説明

ボラジン化合物の充填方法

【課題】中途部にバルブを備えた導出入管が上部に接続されてなる容器に、当該導出入管を通じてボラジン化合物を供給して充填する充填方法において、抜き出された後のボラジン化合物への不純物の混入を抑制しうる手段を提供する。
【解決手段】中途部にバルブ13および14を備えた導出入管11および12が上部に接続されてなる容器10に、前記導出入管を通じて加水分解性化合物を供給して、前記容器に前記加水分解性化合物を充填する、加水分解性化合物の充填方法であって、前記加水分解性化合物の充填後に、前記導出入管の開放端側の内壁11'に付着した、前記加水分解性化合物またはその分解物からなる付着物を除去することを特徴とする、加水分解性化合物の充填方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボラジン化合物に関する。ボラジン化合物は、例えば、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層を形成するために用いられる。本発明は特に、ボラジン化合物を容器に充填する際の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
情報機器の高性能化に伴い、LSIのデザインルールは、年々微細になっている。微細なデザインルールのLSI製造においては、LSIを構成する材料も高性能で、微細なLSI上でも機能を果たすものでなければならない。
【0003】
例えば、LSI中の層間絶縁膜に用いられる材料に関していえば、高い誘電率は信号遅延の原因となる。微細なLSIにおいては、この信号遅延の影響が特に大きい。このため、層間絶縁膜として用いられうる、新たな低誘電率材料の開発が所望されていた。また、層間絶縁膜として使用されるためには、誘電率が低いだけでなく、耐湿性、耐熱性、機械的強度などの特性にも優れている必要がある。
【0004】
かような要望に応えるものとして、分子内にボラジン環骨格を有するボラジン化合物が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。ボラジン化合物は分子分極率が小さいため、形成される被膜は低誘電率を示す。その上、形成される被膜は、耐熱性にも優れる。
【0005】
従来、ボラジン化合物はフラスコ等を反応容器として用い、実験室レベルで少量合成されるのみであった。一方、ボラジン化合物の有用性に鑑み、今後の大量生産を念頭に置くと、スケールアップされたより大きな反応容器中で大量に合成する必要が生じることは明らかである。
【0006】
ここで、工場などの大規模プラントなどにおいてボラジン化合物を大量に製造する場合を考えると、製造されたボラジン化合物は、他の化合物と同様に、容器に充填された状態で貯蔵され、または輸送される。そして、ボラジン化合物の消費者である製造メーカに納入され、半導体装置等の製造に供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−340689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、容器へボラジン化合物を充填するための手法として、製造されたボラジン化合物が貯蔵された貯蔵タンクから、容器の上部に接続された、バルブを備えた導出入管を通じて行なう方法を採用した場合、充填されたボラジン化合物を当該導出入管を通じて抜き出すと、当該容器に充填される前と比較してパーティクル状の不純物の混入量が増加するという問題があることを見出した。
【0009】
そこで本発明は、中途部にバルブを備えた導出入管が上部に接続されてなる容器に、当該導出入管を通じてボラジン化合物を供給して充填する充填方法において、抜き出された後のボラジン化合物への不純物の混入を抑制しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、上述したような不純物の混入の原因を鋭意探索した。その結果、ボラジン化合物を充填するのに用いた導出入管の先端部近傍(開放端側)に付着した付着物が、容器からボラジン化合物を抜き出す際に当該ボラジン化合物中にパーティクル状の不純物として混入することを見出した。本発明者らはまた、かようなパーティクル状の不純物はボラジン化合物の加水分解に起因して生成することをも見出した。これらの知見に基づき、本発明者らは、容器に接続された導出入管の先端部近傍(開放端側)に付着した付着物をボラジン化合物の充填後に除去することにより上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。なお、本発明は、上述のメカニズムによれば、ボラジン化合物以外の加水分解性化合物の充填方法にも同様に適用されうることは明らかである。
【0011】
すなわち、本発明の一形態は、中途部にバルブを備えた導出入管が上部に接続されてなる容器に、前記導出入管を通じて加水分解性化合物を供給して、前記容器に前記加水分解性化合物を充填する、加水分解性化合物の充填方法であって、前記加水分解性化合物の充填後に、前記導出入管の開放端側の内壁に付着した、前記加水分解性化合物またはその分解物からなる付着物を除去することを特徴とする、加水分解性化合物の充填方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中途部にバルブを備えた導出入管が上部に接続されてなる容器に、当該導出入管を通じてボラジン化合物のような加水分解性化合物を供給して充填する充填方法において、抜き出された後の化合物への不純物の混入が効果的に抑制されうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る充填方法の充填工程においてボラジン化合物を充填するための容器を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る充填方法の充填工程において不活性ガスパージを行なう様子を説明するための概略図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る充填方法の除去工程において、減圧により付着物を除去する様子を説明するための概略図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る充填方法の除去工程において、不活性ガスの噴射により付着物を除去する様子を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための実施形態を説明する。
【0015】
本発明の一形態は、中途部にバルブを備えた導出入管が上部に接続されてなる容器に、前記導出入管を通じて加水分解性化合物を供給して、前記容器に前記加水分解性化合物を充填する、加水分解性化合物の充填方法であって、前記加水分解性化合物の充填後に、前記導出入管の開放端側の内壁に付着した、前記加水分解性化合物またはその分解物からなる付着物を除去することを特徴とする、加水分解性化合物の充填方法である。以下、加水分解性化合物として「ボラジン化合物」を例に挙げて本発明の好ましい実施形態を詳細に説明するが、上述したように本発明はボラジン化合物以外の加水分解性化合物にも同様に適用されうる。
【0016】
まず、「ボラジン化合物」について、説明する。「ボラジン化合物」とは、ボラジン環骨格を有する化合物を意味し、例えば下記化学式1で表される。
【0017】
【化1】

【0018】
式中、各Rおよび各Rは、それぞれ同一であってもよいし異なってもよく、水素原子または有機基である。有機基としては、例えば、炭素数1〜20個(好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1個)の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数3〜20個(好ましくは3〜8個、より好ましくは4〜7個、さらに好ましくは5〜6個)のシクロアルキル基、炭素数6〜20個(好ましくは6〜8個、より好ましくは6〜7個、さらに好ましくは6個)のアリール基、炭素数7〜20個(好ましくは7〜8個、より好ましくは7個)のアラルキル基、炭素数1〜20個(好ましくは2〜8個、より好ましくは2〜4個、さらに好ましくは2個)のアシル基、炭素数2〜20個(好ましくは2〜8個、より好ましくは2〜4個、さらに好ましくは2個)のアルケニル基、炭素数2〜20個(好ましくは2〜8個、より好ましくは2〜4個、さらに好ましくは2個)のアルキニル基などが挙げられる。なお、これらの有機基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基(−NO)、アミノ基(−NH)、アルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基などで置換されていてもよい。
【0019】
やRを構成するアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、イコシル基などが挙げられる。また、シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、フェネチル基、o−,m−もしくはp−トリル基、2,3−もしくは2,4−キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、ピレニル基などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基などが挙げられる。アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ベンゾイル基などが挙げられる。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基などが挙げられる。アルキニル基としては、アセチレニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基などが挙げられる。これらのうち、RおよびRはそれぞれ、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基であることが好ましく、アルキル基またはシクロアルキル基であることが特に好ましい。なお、これら以外の基がRやRとして用いられてもよい。ここで、Rがすべて水素原子である場合のボラジン化合物の例としては、ボラジン、N,N’,N”−トリメチルボラジン、N,N’,N”−トリエチルボラジン、N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(sec−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(ネオペンチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−エチルボラジン、N,N’−ジエチル−N”−メチルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−プロピルボラジンなどが挙げられる。また、Rがアルキル基である場合のボラジン化合物の例としては、B,B’,B”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリエチルボラジン、B,B’,B”−トリ(n−プロピル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(イソプロピル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(n−ブチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(イソブチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(ネオペンチル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、B,B’,B”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、B,B’,B”−トリシクロヘキシルボラジン、B,B’−ジメチル−B”−エチルボラジン、B,B’−ジエチル−B”−メチルボラジン、B,B’−ジメチル−B”−プロピルボラジンなどが挙げられる。さらに、RまたはRの少なくとも1つがアラルキル基である場合のボラジン化合物の例としては、N,N’,N”−トリベンジルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−ベンジルボラジン、B,B’,B”−トリトリベンジルボラジン、B,B’−ジメチル−B”−ベンジルボラジン、N,N’,N”−トリベンジル−B,B’,B”−トリベンジルボラジンなどが挙げられる。また、RまたはRの少なくとも1つがアリール基である場合のボラジン化合物の例としては、N,N’,N”−トリフェニルボラジン、N,N’,N”−トリトリルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−フェニルボラジン、B,B’,B”−トリフェニルボラジン、B,B’,B”−トリトリルボラジン、B,B’−ジメチル−B”−フェニルボラジン、N,N’,N”−トリフェニル−B,B’,B”−トリフェニルボラジンなどが挙げられる。なお、ボラジン化合物の耐水性等の化学的安定性を考慮すると、ボラジン化合物は、3つのRのうち、少なくとも1つが有機基である(水素原子でない)ボラジン(N−置換ボラジン)であることが好ましく、3つのRのすべてが有機基である(水素原子でない)ボラジン(すなわち、ボラジン環骨格の3つの窒素原子のすべてに有機基が結合したボラジン)であることがより好ましい。
【0020】
また、N−置換ボラジンのなかでも、液状化合物であることから取扱い性にも優れ、かつ耐水性にも優れるという観点から、ボラジン化合物は、Rの少なくとも1つがアルキル基である、N−アルキルボラジンであることがさらに好ましく、3つのRのすべてがアルキル基であるN,N’,N”−トリアルキルボラジン(「N−トリアルキルボラジン」とも称する)であることが特に好ましい。
【0021】
また、ボラジン化合物は、ボラジン環骨格の窒素原子およびホウ素原子の双方がアルキ
ル基で置換された(すなわち、RおよびRの双方がアルキル基である)、B,B’,B”−トリメチル−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリメチル−N,N’,N”−トリエチルボラジン、B,B’,B”−トリエチル−N,N’,N”−トリメチルボラジンなどのヘキサアルキルボラジン化合物であってもよい。
【0022】
あるいは、後述する充填工程における充填がスムーズに行なわれうるという観点から、ボラジン化合物は、充填が行なわれる温度(例えば、0〜40℃)において液体状態であるものが好ましい。また、除去工程において除去され易いという観点からは、常温において蒸気圧を有するものであることが好ましい。
【0023】
なお、ボラジン化合物の合成方法により本発明の技術的範囲が限定されることはなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。ここで、上記の化学式1で表されるボラジン化合物のうち、N−トリアルキルボラジンの好ましい合成方法の一例を挙げると、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHX(Rは上記と同様の定義であり、Xがハロゲン原子でありnが1であるか、または、Xが硫酸基でありnが2である)で表されるアミン塩とを、溶媒中で反応させる手法が例示される。
【0024】
水素化ホウ素アルカリ(ABH)において、Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である。水素化ホウ素アルカリの例としては、水素化ホウ素ナトリウムおよび水素化ホウ素リチウムが挙げられる。
【0025】
アミン塩((RNHX)において、Rは上記と同様の定義であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子である。そして、Xが硫酸基である場合にはnは2であり、Xがハロゲン原子である場合にはnは1である。nが2である場合、Rは、同一であっても異なっていてもよいことは上述した通りである。合成反応の収率や取り扱いの容易性を考慮すると、Rは好ましくは同一のアルキル基である。なお、アルキル基およびシクロアルキル基の具体的な形態については、上述した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0026】
アミン塩の例としては、塩化アンモニウム(NHCl)、モノメチルアミン塩酸塩(CHNHCl)、モノエチルアミン塩酸塩(CHCHNHCl)、モノメチルアミン臭化水素酸塩(CHNHBr)、モノエチルアミンフッ化水素酸塩(CHCHNHF)、硫酸アンモニウム((NHSO)、モノメチルアミン硫酸塩((CHNHSO)が挙げられる。
【0027】
使用する水素化ホウ素アルカリおよびアミン塩は、合成するボラジン化合物の構造に応じて選択すればよい。例えば、ボラジン環を構成する窒素原子にメチル基が結合しているN−メチルボラジンを製造する場合には、アミン塩として、モノメチルアミン塩酸塩などの、Rがメチル基であるアミン塩を用いればよい。
【0028】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩との混合比は、特に限定されないが、アミン塩の使用量を1モルとした場合に、水素化ホウ素アルカリの使用量を1〜1.5モルとすることが好ましい。
【0029】
合成用の溶媒としては、特に制限されないが、例えば、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等が挙げられる。
【0030】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩との反応条件は、特に限定されない。反応温度は、好ましくは20〜250℃、より好ましくは50〜240℃、さらに好ましくは100〜220℃である。上記範囲で反応させると、水素発生量の制御が容易である。反応温度は、K熱電対などの温度センサーを用いて測定されうる。
【0031】
一方、ヘキサアルキルボラジンは、出発物質としてB,B’,B”−トリクロロ−N,N’,N”−トリアルキルボラジンなどのハロゲン化ボラジン化合物を原料として、グリニャール試薬を用いて当該化合物の塩素原子をアルキル基で置換することによって合成されうる(D.T.HOWORTH and L.F.HOHNSTEDT,J.Am.Chem.Soc.,82,3860(1960)を参照)。
【0032】
合成装置の大きさや種類は、環境や規模に応じて決定されればよい。例えば、大量のボラジン化合物を合成するのであれば、工業的規模の合成装置が用いられうる。
【0033】
合成されたボラジン化合物は、必要に応じて精製されうる。ボラジン化合物の精製方法としては、例えば、蒸留精製が用いられる。
【0034】
蒸留精製装置の大きさや種類は、環境や規模に応じて決定されればよい。例えば、大量のボラジン化合物を処理するのであれば、工業的規模の蒸留塔が用いられうる。
【0035】
蒸留精製の際の温度は特に制限されず、合成されたボラジン化合物の種類に応じて適宜設定されうる。一例を挙げると、通常は100〜150℃程度である。
【0036】
さらに、得られたボラジン化合物の純度を向上させることを目的として、濾過処理などの追加的な処理が施されてもよい。
【0037】
加水分解性化合物がボラジン化合物である本形態の充填方法では、まず、容器にボラジンを供給する(充填工程)。その後、バルブを閉めてボラジン化合物が充填された空間を密閉し、容器の所定部位における付着物を除去する(除去工程)。以下、工程順に詳細に説明する。
【0038】
[充填工程]
本工程では、ボラジン化合物を充填するための容器を準備する。図1は、本実施形態の充填工程においてボラジン化合物を充填するための容器を示す概略図である。ボラジン化合物は例えば図1に示す形態の容器に充填された後、後述する除去工程を経て、貯蔵・輸送などに供される。
【0039】
図1に示す形態において、容器1は、容器本体10と、容器本体10の上部に接続された、ボラジン化合物導出入管11およびガス排出管12を備える。これらのボラジン化合物導出入管11およびガス排出管12はそれぞれ、中途部にバルブ(13,14)を備え、容器本体10の内部で開口している。このバルブ(13,14)の開閉により、容器本体10の密閉・開放が制御され、バルブを閉めて容器本体10を密閉することで、容器本体への不純物の混入が抑制されうる。なお、ボラジン化合物導出入管11およびガス排出管12の開放端側には、ノズル(15,16)が取り付けられている。
【0040】
容器本体10や配管(11,12)等の各部材の構成材料やサイズについては特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例として、容器本体や配管などのボラジン化合物と接触する可能性のある部材は、例えば、ステンレス、ハステロイ合金、インコネル合金、インバー合金などの金属材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂などの樹脂材料から構成されうる。なかでも、強度や耐圧圧力が高いという観点からは、容器本体10や配管(11,12)はステンレス等の金属材料から構成されることが好ましい。また、容器本体10や配管(11,12)の内部の耐食性を向上させる目的で、金属材料から構成される容器本体や配管の内部をフッ素系樹脂等の樹脂材料によりコーティングしてもよい。なお、容器本体10のサイズは、通常は直径10〜50cmφ程度、高さ20〜100cm程度である。
【0041】
続いて、準備した容器10に、ボラジン化合物を充填する。
【0042】
充填工程において、ボラジン化合物を充填するために用いられる充填手段の具体的な形態については特に制限はない。一例を挙げると、充填されるボラジン化合物は、通常は製造プロセスにおける貯蔵手段(例えば、図2に示す貯蔵タンク20)から供給される。ただし、かような形態のみには制限されず、ボラジン化合物(その他の加水分解性化合物)の由来は自由である。具体的には、例えば、図2を参照して、双方のバルブ(13,14)を開けた状態で、ボラジン化合物導出入管11のノズル15に、ボラジン化合物を貯蔵している貯蔵タンク20を、ボラジン化合物供給管21を介して接続する。次いで、ボラジン化合物供給管21の中途部に設置されたノズル22を開けた状態で、貯蔵タンク20から圧送手段(図示せず)によりボラジン化合物を供給し、容器本体10の内部にボラジン化合物を充填する。なお、図2に示す符号Pは圧力計である。
【0043】
ボラジン化合物を容器へと充填する際の充填速度について特に制限はない。ただし、好ましくは0.1〜100cm/秒であり、より好ましくは1〜10cm/秒である。この充填速度が小さすぎると、充填時間が長くなり、製造コストが増大する虞がある。一方、この充填速度が大きすぎると、容器の交換が困難となる虞がある。
【0044】
なお、充填工程においては、上述した操作以外にも、従来公知の知見を適宜参照して、追加の操作を行なってもよい。例えば、ボラジン化合物を充填する前に、容器本体10の内部を不活性ガス(窒素、アルゴンなど)でパージすることが好ましい。具体的には、例えば、図2を参照して、双方のバルブ(13,14)を開けた状態で、ボラジン化合物導出入管11のノズル15に、不活性ガスを供給するためのガスボンベ30を、不活性ガス供給管31を介して接続する。次いで、不活性ガス供給管31の中途部に設置されたノズル32を開けた状態で、ガスボンベ30から不活性ガスを供給し、容器本体10の内部に不活性ガスを送り込む。不活性ガスの供給前に容器本体10の内部に存在した気体(例えば、空気)は、ガス排出管12を通じて大気中に排出される。これにより、容器本体10の内部が不活性ガスにより置換される。
【0045】
ボラジン化合物のような加水分解性化合物は水分に対して極めて敏感であり、空気中の水分(湿気)との接触ですら、分解・不純物生成の原因となりうる。これに対し、ボラジン化合物の充填前に容器本体10を不活性ガスでパージすることで、容器本体10の内部での水分との接触やこれに起因する不純物の生成が効果的に抑制されうる。なお、不活性ガスパージの具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例として、上述したような水分との接触によるボラジン化合物の分解を防ぐという観点からは、不活性ガスの露点は、好ましくは−80〜−20℃であり、より好ましくは−40〜−80℃である。また、容器本体10のサイズによっても変動しうるが、不活性ガスのパージは、当該不活性ガスを0.1〜20L/minの供給速度で1〜20分間程度供給することにより行われうる。なお、かような不活性ガスによる容器本体10内部のパージは、ボラジン化合物の充填後にも行なわれうる。ボラジン化合物の充填後に行なわれる不活性ガスパージの具体的な形態としては、上記と同様の形態が採用されうるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0046】
[除去工程]
続いて、本発明の特徴的な構成である「除去工程」の好ましい形態について詳細に説明する。本工程では、バルブを閉めてボラジン化合物が充填された空間を密閉し、導出入管の開放端側の内壁に付着したボラジン化合物またはその分解物からなる付着物を除去する。
【0047】
図1を参照して、まず、ボラジン化合物導出入管11およびガス排出管12のそれぞれの中途部に設置されたバルブ(13,14)を閉める。これにより、容器本体10内部の、ボラジン化合物が充填された空間が密閉される。なお、以下ではバルブを閉めてボラジン化合物が充填された空間が密閉された状態で除去工程を行なう形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はかような形態のみには限定されない。つまり、ボラジン化合物が充填された空間を密閉することなく後述する除去工程を行なう形態もまた、可能であれば本発明の一実施形態となりうる。
【0048】
従来、一般的な化合物の容器への充填作業は、上述の充填・容器密閉により終了するのが通常であった。これは、容器を密封することで容器外部から容器内部への不純物等の物質移動が遮断され、この状態で容器を保存・輸送した後に当該容器から化合物を取り出しても、純度低下などの虞がなかったためである。
【0049】
これに対し、上述したように、本発明者らは、ボラジン化合物のような加水分解性化合物については、化合物の充填時に充填に用いられた配管の内壁への付着物が後にパーティクル状の不純物として化合物中に混入しうること、および、かようなパーティクル状の不純物は、ボラジン化合物の充填に用いられる配管に付着したボラジン化合物が、水分との接触により加水分解することで生成することを見出した。
【0050】
そこで、本工程では、上述のように容器本体10を密封した後、かような付着物の除去を行なうことが好ましい。具体的には、図1を参照して、ボラジン化合物導出入管11の開放端側(ノズル15が取り付けられた側)の内壁11’に付着したボラジン化合物またはその分解物からなる付着物を除去する。なお、ボラジン化合物の分解物としては、アミンとホウ素化合物との錯体、ホウ酸、ボロンエーテル、ボロンエーテルポリマーなどが挙げられるがこれに制限されない。また、ボラジン化合物導出入管11の開放端側でのみ付着物を除去することとしたのは、バルブ13を閉めた後に容器本体10側の内壁における付着物を除去するのは困難であること、容器本体10側の内壁における付着物が水分と接触してパーティクル状の不純物が生成する虞が小さいことによる。
【0051】
ボラジン化合物を除去するための具体的な手法について特に制限はなく、内壁11’に付着した付着物を確実に除去可能なものであればいかなる手段も用いられうる。なお、ボラジン化合物の加水分解により生成する不純物の混入を可能な限り低減させるという観点からは、内壁11’に付着した付着物の全てを除去工程において除去することが最善である。ただし、わずかでも付着物が除去されれば本発明の作用効果が発揮されることから、本発明では、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、いっそう好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上の付着物を除去する。
【0052】
付着物を除去する手法としては、例えば、付着物を気化させることによる手法が挙げられる。付着物を気化させることによる除去の手段としては、例えば、内壁11’が面する空間を減圧とする手法が挙げられる。かような形態によれば、内壁11’に付着した付着物が容器本体10へ混入する虞が極めて低く、好ましい。具体的には、図3を参照して、まず、付着物を除去したいボラジン化合物導出入管11のノズル15に、減圧手段としての真空ポンプ40を、ポンプ用配管41を介して接続する。次いで、ポンプ用配管41の中途部に設置されたノズル42を開けた状態で、真空ポンプ40を駆動する。これにより、内壁11’が面する空間が減圧となる。その結果、付着物が気化し、除去される。なお、減圧時の圧力について特に制限はなく、付着物の蒸気圧やその量、内壁の温度などを考慮して適宜設定されうる。減圧時の圧力は、例えば、0.01〜50kPa程度であり、好ましくは0.1〜20kPaである。また、減圧とする時間についても特に制限はないが、30秒間〜30分間程度である。
【0053】
付着物を気化させることによる除去の他の形態としては、例えば、内壁11’を加熱する手法が挙げられる。かような形態もまた、内壁11’に付着した付着物が容器本体10へ混入する虞が極めて低く、好ましい。具体的には、例えば、適当な加熱手段(ヒータ等)により、ボラジン化合物導出入管11の開放端側を加熱する。この加熱は、ボラジン化合物導出入管11の内壁11’に対して直接行なってもよいし、当該管の外壁に対して間接的に行なってもよい。加熱温度・加熱時間についても特に制限はなく、上述した減圧の形態と同様に適宜設定されうるが、一例としては、40〜200℃程度で、好ましくは50〜100℃で、30秒間〜30分間程度加熱処理を施せばよい。
【0054】
付着物を気化させることによる除去のさらに他の形態としては、不活性ガスを、ボラジン化合物導出入管11およびガス排出管12の一方から流入させ、他方から流出させるという手法が挙げられる。なお、かような形態は、内壁11’を加熱しながら行なうことが好ましい。
【0055】
あるいは、内壁11’が面する空間に対して不活性ガスを噴射し、付着物を物理的に飛散させることによって、付着物を除去するという手法も採用されうる。具体的には、図4に示すように、不活性ガス(窒素、アルゴンなど)を噴射するための噴射手段(図示せず)に接続された噴射ノズル50を、内壁11’が面する空間に向け、噴射手段を駆動することによって、噴射ノズル50の先端から不活性ガスが噴射される。これにより、噴射された不活性ガスの衝撃によって、内壁11’に付着した付着物が飛散し(図4に示す太線矢印)、除去されることとなる。不活性ガスの噴射についての具体的な形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例として、不活性ガスの噴射圧力は、通常0.1〜2.0MPa程度であり、噴射時間は10秒間〜30分間程度である。
【0056】
以上、内壁11’に付着した付着物を除去するためのいくつかの実施形態について説明したが、上述した形態のみには制限されず、場合によってはその他の手法により付着物を除去してもよい。例えば、内壁11’を洗浄液により洗浄したり、内壁11’を適当な清拭手段により清拭したりすることで、付着物を内壁11’から除去してもよい。なお、内壁11’を洗浄液により洗浄する際の洗浄液の温度は特に制限されないが、好ましくは0〜70℃であり、より好ましくは0〜50℃であり、さらに好ましくは10〜30℃である。かような範囲内の温度の洗浄液を用いて洗浄を行うことで、優れた洗浄効率が達成されうる。
【0057】
この際に用いられうる洗浄液についても特に制限はない。洗浄液の一例としては、水(好ましくは純水、特に好ましくは超純水)が挙げられる。また、場合によっては、有機化合物が洗浄液として用いられてもよい。洗浄液として用いられる有機化合物は、疎水性であってもよいし、親水性であってもよい。洗浄液として用いられうる疎水性有機化合物としては、例えば、n−ペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物;酢酸エチルなどの脂肪族エステル等が挙げられる。また、洗浄液として用いられうる親水性有機化合物としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどの低級脂肪族アルコール;アセトンなどの脂肪族ケトン;ジオキサン、テトラヒドロフラン、メトキシ(ポリ)エチレングリコールなどのエーテル化合物;ε−カプロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド化合物;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、2−ブテン1,4−ジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサノール、トリメチロールプロパン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの多価アルコール化合物等が挙げられる。上述した洗浄液は、1種のみが単独で洗浄に用いられてもよいし、2種以上が混合されて洗浄に用いられてもよい。なかでも、好ましくは水が、より好ましくは純水が、特に好ましくは超純水が、洗浄液として用いられる。
【0058】
なお、上述した洗浄液は、必要に応じて、界面活性剤や酸・塩基などの添加剤をさらに含んでもよい。界面活性剤の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例としては、グリセリン脂肪酸エステルなどのノニオン系界面活性剤や、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤、第4級アンモニウム塩などのカチオン系界面活性剤が挙げられる。洗浄液に添加されうる酸・アルカリの具体的な形態についても特に制限はなく、従来公知の形態が適宜採用されうる。用いられうる酸としては、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、酢酸などが挙げられる。また、用いられうるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどが挙げられる。
【0059】
場合によっては、上述した除去工程におけるいくつかの形態が適宜組み合わせて採用されうる。特に、内壁11’を加熱しつつ、内壁11’が面する空間を減圧とする手法や、内壁11’を加熱しつつ、内壁11’が面する空間に対して不活性ガスを噴射する手法が好ましい組み合わせの形態として挙げられる。
【0060】
内壁11’から付着物が除去されると、容器1に充填されたボラジン化合物が、ボラジン化合物導出入管11を通じて用時に抜き出された際にも、内壁11’における付着物を同伴する可能性が低減されうる。その結果、抜き出された後のボラジン化合物へのパーティクル状の不純物の混入や、これによるボラジン化合物の純度低下といった問題の発生が効果的に抑制されうる。パーティクル状の不純物の含有量が少なく高純度のボラジン化合物は、半導体装置の層間絶縁膜等の形成に用いられた場合に、優れた低誘電性を発揮しうる。
【0061】
以上、加水分解性化合物がボラジン化合物である場合を例に挙げて本発明を詳細に説明した。ただし、上述したように、本発明の作用効果が発揮されるメカニズムからすると、本発明は、水分(湿気)との接触により分解しうる他の化合物(加水分解性化合物)の充填方法であってもよい。かような加水分解性化合物について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例としては、テトラエトキシシラン(TEOS)などのシラン類が挙げられ、これらの化合物について本発明の充填方法が適用されてもよい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明の洗浄方法の作用効果をより具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、下記の形態によって制限を受けることはない。
【0063】
[実施例1]:窒素ブローによる除去
(ボラジン化合物の充填方法)
まず、ボラジン化合物保存用容器として、それぞれバルブを備えた、ボラジン化合物充填用の配管(1)およびガスパージ用の配管(2)を有する2Lステンレス316製耐圧容器を準備した。
【0064】
準備した容器を洗浄し、乾燥した後、配管(1)を継ぎ手を介してボラジン化合物の充填装置に接続した。また、配管(1)の充填装置側に窒素ラインを接続した。これにより、配管(1)からはボラジン化合物または窒素ガスが供給可能となった。
【0065】
[充填工程]
まず、準備した容器の有する配管(1)および配管(2)の双方のバルブを開けた状態で、窒素ラインから配管(1)を通じて露点−70℃の窒素ガスを供給し、容器内部を窒素置換した。次いで、ボラジン化合物の充填装置から配管(1)を通じてN,N‘,N“−トリメチルボラジン(TMB)1.8Lを容器中に充填した。その後、窒素ガスを5L/minの供給速度で1分間供給して、配管(1)および配管(2)の双方のバルブを閉じた。
【0066】
[ボラジン化合物除去工程]
配管(1)および配管(2)の双方のバルブを閉じた状態で、ボラジン化合物の充填装置から容器を取り外した。そしてこれと同時に、ガス噴射ノズルを備えた窒素ボンベから10L/minの噴射速度で10分間、配管(1)の内腔に対して窒素ガスを噴射した(窒素ブロー)。これにより、配管(1)の内壁に付着していたTMBを揮発させて、除去した。
【0067】
[実施例2]:減圧による除去
ボラジン化合物除去工程において、窒素ブローに代えて、減圧によりTMBを除去したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、ボラジン化合物を容器に充填した。
【0068】
具体的には、ボラジン化合物除去工程において、まず、配管(1)に真空ラインを接続し、配管(1)および配管(2)の双方のバルブを閉じた状態で配管(1)の真空ライン側を10Torr(1.33kPa)まで減圧し、10分間減圧状態を維持した。これにより、配管(1)の内壁に付着していたTMBを揮発させて、除去した。その後、容器を充填装置から取り外した。
【0069】
[比較例]
容器を充填装置から取り外した後、配管(1)に付着していたTMBを除去することなく放置したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、ボラジン化合物を容器に充填した。その結果、配管(1)の内壁に白色固体が付着していることが目視により確認された。この白色固体は、TMBが大気中の水分によって分解することにより生成した化合物であると考えられる。
【0070】
[充填されたボラジン化合物の評価]
上述した実施例1および2、並びに比較例のそれぞれの手法により充填されたTMB100mLを、配管(1)を通じて容器から取り出した。
【0071】
取り出したTMB(常温で液体である)について、液中の0.3μm以上の粒径を有するパーティクルの数を測定した。なお、パーティクル数の測定には、液中パーティクルカウンター(パーティクルメジャリングシステムズインコーポレイテッド(PMS)社製、LIQUILAZ−S02/LS−200)を用いた。結果を下記の表1に示す。なお、表1には容器に充填する前のTMB中のパーティクル数も併せて示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示す結果から、本発明のボラジン化合物の充填方法によれば、充填工程後に導出入管の内壁に付着した付着物を除去する(除去工程)ことで、充填された化合物を抜き出した後のパーティクル状の不純物の混入が効果的に抑制されうることが示される。
【符号の説明】
【0074】
1 容器、
10 容器本体、
11 ボラジン化合物導出入管、
11’ 内壁、
12 ガス排出管、
13、14、22、32、42 バルブ、
15、16 ノズル、
20 貯蔵タンク、
21 ボラジン化合物供給管、
30 ガスボンベ、
31 不活性ガス供給管、
40 真空ポンプ、
41 ポンプ用配管、
50 噴射ノズル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中途部にバルブを備えた導出入管が上部に接続されてなる容器に、前記導出入管を通じて加水分解性化合物を供給して、前記容器に前記加水分解性化合物を充填する、加水分解性化合物の充填方法であって、
前記加水分解性化合物の充填後に、前記導出入管の開放端側の内壁に付着した、前記加水分解性化合物またはその分解物からなる付着物を除去することを特徴とする、加水分解性化合物の充填方法。
【請求項2】
前記加水分解性化合物の充填後に、前記バルブを閉めて前記加水分解性化合物が充填された空間を密閉し、その状態で前記付着物を除去する、請求項1に記載の充填方法。
【請求項3】
前記加水分解性化合物がボラジン化合物である、請求項1または2に記載の充填方法。
【請求項4】
前記付着物を気化させることにより前記付着物を除去する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の充填方法。
【請求項5】
前記内壁が面する空間を減圧とすることにより前記付着物を気化させる、請求項4に記載の充填方法。
【請求項6】
前記内壁を加熱して前記付着物を気化させる、請求項4または5に記載の充填方法。
【請求項7】
前記内壁が面する空間に対して不活性ガスを噴射して前記付着物を飛散させることにより前記付着物を除去する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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