説明

ボタンホールの編成方法およびボタンホールを備える編地

【課題】 簡単な操作で、十分な強度を備える上周縁部を編成することが可能な、ボタンホールの編成方法およびボタンホールを備える編地を提供する。
【解決手段】 S11,S12では、基点の編針M,mに給糸して新たな編目を割増やしで形成し、割増やされた編目は、隣接する編針L,lに移動する。S13では、割増やされた編目を移動後に係止する編針Lに給糸して新たな編目を形成し、移動後の編目はノックオーバさせる。以下、同様な手順が、編針lに係止する移動後の編目に対しても行われ、さらに割増やしの基点を順次移動させながら、繰返されてボタンホール1の上周縁部4が形成される。前後の針床FB,BBを交互に使用するので、前後針床FB,BB間に渡り糸による編糸の余裕ができ、編糸の突っ張りが減るとともに、渡り糸を繋ぎながらボタンホールの上周縁部4を編成し、強度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機で編地を編成する際に編成処理の一部として形成され、後工程での形成が不要な、ボタンホールの編成方法およびボタンホールを備える編地に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ボタン付の衣服などには、ボタンを掛けて止めるためのボタンホールが設けられている。編地でカーディガンなどの衣服を製造する場合は、編地を編成中に、ボタンホールも併せて形成することができる(たとえば、特許文献1参照)。編成中にボタンホールを形成すれば、編地の編成後に部分的な切断で孔をあけ、孔の周囲にミシンによる縢りを行うような後工程でボタンホールを設ける必要はない。
【0003】
特許文献1には、少なくとも前後一対の針床を備える横編機で、編成中の編地のウエール方向の途中に、ボタンホールを形成する編成方法が開示されている。ボタンホールは、ウエール方向への編目の連続を中断させて、いったん編終りとして伏目処理を行うことで、下周縁部が形成され、下周縁部の編目を係止している編針から編目が払われて空針となる。特許文献1の実施例1によれば、ボタンホールの上周縁部は、一方の針床の編針で係止する編目を対向する他方の針床の空針に向けて順次割増やして形成される。また他の実施例では、空針に対する編出し処理を行って、ボタンホールの上周縁部の編成を開始している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2573101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に実施例1として開示されるようなボタンホールの編成方法では、他の実施例のような空針への編出し処理を行う必要がない。編出し処理を行うと、ウエール方向に後続する編目の編成を確実に行うために、抜き糸などを使用して上周縁部の編出し部分の編目と下周縁部の編目とを連結し、上周縁部を改めて歯口下方に引下げる必要がある。しかしながら、特許文献1の実施例1でも、前後の針床間で一方の針床の編目に対し割増やし行うだけであるので、編糸の伸びが小さくなり、特に、編針の配列密度が高くなって編糸が細いような場合に、上周縁部の強度が低下するおそれがある。ボタンホールの上周縁部の強度が低下すると編糸が切れて、ボタンが外れやすくなるなどの機能低下を招く。強度低下を補うような補強を後工程で行うと、ボタンホール形成の手間が増大してしまう。
【0006】
本発明の目的は、簡単な操作で、十分な強度を備える上周縁部を編成することが可能な、ボタンホールの編成方法およびボタンホールを備える編地、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも歯口を挟んで対向する前後一対の針床を備え、編目の形成と移動とが可能な横編機で、編成する編地内にコース方向に拡がるボタンホール形成する処理を、ボタンホールの下周縁部でいったん編終りにして、ボタンホールの上周縁部を編始めて行う、ボタンホールの編成方法において、
ボタンホールの上周縁部の編成は、コース方向の始端側から終端側へ、編針に係止されている編目を割増やしてから割増やされた編目を隣接する編針に移動させ、編目を移動させた編針に新たな編目を形成して次の割増やしの基点とする処理を、前後の針床について交互に繰返して行う、
ことを特徴とするボタンホールの編成方法である。
【0008】
また本発明の前記ボタンホールの上周縁部の編成では、前記始端側で前後の針床に係止する各一目の編目を、前記前後の針床について交互に繰返して行う処理の基点とする、
ことを特徴とする。
【0009】
また本発明の前記ボタンホールの下周縁部の編成では、
連続した割増やし編成と、
目移しによる重ね目の形成と、
重ね目に対する編成とを繰返して、
伏目処理する、
ことを特徴とする。
【0010】
さらに本発明は、少なくとも歯口を挟んで対向する前後一対の針床を備え、編目の形成と移動とが可能な横編機で編成され、編地内でコース方向に拡がり、ウエール方向の途中となる下周縁部でいったん編終りにしてから上周縁部を編始めて、下周縁部と上周縁部との間に形成されるボタンホールを備える編地において、
ボタンホールの上周縁部は、コース方向の始端側から終端側へ、前後の針床の編針に係止されている編目を、順次交互に割増やして、割増やされた編目を終端側に隣接する編針に移動し、移動した編目を基点として、順次新たな割増やしを行う処理の繰返しで形成されている、
ことを特徴とするボタンホールを備える編地である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ボタンホールの上周縁部を、前後の針床を交互に使用して割増やしと移動とを繰返す簡単な操作で十分な強度を備えるように形成することができる。割増やされて隣接する編針に移動させる編目は、他の編目に比べて詰んでおり、新たな編目を形成する際にはノックオーバが安定して行えるので、編成が容易となる。割増やし処理を、前後の針床を交互に使用して行うので、前後針床間に渡り糸による編糸の余裕ができ、編糸の突っ張りが減って、編糸の伸び代ができて編地の強度を向上させることができる。
【0012】
また本発明によれば、前後の渡り糸を繋ぎながらボタンホールの上周縁部を編成し、強度を向上させることができる。
【0013】
また本発明によれば、ボタンホールの下周縁部の解れ止めを、割増やしと伏目処理とを利用して行い、ボタンを掛けて止める際にも外れにくい、厚みのあるしっかりとした編地を編成して行うことができる。
【0014】
さらに本発明によれば、細い編糸を使用する目の詰んだ編地でも、周囲の下周縁部と上周縁部とに厚みがあり、十分な強度を備えるボタンホールを備えるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施例としてのボタンホールの編成方法を概略的に示す編成図の一部である。
【図2】図2は、本発明の一実施例として、図1に続く編成図の一部である。
【図3】図3は、本発明の一実施例として、図2に続く編成図の一部である。
【図4】図4は、本発明の一実施例として、図3に続く編成図の一部である。
【図5】図5は、本発明の一実施例として、図4に続く編成図の一部である。
【図6】図5は、図1〜図5に従って編成されるボタンホールを備える編地の一例を示す部分的な表面図および裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1〜図5で本発明の一実施例としてのボタンホールの編成方法の概略的な編成手順の主要部分を示し、図6で編成されたボタンホールを備える編地の一例を示す。各図で、先に説明した部分と対応する部分には同一の参照符を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、先に行う図1〜図5の説明でも、後で説明する図6に付す参照符号を使用する。
【実施例】
【0017】
図1〜図5で、左側のS1〜S22は、本発明の一実施例であるボタンホールの編成方法に含まれる主要なステップを、相対的な手順として示す。ボタンホール1は、少なくとも歯口を挟んで対向する前後一対の針床を備え、編目の形成と移動とが可能な横編機を使用して編地2を編成する際に形成される。各ステップは、針床に沿って往復移動し、編針を選択的に駆動するカムシステムを搭載するキャリッジの1または複数のストロークで実現される。図1〜図5の右側には、キャリッジの移動方向と、キャリッジの移動で行う処理とを示す。Kが付く処理は、編目を形成することを示す。矢印は、左右方向がキャリッジの移動方向、斜めまたは下方向が編目の目移しを示す。処理が複数ある場合は、キャリッジの移動方向に応じて、先行側の処理を先に行い、後行側の処理を後で行う。
【0018】
なお、以下では、前針床をFB、後針床をBBと略称する。編針の配列密度が高く、細い編糸を使用して細かい編目の編地を編成する場合は、前後の針床を上下でそれぞれ備える四枚ベッドの横編機や、トランスファージャックを備える横編機を使用することが好ましい。FBおよびBBのみを備える二枚ベッドの横編機を使用する場合は、針抜き編成を行い、対向する針床から目移しで編目を移動させる余地を残しておく必要がある。本実施例では、四枚ベッドの横編機を使用し、FBおよびBBは、前後の下段側の針床を示すものとする。各図で、コース方向に配列されるFB側の編針をA〜Rの大文字で示し、BB側の編針をa〜rの小文字で示す。また、割増やしを上段側の針床を使用して行う場合には、前針床と後針床をFU,BUでそれぞれ示す。ただし、ボタンホールを形成するために使用する編針の本数は一例であり、ボタンや編目の大きさに合わせて、適宜変更すればよい。図1および図2のS1からS9では、ボタンホール1の下周縁部3、図3、図4および図5のS10からS22では、ボタンホール1の上周縁部4を、順次編成する。
【0019】
S1では、FBの編針C〜PおよびBBの編針c〜pを使用する編地2の編成中に、編針G〜L,g〜lの幅のボタンホール1を形成する前の最後のコースとして、編針C〜Pに給糸して、連続的に編目を形成する。S2では、編針P〜Cに給糸して連続的に編目を形成するとともに、編針L〜Gでは、それぞれ対向する編針l〜gへの連続した割増やしも行う。S3では、FBの編針C〜Fに給糸して編目を形成するとともに、BBの編針gにも給糸して編目を形成する。編針gには、S2で編針Gから割増やされた編目が係止されており、S3の新たな編目形成で、割増やされていた編目はノックオーバされる。S4では、BBの編針gに形成した編目を、FBの編針Hに目移しし、さらに編針Hに給糸して新たな編目を形成し、目移しした編目をノックオーバさせる。これによって、S2で編針Gから対向する編針gに割増やしした編目を利用し、編針Gから隣接する編針Hに伏目を形成することができる。
【0020】
S5では、S2で編針Hから割増やしされた編目を係止する編針hに給糸して新たな編目を形成し、割増やされた編目はノックオーバさせる。編針Hで係止している割増やしの元になった編目は、編針iに移動させる。編針iには、S2で編針Iから割増やしされた編目が係止されており、この編目に移動した編目が重ねられて重ね目が形成される。S6では、S5で編針hに形成された編目を、編針Iに移動して重ね、さらに給糸して新たな編目を形成し、重ね目はノックオーバさせる。編針iには重ね目が残る。これによって、S2で編針Hから対向する編針hに割増やしした編目を利用し、編針Hから隣接する編針Iに伏目を形成し、形成した伏目をノックオーバさせて、編針Hを空針にすることができる。
【0021】
S7では、編針iに給糸して新たな編目を形成し、S6で形成した重ね目をノックオーバさせ、編針Iに形成している編目を、編針jで係止する編目に重ねる。次のS9までの間では、S7で編針iに形成された編目を、編針Jに移動して重ね、さらに給糸して新たな編目を形成し、重ね目はノックオーバさせる。編針jには重ね目が残り、編針I,J間に伏目が形成されてノックオーバされ、編針Iが空針となる。以下、S6,S7と同様にして、S2での連続的な割増やしで形成された編目への重ね目の形成と、重ね目に対する編成とを繰返す。
【0022】
S9では、編針lに係止していた編目を編針Mに重ね、編針M,N,O,Pに連続的に給糸して新たな編目をそれぞれ形成する。編針mには、重ね目が残り、編針H,I,J,K、Lは空針となる。この状態の編針G,M間には、ボタンホール1の下周縁部3が形成されている。このようにして、ボタンホール1の下周縁部3の解れ止めを、割増やしと伏目処理とを利用して行い、細い糸でも切れにくく、ボタンを掛けて止める際にも外れにくい、厚みのあるしっかりとした編地を編成して行うことができる。
【0023】
S10では、編針P,O,N,Mに連続的に給糸して新たな編目をそれぞれ形成する。S11では、編針Mに給糸して新たな編目を割増やしで形成する。編針Mに対向する編針mは重ね目を係止しているので、割増やしはBUの編針に対して行う。割増やされた編目は、編針Mに隣接する編針Lに移動する。S12では、重ね目を係止している編針mに給糸して、FUの編針との間に新たな編目を割増やしで形成し、割増やされた編目は編針mに隣接する編針lに移動する。
【0024】
S13では、S11で割増やされた編目を移動後に係止する編針Lに給糸して新たな編目を形成し、移動後の編目はノックオーバさせる。S14では、S12で割増やされた編目を移動後に係止する編針lに給糸して新たな編目を形成し、移動後の編目はノックオーバさせる。割増やされて隣接する編針に移動させる編目は、他の編目に比べて詰んでおり、新たな編目を形成する際にはノックオーバが安定して行えるので、編成が容易となる。このような上周縁部4の編成は、編出しとしての編成となるけれども、抜き糸などを用いて下方に引下げる必要もないので、編成を簡素化することができる。
【0025】
S15からS18では、S11からS14までで編針M,mを割増やしの基点として行ったものと同様な手順が、割増やしの基点を編針L,lに移動させて行われる。以下も同様な手順が基点を編針K,k;J,j;I,iに順次移動させながら、3回繰返されてボタンホール1の上周縁部4が形成される。
【0026】
S20では、割増やされた編目を移動後に係止する編針hに給糸して新たな編目を形成し、移動後の編目はノックオーバさせる。編針hに続いて、編針G〜Cにも給糸し、連続して編目を形成する。S21では、編針h〜mに係止されている編目を編針H〜Mにそれぞれ目移しして重ね目とする。S22では、編針C〜Pに連続して給糸して新たな編目を形成し、上周縁部4を完成させる。
【0027】
以上のように、ボタンホール1の上周縁部4を、前後の針床FB,BBを交互に使用して割増やしと移動とを繰返す簡単な操作で十分な強度を備えるように形成することができる。処理を、前後の針床FB,BBを交互に使用して行うので、前後針床FB,BB間に渡り糸による編糸の余裕ができ、編糸の突っ張りが減るとともに、前後の渡り糸を繋ぎながらボタンホールの上周縁部4を編成し、強度を向上させることができる。
【0028】
図6は、図1〜図5の編成方法を用いて形成したボタンホールを備える編地の一例を示す。このボタンホールを備える編地は、カーディガンなどを形成するパーツとなる前立てとして編成され、図では横方向に伸びる形状で示されるボタンホール1は、上下方向に伸びる状態で使用される。ボタンホール1を形成する編地2は、FB,BBの両方を使用するガーター編みで形成され、FB側、BB側の外観を同等にすることができる。FB,BBの両方を使用する他の編み方、たとえば袋編みで形成することもできる。平編みなどで、FB,BBのうちの一方のみを使用して編成してもよい。また、図6では編地2がガーター組織で表目と裏目に繋がるため、FBとBBの上下が逆となっているけれども(FBの上側とBBの下側、FBの下側とBBの上側)、本実施例では、編地2との繋がりが同じであればFBとBBの表裏/上下が同じ見栄えとなる。
【0029】
ボタンホール1の上周縁部4は、コース方向の始端側から終端側へ、前後の針床の編針に係止されている編目を、順次交互に割増やして、割増やされた編目を終端側に隣接する編針に移動し、移動した編目を基点として、順次新たな割増やしを行う処理の繰返しで形成されている、細い編糸を使用する目の詰んだ編地2でも、周囲の下周縁部3と上周縁部4とに厚みがあり、十分な強度を備えるボタンホール1を備えるようにすることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 ボタンホール
2 編地
3 下周縁部
4 上周縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも歯口を挟んで対向する前後一対の針床を備え、編目の形成と移動とが可能な横編機で、編成する編地内にコース方向に拡がるボタンホール形成する処理を、ボタンホールの下周縁部でいったん編終りにして、ボタンホールの上周縁部を編始めて行う、ボタンホールの編成方法において、
ボタンホールの上周縁部の編成は、コース方向の始端側から終端側へ、編針に係止されている編目を割増やしてから割増やされた編目を隣接する編針に移動させ、編目を移動させた編針に新たな編目を形成して次の割増やしの基点とする処理を、前後の針床について交互に繰返して行う、
ことを特徴とするボタンホールの編成方法。
【請求項2】
前記ボタンホールの上周縁部の編成では、前記始端側で前後の針床に係止する各一目の編目を、前記前後の針床について交互に繰返して行う処理の基点とする、
ことを特徴とする請求項1記載のボタンホールの編成方法。
【請求項3】
前記ボタンホールの下周縁部の編成では、
連続した割増やし編成と、
目移しによる重ね目の形成と、
重ね目に対する編成とを繰返して、
伏目処理する、
ことを特徴とする請求項1または2記載のボタンホールの編成方法。
【請求項4】
少なくとも歯口を挟んで対向する前後一対の針床を備え、編目の形成と移動とが可能な横編機で編成され、編地内でコース方向に拡がり、ウエール方向の途中となる下周縁部でいったん編終りにしてから上周縁部を編始めて、下周縁部と上周縁部との間に形成されるボタンホールを備える編地において、
ボタンホールの上周縁部は、コース方向の始端側から終端側へ、前後の針床の編針に係止されている編目を、順次交互に割増やして、割増やされた編目を終端側に隣接する編針に移動し、移動した編目を基点として、順次新たな割増やしを行う処理の繰返しで形成されている、
ことを特徴とするボタンホールを備える編地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−197524(P2012−197524A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61341(P2011−61341)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】