説明

ボールねじおよびボールねじのシール取付方法

【課題】ナットの軸方向両端部に、ニ以上のシールが重ねて固定されたボールねじにおいて、それぞれのシールによるシール効果を確実に得る。
【解決手段】ナット2の雌ねじ22aと内側シール4の長穴(取付孔)14を合わせて、3個の長穴14から各ボルト7を入れ、内側シール4の位相を、良好なシール性能を得るために適した位相に調整した後に、ボルト7により内側シール4をナット2に固定する。次に、外側シール5を内側シール4の外側に配置し、ナット2の雌ねじ22bと外側シール5の長穴(取付孔)18を合わせて、3個の長穴18から各ボルト8を入れ、外側シール5の位相を、良好なシール性能を得るために適した位相に調整した後に、ボルト8により外側シール5をナット2に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ナットの軸方向各端部にニ以上のシールが取り付けられたボールねじ、およびボールねじのナットの軸方向各端部にニ以上のシールを取り付ける方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、ボールを軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動する装置である。ボールねじは、工作機械、射出成形機、半導体素子製造装置などで使用される。
【0003】
このようなボールねじは、ナットの内部に潤滑剤を供給して使用される。また、ねじ軸に付着した塵埃や摩耗粉などの異物がナット内に入り込むと、ボールや螺旋溝に焼付きなどの損傷が生じる原因となるため、ナット内部への異物の侵入を防ぐ必要がある。そこで、ナット内部に供給された潤滑剤の外部への排出防止とナット内部への異物の侵入防止を目的として、ナットの軸方向端部にリング状のシールが取り付けられている。リング状のシールは、ねじ軸の螺旋溝および外周面に接触するリップ部と、リップ部の外周側に連続する基部を有する。
【0004】
リップ部の先端が軸方向でナットの外側に向いている外向きシールは、ナット内部への異物の侵入を防止する作用を有する。リップ部の先端が軸方向でナットの内側に向いている内向きシールは、ナット内部の潤滑剤を保持する(外部へ排出させない)作用を有する。よって、ナット内部の潤滑剤保持とナット内部への異物侵入防止の両方の作用を効果的に得るために、内向きシールと外向きシールをナット側からこの順に取り付けることが考えられる。
【0005】
しかし、内向きシールと外向きシールをナット側からこの順に取り付けた場合、外向きシールのリップ部とねじ軸との間から極微小な異物が入ってしまうと、この異物が外向きシールのリップ部と内向きシールのリップ部との間に溜まり易くなる。また、内向きシールのリップ部とねじ軸との間から潤滑剤が漏れてしまうと、その潤滑剤が外向きシールからナットの外部に飛散し易くなる。
【0006】
特許文献1には、ナット内部の潤滑剤を保持できるとともに、ナット内部への異物の侵入を防止できるシールが記載されている。このシールは、潤滑剤保持用のリング状部材(潤滑剤を吸収可能な材料からなる密封部材)と、異物除去用のリング状部材(硬質材料からなる異物除去部材)からなる。両部材の内周部(リップ部)がねじ軸の螺旋溝と外周面に接触し、異物除去用のリング状部材が軸方向外側に配置される。
【0007】
特許文献1には、また、軸方向に沿って重ねて配置される密封部材と異物除去部材は、各リップ部が接触する位置で、ねじ軸の螺旋溝の軸方向断面形状(ねじ軸の位相)が異なるため、これを考慮して両部材をナットに取り付けることが記載されている。具体的には、両部材の同一の円周上に、周方向に所定間隔で位置決め穴を設け、この位置決め穴を合わせて重ねた状態で、両部材をナットのシール取り付け穴に装着することで、両部材のリップ部の周方向取付位置(シールの位相)を合わせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−364726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば、ナットの軸方向各端部にシールを取付けてボールねじを組み立てる場合、シールの取付位置は、シールの位相とねじ軸の位相が一致するように設計されているが、実際には、加工寸法の誤差などに起因して両者の位相がずれることもある。よって、シールのリップ部をねじ軸に適切に接触させて良好なシール効果を得るために、シールの取付位置を調整して、シールの位相とねじ軸の位相を一致させる必要がある。
【0010】
しかし、特許文献1に記載されたシールの取付方法では、3枚の薄板状のシールを位置決め穴で位相合わせした後、3枚同時に、止め輪を使用してナットのシール取り付け穴の壁面に押圧固定している。つまり、特許文献1には、ニ以上のシールを、独立に、位相調整を行いながら、ナットに固定することが記載されていない。よって、特許文献1に記載されたシールの取付方法には、ニ以上のシールの各シール効果を確実に得るという点で改善の余地がある。
この発明の課題は、ナットの軸方向両端部に、ニ以上のシールが重ねて固定されたボールねじにおいて、それぞれのシールによるシール効果が確実に得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、この発明の一態様のボールねじは、下記の構成(1) 〜(5) を有することを特徴とする。
(1) 内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、前記ナットの螺旋溝と前記ねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配置されたボールと、前記ナットの軸方向各端部に、前記軸方向に沿って配置されたニ以上のリング状のシールと、前記ナットの軸方向両端部に、前記軸方向に垂直な面として形成されたシール取付面と、前記シール取付面に、前記ニ以上のシールを独立に固定するねじ部材と、を有する。
【0012】
(2) 前記シール取付面に、各シール用のねじ部材を螺合する各ねじ孔が形成されている。
(3) 前記各シールは、ねじ軸の螺旋溝および外周面に接触するリップ部と、前記リップ部の外周側に連続し、前記シール取付面と重なる基部とを、有する。
(4) 前記各シールの基部には、前記シール取付面の各シール用のねじ孔を露出させ、前記ナットと同心の円周方向に延びる長穴が、取付孔として形成されている。
(5) 前記ニ以上のシールを構成する隣り合うシールのうち、相対的にナットに近い内側シールの基部には、前記シール取付面の、相対的にナットから遠い外側シール用のねじ孔を露出させ、前記ナットと同心の円周方向に延びる長穴が、外側シール用ねじ部材を挿通する挿通孔として形成されている。
【0013】
この態様のボールねじは、さらに下記の構成(6) 〜(8) を有することができる。
(6) 前記ナットの軸方向端部に、前記シール取付面より軸方向外側に延在する凸部が形成され、前記凸部は、前記ねじ軸の回転軸線を中心軸線とする円柱面状の内周面を有し、前記シールの基部は、前記内周面と嵌め合う円弧面を有する。
(7) 前記ニ以上のシール用の全てのねじ孔は、前記シール取付面の前記ナットと同心の同一円周に沿って、前記シールの取付順に合わせた順に形成されている。
(8) 前記外側シールの基部には、前記内側シール固定用のねじ部材を露出させ、前記ナットと同心の円周方向に延びる長穴(ねじ部材露出孔)が形成されている。このねじ部材露出孔は、ねじ部材の頭部を配置するか前記ねじ部材を操作する孔として機能する。
【0014】
この態様のボールねじは、下記の構成(9) および(10)を有する方法で、前記シール取付面に、前記ニ以上のシールを取り付けることができる。
(9) 前記内側シールの前記取付孔を、前記ナットのシール取付面の内側シール用のねじ孔と合わせて、前記内側シールの位相を、良好なシール性能を得るために適した位相に調整した後に、前記取付孔から入れて前記ねじ孔に螺合させた前記ねじ部材で、前記内側シールを前記シール取付面に固定する内側シール取付工程。
(10)前記内側シール取付工程の後に、前記内側シールの前記挿通孔に露出している前記シール取付面のねじ孔に、前記外側シールの前記取付孔を合わせて、前記外側シールの位相を、良好なシール性能を得るために適した位相に調整した後に、前記取付孔から入れて前記ねじ孔に螺合させた前記ねじ部材で、前記外側シールを前記シール取付面に固定する外側シール取付工程。
【0015】
この態様のボールねじによれば、前記構成(1) 〜(5) を有することにより、前記構成(9) および(10)を有する方法で、前記シール取付面に、前記ニ以上のシールを取り付けることができるため、それぞれのシールによるシール効果を確実に得ることができる。
この態様のボールねじは、さらに前記構成(6) を有することにより、前記構成(6) を有さないものと比較して、ねじ軸とシールの芯ずれが抑制されるため、シールの位相調整を容易に行うことができる。
【0016】
この態様のボールねじは、さらに前記構成(7) を有することにより、前記構成(7) を有さないものと比較して、前記シール取付面に対して前記ねじ孔を容易に形成できるとともに、各シールを位相調整のために回転させ易くなる。
この態様のボールねじは、さらに前記構成(8) を有することにより、前記外側シールを取り付けた後で前記内側シール固定用のねじ部材を操作することができる。
【0017】
なお、前記構成(1) 〜(6) を有するボールねじは、下記の構成(a) 〜(e) を有するボールねじ装置と同じである。
(a) ボールねじナットの軸線方向端部に、二以上のシール部材を軸線方向に多重に取付け、且つ、各シール部材のシールリップの内形がボールねじ軸の外形に接触するボールねじ装置である。
(b) 前記二以上のシール部材の夫々をボールねじナットに固定するための各シール部材用ネジ部材が螺合され、且つ、夫々のシール部材に対応して当該ボールねじナットの軸線方向端面の異なる位置に形成された各シール部材用ナットネジ孔を備えている。
(c) 各シール部材の該当する前記各シール部材用ナットネジ孔に対向する位置に形成され、且つ、各シール部材用ネジ部材のネジ部を挿通し且つボールねじナット又はボールねじ軸の回転方向に長手な各シール部材用位相調整取付孔を備えている。
【0018】
(d) 隣合うシール部材のうち、ボールねじナットに近いシール部材を内側シール部材、ボールねじナットから遠いシール部材を外側シール部材とした場合、少なくとも内側シール部材に形成され且つ外側シール部材をボールねじナットに固定するための外側シール部材用ネジ部材のネジ部を挿通し、且つボールねじナット又はボールねじ軸の回転方向に長手な外側シール部材用ネジ部材挿通孔を備えている。
(e) 前記ボールねじナットは、前記ボールねじ軸を囲繞するように軸方向端部から軸方向で外方に延在した凸部を有し、前記各シール部材と前記凸部とは、前記ボールねじ軸の回転軸を中心軸線とする円柱面状の接触面から成るインロー部を構成している。
【0019】
また、前記構成(1) 〜(7) を有するボールねじは、前記構成(a) 〜(e) および下記の構成(f) を有するボールねじ装置と同じである。
(f) 前記各シール部材用ナットネジ孔をボールねじナットの軸線方向端面の同一円周上に形成し、且つ、それらを順番に、各シール部材に該当するシール部材用ナットネジ孔とした。
【0020】
前記構成(9) および(10)を有するボールねじのシール取付方法は、下記の構成(g) と(h) を有するボールねじ装置のシール部材取付方法と同一である。
(g) シール部材取付方法は、前記二以上のシール部材をボールねじナットの軸線方向端部に取付けるにあたり、前記内側シール部材の回転方向への位相を調整することで当該内側シール部材のシール効果を確認しながら、内側シール部材用ネジ部材のネジ部をボールねじナットの内側シール部材用ナットネジ孔に螺合して、当該内側シール部材をボールねじナットに固定する。
(h) 構成(g) を行った後、前記外側シール部材の回転方向への位相を調整することで当該外側シール部材のシール効果を確認しながら、外側シール部材用ネジ部材のネジ部をボールねじナットの外側シール部材用ナットネジ孔に螺合して、当該外側シール部材をボールねじナットに固定する。
【発明の効果】
【0021】
この発明のボールねじは、ナットの軸方向両端部に、ニ以上のシールが重ねて固定された各シールによるシール効果を、確実に得ることができる。
また、この発明のシール取付方法によれば、この発明のボールねじを上記効果が得られる状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明のボールねじの一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1のボールねじを構成するナットの正面図である。
【図3】図1のボールねじの組立途中であって、ナットに内側シールを固定した状態を示す正面図である。
【図4】図3の状態のナットに外側シールを固定した状態を示す正面図である。
【図5】ねじ孔の配置が図2とは異なる例を示すナットの正面図である。
【図6】シールが三枚固定されたボールねじの実施形態を示す縦断面図である。
【図7】図6のボールねじを構成するナットの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の実施形態について説明するが、この発明はこの実施形態に限定されない。
この実施形態のボールねじは、図1に示すように、ねじ軸1と、ナット2と、ボール3と、内側シール4と、外側シール5と、内側シール4をナット2に固定するボルト(内側シール用のねじ部材)7と、外側シール5をナット2に固定するボルト(外側シール用のねじ部材)8と、で構成されている。
【0024】
ねじ軸1の外周面1aに螺旋溝1bが形成され、ナット2の内周面に螺旋溝21が形成されている。ボール3は、ねじ軸1の螺旋溝1bとナット2の螺旋溝21で形成される軌道溝の間に配置されている。
ナット2の軸方向両端部に、軸方向に垂直なシール取付面22が形成されている。また、ナット2の軸方向両端部には、シール取付面22より軸方向外側に延在する凸部20が形成されている。凸部20は、ねじ軸1の回転軸線Cを中心軸線とする円筒形状であり、円柱面状の内周面20aおよび外周面20bを有する。凸部20の外周面20bはナット2の外周面がそのまま延びた面である。
【0025】
ナット2のシール取付面22には、図2に示すように、各3個の雌ねじ(ねじ孔)22a,22bが周方向に等間隔で形成されている。雌ねじ22aは内側シール4用であり、雌ねじ22bは外側シール用である。これらの雌ねじ22a,22bは、同心の同一円周に沿って、交互に(シールの取付順に合わせた順に)配置されている。
内側シール4は、ねじ軸1の外周面1aおよび螺旋溝1bに摺接するリング状の接触シールであり、リップ部41と基部42とからなる。リップ部41の内周縁形状は、ねじ軸1の軸方向所定位置での軸直角断面形状と相似である。リップ部41の先端が、軸方向でナット2側に傾いている。リップ部41の外周側に円環状の基部42が連続している。
【0026】
内側シール4の基部42には、図3に示すように、ナット2と同心の円周方向に延びる6個の長穴14,16が、円周方向で等間隔に形成されている。長穴14は、内側シール4用の雌ねじ22aを露出させる取付孔である。長穴16は、外側シール5の雌ねじ22bを露出させ、外側シール5用のボルト8を挿通する挿通孔である。
内側シール4の基部42の外周面は、ナット2の凸部20の内周面20aと同じ円周面であり、ナット2の凸部20の内周面20aに嵌まっている。
【0027】
外側シール5は、ねじ軸1の外周面1aおよび螺旋溝1bに摺接するリング状の接触シールであり、リップ部51と基部52とからなる。リップ部51の内周縁形状は、ねじ軸1の軸方向所定位置での軸直角断面形状と相似である。リップ部51の先端が、軸方向でナット2の反対側に傾いている。リップ部51の外周側に円環状の基部52が連続している。
【0028】
外側シール5の基部52の外縁部には、図4に示すように、ナット2と同心の円周方向に延びる3個の長穴18が、円周方向で等間隔に形成されている。長穴18は、外側シール5用の雌ねじ22bを露出させる取付孔である。また、ボルト7の頭部が入る大きさの3個の長穴(ねじ部材露出孔)17が、長穴18と同じ円周方向に沿って、隣り合う長孔18の間に、円周方向で等間隔に形成されている。
【0029】
外側シール5の基部52の外周面は、ナット2の凸部20の内周面20aと同じ円柱面であり、ナット2の凸部20の内周面20aに嵌まっている。
なお、内側シール4と外側シール5の位相差(φ)は、ナット2に取り付けた状態でのリップ部41,51間の軸線方向距離(x)と、ねじ軸1の螺旋溝の条数およびリード(L)とに応じた値となる。例えば、ねじ軸1の螺旋溝の条数が1の場合、φ=(x/L)×360°で表される。
このボールねじを組み立てる際には、螺旋溝1bにボール3を入れたねじ軸1をナット2内に配置した後、先ず、ナット2のシール取付面22に内側シール4をボルト7で取り付ける。
【0030】
具体的には、図3に示すように、ナット2の雌ねじ22aと内側シール4の長穴(取付孔)14を合わせて、3個の長穴14から各ボルト7を入れ、ボルト7の先端をナット2の雌ねじ22aに少し螺合する。その状態で、内側シール4を周方向に回転して、リップ部41をねじ軸1に良好に接触させる。これにより、内側シール4の位相(周方向の取付位置)を、良好な潤滑剤保持性能を得るために最適な位相に調整する。
その後、ボルト7を締め付けて、ボルト7の頭部を内側シール4の長孔14の周縁部に押し付けることにより、内側シール4をナット2のシール取付面22に固定する。この状態で、図3に示すように、内側シール4の長穴(挿通孔)16内にナット2の雌ねじ22bが見える。
【0031】
次に、外側シール5を内側シール4の外側に配置する。その際に、長穴17内にボルト7の頭部を入れる。また、ナット2の雌ねじ22bと外側シール5の長穴(取付孔)18を合わせて、3個の長穴18から各ボルト8を入れ、ボルト8の先端をナット2の雌ねじ22bに少し螺合する。その状態で、外側シール5を周方向に回転して、リップ部51をねじ軸1に良好に接触させる。これにより、外側シール5の位相(周方向の取付位置)を、良好な異物侵入防止性能を得るために最適な位相に調整する。
【0032】
その後に、ボルト8を締め付けて、ボルト8の頭部を外側シール5の長孔18の周縁部に押し付けることにより、外側シール5を、内側シール4を介してナット2のシール取付面22に固定する。図1および4はこの状態を示す。
この実施形態のボールねじによれば、上述のように、内側シール4と外側シール5を独立に、各ボルト7,8で位相調整を行いながらナット2に固定することができる。これにより、内側シール4と外側シール5によるそれぞれのシール効果を確実に得ることができる。
【0033】
また、内側シール4および外側シール5の基部42,52の外周面と、ナット2の凸部20の内周面20aとの嵌め合いにより、ねじ軸1と両シール4,5の芯ずれが抑制されるため、シールの位相調整を容易に行うことができる。
また、雌ねじ22a,22bが、シール取付面22のナット2と同心の同一円周上に形成されているため、ナット2の取付面22に対して複数の雌ねじを容易に形成できる。
【0034】
また、外側シール5の基部52には、内側シール4を固定するボルト7の頭部が入る長孔17が形成されているため、外側シール5を取り付ける際に、ボルト7の頭部が邪魔にならない。また、外側シール5を配置した後でボルト7を操作することもできる。また、外側シール5をボルト8で固定した後に、この長孔(ねじ部材露出孔)17を利用して、ボルト7を外すこともできる。
【0035】
なお、この実施形態では、ナット2のシール取付面22に内側シール4を直接取付け、内側シール4に外側シール5を直接取付けているが、シール取付面22と内側シール4との間および内側シール4と外側シール5との間には、シール以外の部材(例えば、空間を形成するための金属製の間座や、金属製薄板材等からなるシール保持部材)が配置されていてもよい。
【0036】
また、図1のボールねじでは、図2に示すように、ナット2のシール取付面22に、内側シール4用の雌ねじ22aと外側シール5用の雌ねじ22bを、3個ずつ形成しているが、2個ずつ形成してもよい。その場合は、図5に示すように、各2個の内側シール4用の雌ねじ22aと外側シール5用の雌ねじ22bを、交互に等間隔に(90°間隔で)配置することが好ましい。
【0037】
また、ナット2のシール取付面22より軸方向端部に延在する凸部20は、ねじ軸1の回転軸線Cを中心軸線とする円柱面状の内周面20aを有していれば、上記実施形態のような円筒状でなくてもよい。つまり、外周面20bは円柱面状でなく、例えば四角柱面状であってもよく、軸方向の各位置で大きさが異なっていてもよい。
また、内側シール4および外側シール5の基部42,52の外周面の全てが、ナット2の凸部20の内周面20aと嵌め合う円周面となっているが、一部がナット2の凸部20の内周面20aと嵌め合う円弧面になっていてもよい。
【0038】
一方、図6に示すように、ナット2のシール取付面22に三枚のシール40,50,60を固定する場合は、例えば図7に示すように、シール取付面22に、各シール用の雌ねじ(ねじ孔)22c,22d,22eを形成する。これらの雌ねじ22c〜22eは、同心の同一円周に沿って、雌ねじ22c、雌ねじ22d、雌ねじ22eの順に(シールの取付順に合わせた順に)配置されている。
【0039】
また、各シール40,50,60の基部42,52,62に、各シール用の雌ねじ(ねじ孔)22c,22d,22eを露出させ、ナット2と同心の円周方向に延びる長孔(取付孔)42a,52a,62aを形成する。
そして、最も内側に配置される第1シール40の基部42に、第1シール40より外側に配置される第2シール50および第3シール60の雌ねじ22d,22eを露出させ、ナット2と同心の円周方向に延びる長孔(第2シール50のボルト80と第3シール60のボルト90を挿通する挿通孔)42bを形成する。
【0040】
ここで、隣り合うシールのうち、相対的にナットに近い位置に配置されるシールを内側シールと定義し、相対的にナットから遠い位置に配置されるシールを外側シールと定義している。よって、この場合、隣り合うシール40,50において、第1シール40は内側シールであり、第2シール50は外側シールである。また、隣り合うシール50,60において、第2シール50は内側シールであり、第3シール60は外側シールである。
【0041】
そのため、第2シール50の基部52に、第3シール60の雌ねじ22eを露出させ、ナット2と同心の円周方向に延びる長孔(第3シール60のボルト90を挿通する挿通孔)52bが形成されている。第2シール50の基部52には、また、第1シール40を固定するボルト70を露出させ、ナット2と同心の円周方向に延びる長穴(ねじ部材露出孔)52cが形成されている。第3シール60の基部62には、第1シール40を固定するボルト70と第2シール50を固定するボルト80を露出させ、ナット2と同心の円周方向に延びる長穴(ねじ部材露出孔)62cが形成されている。
【0042】
これらのシールの取付方法としては、先ず、ナット2のシール取付面22に第1シール40を配置する。そして、第1シール40の取付孔42aをシール取付面22の雌ねじ22cと合わせて第1シール40の位相を調整した後に、取付孔42aから入れて雌ねじ22cに螺合させたボルト70で、第1シール40をナット2のシール取付面22に固定する。この状態で、第1シール40の挿通孔42b内にナット2の雌ねじ22d,22eが見える。
【0043】
次に、第2シール50を第1シール40の外側に配置する。そして、第2シール50の取付孔52aをナット2のシール取付面22の雌ねじ22dと合わせて第2シール50の位相を調整した後に、取付孔52aから入れて雌ねじ22dに螺合させたボルト80で、第2シール50をナット2のシール取付面22に固定する。この状態で、第2シール50の挿通孔52b内にナット2の雌ねじ22eが見える。
【0044】
次に、第3シール60を第2シール50の外側に配置する。そして、第3シール60の取付孔52aをナット2のシール取付面22の雌ねじ22eと合わせて第3シール60の位相を調整した後に、取付孔52aから入れて雌ねじ22eに螺合させたボルト90で、第3シール60をナット2のシール取付面22に固定する。
このように、三枚以上のシールを取り付ける場合は、最も内側に配置されるシールの取付を内側シール取付工程として行い、それ以外のシールの取付は、直前に取り付けられたシールを内側シールと見做して外側シール取付工程を行う。よって、三枚以上のシールを取り付ける場合でも、各シールを独立に、最も内側に配置されるものから順次、位相調整を行いながらナットに固定することができる。これにより、各シールによるそれぞれのシール効果を確実に得ることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 ねじ軸
1a ねじ軸の螺旋溝
1b ねじ軸の外周面
14 内側シールの取付孔としての長孔
16 挿通孔としての長孔
17 長孔(ねじ部材露出孔)
18 外側シールの取付孔としての長孔
2 ナット
20 凸部
20a 凸部の内周面
20b 凸部の外周面
21 ナットの螺旋溝
22 シール取付面
22a 内側シール用雌ねじ(ねじ孔)
22b 外側シール用雌ねじ(ねじ孔)
22c 第1シール用雌ねじ(ねじ孔)
22d 第2シール用雌ねじ(ねじ孔)
22e 第3シール用雌ねじ(ねじ孔)
3 ボール
4 内側シール
40 第1シール
41 内側シールのリップ部(第1シールのリップ部)
42 内側シールの基部(第1シールのリップ部)
42a 第1シールの取付孔
42b 第1シールの挿通孔
5 外側シール
50 第2シール
51 外側シールのリップ部(第2シールのリップ部)
52 外側シールの基部(第2シールのリップ部)
52a 第2シールの取付孔
52b 第2シールの挿通孔
52c 第2シールのねじ部材露出孔
60 第3シール
61 第3シールのリップ部
62 第3シールの基部
62a 第3シールの取付孔
62c 第3シールのねじ部材露出孔
7 ボルト(内側シール用ねじ部材)
8 ボルト(外側シール用ねじ部材)
70 ボルト(第1シール用ねじ部材)
80 ボルト(第2シール用ねじ部材)
90 ボルト(第3シール用ねじ部材)
C ねじ軸の回転軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に螺旋溝が形成されたナットと、
外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、
前記ナットの螺旋溝と前記ねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配置されたボールと、
前記ナットの軸方向各端部に、前記軸方向に沿って配置されたニ以上のリング状のシールと、
前記ナットの軸方向両端部に、前記軸方向に垂直な面として形成されたシール取付面と、
前記シール取付面に、前記ニ以上のシールを独立に固定するねじ部材と、
を有し、
前記シール取付面に、各シール用のねじ部材を螺合する各ねじ孔が形成され、
前記各シールは、ねじ軸の螺旋溝および外周面に接触するリップ部と、前記リップ部の外周側に連続し、前記シール取付面と重なる基部とを、有し、
前記各シールの基部には、前記シール取付面の各シール用のねじ孔を露出させ、前記ナットと同心の円周方向に延びる長穴が、取付孔として形成され、
前記ニ以上のシールを構成する隣り合うシールのうち、相対的にナットに近い内側シールの基部には、前記シール取付面の、相対的にナットから遠い外側シール用のねじ孔を露出させ、前記ナットと同心の円周方向に延びる長穴が、外側シール用ねじ部材を挿通する挿通孔として形成されていることを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
前記ナットの軸方向端部に、前記シール取付面より軸方向外側に延在する凸部が形成され、
前記凸部は、前記ねじ軸の回転軸線を中心軸線とする円柱面状の内周面を有し、
前記シールの基部は、前記内周面と嵌め合う円弧面を有する請求項1記載のボールねじ。
【請求項3】
前記ニ以上のシール用の全てのねじ孔は、前記シール取付面の前記ナットと同心の同一円周に沿って、前記シールの取付順に合わせた順に形成されている請求項1または2記載のボールねじ。
【請求項4】
前記外側シールの基部には、前記内側シール固定用のねじ部材を露出させ、前記ナットと同心の円周方向に延びる長穴が形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載のボールねじ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のボールねじの前記シール取付面に、前記ニ以上のシールを取り付ける方法であって、
前記内側シールの前記取付孔を、前記ナットのシール取付面の内側シール用のねじ孔と合わせて、前記内側シールの位相を、良好なシール性能を得るために適した位相に調整した後に、前記取付孔から入れて前記ねじ孔に螺合させた前記ねじ部材で、前記内側シールを前記シール取付面に固定する内側シール取付工程と、
前記内側シール取付工程の後に、前記内側シールの前記挿通孔に露出している前記シール取付面のねじ孔に、前記外側シールの前記取付孔を合わせて、前記外側シールの位相を、良好なシール性能を得るために適した位相に調整した後に、前記取付孔から入れて前記ねじ孔に螺合させた前記ねじ部材で、前記外側シールを前記シール取付面に固定する外側シール取付工程と、
を有するボールねじのシール取付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−83349(P2013−83349A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−186379(P2012−186379)
【出願日】平成24年8月27日(2012.8.27)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】