説明

ボイラ装置の運転方法

【課題】 発生した蒸気の復水がボイラ給水として再利用されるとともに、復水系やボイラ装置内の腐食が防止されることにより、ボイラ装置内でスライムが発生しやすい状況が形成されている場合であっても、スライムによる障害が発生するのを容易に防止する。
【解決手段】 給水タンク3に、補給水W1と、負荷側で使用された発生蒸気Sの復水W3とを受け入れて、これらをボイラ給水W2として使用しているボイラ装置1の運転方法であって、ボイラ装置1内に、アミン系復水処理剤F、又はヒドラジン以外の防食剤K、又はアミン系復水処理剤F及びヒドラジン以外の防食剤Kの何れかが注入されている場合に、給水タンク3内の水温を、微生物の繁殖を抑制する温度以上となるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ装置内で、例えば、配管の詰まりといった、スライムによる障害が発生するのを防止するボイラ装置の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの観点から、ボイラで発生した蒸気を、熱交換器等の蒸気負荷設備で使用した後、復水として回収し、この復水を再びボイラに給水して、熱エネルギーや水資源を有効に活用しようとする現場が増加している。
【0003】
一方、ボイラ給水中の酸消費量(pH4.8)成分である重炭酸ナトリウムは、ボイラ内で炭酸ガスと水酸化ナトリウムとに熱分解される。この炭酸ガスは、ボイラで発生した蒸気とともに蒸気負荷設備側に移行し、蒸気が凝縮して復水となる際に、炭酸を生成して復水のpHを低下させる。この復水に溶け込んだ炭酸は、鉄材や銅材から形成される復水ライン等を腐食させ、結果として、これらに減肉や貫通を生じさせる。
【0004】
このため、復水を利用する際には、少なくともボイラ給水中及び蒸気中の何れか一方にアミン系復水処理剤を注入して、復水と接触する復水ライン等の寿命を長くする対策が取られている。例えば、アミン系復水処理剤として、炭酸を中和する中和性アミンを用いたり、配管等の内面を撥水皮膜で保護する皮膜性アミンを用いたりしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、中和性アミンや皮膜性アミンは、BODが高く、微生物の栄養源となり微生物を増殖させるため、復水を利用する際に、これらがスライム(微生物等の有機物と、さび等の無機物とが混じった粘性のある泥状のもの)を発生させる要因となることが判明している。
【0006】
また、アミン系復水処理剤以外にも、ボイラ装置の給水ライン等に注入される薬剤には、微生物の栄養源になるものが多いため、ボイラ缶水中のこれらの薬剤が、キャリオーバーにより蒸気中に移行すると、復水を利用する際に、スライムを発生させる要因となることも判明している。
【0007】
例えば、従来は防食剤として、殺菌能力の高いヒドラジンが用いられることが多かったが、ヒドラジンの人体への悪影響(発ガン性)が判明して、ヒドラジンの使用が減少しており、ヒドラジンの代替防食剤には、殺菌能力を有さず、場合によっては、微生物の栄養源になっているものも多い。
【0008】
このため、ボイラ装置内でスライムが発生しやすく、例えば、スライムが配管等を閉塞させて、ボイラ装置の運転に支障をきたすという問題があった。
【0009】
この発明は、以上の点に鑑み、発生した蒸気の復水がボイラ給水として再利用されるとともに、復水系やボイラ装置内の腐食が防止されることにより、ボイラ装置内でスライムが発生しやすい状況が形成されている場合であっても、スライムによる障害が発生するのを容易に防止できるボイラ装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の請求項1記載の発明は、給水タンクに、補給水と、負荷側で使用された発生蒸気の復水とを受け入れて、これらをボイラ給水として使用しているボイラ装置の運転方法であって、前記ボイラ装置内に、アミン系復水処理剤、又はヒドラジン以外の防食剤、又は前記アミン系復水処理剤及び前記ヒドラジン以外の防食剤の何れかが注入されている場合に、前記給水タンクの水温を、微生物の繁殖を抑制する温度以上となるように制御することを特徴とする。
【0011】
蒸気を凝縮した復水では、蒸気中の炭酸ガスに起因して、炭酸による腐食が生じやすいため、例えば、ボイラ給水中に、アミン系復水処理剤を注入して、復水中の炭酸を中和したり、復水ライン等の内面に撥水皮膜を形成して、復水ライン等の腐食が防止されている。かかるアミン系復水処理剤は、ボイラ中で揮発し、蒸気を介して復水中に容易に移動する。また、ボイラ装置内における腐食をできるだけ抑えるため、ボイラ給水中に防食剤が注入される場合も多いが、かかる防食剤は、ボイラ缶水中からキャリオーバによって、蒸気を介して、復水中に移動しやすい。
【0012】
一方、アミン系の復水処理剤や、ヒドラジン以外の防食剤は、微生物の栄養源になりやすいので、これらが復水を介してボイラの給水タンク内に持ち込まれると、例えば、殺菌されていない井戸水等の原水を経由して、補給水から給水タンク内に侵入した微生物によって、ボイラ装置内では、スライムが発生しやすい状況が生じる。
【0013】
この発明では、以上のような状況において、微生物が侵入して繁殖を開始する給水タンクの水温を微生物の繁殖を抑える温度以上としているので、給水タンクを介して微生物が繁殖するのが防止され、給水タンクや、その下流側のボイラの給水ラインでスライムが発生するのが防止される。
【0014】
この発明の請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の場合において、前記微生物の繁殖を抑制する温度は、45℃以上の温度であることを特徴とする。
【0015】
この発明では、45℃以上の温度では、タンパク質の変性が生じやすく、微生物の繁殖が抑えられることに鑑み、給水タンクの水温を45℃以上となるように制御している。
【0016】
この発明の請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明の場合において、前記アミン系復水処理剤として、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モノイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、及び、シクロヘキシルアミンのうちの何れか、又はこれらを組み合わせたものが使用されることを特徴とする。
【0017】
2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モノイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、及び、シクロヘキシルアミンは、微生物の栄養源となりやすく、スライムを発生させやすいからである。
【0018】
この発明の請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の発明の場合において、前記ヒドラジン以外の防食剤として、タンニン、タンニン酸又はその塩、エリソルビン酸又はその塩、アスコルビン酸又はその塩、単糖類、多糖類、アルドン酸(αグルコン酸、αグルコヘプトネート酸又はその塩)、1−アミノピリジン、1−アミノ−4−ピペラジン、N,N−ジメチルヒドロキシルアミン、及び、有機酸又はその塩のうちの何れか、又はこれらを組み合わせたものが使用されることを特徴とする。
【0019】
これらの防食剤は、微生物の栄養源となりやすく、スライムを発生させやすいからである。なお、有機酸には、例えば、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸などが考えられる。
【発明の効果】
【0020】
この発明の請求項1又は2記載の発明によれば、発生した蒸気の復水がボイラ給水として再利用されるとともに、復水系やボイラ装置内の腐食が防止されることにより、ボイラ装置内でスライムが発生しやすい状況が形成されている場合であっても、微生物が侵入して繁殖する給水タンクの水温を、微生物の繁殖を抑制する温度(45℃)以上の温度になるように制御しているので、ボイラ装置内でスライムの発生を簡単に防止でき、スライムによる障害、例えば、スライムによる配管の詰まり等を容易に防止することができる。
【0021】
この発明の請求項3記載の発明によれば、特にアミン系復水処理剤として、微生物の栄養源となりやすい、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モノイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、及び、シクロヘキシルアミンのうちの何れか、又はこれらを組み合わせたものを用いた場合において、効果的にスライムの発生を防止して、スライムによる障害を防止できる。
【0022】
この発明の請求項4記載の発明によれば、特に防食剤として、微生物の栄養源となりやすい、タンニン、タンニン酸又はその塩、エリソルビン酸又はその塩、アスコルビン酸又はその塩、単糖類、多糖類、アルドン酸(αグルコン酸、αグルコヘプトネート酸又はその塩)、1−アミノピリジン、1−アミノ−4−ピペラジン、N,N−ジメチルヒドロキシルアミン、及び、有機酸又はその塩のうちの何れか、又はこれらを組み合わせたものを用いた場合において、効果的にスライムの発生を防止して、スライムによる障害を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ボイラ装置の第1の運転状態を示す図である。
【図2】ボイラ装置の第2の運転状態を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、ボイラ装置で発生した蒸気を復水として回収し、この復水をボイラ給水として再利用する従来のシステムを示している。
【0025】
ボイラ装置1は、図1で示されるように、ボイラ2と、給水タンク3と、給水ライン4と、水処理装置5と、第1薬注装置6と、第2薬注装置7と、蒸気分配ライン9と、加熱蒸気ライン10と、温度制御手段11を有している。なお、ボイラ装置1からの蒸気Sは、図1で示されるように、蒸気ライン100を介して、熱交換器等からなる蒸気負荷設備101に供給され、この蒸気負荷設備101で使用された後、一部が、蒸気回収設備102において凝縮され、復水W3として回収される。そして、この復水W3は、復水ライン103を通ってボイラ装置1の給水タンク3に供給されて、ボイラ給水W2として再利用される。
【0026】
ボイラ2は、例えば、圧力が0.7MPaで、毎時数トン程度の蒸気Sを発生させる小形の蒸気発生装置である。
【0027】
給水タンク3は、所定量のボイラ給水W2を貯留して、必要時に必要量のボイラ給水W2をボイラ2に供給できるようにするものであり、上部が大気と連通した大気開放タイプとなっている。この給水タンク3には、内部のボイラ給水W2の温度を計測するとともに、このボイラ給水W2の温度が所定値以上になるように、加熱蒸気ライン10からの蒸気Sの量を制御可能な温度制御手段11が設けられている。ここで、この給水タンク3には、水処理装置5からの補給水W1と、蒸気回収設備102からの復水W3とが貯められるので、ボイラ給水W2は、補給水W1と復水W3とが混合されたものから形成される。なお、復水W3として利用できる蒸気Sの回収率は低く、復水W3と常温の補給水W1とが混合したボイラ給水W2の温度は、例えば40℃以下の温度になっている。
【0028】
給水ライン4は、給水タンク3中のボイラ給水W2をボイラ2に供給するものであり、その配管42中には給水ポンプ40が設けられている。なお、給水ライン4の給水ポンプ40の上流側には、異物除去用のストレーナ41が設けられている。
【0029】
水処理装置5は、井戸水や工業用水といった原水W0を、軟水器50によって軟化処理して軟水とし、この軟水を、補給水W1として、給水タンク3に供給するものである。かかる原水W0中には、復水ライン102側における腐食の原因物質となる重炭酸ナトリウムが含まれている場合も多いが、この重炭酸ナトリウムは、軟水器50によっては除去できない。このため、補給水W1中、すなわち、ボイラ給水W2中には、ある程度の量の重炭酸ナトリウム含まれている場合も多い。また、かかる原水W0中には、微生物が含まれている場合も多い。したがって、原水W0の殺菌がなされていない場合や、その殺菌が不充分な場合には、この微生物が、補給水W1を介して、給水タンク3内に侵入してしまう場合も多い。
【0030】
第1薬注装置6は、薬注タンク60内の清缶剤Bを、薬注ポンプ61を使用して給水ライン4のボイラ給水W2中に注入するものである。清缶剤Bは、ボイラ缶水のpHを調整したり、ボイラ缶水中の硬度成分を分散させて、ボイラ外に排出できるようにするためのものである。この清缶剤Bは、pH調整剤や軟化剤と、スラッジ分散剤とが混ぜ合わせたものと考えられるが、pH調整剤や軟化剤には、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が用いられ、スラッジ分散剤には、ポリアクリル酸などのカルボン酸系低分子ポリマーが用いられる。
【0031】
なお、pH調整剤は、ボイラ缶水のpHを、所定値以内の高値に維持させてボイラ内の腐食を防止し、軟化剤は、ボイラ缶水中で濃縮した硬度成分を不溶性の化合物(スラッジ)に変えて、これがボイラ2の伝熱面にスケールとして付着するのを防止し、スラッジ分散剤は、スラッジが、ボイラ2の伝熱面に付着してスケールとなるのを防止する。
【0032】
第2薬注装置7は、薬注タンク70内のアミン系復水処理剤Fを薬注ポンプ71を使用して給水ライン4のボイラ給水W2中に注入するものである。アミン系復水処理剤Fは、復水ライン103を含めた復水系の腐食を防止するためのものであり、これには、復水W3中の炭酸を中和する中和性アミンや、復水系配管等の内面に撥水皮膜を形成する皮膜性アミンが用いられる。
【0033】
すなわち、ボイラ給水W2中の重炭酸ナトリウムは、ボイラ2内で熱分解されて炭酸ガスを生じさせるため、蒸気S中には炭酸ガスが含まれることとなるが、この蒸気Sが凝縮して復水W3に変えられると、この復水W3中には、炭酸が生じて復水ライン102等に腐食を生じさせる。アミン系の復水処理剤Fは、ボイラ2内で揮発して蒸気Sとともに移動し、再び復水W3中に溶解するが、この場合、中和性アミンは、復水W3中の炭酸を中和して、復水ライン103等の腐食を防止し、皮膜性アミンは、復水ライン103等の内面に撥水皮膜を形成して、復水ライン103の等の腐食を防止する。
【0034】
なお、アミン系復水処理剤Fには、例えば、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モノイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、シクロヘキシルアミンの何れか、又はこれらを組み合わせたものが用いられるが、これらは、いずれも微生物の栄養源となる。
【0035】
加熱蒸気ライン10は、ボイラ2で発生した蒸気Sを給水タンク3に吹き込んで、給水タンク3内のボイラ給水W2を所定温度以上に加熱するものである。この加熱蒸気ライン10には、蒸気分配ライン9の蒸気ヘッダ90と給水タンク3とを連結する配管10a中に、温度制御手段11からの信号にしたがって、給水タンク3に供給される蒸気Sの量を調整する制御弁10bが設けられている。なお、温度制御手段11は、給水タンク3内のボイラ給水W2の温度が所定値以上になれば、ボイラ給水W2の過剰な温度上昇を防止するため、制御弁10bを閉じさせる。
【0036】
つぎに、このボイラ装置1等における水と蒸気Sの流れを説明するとともに、ボイラ装置1内におけるスライムの発生について説明する。
【0037】
給水タンク3内のボイラ給水W2は、給水ポンプ40で加圧された後、これに、第1薬注装置6を介して清缶剤Bが注入されるとともに、第2薬注装置7を介してアミン系復水処理剤Fが注入されて、ボイラ2に供給される。ボイラ2に供給されたボイラ給水W2は、ボイラ2内でボイラ缶水となり、このボイラ缶水が加熱されて蒸気Sに変えられる。この蒸気Sは、蒸気分配ライン9に送られた後、蒸気ライン100を通って、蒸気負荷設備101に送られて熱交換等された後、その一部が、蒸気回収設備102で凝縮されて復水W3となる。この復水W3は、復水ライン103を使用して給水タンク3内にボイラ給水W2として回収される。
【0038】
ここで、復水W3中には、アミン系復水処理剤Fが含まれているとともに、ボイラ2内で発生したキャリオーバによって、蒸気S中に移動したボイラ缶水の一部(清缶剤B等)が含まれているが、特に、アミン系復水処理剤Fは、微生物の栄養源となる。
【0039】
このため、かかる復水W3が、給水タンク3に供給されると、原水W0(補給水W1)中から給水タンク3内に侵入した微生物が、復水W3によってボイラ給水W2中にもたらされたアミン系復水処理剤Fを栄養源として、給水タンク3内で繁殖しようとする。また、給水タンク3内の水温(ボイラ給水W2の温度)も、40℃以下であり、微生物の繁殖に適している。したがって、給水タンク3内に侵入した微生物は、一定の温度環境と栄養源のある給水タンク3内で、繁殖を繰り返し、スライムを発生させる。そして、スライムとともに給水ライン4側に移動した微生物が、給水ライン4でも繁殖してスライムを増大させ、これが、この給水ライン4等に詰まりを発生させて、ボイラ装置1に障害を発生させる。
【0040】
なお、ここでのスライムとは、微生物によって生じるもので、微生物等の有機物と、さび等の無機物とが混じった粘性のある泥状のものをいう。
【0041】
つぎに、ボイラ装置1内で、スライムの発生を防止するボイラ装置1の運転方法について説明する。
【0042】
このボイラ装置1の運転方法は、大気中や原水W0中から微生物が侵入して繁殖しようとする給水タンク3の水温、すなわち給水タンク3内のボイラ給水W2の温度を、微生物の繁殖が抑制される温度以上の温度になるように制御することである。スライムは、微生物の繁殖によってもたらされるものであるので、微生物が侵入して繁殖する給水タンク3の水温を、微生物の繁殖を抑制する温度とすればよいからである。具体的には、ほぼ45℃の温度で、タンパク質の変性が開始され、タンパク質の機能が失われるので、給水タンク3の水温をこの温度(45℃)以上とすることにより、微生物が不活化して、微生物の繁殖を防止(抑制)できる。なお、60℃以上の温度では、タンパク質の変性が充分に生じて、微生物の繁殖を確実に防止(抑制)できる。
【0043】
そこで、このボイラ装置1では、給水タンク3内の水温が、例えば、所定温度(少なくとも45℃より低くならない温度で、好ましくは55℃より高い温度、例えば、60℃)となるように、温度制御手段11からの指示に基づいて、加熱蒸気ライン10からボイラ2側の蒸気Sを給水タンク3に吹き込み、給水タンク3内のボイラ給水W2の温度を上げるようにしている。なお、給水タンク3内の水温が、例えば、65℃に達すると、温度制御手段11が、制御弁10bを閉じさせ、ボイラ給水W2の過剰な温度上昇を防止している。
【0044】
以上のように、このボイラ装置1では、給水タンク3に、補給水W1と、負荷側で使用された発生蒸気Sの復水W3とを受け入れて、これらをボイラ給水W2として使用するとともに、復水ライン102等の腐食を防止するために、ボイラ装置1内の水系に、アミン系復水処理剤F等が注入されている場合に、微生物が侵入して繁殖を開始する給水タンク3の水温を微生物の繁殖を抑える温度以上としているので、給水タンク3を介して微生物が繁殖するのが防止され、給水タンク3や、その下流側の給水ライン4でスライムが発生するのを防止することができる。このため、このボイラ装置1では、給水ライン4(例えば、ストレーナ42)の詰まり、といったスライムによる障害を容易に防止することができる。
【0045】
また、このボイラ装置1では、給水ポンプ40上流側の給水ライン4におけるスライムによる詰まりを防止できるので、清缶剤Bやアミン系復水処理剤Fを給水ポンプ40の上流側に注入できることになり、第1、及び第2薬注装置6,7の薬注ポンプ61,71の出力(注入圧力)を下げることができ、第1、及び第2薬注装置6,7の小型化や低コスト化等を達成することができる。また、このことにより、第1、及び第2薬注装置6,7で薬液の漏洩が生じても、注入圧が低い分、その危険性を低減することができる。
【0046】
ところで、ボイラ装置1内では、種々の腐食が発生するため、ボイラ給水W2中に防食剤を注入し、ボイラ装置1内における腐食をできるだけ防止することが望まれる。このため、図2で示されているように薬注タンク80や薬注ポンプ81等からなる第3薬注装置8を設け、薬注タンク80内の防食剤Kを薬注ポンプ81を使用してボイラ給水W2中に注入するようにしたボイラ装置1も多く使用されている。
【0047】
この場合、防食剤Kとして、殺菌性のあるヒドラジンが多用されてきたが、近年ヒドラジンに発ガン性があり、人体に悪影響を与えることが知られてきているため、ヒドラジンに替わって別の防食剤Kが用いられるようになっている。かかる代替防食剤Kとして、タンニン、タンニン酸又はその塩、エリソルビン酸又はその塩、アスコルビン酸又はその塩、単糖類、多糖類、アルドン酸(αグルコン酸、αグルコヘプトネート酸又はその塩)、1−アミノピリジン、1−アミノ−4−ピペラジン、N,N−ジメチルヒドロキシルアミン、及び、有機酸(例えば、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸など)又はその塩のうちの何れか、又はこれらを組み合わせたものが用いられるが、これらの防食剤Kも微生物の栄養源となるものである。
【0048】
すなわち、ボイラ缶水中の代替防食剤Kが、ボイラ2内で生じるキャリオーバによって蒸気S中に移動し、これが復水W3に混じって給水タンク3に送られると、給水タンク3内でこれを栄養源とした微生物の繁殖が生じ、ボイラ装置1内にスライムを発生させる。したがって、ボイラ給水W2中にアミン系復水処理剤Fが注入されていない場合でも、この代替防食剤Kによって給水タンク3内でスライムが発生する可能性が高いとともに、ボイラ給水W2中にアミン系復水処理剤Fと代替防食剤Kとが注入されている場合には、給水タンク3内でより多くのスライムを発生させる可能性が高い。
【0049】
このような場合でも、給水タンク3の水温を、微生物の繁殖を抑制する温度以上(少なくとも45℃以上、できれば60℃以上)に制御するよう、ボイラ装置1の運転を行うことにより、ボイラ装置1におけるスライムの発生を防止でき、このスライムによって引き起こされるボイラ装置1の障害をなくすことができる。
【0050】
なお、この実施形態では、給水タンク3内のボイラ給水W2を、ボイラ2からの蒸気Sを用いて加熱したが、これに限らず、例えば電気ヒータを用いて加熱してもよい。
【0051】
また、アミン系復水処理剤Fは、ボイラ装置1の蒸気ヘッダ90内、すなわち、蒸気ヘッダ90内の蒸気S中に注入してもよい。
【実施例】
【0052】
つぎに、具体的な実施例を図1に基づいて説明する。なお、この実施例で、スライムが発生した段階では、加熱蒸気ライン10等は設けられておらず、給水タンク3内のボイラ給水W2の加熱はなされていなかった。
【0053】
ボイラ装置1の運転状況は、ボイラ圧力が0.7MPa、復水W3の回収率が50%、復水W3の平均pHが6.9、ボイラ缶水の濃縮倍数が10、給水タンク3の水温が40℃であり、第2薬注装置7からは、アミン系復水処理剤Fとして、中和性アミン(モノイソプロパノール)30mg/Lが注入され、かつ、ボイラ給水W2の性状としては、酸消費量(pH4.8)(mg/as CaCO3/L)が50mg/Lであった。この状態でボイラ装置1の運転を続け、運転開始から1ヶ月を経た頃から、給水ポンプ40入口側のストレーナ41にスライムが詰まり始め、その後、ボイラ2が異常低水位で停止する事態が頻発した。
【0054】
そこで、図1で示されるように、加熱蒸気ライン10等を設け、給水タンク3内のボイラ給水W2の温度が70℃以下になれば、給水タンク3内に蒸気Sを吹き込むようにした。このことにより、1年を経過した現在においても、スライムに起因したボイラ装置1の緊急停止は発生していない。
【符号の説明】
【0055】
1 ボイラ装置
3 給水タンク
F アミン系復水処理剤
K ヒドラジン以外の防食剤
W1 補給水
W2 ボイラ給水
W3 復水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給水タンクに、補給水と、負荷側で使用された発生蒸気の復水とを受け入れて、これらをボイラ給水として使用しているボイラ装置の運転方法であって、
前記ボイラ装置内に、アミン系の復水処理剤、又はヒドラジン以外の防食剤、又は前記アミン系復水処理剤及び前記ヒドラジン以外の防食剤の何れかが注入されている場合に、前記給水タンク内の水温を、微生物の繁殖を抑制する温度以上となるように制御することを特徴とするボイラ装置の運転方法。
【請求項2】
前記微生物の繁殖を抑制する温度は、45℃以上の温度であることを特徴とする請求項1記載のボイラ装置の運転方法。
【請求項3】
前記アミン系復水処理剤として、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モノイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、及び、シクロヘキシルアミンのうちの何れか、又はこれらを組み合わせたものが使用されることを特徴とする請求項1又は2記載のボイラ装置の運転方法。
【請求項4】
前記ヒドラジン以外の防食剤として、タンニン、タンニン酸又はその塩、エリソルビン酸又はその塩、アスコルビン酸又はその塩、単糖類、多糖類、アルドン酸(αグルコン酸、αグルコヘプトネート酸又はその塩)、1−アミノピリジン、1−アミノ−4−ピペラジン、N,N−ジメチルヒドロキシルアミン、及び、有機酸又はその塩のうちの何れか、又はこれらを組み合わせたものが使用されることを特徴とする請求項1又は2記載のボイラ装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−80725(P2011−80725A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234839(P2009−234839)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】