説明

ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物

【課題】従来技術の欠点を改良すること、とくに成形速度が高いボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物であって、ポリエチレン樹脂成分と環状脂肪族金属塩成分を含み、前記ポリエチレン樹脂成分が下記(a)、(b)、(c)および(d)のうち少なくとも1つを満たすボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物。
(a)前記ポリエチレン樹脂成分が、コードDのMFRが100〜500g/10minの範囲にあるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)およびエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)からなり、前記低分子量成分(A)の割合が70〜30wt%であり、前記高分子量成分(B)の割合が30〜70wt%
(b)コードDのMFR4.0〜10.0g/10min
(c)密度が0.960〜0.966g/cm3
(d)分子量分布(Mw/Mn)が8.0〜12.0ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン樹脂成分と環状脂肪族金属成分を含むキャップ用のポリエチレン樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、ポリエチレン樹脂成分は特定の重合触媒を用いて得られ、高速成形性を具備し、好ましくは、該樹脂組成物をボトルキャップに使用した際の飲料ボトルなどの内圧に耐えうる耐環境応力亀裂性(耐ストレスクラック性、以下ESCR)を低下させることなく、優れた剛性をも兼ね備えたポリエチレン樹脂組成物である。本発明は、より好ましくは、異方性がなく、寸法安定性に優れ、開栓トルク性等の物性バランスにも優れるポリエチレン樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭酸飲料や清涼飲料水、お茶などのPETボトルに使用されているボトルキャップとしては、飲料充填時の耐熱性や、ボトル内圧に耐えうる素材として、アルミ製やポリプロピレン製のものが大半であった。しかしながら、低コスト化、成形サイクルの短縮、リサイクルなどの問題から、最近は、低温充填(アセプティック)用ボトルキャップはポリエチレン製が主流となってきた。
【0003】
ボトルキャップの素材であるポリエチレン樹脂組成物に求められる性能は、剛性、流動性、および耐ストレスクラック性である。最近はボトルキャップの形状も複雑になってくるとともに、これらの性能を高度にバランスさせるという強い要求がある。特に高速成形性を高めるために、流動性の高い樹脂組成物のニーズが高い。キャップを生産する成形法には射出成形とコンプレッション(圧縮)成形があるが、特にコンプレッション(圧縮)成形においては、生産性を上げるために押出機の吐出量を上げるとともに、ターンテーブルの回転速度を上げることが必要となる。回転速度を上げると、結果的に冷却時間が短くなり、冷却不足の状態となっていた。冷却不足の状態でキャップを型から抜くと、ネジ部がつぶれる問題がある。
【0004】
高速で成形するためには、使用する樹脂の結晶化速度を高める方法と成型温度を低下させる方法とがある。
使用する樹脂の結晶化速度を高めることができれば、冷却時間を短縮しても樹脂が結晶化し固化することができるため、成形速度を高めることが可能になり、ネジ部のつぶれの問題も解決される。
【0005】
ポリエチレン樹脂に対して結晶化速度を高めるための方法として、触媒技術あるいは架橋技術によりポリエチレン樹脂に長鎖分岐を導入する方法が知られている。触媒技術で長鎖分岐を導入する場合、一般にフィリップス触媒を利用する方法が採用されている。しかし、この触媒により得られるポリマーは分子量分布が極めて広いため力学的特性が著しく劣り、また分子量を調節して流動性の良いポリエチレンを得ることが困難なため、当該ボトルキャップ分野において使用することが極めて困難であった。また、架橋反応を利用して長鎖分岐を導入する場合には、力学的特性が顕著に低下し、また架橋反応により副生する低分子量成分が臭気の原因となるため、当該ボトルキャップ分野において使用することが極めて困難であった。また、結晶性樹脂の結晶化速度を速めるために結晶核剤を添加することが一般に行われている。しかし、ポリエチレンの場合には、理由は明確ではないが、他の結晶性樹脂に対して結晶化速度の向上に効果がある結晶核剤を添加しても結晶化速度は向上せず、結晶化速度を明確に高める効果のある結晶核剤は報告されていなかった。以上のように、当該ボトルキャップ分野において結晶化速度を速めることは困難であった。
一方、成型温度を低下させる方法として、使用する樹脂を高流動化させることが考えられる。使用する樹脂が高流動性であれば、押出機負荷が低く、吐出量を上げることができるだけでなく、樹脂温を低くすることができ、樹脂を冷却するのに必要な時間が短くなり、型を抜く際にネジ部がつぶれることなく、高速で成形できる。
一般に流動性を高めるために分子量を低下させる。この低分子量化により、キャップにした時に耐ストレスクラック性が低下する傾向にある。また、この場合ストレスクラック性を維持するためには、樹脂組成物の密度を低下させる必要があった。しかしながら、密度を低下させることは、即ちボトルキャップの剛性を低下させることになり、キャップとした時に外部からの力や内部からの圧力で変形が起こりやすくなると同時に、摩擦係数が大きくなり、滑り性が悪くなることから、キャップを開ける時の力(開栓トルク)が必要以上に高くなるという問題が起こる。
【0006】
特許文献1に開示されたキャップは、成形性および耐ストレスクラック性が良好であるものの、密度が低く、ネジ部でのボトル側との滑り性が悪く、キャップを開けるときの力(開栓トルク)が高すぎるという問題があった。
特許文献2および特許文献3には、密度を少し高めたポリエチレン組成物が開示されている。これらのポリエチレン組成物から得られるキャップは開栓トルクについては改善されているものの、耐ストレスクラック性を維持するために、高分子量化し、流動性を低下させたために、成形性が悪化し、高速成形できないという問題があった。
【0007】
特許文献4および特許文献5に開示されたポリエチレン組成物は、耐ストレスクラック性が良好で、キャップとしての性能は良好であるものの、流動性が低く、押出機の負荷が高すぎ、成形速度を上げることが困難であった。また、押出機の負荷を少なくするために樹脂温を上げると、樹脂の冷却が不十分となり、型を抜く際にキャップのネジ部が押しつぶされてしまう、という問題が生じていた。
また、コードGのMFRとコードDのMFRとの比FRR(G/D)が高く、分子量分布が広いため、キャップの天面にフローマークが出やすく、成形収縮率にも異方性があり、キャップの寸法における真円性にも問題があった。
【0008】
特許文献6には、ESCRを保持し、密度を適度に高め、かつ、流動性を高めたポリエチレン組成物が開示されている。しかしながら、流動性をさらに高めた場合には、密度を低下させないと、十分な耐ストレスクラック性を保持することが困難であった。
以上のように、ボトルキャップの分野において、成形速度を高めることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−159250号公報
【特許文献2】特開2002−348326号公報
【特許文献3】特開2004−123995号公報
【特許文献4】特開2000−248125号公報
【特許文献5】特開2002−60559号公報
【特許文献6】特開2004−244557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明は、かかる従来技術の欠点を改良すること、とくに成形速度が高いボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、従来技術の欠点を改良するため鋭意研究を重ねた結果、ポリエチレン樹脂組成物の成分として、ポリエチレン樹脂成分とともに環状脂肪族金属塩を用い、さらに該ポリエチレン樹脂成分が特定の物性要件を満たす場合に、ボトルキャップの生産時の高流動性が達成され高速成形が可能であることを見出し、さらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下に関する:
(1)ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物であって、ポリエチレン樹脂成分と環状脂肪族金属塩成分を含み、前記ポリエチレン樹脂成分が下記(a)、(b)、(c)および(d)のうち少なくとも1つを満たすボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物。
(a)前記ポリエチレン樹脂成分が、コードDのMFRが100〜500g/10minの範囲にあるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)およびエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)からなり、前記低分子量成分(A)の割合が70〜30wt%であり、前記高分子量成分(B)の割合が30〜70wt%
(b)コードDのMFR4.0〜10.0g/10min
(c)密度が0.960〜0.966g/cm3
(d)分子量分布(Mw/Mn)が8.0〜12.0ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物。
【0013】
(2)ポリエチレン樹脂成分が(a)、(b)、(c)および(d)からなる要件を満たす請求項1に記載のボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物。
【0014】
(3)ポリエチレン樹脂成分が、さらに下記要件(e)および(f)からなる要件を満たす、前記ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物。
(e)コードGのMFR180〜500g/10min
(f)コードGのMFRとコードDのMFRとの比FRR(G/D)45〜70
【0015】
(4)下記要件(g)、(h)および(i)からなる要件を満たす、前記ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物。
(g)耐環境応力亀裂性(ESCR)が10時間以上
(h)シリンダー温度200℃、金型温度50℃にて射出成形した、150mm角で、2mm厚のフィルムゲート平板で測定された樹脂の流動方向の成形収縮率(MD)と樹脂の流れに対し直角方向の成形収縮率(TD)との比(MD/TD)が1.0〜2.5
(i)示差走査熱量計(DSC)にて測定される126℃での1/2等温結晶化時間が10分以下
【0016】
(5)環状脂肪族金属塩成分が、下記式で表される、前記ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物:
【化1】


ここで、MおよびMは、カルシウム、ストロンチウム、リチウム、亜鉛、マグネシウム、および一塩基性アルミニウムからなる群より互いに独立して選択され、さらにR13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、およびR22は、水素および炭素数1〜9の炭化水素基からなる群より互いに独立して選択され、さらに互いに隣接して位置したいずれか2つのR15〜R22の炭化水素基は任意に結合して環を形成していてもよい。
【0017】
(6)下記各ステップを含む、ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物の製造方法:
−(a)、(b)、(c)および(d)のうち少なくとも1つを満たすポリエチレン樹脂成分を調製するステップ:
(a)前記ポリエチレン樹脂成分が、コードDのMFRが100〜500g/10minの範囲にあるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)およびエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)からなり、前記低分子量成分(A)の割合が70〜30wt%であり、前記高分子量成分(B)の割合が30〜70wt%
(b)コードDのMFR4.0〜10.0g/10min
(c)密度が0.960〜0.966g/cm3
(d)分子量分布(Mw/Mn)が8.0〜12.0
−前記ポリエチレン樹脂成分に環状脂肪族金属塩成分を混合するステップ、および
−ポリエチレン樹脂成分と環状脂肪族金属塩成分を含む、前記ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物を得るステップ。
(7)前記(1)〜(5)のいずれかのボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物からなるボトルキャップ。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ボトルキャップを生産する場合、結晶化速度が速く、また高流動性のため、押出機の負荷が少なく、型を抜く際のネジ部がつぶれることもなく、高速成形が可能であるボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物が提供される。
また、本発明の好ましい態様においては、さらに、キャップとしての十分な剛性を保持しながら、飲料ボトルの内圧に耐えうる耐環境応力亀裂性(耐ストレスクラック性)に優れる本発明にかかる樹脂組成物は、分子量分布が狭いため異方性が少なく、寸法安定性にも優れ、開栓トルク性、滑り性にも優れた特徴をも有する。
すなわち、本発明により、優れた高速成形性を有するボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物が提供されるとともに、好ましい態様においては、飲料ボトルの内圧に耐えうる耐環境応力亀裂性(耐ストレスクラック性)を低下させることなく、優れた剛性とかつ、ボトルキャップに用いた場合、異方性がなく、寸法安定性にも優れ、開栓トルク等の要求性能にも優れた新規なボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物が提供される。したがって、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、飲料容器のボトルキャップ用途として極めて好適であるといった格別な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物は、前記のとおりポリエチレン樹脂成分と環状脂肪族金属塩成分を含む。
本発明に係る前記ポリエチレン樹脂成分の調製方法はとくに限定されず、例えば、特定のチーグラー型触媒を用い、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンから選ばれた1種または2種以上のコモノマーとを、所望の物性となるような割合で重合させることにより製造される。
その際、所望の分子量やMFRを得るには、水素のような分子量調節剤を用いればよい。
【0020】
次に、本発明に用いる特定のチーグラー型触媒の調製方法について説明する。
本発明に係るポリエチレン樹脂成分を得るための特定のチーグラー型触媒は、固体触媒成分[A]と有機アルミニウム化合物[B]からなる重合触媒である。固体触媒成分[A]の調製方法としては、(A−1)(i)一般式(Al)α(Mg)β(R1p(R2q (OR3r〔式中、R1、R2 及びR3 は炭素数2〜20の炭化水素基であり、α,β,p,q及びrは次の関係を満たす数である。
0≦α,0<β,0≦p,0≦q,0≦r,p+q>0,0≦r/(α+β)≦2,3α+2β=p+q+r〕
で示される炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム成分1モルと、
(ii)一般式Ha SiClb4 4-(a+b)(式中、R4 は炭素数1〜20の炭化水素基であり、aとbとは次の関係を満たす数である。0<a,0<b,a+b≦4)で示されるSi−H結合を有するクロルシラン化合物0.01〜100モルを反応させて得られる固体中に含まれるC−Mg結合1モルに対して、
(A−2)アルコールを0.05〜20モル反応させて得られる固体を、さらに
(A−3)一般式AlR5 s3-s
(式中R5 は炭素数1〜20の炭化水素基であり、QはOR6 ,OSiR789 ,NR1011,SR12およびハロゲンから選ばれた基を表し、R6 ,R7 ,R8 ,R9 ,R10,R11,R12は水素原子または炭化水素基であり、0<s)で示される有機金属化合物を、反応させて得られる固体に、(A−4)チタニウム化合物を、前記(A−3)成分の存在下に反応させて得られる。
【0021】
ここで用いられる有機マグネシウム化合物は、一般式(Al )α(Mg)β(R1p (R2q (OR3r〔式中、R1、R2 及びR3 は炭素数2〜20の炭化水素基であり、α,β,p,q及びrは次の関係を満たす数である。0≦α,0<β,0≦p,0≦q,0≦r,0≦r/(α+β)≦2,3α+2β=p+q+r〕で表される。この化合物は、炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示されているが、R2 Mgおよびこれらと他の金属化合物との錯体の全てを包含するものである。記号α、β、p、q、rの関係式3α+2β=p+q+rは、金属原子の原子価と置換基との化学量論性を示している。
【0022】
上記式中R1 ないしR2 で表される炭化水素基は、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基であり、たとえば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、アミル、ヘキシル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられ、好ましくはR1 はアルキル基である。アルミニウム に対するマグネシウムの比β/αは、任意に設定可能であるが、好ましくは0.1〜30、特に0.5〜10の範囲が好ましい。またα=0である、ある種の有機マグネシウム化合物を用いる場合には、例えば、R1 がsec−ブチル等であれば炭化水素溶媒に可溶性であり、このような化合物も本発明に好ましい結果を与える。
【0023】
一般式(Al )α(Mg)β(R1p (R2q (OR3r において、α=0の場合のR1 、R2 は次に示す三つの群(1)、(2)、(3)のいずれか一つであることが推奨される。
(1)R1 、R2 の少なくとも一方が炭素原子数4〜6である二級または三級のアルキル基であること、好ましくはR1 、R2 がともに炭素原子数4〜6であり、少なくとも一方が二級または三級のアルキル基であること。
(2)R1 とR2 とが炭素原子数の互いに相異なるアルキル基であること、好ましくはR1が炭素原子数2または3のアルキル基であり、R2 が炭素原子数4以上のアルキル基であること。
(3)R1 、R2 の少なくとも一方が炭素原子数6以上の炭化水素基であること、好ましくは、R1 、R2 がともに炭素原子数6以上のアルキル基であること。
以下これらの基を具体的に示す。
【0024】
(1)において炭素原子数4〜6である二級または三級のアルキル基としては、sec−ブチル、tert−ブチル、2−メチルブチル、2−エチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2,2−ジメチルブチル、2−メチル−2−エチルプロピル等が用いられ、sec−ブチルが特に好ましい。
次に(2)において炭素原子数2または3のアルキル基としてはエチル基、プロピル基が挙げられ、エチル基は特に好ましい。また炭素原子数4以上のアルキル基としては、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、ブチル基、ヘキシル基が特に好ましい。
(3)において炭素原子数6以上のアルキル基としては、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、フェニル基等が挙げられ、アルキル基である方が好ましく、ヘキシル基が特に好ましい。
【0025】
一般にアルキル基の炭素原子数を増やすと炭化水素溶媒に溶けやすくなるが、溶液の粘性が高くなる傾向があり、必要以上に長鎖のアルキル基を用いることは取り扱い上好ましくない。なお、上記有機マグネシウム化合物は炭化水素溶液として用いられるが、該溶液中に微量のエーテル、エステル、アミン等のコンプレックス化剤がわずかに含有され、あるいは残存していても差し支えなく用いることができる。
【0026】
次にアルコキシ基(OR3 )について説明する。R3 で表される炭化水素基としては、炭素原子数3〜10のアルキル基またはアリール基が好ましい。具体的には、たとえば、n−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、アミル、ヘキシル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2−エチルペンチル、2−エチルヘキシル、2−エチル−4−メチルペンチル、2−プロピルヘプチル、2−エチル−5−メチルオクチル、n−オクチル、n−デシル、フェニル基等が挙げられ、好ましくはn−ブチル、sec−ブチル、2−メチルペンチル及び2−エチルヘキシルである。
【0027】
これらの有機マグネシウム化合物、もしくは有機マグネシウム錯体は、一般式R1 MgX、R12Mg(R1 は前述の意味であり、Xはハロゲンである)で示される有機マグネシウム化合物と、一般式、Al R2 3 またはAlR2 3−1H(R2 は前述の意味である)で示される有機金属化合物とを、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の不活性炭化水素媒体中、室温〜150℃の間で反応させ、必要な場合には続いてR3 で表される炭化水素基を有するアルコールまたは炭化水素溶媒に可溶な上記R3 で表される炭化水素基を有するヒドロカルビルオキシマグネシウム化合物、および/またはヒドロカルビルオキシアルミニウム化合物と反応させる方法により得られる。
【0028】
このうち炭化水素に可溶な有機マグネシウム成分とアルコールとを反応させる場合、反応の順序については、有機マグネシウム成分中にアルコールを加えていく方法、アルコール中に有機マグネシウム成分を加えていく方法、または両者を同時に加えていく方法のいずれの方法も用いることができる。本発明において炭化水素に可溶な有機マグネシウム成分とアルコールとの反応比率については特に制限はないが、反応の結果、得られるアルコキシ基含有有機マグネシウム成分における、全金属原子に対するアルコキシ基のモル組成比r/(α+β)の範囲は0≦r/(α+β)≦2であり、0≦r/(α+β)<1が特に好ましい。
【0029】
次に、本発明に係るポリエチレン樹脂成分を得るために用いる固体触媒成分[A]の調製において用いられるSi−H結合を有するクロルシラン化合物について説明する。
クロルシラン化合物としては一般式、Ha SiClb4 4ー(a+b)(式中、R4 は炭素数1〜20の炭化水素基であり、aとbとは次の関係を満たす数である。0<a,0<b,a+b≦4)で表される。上記式においてR4 で表される炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基であり、たとえば、メチル、エチル、ブチル、アミル、ヘキシル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられ、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、メチル、エチル、プロピル等の低級アルキル基が特に好ましい。また、a及びbはa+b≦4の関係を満たす0より大きな数であり、特にbが2または3であることが好ましい。
【0030】
これらの化合物としては、HSiCl3 、HSiCl2 CH3 、HSiCl225 、HSiCl2n−C37 、HSiCl2 iso−C37 、HSiCl2 n−C49 、HSiCl265 、HSiCl2 (4−Cl−C64 )、HSiCl2CH=CH2 、HSiCl2 CH265 、HSiCl2(1−C107 )、HSiCl2CH2 CH=CH2 、H2 SiClCH3 、H2 SiClC25 、HSiCl(CH32 、HSiCl(C252 、HSiClCH3 (iso−C37 )、HSiClCH3 (C65 )、HSiCl(C652 等が挙げられ、これらの化合物またはこれらの化合物から選ばれた二種類以上の混合物からなるクロルシラン化合物が使用される。クロルシラン化合物としては、トリクロルシラン、モノメチルジクロルシラン、ジメチルクロルシラン、エチルジクロルシランが好ましく、トリクロルシラン、モノメチルジクロルシランが特に好ましい。
【0031】
次に有機マグネシウム成分とクロルシラン化合物との反応について説明する。反応に際してはクロルシラン化合物を予め不活性反応溶媒体、たとえば、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、1,2−ジクロルエタン、o−ジクロルベンゼン、ジクロルメタン等の塩素化炭化水素、もしくはエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系媒体、あるいはこれらの混合媒体を用いて希釈した後利用することが好ましい。触媒の性能上、脂肪族炭化水素媒体が好ましい。反応の温度については特に制限されないが、反応の進行上、好ましくはクロルシランの沸点以上もしくは40℃以上で実施される。2種成分の反応比率にも特に制限はないが、通常有機マグネシウム成分1モルに対し、クロルシラン化合物0.01〜100モルであり、好ましくは有機マグネシウム成分1モルに対し、クロルシラン化合物0.1〜10モルの範囲である。
【0032】
反応方法については2種成分を同時に反応帯に導入しつつ反応させる同時添加の方法、もしくはクロルシラン化合物を事前に反応帯に仕込んだ後に、有機マグネシウム成分を反応帯に導入しつつ反応させる方法、あるいは有機マグネシム成分を事前に仕込み、クロルシラン化合物を添加する方法があるが、クロルシラン化合物を事前に反応帯に仕込んだ後に、有機マグネシウム成分を反応帯に導入しつつ反応させる方法が好ましい結果を与える。上記反応によって得られる固体成分はろ別またはデカンテーション法によって分離した後、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の不活性溶媒を用いて充分に洗浄し、未反応物あるいは副生成物等を除去することが好ましい。
【0033】
上記のようにして得られた固体(A−1)を、さらにアルコールで処理する。この際用いられるアルコールとしては、炭素数1〜20の飽和又は不飽和のアルコールを例示することができる。このようなアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、シクロヘキサノール、フェノール、クレゾール等を挙げることができ、C3 からC8 の直鎖アルコールは特に好ましい。
【0034】
次にアルコールの使用量は、固体(A−1)中に含まれるC−Mg結合1モル当たり、0〜20モルであり、好ましくは0.1〜10モル、特に好ましくは0.2〜8モルの範囲である。固体(A−1)とアルコールとの反応は、不活性媒体の存在下または非存在下において行う。不活性媒体としては前述の脂肪族、芳香族ないし脂環式炭化水素のいずれを用いても良い。反応時の温度は特に制限はないが、好ましくは室温から200℃で実施される。
【0035】
次いでチタニウム化合物について説明する。チタニウム化合物としては、一般式Ti(OR13u4-u で表されるチタン化合物が用いられる。式中uは0≦u≦4の数であり、R13で表される炭化水素基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、アミル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、アリル等の脂肪族炭化水素基、シクロヘキシル、2−メチルシクロヘキシル、シクロペンチル等の脂環式炭化水素基、フェニル、ナフチル等の芳香族炭化水素基等が挙げられるが、脂肪族炭化水素基が好ましい。Xで表されるハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられるが、塩素が好ましい。上記から選ばれたチタン化合物を、2種以上混合した形で用いることは可能である。
固体物質とチタン化合物との反応は不活性反応媒体を用いるが、不活性反応媒体としてはたとえば、ヘキサン、ヘプタンの如き脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素等が挙げられるが、脂肪族炭化水素が好ましい。チタン化合物の使用量は固体成分に含まれるC−Mg結合1モル当たり、0.5モル以下が好ましく、特に好ましくは0.1モル以下である。反応温度については、特に制限はないが、室温ないし150℃の範囲で行うことが好ましい。この場合、前記有機金属化合物成分を存在させることも可能である。その際添加順序としては、有機金属化合物に続いてチタン化合物を加える、チタン化合物に続いて有機金属化合物を加える、両者を同時に添加する、のいずれの方法も可能であるが、有機金属化合物成分に続いてチタン化合物を加えることが好ましい。この場合、有機金属化合物とチタン化合物のモル比は0.5〜2の範囲が好ましい。
【0036】
かくして得られた触媒は、不活性溶剤によるスラリー溶液として使用される。不活性溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、1、2−ジクロロエタン、四塩化炭素、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素、等があげられる。
【0037】
本発明の固体触媒成分[A]とともに用いる有機アルミニウム化合物[B]としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリn−プロピルアルミニウム、トリn−ブチルアルミニウム、トリiso−ブチルアルミニウム、トリn−アミルアルミニウム、トリiso−アミルアルミニウム、トリn−ヘキシルアルミニウム、トリn−オクチルアルミニウム、トリn−デシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジiso−ブチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド等のハロゲン化アルミニウム、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジiso−ブチルアルミニウムブトキシド等のアルコキシアルミニウム、ジメチルヒドロシロキシアルミニウムジメチル、エチルメチルヒドロシロキシアルミニウムジエチル、エチルジメチルシロキシアルミニウムジエチル等のシロキシアルキルアルミニウムおよびこれらの混合物が用いられ、特にトリアルキルアルミニウムは最も高い活性が達成されるため好ましい。
【0038】
本発明の触媒系で重合するオレフィンとしては、エチレンおよび炭素数が3〜20のα−オレフィンが挙げられ、炭素数が3〜20のα−オレフィンの代表例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、ビニルシクロヘキサン等が挙げられ、このうちのいくつかを組み合わせて、共重合することもできる。固体触媒成分及び有機アルミニウム化合物は、重合条件下に重合系内に添加してもよいし、あらかじめ重合に先立って混合してもよい。また組み合わせる両成分の比率は、固体触媒成分中のTi及び有機アルミニウム成分のAlのモル比で規定され、Al/Ti=0.3〜1000である。
【0039】
重合溶媒としては、スラリー重合に通常使用される炭化水素溶媒が用いられる。具体的には、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素の単独あるいは混合物が用いられる。重合温度は室温〜100℃、好ましくは50℃〜90℃の範囲である。重合圧力は常圧ないし100気圧の範囲で実施される。得られる重合体の分子量は、重合系に水素を存在させるか、あるいは重合温度を変化させることによって調節することができる。
【0040】
本発明のエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)とエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)とからなるポリエチレン樹脂成分の調製には、低分子量成分Aと高分子量成分Bとを別々に重合し、それらを所定の配合比でブレンドすることによるパウダーブレンドやペレットブレンド、あるいは、直列に接続した2以上の重合器で順次連続的に重合して得られる多段重合法や、並列に接続した2つ以上の重合器で同時に重合して得られる各成分をスラリー状態などでブレンドする方法でも良い。
その中でも、物性を安定的にコントロールでき、高品質のポリエチレンを製造するという点から、直列に接続した2以上の重合器で順次連続的に重合して得られる多段重合法が最も好ましい。
【0041】
特に、一段目の重合槽で低分子量成分(A)を重合し、二段目の重合槽で高分子量成分(B)を重合することがより好ましい。密度およびESCR等の物性と成形性を両立させるためには、低分子量成分(A)を重合する一段目の重合槽には、コモノマーをフィードせずにエチレン単独重合体を重合し、続いて、高分子量成分(B)を重合する二段目の重合槽には、コモノマーをフィードさせて、共重合体を重合することが好ましい。
【0042】
一段目の重合槽で高分子量成分(B)を重合し、二段目の重合槽で低分子量成分(A)を重合することもできるが、一段目でコモノマーをフィードしない場合には、未反応のコモノマーが残留することがなく、同未反応のコモノマーが二段目の重合槽にそのままフィードされず、低分子量成分にもコモノマーが挿入されてコポリマーとなってしまうおそれがないため、密度を高く保った上で、ESCRを高くすることが容易になる。
【0043】
また、本発明のボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物は、該ポリエチレン樹脂成分が下記(a)、(b)、(c)および(d)のうち少なくとも1つを満たすボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物である:
(a)前記ポリエチレン樹脂成分が、コードDのMFRが100〜500g/10minの範囲にあるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)およびエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)からなり、前記低分子量成分(A)の割合が70〜30wt%であり、前記高分子量成分(B)の割合が30〜70wt%
(b)コードDのMFR4.0〜10.0g/10min
(c)密度が0.960〜0.966g/cm3
(d)分子量分布(Mw/Mn)が8.0〜12.0。
【0044】
上記(a)について説明するに、本発明のボトルキャップ用ポリエチレン樹脂成分は、エチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)が70〜30wt%、エチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)が30〜70wt%である。前記ポリエチレン樹脂成分は、好ましくは、低分子量成分(A)が65〜50wt%、高分子量成分(B)が35〜50wt%である。エチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の量を30wt%以上とすることにより、流動性が高く、押出機負荷が低くなり、高速成形性に優れるも組成物とすることができる。また、低分子量成分(A)の量を70wt%以下とすることによって、高分子量成分が多くなり、優れたESCRを達成し得る。
【0045】
二段連続重合におけるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)とエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)との割合は、樹脂の生産量から把握することが可能である。たとえば、最終的に得られるポリマー生産量から一段目の重合槽で得られるポリマー量を差し引いた値が二段目の重合槽で得られるポリマー量に相当する。
【0046】
また、エチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の密度は0.971g/cm3 以上であることが好ましく、更に好ましくは、密度を0.973g/cm3 以上とすることが望ましい。このことにより、エチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)の密度を低下させることができ、高分子量成分(B)に多くのコモノマーを導入することができるようになるので、ESCR等の物性を高く維持することが可能となる。エチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の密度が0.971g/cm3 以上とすることにより、エチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)の密度を十分に低下させることができるので、ESCRが不足することがなくなる。
【0047】
上記(b)については、本発明の樹脂成分は、MFRDが、4.0〜10.0g/10minの範囲にあり、好ましくは4.0〜8.0g/10minの範囲、さらに好ましくは、4.0〜7.0g/10minである。MFRDの値を4.0g/10min以上とすることにより、成形時に充分な流動性が得られ、また、成形時の樹脂温度上昇等の変動が小さくなり高速成形性を達成することができる。また、MFRDの値を10.0g/10min以下とすることにより、キャップ割れに繋がる恐れがある耐ストレスクラック性が低下することがなく、実用性に優れたものとなる。
【0048】
また、上記(c)については、ポリエチレン樹脂成分の密度としては0.960〜0.966g/cm3 の範囲であることが好ましい。耐ストレスクラック性を改良するためには、樹脂の密度を低くすることが有効であるが、ボトルキャップ用の樹脂成分においては、密度が0.960g/cm3 以上とすることにより、キャップの剛性が不足することがなく、ボトルへの装填時に変形が発生したり、飲料を充填したボトルを高温で保管した際にキャップが変形するなどの不具合が生じる懸念がなくなる。また、ネジ部でのボトル本体側との滑り性が悪く、キャップを開けるときの力(開栓トルク)が高すぎ、子供や女性の力ではキャップを開けることができない、という問題も生じなくなる。また、0.966g/cm3 以下とすることにより、十分なESCRを維持することができる。
【0049】
さらに、上記(d)については、本発明のポリエチレン樹脂組成物の分子量分布(Mw/Mn)は、高温ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(高温GPC)を用いて、標準ポリスチレンサンプルから検量線を作成して求めることができる。本発明においては、このMw/Mnの値は、8.0〜12.0であることが好ましく、さらに好ましくは、9.0〜12.0の範囲である。Mw/Mnを8.0以上とすることにより、高分子量成分が少なくならず、ESCRが不足する懸念がなくなる。また、Mw/Mnが12.0以下とすることにより、ワックスのような低分子量成分が少なくなり、ボトル内の飲料に溶け出す懸念がなくなる。この場合には、さらに、分子量分布が広がることがないことにより、衝撃強度が低下することがなくなるため、落下の衝撃でキャップが割れやすくなる懸念もなくなる。さらに分子量分布が広がることを回避することで、成形時に異方性が生じることがなく、キャップの真円度が低下しないため、ボトルとの密着性が不均一となる懸念もなくなる。
【0050】
本発明のボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物の他の好ましい態様につき、以下に説明する。
本発明のエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)のコードDのMFR(JIS K7210:1999、190℃、2.16kg荷重;以下「MFRD」と記載する)は、100〜500g/10minが好ましく、さらに好ましくは200〜400g/10minである。この低分子量成分によって流動性を確保しているので、MFRDを100g/10min以上とすることにより、キャップ成形時に押出機の樹脂圧が上がりすぎることがなく、高速成形することが可能となる。また、500g/10min以下とすることにより、ワックスのような低分子量成分が少なくなり、ボトル内の飲料に溶け出す恐れがなく、好ましい。
【0051】
本発明のエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、高温ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(高温GPC)を用いて、標準ポリスチレンサンプルから検量線を作成して求めることができる。本発明のMw/Mnの値は、4.0〜5.0であり、さらに好ましくは4.5〜5.0である。該Mw/Mnの値を5.0以下とすることにより、分子量で1000以下の成分量が少なくなり、これらが臭気の問題や、ボトル内の飲料に溶け出す等の問題を引き起こす可能性がなくなる。また、分子量分布を狭くすることにより、衝撃強度を高めるという効果もある。低分子量成分(A)のMw/Mnを狭くすることによって、低分子量成分(A)中に含まれる高分子量成分をできるだけ少なくすることができ、ESCR等の物性に寄与するエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)を効果的に増やすことができる。この効果は、本発明のポリエチレン樹脂成分のESCRを維持する上でも極めて重要である。前述した触媒を用いることにより、このMw/Mnの値を満足させることができる。
【0052】
また、コードGのMFR(JIS K7210:1999、190℃、21.6kg荷重;以下「MFRG」と記載する)の値が180〜500g/10minであることが好ましく、さらに好ましくは、200〜400g/10minである。この値が180g/10min以上であれば高速成形性に優れ、500g/10min以下の場合は、良好な耐ストレスクラック性(ESCR)が得られる。
ここでいう高速成形性とは、同一条件において押出機の負荷が低くなり、吐出速度を上げられることと、押出機の負荷が同一となるように温度がどこまで下げられるかと、結晶化速度をどこまで早くできるかによって判断できる。
【0053】
次に、MFRGとMFRDとの比FRR(G/D)の値としては、一般的に分子量分布と相関のある数値であり、分子量分布が広くなると、このFRR(G/D)の値は大きくなる傾向にあるが、本発明のポリエチレン樹脂成分のFRR(G/D)は、45以上70以下であることが好ましく、さらに好ましくは45以上60以下、さらに好ましくは45以上55以下である。この値を45以上とすることにより、成形時の押出機の負荷が低くなり、高速成形性上好ましい。また、この場合、耐ストレスクラック性も充分ではない懸念もなくなる。さらに、FRR(G/D)の値を70以下とすることにより、衝撃強度が低下せず、キャップ成形品の天面にフローマークが発生し難く、キャップの成形収縮率に異方性がなく、キャップの真円度が低下する懸念がなくなる。
【0054】
また、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、シリンダー温度200℃、金型温度50℃にて射出成形した、150mm角で、2mm厚のフィルムゲート平板で測定された樹脂の流動方向の成形収縮率(MD)と樹脂の流れに対し直角方向の成形収縮率(TD)との比(MD/TD)が1.0〜2.5の範囲であり、さらに好ましくは、1.0〜2.4の範囲にあることが重要である。MD/TDを2.5以下とすることにより、キャップ成形品の真円度が高くなり、キャップの寸法がボトルに合わないなどの問題が生じる懸念がなくなる。
【0055】
そのほかに、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、JIS K6760に記載された定ひずみ環境応力亀裂試験方法により測定された耐環境応力亀裂性(以下、ESCRと記す。)が、10時間以上であることが好ましい。具体的な測定方法としては、試験液として、ローディア日華(株)製のイゲパルCO−630の10重量%水溶液を使用し、環境応力による亀裂が発生する確率が50%(以下F50と記載)となる時間を計測し、ESCRの値とした。単位は時間である。この値を10時間以上とすることにより、ボトルの内圧によりキャップが破裂する懸念がなくなる。また、この場合、ボトルへの装填時に巻き締めすぎたまま、長期保管しておいてもクラックが発生する懸念がなくなる。
【0056】
さらに、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、シリンダー温度210℃、金型温度40℃で成形した射出成形片を試料に用い、JIS K7161に記載の方法で測定した引張り破壊時呼び歪みが200〜600%であることが好ましく、さらに好ましくは、300〜500%である。引張り破壊時呼び歪みが200%以上でキャップが頑丈になり、割れが起こりやすくなる懸念がない。引張り破壊時呼び歪みを600%以下とすることにより、キャップを開栓する時に、ブリッジ部分が切れやすく、ブリッジ部分が残る場合がなくなる。すなわち、この場合には、ブリッジ部分が残ると人が飲む際に、唇部分が接触し、痛みを感じることや、場合によっては、唇を切る恐れも懸念がなくなる。
【0057】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、密度を高くすることにより、キャップに成形した際に、剛性が高く、ボトルの内圧により変形することがないものとすることができる。剛性を評価する一つの指標として、引張り降伏応力の測定がある。これは、JIS K7161に記載の方法に準拠して、210℃で成形した射出成形片を試料に用いて測定することができる。引張り降伏応力の好ましい範囲は、25〜30MPaである。引張り降伏応力を25MPa以上とすることにより、ボトルの内圧が上昇した際に、変形して飲料が漏れる懸念がなくなる。また、引張り降伏応力を30MPa以下とすることにより、高い剛性とともに十分なESCRを得ることができる。
【0058】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、分子量分布の狭いエチレン単独重合体の低分子量成分(A)と分子量分布の狭いエチレン共重合体の高分子量成分(B)からなるため、耐衝撃性に優れる。耐衝撃性は、例えば、JIS K7111に記載されているシャルピー衝撃強さを求めることで評価することができる。シャルピー衝撃強さとしては、好ましくは4〜7kJ/m2の範囲である。シャルピー衝撃強さを4kJ/m2以上とすることにより、ボトルを落とした際に、キャップが割れて飲料が漏れ出す恐れをなくすことができる。一方、シャルピー衝撃強さを7kJ/m2を以下とすることにより、密度が高くなることがなく、十分なESCRを得ることができる。
【0059】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、キャピログラフ溶融粘度が低く、流動性が良好であり、高速成形性に優れる。180℃、せん断速度1065/secでのキャピログラフ溶融粘度(東洋精機製作所製、キャピログラフ 1D型、オリフィスサイズ:D=0.770mm、L=50.8mm)が200Pa・sec以下であれば高速成形性が良好となる。
【0060】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、成形時における結晶化速度が速いため、高速成形性に優れる。結晶化速度は、示差走査熱量計(DSC)にて測定される126℃での1/2等温結晶化時間が10分以下であれば、高速成形性が良好となる。
【0061】
本発明における環状脂肪族金属塩は、例えば下記式で表される化合物である。
【化2】

【0062】
ここで、MおよびMは、カルシウム、ストロンチウム、リチウム、亜鉛、マグネシウム、および一塩基性アルミニウムからなる群より互いに独立して選択され、またはMおよびMはまとめてひとつの二価の金属イオンであり、さらにR13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、およびR22は、水素および炭素数1〜9の炭化水素基からなる群より互いに独立して選択され、さらに互いに隣接して位置したいずれか2つのR15〜R22の炭化水素基は任意に結合して環を形成していても良い。
およびMはまとめてひとつの二価の金属イオンであることが好ましい。中でも、MおよびMが二価のカルシウムイオンであることが更に好ましい。
【0063】
ポリエチレン樹脂成分に対する環状脂肪族金属塩の重量分率はとくに限定されないが、例えば10重量ppm以上5000重量ppm以下の範囲である。前記重量分率は、好ましくは10重量ppm以上1000重量ppm以下であり、さらに好ましくは50重量ppm以上700重量ppm以下である。ポリエチレン樹脂成分に対する環状脂肪族金属塩の重量分率を5000重量ppm以下とすることにより、ESCRが低下する懸念がなくなる。また、環状脂肪族金属塩の重量分率を10重量ppm以上とすることによって、結晶化速度を速くする効果が得られ、結晶化時間が短縮できるため、高速生産性が達成される。
【0064】
本発明における環状脂肪族金属塩のポリエチレン樹脂に対する添加方法は、ポリエチレン樹脂に環状脂肪族金属塩を直接添加する方法、事前に環状脂肪族金属塩を含むマスターバッチを作成し、このマスターバッチを添加方法があるが、マスターバッチを添加する方法が環状脂肪族金属塩の分散性を良好にする上で好ましい。環状脂肪族金属塩の分散性を良好にすることで、結晶化時間を短くする効果が高くなる。
【0065】
本発明のボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物は、エチレン樹脂成分に環状脂肪族金属塩を添加する工程を含む製造方法によって製造することができる。また、環状脂肪族金属塩を添加するにあたり、脂肪酸塩が併用されることが好ましい。
本発明における脂肪酸塩とは、炭素数12〜22のアニオンとカチオンとを含み、該カチオンが亜鉛、カルシウム、リチウム、マグネシウム、およびナトリウムからなる群から選択されることが好ましい。また、本発明における脂肪酸塩として、ステアリン酸化合物が好ましく、中でも、ステアリン酸亜鉛が特に好ましい。
本発明において、環状脂肪族金属塩に対する脂肪酸塩の重量分率は、0.05〜20であることが好ましく、更に0.1〜10であることが好ましい。
【0066】
本発明における脂肪酸塩のポリエチレン樹脂に対する添加方法には、ポリエチレン樹脂に環状脂肪族金属塩と脂肪酸塩とを直接別々に添加する方法、事前に脂肪酸塩と環状脂肪族金属塩と混合し、ポリエチレン樹脂に環状脂肪族金属塩と脂肪酸塩とを直接添加する方法、ポリエチレン樹脂に環状脂肪族金属塩はマスターバッチとして、脂肪酸塩は直接添加する方法、事前に環状脂肪族金属塩と脂肪酸塩とを含むマスターバッチを作製し、ポリエチレン樹脂に該マスターバッチを添加する方法があるが、事前に環状脂肪族金属塩と脂肪酸塩とを含むマスターバッチを作製し、ポリエチレン樹脂に該マスターバッチを添加する方法が好ましい。
【0067】
上記本発明のポリエチレン樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で添加剤や充填剤等を少量添加しても良いが、ボトル内の飲料への溶出を抑えることを考慮すると、できる限り添加しないことが好ましい。使用される添加剤としては、フェノール系酸化防止剤が良く、リン系やイオウ系のような酸化防止剤を使用することを避けることによって、ボトル内の飲料の味が変化することを防ぐことが可能となり好ましい。
【0068】
添加するフェノール系酸化防止剤の量としては、500ppm以下であり、好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは、100ppm以下であり、フレーバー性の点から全く添加しない場合が最も好ましい。また、全く添加しない場合には、乳等省令にも適合することから、乳飲料のキャップにも用いることができる。
【0069】
また、キャップの開栓性を良くするために滑剤を少量添加しても良い。添加する滑剤としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどが挙げられ、添加量としては、800重量ppm以下、好ましくは600重量ppm以下、さらに好ましくは300重量ppm以下である。
【0070】
帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、防曇剤、有機過酸化物などについては、できるだけ添加しないことが好ましい。充填剤としては、例えば、タルク、シリカ、カーボン、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、木粉などが挙げられる。必要に応じて、酸化チタンや有機顔料を使用するためにマスターバッチで添加することも可能であるが、これらの添加をしないことによってフレーバー性を低下させる原因を排除することができる。したがって、これらの添加剤や充填剤、酸化チタン、有機顔料などを添加しないことは好ましい。
【0071】
別の側面において、本発明は下記各ステップを含む、ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物の製造方法を与える:
−(a)、(b)、(c)および(d)のうち少なくとも1つを満たすポリエチレン樹脂成分を調製するステップ:
(a)前記ポリエチレン樹脂成分が、コードDのMFRが100〜500g/10minの範囲にあるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)およびエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)からなり、前記低分子量成分(A)の割合が70〜30wt%であり、前記高分子量成分(B)の割合が30〜70wt%
(b)コードDのMFR4.0〜10.0g/10min
(c)密度が0.960〜0.966g/cm3
(d)分子量分布(Mw/Mn)が8.0〜12.0
−前記ポリエチレン樹脂成分に環状脂肪族金属塩成分を混合するステップ、および
−ポリエチレン樹脂成分と環状脂肪族金属塩成分からなる、前記ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物を得るステップ。
【0072】
上記各ステップは、本発明のボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物を製造する方法においてすでに記載した手法によって行うことができる。
また、本発明のボトルキャップの製造は、本発明のボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物を用いて、公知の製造方法により行うことができる。
【実施例】
【0073】
本発明を実施例及び比較例を用いて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
本発明及び以下の実施例、比較例において、示す記号ならびに測定方法は以下の通りである。
(1)コードDのMFR(MFRD):
メルトインデックスを表し、JIS K7210により温度190℃、荷重2.16kgの条件下で測定した値で単位はg/10minである。
(2)コードGのMFR(MFRG):
メルトインデックスを表し、JIS K7210により温度190℃、荷重21.6kgの条件下で測定した値で単位はg/10minである。
(3)FRR(G/D):
上記のコードGのMFRとコードDのMFRとの比を表す。
(4)密度:
ASTM D1505に準拠して測定した値で、単位はg/cm3 である。
(5)分子量分布(Mw/Mn):
高温ゲル・パーミエーション・クロマトグラフイー(GPC)を測定し、得られた分子量分布のチャートにおいて、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比から求めることができる。高温GPC測定は、Waters社製Alliance GPCV 2000を用い、カラムには、昭和電工(株)製のAT−807S(1本)と東ソー(株)製GMHHR−H(S)HT(2本)を直列に接続し、移動相にトリクロロベンゼン(TCB)、カラム温度140℃、流量1.0ml/分、試料濃度20mg/溶媒10ml、試料溶解温度140℃、試料溶解時間1時間の条件下で行った。単位は重量%である。
【0074】
(6)耐環境応力亀裂性(ESCR):
定ひずみ環境応力亀裂試験であり、JIS K6760に記載の方法で実施した。試験液としては、ローディア日華(株)製のイゲパルCO−630の10重量%水溶液を使用し、環境応力による亀裂が発生する確率が50%(以下F50と記載)となる時間を計測し、ESCRの値とした。単位は時間である。
(7)引張破壊時呼び歪み:
210℃で成形した射出成形片を試料に用い、JIS K7161に記載の方法で測定した。単位は%である。
(8)引張降伏応力:
上記(7)と同様にして測定した。単位はMPaである。
(9)シャルピー衝撃強度:
上記(7)で作成した射出成形片をJIS K7111に記載の方法で求めた。測定温度は23℃である。単位はkJ/m2 である。
(10)異方性:
シリンダー温度200℃で150mm×150mm×2mmのフィルムゲート平板を金型温度50℃の条件で射出成形(射出成形機:東芝機械製射出成形機IS−150EN、射出圧力約600〜700kgf/cm2、射出速度50%)した。成形した後、フィルムゲート平板を2日間恒温室に放置した。2日後、金型の寸法に対する成形品の寸法の差を測定し、成形収縮率は以下の式により求めた。単位は%である。
{(金型の寸法)−(成形品の寸法)}×100/(金型の寸法)
樹脂の流動方向の成形収縮率(MD)と樹脂の流れに対し直角方向の成形収縮率(TD)を平板の各中心部から求め、その成形収縮率の比(MD/TD)を求め、2.5以上の場合、異方性があり、キャップを成形した時の製品の真円度が不足し、寸法安定性が不足している、と判断した。
【0075】
(11)高速成形性−1:
180℃、せん断速度1065/secでのキャピログラフ溶融粘度(東洋精機製作所製、キャピログラフ 1D型、オリフィスサイズ:D=0.770mm、L=50.8mm)が200Pa・sec以下であれば、高速成形性が良好で、キャップ生産時の樹脂温も低下させることができる、と判断した。
(12)高速成形性−2:
示差走査熱量計(パーキンエルマー製 DSC Pyris1、サンプル量:8mg)にて測定される126℃での1/2等温結晶化時間が10分以下であれば、高速成形性が良好で、キャップ生産時の冷却不十分を解消させることができる、と判断した。
【0076】
(固体触媒成分[A]の調製)
クロルシラン化合物との反応によるマグネシウム含有固体の合成
充分に窒素置換された15リットルの反応器に、トリクロルシラン(HSiCl3 )を2モル/リットルのn−ヘプタン溶液として2740ミリリットル仕込み、攪拌しながら65℃に保ち、組成式AlMg6 (C253 (n−C4910.8(On−C491.2 で示される有機マグネシウム成分のn−ヘプタン溶液7リットル(マグネシウム換算で5モル)を1時間かけて加え、更に65℃にて1時間攪拌下反応させた。反応終了後、上澄み液を除去し、n−ヘキサン7リットルで4回洗浄を行い、固体物質スラリーを得た。この固体を分離・乾燥して分析した結果、固体1グラム当たり、Mg8.62ミリモル、Cl17.1ミリモル、n−ブトキシ基(On−C49 )0.84ミリモルを含有していた。
【0077】
固体触媒の調製
上記固体500gを含有するスラリーを、n−ブチルアルコール1モル/リットルのn−ヘキサン溶液2160ミリリットルとともに、攪拌下50℃で1時間反応させた。反応終了後上澄みを除去し、7リットルのn−ヘキサンで1回洗浄した。このスラリーを50℃に保ち、ジエチルアルミニウムクロリド1モル/リットルのn−ヘキサン溶液970ミリリットルを攪拌下加えて1時間反応させた。反応終了後上澄みを除去し、7リットルのn−ヘキサンで2回洗浄した。このスラリーを50℃に保ち、ジエチルアルミニウムクロリド1モル/リットルのn−ヘキサン溶液270ミリリットルおよび四塩化チタン1モル/リットルのn−ヘキサン溶液270ミリリットルを加えて、2時間反応させた。反応終了後上澄みを除去し、内温を50℃に保った状態で、7リットルのn−ヘキサンで4回洗浄して、固体触媒成分をヘキサンスラリー溶液として得た。この固体触媒スラリー溶液上澄み液中の塩素イオン濃度は2.5ミリモル/リットル、アルミニウムイオン濃度は4.5ミリモル/リットルであった。
【0078】
[実施例1]
上記で得られた固体触媒を用いた連続スラリー重合法で、直列に接続した2つの重合槽による二段重合を行った。用いたコモノマーは1−ブテンである。一段目の重合槽には、モノマーとしてエチレンのみを供給し、二段目にはエチレンと1−ブテンを供給することにより重合した。一段目の重合槽で得られるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の生産量の割合を60wt%、二段目の重合槽で得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の生産量の割合を40wt%に設定した。表1に記載の樹脂成分を得た。得られたパウダー状態の樹脂に、添加剤としてステアリン酸カルシウムを800重量ppmと、環状脂肪族金属塩成分を200重量PPM加えて、ヘンシェルミキサーにてブレンドした。これを二軸押出機(日本製鋼社製;TEX44HCT−49PW−7V)を用い、シリンダー温度200℃、押出量35kg/時間の条件で混練しながら押出し、組成物ペレットを得た。なお、実施例にて使用した環状脂肪族金属塩成分の構造式を下記式に示す。
【0079】
【化3】

【0080】
低分子量成分(A)と高分子量成分(B)との配合比は各成分の生産量より求めた。組成物の物性を表1に示す。実施例1で得られた樹脂組成物は、耐ストレスクラック性(ESCR)、キャップ生産時の高速成形性−1の指標である180℃、せん断速度1065/secでのキャピログラフ溶融粘度も低く、高速成形性−2の指標である126℃での1/2等温結晶化時間も速く、異方性の指標である成形収縮比、およびすべての物性において良好な結果を示した。
【0081】
[実施例2]
実施例1と同様の二段重合を行い、得られたパウダー状態の樹脂に、添加剤としてステアリン酸カルシウムを800重量ppmと、環状脂肪族金属塩と脂肪酸塩の併用系を5重量%添加したマスターバッチ(上記実施例1と同様の二段重合を行い、得られたパウダー状態の樹脂に、MILLIKEN製:Hyperform HPN−20Eを5重量%添加し、混練、押出し、ペレット化したマスターバッチ)を0.4重量%添加し、最終的な環状脂肪族金属塩の添加割合を実施例1と同一の200重量ppmを加えて、実施例1と同一の混練、押出を行い、組成物ペレットを得た。組成物の物性を表1に示す。実施例2で得られた樹脂組成物は、耐ストレスクラック性(ESCR)が実施例1より良好であり、キャップ生産時の指標である高速成形性−1、高速生産性−2、異方性の指標である成形収縮比、およびすべての物性において良好な結果を示した。
【0082】
[実施例3]
実施例1に記載の二段重合装置を用いて、実施例1と同様の二段重合を行い、得られたパウダー状態の樹脂に、実施例2に記載の添加剤としてステアリン酸カルシウムを800重量ppmと、環状脂肪族金属塩と脂肪酸塩の併用系を5重量%添加したマスターバッチを1重量%添加し、最終的な環状脂肪族金属塩の添加割合を500重量ppmを加えた以外は、実施例2と同様にして樹脂ペレットを得た。組成物の物性を表1に示す。ESCR、高速成形性−1、高速成形性−2、異方性、基本物性のいずれもが良好な結果であった。
【0083】
[実施例4]
実施例1に記載の二段重合装置を用いて重合し、一段目の重合槽は実施例1と同様の重合を行い、二段目の重合槽で水素の供給量を減少させることにより、得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の分子量を高く設定し、最終的に得られるポリエチレン樹脂成分のMFRDを4.5g/10minと低くなるように設定して、重合を行った。得られたパウダー状態の樹脂に、実施例2に記載の環状脂肪族金属塩と脂肪酸塩の併用系のマスターバッチを同量添加し、最終的な環状脂肪族金属塩も実施例2と同量の200重量ppmにして、樹脂ペレットを得た。組成物の物性を表1に示す。ESCR、高速成形性−1、高速成形性−2、異方性、基本物性のいずれもが良好な結果であった。
【0084】
[実施例5]
実施例4と同様の二段重合を行い、得られたパウダー状態の樹脂に、実施例3と同様、同量の環状脂肪族金属塩と脂肪酸塩の併用系のマスターバッチを添加し、最終的な環状脂肪族金属塩も実施例3と同量の500重量ppmにして、樹脂ペレットを得た。組成物の物性を表1に示す。ESCR、高速成形性−1、高速成形性−2、異方性、基本物性のいずれもが良好な結果であった。
【0085】
[実施例6]
重合槽へのエチレン供給量の割合を変えることにより、低分子量成分(A)の割合を55wt%とし、高分子量成分(B)の割合を45wt%と変えた以外は、実施例3と同様に重合を行い、表1のパウダー組成物(樹脂成分)を得た。このパウダー組成物に実施例3と同様のステアリン酸カルシウムを800重量ppmと、環状脂肪族金属塩と脂肪酸塩の併用系を5重量%添加したマスターバッチを1重量%添加し、最終的な環状脂肪族金属塩の添加割合を500重量ppmとして、樹脂ペレットを得た。組成物の物性を表1に示す。ESCR、高速成形性−1、高速成形性−2、異方性、基本物性のいずれもが良好な結果であった。
【0086】
[実施例7]
重合槽へのエチレン供給量の割合を変えることにより、低分子量成分(A)の割合を50wt%とし、高分子量成分(B)の割合を50wt%と変えた以外は、実施例6と同様にして、樹脂ペレットを得た。組成物の物性を表1に示す。ESCR、高速成形性−1、高速成形性−2、異方性、基本物性のいずれもが良好な結果であった。
【0087】
[実施例8]
一段目の重合槽への水素供給量を減少させ、重合槽内の水素濃度を下げることにより、低分子量成分(A)のMFRDを150g/minとした以外は、実施例6と同様に行った。組成物の物性を表1に示す。ESCR、高速成形性−1,高速成形性−2、異方性、基本物性のいずれもが良好な結果であった。
【0088】
[実施例9]
一段目の重合槽への水素供給量を増大させ、重合槽内の水素濃度を上げることにより、低分子量成分(A)のMFRDを480g/minとした以外は、実施例6と同様に行った。組成物の物性を表1に示す。ESCR、高速成形性−1,高速成形性−2、異方性、基本物性のいずれもが良好な結果であった。
【0089】
[実施例10]
一段目の重合槽は実施例2と同様の重合を行い、二段目の重合槽でコモノマーである1−ブテンの供給量を減少させることにより、最終的に得られるポリエチレン樹脂組成物の密度を0.966g/cmと高くなるように設定して、重合を行った。それ以外は実施例2と同様にして樹脂ペレットを得た。得られたポリエチレン樹脂組成物の物性を表1に示す。ESCR、高速成形性−1,高速成形性−2、異方性、基本物性のいずれもが良好な結果であった。
【0090】
[実施例11]
実施例1に記載の二段重合装置を用いて重合し、実施例2に記載の添加剤としてステアリン酸カルシウムを800重量ppmと、環状脂肪族金属塩と脂肪酸塩の併用系を5重量%添加したマスターバッチを1重量%添加し、最終的な環状脂肪族金属塩の添加割合を500重量ppmとし、押出し後、樹脂ペレットを得た。ただし、本実施例11においては、二段目の重合槽で水素の供給量を減らすことにより、得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の分子量を高く設定し、最終的に得られるポリエチレン樹脂組成物のMFRDを3.7g/10minと低くなるように設定して、重合を行った。得られたポリエチレン樹脂組成物の物性を表1に示す。剛性が高く、ESCRも高い値を示し、高速成形性−2の指標である126℃での1/2等温結晶化時間も良好であった。
【0091】
[実施例12]
実施例1に記載の二段重合装置を用いて重合し、実施例2に記載の添加剤としてステアリン酸カルシウムを800重量ppmと、環状脂肪族金属塩と脂肪酸塩の併用系を5重量%添加したマスターバッチを1重量%添加し、最終的な環状脂肪族金属塩の添加割合を500重量ppmとし、押出し後、樹脂ペレットを得た。ただし、本実施例12においては、二段目の重合槽で水素の供給量を増やすことにより、得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の分子量を低く設定し、最終的に得られるポリエチレン樹脂組成物のMFRDを10.8g/10minと高くなるように設定して、重合を行った。得られたポリエチレン樹脂組成物の物性を表1に示す。剛性、異方性、高速成形性−1、高速成形性−2は良好であると判断された。
【0092】
[実施例13]
一段目の重合槽に供給する水素量を減少させることにより、得られるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の分子量が高くなるよう設定し、MFRDを20g/10minとした。さらに、最終的なポリエチレン樹脂組成物のMFRDを調整するために、二段目の重合槽における水素供給量を多くして、得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の分子量を低下させた以外は、実施例6と同様に実施した。得られたポリエチレン樹脂組成物の物性を表1に示す。エチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の分子量を高めに設定し、共重合体からなる高分子量成分(B)の分子量を低めに設定したことから、分子量分布(Mw/Mn)が7.6と狭くなり、FRR(G/D)の値も40と小さくなった。剛性、高速成形性−1、高速成形性−2とも良好であると判断された。
【0093】
[実施例14]
一段目の重合槽に供給する水素量を増大させることにより、得られるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の分子量が低くなるよう設定し、MFRDを1200g/10minとした。さらに、最終的なポリエチレン樹脂組成物のMFRDを調整するために、二段目の重合槽における水素供給量を減らして、得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の分子量を高くした以外は、実施例6と同様に実施した。得られたポリエチレン樹脂組成物の物性を表1に示す。エチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の分子量を低めに設定し、共重合体からなる高分子量成分(B)の分子量を高めに設定したことから、分子量分布(Mw/Mn)が14.2と広くなり、FRR(G/D)の値も74と大きくなった。得られたポリエチレン樹脂組成物の物性を表1に示す。剛性、ESCR、高速成形性−1、高速成形性−2は良好であると判断された。
【0094】
[実施例15]
二段目の重合槽で、コモノマーである1−ブテンの供給量を増やすことにより、得られるポリエチレン樹脂組成物の密度が0.958g/cm3 となるように設定した以外は、実施例6と同様に実施した。これによって、二段目の重合槽で得られる共重合体の高分子量成分(B)の密度が計算上0.937g/cm3となった。得られたポリエチレン樹脂組成物の物性を表1に示す。ESCR、高速成形性−1、高速成形性−2とも良好であると判断された。
【0095】
[実施例16]
各重合槽へのエチレン供給量の割合を変えて、一段目の重合槽で得られるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の生産量の割合を25wt%に減らし、二段目の重合槽で得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の生産量の割合を75wt%に設定した。さらに、エチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の割合を減らしたことから、二段目の重合槽に供給する水素の量を多くし、共重合体からなる高分子量成分(B)の分子量を低くすることによって、得られるポリエチレン樹脂成分のMFRDをコントロールした。添加剤としてステアリン酸カルシウムを800重量ppmと、環状脂肪族金属塩と脂肪酸塩の併用系を5重量%添加したマスターバッチを1重量%添加し、最終的な環状脂肪族金属塩の添加割合を500重量ppm加えてペレットを得た。得られたポリエチレン樹脂組成物の物性を表1に示す。剛性、高速成形性−1,高速成形性−2とも良好であると判断された。
【0096】
[実施例17]
一段目の重合槽で得られるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の生産量の割合を75wt%に増やし、二段目の重合槽で得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の生産量の割合を25wt%に設定した。さらに、エチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の割合を増大させたことから、二段目の重合槽に供給する水素の量を減らし、共重合体からなる高分子量成分(B)の分子量を高くすることによって、得られるポリエチレン樹脂成分のMFRDをコントロールした以外は、実施例6と同様に実施した。得られたポリエチレン樹脂組成物の物性を表1に示す。剛性、高速成形性−1、高速成形性−2とも良好であると判断された。
【0097】
[実施例18]
MFRDが800g/10minとなる条件でエチレン単独重合体を重合した際に、そのMw/Mnが8.9となるチーグラー触媒を用いて、連続二段重合法にて実施した。さらに、実施例17と同様に一段目の重合槽で得られるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の生産量の割合を75wt%に設定し、二段目の重合槽で得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の生産量の割合を25wt%に設定した。得られたポリエチレン樹脂成分の物性を表1に示す。ESCRは維持され、高速成形性−1も良好であると判断された。
【0098】
[実施例19]
MFRDが100g/10minとなる条件でエチレン単独重合体を重合した際に、そのMw/Mnが5.1となるチーグラー触媒を用いて、連続二段重合法にて実施した。さらに、実施例3と同様に一段目の重合槽で得られるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の生産量の割合を60wt%に設定し、二段目の重合槽で得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の生産量の割合を40wt%に設定した。添加剤としてステアリン酸カルシウムを800重量ppmと、環状脂肪族金属塩と脂肪酸塩の併用系を5重量%添加したマスターバッチを1重量%添加し、最終的な環状脂肪族金属塩の添加割合を500重量ppm加えてペレットを得た。最終的に得られたポリエチレン樹脂組成物の物性を表1に示す。良好な高速成形性−1,高速成形性−2が認められた。
【0099】
【表1】

【0100】
[比較例1]
比較例1は、実施例1に記載の二段重合装置を用いて、実施例1、実施例2、実施例3と同様の重合を行い、環状脂肪族金属塩は無添加で押出し後、樹脂ペレットを得た。得られたポリエチレン樹脂組成物の物性を表2に示す。ESCR、高速成形性−1、異方性、基本物性は良好であったが、高速成形性−2の指標である126℃での1/2等温結晶化時間が遅く、高速成形性が困難と判断された。
【0101】
[比較例2]
比較例1と同様に、実施例4、実施例5と同様の重合を行い、環状脂肪族金属塩は無添加で押出し後、樹脂ペレットを得た。得られたポリエチレン樹脂組成物の物性を表2に示す。比較例1と同様の結果で、ESCR、高速成形性−1、異方性、基本物性は良好であったが、高速成形性−2の指標である126℃での1/2等温結晶化時間が遅く、高速成形性が困難と判断された。
【0102】
[比較例3〜比較例6]
実施例6〜実施例9と同様の重合を行い、環状脂肪族金属塩は無添加で押出し後、樹脂ペレットを得た。得られたポリエチレン樹脂組成物の物性を表2に示す。比較例1、比較例2と同様の結果で、ESCR、高速成形性−1、異方性、基本物性は良好であったが、高速成形性−2の指標である126℃での1/2等温結晶化時間が遅く、高速成形性が困難と判断された。
【0103】
[比較例7]
二段目の重合槽で、コモノマーである1−ブテンの供給量を減少させることにより、得られるポリエチレン樹脂組成物の密度が0.968g/cm3 となるように設定し、環状脂肪族金属塩を無添加とした以外は、実施例6と同様に実施した。これによって、二段目の重合槽で得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の密度が計算上0.959g/cm3 となった。環状脂肪族金属塩は無添加で押出し後、樹脂ペレットを得た。得られたポリエチレン樹脂組成物の物性を表2に示す。剛性、高速成形性−1は良好であると判断されたが、ESCRに強く影響を与える二段目の重合槽で得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の密度が高くなりすぎたことから、キャップ特性の中で最も重要なESCRが不足していた。ポリエチレン樹脂組成物の密度は高いが、環状脂肪族金属塩が無添加の為、1/2等温結晶化時間が遅く、高速成形性−2が劣っていた。
【0104】
[比較例8]
MFRDが800g/10minとなる条件でエチレン単独重合体を重合した際に、そのMw/Mnが12.2となるチーグラー触媒を用いて、連続二段重合法にて実施した。ただし、一段目の重合槽にもブテン−1を導入し、一段目の重合槽で得られるポリマーを密度が0.955g/cm3の共重合体とした。さらに、実施例17と同様に一段目の重合槽で得られるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の生産量の割合を75wt%に設定し、二段目の重合槽で得られる共重合体からなる高分子量成分(B)の生産量の割合を25wt%に設定した。得られたポリエチレン樹脂成分の物性を表2に示す。ESCRは極めて高いものの、異方性の指標である成形収縮比が高く、キャップに必要とされる剛性が不足しており、かつ、樹脂組成物のMFRDが低く、高速成形性−1,高速成形性−2も不足していた。
【0105】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明により提供されるボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物は、飲料ボトルの内圧に耐えうる耐環境応力亀裂性(耐ストレスクラック性)を低下させることなく、優れた剛性と優れた高速成形性を有し、かつ、ボトルキャップに用いた場合、異方性がなく、寸法安定性にも優れ、開栓トルク等の要求性能にも優れた飲料容器のボトルキャップ用途として最適に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物であって、ポリエチレン樹脂成分と環状脂肪族金属塩成分を含み、前記ポリエチレン樹脂成分が下記(a)、(b)、(c)および(d)のうち少なくとも1つを満たすボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物。
(a)前記ポリエチレン樹脂成分が、コードDのMFRが100〜500g/10minの範囲にあるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)およびエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)からなり、前記低分子量成分(A)の割合が70〜30wt%であり、前記高分子量成分(B)の割合が30〜70wt%
(b)コードDのMFR4.0〜10.0g/10min
(c)密度が0.960〜0.966g/cm3
(d)分子量分布(Mw/Mn)が8.0〜12.0ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物。
【請求項2】
ポリエチレン樹脂成分が(a)、(b)、(c)および(d)からなる要件を満たす請求項1に記載のボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエチレン樹脂成分が、さらに下記要件(e)および(f)からなる要件を満たす、請求項1または2に記載のボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物。
(e)コードGのMFR180〜500g/10min
(f)コードGのMFRとコードDのMFRとの比FRR(G/D)45〜70
【請求項4】
下記要件(g)、(h)および(i)からなる要件を満たす、請求項1〜3のいずれかに記載のボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物。
(g)耐環境応力亀裂性(ESCR)が10時間以上
(h)シリンダー温度200℃、金型温度50℃にて射出成形した、150mm角で、2mm厚のフィルムゲート平板で測定された樹脂の流動方向の成形収縮率(MD)と樹脂の流れに対し直角方向の成形収縮率(TD)との比(MD/TD)が1.0〜2.5
(i)示差走査熱量計(DSC)にて測定される126℃での1/2等温結晶化時間が10分以下
【請求項5】
環状脂肪族金属塩成分が、下記式で表される、請求項1〜4のいずれかに記載のボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物:
【化1】


ここで、MおよびMは、カルシウム、ストロンチウム、リチウム、亜鉛、マグネシウム、および一塩基性アルミニウムからなる群より互いに独立して選択され、またはMおよびMはまとめてひとつの二価の金属イオンであり、さらにR13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、およびR22は、水素および炭素数1〜9の炭化水素基からなる群より互いに独立して選択され、さらに互いに隣接して位置したいずれか2つのR15〜R22の炭化水素基は任意に結合して環を形成していてもよい。
【請求項6】
下記各ステップを含む、ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物の製造方法:
−(a)、(b)、(c)および(d)のうち少なくとも1つを満たすポリエチレン樹脂成分を調製するステップ:
(a)コードDのMFRが100〜500g/10minの範囲にあるエチレン単独重合体からなる低分子量成分(A)の割合が70〜30wt%と、エチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体からなる高分子量成分(B)の割合が30〜70wt%
(b)コードDのMFR4.0〜10.0g/10min
(c)密度が0.960〜0.966g/cm3
(d)分子量分布(Mw/Mn)が8.0〜12.0
−前記ポリエチレン樹脂成分に環状脂肪族金属塩成分を混合するステップ、および
−ポリエチレン樹脂成分と環状脂肪族金属塩成分を含む、前記ボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物を得るステップ。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のボトルキャップ用ポリエチレン樹脂組成物からなるボトルキャップ。


【公開番号】特開2011−111579(P2011−111579A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271346(P2009−271346)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】