説明

ボールねじの測定装置および測定方法

【課題】ボールねじナットの内周面の溝形状の検査を容易且つ短時間で行う。
【解決手段】ボールねじナットを回転テーブル22により回転自在に支持するとともに、その回転角度をロータリエンコーダ23で測定し、測定子3をXYZテーブル12により、XYZ方向に移動自在に支持するとともに、測定子3がボールねじナットの方向に移動するX軸方向の変位をリニアゲージ13により測定し、測定子3が上下に移動するZ軸方向の変位をダイヤルゲージ14により測定する。これらセンサの検出信号をもとに、ボールねじナットにおける測定子3の位置座標を演算し、位置座標をもとにボールねじナットの各部の測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじの各部の形状や位置など各種の測定を行うためのボールねじの測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝とで形成される軌道の間に配置されたボールと、前記ボールを軌道の終点から視点に戻すボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動する装置である。
このようなボールねじは、一般的な産業用機械の位置決め装置等だけでなく、自動車、二輪車、船舶等の乗り物に搭載される電動アクチュエータにも使用されている。
【0003】
ボールねじのボール戻し経路には循環チューブ方式やコマ方式などがあり、コマ方式の場合は、ボール戻し経路をなす凹部が形成されたコマをナットの貫通穴に嵌めている。これに対して、ボール戻し経路をなす凹部(循環溝)を、ナット素材の内周面に塑性加工で直接形成する方法も提案されている。
ところで、前述のように、前記ボールが転動する螺旋溝の内面などの凹凸を測定して検査する方法として、例えば、下記の特許文献1には、軌道の間に配置されたボールと同径の球体の測定子を用い、螺旋溝上においてこの測定子の位置決めを行い、螺旋溝に沿って測定子を移動させつつ測定子の変位を測定することによって螺旋溝の形状を検査する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3572951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、軌道の間に配置されたボールと同径の球体の測定子を用いて螺旋溝の形状を測定して、これに基づきボールねじの検査を行う場合、螺旋溝に沿って測定子を移動させることで螺旋溝の検査を行っているため、例えばナット素材の螺旋溝上における測定子の軸方向位置を測定する分には問題ないが、循環溝をナット素材の内周面に鍛造などで直接形成するようにした循環溝一体型のナットにおいて、その循環溝のピッチを測定することは困難である。
【0006】
つまり、多くの場合、循環溝は、例えばナット素材の内周面に所定のピッチで且つ位相を違えて設けられている。そのため、循環溝のピッチを測定するためには、ナット素材と測定子とを相対回転させ、その移動量を測定する必要があるが、上記従来の検査方法にあっては、相対回転における移動量を検出する構成を有しておらず、循環溝のピッチの測定などボールねじ各部の測定を容易に行うことができるとともに、高精度に測定することの可能な測定装置および測定方法が望まれていた。
そこで、この発明は、ボールねじの各部の形状や位置測定を容易且つ高精度に行うことの可能なボールねじの測定装置および測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1にかかるボールねじの測定装置は、ボールねじを構成するボールねじ軸またはボールねじナットに形成された溝に沿って測定子を移動させて前記ボールねじの測定を行うボールねじの測定装置であって、前記ボールねじ軸またはボールねじナットを測定対象として支持する第1の支持手段と、前記測定子を支持する第2の支持手段と、を有し、前記第1の支持手段および前記第2の支持手段は、前記測定対象と前記測定子とを、前記測定対象の軸に沿って相対移動可能に支持するとともに、前記測定対象の径方向に相対移動可能に支持し、且つ前記測定対象の軸を中心として周方向に相対移動可能に支持し、さらに、前記測定対象と前記測定子との、前記測定対象の軸に沿った方向の相対変位を検出する軸方向変位検出手段と、前記径方向の相対変位を検出する径方向変位検出手段と、前記周方向の相対変位を検出する周方向変位検出手段と、を備えることを特徴としている。
【0008】
請求項2にかかるボールねじの測定装置は、前記測定子は、前記溝を転動する転動球体と同一径を有する1つの球体であることを特徴としている。
請求項3にかかるボールねじの測定装置は、前記溝は、前記ボールねじ軸またはボールねじナットと一体に形成された、ボール戻し経路をなす凹部からなる循環溝であって、前記測定子は、前記循環溝の凹部に嵌合して前記循環溝に位置決めされる嵌合部材であることを特徴としている。
【0009】
請求項4にかかるボールねじの測定装置は、前記測定子は、前記循環溝の凹部と同一形状を有し且つ前記循環溝と嵌合する循環溝凸形状を有することを特徴としている。
請求項5にかかるボールねじの測定装置は、前記測定子は、2つの球体であり且つ当該2つの球体は前記循環溝の長手方向両端と対向した状態で前記循環溝と嵌合することを特徴としている。
【0010】
請求項6にかかるボールねじの測定装置は、前記測定子は、前記溝を転動する転動球体の径よりも大きな径の円弧部を有し、前記測定子の前記円弧部と前記溝とが接触するようになっていることを特徴としている。
請求項7にかかるボールねじの測定装置は、前記測定子は、前記転動球体の径よりも大きな径を有する球体であることを特徴としている。
【0011】
請求項8にかかるボールねじの測定装置は、前記測定子の直径は、前記溝の開口幅よりも小さいことを特徴としている。
請求項9にかかるボールねじの測定装置は、前記測定子は、前記転動球体の径よりも大きな径を有する円柱または柱状部材であって当該柱状部材の断面は、隣接する2つの角が円弧からなる矩形状であることを特徴としている。
請求項10にかかるボールねじの測定装置は、前記第1の支持手段は前記測定対象を前記周方向に回転自在に支持し、前記第2の支持手段は前記測定子を前記測定対象の軸に沿った方向および前記径方向に移動自在に支持することを特徴としている。
【0012】
また、本発明の請求項11にかかるボールねじの測定方法は、ボールねじを構成するボールねじ軸またはボールねじナットに形成された溝に沿って測定子を移動させて前記ボールねじの測定を行う測定方法であって、前記ボールねじ軸またはボールねじナットを測定対象として、前記測定子を前記測定対象の溝に沿って移動させ、このときの前記測定対象と前記測定子との間の前記測定対象の軸に沿った方向の相対変位と、前記測定対象の径方向の相対変位と、前記測定対象の軸を中心とした周方向の相対変位とを測定し、これら測定値に基づき、前記測定対象の測定を行うことを特徴としている。
【0013】
請求項12にかかるボールねじの測定方法は、前記溝は、前記ボールねじ軸またはボールねじナットと一体に形成された、ボール戻し経路をなす凹部からなる循環溝であって、前記測定子は1つの球体で構成され、当該測定子を用いて前記循環溝の長手方向両端部の位置座標を測定し、前記両端部の位置座標から前記循環部の中心部の位置座標を演算し、演算した中心部の位置座標を前記循環溝の位置座標とすることを特徴としている。
【0014】
請求項13にかかるボールねじの測定方法は、前記溝は、前記ボールねじ軸またはボールねじナットと一体に形成された、ボール戻し経路をなす凹部からなる循環溝であって、前記測定子は前記循環溝の凹部と嵌合して前記循環溝に位置決めされる嵌合部材で構成され、前記測定子が前記循環溝と嵌合するときの前記測定子の位置座標を、前記循環溝の位置座標とすることを特徴としている。
【0015】
請求項14にかかるボールねじの測定方法は、前記循環溝の位置座標を検出し、当該循環溝の位置座標と予め設定した前記循環溝の位置基準とに基づき、前記循環溝の位置基準と前記循環溝の位置との位相差から前記循環溝の位相を測定することを特徴としている。
請求項15にかかるボールねじの測定方法は、前記循環溝の位置座標を検出し、前記循環溝の深さとして、前記循環溝の位置座標における前記循環溝の深さを測定することを特徴としている。
【0016】
請求項16にかかるボールねじの測定方法は、前記測定子は1つの球体で構成され、前記測定子が前記測定対象の溝に接触した状態を維持したまま、前記測定対象を、当該測定対象の軸を中心とした周方向に回転させ、前記測定対象の回転に伴い前記測定対象の溝に沿って移動する前記測定子の前記各相対変位を測定し、これら測定値に基づき、前記測定対象の溝の溝中心の軌跡を測定することを特徴としている。
【0017】
請求項17にかかるボールねじの測定方法は、前記溝は、前記ボールねじ軸またはボールねじナットと一体に形成された、ボール戻し経路をなす凹部からなる略S字状の循環溝であって、前記測定対象の回転に伴い前記循環溝に沿って当該循環溝の一端から他端まで移動する前記測定子の前記各相対変位を測定し、これら測定値に基づき、前記循環溝の溝中心の軌跡を測定することを特徴としている。
【0018】
請求項18にかかるボールねじの測定方法は、前記溝は螺旋状に形成された螺旋溝および前記循環溝であって、前記螺旋溝と前記循環溝との接続部における前記螺旋溝の幅方向中心位置の位置座標と前記接続部における前記循環溝の幅方向中心位置の位置座標とを測定し、測定した位置座標に基づき前記螺旋溝の幅方向中心位置と前記循環溝の幅方向中心位置とを結ぶ直線をリード角相当値として検出し、当該リード角相当値に基づき、前記螺旋溝と前記循環溝との接続ずれ状態を測定することを特徴としている。
【0019】
請求項19にかかるボールねじの測定方法は、前記螺旋溝はその断面において溝底が非単一円弧となる溝であり且つ前記循環溝はその断面において溝底が単一円弧となる溝であって、前記螺旋溝の幅方向中心位置の位置座標を測定するときには、前記測定子として前記溝を転動する転動球体と同一径の球体からなる第1の測定子を用い、前記循環溝の幅方向中心位置の位置座標を測定するときには、前記測定子として前記転動球体の径よりも大きな径の球体からなる第2の測定子を用いることを特徴としている。
【0020】
請求項20にかかるボールねじの測定方法は、前記溝を転動する転動球体の径よりも大きな径の球体であり且つ径の異なる第3の測定子と第4の測定子とを用いて前記溝の任意の測定位置の位置座標を測定し、測定した位置座標に基づき前記第3の測定子を構成する前記球体の中心位置と前記第4の測定子を構成する前記球体の中心位置とを結ぶ直線を検出して当該直線と前記測定対象の径方向に沿った直線とがなす角度を検出し、当該角度に基づき、前記溝の溝形状が左右対称であるかを測定することを特徴としている。
【0021】
請求項21にかかるボールねじの測定方法は、前記溝は、ボール戻し経路をなす凹部からなる循環溝であって、前記循環溝の、ピッチ、位置、位相、深さ、および前記循環溝の溝形状が左右対称であるか、のうちのいずれかを測定することを特徴としている。
請求項22にかかるボールねじの測定方法は、前記溝は、螺旋状に形成された螺旋溝であって、前記螺旋溝の、ピッチ、位置、真円度、および前記螺旋溝の溝形状が左右対称であるか、のうちのいずれかを測定することを特徴としている。
請求項23にかかるボールねじの測定方法は、前記溝は、ボール戻し経路をなす凹部からなる循環溝および螺旋状に形成された螺旋溝であって、前記循環溝と前記螺旋溝との接続部の段差および位置ずれのいずれかを測定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ボールねじ軸またはボールねじナットを測定対象として支持する第1の支持手段と、測定子を支持する第2の支持手段とにより、前記測定対象と前記測定子とを、前記測定対象の軸に沿って相対移動可能に支持するとともに、前記測定対象の径方向に相対移動可能に支持し、且つ前記測定対象の軸を中心として周方向に相対移動可能に支持し、さらに、前記測定対象と前記測定子との、前記測定対象の軸に沿った方向の相対変位と、前記径方向の相対変位と、前記周方向の相対変位とを検出するようにしたため、ボールねじ軸またはボールねじナットに形成された溝に沿って測定子を移動させることにより、測定対象と測定子との、前記測定対象の軸に沿った方向の相対変位と、前記径方向の相対変位と、前記周方向の相対変位とを容易に検出することができ、これら相対変位を用いることによって、測定対象の各部の形状や位置などを容易に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施の形態における測定装置の一例を示す構成図である。
【図2】ナット支持機構にボールねじナットを装着した状態を示す図である。
【図3】測定治具のその他の例を示す構成図である。
【図4】Y方向中心の検出方法の説明図である。
【図5】循環溝の中間位置を説明するための図である。
【図6】第2の実施の形態における測定子の概略構成図である。
【図7】測定子のその他の例を示す概略構成図である。
【図8】第3の実施の形態における測定子の形状を説明するための図である。
【図9】第4の実施の形態における測定方法を説明するための図である。
【図10】第5の実施の形態における測定子の形状を説明するための図である。
【図11】第6の実施の形態における測定子の形状を説明するための図である。
【図12】第7の実施の形態における測定子の形状を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
まず、第1の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用したボールねじの測定装置の一実施形態を示す斜視図である。
この測定装置1は、ベース2上に、測定子3を有する測定器4を支持する測定器支持機構5と、測定対象であるボールねじナットを支持するナット支持機構7と、を備える。
前記測定子3は、図示しない螺旋溝を転動するボールと同径の1つの鋼球で形成されている。なお、測定子3は鋼製でなくてもよい。
【0025】
測定器支持機構5は、測定器4を保持する測定器保持部材11と、この測定器保持部材11を、互いに直交するX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に移動可能に支持するXYZテーブル12とを備える。なお、図1において、測定子3をナット支持機構7側に水平移動させる方向をX軸方向、測定子3をX軸と直交する水平方向に移動させる方向をY軸方向、測定子3を上下(鉛直方向)に移動させる方向をZ軸方向とする。
【0026】
前記XYZテーブル12は、例えば、ベース2上に配置された案内レール12aに沿って可動部材12bが移動するように構成され、この案内レール12aと平行に、可動部材12bのX軸方向の位置を検出するためのリニアゲージ13が設けられている。また、XYZテーブル12の適所には、XYZテーブル12のZ軸方向の変位を検出するためのダイヤルゲージ14が設けられている。
【0027】
一方、ナット支持機構7は、測定対象のボールねじナットを保持する保持部材21と、この保持部材21を回転自在に支持する回転テーブル22と、回転テーブル22の回転角度を検出するロータリエンコーダ23と、を備え、このロータリエンコーダ23には、そのエンコーダ出力をもとに回転角度を検出する信号処理装置23aが接続されている。
図2は、前記ナット支持機構7において、ボールねじナット6を保持部材21に装着した状態を示したものである。図2において測定治具31は、ボールねじナット6を保持するものであって、保持部材21には、前記測定治具31を着脱自在に掴んで保持するチャック機構21aが形成され、ボールねじナット6を測定治具31に固定し、この測定治具31をチャック機構21aで保持することにより、ボールねじナット6の軸(中心軸)と回転テーブル22の回転軸とを一致させた状態で、ボールねじナット6を、保持部材21に固定するようになっている。
【0028】
測定治具31は、図2に示すように、ボールねじナット6を収納可能な、ボールねじナット6の外径と同等程度の内径を有する肉厚の筒状を有し、且つ、筒状の測定治具31の軸方向の長さは、ボールねじナット6のフランジ部6aまで収納する長さであって、筒状の測定治具31の非開口側の面には、ボールねじナット6の内径d1と同一寸法の内径d2(=d1)を有する円形の開口部31aが形成されている。測定治具31の開口側の縁部内周の適所には、ボールねじナット6のフランジ部6aの肉厚と同等程度の段差31bが形成されている。そして、測定治具31にボールねじナット6を収納し且つフランジ部6aを段差31bに当接させることにより、フランジ部6aが測定治具31の縁部に嵌め込まれ、この状態で、段差31b部分のフランジ部6aを抑えるようにしてクランプ31cを設け、このクランプ31cを介して、測定治具31に形成されたねじ穴31dにボルト31eを固定することによって、ボールねじナット6の軸と測定治具31の軸とを一致させた状態で、ボールねじナット6を測定治具31に固定するようになっている。
【0029】
なお、ボールねじナット6のフランジ部6aに取付け用の穴が形成されている場合には、図3(a)に簡略して示すように、測定治具31を、ボールねじナット6のフランジ部6aを除く円筒部6bを収納可能に形成する。つまり、測定治具31の内径をボールねじナット6の円筒部6bの外径と同等程度に形成することにより、測定治具31におけるボールねじナット6の円筒部6bの移動を制限し、且つボールねじナット6のフランジ部6aと測定治具31の開口側縁部上面31fが当接することにより、測定治具31におけるボールねじナット6の軸方向への移動を制限し、フランジ部6aに形成された取付け用の穴6cを介してフランジ部6aを測定治具31の縁部にボルト31eで固定することによって、ボールねじナット6の軸(中心軸)と測定治具31の軸(中心軸)とを一致させて、ボールねじナット6を、測定治具31に固定するようにしてもよい。
【0030】
また、フランジ部がないボールねじナット6の場合には、図3(b)に簡略して示すように、図3(a)の測定治具31において、測定治具31の軸方向の長さを、ボールねじナット6の軸方向の長さよりも多少短くなる長さとし、ボールねじナット6を測定治具31に収納し、ボールねじナット6の一方の縁部の端面をクランプ31cで抑えるようにした状態で、クランプ31cを介してボルト31eを測定治具31のねじ穴31dに固定することによって、ボールねじナット6と測定治具31とを固定するようにしてもよい。
【0031】
なお、ここでは、測定治具31を介してボールねじナット6をチャック機構21aに装着する場合について説明したが、測定治具31を用いずに、ボールねじナット6をチャック機構21aに直接固定することも可能である。しかしながら、より正確な測定を行うためには、測定治具31を介して固定することが好ましい。
このように、測定治具31を介してボールねじナット6をチャック機構21aに装着する構成とすることによって、ボールねじナット6の形状に応じて測定治具31を交換することにより、ボールねじナット6の形状に関わらず、ボールねじナット6をチャック機構21aに装着することができる。
【0032】
そして、測定器支持機構5とナット支持機構7とは、測定治具31を介してチャック機構21aに装着したボールねじナット6と、測定子3とが対向するように配置され、チャック機構21aにボールねじナット6を装着した状態で、XYZテーブル12を操作して、測定子3をX軸、Y軸、Z軸方向に移動させると共に、回転テーブル22を操作してボールねじナット6を回転させることによって、ボールねじナット6の内周の全領域に対して、測定子3を走査させることができるようになっている。
【0033】
次に、図1の測定装置を用いた測定手順を説明する。
まず、測定対象のボールねじナット6を図2に示すように、測定治具31を介してチャック機構21aに装着する。前記測定対象のボールねじナット6には、内周面にボール戻し経路をなす凹部(以下、循環溝という。)6Aが、内周面に鍛造などの塑性加工または切削などの除去加工などにより直接形成され、さらに、図示しない螺旋溝が形成されている。螺旋溝は、ボールが転走する溝であり、循環溝6Aは螺旋溝の始点と終点とをつなぎ、ボールを循環させるための溝である。ここでは、螺旋溝と循環溝6Aとで360°の閉回路を形成するボールねじナットを対象として測定する場合について説明する。
なお、ボールねじナット6としては、螺旋溝および循環溝が形成された状態のボールねじナット6であっても適用することができ、また、循環溝のみが形成された製造途中のボールねじナット6であっても適用することができ、さらに、循環溝を持たない螺旋溝が形成されたボールねじナット6であっても適用することができる。
【0034】
前記ボールねじナット6をチャック機構21aに装着する場合には、回転テーブル22およびボールねじナット6に測定基準を予め設定しておき、回転テーブル22の測定基準とボールねじナット6の測定基準とが一致するように、ボールねじナット6をチャック機構21aに装着する。例えば、測定治具31やボールねじナット6に切欠きを設けておき、これら切欠きが一致するように装着したり、或いは、ボールねじナット6の切欠きに合わせて測定治具31にキーを設け、ボールねじナット6の切欠きと測定治具31のキーとが係合するように測定治具31にボールねじナット6を装着する。そして、回転テーブル22の測定基準とボールねじナット6の測定基準とが一致する、測定治具31とチャック機構21aとの相対関係を予め設定しておき、この相対関係となるように、測定治具31をチャック機構21aに装着する。
【0035】
次に、XYZテーブル12を操作して、まず、測定子3がボールねじナット6の内周と接する位置に移動させ、図4に示すように、測定子3がボールねじナット6の最下点にくるように調整する。すなわち、ボールねじナット6を軸方向からみたときに、ボールねじナット6と接する測定子3の位置が最下となる最下点を探す。そして、このボールねじナット6の最下点を、Y方向中心とする。そして、XYZテーブル12においてY軸方向を固定する。
【0036】
次に、測定子3をX軸方向に移動させ、図2に示すように、測定子3が測定治具31の開口部31aの内周と対向する位置に移動する。そして、測定子3が開口部31aの内周に接するようにZ軸方向を調整し、このときのZ軸方向の位置をZ軸方向の初期位置とする。そして、測定子3がZ軸方向の初期値にある状態で、ダイヤルゲージ14の零合わせを行う。これにより、図2に示すように、測定子3が循環溝6Aの溝底に接触しているときのダイヤルゲージ14のダイヤルゲージ出力は、測定治具31の開口部31aの内周を基準とする溝底の深さeを表すことになる。ここで、ボールねじナット6は、循環溝6Aや図示しない螺旋溝を鍛造などにより形成しており、その際にボールねじナット6が変形している可能性がある。そのため、ボールねじナット6ではなく、測定治具31を用いてダイヤルゲージ14の零合わせを行う。なお、前述のY方向中心の設定も、測定治具を用いて行ってもよい。
【0037】
次に、測定子3をX軸方向に移動させ、測定器4の先端が、ボールねじナット6の、測定器支持機構5側の端面と突き当たる位置に移動させる。そして、このときのX軸方向の位置を、X軸方向の初期位置とする。
以上により、測定が可能な状態となる。
上記測定装置では、循環溝6Aについて、そのピッチ、位置、位相、深さなどを測定することができる。また、螺旋溝については、そのピッチ、位置、真円度、深さなどを測定することができる。また循環溝と螺旋溝との段差および位置ずれを測定することができる。
【0038】
まず、循環溝6Aの測定方法を説明する。
なお、循環溝6Aは、図5に示すように略ローマ字のS字状に形成されている。
まず、XYZテーブル12を操作してX軸方向を調整すると共に、回転テーブル22を操作することにより、測定子3を、S字状の循環溝6Aの端部A,Bのうち一方、例えば端部Aと対向する位置近傍に移動させて、測定子3が循環溝6Aの溝底に接触するように調整する。この状態で、ボールねじナット6を回転させると、循環溝6Aの端部Aの位置において測定子3が循環溝6Aの段差に突き当たり移動が制限される。この移動が制限されるときの位置を、循環溝6Aの端部Aの位置とし、この時点におけるロータリエンコーダ23のロータリ信号出力、リニアゲージ13のリニア信号出力、ダイヤルゲージ14のダイヤルゲージ信号出力を端部Aの位置情報として獲得する。
【0039】
同様の手順で、端部Bについてもロータリエンコーダ23のロータリ信号出力、リニアゲージ13のリニア信号出力、ダイヤルゲージ14のZ軸変位信号出力を位置情報として獲得する。そして、これら端部A、Bの位置情報から循環溝6Aの中間位置Cを求める。循環溝6Aは、図5に示すように、中間位置Cを中心として点対称となる形状を有しているため、端部A、Bの位置情報から、中間位置Cの位置情報を演算することができる。例えば端部A、Bの位置情報から、ボールねじナット6に設定した測定基準を基準とする端部A、Bの、XYZ座標における位置座標を獲得し、これに基づき中間位置Cの位置座標を演算する。
同様の手順で、他の循環溝6Aについても、端部A、Bの位置座標を獲得し、それぞれについて中間位置Cの位置座標を獲得する。
【0040】
また、各循環溝6Aの中間位置Cの位置座標において、隣り合う循環溝6Aの中間位置Cの位置座標の差をとることによって、循環溝6Aのピッチを求めることができる。このように、循環溝6Aの中間位置Cの位置座標を演算し、これを循環溝6Aの位置座標とすることによって、測定子3の形状や、種類、大きさに影響されることなく、循環溝6Aの位置座標を容易に検出することができる。
【0041】
また、各循環溝6Aの中間位置Cの位置座標と、ボールねじナット6の測定基準との位相差を求めることにより、循環溝6Aの位相を検出することができる。
また、このようにして演算した各循環溝6Aの中間位置Cの位置座標の位置に測定子3を移動させ、この状態で測定子3を溝底に接触させ、このときのダイヤルゲージ14のダイヤルゲージ信号出力を得ることにより、循環溝6Aの中間位置Cにおける溝の深さを検出することができる。
【0042】
一方、図示しない螺旋溝の循環溝6Aに対する位置(螺旋溝と循環溝6Aとの位置ずれ)の測定を行う場合には、まず循環溝6Aの中間位置Cの位置座標の位置に測定子3を移動させる。そして、この状態で、回転テーブル22を180度回転させ、この位置において測定子3をボールねじナット6の内周と接触させる。
ここで、循環溝6Aの中間位置Cの位置と螺旋溝とは点対称の位置関係にあることが理想的である。そのため、回転テーブル22を180度回転させた位置が、螺旋溝の溝底となるはずである。したがって、回転テーブル22を180度回転させ、この位置で測定子3をX軸方向に微動させて螺旋溝の最深部を探索する。そして、この螺旋溝が最深部となる位置と、中間位置Cから回転テーブル22を180度回転させたときの位置との変位量を、螺旋溝と循環溝6Aとの位置ずれ量として測定する。
【0043】
また、測定子3を、螺旋溝の溝底に接触させて螺旋溝の深さを測定することができる。さらに、この状態で、螺旋溝に沿って回転テーブル22を360度回転させる毎に、ダイヤルゲージ14のダイヤルゲージ信号出力、リニアゲージ13のリニア信号出力およびロータリエンコーダ23のロータリ信号出力を、位置情報として獲得する。この位置情報に基づき、ボールねじナット6を360度回転させる毎の位置座標から、隣接する螺旋溝間のX軸方向の差をとることにより螺旋溝間のピッチを演算することができる。
さらに、測定子3を、螺旋溝の溝底に接触させた状態で、螺旋溝に沿って移動させて、このときのダイヤルゲージ14のダイヤルゲージ信号出力を検出する。そして、ダイヤルゲージ信号出力に基づき、最大外径および最小内径を獲得することにより、これらから真円度を演算することができる。
【0044】
また、循環溝6Aと螺旋溝との段差を測定する場合には、上述の手順で獲得した循環溝6Aの端部、例えば、図5の端部Aの位置座標をもとに、この位置に測定子3を移動させ、循環溝6Aの溝底に測定子3を接触させる。この状態で、測定子3を循環溝6Aに沿って移動させて螺旋溝側に移動させる。そして、測定子3が循環溝6Aから螺旋溝に移行するときの、ダイヤルゲージ14のダイヤルゲージ信号出力を検出し、これに基づき測定子3が循環溝6Aから螺旋溝に移行するときの変位量を検出し、これを循環溝6Aと螺旋溝との段差の溝深さ方向のずれ量とする。
【0045】
また、回転テーブル22を操作してボールねじナット6を回転させて、測定子3を循環溝6Aから螺旋溝に移動させたときの、リニアゲージ13のリニア信号出力を獲得し、測定子3が循環溝6Aから螺旋溝に移行するときの、リニアゲージ13のリニア信号出力の変位を検出することにより、循環溝6Aと螺旋溝との段差の溝幅方向のずれ量を得ることができる。
【0046】
このように、ボールねじナット6を回転支持する回転テーブル22および回転テーブル22の回転角度を検出するロータリエンコーダ23を設けるとともに、XYZテーブル12およびXYZテーブル12のX軸およびZ軸方向の変位量を検出するリニアゲージ13およびダイヤルゲージ14を設け、ボールねじナット6の内周を測定子3により走査したときの、X軸方向の位置やZ軸方向の変位量またボールねじナット6の回転角度を得るようにしたため、これら検出信号に基づき、ボールねじナット6の各部の形状の測定を容易に行うことができる。
【0047】
なお、上記第1の実施の形態において、さらに、入力される指令信号に応じた移動量だけXYZテーブル12および回転テーブル22を移動させる駆動制御手段を設け、測定子3やボールねじナット6の目標とする移動量に応じた指令信号を入力することにより、自動的にXYZテーブル12をXYZの各軸方向に移動させるとともに、回転テーブル22を回転駆動させて、測定子3をボールねじナット6の測定対象位置に自動的に移動させるように構成することも可能である。
【0048】
また、測定子3に付加される圧力を検出する圧力検出手段を設け、この圧力検出手段の出力信号に基づき、ボールねじナット6と測定子3との接触を検知するように構成してもよい。さらに、入力される指令信号に応じて、リニアゲージ13、ダイヤルゲージ14、ロータリエンコーダ23など各種センサの検出信号を記憶手段に格納するデータ記憶手段を設け、例えば、測定子3が目標とする位置に移動したときの各種センサの出力信号を記憶手段に格納することによって、各測定位置におけるセンサの出力信号を記憶するように構成し、例えば全ての測定が終了した後、この記憶手段に記憶した出力信号に基づいて各種演算を行うように構成することも可能である。
【0049】
さらに、所定の演算処理を行う演算手段を設け、測定子3が目標とする位置に移動したとき、各種センサの出力信号を取り込み、このセンサの出力信号に基づいて例えば、循環溝6Aの中心位置座標の演算或いは、ピッチの演算など、各種の演算処理を自動的に行うように構成することも可能である。
また、上記実施の形態においては、ボールねじナット6をナット支持機構7により回転自在に支持する場合について説明したが、これに限るものではなく、例えば、ナット支持機構7を回転不可に構成し、測定器支持機構5側において、測定子3をさらに回転可能に支持するように構成することも可能である。
【0050】
また、上記実施の形態においては、Y軸方向を固定としてX軸方向およびZ軸方向の変位を検出する場合について説明したが、これに限るものではなく、例えばZ軸方向を固定してX軸方向およびY軸方向の変位を検出するように構成することも可能である。この場合には、ボールねじナット6のY軸方向の端部となる位置をZ軸中心として探索し、Z軸中心の位置にZ軸方向を固定し、Y軸方向の位置を調整することにより溝の深さを測定する構成とすることも可能である。
【0051】
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。
この第2の実施の形態は、上記第1の実施の形態において、測定子3の形状が異なること以外は同様であるので同一部には同一符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
この第2の実施の形態における測定子3aは、図6に示すように、ボールねじナット6の内周にボール戻し経路をなす凹部として形成される循環溝6Aと嵌合する、循環溝凸形状を有している。図6(a)は、測定子3aを備えた測定器4の上面図、図6(b)はその斜視図である。
【0052】
次に、図6(a)、図6(b)の測定子3aを備えた、測定装置1を用いた測定手順を説明する。
まず、測定対象のボールねじナット6を上記第1の実施の形態と同様の手順で測定治具31を介してチャック機構21aに装着し、第1の実施の形態と同様の手順によりY方向中心を検出し、XYZテーブル12においてY軸方向を固定する。
次に、測定子3aをX軸方向に移動させ、測定子3aを、図2に示すように、測定治具31の開口部31aの内周に接触させ、このときのZ軸方向の位置をZ軸方向の初期位置とする。そして、測定子3aがZ軸方向の初期値にある状態で、ダイヤルゲージ14の零合わせを行う。
【0053】
次に、測定子3aをX軸方向に移動させ、測定器4の先端が、ボールねじナット6の、測定器支持機構5側の端面と突き当たる位置に移動させる。そして、このときのX軸方向の位置を、X軸方向の初期位置とする。
以上により、測定が可能な状態となる。
ここで、循環溝凸形状からなる測定子3aを備えた第2の実施における測定装置1では、循環溝6Aの、ピッチ、位置、位相、深さを測定することができる。
【0054】
まず、XYZテーブル12および回転テーブル22を操作することにより、測定子3aを、S字状の循環溝6Aと対向する位置に移動させるとともに、測定子3aと循環溝6Aとを位置合わせし、測定子3aを循環溝6Aに嵌まる位置に移動させる。そして、測定子3aが循環溝6Aに嵌まるときの位置を、循環溝6Aの位置とし、この時点におけるロータリエンコーダ23のロータリ信号出力、リニアゲージ13のリニア信号出力およびダイヤルゲージ14のダイヤルゲージ出力とを循環溝6Aの位置情報として獲得する。そして、この位置情報から、ボールねじナット6に設定した測定基準を基準とする循環溝6Aの位置座標を獲得する。
【0055】
同様の手順で、他の循環溝6Aについても測定子3aが循環溝6Aと嵌まる位置を探索し、この時点におけるロータリエンコーダ23のロータリ信号出力、リニアゲージ13のリニア信号出力およびダイヤルゲージ14のダイヤルゲージ出力とを循環溝6Aの位置情報として獲得し、これをもとに、ボールねじナット6に設定した測定基準を基準とする位置座標を獲得する。
【0056】
また、隣り合う循環溝6Aの位置座標の差をとることによって、循環溝6Aのピッチを求めることができる。また、各循環溝6Aの位置座標と、ボールねじナット6の測定基準との位相差を求めることにより、循環溝6Aの位相を検出することができる。
また、測定子3aが循環溝6Aに嵌まったときのダイヤルゲージ14のダイヤルゲージ出力を得ることにより、循環溝6Aの深さを検出することができる。
ここで、図6(a)、図6(b)に示すように、測定子3aは、循環溝6Aと嵌合する循環溝凸形状を有している。このため、ボールねじナット6において、測定子3aが嵌合する凹部を探索し、嵌合するときの測定子3aの位置座標を獲得することによって、循環溝6Aの位置座標を得ることができる。
【0057】
前述のように、上記第1の実施の形態のように測定子3が1つの球体で形成されている場合、循環溝6Aの両端の位置座標から中間位置Cの位置座標を演算する必要がある。これに対し、測定子3aを、循環溝凸形状とすることによって、一度の測定により循環溝6Aの位置座標を容易に獲得することができる。
したがって、循環溝6Aの測定に要する所要時間の短縮を図ることができる。
【0058】
なお、この第2の実施の形態においては、図6(a)、図6(b)に示すように、測定子3aを、循環溝6Aと嵌合する循環溝凸形状とした場合について説明したが、例えば、図7(a)および図7(b)に示すように、ボールねじナット6の内周にボール戻し経路をなす凹部として形成される循環溝6Aの長手方向端部に対応する位置にそれぞれ鋼球などの球体を設け、これら2つの球体からなる測定子3bを形成するようにしてもよい。この場合も、2つの球体が循環溝6Aに嵌合することにより測定子3bを、循環溝6Aに対して一意に位置決めすることができるため、上記と同等の作用効果を得ることができる。なお、図7(a)は、測定子3bを有する測定器4の上面図、図7(b)はその斜視図である。
【0059】
次に、本発明の第3の実施の形態を説明する。
この第3の実施の形態は、測定子3cとして、図示しない螺旋溝を転動するボールよりも大きい径を有する、例えば鋼球などの1つの体で形成されている。なお、測定子3cは鋼製でなくてもよい。
ここで、上記第1の実施の形態のように、転動体と同径の1つの球体を測定子として用いた場合、循環溝6Aの溝形状が、例えば単一円弧のU字型断面を有する場合には位置決めが難しい。すなわち、U字型断面の場合、測定子と循環溝とが1点で接触するため、実際に転動体が通過する溝最深部と測定子とが接触する位置を探る必要がある。つまり、測定子を溝に挿入しただけでなく、測定子が最深の位置となる点を探索する必要がある。
【0060】
そこで、この第3の実施の形態では、1つの球体からなる測定子3cを、転動体より大きい径を有する球体とし、循環溝6Aにおいて測定子3cが2点で接触するように構成することで、循環溝6Aに測定子3cを挿入するだけで位置決めができるようにしている。
つまり、図8(a)に示すように、第3の実施の形態における測定子3cは、1つの球体で形成され、且つその球体の半径をR1としたとき、半径R1を、循環溝6Aの溝底の曲率半径R2よりも大きくしている(R1>R2)。
【0061】
また、図8(a)に示すように、循環溝側面部61の延長線と循環溝ランド部62の延長線との交点間の距離dよりも測定子3cの直径“2×R1”が大きい場合(R1>d/2)には、図8(b)に示すように、循環溝6Aの溝肩部63がR形状となるダレが左右非対称に生じると、測定子3cとダレとが接触し、測定子3c中心と循環溝中心とが一致しなくなる可能性がある。
このため、R1<d/2とすることが好ましい。
【0062】
このような構成の測定子3cを用いることによって、測定子3cは、循環溝6Aと点で接触することになる。そのため、循環溝6A内における測定子3cの位置決めが容易となる。したがって、その分、測定に要する所要時間の短縮を図ることができるとともに、循環溝において位置決めを行う必要がないため、位置決め誤差に起因する測定精度の低下を抑制することができ、すなわち、測定精度の向上を図ることができる。
【0063】
なお、この第3の実施の形態の場合、上記第1の実施の形態と同様の手順で、循環溝6Aのピッチおよび位置、位相の測定を行うことができる。また、同様に図示しない螺旋溝のピッチ、および位置の測定を行うことができる。
また、ここでは、第1の実施の形態における1つの球体からなる測定子3に適用した場合について説明したが、図7に示すように、2つの球体から測定子3bを構成する場合であっても適用することができる。
【0064】
次に、本発明の第4の実施の形態を説明する。
この第4の実施の形態は、循環溝6Aと螺旋溝との接続部の接続精度を測定するものである。なお、循環溝6AはU字形状溝など、断面において溝底が単一円弧となる溝であり、螺旋溝はゴシックアーチ状溝など、断面において溝底が非単一円弧となる溝である。
この第4の実施の形態における測定装置1は、第1の実施の形態における、転動体と同径の球体からなる測定子3を有する測定器4と、図8に示す、第3の実施の形態における、転動体よりも直径の大きい球体からなる測定子3cを有する測定器4とが取り替え可能に構成されている。
【0065】
そして、測定を行う場合には、まず、測定子3を用いて循環溝6Aと螺旋溝との接続部M近傍に測定子3を移動させる。そして、測定子3を螺旋溝の底に接触させて測定子3の位置座標を獲得する。このとき、螺旋溝は、断面において溝底が非単一円弧となるゴシックアーチ状溝などであって、測定子3は螺旋溝内において2点で接触する。そのため、測定子3の位置決めを容易に行うことができる。このようにして獲得した位置座標を、接続部Mにおける螺旋溝の中心位置座標とする。
【0066】
次に、測定器4を付け替え、測定子3cを用いて前記と同一の循環溝6Aと螺旋溝との接続部M近傍に測定子3cを移動させる。そして、測定子3cを循環溝6Aの溝内に挿入しこの時点における位置座標を獲得する。これを接続部Mにおける循環溝6Aの中心位置座標とする。ここで、循環溝6Aは、断面において溝底が単一円弧となるU字形状溝などであるため、転動体と同径の球体からなる測定子3を用いた場合、循環溝6Aと測定子3とは1点で接触することになり、位置決めに手間がかかる。しかしながら、循環溝6Aの測定は、測定子3cを用いて行っているため、循環溝6Aと測定子3cとは2点で接触する。よって、測定子3cの位置決めを容易に行うことができる。
【0067】
つぎに、接続部Mにおける螺旋溝の中心位置座標と循環溝6Aの中心位置座標とから、これら2点を通る直線と、ボールねじナット6の軸と垂直な面とがなす角度をリード角相当値として演算する。
つまり、螺旋溝と循環溝6Aとは図9に示すように、螺旋溝中心線と循環路中心線とがずれることなくつながることが望ましいため、螺旋溝と循環溝6Aとの接続部M近傍の螺旋溝と循環溝6Aとを通る直線と、ボールねじナット6の軸と垂直な面とがなす角度はリード角と同等程度になるはずである。
【0068】
したがって、螺旋溝の中心位置座標と循環溝6Aの中心位置座標とから、これら2点を通る直線と、ボールねじナット6の軸と垂直な面とがなす角度を演算し、これをリード角相当値とし、このリード角相当値とリード角の設計値とを比較することによって、接続部Mにおける循環溝6Aと螺旋溝との接続ずれの有無を検出することができ、これらの差をとることによって、ずれの度合を測定することができる。
【0069】
この操作を全ての循環溝6Aについて行うことにより、各循環溝6Aについてその接続部における循環溝6Aと螺旋溝との接続部のずれを測定することができる。
なお、ここでは、螺旋溝の中心位置座標を測定した後、循環溝6Aの中心位置座標を測定する場合について説明したが、循環溝6Aの中心位置座標を測定した後、螺旋溝の中心位置座標を測定することも可能であり、測定順番は任意に設定することができる。
【0070】
また、上記実施の形態においては、螺旋溝は測定子3を用いて測定し、循環溝6Aは測定子3cを用いて測定しているが、螺旋溝が、その断面において溝底が単一円弧となるU字形状溝などである場合には、測定子3cを用いて螺旋溝の測定を行えば、同様に測定子の位置決めに要する所要時間の短縮を図ることができる。また、螺旋溝の溝形状に関係なく、測定子3cのみを用いて、螺旋溝と循環溝6Aとの接続部のずれを測定することも可能である。
【0071】
次に、本発明の第5の実施の形態を説明する。
この第5の実施の形態は、循環溝6Aの形状の崩れを測定するものである。
この第5の実施の形態における測定装置1は、1つの球体の測定子3dを有する測定器4と、この測定子3dとは直径の異なる球体の測定子3eを有する測定器4とを、付け替えて測定を行うようになっている。
【0072】
前記測定子3dおよび3eは、上記第3の実施の形態と同様の特性を有して形成される。すなわち、測定子3d、3eの半径は、それぞれ循環溝底の曲率半径よりも大きく、且つ、測定子3d、3eの半径は、循環溝側面延長線と循環溝ランド部の延長線との交点間の距離の1/2の値よりも小さくなるように設定される。
このように形成された測定子3dおよび3eを用いて、循環溝6Aの形状の崩れを測定する場合、まず、一方の測定子例えば3dを用い、循環溝6Aの任意に設定した測定位置に移動させ、測定子3dを循環溝6Aに挿入して位置決めする。そして、この位置におけるリニアゲージ13のリニア信号出力、ロータリエンコーダ23のロータリ信号出力、およびダイヤルゲージ14のダイヤルゲージ出力を、測定子3dの位置座標として獲得する。
【0073】
次いで、測定子3eに切り替え、測定子3eを前記測定位置と同一位置に移動させ、この位置において測定子3eを循環溝6Aに挿入して位置決めする。そして、この位置におけるリニアゲージ13のリニア信号出力、ロータリエンコーダ23のロータリ信号出力、およびダイヤルゲージ14のダイヤルゲージ出力を、測定子3eの位置座標として獲得する。
【0074】
ここで、測定子3dと3eとは直径の異なる球体ではあるが、循環溝6Aの同一位置において位置座標を測定している。循環溝6Aが左右対称であれば、図10に示すように、測定子を同一位置に移動させ測定を行った場合、球体からなる測定子3d、3eの中心位置を結ぶ直線は、L1のように、ボールねじナット6の軸の径に沿う方向となる。これに対し、循環溝6Aが左右非対称である場合には、測定子を同一位置に移動させて測定を行ったとしても、循環溝6Aに対して測定子を位置決めした際に、図10に示すように、傾いて位置決めされるため、球体からなる測定子3d、3eの中心位置を結ぶ直線L2は、ボールねじナット6の径に沿った方向とはならず傾きが生じる。
したがって、循環溝6Aの同一位置における、測定子3dおよび3eの中心位置を結ぶ直線を検出することによって、循環溝6Aが左右対称であるかを測定することができる。
【0075】
前記測定子3dおよび3eの中心位置を結ぶ直線の傾きは、前記循環溝6Aの同一位置において測定した測定子3dの位置座標と測定子3eの位置座標から求めることができる。そして、測定子3d、3eの中心位置の座標に基づいて、これらの中心位置をとおる直線を演算し、この直線が、設計上におけるボールねじナット6の径に沿った方向であるか否か、すなわち、ボールねじナット6の軸と直交する直線とがなす角度を演算することによって、循環溝6Aが左右対称であるか否か、すなわち形状の崩れなどが生じていないかを容易に測定することができる。
また、このとき、各測定子の中心位置を通る直線とボールねじナット6の軸と直交する直線とがなす角度と、各測定子の中心位置の位置座標および直径とから、これら測定子の共通接線を演算することで、ボールねじナット6の軸に対する共通接線の傾きを、循環溝側面の傾きとして測定することもできる。
【0076】
つぎに、本発明の第6の実施の形態を説明する。
この第6の実施の形態は、上記第1の実施の形態において、測定子3の形状が異なること以外は同様であるので同一部には同一符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
この第6の実施の形態における測定子3fは、円筒または、図11に示すように、直方体であり且つ隣接する2つの角を円弧とした曲面を有する筒形状を有する。以後、ここでは、円筒およびこの一部が曲面を有する直方体形状を含めて略円筒形状という。
【0077】
そして、この測定子3は、略円筒形状の軸方向と螺旋溝および循環溝6Aの長手方向とが一致するように走査される。また、略円筒形状の軸方向の長さは、S字状の循環溝6Aの溝底部に測定子3fを接触させた状態で走査させることの可能な長さに設定される。また、測定子3fは、螺旋溝において転動体が接触する位置、すなわち、図11に示すように、ボールねじナット6の最下部を基準とした転動体が接触する位置の角度(以後、接触角ともいう)近傍で、螺旋溝と接触するようになっている。すなわち、図11に示すように、螺旋溝の曲率半径をr1、略円筒形状の測定子3fの曲面の曲率半径をr2としたとき、r2<r1を満足するように設定される。また、図11に示すように、略円筒形状の測定子3fの幅をDとしたとき、D<2×r1を満足するように設定される。
【0078】
また、前述のように、転動体は螺旋溝内において、ある接触角をもって螺旋溝と接触しながら移動する。また、螺旋溝と循環溝6Aとは、前記第4の実施の形態で説明したように、螺旋溝中心線と循環溝中心線とがずれることなく接続されることが望まれる。したがって、測定子3fは、循環溝6A内においても、螺旋溝との接触位置に相当する位置で、接触することが望ましい。そのため、測定子3fの接触角を前述の条件を満足するように設定する。
このように、測定子3fを、略円筒形状とすることによって、螺旋溝或いは循環溝において測定子3fは2点で接触することになる。このため、螺旋溝或いは循環溝内における測定子3fの位置決めを一意に行うことができる。そのため、測定精度を向上させることができる。
【0079】
なお、この第6の実施の形態における測定装置1では、上記の実施の形態における測定装置1と同様に、循環溝6Aについて、そのピッチ、位置、位相、深さを測定することができる。また、螺旋溝については、そのピッチ、位置、真円度、を測定することができる。また循環溝と螺旋溝との段差および位置ずれを測定することができる。その測定方法は、上記第1の実施の形態における測定方法と同様である。
また、上記第6の実施の形態においては、循環溝および螺旋溝において測定子の接触位置が同等の位置となるようにしているが、上記第1の実施の形態、第3、第5に実施の形態においても、循環溝と螺旋溝の測定子の接触位置が同等程度の位置となるように測定子の形状を決定することが望ましい。
【0080】
つぎに、本発明の第7の実施の形態を説明する。
この第7の実施の形態は、略S字状の循環溝6Aの溝中心の軌跡を測定するものである。
この第7の実施の形態における測定装置1は、第1の実施の形態における測定装置1と同一である。なお、第1の実施の形態では測定子3は、図示しない螺旋溝を転動する転動体と同径の1つの鋼球で形成されているが、第7の実施の形態における測定装置1では、第3の実施の形態で示したように、転動体よりも大きい径を有する1つの鋼球で形成された測定子3cであっても適用することができ、転動体よりも大径の球体を用いることが好ましい。
なお、測定子3、3cは、測定子の磨耗による測定精度の低下を防止するため、超硬合金であることが好ましい。
【0081】
次に、測定装置1を用いた、図12(a)に示す循環溝6Aの溝中心の軌跡の測定方法を説明する。
まず、測定対象のボールねじナット6を上記第1の実施の形態と同様の手順で測定治具31を介してチャック機構21aに装着し、初期位置に位置調整した後、XYZテーブル12においてY軸方向を固定し、測定が可能な状態とする。
この状態から、XYZテーブル12を操作してX軸方向を調整すると共に、回転テーブル22を操作することにより、測定子3を、S字状の循環溝6Aの端部A,Bのうちいずれか一方、例えば端部Aと対向する位置近傍に移動させて、測定子3が循環溝6Aの溝底に接触するように調整する。そして、上記第1の実施形態と同様の手順で、循環溝6Aの端部Aの位置を検索する。すなわち、ボールねじナット6を回転させ、測定子3の移動が制限されるときの位置を検索し、この位置を循環溝6Aの端部Aの位置情報として獲得する。
【0082】
このように測定子3を端部Aに移動させ、測定子3を循環溝6Aの溝底に接触させた状態で、測定子3を循環溝6Aの溝底に接触させた状態を維持したまま回転テーブル22を回転させると、ボールねじナット6の回転に伴い、測定子3は循環溝6Aに案内されて移動する。
この循環溝6Aに案内されて移動する測定子3の、各地点における、ロータリエンコーダ23のロータリ信号出力、リニアゲージ13のリニア信号出力およびダイヤルゲージ14のダイヤルゲージ信号出力を獲得する。
【0083】
そして、測定子3が循環溝6Aの端部Bに到達したとき、すなわち、測定子3の移動が制限されるときに端部Bに到達したとし、この時点でボールねじナット6の回転を停止し、測定を終了する。
そして、測定子3が循環溝6Aの端部Aから端部Bまで移動したときの測定子3の各地点における位置情報から、例えば、ボールねじナット6に設定した測定基準を基準とする測定子3のXYZ座標における各地点での位置座標を獲得し、これに基づき循環溝6Aの溝中心の軌跡を演算する。すなわち、回転テーブル22の回転角度をθとすると、ロータリエンコーダ23のロータリ信号出力、リニアゲージ13のリニア信号出力およびダイヤルゲージ14のダイヤルゲージ信号出力から得られる、回転テーブルの回転角度θ、測定子3のX軸およびZ軸方向の変位から、位置座標(θ、X、Z)を得ることができ、この位置座標から、測定子3の移動軌跡を演算することができ、すなわち循環溝6Aの溝中心の軌跡を演算することができる。
【0084】
このように、回転テーブル22を操作してボールねじナット6を回転させて、測定子3を循環溝6Aに沿って移動させたときの、ロータリエンコーダ23、リニアゲージ13およびダイヤルゲージ14の検出信号を獲得することにより、これら検出信号に基づき、循環溝6Aの溝中心の軌跡の測定を容易に行うことができる。
なお、循環溝6Aの溝中心の軌跡を測定する場合には、測定精度を維持するために例えば、ウェイト(おもり)、空気圧等、付勢力(測定圧)が一定となる方法で付勢することなどにより、測定子3が循環溝6Aの溝底に接した状態で測定子3が移動するように、測定子3に、この測定子3を循環溝6Aの溝底に押し付ける付勢力を与えるようにしてもよい。
【0085】
また、測定子として、転動体よりも大径の測定子3cを用いた場合には、測定子3cが循環溝6A内の2点において接触した状態で移動するようにすればよい。
測定子として、転動体よりも大径の測定子3cを用いた場合には、測定子3cが循環溝6A内の2点において接触した状態で移動するため、循環溝6Aと測定子3cとは点で接触する。そのため、循環溝6A内における測定子3cの位置決めが容易となる。その結果、測定に要する所要時間の短縮を図ることができるとともに、位置決め誤差に起因する測定精度の低下を抑制することができる。
【0086】
また、測定子3cは、循環溝6Aと2点で接触するため、循環溝6Aにおいて、転動体の進行方向に垂直な断面において左右非対象となる断面形状の崩れが生じたとしても、転動体の通過が予測される位置、すなわち溝中心を検出することができる。
なお、上記第7の実施の形態においては、循環溝6Aの溝中心を測定する場合について説明したがこれに限るものではなく、同様の手順で、例えば、図示しない螺旋溝の溝中心を測定することも可能である。
【0087】
また、上記各実施の形態においては、ボールねじナット6の測定を行う場合について説明したが、循環溝および螺旋溝のうちの何れか一方の溝のみが設けられている場合であっても適用することができる。また、ボールねじナットに限らずボールねじ軸の測定を行うことも可能であって、また、ボールねじ軸に循環溝および螺旋溝が形成されている場合であっても適用することができる。なお、ボールねじ軸の測定を行う場合には、ボールねじ軸の外周に沿って、測定子を走査させるように構成し、且つ、ナット支持機構において、ボールねじナットに替えて、ボールねじ軸を回転自在に支持するように構成すればよい。上記各実施の形態は、特に、循環溝がボールねじナットに形成されている場合にはボールねじナットの測定に適しており、循環溝がボールねじ軸に形成されている場合には、ボールねじ軸の測定に適している。
【0088】
なお、上記第2から第7の実施形態においても、入力される指令信号に応じた移動量だけXYZテーブル12および回転テーブル22を移動させる駆動制御手段を設け、各種測定子やボールねじナット6の目標とする移動量に応じた指令信号を入力することにより、自動的にXYZテーブル12をXYZの各軸方向に移動させるとともに、回転テーブル22を回転駆動させて、測定子をボールねじナット6の測定対象位置に自動的に移動させるように構成することも可能である。すなわち、上記各実施形態において、測定対象のボールねじナット6をチャック機構21aに装着するとき、また、測定子が測定対象のボールねじナット6の内周と接触するように位置決めを行うときを除いて自動で行う構成とし、ボールねじナットの各部の形状などの測定を全自動で行うことができるように構成することも可能である。
【0089】
また、その際に、各工程において、手動で微調整を行うことも可能である。各工程の途中で微調整を行う場合には位置座標の基準点などがずれるため、自動測定により取得した位置情報において手動による微調整に伴う変位分を調整するように構成すればよい。
また、上記各実施の形態において、循環溝は、例えば鍛造により形成すればよく、また、ボールねじナットの螺旋溝は、例えば、特開2008−281063号公報に記載されているように、螺旋溝に対応する形状の刃物を有する工具を、自転させつつ公転させて切削加工すればよい。また、前記ボールねじナット6のボール素材は、螺旋溝、循環溝の形成後の熱処理が浸炭処理の場合には、日本工業規格JIS G4052に規定された鋼材SCM420H、高周波焼き入れの場合には中炭素鋼(S53C等)またはSAE4150などであることが好ましい。
【0090】
また、本発明は、上記各実施の形態を組み合わせることも可能である。すなわち、測定目的に応じて一または複数を組み合わせることが可能である。上述のように、各実施形態における測定装置は、測定子が異なるだけであるので、測定子を保持する測定器4を共通の形状とし、測定目的に応じてこれに適した測定子を保持する測定器4に付け替えることによって容易に実現することができる。
【0091】
なお、上記実施の形態において、ナット支持機構7が第1の支持手段に対応し、測定器支持機構5が第2の支持手段に対応し、リニアゲージ13が軸方向変位検出手段に対応し、ダイヤルゲージ14が径方向変位検出手段に対応し、ロータリエンコーダ23が周方向変位検出手段に対応している。また、測定子3が第1の測定子に対応し、測定子3cが第2の測定子に対応し、測定子3dおよび3eが、第3の測定子および第4の測定子に対応している。
【符号の説明】
【0092】
1 測定装置
3 測定子
4 測定器
5 測定器支持機構
7 ナット支持機構
12 XYZテーブル
13 リニアゲージ
14 ダイヤルゲージ
21a チャック機構
22 回転テーブル
23 ロータリエンコーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじを構成するボールねじ軸またはボールねじナットに形成された溝に沿って測定子を移動させて前記ボールねじの測定を行うボールねじの測定装置であって、
前記ボールねじ軸またはボールねじナットを測定対象として支持する第1の支持手段と、
前記測定子を支持する第2の支持手段と、を有し、
前記第1の支持手段および前記第2の支持手段は、前記測定対象と前記測定子とを、前記測定対象の軸に沿って相対移動可能に支持するとともに、前記測定対象の径方向に相対移動可能に支持し、且つ前記測定対象の軸を中心として周方向に相対移動可能に支持し、
さらに、前記測定対象と前記測定子との、前記測定対象の軸に沿った方向の相対変位を検出する軸方向変位検出手段と、
前記径方向の相対変位を検出する径方向変位検出手段と、
前記周方向の相対変位を検出する周方向変位検出手段と、を備えることを特徴とするボールねじの測定装置。
【請求項2】
前記測定子は、前記溝を転動する転動球体と同一径を有する1つの球体であることを特徴とする請求項1記載のボールねじの測定装置。
【請求項3】
前記溝は、前記ボールねじ軸またはボールねじナットと一体に形成された、ボール戻し経路をなす凹部からなる循環溝であって、
前記測定子は、前記循環溝の凹部に嵌合して前記循環溝に位置決めされる嵌合部材であることを特徴とする請求項1記載のボールねじの測定装置。
【請求項4】
前記測定子は、前記循環溝の凹部と同一形状を有し且つ前記循環溝と嵌合する循環溝凸形状を有することを特徴とする請求項3記載のボールねじの測定装置。
【請求項5】
前記測定子は、2つの球体であり且つ当該2つの球体は前記循環溝の長手方向両端と対向した状態で前記循環溝と嵌合することを特徴とする請求項3記載のボールねじの測定装置。
【請求項6】
前記測定子は、前記溝を転動する転動球体の径よりも大きな径の円弧部を有し、
前記測定子の前記円弧部と前記溝とが接触するようになっていることを特徴とする請求項1記載のボールねじの測定装置。
【請求項7】
前記測定子は、前記転動球体の径よりも大きな径を有する球体であることを特徴とする請求項6記載のボールねじの測定装置。
【請求項8】
前記測定子の直径は、前記溝の開口幅よりも小さいことを特徴とする請求項7記載のボールねじの測定装置。
【請求項9】
前記測定子は、前記転動球体の径よりも大きな径を有する円柱または柱状部材であって当該柱状部材の断面は、隣接する2つの角が円弧からなる矩形状であることを特徴とする請求項6または請求項7記載のボールねじの測定装置。
【請求項10】
前記第1の支持手段は前記測定対象を前記周方向に回転自在に支持し、
前記第2の支持手段は前記測定子を前記測定対象の軸に沿った方向および前記径方向に移動自在に支持することを特徴とする請求項1から請求項9の何れか1項に記載のボールねじの測定装置。
【請求項11】
ボールねじを構成するボールねじ軸またはボールねじナットに形成された溝に沿って測定子を移動させて前記ボールねじの測定を行う測定方法であって、
前記ボールねじ軸またはボールねじナットを測定対象として、前記測定子を前記測定対象の溝に沿って移動させ、このときの前記測定対象と前記測定子との間の前記測定対象の軸に沿った方向の相対変位と、前記測定対象の径方向の相対変位と、前記測定対象の軸を中心とした周方向の相対変位とを測定し、
これら測定値に基づき、前記測定対象の測定を行うことを特徴とするボールねじの測定方法。
【請求項12】
前記溝は、前記ボールねじ軸またはボールねじナットと一体に形成された、ボール戻し経路をなす凹部からなる循環溝であって、前記測定子は1つの球体で構成され、
当該測定子を用いて前記循環溝の長手方向両端部の位置座標を測定し、前記両端部の位置座標から前記循環部の中心部の位置座標を演算し、演算した中心部の位置座標を前記循環溝の位置座標とすることを特徴とする請求項11記載のボールねじの測定方法。
【請求項13】
前記溝は、前記ボールねじ軸またはボールねじナットと一体に形成された、ボール戻し経路をなす凹部からなる循環溝であって、前記測定子は前記循環溝の凹部と嵌合して前記循環溝に位置決めされる嵌合部材で構成され、
前記測定子が前記循環溝と嵌合するときの前記測定子の位置座標を、前記循環溝の位置座標とすることを特徴とする請求項11記載のボールねじの測定方法。
【請求項14】
前記循環溝の位置座標を検出し、
当該循環溝の位置座標と予め設定した前記循環溝の位置基準とに基づき、前記循環溝の位置基準と前記循環溝の位置との位相差から前記循環溝の位相を測定することを特徴とする請求項11から請求項13の何れか1項に記載のボールねじの測定方法。
【請求項15】
前記循環溝の位置座標を検出し、
前記循環溝の深さとして、前記循環溝の位置座標における前記循環溝の深さを測定することを特徴とする請求項11から請求項14のいずれか1項に記載のボールねじの測定方法。
【請求項16】
前記測定子は1つの球体で構成され、
前記測定子が前記測定対象の溝に接触した状態を維持したまま、前記測定対象を、当該測定対象の軸を中心とした周方向に回転させ、
前記測定対象の回転に伴い前記測定対象の溝に沿って移動する前記測定子の前記各相対変位を測定し、
これら測定値に基づき、前記測定対象の溝の溝中心の軌跡を測定することを特徴とする請求項11記載のボールねじの測定方法。
【請求項17】
前記溝は、前記ボールねじ軸またはボールねじナットと一体に形成された、ボール戻し経路をなす凹部からなる略S字状の循環溝であって、
前記測定対象の回転に伴い前記循環溝に沿って当該循環溝の一端から他端まで移動する前記測定子の前記各相対変位を測定し、
これら測定値に基づき、前記循環溝の溝中心の軌跡を測定することを特徴とする請求項16記載のボールねじの測定方法。
【請求項18】
前記溝は螺旋状に形成された螺旋溝および前記循環溝であって、前記螺旋溝と前記循環溝との接続部における前記螺旋溝の幅方向中心位置の位置座標と前記接続部における前記循環溝の幅方向中心位置の位置座標とを測定し、測定した位置座標に基づき前記螺旋溝の幅方向中心位置と前記循環溝の幅方向中心位置とを結ぶ直線をリード角相当値として検出し、当該リード角相当値に基づき、前記螺旋溝と前記循環溝との接続ずれ状態を測定することを特徴とする請求項11に記載のボールねじの測定方法。
【請求項19】
前記螺旋溝はその断面において溝底が非単一円弧となる溝であり且つ前記循環溝はその断面において溝底が単一円弧となる溝であって、
前記螺旋溝の幅方向中心位置の位置座標を測定するときには、前記測定子として前記溝を転動する転動球体と同一径の球体からなる第1の測定子を用い、前記循環溝の幅方向中心位置の位置座標を測定するときには、前記測定子として前記転動球体の径よりも大きな径の球体からなる第2の測定子を用いることを特徴とする請求項18記載のボールねじの測定方法。
【請求項20】
前記溝を転動する転動球体の径よりも大きな径の球体であり且つ径の異なる第3の測定子と第4の測定子とを用いて前記溝の任意の測定位置の位置座標を測定し、
測定した位置座標に基づき前記第3の測定子を構成する前記球体の中心位置と前記第4の測定子を構成する前記球体の中心位置とを結ぶ直線を検出して当該直線と前記測定対象の径方向に沿った直線とがなす角度を検出し、当該角度に基づき、前記溝の溝形状が左右対称であるかを測定することを特徴とする請求項11から請求項19の何れか1項に記載のボールねじの測定方法。
【請求項21】
前記溝は、ボール戻し経路をなす凹部からなる循環溝であって、
前記循環溝の、ピッチ、位置、位相、深さ、および前記循環溝の溝形状が左右対称であるか、のうちのいずれかを測定することを特徴とする請求項11記載のボールねじの測定方法。
【請求項22】
前記溝は、螺旋状に形成された螺旋溝であって、
前記螺旋溝の、ピッチ、位置、真円度、および前記螺旋溝の溝形状が左右対称であるか、のうちのいずれかを測定することを特徴とする請求項11または請求項21記載のボールねじの測定方法。
【請求項23】
前記溝は、ボール戻し経路をなす凹部からなる循環溝および螺旋状に形成された螺旋溝であって、
前記循環溝と前記螺旋溝との接続部の段差および位置ずれのいずれかを測定することを特徴とする請求項11、請求項21および請求項22のいずれか1項に記載のボールねじの測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−159499(P2012−159499A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3553(P2012−3553)
【出願日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】