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ボラジン化合物における金属元素の定量方法
説明

ボラジン化合物における金属元素の定量方法

【課題】ボラジン化合物中に不純物として含まれる金属元素を高精度で定量する方法を提供する。
【解決手段】ボラジン化合物に不純物として含まれる金属元素の定量方法であって、ボラジン化合物を有機化合物で処理して分解させる段階と、分解物を測定用溶媒に溶解させて試料溶液を調製する段階と、前記試料溶液中の金属元素濃度を測定する段階と、を含み、前記有機化合物は、非沸騰蒸留によって精製された化合物である、定量方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボラジン化合物における金属元素の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報機器の高性能化に伴い、LSIのデザインルールは、年々微細になっている。微細なデザインルールのLSI製造においては、LSIを構成する材料も高性能で、微細なLSI上でも機能を果たすものでなければならない。
【0003】
例えば、LSI中の層間絶縁膜に用いられる材料に関していえば、高い誘電率は信号遅延の原因となる。微細なLSIにおいては、この信号遅延の影響が特に大きい。このため、層間絶縁膜として用いられうる、新たな低誘電率材料の開発が所望されていた。また、層間絶縁膜として使用されるためには、誘電率が低いだけでなく、耐湿性、耐熱性、機械的強度などの特性にも優れている必要がある。
【0004】
かような要望に応えるものとして、分子内にボラジン環骨格を有するボラジン化合物が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。ボラジン化合物は分子分極率が小さいため、形成される被膜は低誘電率を示す。その上、形成される被膜は、耐熱性にも優れる。
【0005】
ここで、情報機器の高性能化などを考慮すると、ボラジン化合物を用いて形成された薄膜の性能や信頼性などについて、より一層の改善が望まれているのが現状である。金属元素不純物は、低誘電材料の膜のリーク電流の原因となり半導体素子の特性を低下させうる。そのため、ボラジン化合物を含む低誘電材料用組成物における金属元素の含有量の低減が求められており、これに伴って、微量金属元素を定量する方法が必要とされている。
【0006】
微量金属元素を定量するための分析方法としては、高周波誘導結合プラズマ発光分析法(ICP法)、高周波誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS法)、原子吸光分析法などが知られており、このうち高周波誘導結合プラズマ質量分析法によればサブpptレベルの高感度検出が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−340689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の高周波誘導結合プラズマ発光分析法や高周波誘導結合プラズマ質量分析法は、水溶液中の成分の分析では高感度であり、その特性が十分に活かされる。しかしながら、有機溶媒の溶液中の成分の分析においては、同じ濃度の水溶液の試料に比べて検出感度が低下することが知られている。さらに、有機溶媒がプラズマの安定性に影響を与えたり、炭素質が装置に付着する場合がある。加えて、市販の有機溶媒には数質量ppb〜数十質量ppb程度の金属元素が含まれうるが、極微量の金属元素を定量する場合、溶媒中に含まれている金属元素がバックグラウンドに影響するため定量限界を十分に低くすることが困難である。
【0009】
ところで、ボラジン化合物は大気中で不安定であり、水に対する溶解度が充分ではない。さらに、水分に弱く、ボラジン化合物(例えば、N,N’,N”−トリメチルボラジン)は、水分と接触するとN−B結合が加水分解され、分解物(例えば、メチルアミンおよびホウ酸)が生成する場合がある。または、水分と接触することで水との反応が起こり、ボロンエーテル化合物が生成する場合がある。そのため、ボラジン化合物を含む低誘電材料用組成物中の金属元素濃度を水溶液中で安定に測定することは困難である。
【0010】
したがって、ボラジン化合物中に不純物として含まれる金属元素を高感度で検出し、ppbレベルの極微量での定量を可能にする方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、ボラジン化合物をあらかじめ非沸騰蒸留によって精製した有機化合物で完全に分解した後、分解物を水溶液に調製して測定することによって金属元素濃度を安定に測定できることを見出した。さらに、有機化合物中に含まれる金属元素に由来するバックグラウンドが低減され、精度の高い定量が可能になることを見出した。
【0012】
すなわち本発明は、ボラジン化合物に不純物として含まれる金属元素の定量方法であって、ボラジン化合物を有機化合物で処理して分解させる段階と、分解物を測定用溶媒に溶解させて試料溶液を調製する段階と、前記試料溶液中の金属元素濃度を測定する段階と、を含み、前記有機化合物は、非沸騰蒸留によって精製された化合物である、定量方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ボラジン化合物に不純物として含まれるppbレベルの金属元素濃度を高い精度で定量することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための実施形態を説明する。
【0015】
本発明は、ボラジン化合物に不純物として含まれる金属元素の定量方法であって、ボラジン化合物を有機化合物で処理して分解させる段階と、分解物を測定用溶媒に溶解させて試料溶液を調製する段階と、前記試料溶液中の金属元素濃度を測定する段階と、を含み、前記有機化合物は、非沸騰蒸留によって精製された化合物である、定量方法である。
【0016】
まず、「ボラジン化合物」について、説明する。
【0017】
「ボラジン化合物」とは、ボラジン環骨格を有する化合物を意味し、例えば下記化学式1で表される。
【0018】
【化1】

【0019】
式中、各Rおよび各Rは、それぞれ同一であってもよいし異なってもよく、水素原子または有機基である。有機基としては、例えば、炭素数1〜20個(好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1個)の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数3〜20個(好ましくは3〜8個、より好ましくは4〜7個、さらに好ましくは5〜6個)のシクロアルキル基、炭素数6〜20個(好ましくは6〜8個、より好ましくは6〜7個、さらに好ましくは6個)のアリール基、炭素数7〜20個(好ましくは7〜8個、より好ましくは7個)のアラルキル基、炭素数1〜20個(好ましくは2〜8個、より好ましくは2〜4個、さらに好ましくは2個)のアシル基、炭素数2〜20個(好ましくは2〜8個、より好ましくは2〜4個、さらに好ましくは2個)のアルケニル基、炭素数2〜20個(好ましくは2〜8個、より好ましくは2〜4個、さらに好ましくは2個)のアルキニル基などが挙げられる。なお、これらの有機基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基(−NO)、アミノ基(−NH)、アルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基などで置換されていてもよい。
【0020】
やRを構成するアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、イコシル基などが挙げられる。また、シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、フェネチル基、o−,m−もしくはp−トリル基、2,3−もしくは2,4−キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、ピレニル基などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基などが挙げられる。アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ベンゾイル基などが挙げられる。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基などが挙げられる。アルキニル基としては、アセチレニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基などが挙げられる。これらのうち、RおよびRはそれぞれ、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基であることが好ましく、アルキル基またはシクロアルキル基であることが特に好ましい。なお、これら以外の基がRやRとして用いられてもよい。ここで、Rがすべて水素原子である場合のボラジン化合物の例としては、ボラジン、N,N’,N”−トリメチルボラジン、N,N’,N”−トリエチルボラジン、N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(sec−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(ネオペンチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−エチルボラジン、N,N’−ジエチル−N”−メチルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−プロピルボラジンなどが挙げられる。また、Rがアルキル基である場合のボラジン化合物の例としては、B,B’,B”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリエチルボラジン、B,B’,B”−トリ(n−プロピル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(イソプロピル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(n−ブチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(イソブチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(ネオペンチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、B,B’,B”−トリシクロヘキシルボラジン、B,B’−ジメチル−B”−エチルボラジン、B,B’−ジエチル−B”−メチルボラジン、B,B’−ジメチル−B”−プロピルボラジンなどが挙げられる。さらに、RまたはRの少なくとも1つがアラルキル基である場合のボラジン化合物の例としては、N,N’,N”−トリベンジルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−ベンジルボラジン、B,B’,B”−トリトリベンジルボラジン、B,B’−ジメチル−B”−ベンジルボラジン、N,N’,N”−トリベンジル−B,B’,B”−トリベンジルボラジンなどが挙げられる。また、RまたはRの少なくとも1つがアリール基である場合のボラジン化合物の例としては、N,N’,N”−トリフェニルボラジン、N,N’,N”−トリトリルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−フェニルボラジン、B,B’,B”−トリフェニルボラジン、B,B’,B”−トリトリルボラジン、B,B’−ジメチル−B”−フェニルボラジン、N,N’,N”−トリフェニル−B,B’,B”−トリフェニルボラジンなどが挙げられる。なお、ボラジン化合物の耐水性等の化学的安定性を考慮すると、ボラジン化合物は、3つのRのうち、少なくとも1つが有機基である(水素原子でない)ボラジン(N−置換ボラジン)であることが好ましく、3つのRのすべてが有機基である(水素原子でない)ボラジン(すなわち、ボラジン環骨格の3つの窒素原子のすべてに有機基が結合したボラジン)であることがより好ましい。
【0021】
また、N−置換ボラジンのなかでも、液状化合物であることから取扱い性にも優れ、かつ耐水性にも優れるという観点から、ボラジン化合物は、Rの少なくとも1つがアルキル基である、N−アルキルボラジンであることがさらに好ましく、3つのRのすべてがアルキル基であるN,N’,N”−トリアルキルボラジン(「N−トリアルキルボラジン」とも称する)であることが特に好ましい。
【0022】
また、ボラジン化合物は、ボラジン環骨格の窒素原子およびホウ素原子の双方がアルキル基で置換された(すなわち、RおよびRの双方がアルキル基である)、B,B’,B”−トリメチル−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリメチル−N,N’,N”−トリエチルボラジン、B,B’,B”−トリエチル−N,N’,N”−トリメチルボラジンなどのヘキサアルキルボラジン化合物であってもよい。
【0023】
なお、ボラジン化合物の合成方法により本発明の技術的範囲が限定されることはなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。ここで、上記の化学式1で表されるボラジン化合物のうち、N−トリアルキルボラジンの好ましい合成方法の一例を挙げると、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHX(Rは上記と同様の定義であり、Xがハロゲン原子でありnが1であるか、または、Xが硫酸基でありnが2である)で表されるアミン塩とを、溶媒中で反応させる手法が例示される。
【0024】
水素化ホウ素アルカリ(ABH)において、Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である。水素化ホウ素アルカリの例としては、水素化ホウ素ナトリウムおよび水素化ホウ素リチウムが挙げられる。
【0025】
アミン塩((RNHX)において、Rは上記と同様の定義であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子である。そして、Xが硫酸基である場合にはnは2であり、Xがハロゲン原子である場合にはnは1である。nが2である場合、Rは、同一であっても異なっていてもよいことは上述した通りである。合成反応の収率や取り扱いの容易性を考慮すると、Rは好ましくは同一のアルキル基である。なお、アルキル基およびシクロアルキル基の具体的な形態については、上述した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0026】
アミン塩の例としては、塩化アンモニウム(NHCl)、モノメチルアミン塩酸塩(CHNHCl)、モノエチルアミン塩酸塩(CHCHNHCl)、モノメチルアミン臭化水素酸塩(CHNHBr)、モノエチルアミンフッ化水素酸塩(CHCHNHF)、硫酸アンモニウム((NHSO)、モノメチルアミン硫酸塩((CHNHSO)が挙げられる。
【0027】
使用する水素化ホウ素アルカリおよびアミン塩は、合成するボラジン化合物の構造に応じて選択すればよい。例えば、ボラジン環を構成する窒素原子にメチル基が結合しているN−メチルボラジンを製造する場合には、アミン塩として、モノメチルアミン塩酸塩などの、Rがメチル基であるアミン塩を用いればよい。
【0028】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩との混合比は、特に限定されないが、アミン塩の使用量を1モルとした場合に、水素化ホウ素アルカリの使用量を1〜1.5モルとすることが好ましい。
【0029】
合成用の溶媒としては、特に制限されないが、例えば、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等が挙げられる。
【0030】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩との反応条件は、特に限定されない。反応温度は、好ましくは20〜250℃、より好ましくは50〜240℃、さらに好ましくは100〜220℃である。上記範囲で反応させると、水素発生量の制御が容易である。反応温度は、K熱電対などの温度センサーを用いて測定されうる。
【0031】
一方、ヘキサアルキルボラジンは、出発物質としてB,B’,B”−トリクロロ−N,N’,N”−トリアルキルボラジンなどのハロゲン化ボラジン化合物を原料として、グリニャール試薬を用いて当該化合物の塩素原子をアルキル基で置換することによって合成されうる(D.T.HOWORTH and L.F.HOHNSTEDT,J.Am.Chem.Soc.,82,3860(1960)を参照)。
【0032】
合成装置の大きさや種類は、環境や規模に応じて決定されればよい。例えば、大量のボラジン化合物を合成するのであれば、工業的規模の合成装置が用いられうる。
【0033】
さらに、好ましくは、得られたボラジン化合物を精製して純度を向上させる。精製する方法は特に制限されず、洗浄、濾過、吸着、蒸留、昇華などの方法が用いられうる。これらの方法は、単独で用いられてもよく、複数の方法を組み合わせてもよい。特に蒸留精製が好ましく用いられうる。なお、洗浄、濾過、吸着、蒸留、昇華の条件については特に限定されず、目的とするボラジン化合物に応じて適宜選択すればよい。
【0034】
蒸留精製装置の大きさや種類は、環境や規模に応じて決定されればよい。例えば、大量のボラジン化合物を処理するのであれば、工業的規模の蒸留塔が用いられうる。
【0035】
蒸留精製の際の温度は特に制限されず、合成されたボラジン化合物の種類に応じて適宜設定されうる。一例を挙げると、通常は100〜150℃程度である。
【0036】
本発明で用いられるボラジン化合物は、好ましくは、純度が99.70質量%以上であり、より好ましくは99.90質量%以上であり、特に好ましくは99.92質量%以上である。ボラジン化合物の純度が上記範囲であれば、本発明の効果がより顕著に得られうる。ここで、ボラジン化合物の純度の値は、ガスクロマトグラフィーによって測定した値を採用するものとする。また、前記ボラジン化合物は、好ましくは、不純物として含まれる金属元素含有量が100質量ppb以下であり、より好ましくは50質量ppb以下であり、さらに好ましくは20質量ppb以下である。複数の金属元素が含有される場合には、それぞれの含有量が上述の範囲であることが好ましい。金属元素含有量が上述の範囲であれば、本発明の効果がより顕著に得られうる。
【0037】
上述したように、本発明の定量方法は、ボラジン化合物を有機化合物で処理して分解させる段階と、分解物を測定用溶媒に溶解させて試料溶液を調製する段階と、前記試料溶液中の金属元素濃度を測定する段階とを含む。この際、前記有機化合物として非沸騰蒸留によって精製された有機化合物を用いる。これら以外の形態については、特に制限されない。以下、本発明の金属元素の定量方法を詳細に説明する。
【0038】
[ボラジン化合物を有機化合物で処理して分解させる段階]
本段階では、ボラジン化合物を有機化合物で処理し、ボラジン化合物を水溶性の分解物に分解させる。
【0039】
ボラジン化合物は、大気中で不安定な化合物である。そのため、測定用試料を調製する際には、反応性の低い化合物に変換する必要がある。そこで、測定に先立ち有機化合物を用いて処理する。これによってボラジン化合物が反応性の低い分解物に分解し、ボラジン化合物中の金属元素が有機化合物の溶液中に均一に分散するようになる。
【0040】
前記有機化合物としては、ボラジン化合物を速やかに分解しうるもの、あるいはボラジン化合物の水による分解を制御しうるもので、均一な水溶液を与えるものであれば特に制限されない。このような有機化合物の例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級脂肪族アルコールやアセトンなどのカルボニル化合物が挙げられる。上記の有機化合物を用いてボラジン化合物を処理すると、ボラジン化合物が分解されて、アミン、ホウ酸(あるいはそのエステル)が生成し、均一な水溶液を得ることができる。中でも、低級脂肪族アルコールは、ボラジン化合物を効率的にほぼ完全に分解できるため好ましい。前記有機化合物は、好ましくは、金属元素濃度が1000質量ppb以下、より好ましくは100質量ppb以下に低減されたものを準備する。金属元素濃度が低減された有機化合物を用いることで、後述の非沸騰蒸留の効果がより顕著に得られうる。例えば電子工業グレードの溶媒など、金属元素含量の少ない商品が市販されている場合には当該商品を購入して用いてもよいし、一般に市販されている比較的金属元素含量の多い商品を購入した後に、自ら当該商品中の金属含量を低減させて用いてもよい。有機化合物中の金属元素含量を低減させる方法としては特に制限されないが、例えば濾過、吸着、蒸留などの方法が用いられうる。なお、上述した有機化合物は、1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が混合されて用いられてもよい。
【0041】
本発明の定量方法においては、前記有機化合物として、非沸騰蒸留によって精製することで不純物である金属元素の含有量を低減させた有機化合物を用いる。非沸騰蒸留では、蒸留対象の有機化合物を沸騰しない条件で加熱して蒸発させるため、不純物の飛沫同伴を抑制することができる。そのため、より一層不純物濃度が低減された有機化合物が得られうる。本発明の定量方法においては、非沸騰蒸留によって精製した有機化合物における金属元素濃度は、ボラジン化合物中に含まれる金属元素濃度より低いことが好ましい。具体的には、非沸騰蒸留によって精製した有機化合物における金属元素濃度は、好ましくは10質量ppb以下であり、より好ましくは1質量ppb以下であり、さらに好ましくは0.5質量ppb以下であり、特に好ましくは0.1質量ppb以下である。非沸騰蒸留によって精製した有機化合物における金属元素濃度が上記範囲であれば、ボラジン化合物における金属元素含有量の定量の精度が向上しうる。非沸騰蒸留によって低減されうる金属元素としては、例えば、Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Sn、Pbなどが挙げられる。ここで、複数の金属元素が含有される場合には、それぞれの含有量が上述の範囲であることが好ましい。なお、非沸騰蒸留によって精製した有機化合物における金属元素濃度の値は、後述する実施例に記載の方法によって得られる値を採用するものとする。
【0042】
非沸騰蒸留の形態は特に制限されないが、蒸留釜の材質は、金属不純物が除去しやすいこと、静電気が起きにくいことから、透明石英ガラスが好ましい。また、加熱方法も特に制限されないが、液面付近を効果的に蒸発させることができるため赤外線輻射による加熱が好ましい。非沸騰蒸留の条件も特に制限されないが、好ましくは密封系で、常圧下、有機化合物を沸点より0〜50℃、より好ましくは10〜30℃低い温度で加熱する。蒸留速度は、特に制限されないが、好ましくは0.01〜100mL/cm・hであり、より好ましくは0.1〜10mL/cm・hである。
【0043】
非沸騰蒸留で精製した有機化合物を用いてボラジン化合物を処理する具体的な操作は特に制限されない。例えば、非沸騰蒸留で精製した有機化合物中に、所定の量のボラジン化合物を滴下して添加し、撹拌することで処理することができる。非沸騰蒸留で精製した有機化合物を用いてボラジン化合物を処理する際の温度条件は特に限定されず、有機化合物の種類に応じて設定されうるが、通常、0〜40℃の範囲が好ましい。前記有機化合物として低級脂肪族アルコールを用いる場合は0〜20℃の範囲が好ましい。処理時間は特に制限されないが、好ましくは1分以上であり、より好ましくは1分〜1時間である。前記有機化合物の使用量も特に制限されないが、ボラジン化合物:非沸騰蒸留で精製した有機化合物の質量比が、1:5〜1:20程度であることが好ましい。
【0044】
[分解物を測定用溶媒に溶解させて試料溶液を調製する段階]
本段階では、上記のボラジン化合物の分解物を、測定に適した測定用溶媒に溶解させて試料溶液を調製する。前記分解物を測定用溶媒に溶解させる形態は特に限定されない。前記分解物を前記有機化合物から分離した後に測定用溶媒に溶解させてもよく、前記分解物を測定用溶媒に抽出してもよいが、好ましくは、上記のボラジン化合物を有機化合物で処理して分解させる段階で得られた溶液を前記測定用溶媒で希釈する。より好ましくは、有機化合物で処理して分解させる段階で得られた溶液を、前記測定用溶媒で2〜20倍、さらに好ましくは10〜20倍に希釈する。
【0045】
測定時の分析精度の観点から、測定用溶媒としては、水、好ましくは純水、特に好ましくは超純水が用いられうる。測定用溶媒として用いられる水の純度を電気伝導率により規定すると、測定用溶媒として用いられる水は、25℃における電気伝導率が好ましくは1μS/cm以下であり、より好ましくは0.5μS/cm以下であり、さらに好ましくは0.1μS/cm以下であり、特に好ましくは0.06μS/cm以下である。かような形態の水は不純物含有量が極めて少ない。従って、かような水を測定用溶媒として用いることにより、定量限界をより一層低くすることが可能となる。用いられる水の電気伝導率の下限値は特に限定されず、低いほどよいが、入手の困難性などを考慮すると、当該電気伝導率は0.056μS/cm以下であれば十分である場合も多い。なお、「25℃における水の電気伝導率」の値は、例えば、超純水製造装置に内蔵された電気伝導率計の指示値として測定されうる。
【0046】
上述した所定の電気伝導率を示す水の入手経路は、特に制限されない。かような水が商品として市販されている場合には、当該商品を購入することにより用いてもよいし、市販されている装置を用いて低純度の水の純度を向上させてもよい。
【0047】
測定用溶媒として用いられる水は電気伝導率が上述した範囲内の値を示すことが好ましいが、より好ましい形態においては、含まれる粒子の含量もまた規定される。すなわち、当該形態においては、用いられる水における0.2μm以上の粒径を有する粒子の含量が100個/mL以下であり、より好ましくは50個/mL以下であり、さらに好ましくは10個/mL以下である。かような形態の水を測定用溶媒として用いることにより、定量限界をより一層低くすることが可能となる。ここで、純度の高い水を用いるという観点からは、用いられる水における前記粒子の含量の下限値は特に限定されず、低いほどよい。なお、本明細書において、「水における0.2μm以上の粒径を有する粒子の含量」の値は、例えば、レーザー光散乱を利用した液中パーティクルカウンター(パーティクル メジャリング システムズ インコーポレイテッド(PMS)社製:LIQUILAZ−S02/LS−200)などによって測定されうる。かような粒子の含量が少ない水の入手経路についても特に制限されない。かような水が商品として市販されている場合には、当該商品を購入することにより用いてもよいし、市販されている装置を用い、例えば濾過などの手段によって粒子含量の低い水を得てもよい。
【0048】
必要に応じて、前記測定用溶媒は、硝酸、塩酸などの酸を含んでもよい。酸を加えることで測定機器のチューブ等に試料中の成分が付着することを防ぐことができるため、安定な測定が可能になる。酸としては、干渉を抑える観点から硝酸を用いることが好ましい。酸の添加量は特に制限されないが、前記測定用溶媒100質量%に対して、例えば1〜5質量%であり、好ましくは1〜2質量%である。
【0049】
なお、必要に応じて、あらかじめ前記測定用溶媒を非沸騰蒸留によって精製して用いてもよい。例えば、硝酸は、市販品を非沸騰蒸留によって精製してから用いることが好ましい。非沸騰蒸留については上記と同様の形態が用いられうる。
【0050】
上記測定用溶媒中の金属元素濃度は、好ましくは10質量ppb以下であり、より好ましくは1質量ppb以下であり、さらに好ましくは0.5質量ppb以下であり、特に好ましくは0.1質量ppb以下である。上記測定用溶媒中の金属元素濃度が上記範囲であれば、ボラジン化合物における金属元素の定量の精度が向上しうる。
【0051】
[試料溶液中の金属元素濃度を測定する段階]
ボラジン化合物中の不純物として存在する金属元素は、実際には、単体、金属化合物など様々な態様で存在していると推定されるが、本発明においては、ボラジン化合物中に含まれる金属元素の含有量(金属元素濃度)として規定する。ボラジン化合物中に含まれうる金属元素としては、例えば、Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Sn、Pbなどが挙げられる。具体的には、ボラジン化合物中に混入している金属元素含有量は、例えば、高周波誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS法)、高周波誘導結合プラズマ発光分析法(ICP法)、原子吸光分析法を用いて測定されうる。本発明においては、高感度検出と多元素同時測定が可能であるため、特にICP−MS法が好ましい。ICP−MS装置としては特に制限されず、二重収束型質量分析装置、四重極型質量分析装置などの検出手段を備えた装置が使用できる。測定条件についても特に制限されず、従来公知の知見が参照されうる。
【0052】
金属元素濃度を定量する際には、濃度を段階的に調製した標準液とブランクとを用いて検量線を作成する。標準液は、各金属元素濃度が1〜100質量ppbの範囲であることが好ましい。検量線の作成は、絶対検量線法、標準添加法、内標準法のいずれを用いてもよい。絶対検量線法を用いる場合は試料溶液と標準液との溶媒の組成を同一にすることが好ましい。
【0053】
本発明において、上記の各段階は、所定のクリーン度(清浄度クラス)を有するクリーンルーム内において行われることが好ましい。具体的には、クラス10000よりも清浄なクリーンルーム内で行われることが好ましい。なお、本明細書において「クリーン度(清浄度クラス)」とは、FED−STD−209D(米国連邦規格、1988年)による値を採用するものとする。当該規格において、「クリーン度(清浄度クラス)」とは、1ftあたりの0.5μm以上の粒径を有する粒子の個数として定義される。従って、例えば「クラス10000よりも清浄なクリーンルーム」とは、雰囲気中の0.5μm以上の粒径を有する粒子の個数が10000個/ft以下のクリーンルームを意味する。なお、本発明の方法における各段階は、クラス1000よりも清浄なクリーンルーム内で行われることがより好ましく、クラス100よりも清浄なクリーンルーム内で行われることがさらに好ましい。
【実施例】
【0054】
<有機化合物および測定用溶媒の精製方法>
(メタノール)
非沸騰蒸留装置(ANALAB社製Evapoclean)に、有機化合物であるメタノール(関東化学株式会社製;電子工業用メチルアルコール)100mLを仕込み、45℃で10時間かけて蒸留し、精製メタノールを得た。メタノールの蒸留速度は、0.2mL/cm・hであった。
【0055】
(2質量%硝酸)
測定用溶媒として、2質量%硝酸を準備した。具体的には、非沸騰蒸留装置(ANALAB社製Evapoclean)に、68%硝酸(多摩化学工業社製;硝酸 TAMAPURE−AA100)50mLを仕込み、120℃で5時間かけて蒸留した。68%硝酸の蒸留速度は、0.2mL/cm・hであった。得られた精製硝酸を超純水により希釈し、2質量%硝酸を得た。なお、超純水は、超純水製造装置(日本ミリポア株式会社製:Milli−Q Element A−10)により製造したものを用いた。
【0056】
[金属元素濃度]
非沸騰蒸留による精製を行った、メタノールおよび2%硝酸の金属元素濃度を以下の表に示す。金属元素濃度は、ICP−MS(パーキンエルマー社製、ELAN DRCII)により測定した。測定条件は、試料ガス流量 1.0L/min、プラズマガス流量18L/min、RF出力 1600Wとした。なお、非沸騰蒸留による精製を行ったメタノールおよび2質量%硝酸におけるNa、Fe以外の金属元素の含有量はいずれも0.1質量ppb未満であった。
【0057】
【表1】

【0058】
<ボラジン化合物中の金属元素濃度の測定方法>
充分に洗浄したクリーンボトルに、非沸騰蒸留により精製したメタノール9gを量りとり、これにN,N’,N”−トリメチルボラジン(純度99.9質量%)1gを撹拌しながら滴下して分解した。その溶液を、別途用意した容器に1g取り分け、非沸騰蒸留により精製した2質量%硝酸を19g加えて20倍に希釈し、測定用試料を作製した。試料中の金属元素濃度をICP−MS(パーキンエルマー社製、ELAN DRCII)により測定し、別途作成した検量線によりボラジン化合物中の金属元素濃度を算出した。試料溶液中のNa濃度は0.2質量ppbであり、Fe濃度は0.15質量ppbであった。これは、N,N’N”−トリメチルボラジンにおけるNa濃度として40質量ppb、Fe濃度として30質量ppbに相当する。
【0059】
<検量線作成方法>
N,N’N”−トリメチルボラジンのかわりに既知濃度の金属を含む標準液を用いて上記試料と同じ組成になるように検量線用の試料(標準液 0.5質量%、精製メタノール4.5質量%、精製2質量%硝酸95質量%)を目的とする測定領域で3点(標準液濃度10質量ppb、20質量ppb、50質量ppb)調製した。準備した試料をICP−MSで測定し、標準液濃度と測定値から検量線を作成したところ、10〜50質量ppbの領域で相関係数0.998の直線が得られた。
【0060】
<比較例>
非沸騰蒸留による精製を行っていないメタノールおよび硝酸を用いて、上記と同様の方法により検量線作成用の試料を調製した。ICP−MSにより測定を行ったが、測定値の誤差が大きく、相関係数0.99以上の直線性の高い検量線を得ることはできなかった。
【0061】
以上の結果から、本発明の方法によれば、ボラジン化合物に含まれる金属元素濃度を低い濃度の領域まで高い精度で測定することが可能になることが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボラジン化合物に不純物として含まれる金属元素の定量方法であって、
ボラジン化合物を有機化合物で処理して分解させる段階と、
分解物を測定用溶媒に溶解させて試料溶液を調製する段階と、
前記試料溶液中の金属元素濃度を測定する段階と、を含み、
前記有機化合物は、非沸騰蒸留によって精製された化合物である、定量方法。
【請求項2】
前記有機化合物中の金属元素濃度が10質量ppb以下である、請求項1に記載の定量方法。
【請求項3】
前記測定用溶媒中の金属元素濃度が10質量ppb以下である、請求項1または2に記載の定量方法。
【請求項4】
前記有機化合物は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、およびアセトンからなる群から選択される1以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の定量方法。
【請求項5】
前記測定用溶媒は、超純水である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の定量方法。
【請求項6】
前記試料溶液中の金属元素濃度は、ICP−MS法によって測定される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の定量方法。

【公開番号】特開2010−230581(P2010−230581A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80264(P2009−80264)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】