説明

ボルト締結方法及びその装置

【課題】測伸法でボルトの締結管理を行うことに妥当性があるかどうかを見極め、妥当性がある場合に限り、測伸法でボルトの締結管理を実行する。
【解決手段】ボルトの軸力が目標軸力Ffとなるようにボルトを締結する場合に、ボルトの締付途中でボルトの着座を検出し(S3)、ボルト伸び量δbが目標伸び量δfより小さい中間伸び量δ1に到達したことを検出し(S10)、ボルトの着座を検出してからボルト伸び量が中間伸び量に到達したことを検出するまでのボルトの角度 Δθを検出し、検出したボルトの角度 Δθが許容範囲内にあるときはボルト伸び量δbが目標伸び量δfに到達するまでボルトの締付けを続行し(S14〜S19)、検出したボルトの角度 Δθが許容範囲内にないときは異常時の処理を行う(S21)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト締結方法及びその装置に関し、詳しくは、ボルトの締付けに伴い増大するボルトの伸び量が目標伸び量に到達するまでボルトを締め付けることによりボルトの軸力を目標軸力に到達させるようにしたボルト締結方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボルトによる部材の締結をボルトの締付トルクで管理するトルク法やボルトの締付角度で管理する角度法に加えて、ボルトの締付けに伴いボルトに発生する伸び量で管理する測伸法が知られている。この測伸法は、例えばボルト頭部からボルト先端部に向けてボルト内部に超音波パルス信号を送信し、ボルト先端部で反射した反射パルス信号をボルト頭部で受信するまでの時間に基いて、ボルトの長さひいてはボルトの締付けに伴い増大するボルトの伸び量を検出する工程を含んでいる。そして、検出したボルト伸び量が所定の目標伸び量に到達するまでボルトの締付けを続行することにより、ボルト伸び量と比例関係にあるボルト軸力を所定の目標軸力に到達させようとするものである。
【0003】
この測伸法によれば、トルク法や角度法に比べて、より直接的にボルト軸力を目標軸力に近づけることができるから、より高い精度で締結構造体の締結品質を維持確保することが可能となる。
【0004】
なお、測伸法に関する技術の1つとして、例えば特許文献1には、締結済みのボルト長とその後の完全緩み状態のボルト長との差に基いて締結済み時のボルト軸力を算出する技術が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−114182(段落0034)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この測伸法においては、ボルト伸び量が目標伸び量に到達すればボルト軸力が目標軸力に到達したと判断して締付けを完了するものであるから、換言すれば、ボルト伸び量を唯一の拠り所とするものであるから、次のような不具合が発生し得る。
【0007】
まず、ボルトが締付け以外の要因で伸びることによる不具合がある。例えばボルトの締付途中に摩擦熱が発生し、この摩擦熱に起因してボルトの温度が上昇し、ボルトが膨張ないし伸びを起こすことがある。しかし、このような締付け以外の要因によるボルトの伸びが加わったとしても、それを除外せずに、ボルト伸び量が目標伸び量に到達しさえすればボルト軸力が目標軸力に到達したと判断して締付けを完了するから、ボルト軸力が本来の目標軸力に到達せず、締結力不足が起きる。つまり、このような締付け以外の要因によるボルトの伸びが加わっている状態のもとで測伸法によるボルトの締結管理を実行することは妥当性に欠けるものである。
【0008】
また、前述したように、超音波を利用してボルト長さを検出する場合は、検出精度の問題がある。すなわち、超音波を送受信する超音波センサとボルト頭部との間に音響インピーダンスの異なる空気層や異物等がわずかでも介在すると、超音波の送受信が阻害されて、精度のよいボルト長さの検出ができなくなる。また、ボルト頭部やボルト先端部にわずかな傷や平面度不良等があっても、超音波の送受信が阻害されて、やはりボルト長さを良好に検出できなくなる。このようなボルト長さの検出誤差は、伸び量の検出誤差となり、現実の軸力をボルト毎にバラつかせる結果となって、締結力不足のものや締結力過多のものが混在することとなる。つまり、このようなわずかな原因であってもボルト伸び量の検出精度が低下している状態のもとで測伸法によるボルトの締結管理を実行することもまた妥当性に欠けるものである。
【0009】
本発明は、ボルト軸力をボルト伸び量で管理する測伸法における前記不具合に対処するもので、測伸法でボルトの締結管理を行うことに妥当性があるかどうかを見極め、妥当性がある場合に限り、測伸法でボルトの締結管理を実行することにより、目標軸力を精度よく安定して達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明では次のような手段を用いる。なお、以下の手段の開示において、後述する発明の実施形態で相当するステップを参考までに付記した。
【0011】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、ボルトの軸力が目標軸力となるようにボルトを締結する方法であって、ボルトの締付途中でボルトの着座を検出する着座検出工程(S3)と、ボルト伸び量が目標伸び量より小さい所定の中間伸び量に到達したことを検出する中間伸び量到達検出工程(S10)と、前記着座検出工程でボルトの着座を検出してから、前記中間伸び量到達検出工程でボルト伸び量が中間伸び量に到達したことを検出するまでのボルトの締付角度を検出する締付角度検出工程(S12)と、この締付角度検出工程で検出したボルトの締付角度が所定の許容範囲内にあるときはボルト伸び量が目標伸び量に到達するまでボルトの締付けを続行する締付続行工程(S14)と、前記締付角度検出工程で検出したボルトの締付角度が所定の許容範囲内にないときは異常時の処理を行う異常時処理工程(S21)とを有することを特徴とする。
【0012】
次に、本願の請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載のボルト締結方法であって、前記異常時処理工程(S21)は、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達、又は、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達かつボルトの締付トルクが目標トルクに到達するまでボルトの締付けを続行する工程(S31〜S35又はS41〜S46)を含むことを特徴とする。
【0013】
次に、本願の請求項3に記載の発明は、前記請求項1に記載のボルト締結方法であって、前記異常時処理工程(S21)は、締付途中のボルトを着座前の状態まで弛める工程(S51又はS61)と、この工程で弛めたボルトを、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達、又は、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達かつボルトの締付トルクが目標トルクに到達するまで締め付け直す工程(S52〜S56又はS62〜S67)とを含むことを特徴とする。
【0014】
次に、本願の請求項4に記載の発明は、前記請求項1に記載のボルト締結方法であって、前記異常時処理工程(S21)は、前記締付角度検出工程で検出したボルトの締付角度が前記許容範囲を大きい側に逸脱しているときは前記目標伸び量を小さい側に補正し、前記締付角度検出工程で検出したボルトの締付角度が前記許容範囲を小さい側に逸脱しているときは前記目標伸び量を大きい側に補正する工程(S71及びS72、又はS71及びS73)と、ボルト伸び量が前記工程で補正した目標伸び量に到達するまでボルトの締付けを続行する工程(S74〜S78)とを含むことを特徴とする。
【0015】
次に、本願の請求項5に記載の発明は、前記請求項1から4のいずれか1項に記載のボルト締結方法であって、前記着座検出工程でボルトの着座を検出するまでのボルト伸び量を検出する着座前伸び量検出工程(S5)と、この着座前伸び量検出工程で検出したボルト伸び量が所定の許容範囲内にあるときはボルトの締付けを続行する第2の締付続行工程(S7)と、前記着座前伸び量検出工程で検出したボルト伸び量が所定の許容範囲内にないときは異常時の処理を行う第2の異常時処理工程(S20)とをさらに有することを特徴とする。
【0016】
次に、本願の請求項6に記載の発明は、前記請求項1から5のいずれか1項に記載のボルト締結方法であって、ボルトの軸力は、ボルトに負荷した荷重の減少量とボルトの縮み量とから予め設定した比例係数と、ボルトの伸び量とに基いて求めることを特徴とする。
【0017】
一方、本願の請求項7に記載の発明は、ボルトの軸力が目標軸力となるようにボルトを締結する装置であって、ボルトの締付途中でボルトの着座を検出する着座検出手段(S3)と、ボルト伸び量が目標伸び量より小さい所定の中間伸び量に到達したことを検出する中間伸び量到達検出手段(S10)と、前記着座検出手段でボルトの着座を検出してから、前記中間伸び量到達検出手段でボルト伸び量が中間伸び量に到達したことを検出するまでのボルトの締付角度を検出する締付角度検出手段(S12)と、この締付角度検出手段で検出したボルトの締付角度が所定の許容範囲内にあるときはボルト伸び量が目標伸び量に到達するまでボルトの締付けを続行する締付続行手段(S14)と、前記締付角度検出手段で検出したボルトの締付角度が所定の許容範囲内にないときは異常時の処理を行う異常時処理手段(S21)とを有することを特徴とする。
【0018】
次に、本願の請求項8に記載の発明は、前記請求項7に記載のボルト締結装置であって、前記異常時処理手段(S21)は、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達、又は、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達かつボルトの締付トルクが目標トルクに到達するまでボルトの締付けを続行する手段(S31〜S35又はS41〜S46)を含むことを特徴とする。
【0019】
次に、本願の請求項9に記載の発明は、前記請求項7に記載のボルト締結装置であって、前記異常時処理手段(S21)は、締付途中のボルトを着座前の状態まで弛める手段(S51又はS61)と、この手段で弛めたボルトを、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達、又は、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達かつボルトの締付トルクが目標トルクに到達するまで締め付け直す手段(S52〜S56又はS62〜S67)とを含むことを特徴とする。
【0020】
次に、本願の請求項10に記載の発明は、前記請求項7に記載のボルト締結装置であって、前記異常時処理手段(S21)は、前記締付角度検出手段で検出したボルトの締付角度が前記許容範囲を大きい側に逸脱しているときは前記目標伸び量を小さい側に補正し、前記締付角度検出工程で検出したボルトの締付角度が前記許容範囲を小さい側に逸脱しているときは前記目標伸び量を大きい側に補正する手段(S71及びS72、又はS71及びS73)と、ボルト伸び量が前記手段で補正した目標伸び量に到達するまでボルトの締付けを続行する手段(S74〜S78)とを含むことを特徴とする。
【0021】
次に、本願の請求項11に記載の発明は、前記請求項7から10のいずれか1項に記載のボルト締結装置であって、前記着座検出手段でボルトの着座を検出するまでのボルト伸び量を検出する着座前伸び量検出手段(S5)と、この着座前伸び量検出手段で検出したボルト伸び量が所定の許容範囲内にあるときはボルトの締付けを続行する第2の締付続行手段(S7)と、前記着座前伸び量検出手段で検出したボルト伸び量が所定の許容範囲内にないときは異常時の処理を行う第2の異常時処理手段(S20)とをさらに有することを特徴とする。
【0022】
そして、本願の請求項12に記載の発明は、前記請求項7から11のいずれか1項に記載のボルト締結装置であって、ボルトの軸力は、ボルトに負荷した荷重の減少量とボルトの縮み量とから予め設定した比例係数と、ボルトの伸び量とに基いて求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
まず、請求項1、請求項7に記載の発明によれば、ボルトの軸力が目標軸力となるようにボルトを締結する場合に、ボルトが着座してから、ボルト伸び量が目標伸び量より小さい所定の中間伸び量に到達するまでのボルトの締付角度(以下、「被検査角度」ということがある)を検出し、この被検査角度が所定の許容範囲内にあるときに限り、ボルト伸び量が目標伸び量に到達するまでボルトの締付けが続行されることとなる。
【0024】
したがって、ボルト伸び量を唯一の拠り所としてボルト締結を管理する測伸法の妥当性の有無がボルトの締付途中でボルトの締付角度から検査され、測伸法でボルトの締結管理を行うことに妥当性があると見極められた場合に限り、測伸法によるボルトの締付けが続行されるから、測伸法によって目標軸力が精度よく安定して達成されることとなる。
【0025】
その場合に、ボルト伸び量が前記中間伸び量に到達したときに得られる軸力と同じ値の軸力が、ボルト締付角度が何度のときに達成されるかを予め算出しておき、その算出したボルト角度を基準として前記許容範囲を設定しておけば、前記被検査角度は該許容範囲に入るはずであるから、前記被検査角度が許容範囲を逸脱しているということは、締付け以外の別の要因(例えば摩擦熱)によるボルトの伸びが加わっているということ、あるいは、超音波センサとボルト頭部との密着不良等によりボルト伸び量の検出精度が低下しているということであるから、測伸法でボルトの締結管理を行うことに妥当性があるかどうかが合理的に見極められることとなる。
【0026】
次に、請求項2、請求項8に記載の発明によれば、前記被検査角度が許容範囲内にないときの異常時処理の1例が具体化され、ボルトの着座後角度が目標角度に到達するまでボルトの締付けを続行するか、又は、ボルトの着座後角度が目標角度に到達かつボルトの締付トルクが目標トルクに到達するまでボルトの締付けを続行するようにしたから、測伸法でボルトの締結管理を行うことに妥当性がないと見極められた場合においても、角度法又はトルク−角度法によって目標軸力が精度よく安定して達成されることとなる。
【0027】
しかも、締付途中のボルトの締付けをそのまま続行するから、該ボルトの締付けが速やかに完了することとなる。
【0028】
次に、請求項3、請求項9に記載の発明によれば、前記被検査角度が許容範囲内にないときの異常時処理の別の例が具体化され、締付途中のボルトを着座前の状態まで弛めた後、この弛めたボルトを、着座後角度が目標角度に到達するまで締め付け直すか、又は、着座後角度が目標角度に到達かつ締付トルクが目標トルクに到達するまで締め付け直すようにしたから、測伸法でボルトの締結管理を行うことに妥当性がないと見極められた場合においても、角度法又はトルク−角度法によって目標軸力が精度よく安定して達成されることとなる。
【0029】
しかも、締付途中のボルトをいったん弛めて締め付け直すから、請求項3の方法における各工程を実行するための制御プログラムあるいは請求項9の装置における各手段を実現するための制御プログラムが過度に複雑化することが回避される。
【0030】
次に、請求項4、請求項10に記載の発明によれば、前記被検査角度が許容範囲内にないときの異常時処理のさらに別の例が具体化され、被検査角度が許容範囲を大きい側に逸脱しているときは目標伸び量を小さい側に補正し、被検査角度が許容範囲を小さい側に逸脱しているときは目標伸び量を大きい側に補正した後、この補正した目標伸び量にボルト伸び量が到達するまでボルトの締付けを続行するようにしたから、測伸法でボルトの締結管理を行うことに妥当性がないと見極められた場合においても、目標伸び量を妥当性が回復する方向に補正することによって、測伸法により目標軸力が精度よく安定して達成されることとなる。
【0031】
しかも、締付途中のボルトの締付けをそのまま続行するから、該ボルトの締付けが速やかに完了することとなる。
【0032】
次に、請求項5、請求項11に記載の発明によれば、着座前のボルト伸び量が所定の許容範囲内にあるときに限り、ボルトの締付けを続行するようにしたから、比較的早い段階で、測伸法でボルトの締結管理を行うことに妥当性があるかどうかが見極められることとなる。
【0033】
その場合に、着座前はボルトの締付けによるボルトの伸びが発生することがないから、着座前のボルト伸び量が許容範囲を逸脱しているということは、ボルトが締付け以外の別の要因(例えば摩擦熱)で伸びを起こしているということであるから、測伸法でボルトの締結管理を行うことに妥当性があるかどうかが合理的に見極められることとなる。
【0034】
次に、請求項6、請求項12に記載の発明によれば、ボルトの軸力をボルトの伸び量から求める場合に用いる比例係数を、例えばボルトへの荷重の増加量とボルトの伸び量とから設定せずに、ボルトに負荷した荷重の減少量とボルトの縮み量とから設定したから、たとえ比例係数設定時の被検査体毎に強度や転位が異なっていても、荷重の減少量とボルトの縮み量との関係を表す弾性勾配は安定することから、伸び量の検出結果ひいては比例係数の算出結果の変動が少なくて済み、ボルト伸び量と軸力との比例係数が精度よく設定されることとなる。以下、発明の最良の実施の形態を通して本発明をさらに詳しく説述する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図1は、本実施形態に係るボルト締結装置1のブロック構成図である。このボルト締結装置1は、主たる構成要素として、軸力測定装置20、ナットランナ30及びナットランナ駆動装置40を有している。
【0036】
軸力測定装置20は、超音波パルス送受信部22、データ記憶部23、表示部24及び制御部21を備えている。
【0037】
超音波パルス送受信部22は、超音波センサ12と接続され、該センサ12からの超音波パルス信号の送信及び該センサ12による超音波反射パルス信号の受信を行う。
【0038】
データ記憶部23は、ボルト10の締結に必要な各種データを予め記憶している。そのようなデータとしては、例えば、ボルト10の初期長さL0、ボルト10の伸び量δと軸力Fとの比例係数α(図2参照)、ボルト10の着座後の締付角度θaと軸力Fとの比例係数K(図8参照)、ボルト10の目標伸び量δf、ボルト10の目標軸力Ff、伸び量δに基く締結動作(測伸法)に妥当性がないと判定されたときのための目標角度θf、同じく伸び量δに基く締結動作(測伸法)に妥当性がないと判定されたときのための目標トルクTf、被検査角度 Δθを検出するためのボルト10の中間伸び量δ1、着座前ボルト伸び量δaの許容範囲A、被検査角度 Δθの許容範囲B等が含まれる。
【0039】
表示部24は、ボルト10の締結動作中、種々の情報を画面に表示して作業員に情報提供する。本実施形態において、表示部24が表示する最も重要な情報の1つに、測伸法でボルト10の締結管理を行うことに妥当性があるか否かの判定結果に関する情報がある(図9のステップS7、S20、S14、S21参照)。
【0040】
ナットランナ駆動装置40は、ナットランナ30の角度エンコーダ31から出力されるボルト10の角度信号及びナットランナ30のトルクセンサ33から出力されるボルト10の締付トルク信号を入力し、ナットランナ30のモータ32に駆動信号を出力する。
【0041】
ナットランナ駆動装置40と軸力測定装置20の制御部21とは、相互に情報交換が可能に接続されている。
【0042】
被締結物13,13を締結するためにナットランナ30で締め付けられるボルト10の頭部にソケット11が被せられ、このソケット11にボルト10の頭部に密着するように超音波センサ12が組み込まれている。超音波センサ12は、ボルト10の先端部に向けてボルト10の内部に超音波パルス信号を送信し、ボルト10の先端部で反射した反射パルス信号を受信する。そして、軸力測定装置20の制御部21は、その送信から受信までの時間に基きボルト10の長さを検出し、ボルト10の初期長さL0と比較して、ボルト10の締付けに伴うボルト10の伸び量δを検出する。
【0043】
図2に示すように、ボルト10の伸び量δとボルト10の軸力Fとは比例関係にあり、ボルト10の伸び量δが大きくなるほどボルト10の軸力Fが大きくなる。そして、その比例係数αが予め実験的に設定されて、軸力測定装置20のデータ記憶部23に記憶されている。次に、図3〜図7を参照して、本実施形態における前記比例係数αの設定の仕方を説明する。
【0044】
図3に示すように、被検査体であるボルト10にナットを螺合して、引っ張り荷重Wを負荷させる。ある荷重Wを負荷させたときのボルト10の長さL1(前述したように超音波センサ12を用いて検出する)からボルト10の初期長さL0を減じた値が伸び量δであり、前記荷重Wとこの伸び量δとの比率が比例係数αとなる。従来は、無負荷の初期状態(ボルト長さ=L0)から荷重Wを増加させたときのボルト長さL1を検出して伸び量δを検出するのが通例であった。
【0045】
しかし、この方法では、ボルト10の初期長さL0が固定であるから、例えば図4に示すように、被検査体の強度の大小に起因して負荷時のボルト長さL1が大きく変動した場合に、伸び量δの検出結果(L1−L0)ひいては比例係数αの設定結果が大きく変動するという問題がある。
【0046】
同様に、例えば図5に示すように、被検査体の転位の有無に起因して負荷時のボルト長さL1が大きく変動した場合にも、伸び量δの検出結果(L1−L0)ひいては比例係数αの設定結果が大きく変動するという問題がある。
【0047】
そこで、本実施形態では、荷重Wを負荷した状態(ボルト長さ=L1)から荷重Wを減少させて無負荷としたときのボルト長さL0を検出して、その縮み量から伸び量δを算出するようにした。これにより、被検査体毎に強度や転位が異なっていても、図6及び図7に示すように、荷重Wの減少量とボルト10の縮み量との関係を表す弾性勾配は安定することから、伸び量δの検出結果(L1−L0)ひいては比例係数αの設定結果がそれほど変動せず、ボルト10の伸び量δと軸力Fとの比例係数αを精度よく設定できることとなる。
【0048】
ここで、図8に示すように、ボルト10の締結動作中の着座後の締付角度θを横軸(X軸)にとり、ボルト10の軸力Fを縦軸(Y軸)にとれば、その傾きがボルト10の締付角度θと軸力Fとの比例係数Kとなる。その場合に、比例係数Kは、図示したように、ボルト10のネジピッチP、被締結物13のバネ定数Kt及びボルト10のバネ定数Kcから求められる。
【0049】
次に、図9に示すフローチャートに従って、本実施形態に係るボルト締結方法を説明する。
【0050】
まず、ステップS1で、各種数値を初期設定する。つまり、軸力測定装置20のデータ記憶部23に前述したようなボルト10の初期長さL0等の各種データを登録したり、前回のボルト10の締結動作で更新し使用した各種パラメータ等をリセットするのである。
【0051】
次いで、ステップS2で、ナットランナ30を駆動してボルト10の締付けを開始し、ステップS3で、ボルト10が着座したか否かを判定する(例えばトルクセンサ33でトルクTが発生したと検出されたことで判定する)。着座しないうちは締付けを継続し、着座すればステップS4で締付けを停止した後、ステップS5で、締付け開始からボルト10が着座するまでのボルト10の伸び量δaを検出する。
【0052】
次いで、ステップS6で、着座前ボルト伸び量δaが許容範囲A内にあるか否かを判定し、その結果、許容範囲A内にあるときは、ステップS7で正常判定(測伸法でボルト10の締結管理を行うことに妥当性があるという判定)を行い、ステップS8で、締付途中のボルト10の締付けを再開する。一方、許容範囲A内にないときは、ステップS20で異常判定(測伸法でボルト10の締結管理を行うことに妥当性がないという判定)を行い、異常時処理へ移行する。この異常時処理については、図10〜図11を参照して後述する。
【0053】
ボルト10の締付けを再開したときは、次いで、ステップS9で、ボルト10の伸び量δbを検出する。この伸び量δbは、締付け開始からの伸び量である。
【0054】
次いで、ステップS10で、ボルト伸び量δbが中間伸び量δ1に到達したか否かを判定する。この中間伸び量δ1は、ボルト10の目標伸び量δfより小さい値である。到達しないうちは締付けを継続し、到達すればステップS11で締付けを停止した後、ステップS12で、ボルト10が着座してからボルト伸び量δbが中間伸び量δ1に到達するまでのボルト10の締付角度、すなわち被検査角度 Δθを検出する。
【0055】
次いで、ステップS13で、被検査角度 Δθが許容範囲B内にあるか否かを判定し、その結果、許容範囲B内にあるときは、ステップS14で正常判定(測伸法でボルト10の締結管理を行うことに妥当性があるという判定)を行い、ステップS15で、締付途中のボルト10の締付けを再開する。一方、許容範囲B内にないときは、ステップS21で異常判定(測伸法でボルト10の締結管理を行うことに妥当性がないという判定)を行い、異常時処理へ移行する。この異常時処理については、図10〜図12を参照して後述する。
【0056】
ここで、前記許容範囲Bは、例えば、ボルト伸び量δbが中間伸び量δ1に到達したときに得られる軸力F1(図13参照)と同じ値の軸力が、ボルト締付角度が何度のときに達成されるかを予め算出しておき、その算出したボルト締付角度を基準として設定されたものである。
【0057】
ボルト10の締付けを再開したときは、次いで、ステップS16で、ボルト10の伸び量δbを検出する。この伸び量δbは、締付け開始からの伸び量である。
【0058】
次いで、ステップS17で、ボルト伸び量δbが目標伸び量δfに到達したか否かを判定する。到達しないうちは締付けを継続し、到達すればステップS18で目標軸力Ffの到達を判定した後、ステップS19で締付けの完了を判定して、エンドとなる。
【0059】
図10は、ステップS20又はS21で異常判定されたときの異常時処理の1例を示すフローチャートであって、(a)は目標を締付角度に変更する場合(角度法でボルト10の締結管理を行う場合)、(b)は目標をトルク及び角度に変更する場合(トルク−角度法でボルト10の締結管理を行う場合)である。
【0060】
すなわち、角度法に切り替えてボルト10の締結管理を行う場合は、ステップS31で、締付途中のボルト10の締付けを再開した後、ステップS32で、着座後のボルト角度θaを検出する。
【0061】
次いで、ステップS33で、着座後角度θaが目標角度θfに到達したか否かを判定する。到達しないうちは締付けを継続し、到達すればステップS34で目標軸力Ffの到達を判定した後、ステップS35で締付けの完了を判定して、エンドとなる。
【0062】
一方、トルク−角度法に切り替えてボルト10の締結管理を行う場合は、ステップS41で、締付途中のボルト10の締付けを再開した後、ステップS42で、締付トルクTを検出し、ステップS43で、着座後のボルト角度θaを検出する。
【0063】
次いで、ステップS44で、締付トルクTが目標トルクTfに到達かつ着座後角度θaが目標角度θfに到達したか否かを判定する。到達しないうちは締付けを継続し、両方とも到達すればステップS45で目標軸力Ffの到達を判定した後、ステップS46で締付けの完了を判定して、エンドとなる。
【0064】
図11は、ステップS20又はS21で異常判定されたときの異常時処理の別の例を示すフローチャートであって、(a)は目標を締付角度に変更する場合(角度法でボルト10の締結管理を行う場合)、(b)は目標をトルク及び角度に変更する場合(トルク−角度法でボルト10の締結管理を行う場合)である。
【0065】
すなわち、角度法に切り替えてボルト10の締結管理を行う場合は、ステップS51で、締付途中のボルト10をいったん着座前の状態まで弛めた後、ステップS52で、弛めたボルト10の締め付け直しを開始し、ステップS53で、着座後のボルト角度θaを検出する。
【0066】
次いで、ステップS54で、着座後角度θaが目標角度θfに到達したか否かを判定する。到達しないうちは締付けを継続し、到達すればステップS55で目標軸力Ffの到達を判定した後、ステップS56で締付けの完了を判定して、エンドとなる。
【0067】
一方、トルク−角度法に切り替えてボルト10の締結管理を行う場合は、ステップS61で、締付途中のボルト10をいったん着座前の状態まで弛めた後、ステップS62で、弛めたボルト10の締め付け直しを開始し、ステップS63で、締付トルクTを検出し、ステップS64で、着座後のボルト締付角度θaを検出する。
【0068】
次いで、ステップS65で、締付トルクTが目標トルクTfに到達かつ着座後角度θaが目標角度θfに到達したか否かを判定する。到達しないうちは締付けを継続し、両方とも到達すればステップS66で目標軸力Ffの到達を判定した後、ステップS67で締付けの完了を判定して、エンドとなる。
【0069】
図12は、ステップS21で異常判定されたときの異常時処理のさらに別の例を示すフローチャートである。
【0070】
すなわち、ステップS71で、被検査角度 Δθが許容範囲Bを大きい側に逸脱しているか又は小さい側に逸脱しているかを判定し、大きい側に逸脱しているときは、ステップS72で、ボルト10の目標伸び量δfを小さい側に補正し、逆に、小さい側に逸脱しているときは、ステップS73で、ボルト10の目標伸び量δfを大きい側に補正する。
【0071】
次いで、ステップS74で、締付途中のボルト10の締付けを再開した後、ステップS75で、ボルト10の伸び量δbを検出する。この伸び量δbは、締付け開始からの伸び量である。
【0072】
次いで、ステップS76で、ボルト伸び量δbが目標伸び量δfに到達したか否かを判定する。到達しないうちは締付けを継続し、到達すればステップS77で目標軸力Ffの到達を判定した後、ステップS78で締付けの完了を判定して、エンドとなる。
【0073】
図13は、ステップS6で着座前ボルト伸び量δaが正常判定され、かつステップS13で被検査角度 Δθが正常判定される場合の1例を示すタイムチャートである。
【0074】
時刻t1にボルト10の締付けが開始されてから(ステップS2)、時刻t2にボルト10が着座するまで(ステップS4)、トルクセンサ33で検出されるトルクT、超音波センサ12で検出されるボルト伸び量δ、角度エンコーダ31で検出されるボルト締付角度θ、及び、ボルト伸び量δから算出される軸力Fは、いずれも零で推移する(着座時検出トルクT0、着座時検出伸び量δ0、着座時検出角度θ0、着座時算出軸力F0)。
【0075】
着座後、時刻t3にボルト伸び量δbが中間伸び量δ1に到達したときに(ステップS11)、トルクセンサ33で検出されるトルクはT1、角度エンコーダ31で検出されるボルト締付角度はθ1、及び、中間伸び量δ1から算出される軸力はF1であり、特に、ボルト角度θ1とボルト角度θ0との差分が被検査角度 Δθとなる。
【0076】
測伸法でボルト10の締結管理を完遂したことにより、時刻t4にボルト伸び量δbが目標伸び量δfに到達したときに(ステップS18)、トルクセンサ33で検出されるトルクは目標トルクTf、角度エンコーダ31で検出されるボルト締付角度は目標角度θf、及び、目標伸び量δfから算出される軸力は目標軸力F1となる。
【0077】
これに対し、図14は、ステップS6で着座前ボルト伸び量δaが異常判定される場合の1例を示すタイムチャートである。
【0078】
この場合、時刻t1にボルト10の締付けが開始されてから(ステップS2)、時刻t2にボルト10が着座するまで(ステップS4)の間に、ボルト10が締付け以外の別の要因(例えば摩擦熱)で伸びを起こし、着座時検出伸び量δ0が零よりも大きい値となっている。それゆえ、着座前ボルト伸び量δaが異常判定され(ステップS20)、異常時処理に移行することとなる。
【0079】
また、着座時検出伸び量δ0が零よりも大きい値となっている結果、ボルト10の伸び量がその分加算されて、ボルト伸び量δbが中間伸び量δ1に到達する時刻txが正常時時刻t3よりも早くなり、その時刻txでは、検出トルクT1及び検出角度θ1は正常時の値よりも小さく、したがって、被検査角度 Δθは正常時の値よりも小さくなる。それゆえ、もし仮に着座前ボルト伸び量δaが異常判定されなくても、被検査角度 Δθが異常判定され(ステップS21)、異常時処理に移行することとなる。
【0080】
さらに、図15は、ステップS6で着座前ボルト伸び量δaが正常判定されるが、ステップS13で被検査角度 Δθが異常判定される場合の1例を示すタイムチャートである。
【0081】
この場合、時刻t1にボルト10の締付けが開始されてから(ステップS2)、時刻t2にボルト10が着座するまでは(ステップS4)、検出伸び量δは零で推移し、着座時検出伸び量δ0は零であるが、着座後、締付け以外の別の要因(例えば摩擦熱)によるボルト10の伸びが加わったり、あるいは、超音波センサ12とボルト頭部との密着不良等によりボルト伸び量δの検出精度が低下したりして、検出伸び量δの増加が大きくなっている。
【0082】
その結果、ボルト伸び量δbが中間伸び量δ1に到達する時刻tyが正常時時刻t3よりも早くなり、その時刻tyでは、検出トルクT1及び検出角度θ1は正常時の値よりも小さく、したがって、被検査角度 Δθは正常時の値よりも小さくなる。それゆえ、被検査角度 Δθが異常判定され(ステップS21)、異常時処理に移行することとなる。
【0083】
以上のように、本実施形態においては、ボルト10の軸力Fが目標軸力Ffとなるようにボルト10を締結する場合に、ボルト10が着座してから、ボルト伸び量δbが目標伸び量δfより小さい中間伸び量δ1に到達するまでのボルトの締付角度(被検査角度) Δθを検出し(ステップS12)、この被検査角度 Δθが許容範囲B内にあるときに限り(ステップS13でYES)、ボルト伸び量δbが目標伸び量δfに到達するまでボルト10の締付けが続行されることとなる(ステップS14)。
【0084】
したがって、ボルト伸び量δを唯一の拠り所としてボルト締結を管理する測伸法の妥当性の有無がボルト10の締付途中でボルト角度θから検査され、測伸法でボルト10の締結管理を行うことに妥当性があると見極められた場合に限り、測伸法によるボルト10の締付けが続行されるから、測伸法によって目標軸力Ffが精度よく安定して達成されることとなる。
【0085】
その場合に、ボルト伸び量δが中間伸び量δ1に到達したときに得られる軸力F1と同じ値の軸力が、ボルト角度θが何度のとき(図13のθ1)に達成されるかを予め算出しておき、その算出したボルト角度を基準として許容範囲Bを設定しておけば、被検査角度 Δθは該許容範囲Bに入るはずであるから、被検査角度 Δθが許容範囲Bを逸脱しているということは、締付け以外の別の要因(例えば摩擦熱)によるボルト10の伸びが加わっているということ、あるいは、超音波センサ12とボルト頭部との密着不良等によりボルト伸び量δの検出精度が低下しているということであるから、測伸法でボルト10の締結管理を行うことに妥当性があるかどうかが合理的に見極められることとなる(ステップS13)。
【0086】
また、被検査角度 Δθが許容範囲B内にないときの異常時処理(ステップS21)の1例として、ボルト10の着座後角度θaが目標角度θfに到達するまでボルト10の締付けを続行するか(図10(a)のステップS31〜S35参照)、又は、ボルト10の着座後角度θaが目標角度θfに到達かつボルト10の締付トルクTが目標トルクTfに到達するまでボルト10の締付けを続行するようにしたときには(図10(b)のステップS41〜S46参照)、測伸法でボルト10の締結管理を行うことに妥当性がないと見極められた場合においても、角度法又はトルク−角度法によって目標軸力Ffが精度よく安定して達成されることとなる。
【0087】
しかも、締付途中のボルト10の締付けをそのまま続行するから、該ボルト10の締付けが速やかに完了することとなる(ステップS35又はS46)。
【0088】
また、被検査角度 Δθが許容範囲B内にないときの異常時処理(ステップS21)の別の例として、締付途中のボルト10を着座前の状態まで弛めた(ステップS51又はS61)後、この弛めたボルト10を、着座後角度θaが目標角度θfに到達するまで締め付け直すか(図11(a)のステップS52〜S56参照)、又は、着座後角度θaが目標角度θfに到達かつ締付トルクTが目標トルクTfに到達するまで締め付け直すようにしたときには(図11(b)のステップS62〜S67参照)、測伸法でボルト10の締結管理を行うことに妥当性がないと見極められた場合においても、角度法又はトルク−角度法によって目標軸力Ffが精度よく安定して達成されることとなる。
【0089】
しかも、締付途中のボルト10をいったん弛めて締め付け直すから、図9及び図11の各ステップを実行するための制御プログラムが過度に複雑化することが回避される(ステップS56又はS67)。
【0090】
また、被検査角度 Δθが許容範囲B内にないときの異常時処理(ステップS21)のさらに別の例として、被検査角度 Δθが許容範囲Bを大きい側に逸脱しているときは目標伸び量δfを小さい側に補正(図12のステップS71及びS72参照)し、被検査角度 Δθが許容範囲Bを小さい側に逸脱しているときは目標伸び量δfを大きい側に補正(図12のステップS71及びS73参照)した後、この補正した目標伸び量δfにボルト伸び量δbが到達するまでボルト10の締付けを続行するようにしたときには(図12のステップS74〜S78参照)、測伸法でボルト10の締結管理を行うことに妥当性がないと見極められた場合においても、目標伸び量δfを妥当性が回復する方向に補正することによって、測伸法により目標軸力Ffが精度よく安定して達成されることとなる。
【0091】
しかも、締付途中のボルト10の締付けをそのまま続行するから、該ボルト10の締付けが速やかに完了することとなる(ステップS78)。
【0092】
また、着座前ボルト伸び量δaが許容範囲A内にあるときに限り(ステップS6でYES)、ボルト10の締付けを続行する(ステップS7)ようにしたから、比較的早い段階で、測伸法でボルト10の締結管理を行うことに妥当性があるかどうかが見極められることとなる。
【0093】
なお、着座前ボルト伸び量δaが許容範囲A内にないときの異常時処理(ステップS20)は、前述したように、図10に示した動作又は図11に示した動作が適用される。
【0094】
その場合に、着座前はボルト10の締付けによるボルト10の伸びδが発生することがないから、着座前ボルト伸び量δaが許容範囲Aを逸脱しているということは、ボルト10が締付け以外の別の要因(例えば摩擦熱)で伸びを起こしているということであるから、測伸法でボルト10の締結管理を行うことに妥当性があるかどうかが合理的に見極められることとなる。
【0095】
そして、ボルト10の軸力Fをボルト10の伸び量δから求める場合に用いる比例係数α(図2参照)を、ボルト10への荷重Wの増加量とボルト10の伸び量とから設定せずに、ボルト10に負荷した荷重Wの減少量とボルト10の縮み量とから設定したから(図6、図7参照)、たとえ比例係数α設定時の被検査体毎に強度や転位が異なっていても、荷重Wの減少量とボルト10の縮み量との関係を表す弾性勾配は安定することから、伸び量δの検出結果ひいては比例係数αの算出結果の変動が少なくて済み、ボルト伸び量δと軸力Fとの比例係数αが精度よく設定されることとなる。
【0096】
なお、前記実施形態では、ステップS3のボルト10の着座を締付トルクTの発生で判定したが、トルク発生後のトルクTの変化率から遡及して判定することも可能である。
【0097】
また、前記実施形態では、ステップS6、S13の妥当性判定の前にボルト10の締付けをいったん停止したが(ステップS4、S11)、ボルト10の締付け速度が比較的遅いときは、別段停止しなくても構わない。
【0098】
また、前記実施形態では、ボルト10の伸び量δが増大することが原因で測伸法に妥当性が欠ける場合を説明したが、逆に、何等かの理由で締付作業中にボルト10が急冷されたり、あるいはボルト伸び量δの検出精度が低下して、ボルト10の伸び量δが減少することが原因で測伸法に妥当性が欠ける場合においても、本発明は良好に適用され、機能するものである。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上、具体例を挙げて詳しく説明したように、本発明は、測伸法でボルトの締結管理を行うことに妥当性があるかどうかをボルトの締付途中でボルト角度から見極め、妥当性がある場合に限り、測伸法でボルトの締結管理を実行することにより、目標軸力を精度よく安定して達成することが可能な技術であるから、ボルト締結方法及びその装置の技術分野において広範な産業上の利用可能性が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の最良の実施形態に係るボルト締結装置のブロック構成図である。
【図2】ボルト伸び量と軸力との関係を示すグラフである。
【図3】ボルト伸び量と軸力との比例係数を予め実験的に設定する原理の説明図である。
【図4】ボルト強度が異なる場合のボルト伸び量と荷重増加量との関係を示すグラフである。
【図5】ボルト転位が異なる場合のボルト伸び量と荷重増加量との関係を示すグラフである。
【図6】ボルト強度が異なる場合のボルト縮み量と荷重減少量との関係を示すグラフである。
【図7】ボルト転位が異なる場合のボルト縮み量と荷重減少量との関係を示すグラフである。
【図8】ボルト締付角度と軸力との関係を示すグラフである。
【図9】本発明の最良の実施形態に係るボルト締結方法の1例を示すフローチャートである。
【図10】前記ボルト締結方法で異常判定されたときの異常時処理の1例を示すフローチャートであって、(a)は目標を締付角度に変更するもの(角度法)、(b)は目標をトルク及び角度に変更するもの(トルク−角度法)である。
【図11】前記ボルト締結方法で異常判定されたときの異常時処理の別の例を示すフローチャートであって、(a)は目標を締付角度に変更するもの(角度法)、(b)は目標を角度及びトルクに変更するもの(トルク−角度法)である。
【図12】前記ボルト締結方法で異常判定されたときの異常時処理のさらに別の例を示すフローチャートである。
【図13】前記ボルト締結方法で着座前ボルト伸び量及び被検査角度がいずれも正常判定されるときの1例を示すタイムチャートである。
【図14】前記ボルト締結方法で着座前ボルト伸び量が異常判定されるときの1例を示すタイムチャートである。
【図15】前記ボルト締結方法で着座前ボルト伸び量が正常判定され被検査角度が異常判定されるときの1例を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0101】
1 ボルト締結装置
10 ボルト
12 超音波センサ
20 軸力測定装置
21 制御部
23 データ記憶部
24 表示部
30 ナットランナ
31 角度エンコーダ
33 トルクセンサ
S3 着座検出工程、着座検出手段
S5 着座前伸び量検出工程、着座前伸び量検出手段
S7 第2の締付続行工程、第2の締付続行手段
S10 中間伸び量到達検出工程、中間伸び量到達検出手段
S12 締付角度検出工程、締付角度検出手段
S14 締付続行工程、締付続行手段
S20 第2の異常時処理工程、第2の異常時処理手段
S21 異常時処理工程、異常時処理手段
S31〜S35又はS41〜S46 ボルトの締付けを続行する工程、ボルトの締付けを続行する手段
S51又はS61 着座前の状態まで弛める工程、着座前の状態まで弛める手段
S52〜S56又はS62〜S67 締め付け直す工程、締め付け直す手段
S71及びS72、又はS71及びS73 補正する工程、補正する手段
S74〜S78 ボルトの締付けを続行する工程、ボルトの締付けを続行する手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトの軸力が目標軸力となるようにボルトを締結する方法であって、
ボルトの締付途中でボルトの着座を検出する着座検出工程と、
ボルト伸び量が目標伸び量より小さい所定の中間伸び量に到達したことを検出する中間伸び量到達検出工程と、
前記着座検出工程でボルトの着座を検出してから、前記中間伸び量到達検出工程でボルト伸び量が中間伸び量に到達したことを検出するまでのボルトの締付角度を検出する締付角度検出工程と、
この締付角度検出工程で検出したボルトの締付角度が所定の許容範囲内にあるときはボルト伸び量が目標伸び量に到達するまでボルトの締付けを続行する締付続行工程と、
前記締付角度検出工程で検出したボルトの締付角度が所定の許容範囲内にないときは異常時の処理を行う異常時処理工程と
を有することを特徴とするボルト締結方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載のボルト締結方法であって、
前記異常時処理工程は、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達、又は、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達かつボルトの締付トルクが目標トルクに到達するまでボルトの締付けを続行する工程を含むことを特徴とするボルト締結方法。
【請求項3】
前記請求項1に記載のボルト締結方法であって、
前記異常時処理工程は、締付途中のボルトを着座前の状態まで弛める工程と、この工程で弛めたボルトを、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達、又は、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達かつボルトの締付トルクが目標トルクに到達するまで締め付け直す工程とを含むことを特徴とするボルト締結方法。
【請求項4】
前記請求項1に記載のボルト締結方法であって、
前記異常時処理工程は、前記締付角度検出工程で検出したボルトの締付角度が前記許容範囲を大きい側に逸脱しているときは前記目標伸び量を小さい側に補正し、前記締付角度検出工程で検出したボルトの締付角度が前記許容範囲を小さい側に逸脱しているときは前記目標伸び量を大きい側に補正する工程と、ボルト伸び量が前記工程で補正した目標伸び量に到達するまでボルトの締付けを続行する工程とを含むことを特徴とするボルト締結方法。
【請求項5】
前記請求項1から4のいずれか1項に記載のボルト締結方法であって、
前記着座検出工程でボルトの着座を検出するまでのボルト伸び量を検出する着座前伸び量検出工程と、
この着座前伸び量検出工程で検出したボルト伸び量が所定の許容範囲内にあるときはボルトの締付けを続行する第2の締付続行工程と、
前記着座前伸び量検出工程で検出したボルト伸び量が所定の許容範囲内にないときは異常時の処理を行う第2の異常時処理工程と
をさらに有することを特徴とするボルト締結方法。
【請求項6】
前記請求項1から5のいずれか1項に記載のボルト締結方法であって、
ボルトの軸力は、ボルトに負荷した荷重の減少量とボルトの縮み量とから予め設定した比例係数と、ボルトの伸び量とに基いて求めることを特徴とするボルト締結方法。
【請求項7】
ボルトの軸力が目標軸力となるようにボルトを締結する装置であって、
ボルトの締付途中でボルトの着座を検出する着座検出手段と、
ボルト伸び量が目標伸び量より小さい所定の中間伸び量に到達したことを検出する中間伸び量到達検出手段と、
前記着座検出手段でボルトの着座を検出してから、前記中間伸び量到達検出手段でボルト伸び量が中間伸び量に到達したことを検出するまでのボルトの締付角度を検出する締付角度検出手段と、
この締付角度検出手段で検出したボルトの締付角度が所定の許容範囲内にあるときはボルト伸び量が目標伸び量に到達するまでボルトの締付けを続行する締付続行手段と、
前記締付角度検出手段で検出したボルトの締付角度が所定の許容範囲内にないときは異常時の処理を行う異常時処理手段と
を有することを特徴とするボルト締結装置。
【請求項8】
前記請求項7に記載のボルト締結装置であって、
前記異常時処理手段は、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達、又は、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達かつボルトの締付トルクが目標トルクに到達するまでボルトの締付けを続行する手段を含むことを特徴とするボルト締結装置。
【請求項9】
前記請求項7に記載のボルト締結装置であって、
前記異常時処理手段は、締付途中のボルトを着座前の状態まで弛める手段と、この手段で弛めたボルトを、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達、又は、着座後のボルトの締付角度が目標締付角度に到達かつボルトの締付トルクが目標トルクに到達するまで締め付け直す手段とを含むことを特徴とするボルト締結装置。
【請求項10】
前記請求項7に記載のボルト締結装置であって、
前記異常時処理手段は、前記締付角度検出手段で検出したボルトの締付角度が前記許容範囲を大きい側に逸脱しているときは前記目標伸び量を小さい側に補正し、前記締付角度検出工程で検出したボルトの締付角度が前記許容範囲を小さい側に逸脱しているときは前記目標伸び量を大きい側に補正する手段と、ボルト伸び量が前記手段で補正した目標伸び量に到達するまでボルトの締付けを続行する手段とを含むことを特徴とするボルト締結装置。
【請求項11】
前記請求項7から10のいずれか1項に記載のボルト締結装置であって、
前記着座検出手段でボルトの着座を検出するまでのボルト伸び量を検出する着座前伸び量検出手段と、
この着座前伸び量検出手段で検出したボルト伸び量が所定の許容範囲内にあるときはボルトの締付けを続行する第2の締付続行手段と、
前記着座前伸び量検出手段で検出したボルト伸び量が所定の許容範囲内にないときは異常時の処理を行う第2の異常時処理手段と
をさらに有することを特徴とするボルト締結装置。
【請求項12】
前記請求項7から11のいずれか1項に記載のボルト締結装置であって、
ボルトの軸力は、ボルトに負荷した荷重の減少量とボルトの縮み量とから予め設定した比例係数と、ボルトの伸び量とに基いて求めることを特徴とするボルト締結装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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