説明

ボーラスまたは間欠的な静脈内注入による、抗内毒素薬の投与

【課題】抗内毒素薬の投与の治療プログラムの提供。
【解決手段】化合物E5564を用いた治療の影響を受けやすい病状にある、またはそれを発展させる危険性があるヒトの患者を治療する方法であり、ボーラスまたは間欠的な静脈内注入によって、該患者に化合物E5564を投与する段階を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
本発明は、抗内毒素薬の投与の治療プログラムに関連する。
【0002】
1930年代以来、免疫抑制治療および侵襲的装置の使用の増加、および細菌の抗生物質耐性の発生率の増加により、敗血症および敗血症性ショックの発生が緩やかに増加した。現在、米国における敗血症および敗血症性ショックの推定発生率は、年間患者数で各々400,000例および200,000例である。これによって、年間約100,000例の死亡がもたらされ、敗血症性ショックは、病院の集中治療室(ICU)において最も一般的な非冠状動脈性の死因となっている。現在のところ、敗血症性ショックのICU治療は、抗生物質による治療、心臓血管蘇生術、昇圧剤/変力作用剤による治療、および人工呼吸管理に限られている。このICUケアにかかる患者当たりのコストは、1日1,500ドル、および平均総額13,000〜30,000ドルにも及ぶ。明らかに、罹患率を減少させることができ、その結果、敗血症/敗血症性ショックの介護にかかるコストを削減できる治療法はいかなるものでも、非常に価値がある。
【0003】
抗生物質自体は、敗血症が関係する罹患率を増加させる可能性が高い。その殺菌作用によって、グラム陰性菌からの内毒素の放出がもたらされることが可能で、このグラム陰性菌は、熱、ショック、汎発性血管内凝固症候群(DIC)および低血圧のような、多くの病態生理学的イベントを誘導すると考えられる。その結果、グラム陰性菌敗血症の治療用の薬剤、特に内毒素に由来または内毒素が介する細胞刺激に由来するサイトカインをブロックできる薬剤が、ここしばらくの間望まれてきた。この目的のために、治療のための様々な戦略には、LPS、またはTNF-αおよびインターロイキン-1のようなサイトカインに対する抗体または他の作用物質の投与が含まれてきた。そして、様々な理由によって、これらのアプローチは失敗した。
【0004】
内毒素自体は異質性の高い分子であるが、内毒素の有毒特性の多くの発現は、高度に保存された疎水性リピドA部分が原因となっている。この保存された構造にアンタゴニストとして作用する有効な薬剤は、E5564として知られている(また化合物1287およびSGEAとしても知られる)。この薬剤は、この参照により開示に含まれる米国特許第5,681,824号(特許文献1)において、化合物1として説明されており、E5564は四ナトリウム塩として提供できる以下の式を有する:
(α-D-グルコピラノース, 3-O-デシル-2-デオキシ-6-O-[2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-メトキシデシル)-6-O-メチル-2-[[(11Z)-1-オキソ-11-オクタデセニル]アミノ]-4-O-フォスフォノ-β-D-グルコピラノシル]-2-[(1,3-ジオキソテトラデシル)アミノ]-,1-(リン酸二水素)。
E5564は1401.6の分子量を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,681,824号
【発明の概要】
【0006】
発明の概要
本発明者らは、E5564を、負荷用量およびそれに続く維持量による投与、または単回ボーラス注射による投与は、内毒素血症の予防において有効であることを発見した。
【0007】
したがって、本発明は、化合物E5564を用いた治療を受けることが可能な、ある病状を有する、またはそれを発達させる危険性のあるヒトの患者を治療する方法を特徴とする。本方法において、化合物E5564は、ボーラスまたは間欠的な静脈内注入によって患者に投与される。ボーラス注入は0.4〜60 mgのものが可能であり、例えば薬剤6〜56 mgまたは2〜28 mgを、例えば4時間の経過を伴って行うことができる。投与は間欠的な注入によることが可能で、ここにおいて(例えば4時間に渡って、例えば薬剤0.4〜60 mg、6〜56 mg、または12〜28 mgの)負荷用量とその後に引き続いて維持量が投与される。選択的に、(例えば2時間に渡って、例えば薬剤0.4〜60 mg、6〜56 mg、または12〜28 mgの)第2の負荷用量を、第1の負荷用量の12時間後に投与できる。維持量は、先の負荷用量の12時間後に、例えば2時間に渡って投与できる。さらに、先の維持量から12時間後に、各々2時間に渡って投与される追加の維持量の2時間にわたる投与を、単回または複数回実施できる。
【0008】
本発明の方法の特定の実施例においては、3 mg/時間の第1の負荷用量を4時間に投与し、続いて、第1の負荷用量の12時間後、3 mg/時間の第2の負荷用量を2時間引き続き投与し、続いて、第2の負荷用量の12、24、36、48、60、72、84、96および108時間後に、1.5 mg/時間の維持量を2時間に渡って投与する。
【0009】
本発明の方法に従って治療できる患者には、例えば、外科患者(例えば、心臓外科患者)、内毒素血症、敗血症もしくは敗血症性ショックを有する、またはそれらを発展させる危険性のある患者、HIVに感染した患者、および対宿主性移植片病および同種移植拒絶のような免疫疾患に罹患している患者が含まれる。
【0010】
本発明はまた、上記に示した治療における、上記に示した投薬量でのE5564の使用、および、これらの状態を治療するための薬剤の調製における、上記に示した投薬量でのE5564の使用を含む。
【0011】
本発明の方法は、特筆すべき治療的利点を提供し、特に、ICUでの治療の一部として既に静脈内ラインを挿入されている、本発明の方法に従って治療される多数の患者で、容易に実施される。本発明の他の特徴および利益は、次の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかとなるだろう。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
上記に述べたように、本発明者らは、単回ボーラスにおける、または間欠的な注入によるヒトへのE5564の投与が、内毒素血症の影響を妨ぐ上で有効であることを見出した。本発明者らの以前の研究では、投与中断と同時に薬剤の活性が急速に低下し、連続的な注入が望ましいことが示唆される、ということを示した。本発明者らはここで、投与を中断した後に、内毒素誘発試験において有効であると認められた最小用量よりも多い投与量の薬剤の投与すると、活性な薬剤の長期の持続性をもたらすことを見出した。本発明は、ヒトにおける内毒素血症およびその関連の状態および疾患(例えば敗血症)を予防または治療するための、単回ボーラスまたは間欠的な注入を含む、薬剤投与治療プログラムに関連する。
【0013】
本発明に従い、例えば中心アクセスラインまたは末梢静脈ラインを通した静脈内注入によって、またはシリンジを用いた直接注入によって、薬剤を単回ボーラスで投与できる。そのような投与は、患者が単に内毒素への曝露について短期的な危険性があり、薬剤の長期の持続性を必要としない場合に望ましいかもしれない。例えば、この投与の様式は、例えば冠状動脈バイパス移植片手術または弁置換術などの心臓の手術を行う患者のような、外科患者において望ましいかもしれない。これらの患者においては、例えば0.10〜15 mg/時間(例えば、1〜7 mg/時間、または3 mg/時間)の単回ボーラス注入を、手術前および/または手術中の4時間に渡って投与することができる。(投与される薬剤の量は、推定平均体重70 kgの患者に基づいていることに注意すること。)上記に示されるように、投与される薬剤の絶対量が維持されるならば、当技術分野における当業者に適切であると決定されるように、より短いまたはより長い投与時間を用いることができる。
【0014】
例えば、感染または敗血症を有する間などの、内毒素への長期の曝露に関連する状態の治療、または長期の治療が望ましいと決定される外科的状況、活性な薬剤のより長い期間の持続性が望ましい場合においては、例えば間欠的な投与を実施できる。これらの方法においては、負荷用量に続き、(i)第2の負荷用量および単回もしくは複数回の維持量、または(ii)第2の負荷用量を省いた単回もしくは複数回の維持量のいずれかを当技術分野における当業者により適切と決定されるように投与する。
【0015】
第一(または唯一の)負荷用量は、上記に説明された単回ボーラス注入について説明されたものと同様の様式で投与できる。即ち、0.10〜15 mg/時間(例えば、1〜7 mg/時間または3 mg/時間)を、手術前に4時間に渡って患者に投与できる。(上記に言及されたように、およびこの説明を通して適用可能であるように、投薬レベルが維持されるのであれば、投与時間を変化させることは可能である。)第2の負荷用量の投薬を用いる場合、それは第1の負荷用量の約12時間後に投与でき、かつ例えば0.10〜15 mg/時間(例えば、1〜7 mg/時間または3 mg/時間)の薬剤の、例えば約2時間に渡る注入を含むことができる。
【0016】
活性な薬剤のさらなる持続性を得るため、患者の血中において活性な薬剤のレベルが維持されるように、単回または複数回の維持量の薬剤の投与を行うことができる。維持量は、例えば負荷用量の約6分の1のレベルのような、負荷用量未満のレベルにおいて投与できる。維持量において投与される具体的な量は、薬剤レベルが少なくとも維持されるという目標をもって、医学専門家によって決定されることが可能である。維持量は、例えば、24時間から始めて、例えば36、48、60、72、84、96、108および120時間と続けるように、12時間毎に約2時間投与できる。当然のことながら、維持量は、医学専門家によって適切と決定されるとき、この時間枠内であれば任意の時点で中止できる。
【0017】
本発明に含まれる投薬治療プログラムの特定の実施例は、以下の表にて示される。
【0018】
(表1)6日間に渡る防御を提供するための、E5564の投与の投与量レベルおよび投与速度

1 治療開始時にのみ4時間与えられた負荷用量♯1
2 12時間においてのみ2時間与えられた負荷用量♯2
3 24、36、48、60、72、84、96、108および120時間において、12時間毎に2時間与えられた、総計9回の維持量
【0019】
本発明の方法は、内毒素血症または関連合併症(例えば敗血症症候群)の発生を導き得る、任意のタイプの手術または医学的処置に関連して使用できる。例えば、本発明の方法は、心臓の手術(例えば、冠状動脈バイパス移植片、心肺バイパス、または弁置換)、移植(例えば肝臓、心臓、腎臓、または骨髄の)、癌の手術(例えば腫瘍の除去)、または任意の腹部の手術に関連して使用できる。本発明の方法が使用できる外科的処置のさらなる例は、急性膵炎、炎症性腸疾患、経頸静脈性肝内門脈体循環ステントシャントの配置、肝切除、熱傷の再建術、および熱傷瘢痕切除術を治療するための手術である。本発明の方法はまた、胃腸管が障害を受ける非外科的処置に関連して使用できる。例えば、本発明の方法は、癌治療における化学療法または放射線療法に関連して使用できる。本方法はまた、HIV感染、および対宿主性移植片病および同種移植拒絶のような免疫疾患に関連した状態の治療において使用できる。化合物E5564は、この参照により開示に含まれる米国特許第5,935,938号において説明されている。例えば、35.4 mgの原薬を52.1 mlの0.01N NaOHに溶解し、室温にて1時間撹拌し、リン酸緩衝ラクトースに入れて希釈することにより、薬剤を処方することができる。pHを7.3に調整し、E5564の最終濃度0.1 mg/mlにまで希釈した後、溶液をフィルターろ過滅菌および凍結乾燥することが可能である。1 ml バイアル中における製剤の処方例を以下に示す。
(表2)

上記に言及されるように、薬剤は、中心アクセスラインもしくは末梢静脈ラインのいずれかを通した注入によって、またはシリンジを用いた直接注入によって投与される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物E5564を用いた治療の影響を受けやすい病状にある、またはそれを発展させる危険性があるヒトの患者を治療する方法であり、ボーラスまたは間欠的な静脈内注入によって、該患者に化合物E5564を投与する段階を含む方法。
【請求項2】
投与が0.4〜60 mgの薬剤のボーラス注入による、請求項1の方法。
【請求項3】
投与が6〜56 mgの薬剤のボーラス注入による、請求項2の方法。
【請求項4】
投与が12〜28 mgの薬剤のボーラス注入による、請求項3の方法。
【請求項5】
投与が4時間の経過を伴う、請求項2の方法。
【請求項6】
投与が間欠的な注入によるものであり、負荷用量およびそれに続く維持量の投与を含む、請求項1の方法。
【請求項7】
負荷用量が、薬剤0.4〜60 mg、6〜56 mg、または12〜28 mgである、請求項6の方法。
【請求項8】
負荷用量が4時間に渡る、請求項6の方法。
【請求項9】
第1の負荷用量の12時間後に、第2の負荷用量を投与をすることをさらに含む、請求項6の方法。
【請求項10】
第2の負荷用量が、薬剤0.4〜60 mg、6〜56 mg、または12〜28 mgであり、それらが2時間に渡って投与される、請求項9の方法。
【請求項11】
先の負荷用量の12時間後に、維持量が2時間に渡って投与される、請求項6の方法。
【請求項12】
先の維持量から12時間後に、各々2時間に渡って投与される、追加の維持量を単回または複数回投与することをさらに含む、請求項11の方法。
【請求項13】
3 mg/時間の第1の負荷用量が4時間投与され、第1の負荷用量の12時間後に、3 mg/時間の第2の負荷用量が引き続き2時間投与され、続いて、第2の負荷用量の12、24、36、48、60、72、84、96、および108時間後に、1.5 mg/時間の維持量が2時間投与される、請求項6の方法。
【請求項14】
患者が外科患者である、請求項1の方法。
【請求項15】
外科患者が心臓外科患者である、請求項14の方法。
【請求項16】
患者が、内毒素血症、敗血症もしくは敗血症性ショックを有する、またはそれらを発展させる危険性がある、請求項1の方法。
【請求項17】
患者がHIVに感染している、請求項1の方法。
【請求項18】
患者が免疫疾患に罹患している、請求項1の方法。

【公開番号】特開2013−60447(P2013−60447A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−238692(P2012−238692)
【出願日】平成24年10月30日(2012.10.30)
【分割の表示】特願2002−501492(P2002−501492)の分割
【原出願日】平成13年6月11日(2001.6.11)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】