説明

ボツリヌス毒素の安定な液体処方物

【課題】簡便に輸送、貯蔵、および使用され得るボツリヌス毒素の使用のための準備が整った液体処方物を提供すること。
【解決手段】選択された筋肉、筋肉群、腺または器官へのコリン作用性入力を阻害する必要がある患者を処置するための組成物。薬学的に有効な用量の使用のための準備が整った安定な液体薬学的ボツリヌス毒素処方物を含み、処方物は、(a)リン酸緩衝剤、リン酸−クエン酸緩衝剤、およびコハク酸緩衝剤からなる群より選択される緩衝成分を含む薬学的に受容可能な緩衝化生理食塩水;(b)血清アルブミン;および(c)単離されたボツリヌス毒素;を含み、組成物は、0℃と10℃との間の温度±10%の温度で少なくとも1年間液体として安定であるか、または10℃と30℃との間の温度±10%の温度で少なくとも6ヶ月間液体として安定であり、組成物は、さらに再構成する必要なく哺乳動物に対して薬剤として投与するために適切である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、0〜10℃で少なくとも1〜2年の期間、液体形態で貯蔵するに安定な、ボツリヌス毒素の治療処方物に関する。
【背景技術】
【0002】
(参考文献)
【0003】
【数1】

【0004】
(発明の背景)
ボツリヌス毒素は、嫌気性細菌Clostridium botulinumのポリペプチド産物である。この毒素は、神経筋接合部での神経伝達物質アセチルコリンのシナプス前の放出をブロックすることによって、哺乳動物において筋肉麻痺を引き起こす。この毒素は致死性ボツリヌス中毒と長く関連付けられていたが、近年この毒素は、以下を含む特定の不随意筋運動障害を処置するために治療的に使用されている:病巣(focal)失調症(例えば、斜視、本態性眼瞼痙攣および片側顔面痙縮)、ならびに分節的失調症(例えば、斜頚、口下顎失調症、および痙性失調症)ならびに痙攣。この毒素はまた、種々の美容適応(例えば、顔面の「しかめっ面のしわ」の非外科的減少)ならびに多汗症(過度の発汗)の処置において、有用性が見出されている。
【0005】
現在、ヒトにおいて治療用使用が承認されている2つのボツリヌス毒素(A型)調製物−「BOTOX(登録商標)」(Oculinum(登録商標);Allergan Inc.、Irvine、CA)および「DYSPORT(登録商標)」(Spexwood Pharmaceuticals,Ltd.;U.K.)が存在する。これらの処方物はともに、使用直前の再構成のために、凍結乾燥(冷凍乾燥)形態で臨床医に提供される。
【0006】
患者間での投薬必要量の変動に起因して、いかなる個々の患者に必要な投薬量も、かなり変わり得る。さらに、特定の適応のために、臨床医は、調製済みバイアルの内容物のほんの小さい画分のみを、長引いた期間の間(数時間であり得る)投与しなければならない。1つの刊行された研究が、液体ボツリヌス毒素処方物を活性の実質的な保持を伴って再凍結および解凍し得ることを示したが(SchantzおよびKautter、1978)、再構成された毒素の活性を評価するより最近の研究は、「BOTOX(登録商標)」を再構成し、そして標準的冷蔵庫(約4℃)で12時間貯蔵した場合に、その効力の少なくとも44%を損失することを示した。さらに、この再構成された処方物を−70℃で0℃下(sub−zero)冷凍庫で貯蔵した場合に、2週間後にその効力の約70%を損失した(GartlanおよびHoffman、1993)。これらの理由のために、このような組成物を再構成の4時間後より後に使用しないことが推奨される。これは、患者に対して薬物および費用の有意な浪費を生じ得る。
【非特許文献1】Frankel,A.S.およびKamer,F.M.,Chemical browlift.「Arch.Otolaryngol.Surg.」(1998)124(3):321〜323
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、臨床医によって必要とされる場合、簡便に輸送、貯蔵、および使用され得るボツリヌス毒素の使用のための準備が整った(ready−to−use)液体処方物についての必要性が存在する。本発明は、そのような処方物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、薬学的処方物中での使用のためのボツリヌス毒素の安定な液体処方物に関する。本発明の処方物は、現在利用可能な処方物と異なり、標準的な冷蔵庫温度(約4±2℃、または約2〜8℃、またはより一般的には、約0℃〜約10℃の範囲)で、延長した期間(1年以上)の貯蔵の間、液体形態で安定であるという利点を有する。関連する局面において、この処方物は、「室温」(約25℃、またはより一般的には10〜30℃の範囲)での貯蔵の間、少なくとも6ヶ月にわたって、液体形態で安定である。このような処方物は、領域(特に、筋肉または筋肉群、腺または器官)へのコリン作用性神経入力の減少または阻害が改善できる(ameliorative)状態において、特に有用である。このような状態の例は、本明細書中に記載される。
【0009】
1つの局面において、本発明は、単離されたボツリヌス毒素、および約pH5と約pH6との間の範囲の緩衝化pHを提供し得る緩衝剤を含む、安定な液体薬学的処方物を包含する。この一般的実施形態によって、この毒素は、緩衝化液体中で混合され、5と6との間のpH、特に約pH5.4と約pH5.8との間、そして好ましくは約pH5.5〜5.6のpHを有す液体処方物を形成する。生じた処方物は、約0〜10℃の範囲の温度で少なくとも1年間、そして少なくとも2年程度の長さの間安定であるか、または上記のように、より高い温度で少なくとも6ヶ月間安定である。一般的に、本発明に従って、任意の公知のボツリヌス毒素血清型(例えば、血清型A、B、C1、C2、D、E、F、もしくはG)または等価な生物学的活性を有する他の血清型が、本発明の処方物中に組み込まれ得る。好ましい実施形態において、この処方物中で使用されるボツリヌス毒素は、Clostridium botulinumから単離された、ボツリヌス毒素血清型AまたはBである。
【0010】
好ましい実施形態において、ボツリヌス毒素B型は、この処方物中で700キロダルトンの分子量の複合体として、約100〜20,000U/mlの濃度、そして好ましくは約1000〜5000U/mlの間の濃度で存在する。A型を使用する場合、そのA型は、一般的に約20〜2000U/mlの濃度、そして好ましくは約100〜1,000U/mlの間の濃度で存在する。異なる血清型の組み合わせをこの処方物中で使用する場合、その有用な投薬量または濃度の範囲は、本明細書中に例証される投薬量および濃度に比例して、それらのそれぞれの生物学的活性に従って決定され得る。
【0011】
この処方物中で使用され得る緩衝剤は、哺乳動物組織、特にヒトへの注入のために安全であると考えられる生理学的緩衝剤である。代表的緩衝剤としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:リン酸ベースの緩衝剤系、リン酸−クエン酸ベースの緩衝剤系、コハク酸ベースの緩衝剤系、酢酸ベースの緩衝剤系、クエン酸ベースの緩衝剤系、アコニット酸ベースの緩衝剤系、リンゴ酸ベースの緩衝剤系、およびカルボン酸ベースの緩衝剤系。好ましくは、この処方物はまた、賦形剤タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミンまたはゼラチン)を含む。前述の例示的緩衝剤および賦形剤タンパク質の等価物が当業者により認識および利用されることが、理解される。本発明の毒素処方物は、当該分野で公知の種々の容器またはバイアルのうちのいずれかに、その効力を保持しつつパッケージされ得る。
【0012】
関連する局面において、本発明は、コリン作用性伝達(選択された筋肉または筋肉群への、あるいはコリン作用性神経支配を有する特定の腺領域(例えば、汗腺)または特定の器官へのコリン作用性伝達)の阻害を必要とする患者を処置する方法を包含する。本発明はまた、このような適応症を処置するための医薬の調製における、本発明の処方物の使用を含む。
【0013】
ボツリヌス毒素処方物を使用して処置し得る治療適応症および美容適応症の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙縮、中耳炎、痙性大腸炎、アニスムス(anisumus)、排尿筋−括約筋筋失調、顎クレンチング(clenching)、脊柱湾曲、痙攣(例えば、以下からなる群のうちの1つ以上に起因する痙攣:脳卒中、脊髄損傷、閉鎖性頭部外傷、脳性麻痺、多発性硬化症、およびパーキンソン病)、ならびに失調症(例えば、痙性斜頚(頚部失調症)、痙性失調症、四肢失調症、喉頭失調症、口下顎(メージュ)失調症)。この処方物はまた、子供を産む過程にある患者の会陰(会陰筋)へ、このような筋肉の弛緩を引き起こすために投与され得る。この処方物の例示的美容適応症は、しわまたは溝のある額を生じる筋肉への投与を含む。この処方物の他の適応症は、筋筋膜性疼痛、片頭痛関連の頭痛、脈管障害、神経痛、神経障害、関節炎痛、背中痛、多汗症、鼻漏、喘息、唾液分泌過多、および過剰胃酸分泌を含む。
【0014】
本発明の処方物の特に特定の投与経路は、筋肉内投与、皮下投与またはイオン導入投与を含む。例えば、本発明に支持されて実行された研究において、ボツリヌス毒素B型は、5000〜10000単位の間の、1日に分割してかまたは1日1回の投薬で、筋肉内投与した場合に、頚部失調症を制御する際に有効であることが見出された。
【0015】
別の関連する局面に従って、本発明は、特定のボツリヌス血清型に対する免疫または耐性を発達させた患者を、別の血清型を含む安定な液体処方物を用いて処置する方法を包含する。例えば、ボツリヌス毒素血清型Aに対して不応性である患者は、ボツリヌス血清型B、C1、C2、D、E、FまたはGのうちのいずれかを含む安定な液体処方物で処置され得、あるいはボツリヌス毒素血清型Bに対して不応性である患者は、ボツリヌス血清型A、C1、C2、D、E、FまたはGのうちのいずれかを含む安定な液体処方物で処置され得、このことにより回復した効力が提供される。
【0016】
本発明のこれらおよび他の、目的および特徴は、以下の本発明の詳細な説明を添付の図面とともに読んだ場合に、より完全に明らかになる。
・(項目1) 安定な液体薬学的ボツリヌス毒素処方物であって、以下:
約pH5と約pH6との間の範囲の緩衝化pHを提供し得る、薬学的に受容可能な緩衝剤;および
単離されたボツリヌス毒素、
を含み、該処方物は、約0℃と約10℃との間の温度で少なくとも1年間液体として安定である、処方物。
・(項目2) 項目1に記載の処方物であって、上記温度が約5±3℃である、処方物。
・(項目3) 項目1に記載の処方物であって、上記温度が約4±2℃である、処方物。
・(項目4) 項目1〜3のいずれか1項に記載の処方物であって、上記緩衝剤がpH4.5〜6.5の範囲のpKを有する、処方物。
・(項目5) 項目1〜4のいずれか1項に記載の処方物であって、上記毒素処方物が少なくとも2年間液体形態で安定である、処方物。
・(項目6) 項目1〜5のいずれか1項に記載の処方物であって、上記緩衝化pH範囲が約pH5.6±0.2である、処方物。
・(項目7) 項目1〜6のいずれか1項に記載の処方物であって、上記緩衝剤が、リン酸緩衝剤、リン酸−クエン酸緩衝剤、およびコハク酸緩衝剤からなる群より選択される、処方物。
・(項目8) 項目1〜7のいずれか1項に記載の処方物であって、上記ボツリヌス毒素が、血清型A、B、C1、C2、D、E、FおよびGからなる群より選択されるボツリヌス毒素血清型である、処方物。
・(項目9) 項目8に記載の処方物であって、上記ボツリヌス毒素が、約100〜約20,000U/mlの範囲の濃度で存在するボツリヌス毒素B型である、処方物。
・(項目10) 項目9に記載の処方物であって、上記ボツリヌス毒素B型が約1000〜約5000U/mlの間の濃度で存在する、処方物。
・(項目11) 項目9または項目10に記載の処方物であって、上記ボツリヌス毒素B型が約700キロダルトン(kD)の高分子量複合体中に存在する、処方物。
・(項目12) 項目8に記載の処方物であって、上記ボツリヌス毒素がボツリヌス毒素A型であり、該毒素が約20〜約2000U/mlの範囲の濃度で存在する、処方物。
・(項目13) 項目12に記載の処方物であって、上記ボツリヌス毒素A型が約100〜約1000U/mlの範囲の濃度で存在する、処方物。
・(項目14) 項目1〜13のいずれか1項に記載の処方物であって、賦形剤タンパク質をさらに含む、処方物。
・(項目15) 項目14に記載の処方物であって、上記賦形剤タンパク質が、血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、およびゼラチンからなる群より選択される、処方物。
・(項目16) 安定な液体薬学的ボツリヌス毒素処方物であって、以下:
約pH5と約pH6との間の範囲の緩衝化pHを提供し得る、薬学的に受容可能な緩衝剤;および
単離されたボツリヌス毒素、
を含み、該処方物は、約10℃と約30℃との間の温度で少なくとも6ヶ月間液体として安定である、処方物。
・(項目17) 項目16に記載の処方物であって、上記温度が約25℃である、処方物。
・(項目18) 項目16〜17に記載の処方物であって、上記緩衝剤がpH4.5〜6.5の範囲のpKを有する、処方物。
・(項目19) 項目16〜18のいずれか1項に記載の処方物であって、上記緩衝剤が、リン酸緩衝剤、リン酸−クエン酸緩衝剤、およびコハク酸緩衝剤からなる群より選択される、処方物。
・(項目20) 項目16〜19のいずれか1項に記載の処方物であって、上記緩衝化pH範囲が約pH5.6±0.2である、処方物。
・(項目21) 項目16〜20のいずれか1項に記載の処方物であって、上記ボツリヌス毒素が、血清型A、B、C1、C2、D、E、FおよびGからなる群より選択されるボツリヌス毒素血清型である、処方物。
・(項目22) 項目21に記載の処方物であって、上記ボツリヌス毒素が、約100〜約20,000U/mlの濃度で存在するボツリヌス毒素B型である、処方物。
・(項目23) 項目22に記載の処方物であって、上記ボツリヌス毒素B型が約1000〜約5000U/mlの範囲の濃度で存在する、処方物。
・(項目24) 項目22または項目23に記載の処方物であって、上記ボツリヌス毒素B型が約700キロダルトン(kD)の高分子量複合体中に存在する、処方物。
・(項目25) 項目21に記載の処方物であって、上記ボツリヌス毒素がボツリヌス毒素A型であり、該毒素が約20〜約2000U/mlの範囲の濃度で存在する、処方物。
・(項目26) 項目25に記載の処方物であって、上記ボツリヌス毒素がボツリヌス毒素A型であり、該毒素が約100〜約1000U/mlの範囲の濃度で存在する、処方物。
・(項目27) 項目16〜26のいずれか1項に記載の処方物であって、賦形剤タンパク質をさらに含む、処方物。
・(項目28) 項目27に記載の処方物であって、上記賦形剤タンパク質が、血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、およびゼラチンからなる群より選択される、処方物。
・(項目29) 選択された筋肉、筋肉群、腺または器官へのコリン作用性入力の阻害の必要がある患者を処置する方法であって、
該患者の該選択された筋肉、筋肉群、腺または器官に、薬学的に有効な用量の項目1〜28のいずれかに記載の液体ボツリヌス毒素処方物を投与する工程を包含する、方法。
・(項目30) 項目29に記載の方法であって、上記患者が以下からなる群より選択される障害に罹患している、方法:痙攣、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙縮、失調症、中耳炎、痙性大腸炎、アニスムス(anisumus)、排尿筋−括約筋筋失調、顎クレンチング(clenching)、および脊柱湾曲。
・(項目31) 項目30に記載の方法であって、上記患者が以下からなる群のうちの1つ以上に起因する痙攣に罹患している、方法:脳卒中、脊髄損傷、閉鎖性頭部外傷、脳性麻痺、多発性硬化症、およびパーキンソン病。
・(項目32) 項目30に記載の方法であって、上記患者が以下からなる群から選択される失調症に罹患している、方法:痙性斜頚(頚部失調症)、痙性失調症、四肢失調症、喉頭失調症、および口下顎(メージュ)失調症。
・(項目33) 項目29に記載の方法であって、上記選択された筋肉または筋肉群がしわ、または溝のある額を生じる、方法。
・(項目34) 項目29に記載の方法であって、上記筋肉が会陰筋であり、そして上記患者が子供を産む過程にある、方法。
・(項目35) 項目29に記載の方法であって、上記患者が以下からなる群より選択される状態に罹患している、方法:筋筋膜性疼痛、片頭痛関連の頭痛、脈管障害、神経痛、神経障害、関節炎痛、背中痛、多汗症、鼻漏、喘息、唾液分泌過多、および過剰胃酸分泌。
・(項目36) 項目29〜35のいずれか1項に記載の方法であって、上記患者がボツリヌス毒素血清型Aに対して治療抵抗性であり、かつ上記処方物が、ボツリヌス毒素血清型B、C1、C2、D、E、FおよびGから群より選択される、方法。
・(項目37) 項目36に記載の方法であって、上記処方物中の上記ボツリヌス毒素がボツリヌス毒素B型である、方法。
・(項目38) 項目29〜35のいずれか1項に記載の方法であって、上記患者がボツリヌス毒素血清型Bに対して治療抵抗性であり、かつ上記処方物が、ボツリヌス毒素血清型A、C1、C2、D、E、FおよびGから群より選択される、方法。
・(項目39) 項目38に記載の方法であって、上記処方物中の上記ボツリヌス毒素がボツリヌス毒素A型である、方法。
・(項目40) 患者を処置する際の使用のための医薬の製造のための、項目1〜28のいずれかに記載の安定な液体ボツリヌス毒素処方物の使用であって、該患者は、選択された筋肉、筋肉群、腺または器官に対するコリン作用性伝達の阻害の必要がある患者である、使用。
・(項目41) 項目40に記載の使用であって、上記患者が以下からなる群より選択される障害に罹患している、使用:痙攣、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙縮、失調症、中耳炎、痙性大腸炎、アニスムス(anisumus)、排尿筋−括約筋筋失調、顎クレンチング(clenching)、および脊柱湾曲。
・(項目42) 項目41に記載の使用であって、上記患者が以下からなる群のうちの1つ以上に起因する痙攣に罹患している、使用:脳卒中、脊髄損傷、閉鎖性頭部外傷、脳性麻痺、多発性硬化症、およびパーキンソン病。
・(項目43) 項目41に記載の使用であって、上記患者が以下からなる群から選択される失調症に罹患している、使用:痙性斜頚(頚部失調症)、痙性失調症、四肢失調症、喉頭失調症、および口下顎(メージュ)失調症。
・(項目44) 項目40に記載の使用であって、上記選択された筋肉または筋肉群がしわ、または溝のある額を生じる、使用。
・(項目45) 項目40に記載の使用であって、上記筋肉が会陰筋であり、そして上記患者が子供を産む過程にある、使用。
・(項目46) 項目40に記載の使用であって、上記患者が以下からなる群より選択される状態に罹患している、使用:筋筋膜性疼痛、片頭痛関連の頭痛、脈管障害、神経痛、神経障害、関節炎痛、背中痛、多汗症、鼻漏、喘息、唾液分泌過多、および過剰胃酸分泌。
・(項目47) 項目40〜46に記載のいずれかに記載の使用であって、上記患者がボツリヌス毒素血清型Aに対して治療抵抗性であり、かつ上記処方物が、ボツリヌス毒素血清型B、C1、C2、D、E、FおよびGから群より選択される、使用。
・(項目48) 項目47に記載の使用であって、上記処方物中の上記ボツリヌス毒素がボツリヌス毒素B型である、使用。
・(項目49) 項目40〜46のいずれか1項に記載の方法であって、上記患者がボツリヌス毒素血清型Bに対して治療抵抗性であり、かつ上記処方物が、ボツリヌス毒素血清型A、C1、C2、D、E、FおよびGから群より選択される、使用。
・(項目50) 項目49に記載の使用であって、上記処方物中の上記ボツリヌス毒素がボツリヌス毒素A型である、使用。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(本発明の詳細な説明)
本発明は、安定な液体薬学的ボツリヌス毒素処方物およびその使用に関する。現在、ボツリヌス毒素調製物は、種々の治療適用および美容適用にために商業的に注目されており、溶液中の活性な毒素成分の不安定性に起因して、処方物は、厳密な貯蔵要件を有する凍結乾燥成分から再構成されなければならない。例えば、「BOTOX(登録商標)」は、凍結乾燥粉末として提供され、この粉末は、−5℃以下の冷凍庫中で輸送および貯蔵され、そして使用直前に正確に測定した量の生理食塩水の添加により再構成されなければならない。再構成後、この処方物を4時間以内に患者に投与すべきこと、およびどの再構成産物もこの時間の間冷蔵すべきこと(PDR、1997)が推奨され;この再構成産物の凍結および解凍することは推奨されない(Hoffman、1993)。
【0018】
本発明は、ボツリヌス毒素を含み、かつ標準的な冷蔵庫温度で少なくとも1年間液体として安定であり、そして室温で少なくとも6ヶ月間安定である、安定な液体処方物を提供する。この処方物は有利である。なぜなら、これは、通常でない貯蔵条件または輸送条件を必要とせず、そして過剰用量を生じ得る毒素の希釈における誤差の可能性を減少するからである。
【0019】
(I.定義)
本明細書中でされる場合、用語「安定な」とは、規定された期間または不定の期間のわたっての、生物学的に活性な物質(特に、ボツリヌス毒素)による生物学的活性または効力の保持をいう。
【0020】
用語「ボツリヌス毒素」とは、生物学的に活性なタンパク質またはタンパク質複合体といい、通常は、これらは、細菌Clostridium botulinumに由来する。この用語は、少なくとも8つの公知の血清学的に異なる毒素(A、B、C1、C2、D、E,FおよびG)のうちの任意のもの、ならびにコリン作用性神経伝達を阻害する同じ一般的能力を有する任意のさらなるボツリヌス毒素をいい、これらは活性な分子を形成する。必要に応じて、この用語はまた、C.botulinumからもまた由来し、この活性な分子と複合体化するキャリアタンパク質を含み、このタンパク質は、本明細書中第IIA節に記載される。ボツリヌス毒素血清型は、以下に記載のように、薬学的に関連するが、免疫学的には識別可能である。一般的に、この活性な毒素分子は、約145キロダルトンと約170キロダルトン(kD)との間の分子サイズを有する。本発明の文脈において、この毒素タンパク質は、天然の供給源から単離された毒素およびキャリアタンパク質、ならびに当該分野で公知の方法により組換え産生された対応する毒素およびキャリアタンパク質を含むことが理解される。さらに、用語「ボツリヌス毒素」は、以下に記載のように、公知のボツリヌス毒素配列に関して、保存的アミノ酸置換(欠失を含む)を含むアミノ酸配列を有する、タンパク質を含む。
【0021】
ボツリヌス毒素の「生物学的活性」とは、神経末端からのアセチルコリンの放出をブロックすることによってアセチルコリンレセプターを有するシナプスで、神経伝達をブロックするその能力をいう。この用語は、用語「コリン作用性伝達の阻害」、「コリン作用性入力の阻害」、「コリン作用性入力の減少」およびそれらの語形変化(declination)と、本明細書中で交換可能に使用される。この毒素の生物学的活性を評価するためのインビトロアッセイは、本明細書中に記載されるような、マウスLD50アッセイを含む。このアッセイでの活性の「単位」は、その投薬量で試験されたマウスのうちの50%を殺傷するのに必要な毒素タンパク質の量として規定される。
【0022】
一般的なアミノ酸は、本明細書中で1文字表記または3文字表記により言及される:アラニン(A、Ala)、システイン(C、Cys)、アスパラギン酸(D、Asp)、グルタミン酸(E、Glu)、フェニルアラニン(F、Phe)、グリシン(G、Gly)、ヒスチジン(H、His)、イソロイシン(I、Ile)、リジン(K、Lys)、ロイシン(L、Leu)、メチオニン(M、Met)、アスパルギン(N、Asn)、プロリン(P、Pro)、グルタミン(Q、Gln)、アルギニン(R、Arg)、セリン(S、Ser)、スレオニン(T、Thr)、バリン(V、Val)、トリプトファン(W、Trp)、チロシン(Y、Tyr)。
【0023】
用語「液体薬学的処方物」とは、液体薬学的賦形剤(例えば、緩衝化生理食塩水または生理学的緩衝剤)中で長期間貯蔵され得る、薬物または生物学的物質の薬学的に活性な調製物をいう。この処方物は、使用前に、類似の液体または異なる液体に希釈される、濃縮処方物であり得る。
【0024】
用語「緩衝剤」とは、水性媒体中に溶解された場合に、水素イオンが添加またはその溶液から除去されたときに、特定のpH範囲内にその溶液の遊離の水素イオン濃度を維持するように作用する、化合物(通常は塩)をいう。塩または溶液は、「緩衝能力」を有すること、またはこの機能を提供する場合にこのような範囲にわたってその溶液を緩衝化することをいう。一般的には、緩衝剤は、そのpKの±1pH内である範囲にわたって、十分な緩衝能力を有する。「生理学的緩衝剤」は、薬学的調製物の一部として投与される場合に、哺乳動物(特に、ヒト)に対して非毒性である緩衝剤である。本発明の文脈において、関連する生理学的緩衝剤の例が、本明細書中に提供される。
【0025】
「薬学的に受容可能な液体」は、哺乳動物(特に、ヒト)による消費またはこれらへの注入について安全であると考えられる液体である。
【0026】
用語「賦形剤タンパク質」は、本明細書中で使用される場合、薬学的に活性な調製物に添加されるが、この調製物に対してさらなる有意な生物学的活性を付与しない、タンパク質をいう。賦形剤タンパク質の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:血清アルブミン(特に、ヒト血清アルブミン)、およびゼラチン。このようなタンパク質は、好ましくは、この薬学的処方物が投与されるべき哺乳動物種に対して比較的非免疫原性である。
【0027】
用語「含む(comprising)」は、本発明の文脈、および特に、本願の特許請求の範囲において使用される場合、用語「含む(including)」、「含む(containing)」または「により特徴付けられる(characterized by)の意味を有することが意図される。要素A、B、およびCを「含む」組成物または方法は、A、B、またはCに加えて、他の列挙されていない要素(例えば、XまたはY)を含み得る。
【0028】
用語「約(about)」は本発明の文脈、そして特にその特許請求の範囲の文脈において使用される場合、「およそ(approximately)」または「ほぼ(nearly)」を意味する。数値の文脈において、厳密な数値規定に関係することなく、この用語は、列挙された値または範囲の±10%である値を見積もるように解釈され得る。
【0029】
本明細書中で使用される他のすべての用語は、当業者に公知であるかまたは標準的医学辞典または科学辞典に引用されている、通常の定義を獲得するように解釈されるべきである。
【0030】
(II.ボツリヌス毒素)
上記のように、ボツリヌス毒素は、Clostridium botulinumの種々の株により産生されるポリペプチド産物である。これらの株は、少なくとも8つの公知の血清学的に異なる毒素(A、B、C1、C2、D、E、FおよびG)を産生する。C.baratiおよびC.butyricumは各々、それぞれ血清型EおよびFと類似した1つの血清型を産生する(Simpson、1993)。一般的に、この毒素分子は、約145キロダルトンと約170キロダルトン(kD)との間の分子サイズを有する。いくつかの場合において、この活性な毒素分子は、先祖(progenitor)ポリペプチドから形成された、2つのジスルフィド結合した鎖からなる。例えば、ボツリヌス毒素B型は、150kDの単一の前駆体ポリペプチドから産生され、このポリペプチドは切れ目が入って、2つのジスルフィド結合したフラグメント(100kDの重鎖(H鎖)および50kDの軽鎖(L鎖))を最大の活性のために生成する。この天然に存在する毒素は、C.botulinumによりまた産生される非毒性キャリアタンパク質に非共有結合する。これらのキャリアタンパク質は毒素鎖に結合して、900kD(A型)、そして好ましくは約700kD(B型)程度の大きさを有する複合体を形成する。このキャリアタンパク質は、この毒素を同時精製し、そして必要に応じて、本明細書中に記載の処方物の一部を形成する。
【0031】
種々のボツリヌス毒素血清型が、細胞中で異なる結合特異性を示す。例えば、A型毒素およびE型毒素は、同じシナプトソーム結合部位に結合するが、B型毒素は別の部位に結合し、そしてA/E型結合部位での結合について競合しないようである(Melling、1988)。特定の理論または作用機構に拘束されるのを望まないが、この毒素のH鎖は神経細胞結合活性および細胞透過活性を提供し、一方L鎖はそのシナプスでのアセチルコリン放出を阻害するように作用すると、考えられる。さらに、ボツリヌス毒素A型およびB型は、アセチルコリン放出の阻害をもたらすためにわずかに異なる機構を使用すると考えられる:A型はシナプス結合タンパク質−25(SNAPS−25)を切断し、そしてB型は小胞結合膜タンパク質(VAMP、またはシナプトブレビン(synaptobrevin))を切断し、これらのタンパク質の両方が、シナプスからのシナプス小胞放出の成分である。
【0032】
すべてのC.botulinum毒素血清型は、哺乳動物において共通の生理学的結果を生じる。これらはすべて、コリン作用性シナプス活性を阻害またはブロックし、これにより部分的筋肉麻痺または全体的筋肉麻痺、あるいは器官機能または腺機能のブロックまたは阻害を、投与部位に依存して生じる。従って、本発明の処方物は、上記の生物学的活性により特徴付けられるC.botulinum由来の任意のボツリヌス毒素血清型を用いて使用され得る。ほとんどの現在公知の血清型のアミノ酸配列もまた、公知であるか、あるいは当該分野で公知の方法により決定され得る。本発明の文脈において、ボツリヌス毒素処方物はさらに、このような公知の配列に対して保存的アミノ酸置換を有する組換え操作されたボツリヌス毒素を含むと解釈されるべきであることが、理解される。一般的に、このような置換は、天然に存在するアミノ酸の標準的置換クラスからなされる。例えば、標準的置換クラスは、現存の相同性タンパク質において共通の側鎖特性および最高の置換頻度に基づく6つのクラスであり得、このクラスは、例えば、Dayhoff頻度交換マトリクスのような、当該分野で公知の標準的頻度交換マトリクスにより決定される。例えば、このDayhoffマトリクスの下では、これらのクラスは以下である:クラスI:Cys;クラスII:Ser、Thr、Pro、Hyp、Ala、およびGly(小さい脂肪族側鎖およびOH基側鎖を示す);クラスIII:Asn、Asp、Glu、およびGln(水素結合を形成し得る、中性側鎖および負に荷電した側鎖を示す);クラスIV:His、Arg、およびLys(塩基性極性側鎖を示す);クラスV:Ile、Val、およびLeu(分枝型脂肪族側鎖を示す)、およびMet;ならびにクラスVI:Phe、Tyr、およびTrp(芳香族側鎖を示す)。さらに、各グループは、関連するアミノ酸アナログ(例えば、クラスIVにおいては、オルニチン、ホモアルギニン、N-メチルリジン、ジメチルリジン、またはトリメチルリジン、そしてグループVIにおいてはハロゲン化チロシン)を含み得る。さらに、これらのクラスは、L立体異性体およびD立体異性体の両方を含み得るが、Lアミノ酸が置換のためには好ましい。例として、Aspによる別のクラスIII残基(例えば、Asn、Gln、またはGlu)の置換は、保存的置換である。
【0033】
ボツリヌス毒素活性は当該分野で公知であるような電気生理学的アッセイを使用して測定され、一方、活性は一般的に、小動物(例えば、マウス)にこの毒素を注入し、そして試験した動物のうちの平均して50%を殺傷するのに必要な毒素の用量を決定することによって、測定される。この用量は、「致死用量50」または「LD50」と呼ばれ、そして生物学的活性単位として規定される。治療適用のための用量は、慣習により、このような単位に標準化される。以下の第IIIB節にさらに詳細に考察されるように、これらの種々の血清型は、LD50単位により測定される場合に、異なるヒト治療効力を有し得る。治療投薬量は、この情報から、当該分野で公知の方法に従って、力価測定され得る。
【0034】
(ボツリヌス毒素の調製)
この節は、本発明に従う処方物において使用されるボツリヌス毒素を調製する方法を記載する。
【0035】
(A. C.botulinumからのボツリヌス毒素の精製)
この節は、ボツリヌス毒素B型により例示される、培養したC.botulinumから精製したボツリヌス毒素を調製する一般的方法を提供する。本明細書中で詳細に引用される方法に加えて、ボツリヌス毒素A型およびB型、ならびに他の公知の血清型を調製するための代替的方法が、当該分野で公知である。
【0036】
上記のように、本発明の処方物中の活性成分は、ボツリヌス毒素として公知のC.botulinum抽出物のタンパク質様成分であり、その活性成分は、約145〜170kDの間の分子量を有し、そして通常は、大いにもっと高い分子量を有するネイティブのタンパク質複合体中に存在する。この節は、種々のボツリヌス毒素の精製のための例示的方法を提供し、ボツリヌス毒素血清型AおよびBに焦点を当てる。一般的科学文献は、この毒素を精製する代替的方法についての指針を提供し、そして当業者は、そのような方法を同定し得、そしてそれらを、本発明に従って調製される処方物における使用について所望される特定の毒素に適用し得ることが、理解される。
【0037】
一般的に、ボツリヌス毒素B型は、C.botulinum培養物の高力価発酵物から、当該分野で周知の方法に従って、複合体として単離される。ストック培養物が、疾病管理センター(Center for Disease Control(CDC))およびその他の場所からの許可証を有する機関により、生物の分配に関する国内規則に従って米国において入手され得る。ボツリヌス毒素B型の精製のためには、C.botulinum OkraまたはBean Bが、適切な開始材料である。凍結したストック培養物を、培養培地(例えば、チオグリコール酸培地またはトリプチカーゼペプトン培地)を含む試験管に接種し、そして培養物を増殖させ、そして以下に記載されそして米国特許第5,696,077号(本明細書中に参考として援用される)に詳説され、そして以下に記載される方法に従って処理する。
【0038】
簡単には、培養物を、当該分野で公知の方法に従って増殖させて、所望の収量の毒素を産生するに十分な量の細菌開始材料を生成する。一般的に、約20リットルの細菌培養物が、0.5グラムの毒素を生成するために必要である。この培養物を室温に移し、そしてこの培養物のpHを、硫酸または別の適切な酸を用いてpH3.5に調整する。生じた沈殿物を沈ませ、そして明澄になった上清をデカントする。次いで、塩化カルシウムをこの沈殿物にかき混ぜながら添加し、そしてその容量を脱イオン水で増加させて、CaCl2の最終濃度が約150mMになるようにする。そのpHを、中性付近(pH6.5)まで上昇させ、そしてこの毒素溶液を遠心分離により清澄化する。この毒素を、pHを3.7に調整することによって再沈殿させる。生じた沈殿物を沈ませ、そしてこの毒素沈殿物を遠心分離により収集し、次いで緩衝剤に(pH5.5)再溶解させ、そして同じ緩衝剤に対して一晩徹底的に透析する。この透析された毒素を遠心分離し、そして生じた上清を、アニオン交換カラム(DEAE)を通じてクロマトグラフィーにかける。非結合画分を収集し、そしてタンパク質含量を試験する。毒素複合体を、硫酸アンモニウムを約60%飽和まで添加することにより、この画分から再沈殿させる。このペレットをリン酸緩衝剤に溶解させ、そして同じ緩衝剤(pH7.9)に対して透析する。この精製された毒素沈殿物を、本発明の処方物を調製するために使用し得る。
【0039】
ボツリヌス毒素A型を調製するための方法もまた、当該分野で周知である。例えば、Hambletonら(1981)およびMellingら(1988)(これらの両方は、参考として本明細書中に援用される)は、Clostridium botulinum A型NCTC2916からのボツリヌス毒素A型の産生および精製を記載する。この細菌の培養物を、当該分野で公知の標準的条件にしたがって、確証のある種ストックから増殖させ、そして嫌気性条件下で操作される30リットル発酵槽中に接種する。毒素収量を、継続してモニターし(例えば、LD50の決定による)、そして最大収量を達成した場合(およそ2×106マウスLD50/ml)に、この培養物を酸性にし(3N H2SO4でpH3.5に調整する)、そしてこの毒素を遠心分離により収集する。この沈殿させた粗毒素を再溶解させ、そして0.2Mリン酸緩衝剤を用いて抽出し、続いてリボヌクレアーゼ処理(100μg/ml、34℃)し、そしてNH4SO4(60%飽和、25℃)を使用して沈殿させる。次いで、この沈殿物を再懸濁し、そしてpH5.5のDEAE−Sephacelイオン交換クロマトグラフィーに供す(バッチの事前吸着後に)。画分を活性についてモニターし、そして活性画分を再びNH4SO4(60%飽和、25℃)を使用して沈殿させる。この沈殿物を貯蔵し得、そして下記のように、本発明の処方物を作製するために再溶解させ得る。
【0040】
本発明の処方物は、好ましくは、毒素結合複合体を含み、上記の、ボツリヌス毒素A型およびB型に関して記載される方法に従って調製されるようなものか、または当該分野で公知の方法に従って調製された、ボツリヌス毒素C1、C2、D、E、F、またはG型の等価形態を利用する。この毒素の力価を、泡およびボルテックス混合のような激しい撹拌を避けて、賦形剤タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)への再構成された毒素結合複合体の連続希釈により決定する。慣習に従って、力価をマウス致死アッセイ(例えば、実施例2に記載されるマウスLD50アッセイ)で決定する。作業ストックを希釈し、アリコートをとり、そして貯蔵のために凍結乾燥する。このストック溶液を、タンパク質濃度、LD50、純度および薬学的適合性を決定するためのアッセイで、当該分野で周知であり、そして本明細書中実施例2に例証される方法に従って試験する。
【0041】
(IV.安定ボツリヌス毒素処方物)
ボツリヌス毒素が、延長された期間の間、例えば、少なくとも1〜2年、「冷蔵庫」温度(すなわち約5±3℃、またはより特定すれば約4±2℃、またはより一般的には0−10℃)または少なくとも6ヶ月「室温」(すなわち約25℃、またはより一般的には10−30℃)でその能力を保持する安定な液体処方物中で作製および貯蔵され得ることが本発明の発見である。このような処方物は、ヒトまたは他の哺乳動物種に、医薬品として、医師によるさらなる再構成なくして簡単に調剤され得る。この処方物は、適切な緩衝化条件により維持されるとき、約pH5〜6、好ましくは約pH5.5〜5.6の間のpHにより特徴付けられる。この処方物はまた、1つ以上の賦形剤タンパク質を含む。
【0042】
実施例1は、5000U/mlの濃度でボツリヌス毒素(B型)の処方物の調製の詳細を提供する。このような処方物条件が、簡単な投薬パッケージ中の安定な処方物を提供するため、ボツリヌス毒素A型のような他の血清型ボツリヌス毒素に、このような血清型に必要な濃度で適用され得ることが理解される。
【0043】
簡単に述べれば、A型またはB型に関して上記に記載の精製された毒素調製物のように、ボツリヌス毒素の濃縮された調製物は、好ましくはpH5.6であるpH5〜pH6の間のpHを有するコハク酸緩衝剤のような希釈剤と混合される。ボツリヌス毒素B型の場合、マウスLD50アッセイ中で評価されるとき、約5000U/mlの濃度が望ましい;しかし、100−20,000U/mlの範囲ならどこでもまたはより高い範囲でさえ、送達される用量に依存して、必要とされるかまたは所望され得る。ボツリヌス毒素A型の場合、20−2,000、そして好ましくは約100−1,000U/mlの範囲の濃度が簡便であり得る。薬学的製造目的のために、この処方物は、サンプリングされ、そして可能な微生物汚染物(生体負荷)の存在について試験され、そして患者への分配のためにガラスバイアルまたはポリプロピレン中に滅菌濾過される。最終産物は、液体として、少なくとも1年、そして好ましくは2年より長く、0〜10℃で、マウスLD50試験において効力の20%未満の損失により証明されるように(実施例2)、有意な生物学的効力の損失なくして貯蔵され得る。
【0044】
上記で言及した希釈剤は、複合体の安定性に有害に影響しない任意の薬学的に受容可能な液体であり得、そしてこれは、約pH5〜pH6の間の安定pH範囲を支持する。特に適切な緩衝剤の例はコハク酸緩衝剤およびリン酸緩衝剤を含む;しかし、当業者は、本発明の処方物が、緩衝剤が、pH安定性の受容可能な程度、または示された範囲の「緩衝能力」を提供する限り、特定の緩衝剤に限定されないことを認識する。一般に、緩衝剤は、そのpKの約1pH単位内の十分な緩衝能力を有する(Lachmanら、1986)。本発明の文脈では、これは、約4.5−6.5の範囲のpKを有する緩衝剤を含む。緩衝安定性は、刊行されたpK作表を基に推定され得るか、または当該分野で周知の方法により経験的に決定され得る。上記のコハク酸緩衝剤およびリン酸緩衝剤に加えて、他の薬学的に有用な緩衝剤は、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、アコニット酸緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、および炭酸緩衝剤を含む(Lachman)。この溶液のpHは、任意の薬学的に受容可能な酸、例えば、塩化水素酸または硫酸、または塩基、例えば、水酸化ナトリウムを用いて、上記範囲内の所望の終点に調節され得る。
【0045】
この処方物に添加される賦形剤タンパク質は、任意の数の薬学的に受容可能なタンパク質またはペプチドであり得る。好ましくは、この賦形剤タンパク質は、免疫応答を誘発することなく哺乳動物被験体に投与されるために、その能力について選択される。例えば、ヒト血清アルブミンは、ヒトに投与される薬学的処方物における使用のために良く適している;逆に、ウシ血清アルブミンが、ウシにおける使用に選択され得る。例えば、ゼラチンのような他の既知の薬学的タンパク質賦形剤がこの目的に用いられ得る。この賦形剤は、保持容器またはバイアルへの毒素タンパク質複合体の吸着を防ぐために十分な濃度で処方剤中に含まれる。賦形剤の濃度は、賦形剤の性質およびこの処方物中の毒素複合体の濃度に従って変動する。例示として、本発明を支持するために実施された研究では、0.5mg/mL濃度のヒト血清アルブミンが、5000U/mLボツリヌス毒素B型を含む処方物の目的に十分であり、ほとんどのヒトで有意な免疫学的反応またはアレルギー反応を誘発しないことが決定された;ほぼ約0.05mg/1000U〜1mg/1000Uの濃度のボツリヌスBが十分な保護を提供するはずである。
【0046】
ボツリヌス毒素A型を安定化するための適切な賦形剤濃度もまた記載された。例えば、「BOTOX(登録商標)」は、毒素活性(PDR)の100単位あたり0.5mgのアルブミンの添加により安定化される。
【0047】
(V.有用性)
(A.ボツリヌス毒素処方物の治療使用および美容使用)
本発明の薬学的組成物は、コリン作用性神経伝達(特に、制限されないが、平滑筋または骨格筋の制御に関連するコリン作用性伝達)の阻害または遮断が所望される多くの適応症に用いられ得る。この節は、本発明の処方物が治療的に用いられ得る障害の例を提供する;しかし、本明細書で提供される例は、本発明を制限するために解釈されるべきではない。これらの適応症のいくつかのための代表的な用量および経路は、以下のBの部に記載されている。
【0048】
ボツリヌス毒素、特にボツリヌス毒素A型は、痙性筋肉障害の効果的処置であることが示された。単回処置養生法(これは複数の筋肉内注射を含み得る)は、数ヶ月程度の間、制御不能な筋肉痙攣からの軽減を提供し得る。例えば、「BOTOX(登録商標)」(ボツリヌス毒素A型)は、米国食品薬品局(FDA)により、眼瞼痙攣の処置のための眼窩中への局所注射用に認可されている。他の適応症は、咽頭失調症、メージュ症候群(口下顎失調症;口顔運動異常症)、痙性斜頸(Hardmanら、1996)、四肢失調症、アニスムス(anisumus)、および排尿筋−括約筋筋失調、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙縮および鼻漏、中耳炎、唾液分泌過多、喘息、痙性大腸炎、過剰胃酸分泌(例えば、米国特許第5,766,005号を参照のこと)、片頭痛関連の頭痛、脈管障害、神経痛または神経障害(米国特許第5,714,468号;WO953041)、関節炎痛(WO9517904)、横紋筋または平滑筋を含む胃腸管の障害(米国特許第5,674,205号)、出産の間の会陰の弛緩(米国特許第5,562,899号)、または顎クレンチング(clenching)の軽減(米国特許第5,298,019号)のような他の病巣失調症を含む。ボツリヌス毒素A型はまた、顔面上に「眉間のしわ線」を引き起こす筋肉緊張の美容軽減を達成するため、そして「睫毛挙上」を達成する(Frankel、1998)ために局所注射され、そして病巣多汗症を処置するため(過剰発汗:WO9528171;米国特許第5,766,605号)ならびに若年性脊椎湾曲(米国特許第5,053,005号)、成人および若年性脳性麻痺(米国特許第5,298,019号;WO9305800)、ならびに脳性麻痺により引き起こされる痙攣および不随意性収縮、多発性硬化症またはパーキンソン病(米国特許第5,183,462号)を処置するために皮内に注射されたときに有用であることが見出された。
【0049】
本発明の支持のために実施された実験において、ボツリヌス毒素B型を含む安定な液体処方物を試験し、そして斜頚としてもまた知られる頚部失調症(個体が、頭、首および脊椎における不随意の痙攣および筋肉収縮を経験し、頭が曲がるか、または傾く動きを生じる症状)に効き目があることが見出された。この症状はまた、しばしば、震えおよび筋骨格痛をともなう。一般に、この障害の病因は未知である;しかし、関連する筋肉組織の機能亢進を生じる中枢神経系の機能不全の結果であると考えられている。抗コリン作用性薬物、ドパミン作用性剤、筋肉弛緩薬、抗痙攣剤および鎮痙剤を含む、現在の治療養生法は持続軽減を提供しない。ボツリヌス毒素B型は、局所麻痺または不全麻痺を引き起こすことにより、この症状を処置することにおいて有効であり、これは、注入後約1週間の代表的な発生時間、そして約1〜4月続く応答の持続時間を有する。
【0050】
他の血清型のボツリヌス毒素の処方物は、A型について先に記載した任意の症状の初期処置に有用である。さらに、上記のように、ボツリヌス毒素B〜G型もまた、ボツリヌス毒素A型に対する免疫応答の存在に起因して、ボツリヌス毒素A型を用いた処置に抵抗性になった患者の処置に有用である。逆に、血清型Aは、血清型Bまたは他の任意の毒素血清型に抵抗性となった患者で用いられ得る。1つ以上のボツリヌス毒素血清型の処方物が、本発明に従って作製および使用され得る。
【0051】
一般に、それらの類似の生物学的効果を考慮すれば、種々のボツリヌス毒素型が、種々の障害、特に筋肉痙攣に関連した障害の処置で交換可能であり得ると認識される。それにもかかわらず、A型およびB型に関して以下に記載されるように、有効用量(LD50単位または生物学的単位という用語で表現される)は、種々の血清型の間で有意に変動し得る。等価な用量の推定値が、任意の試験された毒素に関して記載の既知の用量に基づいて作製され得る。
【0052】
(B.用量および投与の様式)
ボツリヌス毒素は、動物にとって強力かつしばしば致死的な毒素として知られている。それにもかかわらず、以下に記載のように、投与の様式および用量を調節することで十分に注意されるとき、この薬物はヒトで安全に用いられ得る。
【0053】
ボツリヌス毒素の種々の形態についての用量は、用いる毒素の血清型に従って変動する。例えば、本発明を支持するために実施された実験では、ボツリヌス毒素A型(「BOTOX(登録商標)」)は、マウスLD50単位を比較して、選択された骨格筋の電気生理学的測定によって評価したとき、サルにおける麻痺を誘導する際に、ボツリヌス毒素B型より約4−6倍より強力である。この観察は、ラット四肢の麻痺を生じるために必要な2つの毒素の量における大きな差異を示したラットにおける実験結果(Sellin;Jackson)と一致する。これらの観察を考慮して、適切な等価な用量が熟練実施者により経験的に推定または決定され得る。
【0054】
推奨された用量における変動もまた、患者の病歴に従って変動し得る。例えば、ボツリヌス毒素A型の反復用量を受けた患者は、さらなる処置に「抵抗性」になり、経時的に等価な効果を生成するためにより大きな用量を必要すると報告されている。任意の特定の作用の機構に関係づけることなく、この現象は、患者における血清型特異的免疫応答の発生に関連すると考えられている。反復ボツリヌス毒素A型治療を受けている患者中の抗体の発生率に関する報告は、約3%〜57%の範囲にある。従って、臨床医が治療養生法の間に血清型をスイッチすることを選択した場合は、新たな血清型の初期用量は、患者の用量病歴を基礎とするよりも未処置患者を基礎に計算すべきであることが推奨される。
【0055】
適切な投与方法としては、患者に重篤な副作用を引き起こすことなく目的の組織への活性毒素成分の送達を生じる任意の方法が挙げられる。このような方法としては、筋肉内(i.m.)注射、局所投与、皮下適用、神経周囲適用、イオン電気導入投与などが挙げられるが、これらに限定されない。ボツリヌス毒素の投与のための具体的な手順(これは、活性成分の全身分布を限定する手技を包含する)は、当該分野で周知である。筋電図記録は、特に、同定が困難である筋肉(例えば、眼の眼窩、喉頭、および翼状領域におけるもの)ならびに肥満被験体における筋肉に関わる処置のために、特定の筋肉群を同定し、そしてより正確に位置付けするために使用され得る。
【0056】
失調症の処置は、通常、罹患筋肉の神経支配帯近傍に毒素を投与することによって達成される(通常、皮下注射針を用いる筋肉内注射による)。代表的には、生じる局在麻痺が、3ヶ月または4ヶ月までの間、患者に苦痛の軽減を提供し得る。患者は、明白な麻痺を生じさせることなくいかなる機能不全も矯正するために十分な神経筋遮断を達成するために、より低い用量で試験され得、そして至適用量まで個々に濃度を上げ得る。投薬量の変化は、患者が毒素に耐性になる場合、示され得る。本発明の利益は、それが溶液中の毒素物質の不安定性(これは、適切な投薬量に関してさらなる曖昧さに至り得る)に関連した共通の投薬量の問題を克服することである。
【0057】
ボツリヌス毒素A型の推奨投薬量は、多数の徴候について決定されており、そして当該分野で公知である。例えば、斜視の処置については、1.25〜2.5Uの投薬量のボツリヌス毒素A型が、垂直筋への投与について、および20ジオプトリ未満の水平斜視について推奨される;2.5〜5Uが、20プリズムジオプトリより大きな水平斜視について推奨される(Physician’s Desk Reference、第51版)。
【0058】
ボツリヌス毒素A型はまた、27から30ゲージ針を用いて、上眼瞼の中央および側部の瞼板前眼輪に、および下眼瞼の側部の瞼板前眼輪に注射される、1.25〜2.5Uの投薬量で、眼瞼痙攣の処置のために使用される。処置は、約3ヶ月続くことを期待される:繰り返し処置で、この投薬量は、患者の応答に依存して、2倍まで増大され得る。20U以下の蓄積用量のボツリヌス毒素A型が30日間にわたって与えられるべきであると推奨される(Physician’s
Desk Reference、第51版)。
【0059】
実施例3は、本発明による処方物を用いる頚部失調症(斜頚)の処置におけるボツリヌス毒素B型の使用についての用量範囲研究の実施例を提供する。これらの研究(これはまた、以下に概説する)において、本発明によるボツリヌス毒素B型液体処方物は、2〜8℃の間の温度での制御を伴う臨床冷蔵庫中で処方物を貯蔵するようにとの指示と共に、投与する臨床家に提供された。一般に、処方物は、調製され、そして6〜12ヶ月の間、推奨された温度で貯蔵されたロットから供給された。臨床家は、およそ6ヶ月の処方物の供給を受容した。
【0060】
簡潔には、患者に、障害中の筋肉関与の臨床評価に従って決定された、2〜4の表層の首および肩部の筋肉群への筋肉内(i.m.)注射によって、可変用量の毒素を与えた。1つの研究では、個体に、100〜1200Uの範囲で用量を分割して与え、蓄積用量は、398日間までの範囲の期間にわたって270〜2280Uの間であった。全ての患者が研究の間に改善を受け、そして研究の間に処方物の効力の減少は、研究期間にわたって観察されなかった。
【0061】
本発明を支持して実施されるさらなる研究は、ボツリヌス毒素A型に耐性になった患者がボツリヌス毒素B型で処置され得ることを明らかにした。ここで、本研究に参加した患者は、ボツリヌス毒素A型に対する応答性の減少を示し、そして処置後に、Toronto Western Spasmodic Torticollis Rating Scale(TWSTRS;Consky、1994)により評価されるように、それらがベースラインスコアに比較して総スコアで少なくとも25%の減少(減少=改善)を示した場合、首尾よく処置されたとみなされた。150〜1430U間の個々の用量のボツリヌス毒素B型処方物が投与され、蓄積用量は、実施例3で詳述するように、117日までにわたって300〜12000ユニットの範囲であった。結局、患者は、本研究において、特により高い用量で、改善を受け、そしてボツリヌスB型に対する抗体のブロックが発生した証拠はなく、しかも処方物の効力の低下の証拠もなかった。さらなる研究では、0、400、1200、および2400Uの個々の用量のボツリヌス毒素B型処方物を203日程度の長さの期間の間に定期的に投与し、上述のように、斜頚を処置するのに成功した。
【0062】
以下の実施例は、本発明を例示するが、限定することを決して意図しない。
【実施例】
【0063】
(実施例)
(材料)
他に示されない限り、本明細書中に記載される全ての試薬は、適切なように、化学産業、生化学産業、生物工学産業または製薬産業における使用のための試薬を販売する、任意の評判のよい商業的製造元から得られ得る。
【0064】
(実施例1:安定なボツリヌス毒素処方物の調製)
(A.コハク酸緩衝剤の調製)
コハク酸緩衝剤を、0.5mg/mLのヒト血清アルブミン(Michigan Biological Products Institute)を補充した、2.7mg/mLのコハク酸二ナトリウムおよび5.8mg/mLの塩化ナトリウムを含む3Lのロットで調製した。濃塩酸を使用して、この緩衝剤のpHをpH5.6に調整した。この緩衝剤を、0.2μmフィルターを通してオートクレーブした密封された容器中へと濾過した。使用の前に、この緩衝剤をサンプリングし、そしてpH、細菌の内毒素および生物負荷(bioburden)について試験した。
【0065】
(B.ボツリヌス毒素処方物の調製)
濃縮したボツリヌス毒素B型のアリコートを、コハク酸緩衝剤(pH=5.6)を使用しておよそ1000倍に希釈し、5000±1000U/mlの効力を得た。この希釈した毒素を、2Lの密封したガラス容器に貯蔵し、そして「バルク溶液」と呼ぶ。次いで、この材料を充填のために輸送するまで、これを5±3℃で貯蔵した。
【0066】
充填する前に、このバルク溶液をサンプリングし、そして当該分野において公知の標準的方法に従って、微生物の混入(生物負荷)の存在について試験した。次いで、これを、医療グレードのチューブを通してペリスタポンプにより移し、そして充填場所内に位置した滅菌バルクリザーバ中へと滅菌濾過(0.2μm)した。得られた滅菌濾過するバルク溶液を、0.5mL(2500U)、1mL(5000U)または2mL(10000U)のアリコートで、3.5ccガラスバイアル中に充填した。
【0067】
最終容器生成物の組成を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
(実施例2:ボツリヌス毒素処方物の安定性試験)
(A.安定性の結果)
ボツリヌス毒素B型を製造し、上記のように2500単位/mlの濃度に希釈し、そして30ヶ月まで(および30ヶ月を含む)5℃で5mLガラスバイアル中に1mLのアリコートとして貯蔵した。最初の貯蔵の0、1、3、6、9、12、18、24および30ヶ月の後に、アリコートを無作為に選択し、そしてマウスのLD50アッセイにおける効力について試験した。これらの溶液をまた、外観についても観察し、そして標準的方法に従ってpHについても試験した。
【0070】
表2は、種々の時点で取り出されたアリコートの試験の結果を示す。これらの結果は、本発明に従って調製された処方物が、5℃で貯蔵される場合に少なくとも30ヶ月にわたって、時点0で報告された効力の範囲内である効力によって明らかであるように、安定であることを示す。
【0071】
【表2】

【0072】
表3は、上記のように調製されかつアリコートされたが、25℃で貯蔵されたボツリヌス毒素B型処方物のアリコートに対する試験の結果を示す。これらの結果は、この処方物が、6ヶ月の貯蔵後にその最初の効力の少なくとも約90%、および好ましくは少なくとも95%、そして25℃での9ヶ月の貯蔵後に少なくとも75%を保持する平均効力によって明らかであるように、25℃で少なくとも6ヶ月間安定であることを示す。
【0073】
【表3】

【0074】
(B.安定性試験)
(1.ボツリヌス毒素処方物のpHの決定)
ボツリヌス毒素B型処方物のpHを、自動温度補正プローブを備えるFisher Scientific Accumet pHメーター、Model 50を使用して測定した。この電極は、KCl参照電極を備えるOrion Ross Combination Electrodeであった。pH決定を、製造業者の指示に従って標準的な2点標準化(pH4.0、pH7.0)に従って行った。3つの測定を各サンプルに対して行った。このpH値を2桁の有効数字で記録し、そして平均をとった。
【0075】
(2.マウスLD50効力試験)
18〜22gの体重のいずれかの性の健康な使用されていないCFWマウスまたはCD−1マウスを使用して、LD50を決定した。各々の充填した生成物について、マウスを5用量のボツリヌス毒素B型処方物で試験した。各アッセイを5連で行った。
【0076】
2つのストック溶液を、この試験サンプルから調製した。ストック溶液Aを、ゼラチンリン酸緩衝剤(pH6.2)を用いて、この試験サンプルを750U/mLの推定効力まで希釈することによって得た。ストック溶液Bを、溶液Aを10倍希釈して75U/mLにすることによって得た。以下の試験希釈物を、ストック溶液Bから調製した(1:7.5、1:10、1:13.5、1:18および1:24.3)。
【0077】
マウスに化合物の0.2mLの適切な希釈物を腹腔内注射して与えた。マウスを注射後4週間維持し、そして毎日観察した。全ての死を記録した。この観察を4日後に終了した。
【0078】
異なる希釈レベルでの累積死(CD)を、最大の希釈からの死の数を上方へ加えることによって算定した。累積生存体(CS)を、最小の希釈からの生存体の数を下方へ加えることによって算定した。%CDを、各々の希釈でCD/(CD+CS)×100%として算定した。LD50を表す希釈を、50%の累積死をひとまとめにする%CD値を生じる希釈を使用して、ReedおよびMuenchの比例距離(Proportional Distance)(PD)法によって決定した。
【0079】
【数2】

【0080】
得られたPD値を、50%CDをひとまとめにする希釈レベルの間のlogの差異により乗算した。この値を50よりも大きい死亡数(CD)を有する希釈のlogに加えて、LD50を表す希釈を得た。この希釈の真数を算定して、注射容量(0.2mL)あたりの毒素のLD50単位の数を得た。次いで、この数を5で乗算し、毒素ストック溶液Bの1mLあたりのLD50単位を得た。
【0081】
ストック溶液Bの1mLあたりのLD50単位を、その希釈係数(すなわち、75U/mLの推定
効力を生じるために必要とされる希釈)で乗算し、このサンプルの効力を得た。1mLあたりのLD50単位の算術平均および標準偏差を5の有効な試験について算定した。
【0082】
(3.処方物の外観)
外観を、穏やかに攪拌した後に明るい光の下で、黒い背景および白い背景に対する視覚検査を通じて評価した。色、清澄さ、および目に見える特定の物の存在を、全て評価した。
【0083】
(実施例3:頸部失調症(CD)の処置)
(A.薬物の希釈、算定、投与、および投薬レジメ)
(1.薬物の取扱い)
薬物のバイアルを、2.0mL(10000U)、1.0mL(5000U)または0.5mL(2500U)の希釈していない研究用薬物を送達するために充填した。激しい攪拌または泡立ちを、全ての取扱い工程において回避した。なぜなら、ボツリヌス毒素は、これらの条件のいずれかによって変性され得るからである。この処方物を、1mLのツベルクリンシリンジを使用して、バイアルから取り出し、正確な容量が取り出されることを確認した。
【0084】
(2.薬物の算定)
ボツリヌス毒素B型を、適切なバイアルの内容物を投与して、以下の表に示される投薬量を提供することによって、頸部失調症(CD)患者に投与した。用量の増大に対するマウスの単位(U)を、以下の通りに算定し、このときIUは、実施例2に記載されるようなマウスにおいて決定された、LD50を表す用量中に存在する毒素量である。
【0085】
各々の用量セッションについて、ボツリヌス毒素B型を、以下に詳述されるように、標準的な手順に従って投与した。化合物の注射を、CDを患う患者におけるボツリヌス毒素の治療的使用において以前に訓練した神経科医によって与えた。患者に、安静時の頭部および頸部の姿勢の観察を容易にするために、可能な限りリラックスすることを要求した。CDを生じる際に関与する頸部筋肉の決定を行い、そして関与した筋肉の触診によって確認した。調査者の自由裁量で、EMG評価を実行して、主に影響を受けた筋肉をさらに位置決めした。このプロトコルにおける処置について考慮される筋肉は、肩甲挙筋、中斜角筋および前斜角筋、頭半棘筋(semispinalis capitism)、頭板状筋(splenius capitus)、胸鎖乳突筋、ならびに僧帽筋である。注射を、これらの筋肉の各々に1〜5の部位において行った。1部位あたりの総注射容量は、局所組織ゆがみを回避するために1.0mL以下であったが、標準的な1.0mLシリンジを用いる正確な容量測定を容易にするために少なくとも0.1mLであった。患者は、最初に5000U、続いて診療所への追跡来診の際に約15000単位までの用量の総用量を受けた。
【0086】
(B.頸部失調症(CD)の臨床研究)
(研究1)
平均年齢43.9歳および特発性CDの個々の臨床診断を有する8人の患者(3人の男性、5人の女性)が、ボツリヌス毒素B型処方物が2〜4の頸部表面および/または肩筋肉群中に注射される研究に参加した。症状で深刻な有害な効果または持続的な臨床的改善が全くない場合に、患者に4週間毎の頻度で処置を受けさせた。患者は、1〜5回の投薬セッションに参加した。個々の投薬セッションは、100U〜1200Uの範囲であり、ここで全体的な累積的用量は、本明細書中に記載されるように、270U〜2280Uのボツリヌス毒素B型処方物の範囲であった。有効性を、Tsui斜頸スケール(Tsui,J.K.C.(1986)、Lancet 2:245〜247)の使用によって評価した。患者は、127〜398日間の研究(研究における平均時間244.8日)に参加した。総投薬量が比較された場合に、斜頸スコアは、ベースラインと同様であり、そして全ての患者は、用量に関連する傾向のいくらかの徴候とともに、スコアにおいて緩やかな低下(低下=改善)を経験した。全体的に、患者は、斜頸状態における改善を経験した。この研究においてブロック抗体の発生の徴候は全く存在しなかった。
【0087】
(2.研究2)
この研究に登録された患者は、特発性CD(斜頸)の臨床的診断を有し、そしてボツリヌス毒素A型に対する耐性を発生した。患者は、2〜4つの頸部表面および肩筋肉に、本発明に従うボツリヌス毒素B型処方物の筋肉内注射を受けた。
【0088】
12人の患者(中央値年齢52.3歳)が、この研究に参加し、そして終了した。患者は、37〜127日にわたるこの研究(平均時間65日)に参加した。患者を、1〜3用量の研究用薬物で処置した。累積的用量は、940〜2100Uの範囲であり、そして個々の用量は、ボツリヌス毒素B型150〜1430Uの範囲であった。投薬セッションの間の時間の平均の長さは、より低い用量(全体で100〜899U)を受けている患者については22.3日、およびより高い用量範囲(900〜1500U)における患者については48.4日であった。
【0089】
臨床的有益性を、Toronto Western Spasmodic Torticollis Rating Scale(TWSTRS)−Severity Scale(Consky,E.S.、Lang,A.E.(1994):Therapy with Botulinum Toxin.Jankovic,JおよびHallet M.編、Marcel Dekker,Inc.New York)におけるスコアにおいて、ベースラインと比較した場合、少なくとも25%の低下として規定した(低下=改善)。平均スコアは、全ての患者においてベースラインで同様であった。より高用量の群における56%の患者は、より低用量の群における7%の患者と比較した場合に、TWSTRS−重篤性(severity)スコアにおける低下を示した。TWSTRS−痛み(pain)スコアにおける適度な改善もまた、両方の群において、特にこの研究の初期の段階において観察した。これらの患者において、ボツリヌス毒素B型に対するブロック抗体の発生の証拠は、全く存在しなかった。
【0090】
(3.研究3)
頸部失調症の診断を確認した28人の患者(平均年齢50.9歳)は、増大する用量(連続したセッションあたり1.5倍まで)を経時的に、2〜4つの頸部表面および肩筋肉中に、ボツリヌス毒素B型処方物の注射を受けた。臨床的有益性を、上記のようなTSWTRS−重篤性試験を使用して評価し、このとき、スコアにおける25%の減少を改善とみなした。
【0091】
患者が、28〜177日にわたるこの研究(平均時間71.9日の研究)に参加した。患者を1〜3用量の処方物で処置した。累積用量は、1430U〜12000Uの範囲であり、ここで個々の用量は、300U〜12000Uの範囲であった。臨床的評価の目的のために、4つの用量群を規定した:100〜800U(A群)、900〜2399U(B群)、2400〜5999U(C群)、および6000〜12000U(D群)。投薬セッションの間の時間の長さは、以下のような範囲であった:A群、13〜101日(平均35.7日);B群、14〜113日(平均48.8日);C群、29〜177日(平均62.2日);D群、28〜177日(平均55.1日)。
【0092】
平均ベースラインスコアは、全ての処置群における全ての患者において同様であり、そして4群全ては、この研究の間にスコアにおいて平均的な減少(改善)を経験した。全体的に、ベースラインからの平均改善%および重篤性スコアについての平均応答比は、この研究の間にC群およびD群において最大であった。平均最大改善、平均最大改善%および平均最大応答比の測定は、2つのより低用量の群についてよりも2つのより高用量の群についての方が大きかった(最大改善については2.1および3.6対8.1および6.8;平均最大改善については、10%および16.1%対43.9%および35.5%;平均最大応答比については、0.05および0.09対0.32および0.23)。処置に応答している患者の百分率は、2つのより低用量の群(A、0%、およびB、27%)についてよりも2つのより高用量の群(C、80%、およびD、78%)についての方がより大きかった。応答の平均持続時間は、2つのより低用量の群(A、0日;B、31日)についてよりも2つのより高用量の群(C、47.6日;D、38.1日)についての方が長かった。これらのデータは、本発明に従うボツリヌス毒素B型処方物に対する用量依存性応答を示す。
【0093】
(4.研究4)
3用量のボツリヌス毒素B型処方物を、無作為化した、二重盲験の、単回用量の、4アーム(arm)の、並行群の多中心(multi−center)研究に参加する85人のCD患者を含めた研究において、プラセボ処置に対して試験した。患者は、18〜80歳の年齢にわたった。用量は、400、1200または2400Uのボツリヌス毒素B型であり、2〜4つの頸部表面および/または肩筋肉群中に注射した。患者を、ベースラインで、および処置の2および4週間あとに、TWSTRSスコアリングスケールを使用して評価した。4週間後にTWSTRS重篤性スコアにおいて3以点上の改善(≧20%)を示さなかった患者を、非応答者としてこの研究から除いた。応答者は、それらの応答レベルが50%を超える程度落ち込んだ場合に、4週間毎に評価のために再来した。
【0094】
全てのTWSTRSスコアは、ボツリヌス毒素B型処方物の漸増用量で改善を示した。4週間目に、TWSTRS−痛みおよびTWSTRS−全体(total)評価の両方によって、プラセボ処置した患者と比較した場合に、2400U用量群における患者において統計学的に有意な改善が存在し、そして改善を示す患者の百分率は、2400U群において最大であった。平均患者の全体的評価は、他の処置群のいずれかと比較した場合、2週、4週および8週で、2400U群におけるよりもかなり高かった;4週のデータに対する分散分析において、処置群間の統計学的に有意な差(p=0.0286)が存在した。プラセボおよび2400U用量群(p=0.0050)との間、および用量応答分析(p=0.0028)においてもまた有意な差が存在した。4週のデータの分散分析において、処置群間で統計学的に有意な差(p=0.0073)が存在し、そしてプラセボと2400U容量群との間(p=0.0015)、および容量応答分析(p=0.008)においてもまた有意な差が存在した。
【0095】
患者は、2400U用量群についてのより高い平均日数(61日)で、25〜203日のこの研究に参加した。
【0096】
(5.研究5)
この研究はまた、CDの確認された診断を有する患者において、2〜4つの頸部表面および/または肩筋肉群中に注射された、プラセボ(A群)または3つの用量(2500U、B群;5000U、C群;10000U、D群)のボツリヌス毒素B型処方物のうちの1つの単回処置の効果を試験する、無作為化した、二重盲験の、プラセボをコントロールとした、単回用量の、4アームの、並行群での、多中心外来患者研究であった。患者を、処置の2および4週間後の訪問時に評価する。ベースラインと比較して、4週で20%よりも大きい改善(TWSTRS−全体スコア)を有する患者を、「応答者」とみなし、そして最大4ヶ月にわたって4週の間隔で、またはそれらの応答スコアレベルが50%よりも大きく落ち込むまで、再評価のために再来するように頼んだ。
【0097】
122人の患者(19〜18歳の年齢の範囲)が、研究に参加した。患者がこの研究を続けた時間は、患者らが研究用薬物に応答した時間を反映した。処置群は、患者数がこの研究に残っている、最低日数および最大日数について同様であった。この研究における平均時間は、用量が増大するにつれて、45日(プラセボ群Aに対する)から61日(B)、67日(C)、および75日(D)までに増大した。
【0098】
全てのTWSTRSスコアについて、全ての処置群は、4週までにベースラインからの改善を示した。TWSTRSスコアの全ては、処方物の用量が増大するにつれて改善する傾向があった。4週のTWSTRS−全体スコアに対する共分散分析において、処置群間における全体的な差異は、統計学的に有意であった(p=0.0001)。さらに、用量応答の分析は、有意であり(p=0.0001)、そして活性群とのプラセボの比較3つ全てが有意であった(プラセボ対2500Uについてp=0.0016;プラセボ対5000Uについてp=0.005;プラセボ対10,000Uについてはp=0.0001)。4週での処置に応答した患者の百分率は、TWSTRS−全体、TWSTRS−能力障害(disability)、およびTWSTRS−痛みスコアについて、どの他の群においてよりもD群(10000U)においてより高かった。4つのTWSTRSスコアの各々について、有意な用量応答が存在した(全体、p<0.001;重篤性、p=0.035;能力障害、p=0.002;痛み、p=0.001)。痛みの評価は、B群、C群、およびD群においてそれぞれ、4週で全ての処置群について、67.5、70.2および75.1まで改善した。処置群の間の全体的な差は、統計学的に有意であり(p=0.0049)、用量応答の分析は、統計学的に有意であり(p=0.0017)、そして全ての3つの活性処置群とのプラセボの比較が、有意であった(プラセボと比較したB群、C群およびD群について、それぞれ、p=0.0149、0.0084および0.0007)。
【0099】
(実施例4:ヒト被検体におけるボツリヌス毒素B型処方物に対する生理応答)
18人の健常な被検体を、当該分野において公知の標準的な電気生理学的方法を使用して、ボツリヌス毒素B型に対する伸筋ジギタリスブレブス(extensor digitalis brevis)(EDB)M波振幅応答について試験した。被検体は、18〜22歳の年齢の範囲であった。電気生理学的研究を、1.25U〜480U(筋肉内)の用量範囲のボツリヌス毒素B型処方物の注射の2、4、6、9、11、13および14日後に行った。このデータの分析の結果は、漸増用量を用いた、EDB M波振幅および領域において用量依存性の低下を示した。480Uでの最大効果は、M波振幅においてベースラインからの75%の減少を生じた。
【0100】
別の研究において、10人の被検体を無作為化して、5つの異なる投薬スキーム(1.25U A/20U B;2.5U A/80U B;5U A/160U B;7.5U A/320U B;10U A/480U B(1投薬スケジュールあたり2人の被検体)のうちの1つを使用して、1つのEDBにおいて1用量のボツリヌス毒素B型「B」処方物を、そして他のEDBにおいて1用量の「BOTOX(登録商標)」(ボツリヌス毒素A型、「A」)で注射した。1人のコントロール被検体に、各EDB筋肉において生理食塩水の注射を行った。M波振幅および領域における低下率は、両方の筋肉で同様であり、ここで最大効果が注射のおよそ6日後で生じた。両方の血清型が、M波振幅において用量依存性減少を示した。運動後の促進は、両方の型の毒素について9日で最大であった。
【0101】
本発明は、特定の方法および実施形態に関して記載されているが、種々の改変および変化が本発明から逸脱することなくなされ得ることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択された筋肉、選択された筋肉群、選択された腺または選択された器官へのコリン作用性入力を阻害する必要がある患者を処置するための組成物であって、
該組成物は、薬学的に有効な用量の使用のための準備が整った安定な液体薬学的ボツリヌス毒素処方物を含み、
該液体薬学的ボツリヌス毒素処方物は、
(a)リン酸緩衝剤、リン酸−クエン酸緩衝剤、およびコハク酸緩衝剤からなる群より選択される緩衝成分を含む薬学的に受容可能な緩衝化生理食塩水であって、該緩衝化生理食塩水は、pH5とpH6との間の緩衝化pH範囲を提供する、緩衝化生理食塩水;
(b)血清アルブミン;および
(c)単離されたボツリヌス毒素;
を含み、
該組成物は、0℃と10℃との間の温度±10%の温度で少なくとも1年間液体として安定であるか、または10℃と30℃との間の温度±10%の温度で少なくとも6ヶ月間液体として安定であり、
該組成物は、さらに再構成する必要なく哺乳動物に対して薬剤として投与するために適切である、組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、前記患者は、痙攣、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙縮、失調症、中耳炎、痙性大腸炎、アニスムス、排尿筋−括約筋筋失調、顎クレンチング、および脊柱湾曲からなる群より選択される障害に罹患している、組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の組成物であって、前記患者は、脳卒中、脊髄損傷、閉鎖性頭部外傷、脳性麻痺、多発性硬化症、およびパーキンソン病からなる群のうちの1つ以上に起因する痙攣に罹患している、組成物。
【請求項4】
請求項2に記載の組成物であって、前記患者は、痙性斜頚(頚部失調症)、痙性失調症、四肢失調症、喉頭失調症、および口下顎(メージュ)失調症からなる群から選択される失調症に罹患している、組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物であって、前記選択された筋肉または選択された筋肉群は、しわ、または溝のある額を生じる、組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物であって、前記筋肉は、会陰筋であり、そして前記患者は、子供を産む過程にある、組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の組成物であって、前記患者は、筋筋膜性疼痛、片頭痛関連の頭痛、脈管障害、神経痛、神経障害、関節炎痛、背中痛、多汗症、鼻漏、喘息、唾液分泌過多、および過剰胃酸分泌からなる群より選択される状態に罹患している、組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の組成物であって、該組成物は、約5±3℃の温度において少なくとも1年間は液体として安定である、組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物であって、該組成物は、約4±2℃の温度において少なくとも1年間は液体として安定である、組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物であって、該組成物は、約0℃〜約20℃の温度において少なくとも2年間は液体として安定である、組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の組成物であって、前記緩衝化pH範囲は、約pH5.6±0.2である、組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の組成物であって、前記ボツリヌス毒素は、血清型A、血清型B、血清型C1、血清型C2、血清型D、血清型E、血清型Fおよび血清型Gからなる群より選択されるボツリヌス毒素血清型である、組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の組成物であって、前記ボツリヌス毒素は、約100U/ml〜約20,000U/mlの範囲の濃度で存在するボツリヌス毒素B型である、組成物。
【請求項14】
請求項13に記載の組成物であって、前記ボツリヌス毒素B型は、約700kDの高分子量複合体中に存在する、組成物。
【請求項15】
請求項13に記載の組成物であって、前記ボツリヌス毒素B型は、約1000U/ml〜約5000U/mlの範囲の濃度で存在する、組成物。
【請求項16】
請求項12に記載の組成物であって、前記ボツリヌス毒素は、約20U/ml〜約2000U/mlの範囲の濃度で存在するボツリヌス毒素A型である、組成物。
【請求項17】
請求項16に記載の組成物であって、前記ボツリヌス毒素A型は、約100U/ml〜約1000U/mlの範囲の濃度で存在する、組成物。
【請求項18】
請求項1に記載の組成物であって、前記血清アルブミンは、組換えヒト血清アルブミンである、組成物。
【請求項19】
請求項1に記載の組成物であって、前記患者は、ボツリヌス毒素A型に対して治療抵抗性であり、前記処方物中のボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素血清型B、ボツリヌス毒素血清型C1、ボツリヌス毒素血清型C2、ボツリヌス毒素血清型D、ボツリヌス毒素血清型E、ボツリヌス毒素血清型Fおよびボツリヌス毒素血清型Gからなる群より選択される、組成物。
【請求項20】
請求項19に記載の組成物であって、前記処方物中のボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素B型である、組成物。
【請求項21】
請求項1に記載の組成物であって、前記患者は、ボツリヌス毒素B型に対して治療抵抗性であり、前記処方物中のボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素血清型A、ボツリヌス毒素血清型C1、ボツリヌス毒素血清型C2、ボツリヌス毒素血清型D、ボツリヌス毒素血清型E、ボツリヌス毒素血清型Fおよびボツリヌス毒素血清型Gからなる群より選択される、組成物。
【請求項22】
請求項21に記載の組成物であって、前記処方物中のボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素A型である、組成物。
【請求項23】
請求項1に記載の組成物であって、前記組成物は、
(a)100mM塩化ナトリウムおよび10mMコハク酸緩衝剤を含み、前記緩衝化生理食塩水は、前記処方物に対して緩衝化pH5.6を提供し;
(b)0.5mg/mlヒト血清アルブミン;を含み、
(c)5,000U/ml±1000U/mlの濃度の単離されたボツリヌス毒素B型;
を含み、
該組成物は、0℃と10℃との間の温度±10%の温度で少なくとも1年間液体として安定であるか、または10℃と30℃との間の温度±10%の温度で少なくとも6ヶ月間液体として安定である、組成物。

【公開番号】特開2007−169301(P2007−169301A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83103(P2007−83103)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【分割の表示】特願2000−569829(P2000−569829)の分割
【原出願日】平成11年9月9日(1999.9.9)
【出願人】(399013971)エラン ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド (75)
【Fターム(参考)】