトキシプロピルアミン、2−メトキシエチルアミン、1−メトキシ−sec−ブチルアミン、2−エトキシエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、N−(2−メトキシエチル)エチルアミンから選ばれた1種以上である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のボイラの腐食抑制方法。

































【公開番号】特開2007−262567(P2007−262567A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199218(P2006−199218)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】