説明

ボビン用樹脂成形材料

【課題】耐トラッキング性、耐燃性、及び、耐熱性に優れたボビン用樹脂成形材料を提供する。
【解決手段】本発明は、ビス(2−オキサゾリン)化合物由来の構造単位を含み、分子内にアミド結合を有する共重合体を含有し、共重合体が、(A)ビス(2−オキサゾリン)化合物と、(B)フェノール性水酸基を分子内に少なくとも2つ含む化合物との共重合体である、ボビン用樹脂成形材料、及び、これを成形してなるトランスボビンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボビン用樹脂成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスはあらゆる種類の電気製品に使用されているが、近年はパソコン、携帯電話の普及に伴い急激にその市場は拡大している。テレビを中心とした家電製品には比較的大型のトランスが使用されており、ボビン素材としてはフェノール樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)の成形材料が使用されている。また、通信機器を始めとしたチップ化したトランスを使用する製品群においては、ボビン素材としてフェノール樹脂、LCP(全芳香族ポリエステル樹脂、通称、液晶ポリマー)の成形材料等が使用されている。ここで、フェノール樹脂は耐熱性、低反り性が、PET、PBT、LCPはボビンのツバ強度が優れていることが特徴である。トランスボビン用フェノール樹脂成形材料としては、例えば、特許文献1に記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−217815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年の機器の小型化、集積化の傾向により、電気・電子部品自体も薄肉小型化している。そのため、絶縁距離が短くなり、成形品の高度な耐トラッキング性が求められている。
【0005】
また、薄肉の成形品となると、難燃性が低下する傾向がある。この点を改良するために、塩素、臭素といったハロゲンを含有する難燃剤やリン酸エステル等の難燃剤を添加することも考えられるが、これら難燃剤の多くは、大量に添加すると、耐熱性が低下する等の問題があり、電子部品用途への使用には限界がある。また、近年の環境問題等の取り組みから、ハロゲンフリーの電子材料が望まれている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐トラッキング性に優れ、かつ、環境負荷の面で問題となるハロゲンを含有する難燃剤を使用することなく耐燃性、及び、耐熱性を向上させたボビン用樹脂成形材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ビス(2−オキサゾリン)化合物由来の構造単位を含み、分子内にアミド結合を有する共重合体を含有し、
前記共重合体が、(A)ビス(2−オキサゾリン)化合物と、(B)ノボラック型フェノール性水酸基を分子内に少なくとも2つ含む化合物との共重合体である、ボビン用樹脂成形材料が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、上記のボビン用樹脂成形材料を成形してなるトランスボビンが提供される。
【0009】
本発明によれば、ビス(2−オキサゾリン)化合物由来の構造単位を含むとともに、分子内にアミド結合を有する共重合体を含有するため、これを用いた成型品の耐トラッキング性を向上させることができる。また、(A)ビス(2−オキサゾリン)化合物と、(B)フェノール性水酸基を分子内に少なくとも2つ含む化合物との共重合体とすることにより、耐燃性、及び、耐熱性を向上させることができる。したがって、耐トラッキング性に優れ、かつ、環境負荷の面で問題となるハロゲンを含有する難燃剤を使用することなく耐燃性、及び、耐熱性を向上させたボビン用樹脂成形材料が実現可能になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐トラッキング性に優れ、かつ、環境負荷の面で問題となるハロゲンを含有する難燃剤を使用することなく耐燃性、及び、耐熱性を向上させたボビン用樹脂成形材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、説明する。
本発明のボビン用樹脂成形材料は、ビス(2−オキサゾリン)化合物由来の構造単位を含み、分子内にアミド結合を有する共重合体を含有し、該共重合体が、(A)ビス(2−オキサゾリン)化合物と、(B)フェノール性水酸基を分子内に少なくとも2つ含む化合物との共重合体である。本発明において、該共重合体に含まれるアミド結合には、少なくとも、(A)ビス(2−オキサゾリン)化合物の2−オキサゾリン環が開環して形成されるアミド結合が含まれる。
【0012】
本発明において、(A)ビス(2−オキサゾリン)化合物としては、式(1)記載のものがある。
【0013】
【化1】

【0014】
〔式(1)中、Rは炭素間結合又は2価の炭化水素基を示し、R、R、R及びRはそれぞれ水素、アルキル基又はアリール基を示す。〕
【0015】
式(1)中Rが2価の炭化水素基のとき、アルキレン基、シクロアルキレン基又はアリーレン基とすることができる。
【0016】
式(1)で示すビス(2−オキサゾリン)化合物の具体例として、Rが炭素間結合のとき、例えば、2,2'−ビス(2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(5−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(5,5'−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4,4,4',4'−テトラメチル−2−オキサゾリン)等を挙げることができる。また、式(1)で示すビス(2−オキサゾリン)化合物において、Rが2価の炭化水素基であるときは、例えば、1,2−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)エタン、1,4−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ブタン、1,6−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ヘキサン、1,8−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)オクタン、1,4−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)シクロヘキサン、1,2−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,3−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,4−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,2−ビス(5−メチル−2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,3−ビス(5−メチル−2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,4−ビス(5−メチル−2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,4−ビス(4,4'−ジメチル−2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン等を挙げることができる。これらは、単独で、又は二種類以上を併用して用いることができる。
【0017】
本発明においては、中でも、1,3−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン由来の構造単位を含み、分子内にアミド結合を有する共重合体が特に好ましい。
【0018】
本発明においては、式(1)で示すビス(2−オキサゾリン)化合物と共に、モノ(2−オキサゾリン)化合物を併用することができる。かかるモノ(2−オキサゾリン)化合物の具体例としては、例えば、2−メチルオキサゾリン、2,4−ジメチルオキサゾリン、2−エチルオキサゾリン、2,5−ジメチルオキサゾリン、4,5−ジメチルオキサゾリン、2−フェニル−2−オキサゾリン、2−(m−トリル)オキサゾリン、2−(p−トリル)オキサゾリン、5−メチル−2−フェニルオキサゾリン等を挙げることができる。
【0019】
本発明において用いられる化合物(B)フェノール性水酸基を分子内に少なくとも2つ含む化合物としては、例えば、一般式(2)で表わされるフェノール性化合物が挙げられる。
HO−Ar−OH (2)
〔一般式(2)中、Arは、単一の芳香環若しくは縮合芳香環からなる2価の芳香属基、又は炭素間結合にて2以上の芳香属基、又は炭素間結合にて2以上の芳香環が結合してなる2価の芳香族基、又は2価の炭化水素基、カルボニル基、チオエーテル基、エーテル基及びアミド基から選ばれる2価基にて2以上の芳香環が結合されてなる2価の芳香族基を示し、芳香族基は、芳香環上に水酸基及びビス(2−オキサゾリン)化合物と反応しない置換基を有しても良い。〕
【0020】
本発明において、化合物(B)は、フェノール性水酸基が化合物(A)のオキサゾリン環に作用してオキサゾリン環を開環し、付加重合することにより、ビス(2−オキサゾリン)化合物由来の構造単位を含むとともに、分子内にアミド結合を有する共重合体を形成させることができる。
【0021】
一般式(2)で示す化合物としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、1,4−ナフタレンジオール、2,2'−ジヒドロキシビスフェノール、4,4'−メチレンビスフェノール、4,4'−(1−メチレンエチリデン)ビスフェノール、4,4'−(フェニルメチレン)ビスフェノール、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、4,4'−(シクロヘキサンジイル)ビスフェノール、4,4'−ヒドロキシベンゾフェノン、4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0022】
本発明において、化合物(B)には、分子内に2つ以上のフェノール性水酸基を有する重合体も含まれる。中でも、耐トラッキング性の向上に加え、強度も向上できるという観点から、フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0023】
一般的にフェノール樹脂は、レゾール型とノボラック型とに大別され、いずれも用いることができるが、コストの面を考慮すると、ノボラック型フェノール樹脂を用いるとより好ましい。
【0024】
具体的には、化合物(B)として、例えば、下記一般式(3)で表されるノボラック型フェノール樹脂を用いることができる。
【0025】
【化2】

【0026】
〔式(3)中、Rは、炭素数1〜6の炭化水素基、又は炭素数6〜12の芳香族炭化水素基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。aは0〜2の整数であり、nは0〜20の整数である。〕
【0027】
化合物(B)としては、中でも、式(3)中、aが0であり、nが0〜9のノボラック型フェノール樹脂が好ましい。
【0028】
ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを酸性触媒の存在下で反応させて得ることができる。
【0029】
本発明において、ノボラック型フェノール樹脂の合成に用いるフェノール類は、特に限定されないが、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシノールなどが挙げられる。これらを単独または2種類以上併用して用いることができる。
【0030】
本発明において、ノボラック型フェノール樹脂の合成に用いるアルデヒド類としても特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルキルアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等の芳香族アルデヒド等が挙げられる。ホルムアルデヒド源としては、ホルマリン(水溶液)、パラホルムアルデヒド、アルコール類とのヘミホルマール、トリオキサン等が挙げられる。これらを単独または2種類以上併用して用いることができる。
【0031】
本発明において、ノボラック型フェノール樹脂の合成時のフェノール類(P)とアルデヒド類(F1)との反応モル比率(F1/P)は、特に限定されないが、通常、0.3〜1.0として反応させ、特に0.6〜0.9とすることが好ましい。
【0032】
本発明において、ノボラック型フェノール樹脂の合成に用いる酸性触媒としては特に限定されないが、例えば、蓚酸、酢酸等の有機カルボン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機スルホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1'−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸等の有機ホスホン酸、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸等を用いることができる。なお、これらの酸性触媒は単独、または2種類以上併用して使用することもできる。酸性触媒の添加量は特に限定されないが、フェノール類100重量部に対して0.01〜5重量部が好ましく、特に0.1〜3重量部が好ましい。
【0033】
また、化合物(B)として用いられるフェノール樹脂は、変性のフェノール樹脂であっても良いし、未変性のフェノール樹脂であっても良い。耐熱性を向上させるという点からは、未変性のフェノール樹脂が好ましい。また、化合物(A)と良好に配合でき、靭性を向上させるという点からは、変性のフェノール樹脂が好ましい。変性のフェノール樹脂としては、カシューナットオイル(カルドール、カルダノール、アナカルド酸等)、亜麻仁油、エノ油、桐油、ゴマ油、ナタネ油、綿実油、大豆油、ツバキ油、オリーブ油、ヒマシ油、トールオイル(オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、エレオステアリン酸等)等の植物油脂、ロジン(アビエチン酸、ピマール酸等) を含む各種テルペン類、各種変性シリコーンオイル等で変性したオイル変性のノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。
【0034】
また、本発明において、化合物(A)と、化合物(B)以外の化合物(化合物(C))との共重合体以外の樹脂を含んでいても良い。本発明において用いられる化合物(C)としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンニ酸、エイコサンニ酸などの脂肪族飽和ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの脂肪族不飽和ジカルボン酸;ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体等の分子内に2つ以上の末端カルボキシル基を有する重合体;o−、m−又はp−フェニレンジアミン、2,3−又は2,4−又は2,5−トルイレンジアミン、4,4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ジアミノビフェニル、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノトリフェニルメタン、3,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、2,2',5,5'−テトラクロロ−4,4'−ジアミノビフェニル、4,4'−メチレンビスアニリン、4,4'−メチレンビス(2−クロロアニリン)、2,2'−ビス〔4−(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'−ビス(アミノフェニル)アミン等のジアミン化合物;o−アミノフェノール、p−アミノフェノール等のアミノ基とフェノール性水酸基とを含む化合物;サリチル酸等のカルボキシル基とフェノール性水酸基を含む化合物;ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル等のビスフェノール型エポキシ化合物、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、p−オキシ安息香酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル等のジグリシジルエステル型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物等の分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物等を挙げることができる。これらは、単独で、又は二種類以上を併用して用いることができる。
【0035】
また、本発明においては、分子内に単一のフェノール性水酸基を有するモノフェノール化合物;分子内に単一のカルボキシル基を有するモノカルボキシル化合物;アニリン、メチルアニリン、エチルアニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン、α−ナフチルアミン、β−ナフチルアミン、ベンジルアミン等の芳香族モノアミン等分子内に単一のアミノ基を有するモノアミノ化合物;フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等分子内に単一のエポキシ基を有するモノエポキシ化合物を併用してもよい。これらは、単独で、又は二種類以上を併用して用いることができる。
【0036】
本発明において、化合物(A)は、樹脂成形材料全体に対して、5〜70重量%用いることが好ましい。また、化合物(B)は、化合物(A)の重量に対しては、10〜90重量%の割合で共重合させたものであることが好ましく、特に、10〜70重量%の範囲が好ましい。
【0037】
かかる共重合反応は、触媒下に行うことが好ましく、酸触媒を用いるとより好ましい。酸触媒としては、例えば、リン酸、硫酸、硝酸等のオキソ酸;塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫化水素等の水素酸等の鉱酸;メタンスルホン酸等のアルカンスルホン酸;ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のアレーンスルホン酸;リン酸エステル、亜リン酸エステル、ホスホン酸、亜ホスホン酸、ホスフィン酸、亜ホスフィン酸、酸性リン酸エステル等の有機リン化合物;スルホン酸エステル;ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等の硫酸エステル;塩化アルミニウム、塩化第二スズ等のルイス酸;ヨウ化メチル、塩化ブチル、臭化ブチル、臭化ベンジル等の有機ハロゲン化物等が挙げられるが、これらのうち、触媒能及び溶解性に優れるという点から、有機リン化合物又はスルホン酸エステルがより好ましい。これらは、単独で、又は二種類以上を併用して用いることができる。
【0038】
有機リン化合物としては、従来公知のものでよく、特に制限はないが、例えば、リン酸メチル、リン酸ジメチル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステル;亜リン酸、亜リン酸メチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸エステル;フェニルホスホン酸、メチルホスホン酸等のホスホン酸;メチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸等の亜ホスホン酸;ジメチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸等のホスフィン酸;ジメチル亜ホスフィン酸、ジフェニル亜ホスフィン酸、フェニルメチル亜ホスフィン酸等の亜ホスフィン酸;ラウリルアシッドホスフェイト、トリデシルアシッドホスフェイト、ステアリルアシッドホスフェイト等の酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルの塩類等が挙げられる。中でも亜リン酸エステルが好ましい。
【0039】
スルホン酸エステルとしては、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸n−ブチル等のアルカンスルホン酸アルキルエステル;ベンゼンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸エチル、p−トルエンスルホン酸n−ブチル、ドデシルベンゼンスルホン酸メチル、ナフタレン−α−スルホン酸メチル等のアレーンスルホン酸アルキルエステルが好ましい。
【0040】
本発明において、上記の触媒は、樹脂成形材料全体に対して、0.1〜20重量%の範囲で用いることができ、より好ましくは、0.5〜10重量%の範囲で用いられる。
【0041】
このようにして得られる化合物(A)と化合物(B)との共重合体は、本発明の樹脂成形材料全体中、10〜80重量%含むことが好ましく、20〜70重量%含むことがより好ましい。
【0042】
本発明の樹脂成形材料には、無機基材を配合することができる。これにより、耐熱性、寸法精度を向上させることができる。無機基材としては特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛等が挙げられるが、強度を向上させるという点では、ガラス繊維が好ましい。また、良好な難燃性が得られるという観点からは、クレー、水酸化アルミニウム、ホウ酸亜鉛が好ましい。これらを単独又は二種類以上を併用して用いることができる。上記無機基材の配合量としては特に限定されないが、樹脂成形材料全体に対して、10〜90重量%とすることが好ましく、30〜70重量%とすることがより好ましい。
【0043】
本発明の樹脂成形材料には、有機基材を配合することができる。これにより、溶融時の粘度を調整し成形性を向上させることができる。有機基材としては、特に限定されないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂硬化物の粉砕物、紙繊維基材にフェノール樹脂やメラミン樹脂などを含浸させた積層板や化粧板の粉砕物、あるいは、木紛、パルプ、布粉砕粉、紙粉砕粉など、セルロースやコットン等の植物繊維またはその粉砕物、椰子ガラ粉、モミガラ粉などの植物果殻粉砕物等が挙げられる。上記有機基材の配合量としては特に限定されないが、樹脂成形材料全体に対して、0.1〜10重量%であることが好ましい。さらに好ましくは1〜5重量%である。これにより、熱溶融時に適度な流動性を得ることができる。
【0044】
また、本発明の樹脂成形材料には、硬化物の表面抵抗率を下げるため、カーボンブラック等の顔料を含むことができる。その配合量は、特に限定されないが、樹脂成形材料全体に対して、0.1〜1重量%であることが好ましい。
【0045】
その他、本発明の樹脂成形材料においては、通常の熱硬化性の成形材料に用いられる安定剤、内部離型剤、難燃剤等の任意の添加剤を用いることができる。
【0046】
本発明の樹脂成形材料を製造する方法は、化合物(A)と、化合物(B)とを配合し、さらに必要に応じて他の無機基材、有機基材、触媒、顔料、離型剤を加えて混合した後、加熱ロールなどの装置により溶融混練し、冷却後粉砕または造粒して製造する。混練時の加熱温度は、触媒の使用の有無、用いる触媒の種類やその使用量のほか、材料の選択及びその使用量にもよるが、50℃以上、好ましくは70〜200℃とする。混練時間も、反応温度や、触媒の使用の有無、用いる触媒の種類やその使用量のほか、材料の選択及びその使用量にもよるが、通常、1分〜2時間である。
【0047】
次に、本発明のトランスボビンについて説明する。
本発明のトランスボビンは、上記の本発明の樹脂成形材料を成形してなるものである。ここで成形方法としては特に限定されないが、射出成形、トランスファー成形、圧縮成形等の方法を用いることができる。例えば、破砕顆粒又は造粒された樹脂成形材料をトランスファー成形又は射出成型で成形する際は、金型温度150〜200℃で成形することで、本発明のトランスボビンを得ることができる。
【0048】
本発明の樹脂成形材料は、厚み25μmのアルミカップに入れ、175℃雰囲気下で成型したものは、耐トラッキング性が400V以上であり、より好ましくは、600V以上とすることができる。
また、上記のように成形された成形体のガラス転移温度は、150℃以上とすることができ、好ましくは、150〜300℃とすることができ、より好ましくは、180〜250℃とすることができる。
また、上記成形体の貯蔵弾性率は、5×10Pa以上とすることができ、好ましくは、6×10〜1×1010Pa、より好ましくは7×10〜9×10Paとすることができる。
また、上記成形体の曲げ弾性率は、2×10Pa以上とすることができ、好ましくは、5×10〜1×1010Pa、より好ましくは7×10〜9×10Paとすることができる。
また、上記成形体の曲げ強さは、5×10Pa以上とすることができ、好ましくは、7×10〜1×10Paとすることができる。
また、上記成形体の曲げたわみ量は、1mm以上とすることができ、好ましくは、2〜5mmとすることができる。
また、上記成形体のシャルピー衝撃強度は、2kJ/m以上とすることができ、好ましくは、2〜5kJ/m、より好ましくは、2.5〜3.0kJ/mとすることができる。
なお、本発明において、耐トラッキング性は、IEC法60112第4版JIS C2134に基づき測定したものである。ガラス転移温度及び貯蔵弾性率は、上記アルミカップで成形したものを厚さ1mm程度に切り出し、DMA法(引っ張り、正弦波モード、JIS K7244−4)により測定したものである。貯蔵弾性率は、25℃、10Hzにおける貯蔵弾性率である。曲げ強さ、曲げ弾性率、たわみ量、シャルピー衝撃試験は、JIS K 6911に基づき25℃で測定したものである。
【0049】
このように本発明によれば、ビス(2−オキサゾリン)化合物由来の構成単位を含み、分子内にアミド結合を有する共重合体を含むため、耐トラッキング性、耐熱性、耐燃性が良好で、かつ、強度とのバランスに優れたトランスボビン用の樹脂成形材料とすることができる。また、本発明の樹脂成形材料は、ハロゲン系難燃剤を使用せずに高い難燃性を有するため、環境負荷や人体への健康被害の懸念もない。
【0050】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0051】
実施例1、2
1,3−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン(1,3−PBO)と、ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト社製スミライトレジン、PR−51714)とを表1に示すように配合した後、組成物全体を100重量部としたときパラトルエンスルホン酸メチルの配合割合が2重量部となるように加え、ロールにて150℃で加熱混練し、樹脂成形材料を得た。その後、厚み25μmのアルミカップに加えて175℃雰囲気下で1時間加熱し、成形した。
【0052】
実施例3
ノボラック型フェノール樹脂に代えてカシュー変性ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト社製、PR−12686)を表1で示すように配合した以外は、実施例1、2と同様に成形した。
【0053】
実施例4
ノボラック型フェノール樹脂に代えてトールオイル変性ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト社製、PR−13349)を表1で示すように配合した以外、実施例1、2と同様に成形した。
【0054】
比較例1
1,3−PBOと、アジピン酸とを表1に示すように配合した後、組成物全体を100重量部としたとき亜リン酸トリフェニルの配合割合が2重量部となるように加え、ロールにて100℃で加熱混練し、樹脂成形材料を得た。その後、厚み25μmのアルミカップに加えて175℃雰囲気下で1時間加熱し、成形した。
【0055】
比較例2
アジピン酸に代えてジフェニルジアミノメタンを表1で示すように配合した以外は、比較例1と同様に成形した。
【0056】
比較例3
アジピン酸に代えてCTBN(カルボキシル基末端ポリブタジエン−アクリロニトリル、宇部興産社製、CTBN1008SP)を表1で示すように配合した後、組成物全体を100重量部としたとき亜リン酸トリフェニルの配合割合が5重量部となるように加えた以外は、比較例1と同様に成形した。
【0057】
[評価1]
実施例1〜4、比較例1〜3で得られた成形体について、耐トラッキング性、ガラス転移温度、弾性率を下記の方法により測定した。結果を表1に示す。
1.耐トラッキング性
IEC法60112第4版JIS C2134に基づき測定した。
2.ガラス転移温度
厚さ1mm程度に切り出し、DMA法(引っ張り、正弦波モード、JIS K7244−4)により測定した。なお、表1中、RTは、室温(25℃)である。
3.貯蔵弾性率
厚さ1mm程度に切り出し、DMA法(JIS K 6911)により25℃、10Hzで測定した。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例5、6、比較例4〜6
表2に示した配合からなる材料をロールにて150℃で加熱混練し、樹脂成形材料を得た。試験片をトランスファー成形(金型温度:175℃、反応時間:1時間)により作成した。
【0060】
[評価2]
実施例5、6、比較例4〜6で得られた熱硬化性樹脂組成物について、下記の方法により評価した。
1.曲げ強さ、曲げ弾性率、たわみ量及びシャルピー衝撃試験
JIS K6911に基づき25℃で測定した。
2.耐トラッキング性
IEC法60112第4版JIS C2134に基づき測定した。
3.耐熱性
ガラス転移温度により評価した。具体的には、厚さ1mm程度に切り出し、DMA法(引っ張り、正弦波モード、JIS K7244−4)により測定した。
4.耐燃性
UL94(アンダーライターズラボラトリー・サブジェクト94)のV−0、V−1、V−2規格に従って垂直燃焼試験を行った。具体的には、各実施例及び各比較例の試験片(厚さ0.8mm)を各5個ずつ用意し、略垂直状に指示した短冊状試験片に対して下側からバーナー炎をあてて10秒間保ち、その後、バーナー炎を短冊状試験片から離す。炎が消えれば直ちにバーナー炎をさらに10秒間あてた後、バーナー炎を離す。このとき、1回目と2回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間、2回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間及び無炎燃焼持続時間の合計、5本全ての試験片の有炎燃焼時間の合計、燃焼滴下物の有無で判定する。そして、V−0規格は、1回目、2回目ともに10秒以内に終えたときである。また、2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼持続時間との合計がV−0規格は30秒以内、V−1及びV−2規格は60秒以内である。さらに、5本の試験片の有炎燃焼時間の合計がV−0規格は50秒以内、V−1及びV−2規格は250秒以内である。さらにまた、燃焼落下物は、V−2規格のみに許容される。すなわち、UL燃焼試験法(UL94)においては、V−0、V−1、V−2規格の順で難燃性が高くなる。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表1、2で示すように、本発明の樹脂成形材料は、耐トラッキング性、耐熱性、耐燃性が良好で、かつ強度に優れるため、耐電圧に優れ、高い強度を有するトランス用ボビンを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス(2−オキサゾリン)化合物由来の構造単位を含み、分子内にアミド結合を有する共重合体を含有し、
前記共重合体が、(A)ビス(2−オキサゾリン)化合物と、(B)フェノール性水酸基を分子内に少なくとも2つ含む化合物との共重合体である、ボビン用樹脂成形材料。
【請求項2】
前記ビス(2−オキサゾリン)化合物が、1,3−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼンである、請求項1に記載のボビン用樹脂成形材料。
【請求項3】
前記化合物(B)が、ノボラック型フェノール樹脂を含む、請求項1又は2に記載のボビン用樹脂成形材料。
【請求項4】
前記化合物(B)が、下記一般式(3)で表されるノボラック型フェノール樹脂を含む、請求項3に記載のボビン用樹脂成形材料。
【化1】

〔式(3)中、Rは、炭素数1〜6の炭化水素基、又は炭素数6〜12の芳香族炭化水素基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。aは0〜2の整数であり、nは0〜20の整数である。〕
【請求項5】
前記化合物(B)が、オイル変性フェノール樹脂を含む、請求項1乃至4いずれか1項に記載のボビン用樹脂成形材料。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか1項に記載のボビン用樹脂成形材料を成形してなる、トランスボビン。

【公開番号】特開2012−207092(P2012−207092A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72766(P2011−72766)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】