説明

ボルト締付機

【課題】インナーソケット内に残った剪断用チップが意図せず排出されてしまうことを防止することのできるボルト締付機を提供する。
【解決手段】ボルト9先端に配備された剪断用チップ91に係合可能なソケット4と、該ソケット内に突出し、締め付けにより剪断された剪断用チップを排出する排出ピン5と、排出ピンをインナーソケット内に突出する方向に付勢する付勢手段50と、該付勢手段に抗して前記排出ピンを後方へ退避させた位置で排出ピンと係合し、排出ピンを退避位置に保持する係合部材6と、該係合部材と排出ピンの係合を解除する解除レバー8と、解除レバーの解除方向の動きを阻止するロックレバー25と、を具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端に剪断用チップを有するボルトを締め付けるボルト締付機に関するものであり、より具体的には、剪断用チップの意図しない排出を防止することのできるボルト締付機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先端に剪断用チップを有するボルト、所謂シャーボルトを締め付けるシヤーレンチ等のボルト締付機は、剪断用チップと係合するインナーソケットと、ボルトに螺合するナットと係合するアウターソケットとを具え、規定の締め付けトルクに達するとボルトから剪断される剪断用チップをインナーソケット内に残し、この残った剪断用チップをインナーソケット内から排出ピンにより押し出して外部に排出するようにしている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
排出ピンは、インナーソケット内へ突出する方向に付勢手段によって付勢されているが、剪断用チップをインナーソケットに挿入したときに、付勢手段の付勢力に抗して、剪断用チップにより後方に押し下げられて、後方へ退避した位置で保持されている。この退避位置での保持状態は、解除レバーの操作により解除され、排出ピンをインナーソケット内に突出させて、インナーソケット内に残った剪断用チップを外部に押し出すようにしている。一方、インナーソケット内に剪断用チップが挿入されると剪断用チップとともにインナーソケットが後退しアウターソケットがナットに係合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−58255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
剪断用チップを有するボルトは、橋脚やビル等の高所建設現場で用いられることが多く、解除レバーに誤って手指が触れる等により、作業者の意図によらずインナーソケット内に残った剪断用チップが排出されてしまうことがあった。
【0006】
本発明の目的は、インナーソケット内に残った剪断用チップが意図せず排出されてしまうことを防止することのできるボルト締付機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明のボルト締付機は、
ボルト先端に配備された剪断用チップに係合可能なソケットと、
該ソケット内に突出し、締め付けにより剪断された剪断用チップを排出する排出ピンと、
排出ピンをインナーソケット内に突出する方向に付勢する付勢手段と、
該付勢手段に抗して前記排出ピンを後方へ退避させた位置で排出ピンと係合し、排出ピンを退避位置に保持する係合部材と、
該係合部材と排出ピンの係合を解除する解除レバーと、
解除レバーの解除方向の動きを阻止するロックレバーと、
を具える。
【0008】
より具体的には、前記解除レバーは、作業者の人差し指で操作可能な位置に設けられ、ロックレバーは、作業者の親指で操作可能な位置に設けることがより望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、解除レバーは、解除方向の動きをロックレバーにより阻止されているから、ロックレバーを操作してそのロック状態を解除しない限り解除方向に操作することはできない。つまり、解除レバーの操作には2段階の操作が必要であり、解除レバーのみを操作しても、排出ピンは作動しないから、剪断用チップの意図しない排出を防止することができる。
【0010】
また、解除レバーを人差し指、ロックレバーを親指で操作する位置に設けることにより、操作性を高めることができると共に、誤操作を可及的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明ボルト締付機の要部の一部破断側面図である。
【図2】本発明ボルト締付機の全体の一部破断側面図である。
【図3】同ボルト締付機をボルト、ナットに係合した状態を示す要部断面図である。
【図4】同ボルト締付機のボルト締め付け完了後、ボルト締付機からナットを取り外した状態を示す一部破断側面図である。
【図5】同ボルト締付機のインナーソケット内に残った剪断用チップを排除する状態を示す一部破断側面図である。
【図6】同ボルト締付機の排出ピンを退避位置に保持する係合部材の正面図である。
【図7】図6のA−A線に沿う断面図である。
【図8】ロックレバーとその取付部分となるハンドルの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のボルト締付機を、図1乃至図8に基づき説明する。
ボルト締付機は、図1に示すように、ケーシング(1)の先端部にアウターソケット(3)とインナーソケット(4)を同軸に配備して構成される。
これらソケット(3)(4)は、複数段の遊星歯車機構(2)等の減速機構により、互いに逆方向に回転可能に連繋されている。
【0013】
ケーシング(1)には中央よりもやや後方側にモータ等の原動機(図示せず)を収容する筒部(12)が突設されており、原動機と前記遊星歯車機構(2)は傘歯車を含む歯車列(13)を介して動力伝達可能に連繋されている。
【0014】
ケーシング(1)の後端には、筒部(12)の後方側に作業者の握るハンドル(11)が突設されている。ハンドル(11)には、前方側に原動機のオン、オフ操作を行なう操作ボタン(18)と後述する排出ピン(5)を操作する解除レバー(8)が配備されており、後方側のやや上方側に解除レバー(8)の動きを規制するロックレバー(25)が配備されている。
【0015】
ケーシング(1)の内部の構成についてさらに詳細に説明する。
前述のインナーソケット(4)は、バネ(40)によって前方側となる飛び出し方向に付勢されており、アウターソケット(3)の内面のストッパー(31)に当たって待機位置で保持されている。
インナーソケット(4)の内面には、バネ(45)により軸芯方向に付勢された押さえボール(44)が臨出しており、該押さえボール(44)は、後述するボルト(9)の先端の剪断用チップ(91)をインナーソケット(4)内に保持する。
【0016】
インナーソケット(4)内には、滑り防止駒(41)がスライド可能に配備され、バネ(46)によって前方に付勢されている。滑り防止駒(41)の周面にはインナーソケット(4)の壁面を貫通して配備された係止片(43)に係脱する凹部(42)が形成されている。
【0017】
インナーソケット(4)の軸芯上には、排出ピン(5)がスライド可能に配備される。
排出ピン(5)は、遊星歯車機構(2)を貫通して延びており、後端側の周面には、後述する係合部材(6)に係脱可能な周溝状係合部(59)が形成されている。排出ピン(5)は、先端ヘッド部(5a)がインナーソケット(4)内へ突出可能となるように、付勢手段(バネ(50))により前方へ付勢されている。
【0018】
排出ピン(5)の後方には、排出ピン(5)のスライドを案内するガイド筒(16)に嵌まっている。ガイド筒(16)の後方は拡径(17)しており、ケーシング(1)の後端から前方に向けて突設された筒体(14)の外周に嵌まっている。筒体(14)には、ガイド筒(16)と連通するガイド孔(15)が形成されており、筒体(14)の前端には、排出ピン(5)を後方へ退避させた状態を保持する係合部材(6)が、軸芯に直交する方向にスライド可能に配備されている。
【0019】
係合部材(6)は、図6及び図7により詳細に示すように、縦長の長方形の板材にて形成され、中央に排出ピン(5)の後端が挿通可能な貫通孔(61)が開設されており、この貫通孔(61)の上部に、排出ピン(5)の周溝状係合部(59)を係脱する爪片(62)が突設されている。爪片(62)の前方側の面(65)は、排出ピン(5)が貫通孔(61)に侵入することを許容する方向に傾斜している。この係合部材(6)は、バネ(64)によって下向き、即ち軸芯に向かう方向に付勢されている。係合部材(6)には、バネ(64)を収納する凹部(63)が形成されている。
【0020】
係合部材(6)の下端は、押し上げロッド(7)の上端に当たり、押し上げロッド(7)の下端は、ハンドル(11)に設けられた解除レバー(8)に当接している。
図示の実施例では、解除レバー(8)は上端がケーシング(1)に軸支(81)された略L字状の回動式レバーである。解除レバー(8)は、図1の時計方向への回動が、当たり(10)により規制されると共に、トーションバネ(82)により無負荷の状態で当たり(10)に向けて回動するよう付勢されている。
【0021】
解除レバー(8)の軸支側とは逆側となる自由端を、作業者がハンドル(11)を握りながら人差し指でハンドル(11)側に引き寄せることで、解除レバー(8)は反時計方向に回動し、バネ(64)の付勢力に抗して押し上げロッド(7)を押し上げる。その結果、係合部材(6)もバネ(64)の付勢力に抗して押し上げられるから、排出ピン(5)は、爪片(62)が周溝状係合部(59)から外れて、付勢手段(50)の付勢力により前方へ突出する。
【0022】
ハンドル(11)の上面には、長孔(11a)が開設されており、該長孔(11a)には、ロックレバー(25)がスライド可能に配備されている。ロックレバー(25)は、作業者が操作する操作片(25a)と、ハンドル(11)の内部に位置するストッパ(25b)を連結部(25c)により連結して構成することができ、ロックレバー(25)を前方にスライドさせることにより、ストッパ(25b)が、解除レバー(8)の回動移行路上に突出して、解除レバー(8)の反時計回り(解除方向)の回動を阻止している。
【0023】
ロックレバー(25)は、ストッパ(25b)の後端とハンドル(11)の内面から突設される台座(11b)との間に配備されたバネ(26)により、前方(図1の矢印B方向)に付勢されている。
【0024】
解除レバー(8)を解除方向に回動させるには、ハンドル(11)を握りながら、ロックレバー(25)の操作片(25a)を親指で手前へ引き寄せ(図5の矢印C)、図5のようにストッパ(25b)と解除レバー(8)の当接を解放する。これにより、解除レバー(8)はロックレバー(25)に邪魔されることなく解除方向(図5の矢印D)に操作することができる。この際、ロックレバー(25)の操作と解除レバー(8)の操作は、片手の指(親指と例えば人差し指)で連続的に行うことができる。
【0025】
次に本発明のボルト締付機の使用方法を説明する。
図1に示す如く、ボルト締付機をボルト、ナットに係合する前は、排出ピン(5)は、ヘッド部(5a)の先端が滑り防止駒(41)を貫通してインナーソケット(4)の先端部近傍に臨出しており、後端がガイド筒(16)の先端に僅かに侵入している。
【0026】
然して、仮締めしたボルト(9)とナット(92)に対して、軸方向からボルト締付機を押し付ける。インナーソケット(4)にボルト(9)の先端の剪断用チップ(91)が侵入して、排出ピン(5)のヘッド部(5a)が付勢手段(50)に抗して後方へ押されると共に、滑り防止駒(41)が押されて係止片(43)が滑り防止駒(41)の凹部(42)に入り込む。この入り込みにより、インナーソケット(4)も剪断用チップ(91)に押し込まれてバネ(40)に抗して後退する。
【0027】
排出ピン(5)は、待機する係合部材(6)の爪片(62)の斜面(65)に当たってバネ(64)に抗して係合部材(6)を押し上げながら後退し、周溝状係合部(59)が爪片(62)に対応すると爪片(62)が周溝状係合部(59)に一旦嵌まり込むが、さらに後退を続け、図3のように、筒部(14)のガイド孔(15)の後端に当たってそれ以上の後退は阻止される。
【0028】
アウターソケット(3)をナット(92)に嵌合した後、操作ボタン(18)を操作することにより原動機を作動させて、アウターソケット(3)を回転させる。アウターソケット(3)の回動力は、その回転方向を異ならせてインナーソケット(4)に伝達され、剪断用チップ(91)にナット(92)の回動力の反力を伝える。ナット(92)に対する締付力が規定以上の締付力となると、剪断用チップ(91)に捻れ力が作用して、周溝(90)から破断する。これにより、インナーソケット(4)はナット回動力の反力を受けられず、ナット(92)の回動が停止され、インナーソケット(4)が無負荷状態で回転し、締め付けを完了する。
【0029】
原動機を停止させ、ボルト締付機を軸方向に引き抜くと、インナーソケット(4)は、剪断されたチップ(91)を銜えたまま、バネ(40)によって前方に押され、アウターソケット(3)内のストッパー(31)に当たって停止する。排出ピン(5)もバネ(50)の力によってインナーソケット(4)に追随して前進するが、排出ピン(5)の周溝状係合部(59)が爪片(62)の位置に達すると、周溝状係合部(59)と爪片(62)が係合し、インナーソケット(4)は前進を続けても、排出ピン(5)の前進は停止する(図4状態)。この時、破断した剪断用チップ(91)は、押さえボール(44)によってインナーソケット(4)内に保持されている。
【0030】
この状態から解除レバー(8)を操作して、周溝状係合部(59)と爪片(62)との係合を解除するのであるが、上述の如く、解除レバー(8)の解除方向の動きはロックレバー(25)にて阻止されている。そこで、解除レバー(8)を操作する前に、ハンドル(11)を掴んでいる親指で図5のように操作片(25a)を操作して、ロックレバー(25)を手前に引き寄せて、ストッパ(25b)と解除レバー(8)の当接を解放することにより、解除レバー(8)はロックレバー(25)に邪魔されることなく解除方向に操作することができる。
【0031】
解除レバー(8)を人差し指で引くことにより解除方向に操作して、周溝状係合部(59)と爪片(62)との係合が解除され、排出ピン(5)がバネ(50)の力により瞬間的に前進し、インナーソケット(4)内のチップ(91)を外部に排出し、次の締め付けに具える。
【0032】
このように、解除レバー(8)の解除方向の操作は、まずロックレバー(25)を操作し、そのロック状態を解除しない限り行うことはできない所謂2段操作が必要である。従って、締付作業中に作業者の意に反して解除レバー(8)が操作されることはなく、また、締付作業完了後にインナーソケット(4)内に残った剪断用チップ(91)が意図せず排出されてしまうことを防止できる。
【0033】
また、解除レバー(8)とロックレバー(25)を、本実施例のようにハンドル(11)の異なる2面に設けることで、ロックレバー(25)の操作と解除レバー(8)の操作は、片手の異なる指(親指と人差し指)で連続して行うことができるから、作業性が低下することも防止できる。
【0034】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は剪断されたチップが作業者の意図に反して排出されることを防止できるボルト締付機として広く利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
(3) アウターソケット
(4) インナーソケット
(5) 排出ピン
(8) 解除レバー
(25) ロックレバー
(9) ボルト
(91) 剪断用チップ
(92) ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト先端に配備された剪断用チップに係合可能なソケットと、
該ソケット内に突出し、締め付けにより剪断された剪断用チップを排出する排出ピンと、
排出ピンをインナーソケット内に突出する方向に付勢する付勢手段と、
該付勢手段に抗して前記排出ピンを後方へ退避させた位置で排出ピンと係合し、排出ピンを退避位置に保持する係合部材と、
該係合部材と排出ピンの係合を解除する解除レバーと、
解除レバーの解除方向の動きを阻止するロックレバーと、
を具えたことを特徴とするボルト締付機。
【請求項2】
前記ロックレバーは、解除レバーの移行路に突出して解除レバーの解除方向の動きを阻止すると共に、スライドすることにより解除レバーとの当接を解放する請求項1に記載のボルト締付機。
【請求項3】
前記解除レバーは、作業者の人差し指で操作可能な位置に設けられ、ロックレバーは、作業者の親指で操作可能な位置に設けられる請求項1又は請求項2に記載のボルト締付機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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