説明

ボンディングワイヤ及びその製造方法

【課題】集積回路間の縮小化の要求に応えた、安定した接合強度を有する純銅にPdを被覆したボンディングワイヤを提供する。
【解決手段】集積回路素子電極aと回路配線基板導体配線cをボールボンディング法によって接続するための線径L50.8μm以下のボンディングワイヤWである。芯材1がPを10〜50質量ppm含有し、残部が銅及び不可避不純物からなり、その芯材1の外周全面に、Pdによる厚みt:0.04〜0.09μmの被覆層2を形成し、さらにその表面に0.0001〜0.0005μm厚tの炭素濃縮層3を形成する。また、室温での引張試験による引張強さTSと250℃での引張試験による引張強さTSの比(HR=TSH/TSR×100)を50〜70%とする。その炭素濃縮層3は、伸線時の潤滑剤の洗浄度合によって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、IC、LSI、トランジスタ等の集積回路素子上の電極と、リードフレーム、セラミック基板、プリント基板等の回路配線基板の導体配線とをボールボンディング法によって接続するためのボンディングワイヤ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のボールボンディング法による接続方法は、図3(a)〜(h)に示す態様が一般的であり、同図(a)に示す、ワイヤWがキャピラリー10aに挿通されてその先端にボール(FAB:Free Air Ball)bが形成された状態から、クランプ10bが開いて、キャピラリー10aが集積回路素子上の電極aに向かって降下する。このとき、ボール(FAB)bはキャピラリー10a内に捕捉され、電極aにボンディングされる。
【0003】
ターゲットである電極aにボールbが接触すると(キャピラリー10aが電極aに至ると)キャピラリー10aがボールbをグリップし、ボールbに熱・荷重・超音波を与え、それによってボールbが圧着されて(圧着ボールb’となって)と電極aと固相接合され、1stボンドが形成されて電極aと接着する(同図(b))。
1stボンドが形成されれば、キャピラリー10aは、一定高さまで上昇した後(同図(c))、導体配線cの真上まで移動する(同図(d)〜(e))。このとき、安定したループを形成するため、キャピラリー10aに特殊な動きをさせてワイヤWに「くせ」を付ける動作をする場合がある(同図(d)の鎖線から実線参照)。
【0004】
導体配線cの真上に至ったキャピラリー10aは、導体配線cに向かって降下し、ワイヤWを導体配線(2ndターゲット)cに押付ける(同図(e)〜(f))。これと同時に、その押付け部位に熱・荷重・超音波を与え、それによってワイヤWを変形させ、ワイヤWを導体配線c上に接合させるためのステッチボンドと、次のステップでテイルを確保するテイルボンドを形成する(同図(f))。
【0005】
その両ボンドを形成した後、キャピラリー10aはワイヤWを残したまま上昇し、キャピラリー10aの先端に一定の長さのテイルを確保した後、クランプ10bを閉じて(ワイヤWをつかんで)、テイルボンドの部分からワイヤWを引きちぎる(同図(g))。
【0006】
キャピラリー10aは、所要の高さまで上昇すると停止し、そのキャピラリー10aの先端に確保されたワイヤWの先端部分に、放電棒gでもって高電圧を掛けて火花を飛ばし(放電し)、その熱でワイヤWを溶かし、この溶けたワイヤ素材は表面張力によって球状に近いボールbになって固まる(同図(h))。
【0007】
以上の作用で一サイクルが終了し、以後、同様な作用によって、電極aと導体配線cのボールボンディング法による接続がなされる。
【0008】
このボールボンディング法による接続において、ボンディングワイヤWには、金線が主に使用されるが、金は高価であるため、近年、銅純度99.99質量%以上の安価な銅線を使用することが行われている。そのとき、銅は裸のままでは、表面の酸化が起こり易いことから、図4に示すように、銅線からなる芯線1に耐酸化金属2を被覆したものが使用されている。
その被覆金属(被覆層)2としては、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)等が採用されている(特許文献1〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−133361号公報
【特許文献2】特開2004−64033号公報
【特許文献3】特開2007−12776号公報
【特許文献4】特許第4542203号公報
【特許文献5】特許第4349641号公報
【0010】
この金属被覆の銅線からなるボンディングワイヤWにおいて、近年の電子部品の小型化等による集積回路素子間の極小化に伴い、上記ボールbもより小さくする必要から、ボンディングワイヤWにも小径のものが望まれ、そのためには、その径Lを50μm以下とするのが好ましいとされている(特許文献1段落0009)。
【0011】
また、集積回路素子の電極aへの接続において、ボールbが下向き槍状(逆円錐状)になっていると、上記ボールbの電極aへの押付け時、そのボールbの尖鋭端によって電極aを損傷させる恐れがあるため、ボールbはできるだけ、真球であることが好ましい。そのボールbの真球度を高めるために、上記被覆層2の厚みtを芯線(芯材1)径の0.001以下としたり(特許文献1請求項1)、同じく被覆層2の厚みtを0.001〜0.02μmとしたり(特許文献3請求項1)、同じく被覆層2の厚みtを0.021〜0.12μmとしたり(特許文献4請求項1)、芯材1の銅よりも高融点の耐酸化金属で被覆層2を形成したりしている(特許文献2段落0014)。また、被覆層2のPdまたはPtの周りにさらにAuの表皮層を設けることで真球度を高めることも提案されている。(特許文献5段落0011)
【0012】
さらに、有機基板をベースにしたBGA(Ball Grid Array)などでは加熱温度(ステージ温度)を高くすると、有機基板の反りが発生してボンディング性が著しく悪化する。このため、上記ワイヤWと電極a又は導体配線cとの接合時の加熱温度(ステージ温度)を低く、例えば、150℃程度にしても、十分な接合強度を担保するための種々の工夫、例えば、熱処理後に伸線する加工等もされている(特許文献3段落0020、同0054等)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上のように、耐酸化金属で銅線を被覆したボンディングワイヤWは、従来から、種々の工夫がなされてそれなりに好評を得ている。しかし、近年は低コスト化のため、作業の高速化が求められており、さらに接合強度を向上させる必要がある。
また、電子部品の小型化に伴い、ループを低背化(ループ高さ(図5のh)を低く)したり、限られたスペースに配線したりするために、多段に積層された電極aにボンディングしたりする必要がある。その多段積層の場合、一層目のボンディングは、そのループをできるだけ低くする必要があり、二層目以降は、その一層目以降のボンディングワイヤ(接続線)Wを超えてボンディングすることとなるから、従来より、高いループ(ループ高さh)を要求される。そのループを高くする際、通常、図3(d)鎖線で示す「くせ付け」が行われ、そのくせ付けがフレキシブルに行い得るワイヤWが求められている。
なお、特許文献4、5には、純銅からなる芯材1にP等を含有するものとするとともに、その外周全面にPd等を被覆したボンディングワイヤが開示されているが(同文献4、5 請求項1)、上記さらなる接合強度の向上や電子部品の小型化の要求には十分に応えていないのが実状である。
【0014】
この発明は、そのような実状の下、上記要求に応えることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を達成するために、この発明は、ボンディングワイヤWの線径Lを、50.8μm以下とし、純度99.99質量%以上の銅からなる芯材1の外周全面に、Pdによる厚みt:0.01〜0.09μmの被覆層2を形成したものとしたのである。
【0016】
ボンディングワイヤWの線径Lを、50.8μm以下としたのは、上述の特許文献1ではその径Lを50μm以下としているが、50.8μm以下であれば、50μm以下と変わらない程度でもって、上記ボールbをより小さくできるからである(実施例8参照)。
また、線径Lの下限は特に規定しないが、12μm未満ではボンディング前にオペレータがワイヤWをキャピラリー10aに通すのが困難になり、作業性が悪くなる。
芯材1の銅純度を99.99質量%以上(残部が不可避不純物)としたのは、高導電性を担保するためである。
【0017】
被覆層2の厚みtは薄いほど、ボールbの硬度が低くなり、Siチップ(電極a)の損傷の可能性が低くなるが、薄すぎると、ステッチボンド接合の際に芯材1の銅が露出する度合いが大きくなり、被覆層2を有さない銅ワイヤ程度のステッチボンド接合性しか発現できない。例えば、後述の実施例と比較例の実験結果から理解できるように、2回以上のマシンストップが生じる恐れがある。このため、その実施例と比較例の実験結果から、被覆層2の厚みtは0.01μm以上とする。
【0018】
なお、ステージ温度:150℃程の低温度でのボールボンディングの時には、連続ボンディング性の実験結果からその厚みtを0.04μm以上とする。ステージ温度を低くすると、ステッチボンド接合に要する荷重が大きくなり、被覆層2の厚みtが0.01μm以上から0.04μm未満の範囲では芯材1の銅が露出する度合いが大きくなり、連続ボンディング性が損なわれることがあるからである。
一方、被覆層2が厚いと、ボールbの硬度が高くなり、Siチップ(電極a)の損傷による不良の可能性が高くなる。このため、後記実施例と比較例の実験結果から、被覆層2の厚みtは0.09μm以下とする。
【0019】
被覆金属をPdとしたのは、これらの貴金属が電子材料の被覆材として一般的であり、入手が比較的容易であるからである。また、Pdの融点は1554℃と、銅の融点(1083℃)よりも高いのでボールbを作製するための放電棒gでの放電時にPdが先に溶けず、銅が溶融して表面張力によって真上にワイヤを這い上がっていき、良好な真球状のボールbを得ることができる。Pdの純度については、より純度が高いほどボールbの硬度を低くできるため、芯材1の純銅と同様に99.99質量%以上(残部が不可避不純物)とすることが好ましい。
【0020】
さらに、上記FABを形成する際に、被覆層2の表面が酸化すれば、FABが真球状にならないため、放電棒gでもって放電する際に通常は窒素ガスまたは窒素に微量の水素を混合させたガスをワイヤWの先端付近に吹き付ける。これらのガスが完全にワイヤWの先端を覆い、酸素が完全に除外されていれば問題はないが、高速での作業の必要から放電棒gでの放電が次のボンディングポジションへの移動中に行われることがあることや、ボンディング装置の構成上、ガスの吹き付け方法に制約があり、酸素を完全に除外することが難しいことなどから、混入した酸素の影響を取り除く必要がある。
【0021】
その酸素を取り除く手段として、ワイヤWの芯材1にPを10〜50質量ppm添加する。すなわち、芯材1にPを添加すれば、図3(h)で示す、放電棒gでもって放電してワイヤWの先端を溶融させると、下記の化学式に示す通り、Pが酸素(O)と反応してPとして飛散するため、結果として酸素を除去することができ、被覆層2や芯材1が酸化することなく、FABが安定的に真球状になる。
4CuP + 5O → 12Cu + 2P
このとき、そのPの添加量が10質量ppm未満であると、上記のような酸素を取り除く効果が十分でない。また、Pの添加量が50質量ppmを超えるとPが大量に生成し、大気中に飛散するため、微細な空孔がFAB表面に大量に発生し、この空孔が1stボンドの信頼性劣化の原因となる。また、多量のPを添加することによってFAB硬度が上がり、Siチップ(電極a)の損傷による不良の可能性が高くなる。
【0022】
これらの構成のボンディングワイヤWの製造方法には種々のものが採用できるが、例えば、純度99.99質量%以上のPを10〜50質量ppm含有した銅からなる芯材1の外周全面に、Pdによる被覆層2を形成し、その被覆線を拡散熱処理して芯材と被覆層の密着性を高めた後、線径50.8μm以下まで伸線し、さらに、調質熱処理を行って、被覆層2の厚みt:0.01〜0.09μmとした構成を採用できる。
【0023】
上記被覆層2は、電解メッキ、無電解メッキ、蒸着法等の周知の手段によって形成され、一般に、ワイヤWは大きな線径の銅ロッドをダイスと呼ばれるツールに順次貫通させていくことにより、所定の線径に仕上げられるため、この工程途中の適宜な線径で被覆層2を上記手段により形成する。このとき、被覆する際の芯材1の線径は作業性・コストにより決定されるが、製造装置の制限から0.2〜0.8mmが一般的である。外周全面にPdを被覆された被覆線は200〜500℃で拡散熱処理を施して前記芯材1と被覆層2の密着性を高めた後、線径50.8μm以下まで伸線することで、被覆層2の厚みt0.01〜0.09μmとすることができる。その後、ワイヤWに調質熱処理を施す。
【0024】
その調質熱処理は、所定の線径まで伸線を行いリールに巻きとられたワイヤWを、巻き戻して管状の熱処理炉中に走行させ、再び巻き取りリールで巻き取ることによって連続熱処理を行う。管状の熱処理炉中には窒素ガスもしくは窒素に微量の水素を混合させたガスを流す。また、その炉温度は400℃以上800℃以下として、走行速度は30〜90m/分で熱処理を行う。
【0025】
この調質熱処理において、後記の実施例と比較例の対比から、ワイヤWの室温(20〜25℃)での引張試験による引張強さTSと250℃での引張試験による引張強さTSの比HR(TS/TS×100)が50〜70%となるように調整することが好ましい。
通常、HRを50%未満にするには、室温での引張強さTSを高くする必要があるため、低温もしくは短時間で調質熱処理を行う。この場合、低温、短時間であることから、ワイヤWの銅の結晶組織は加工ひずみが残る微細組織となる。一方、上記図3(h)の放電棒gの放電によってそのワイヤWにボールbを形成する際、そのボールbからキャピラリー10aに向かってある長さのワイヤWは、溶融したのち再結晶した結晶組織の粗大化した熱影響部(図5のe参照)が生じる。このため、そのボールbから所要距離に結晶組織の境界ができる。この結晶組織の境界がループの途中にあるとその部分に亀裂が生じたり、場合によっては破断したりする不具合の原因となるため、ワイヤを高いループ形状(ループ高さ)でボンディングすることができなくなる。
また、HRが70%を超えるようにするためには、室温での引張強さTSを低くする必要があるため、高温もしくは長時間で調質熱処理を行う。この場合、高温、長時間であることから、ワイヤWの銅の結晶組織が粗大化して脆弱となり、ボンディング時のくせ付けする(わん曲)部分で結晶粒界から亀裂が生成したり破断したりする不具合の原因となる。
以上から、この発明によるワイヤWのHRを50〜70%とすれば、後記実施例と比較例の対比から、微細組織と粗大化した再結晶組織の境界が発生しないため、ループの途中で亀裂が生じることがなく、また、ワイヤWの結晶組織が粗大化していないため、くせ付けのときに結晶粒界から亀裂が生じることもない、と考える。このため、ワイヤWに亀裂が発生することなく、フレキシブルにくせ付けが可能になる。
【0026】
完成したワイヤWは所定のスプールに小分けされて巻き上げられ、このスプールをボンディング装置に取り付けてワイヤWを繰り出すことによってボンディングに使用するが、被覆層2の表面状態により、ワイヤW同士が密着し、繰り出しができなくなる可能性がある。特許文献4には被覆層2の表面に酸化層を設けることでこの繰り出し性を向上させると記述されているが、Pd表面の酸化層を制御することは実際には難しい。
そのワイヤWの密着を防ぐため、被覆層2表面に炭素濃縮層を設けることが好ましい。この炭素濃縮層の炭素濃度は1〜80質量%とする。その炭素濃度が1質量%未満では密着を防ぐ効果が発現できず、80質量%を超えると、ステッチボンド接合性が下がり、連続ボンディング性が損なわれる恐れがある。
【0027】
炭素濃縮層の形成には、ワイヤを金属密着防止剤に浸漬したり、ワイヤに金属密着防止剤を吹き付けたりなど様々な方法があるが、伸線潤滑剤の濃度を調整して伸線後のワイヤWの表面に潤滑剤が一部残るように、余分な伸線潤滑剤や異物などの除去を目的とした洗浄を行った後、調質熱処理を行うことで、前記一部残った潤滑剤からなる炭素濃縮層を設ける方法が経済的である。このとき、調質熱処理は大気中で行うとワイヤW上に残した伸線潤滑剤が酸素と反応して飛散してしまうため、窒素ガス中もしくは水素―窒素混合ガス中など酸素を遮断した状態で行うものとする。
後述の実施例と比較例の実験結果から、この炭素濃縮層の厚みが0.0001μm未満であると、上記の繰り出し性を向上させるには至らず、0.0005μmを超えると、ステッチボンド接合性が下がり、連続ボンディング性が損なわれる恐れがある。
【発明の効果】
【0028】
この発明は、以上のようにしたので、安定した接合強度を有する純銅にPdを被覆したボンディングワイヤを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明に係るボンディングワイヤの断面図
【図2a】HR:50〜70%のボンディングワイヤ表面結晶組織の顕微鏡写真図
【図2b】HR:50%未満のボンディングワイヤ表面結晶組織の顕微鏡写真図
【図2c】HR:70%を超えるボンディングワイヤ表面結晶組織の顕微鏡写真図
【図3】ボールボンディング接続法の説明図であり、(a)〜(h)はその途中図
【図4】他のボンディングワイヤの断面図
【図5】電極aと導体配線cのボンディング接続状態拡大図
【発明を実施するための形態】
【0030】
純度99.99質量%以上の銅にPが1〜61質量ppm添加された0.2〜0.8mm径の銅線を用意し、その銅線にPdを電解メッキ法によって被覆し、その被覆線に拡散熱処理を施して銅線(芯材)1と被覆層2の密着性を高めた後、水溶性の伸線潤滑剤を介在させて線径12〜50.8μmまで伸線し、さらに、引張強さの比HRが45〜75%となるように窒素ガス中で調質熱処理を行い、被覆層2の厚みt:0.006〜0.12μmのボンディングワイヤWを得た。このとき、伸線時の潤滑剤の濃度を調整するとともに、伸線後の洗浄において、ワイヤWの表面に潤滑剤が一部残るように余分な潤滑剤や異物などの除去した後、酸素遮断状態で、上記調質熱処理を行って、厚みt:0.0016μm以下の炭素濃縮層3を設けた。
【0031】
この方法によって、表1に示す実施例1〜15及び比較例1〜10の各ボンディングワイヤWを製作し、そのボンディングワイヤWの1st接合部のSiチップ(電極a)の損傷度合、FAB形状の安定性、ワイヤの繰り出し性、ループ形状(亀裂の有無)及び連続ボンディング性の試験を、下記の評価で行った。その評価結果を表1に示す。
【0032】
「芯材1のP濃度」
グロー放電質量分析(GDMS)法を用いて分析した。
【0033】
「被覆層(皮膜層)2の厚みt
蛍光X線膜厚計で、X線を照射し発生した蛍光X線の強度を皮膜厚さに換算して皮膜厚とした。
【0034】
「炭素濃縮層3の厚みt
Arイオンで深さ方向に単位時間のスパッタを行い、その都度炭素濃度を測定していき、最外層の炭素濃度の1/2の濃度になったところまでを炭素濃縮層3の厚みとするオージェ分光分析法(AES)で測定した。厚さの換算には一般的なSiO換算を用いた。
【0035】
「室温での引張強度TS、250℃での引張強度TS
室温(23℃)において、100mmのワイヤを10mm/分の引張速度にて引張試験を行い、破断した際の荷重を引張試験前のワイヤWの断面積で除した値を引張強度とした。
また、250℃においても同様の試験を行うが、250℃の雰囲気に試料をセットした後、低下した温度が250℃に復帰した20秒後に引張試験を行うようにした。
【0036】
「HR」
上記TSとTSから、HR=TS/TS×100として求めた。例えば、表1の実施例2線径20μmのワイヤWのTSは234MPa、TSは143MPaであり、HRは143/234×100=61%となる。
【0037】
「ループ高さh」
1stボンド部と2ndボンド部の高さが同じであるフラットボンドにおいて、1stボンド部および2ndボンド部の接地点を基準として最高地点のワイヤまでの高さhを表す(図5参照)。ワイヤ径Lの3倍〜5倍の高さhのときを低ループ、10倍以上の高さhのときを高ループとし、表1においては、それぞれ「低」、「高」とした。
【0038】
「連続ボンディング性」
ボンディングマシンで10,000回の連続ボンディングを行い、マシンストップが発生しなければ「A」、1回のマシンストップが発生すれば「B」、2回以上のマシンストップが起これば「D」とした。このとき、ステージ温度が低くなれば、その連続ボンディングが困難になることから、200℃(±5℃)、150℃(±5℃)の2水準で行った。
【0039】
「1st接合部のSiチップ損傷」
ボンディング後、1stボール接合部直下のSiチップ損傷を評価するために、ボール接合部および電極膜を王水で溶解し、Siチップのクラックを光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。このとき、100個の接合部を観察して5μm以下の微小なピットが1個もしくはまったく見られない場合は「A」、5μm以上のクラックが認められた場合は「D」とした。
【0040】
「FAB形状の安定性」
FAB径/ワイヤ径の比率が1.9〜2.1の時の真球性を評価した。接合前のボールbを30本観察して、形状が真球状であるかを判定した。すべて真球状になり、ワイヤWの中心位置とFABの中心位置がずれる芯ずれが1本以下であればA、異形状のFAB発生が1本以上もしくは芯ずれが2本以上であれば使用できないと判断して評価をDとした。
【0041】
「ワイヤの繰り出し性」
ボンディング装置に取り付けるためのスプールに完成品を500m巻き取り、そのスプールを巻き取り方向とは逆の方向に回転させることによって、ワイヤWを自然落下させて、ワイヤの繰り出し性を評価した。自然落下させるときのスプールから接地点までの距離を1mとし、500m分の自然落下中、ワイヤの引っかかりが2回以下なら「A」、3回以上ならば使用上問題があると判断して評価を「D」とした。
【0042】
「ループ形状(亀裂の有無)」
ボンディング後のループを走査型電子顕微鏡(SEM)で確認し、ワイヤ表面の亀裂の有無により判定した。ワイヤ表面が平滑に弧を描き、どこにも亀裂が生じていないものの評価を「A」とし、ワイヤ径の3%以上の亀裂が生じているものは使用上問題があると判断して評価を「D」とした。
【0043】
「総合評価」
「連続ボンディング性」の評価が200℃・150℃ともに「A」であり、かつ「1st接合部のSiチップ損傷」、「FAB形状の安定性」、「ワイヤの繰り出し性」及び「ループ形状」の評価がすべて「A」のものを「A」、「連続ボンディング性」の評価が200℃では「A」であり、150℃では「B」であり、かつ他の全ての評価がすべて「A」のものを「B」とした。また、他の評価のひとつでも「D」のあるものについては実用上問題であるので「D」とした。
【0044】
【表1】

【0045】
この試験結果から、被覆層厚(皮膜厚)tが0.01μm未満であると、200℃及び150℃の両連続ボンディング性が低下し(比較例1、2、6)、0.01μm以上0.04μm未満であると、前者の連続ボンディング性が満足できるものとなり(実施例5、6、8、11〜13、比較例3)、さらに0.04μm以上0.09μm以下となると、両者の連続ボンディング性が満足できるものとなることが理解できる(実施例1〜4、7、9、10、14、15)。ただし、被膜層厚tが0.04μm以上0.09μm以下でも、炭素濃縮層3の厚さtが0.0005μmを超えると、200℃及び150℃の両連続ボンディング性が低下する(比較例4、9、10)。
【0046】
一方、被覆層厚tが0.09μmを越えると、ボールbが硬くなって、Siチップ(電極a)の損傷が認められるようになる(比較例5、7、8)。また、芯材1のP濃度が50質量ppmを超えても、Siチップ(電極a)の損傷が認められるようになる(比較例3、6、7)。
芯材のP濃度が10質量ppm未満であると、FAB形状が異形になる不具合が発生する(比較例2、5、8、9)が、10質量ppm以上ではFAB形状が安定して真球状になる(実施例1〜15、比較例1、3、4、6、7、10)。
【0047】
また、炭素濃縮層3の厚さtが0.0001μm未満であると、ワイヤWが正常に繰り出されずに引っかかりが生じ(比較例5、7)、0.0001μm以上では問題なく繰り出すことができる(実施例1〜15、比較例1〜4、6、8〜10)。
【0048】
さらに、HRが50%未満では、そのHR:45%(比較例4)を示す図2(b)の写真に示すように、銅の結晶組織は加工ひずみが残る繊維組織(軟化が少ない結晶組織)となり、上記図2(h)の放電棒gによってそのワイヤWにボールbの形成する際、銅の結晶組織が粗大化し(図2(c)参照)、上記結晶組織の境界ができるため、ループ形状に亀裂の問題が生じ(比較例4、5)、同70%を超えると、そのHR:71%(比較例3)を示す図2(c)の写真のように、銅の結晶組織が粗大化し(過軟化結晶組織となり)、ループが高い場合、ループ形状に亀裂の問題が生じ(比較例2、3、9)、ループが低い場合でも、連続ボンディング性に支障が生じる恐れがある(比較例8、10)。
これに対し、HRが50〜70%であると、そのHR:65%(実施例9)を示す図2(a)の写真に示すように、良好な再結晶組織となって、繊維組織と粗大化した二次再結晶組織の境界が発生し難いため、くせ付けのときに結晶粒界から亀裂が生じることもなかった(実施例1〜15、比較例1、6、7)。
【符号の説明】
【0049】
W ボンディングワイヤ
1 芯材
2 被覆層
3 炭素濃縮層
a 集積回路素子の電極
b ボンディングボール
c 回路配線基板の導体配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集積回路素子の電極(a)と回路配線基板の導体配線(c)をボールボンディング法によって接続するための線径(L)50.8μm以下のボンディングワイヤ(W)であって、芯材(1)がPを10〜50質量ppm含有した銅及び不可避不純物からなり、その芯材(1)の外周全面に、Pdによる厚み(t)0.01〜0.09μmの被覆層(2)を形成したことを特徴とするボンディングワイヤ。
【請求項2】
室温での引張試験による引張強さ(TS)と250℃での引張試験による引張強さ(TS)との比(HR=TS/TS×100)が50〜70%であることを特徴とする請求項1に記載のボンディングワイヤ。
【請求項3】
上記被覆層(2)の厚み(t)が0.04〜0.09μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のボンディングワイヤ。
【請求項4】
上記被覆層(2)の外周部に炭素濃縮層(3)を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載のボンディングワイヤ。
【請求項5】
上記炭素濃縮層(3)の厚み(t)が0.0001〜0.0005μmであることを特徴とする請求項4に記載のボンディングワイヤ。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のボンディングワイヤ(W)の製造方法であって、所要径のPを10〜50質量ppm含有した銅線からなる芯材(1)にPdを被覆し、その被覆線に拡散熱処理を施して芯材(1)と被覆層(2)の密着性を高めた後、潤滑剤を塗布して伸線し、その後、その伸線を洗浄工程を経て酸素遮断状態で調質熱処理を行い、前記洗浄工程の洗浄度合を調整することによって前記被覆層(2)の表面に前記潤滑剤からなる上記炭素濃縮層(3)を形成することを特徴とするボンディングワイヤの製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【公開番号】特開2012−182205(P2012−182205A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42560(P2011−42560)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【特許番号】特許第4860004号(P4860004)
【特許公報発行日】平成24年1月25日(2012.1.25)
【出願人】(000108742)タツタ電線株式会社 (76)
【Fターム(参考)】