説明

ボツリヌストキシンの定量化

【課題】本発明は試料中に含まれるシナプス前神経筋遮断物質(特にはボツリヌストキシン)の含量の測定方法に関する。
【解決手段】ある態様において、当該方法は以下の工程を含んで成る:
(i)筋肉組織の収縮を誘導するために必要な最小電位Vmを測定すること(上記筋肉組織は、運動神経を介して電気刺激装置に結合されており、好ましくはグルコースを含む酸素添加した生理バッファー中に浸漬されている);(ii)シナプス前神経筋遮断物質を含む試料を添加すること;(iii )少なくともVmに等しい電位において、一定の時間間隔において筋肉組織を電気刺激すること;(iv)当該試料により誘導された効果と、基準物質により誘導された効果を比較し、そして、これにより試料中のシナプス前神経筋遮断物質の含量を測定すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれるシナプス前神経筋遮断物質の含量の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中に含まれるシナプス前神経筋遮断物質の含量の測定は、一般的に、マウス又はラットにおける当該物質の致死量LD50の計測により行われる。当該方法は、活性ボツリヌストキシンの含量の測定のために現在特に使用される。このようなLD50法は多数の動物を殺す必要がある。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、通常のLD50法と比較して、有意な数の動物の生命を残す新規な方法を供する。
【0004】
従って、本発明に従い、以下の工程を含んで成る、試料中のシナプス前神経筋遮断物質の定量方法を供する:
(i)筋肉組織の収縮を誘導するために必要な最小電位Vmを測定すること(上記筋肉組織は、運動神経を介して電気刺激装置に結合されている);
(ii)シナプス前神経筋遮断物質を含む試料を添加すること;
(iii )少なくともVmに等しい電位において、一定の時間間隔において筋肉組織を電気刺激すること;
(iv)当該試料により誘導された効果と、基準物質により誘導された効果を比較し、そして、これにより試料中のシナプス前神経筋遮断物質の含量を測定すること。
【0005】
シナプス前神経筋遮断物質により、シナプス前神経筋活性に関係する化学メッセージ及びシグナルの伝達を防止及び/又は阻害する物質は、本出願において理解されるべきである。シナプス前神経筋遮断物質の例は、アセチルコリン(ACH)の合成又は放出を阻害する物質であり;これらは顕著な生物毒素(ボツリヌス神経毒素、及びブンガロトキシン)、及び化学物質(例えば、ACHの合成を阻害するヘミコリニウム又はトリエチルコリン、ACH放出又はツボクラリンを阻害するアミノグリコシド抗生物質、及び類似化合物)を含む。本発明に従う好ましいシナプス前神経筋遮断物質は、ボツリヌス神経毒素及びブンガロトキシンであろう(ブンガロトキシンの中でもα−ブンガロトキシンが好ましい)。
【0006】
ボツリヌス神経毒素(又はボツリヌストキシン)は本出願中において、ボツリヌス神経毒素複合体(A、B、C、D、E、F又はG型のいずれか)、並びに高純度ボツリヌス神経毒素(A、B、C、D、E、F又はG型のいずれか)を意味する。ボツリヌストキシンA型はボツリヌストキシンA型の全ての型を含み、A1、A2及びA3を含む。
【0007】
ボツリヌス神経毒素複合体(A、B、C、D、E、F又はG型のいずれか)は、本出願において、少なくとも他の非毒性タンパク質と会合しているボツリヌス神経毒素として理解すべきである。
【0008】
高純度ボツリヌス神経毒素(A、B、C、D、E、F又はG型のいずれか)は、本出願において、少なくとも他のタンパク質を含む複合体以外のボツリヌス神経毒素(A、B、C、D、E、F又はG型のいずれか)であり、言い換えれば、高純度ボツリヌス神経毒素(A、B、C、D、E、F又はG型)は、ボツリヌス神経毒素(A、B、C、D、E、F又はG型)以外の有意な量のいかなる他のクロストリジウム属(Clostridium spp)由来のタンパク質も含まない。
【0009】
本出願において、筋肉組織は1又は複数の筋線維を含んで成る筋線維試料を意味する。
【0010】
好ましくは、上記筋肉組織は、バッファー、例えば、生理バッファーに浸漬される。当該バッファーはエネルギー源を含んで成ってよい。当該エネルギー源は、ATPエネルギー源、例えば、1又は複数の以下のものであってよい:ATP、糖質、例えば、グルコース及び/又はクレアチン(リン酸クレアチンを含む)、脂肪酸、アミノ酸、グリコーゲン及びピルビン酸。上記バッファーは、特により長時間のアッセイのために酸素添加してもよい。
【0011】
好ましい態様において、上記バッファーは、グルコースを含む酸素添加生理バッファーである。
【0012】
筋肉組織が浸漬される上記バッファーは、好ましくは、少なくとも10mMのグルコース(例えば、11mM)を含むであろう。また、好ましくは、上記バッファーは酸素で飽和されているであろう(例えば、バッファー中に酸素又は95/5 O2/CO2混合体を通気することによる)。更に、上記バッファーは、好ましくは、100〜200mMのNaCl、1〜5mMのKCl、10〜15mMのNaHCO3、0.5〜2mMのMgCl2、及び1〜5mMのCaCl2を含むであろう。当該バッファーのpHは好ましくは、約7.4であろう。
【0013】
好ましくは、上記方法は、工程(iii )の電気刺激が少なくとも、過最大電位VSMと等しい電位で行われるであろう。過最大電位は、筋肉組織の最大の単収縮を得るための最小電位であると理解される。
【0014】
本発明の最初の変形(今後、変形Aとする)に従い、上記方法の段階(iv)の比較のために使用した誘導効果は、筋肉組織が麻痺するまでの時間である(本出願において「寿命」と呼ぶ)。亜変形に従い、麻痺までの時間は、筋肉収縮距離(麻痺に達すると、当該収縮距離がゼロに等しくなる)(変形A1)又は筋肉単収縮頻度(麻痺に達すると、単収縮頻度がゼロに等しくなる)(変形A2)に基づき測定することができる。
【0015】
本発明の他の変形(今後、変形Bとする)に従い、上記方法の段階(iv)の比較のために使用した誘導効果は、筋肉組織の収縮速度における変化である。
【0016】
本発明の他の変形(今後、変形Cとする)に従い、上記方法の段階(iv)の比較のために使用した誘導効果は、筋肉組織の収縮距離における変化である。
【0017】
本発明の他の変形(今後、変形Dとする)に従い、上記方法の段階(iv)の比較のために使用した誘導効果は、筋肉組織の収縮力における変化である。
【0018】
本発明の他の変形(今後、変形Eとする)に従い、上記方法の段階(iv)の比較のために使用した誘導効果は、筋肉組織中の終板電位又は微小終板電位おける変化である。
【0019】
変形A(その亜変形を含む)、B、C、D、及びEの組み合わせは、得られる結果の精度における改善を達成するために当業者により使用されることができる。特に、当業者は、変形A1と変形A2を組み合わせることを考慮することができる。
【0020】
好ましくは、シナプス前神経筋遮断物質は、ボツリヌス神経毒素であろう。特に、当該ボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素A型、ボツリヌス神経毒素B型、及びボツリヌス神経毒素F型から選択することができる。より好ましくは、ボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素A型、及びボツリヌス神経毒素B型から選択されるであろう。特に、好ましい方法において、ボツリヌス神経毒素は、ボツリヌス神経毒素A型であり、顕著にはボツリヌス神経毒素A型複合体(商業製品Dysport(登録商標)又はBotox(登録商標)の活性成分等)であろう。
【0021】
通常の方法において、上記方法は、低濃度(例えば、0〜100LD50ユニット/ml、そして好ましくは0〜50又は0〜10LD50ユニット/ml)においてより感応性であろうが、一方、試料中に高濃度のシナプス前神経筋遮断物質が存在する場合は機能しなくてよい(電気刺激にもかかわらず筋肉組織は麻痺状態を維持する)。結果として、本発明の方法が行われる場合、試験試料は、好ましくは、少なくとも2又は3回の希釈(例えば、希釈無し、10倍希釈、及び100倍希釈)において調製されるであろう;当該方法において、より高濃度のシナプス前神経筋遮断物質においてもまた測定することができる。しかしながら、前述の方法の感応性は、上述の通り改善することができる。
【0022】
本発明の好ましい遂行方法に従い、上記筋肉組織は、マウス又はラットから得られた肋骨筋肉の断片から構成されるであろう。好ましくは、当該断片は、少なくとも2mm×10mmの大きさを有するであろう。筋肉組織は、例えば、肋骨筋肉の2−肋骨切片に相当する大きさを有してよい。
【0023】
更に好ましい本発明の遂行方法に従い、各電気刺激は、常に、筋肉組織の収縮を誘導するために必要とされる少なくとも最小電位Vmと同じである電位Vsを適用することにあり、更に、VsはVmよりわずかに上の電位以下又は同じである。「Vmよりわずかに上の電位」は、Vmプラス3ボルト、Vmプラス2ボルト、又はVmプラス1.5ボルトである。例えば、適用される刺激電位は、Vmプラス1ボルトとして選択できる。
【0024】
本発明の更に可能な特徴は、ビデオレコーダーを併用したビデオカメラの使用を含む。それから当該作製されたフィルムを分析することができ、そして、シナプス前神経筋遮断物質の効果を正確に評価することができる。それから、試料中に存在するシナプス前神経筋遮断物質の含量は、基準に観察されたものと比較した、試料に観察される効果に由来することができる。
【0025】
あるいは、上述の変形Dのために筋肉組織の収縮力を計測するために使用される圧力変換トランスデューサーは、自動リアルタイム電子データキャプチャーシステムを付随することができる。
【0026】
結果の可変性を減少させるために、電気刺激装置は、特定の時間間隔において選択された電位Vsを送る。この場合、各時間は一定の効果をもたらす。これらの条件において観察される平均的な効果を使用することは、試料中に存在するシナプス前神経筋遮断物質の含量のより正確な測定を許容する。
【0027】
上記方法のための感応性を増大させる方法は、当該方法をより長時間にわたり行うことにあり、獲得すべきより多くのデータ(例えば、少なくとも5、10又は30分から1、2、4、8、12、24、48、72時間又はそれ以上まで)を許容する。例えば、上記方法の変形Dのために、上記方法は、筋肉組織の収縮力の一定の割合における減少が計測されるまで行うことができる(例えば、10、20、25、30、40、50、60、70、75、80又は90%の減少)。
【0028】
当該好ましい遂行方法を行うために、筋肉組織の寿命は、前に説明されたより一般的な方法と比較して延長されることが必要である。
【0029】
上記寿命を延長することを目的とするある特定のアプローチにおいて、酸素及びグルコース(又はATP源)が定期的な方法において筋肉組織に供される。
【0030】
上記を達成するための1つの方法は、一定の間隔において、グルコース(又は他のATP源)を含有する酸素添加した生理バッファーバスを、消費した酸素及びグルコース(又は他のATP源)を)を置き換えるために(上記間隔は、好ましくは、1分以上24時間以内であり、例えば、1、2、5、10、15又は60分毎)、新しいものと交換することである。他の方法は、バスの酸素濃度を一定に保つことを許容する、酸素が常に通気されているバスを使用することであり;更には、グルコース(又はATP源)は、筋肉組織により消費されたグルコース(又はATP源)を置き換えるために、定期的な間隔において添加することができる。
【0031】
あるいは、一定のグルコース(又は他のATP源)及び任意的な酸素レベルを保つために有利なフロースルーバスシステムを使用することができる。当該システムにおいて、グルコース(又は他のATP源)を含有する酸素添加した生理バッファーは、筋肉組織が浸されている容器の一方で汲み入れられ、他方で汲み出される。
【0032】
筋肉組織の寿命を延長させるための他の方法は、試料の疲労を減少させるトレインパルス刺激の使用を含む。トレインパルス刺激は、刺激が及ぼされない時間tp続く周期により相互から分離された時間ts続く刺激を意味する。当該時間tsは、好ましくは50μs〜500ms、より好ましくは100μs〜250ms及びより更に好ましくは100μs〜1ms(例えば、200μs又は約200μs)であり;時間tpは、好ましくは0.1〜10s、及びより好ましくは0.5及び2s(例えば、1s又は約1s)であり;ts/tp比は、好ましくは1:2〜1:50000、より好ましくは1:5〜1:20000、及びより更に好ましくは1:500〜1:10000(例えば、約1:5000)である。
【0033】
また、本発明は、以下の工程を含んで成る、試料中のシナプス前神経筋遮断物質に対する中和抗体の含量の測定方法を供する:
(i)筋肉組織の収縮を誘導するために必要な最小電位Vmを測定すること(上記筋肉組織は運動神経を介して電気刺激装置に結合されている);
(ii)シナプス前神経筋遮断物質に対する中和抗体、及び測定した量の上記シナプス前神経筋遮断物質を含有する試験すべき試料混合物(上記混合体は0〜45℃で約15〜約120分間前もってインキュベートする)を添加すること、;
(iii )少なくともVmに等しい電位において、一定の時間間隔において筋肉組織を電気刺激すること;
(iv)当該混合物により誘導された効果と、測定した量の上記シナプス前神経筋遮断物質により誘導された効果を比較し、そして、これにより試料中のシナプス前神経筋遮断物質に対する中和抗体の含量を測定すること。
【0034】
試料中のシナプス前神経筋遮断物質の含量を測定する方法のために前に示した全ての変形は、試料中のシナプス前神経筋遮断物質に対する中和抗体の含量を測定するための本発明の方法に修正を加えて適用することができる。
【0035】
「約」の語は、考慮される値の中間を意味する。本出願において使用される「約X」は、XマイナスXの10%〜XプラスXの10%の中間を、そして好ましくはXマイナスXの5%〜XプラスXの5%の中間を意味する。
【0036】
これらは別に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術的及び科学的語句は、本発明が属する分野における当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。同様に、本明細書において述べられる全ての刊行物、特許出願、全ての特許及び全ての他の引例は引例の方法として組み入れられている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、実施例1に説明される手順に従い、Dysport(登録商標)の濃度変化(0、1、10及び50U)での時間の関数において計測された肋間ラット調製物の相対的な収縮距離を示す。
【図2】図2は、実施例1に説明される手順に従い、Dysport(登録商標)の濃度変化(0、1、10及び50U)での収縮距離から計測された肋間ラット調製物の寿命を示す。当該データは、平均値±標準誤差、n=4〜5において示される。X軸は、Dysport(登録商標)の収縮時間(LD50 ユニット/ml)を、一方、Y軸は時間(s)を示す。
【図3】図3は、実施例1に説明される手順に従い、Dysport(登録商標)の濃度変化(0、1、10及び50U)での収縮頻度から計測された肋間ラット調製物の寿命を示す。当該データは、平均値±標準誤差、n=4〜5において示される。X軸は、Dysport(登録商標)の収縮時間(LD50 ユニット/ml)を、一方、Y軸は時間(s)を示す。
【図4】図4は、スタティックバスにおいて、圧力変換トランスデューサーに付着させた2肋骨組織を示す。
【図5】図5は、スタティックシステムにおいて実施例3の直接的適用法(以下の実験nの数を適用する:プラセボ:n=4;500U:n=8;1000U:n=5;1500U:n=11)を使用して、プラセボ、又は500、1000、1500若しくは3000Uのトキシンのいずれかに暴露した2肋骨切片の最大単収縮力計測でかかった時間(h)を示す。エラーバーは、±平均値標準誤差を示す。X軸は、最大単収縮力における%減少を示し、一方Y軸は、時間(h)を示す。
【図6】図6は、スタティックシステムにおいて実施例3の浸漬法(以下の実験nの数を適用する:プラセボ:n=3;3U:n=5;6U:n=2;12U:n=2)を使用して、プラセボ、又は3、6若しくは12Uのトキシンのいずれかに暴露した2−肋骨切片の最大単収縮力計測でかかった時間(h)を示す。エラーバーは、±平均値標準誤差を示す。X軸は、最大単収縮力における%減少を示し、一方Y軸は、時間(h)を示す。
【0038】
以下の実施例は上記を説明するために存在し、そして本発明の範囲を制限するものとして考慮してはならない。
【実施例】
【0039】
以下の実施例において、1Speywoodユニット又は1Uは、マウス中のボツリヌストキシンのメジアン腹腔内LD50用量に対応する。
【0040】
実施例1:ボツリヌストキシン含有試料
使用される材料
a)使用されるバッファー溶液:
「リリーズ(Lillies)リンゲルバッファー」として後に識別される改変リンゲルバッファーは、水中で以下を希釈することにより調製される:
【表1】

【0041】
使用の直前において、グルコース(11mM)を、前に調製された溶液に添加し、そして95%O2と5%CO2のガス混合体を上記バッファー溶液に通気させ、リリーズリンゲルバッファーを産出する。
【0042】
後に言及するリン酸バッファー生理食塩水溶液(PBS)は、Sigmaにより供されるタブレットを200mlの水に添加し溶解することにより調製し、当該バッファーは以下の特徴を供する。
【表2】

【0043】
b)組織の単離:
ウィスターラット(体重約275g)を、CO2暴露(意識を失わせるために約3分間)後に、頚椎脱臼により犠牲にする。胸郭を各動物から解剖し、リリーズリンゲルバッファー中に置き、そして実験場所に運ぶ(行程時間:約15分)。これらの胸郭は、脊柱にそって注意深く解剖することにより2つの切片に分離させる。当該組織を、実験手順を行う前に酸素添加バッファー中に保存する。
【0044】
c)筋肉の収縮を誘導するために必要な最小電位Vmの測定:
各肋間調製物(半分の胸郭)を、リリーズリンゲルバッファーを含むペトリ皿に置く。各調製物のために、約1〜2mmの神経束を明らかにするために1つの肋間神経を注意深く解剖する。解剖後、上記調製物は、10mlの酸素添加リリーズリンゲルバッファーを含むペトリ皿に戻す前に、新鮮な酸素添加リリーズリンゲルバッファー中に約15〜20分おいて回復させることができる。解剖した肋間神経をそれから吸引電極を介して、培地中におかれた回帰(return)接触電極を有する刺激装置と接続する。細胞収縮を誘導するために必要な最小電位Vmを測定する。刺激が10V以下に達することができない場合、他の神経を解剖し、そして接続の前に調製物を回復させる。
【0045】
試料中に含有されるボツリヌストキシントキシンの含量の測定方法
上記神経をパルス電位(5〜9V、1Hz)で刺激し、当該選択された電位は、刺激及び筋肉収縮を達成するために必要な閾電位Vより常に1V上にする。上記切片のビデオ顕微鏡観察は、組み合わせたTV/ビデオレコーダーに接続したJVC TKC1481EGビデオカメラを伴うNilkon SMZ800ステレオマイクロスコープで行う。
【0046】
Dysport(登録商標)(活性成分:ボツリヌストキシンA型)をPBS中に、直接肋間調製物(10mlのバッファー中に僅かに浸されている)上に加える。ml用量当たり50 Speywoodユニット(U)のために、500Uのトキシンを培養皿(10mlバッファー)に添加し、50U/ml用量の最終濃度を得る。10U/ml用量のために、100Uを、上記培養皿に添加し、10U/ml用量の最終濃度を得る。1U/ml用量のために、10Uを、上記培養皿に添加し、1U/ml用量の最終濃度を得る。プラセボ(ボツリヌストキシンが存在しないことを除き、Dysport(登録商標)と同じ組成を有する)のために、バイアル(0.2mlのPBS中)の全ての内容物を培養皿に添加する。
【0047】
データ分析
記録したビデオクリップを、MPEGファイルに変換する。後の分析を補助するために、各ムービーを2分間のセクションにカットし、そしてこれらのセクションを、Adobe(登録商標)Premiere(登録商標)5.1ソフトウェアを使用して開始速度の1/2にスローにする。それから、分析は10秒間(半分のスピードのクリップでは20秒間)中の単収縮の回数をカウントすることにより行い、そして当該10秒間にわたる単収縮の回数を平均化し、単収縮の頻度の値を得る。また、収縮距離は、重ねられたスケールバー(任意単位−通常6〜7ポイントスケール)を伴うムービーを再生することにより測定でき、当該データを平均化し、各10秒間にわたる収縮距離を得ることができ、あるいは、上記距離は開始収縮距離と比較される。
【0048】
上記実験は一定回数繰り返し(0U/ml:n=5;1U/ml:n=5;10U/ml:n=4;50U/ml:n=4)、そして当該結果を平均化する。
【0049】
結果
図1から、Dysport(登録商標)濃度の関数として、相対的な収縮距離(即ち、トキシンの不存在下における収縮距離により得られたトキシンの存在下における収縮距離)が、多かれ少なかれ急速に減少されることを示す。
【0050】
また、Dysport(登録商標)濃度の関数として観察できるように、図2は、距離単収縮寿命(即ち、当該トキシンが添加されてから、収縮距離がゼロになるまでに必要とされる時間)に関する結果が、筋肉収縮距離において用量依存的な減少を示すことが解る。
【0051】
図3に示される通り、単収縮頻度寿命(即ち、当該トキシンが添加されてから、単収縮頻度がゼロになるまでに必要とされる時間)もまた、用量依存的な方法において、Dysport(登録商標)により減少される。
【0052】
実施例2:α−ブンガロトキシン含有試料
実施例1のために説明した同じ手順を使用して、Dysport(登録商標)の代わりにα−ブンガロトキシンを、21μM(n=3)の濃度において試験する。α−ブンガロトキシン調製物の平均単収縮寿命は、225s(±標準誤差93、n=3)、及び238s(±標準誤差93、n=3)であり、それぞれ収縮距離及び単収縮頻度から計測される。
【0053】
実施例3:延長生命系
材料調製
a)使用されるバッファー溶液:
当該実施例において使用される改変リンゲルバッファー又は「リリーズリンゲルバッファー」は1リットルの水に以下を希釈することにより調製される:
ゼラチン 2g
NaHPO4,2H2O 10g
【0054】
b)組織の単離:
オスのウィスターラット(約230〜300g)を、CO2暴露(意識を失わせるために約3分間)後に、頚椎脱臼により犠牲にする。胸郭を各動物から解剖し、リリーズリンゲルバッファー中に置き、そして実験場所に運ぶ(行程時間:約20分)。これらの胸郭は、脊柱及び胸骨にそって注意深く解剖することにより2つの切片に分離させる。実験手順の前に、2つの半分の胸郭を約300mlの継続的に酸素添加したリリーズリンゲルバッファー中に少なくとも30分間保存する。
【0055】
c)筋肉の収縮を誘導するために必要な最小電位Vmの測定:
1つの半分の胸郭を、約10mlのリリーズリンゲルバッファーを含むペトリ皿に置き、約1〜2mmの神経束を明らかにするように1つの肋間神経を注意深く解剖する。それから、当該神経を、吸引電極を介して培地中におかれた回帰(return)接触電極を有する刺激装置(Grass Instruments Model S48)と接続する。細胞収縮を誘導するために必要な最小電位Vmを測定する。刺激が10V(1Hz、200μ秒持続時間)以下に達することができない場合、他の神経を解剖する。神経を有する2−肋骨切片を半分の胸郭から解剖し、圧力変換トランスデューサーに後で付着するための2つの肋骨の端のいずれかを残せる程度に過剰な筋肉組織を確保する。
【0056】
d)圧力変換トランスデューサーへの付着:
図4に示されるスタティックバスシステムに関して、3つの金属ステーブルが、2つの肋骨のいずれかの端上の非刺激筋肉組織に付着された。2−肋骨切片(5)の一方の端は、3つのステーブルを介して、固定した脚(4)に付着させ、他の端は自由な脚に付随させた。上記固定した脚は、その場所にしっかりと固定し、一方自由な脚は、約4cmの綿針(7)を介して、圧力変換トランスデューサー(1 ; Grass Instruments Model FT03)に付着させた。当該固定された組織を約500mlのリリーズリンゲルバッファーに浸し、そして回帰電極(2)を当該バッファー中に置いた。解剖した肋間神経を、(正)吸引電極(3)を介して、刺激装置に接続した。また、図4に示された当該システムは、CO/Oガス入り口(6)を含む。
【0057】
試料中に含まれるボツリヌストキシンの含量の測定方法
上記2−肋骨組織切片を、連続パルス刺激を使用して(毎回30秒間の最初の5秒間は1パルス/秒)、約90分間、15V、200μ秒持続時間で刺激する。
【0058】
所望されるトキシンの濃度は、適用の直前にGPB中で再構成させる。当該トキシン伝達は以下2つの方法のひとつを介する:
A)直接的適用−上記2−肋骨切片を、組織バス中のいくらかのバッファーを除去することにより、空気/液体界面に暴露させる。ハミルトンシリンジを使用して、トキシンを滴下法において、暴露した組織に直接的に適用する。オリジナルリンゲルバッファーでカバーする前に、トキシンを取り込むことができるように、上記組織を更に15分間暴露したままにする。必要であれば、いずれかの取り外された、解剖された神経を吸引電極に再接続させる。
B)浸漬−ハミルトンシリンジを使用して、トキシンを、2−肋骨切片に近接する(但し、直接その上ではない)組織バスに直接的に適用する。
【0059】
圧力変換トランスデューサーから記録された単収縮力の読みは、Grass Instruments AC/DC ストレインゲージ増幅器(Model P122)を通して増幅させ、それから、シグナルは、Grass PolyVIEWTMソフトウェアを使用して記録される。
【0060】
データ分析
記録されたトレースから、一定のパーセンテージにより減少させるように、初期の最大単収縮力計測にかかった時間(トキシン/プラセボの添加後)を計測した。当該実験は、一定の回数繰り返す(直接的適用法:プラセボ:n=4;500U:n=8;1000U:n=5;1500U:n=11;浸漬法:プラセボ:n=3;3U/ml:n=5;6U/ml:n=2,12U/ml:n=2)。プラセボ及び低レベルのトキシンに暴露した場合の組織の長い寿命のために、単収縮力における90%減少において示された値は、一定の減少速度と仮定するデータの推定に基づく結果が予想される。
【0061】
結果
A)直接的適用法
図5において示されるように、時間による単収縮力の計測におけるゆっくりとした減少は、プラセボの添加後を含む全ての試料において記録される。プラセボの暴露後、約12時間後に、最大単収縮力における50%減少が観察される。比較において、1500Uのトキシンに暴露されたこれらの組織試料中、単収縮はより急速に減少され、約5時間後、50%減少に達する。
【0062】
B)浸漬法
図6において示されるように、単収縮力計測における減少は、プラセボの添加後に記録され、約20時間後に最大単収縮力における50%減少が観察された。3ユニット/mlのトキシン溶液中の組織の浸漬は、単収縮力の50%減少に達する13時間の刺激後に、単収縮力の速度を更に増加させた。より高いトキシン濃度では、用量依存型応答は、更に明らかである。
【0063】
理解されるように、反復可能な用量依存型トキシン誘導性の筋肉収縮の抑制は、トキシン伝達の直接適用法及び浸漬法の両方を使用して観察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のシナプス前神経筋遮断物質の含量の測定方法であって、以下の行程:
(i)筋肉組織の収縮を誘導するために必要な最小電位Vmを測定すること、ここで、上記筋肉組織は運動神経を介して電気刺激装置に結合されている;
(ii)シナプス前神経筋遮断物質を含む試料を添加すること;
(iii )少なくともVmに等しい電位において、一定の時間間隔において筋肉組織を電気刺激すること;
(iv)当該試料により誘導された効果と、基準物質により誘導された効果を比較し、そして、これにより試料中のシナプス前神経筋遮断物質の含量を測定すること;
を含んで成る方法。
【請求項2】
上記筋肉組織がバッファー中に浸漬される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記バッファーが生理バッファーである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記バッファーがエネルギー源を含んで成る、請求項2又は請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記エネルギー源がATPエネルギー源である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記バッファーが酸素添加される、請求項2〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
上記バッファーがグルコースを含む酸素添加した生理バッファーである、請求項2〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の行程(iii )における電気刺激が、少なくとも過最大電位VSMと等しい電位において行われる、上記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
上記誘導される効果が、筋肉組織の麻痺に対する時間である、上記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
上記誘導される効果が、筋肉組織の収縮速度における変化である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
上記誘導される効果が、筋肉組織の収縮距離における変化である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
上記誘導される効果が、筋肉組織の収縮力における変化である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
上記誘導される効果が、筋肉組織の終板電位、又は微小終板電位における変化である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の行程(iii )における電気刺激が、刺激が及ぼされない時間tp持続する周期により相互から分離された時間ts持続する刺激を含んで成り、上記時間tsが50μs〜500msであり、上記時間tpが0.1〜10sであり、そしてts/tp比が1:2〜1:50000である、上記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
上記シナプス前神経筋遮断物質がボツリヌストキシンである、上記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
上記ボツリヌストキシンが、ボツリヌストキシンA型、ボツリヌストキシンB型、及びボツリヌストキシンF型から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
上記ボツリヌストキシンが、ボツリヌストキシンA型、及びボツリヌストキシンB型から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
上記ボツリヌストキシンがボツリヌストキシンA型である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
上記シナプス前神経筋遮断物質がブンガロトキシンである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
上記ブンガロトキシンが、α−ブンガロトキシンである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
試料中のシナプス前神経筋遮断物質に対する中和抗体の含量の測定方法であって、以下の行程:
(i)筋肉組織の収縮を誘導するために必要な最小電位Vmを測定すること、ここで、上記筋肉組織は運動神経を介して電気刺激装置に結合されている;
(ii)シナプス前神経筋遮断物質に対する中和抗体、及び測定した量の上記シナプス前神経筋遮断物質を含有する試験すべき試料混合物を添加すること、ここで、上記混合物は0〜45℃で約15〜約120分間前もってインキュベートされている;
(iii )少なくともVmに等しい電位において、一定の時間間隔において筋肉組織を電気刺激すること;
(iv)当該混合物により誘導された効果と、測定した量の上記シナプス前神経筋遮断物質により誘導された効果を比較し、そして、これにより試料中のシナプス前神経筋遮断物質に対する中和抗体の含量を測定すること;
を含んで成る方法。
【請求項22】
上記誘導される効果が筋肉組織の収縮力の変化である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
上記シナプス前神経筋遮断物質がボツリヌストキシンである、請求項21又は請求項22に記載の方法。
【請求項24】
上記ボツリヌストキシンがボツリヌストキシンA型である、請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−254825(P2011−254825A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−160053(P2011−160053)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【分割の表示】特願2006−502311(P2006−502311)の分割
【原出願日】平成16年2月20日(2004.2.20)
【出願人】(510186018)イプセン バイオファーム リミティド (2)
【Fターム(参考)】