説明

ボールねじ装置

【課題】作動トルク変動を低減することによって作動トルク変動に伴う不具合を解消する。
【解決手段】中間通路37に沿ってその両側には立壁39a、39aが配置され、立壁底39b、39bまで連続した立壁39a、39aが形成されている。立壁39a、39aと中間通路37にて構成される壁部は、その厚みと循環コマ30の材質及び調質によって適当な弾性を有している。また、中間通路37の略中央には、適当な範囲の拘束部38が配置されており、拘束部38の通路幅はボール外径の98.5〜99.0%である。さらに拘束部38の両入口には緩いテーパーが配置してあって、中間通路37と拘束部38とはなめらかに繋がっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環コマ式ボールねじの作動性の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これには従来より作動トルク変動の低減という課題があった。
【0003】
この部分の改善の先行技術としては、特開2003‐314658号公報に示されたボールねじ装置があり、これは、図8に示す様に循環軌動に配置されるボール70の個数Nを、軸方向に投影したピッチ円C上に配置可能な最大の数よりも1乃至3個少ない数とし、セパレータ78の幅はピッチ円C上にN個のボール70を等間隔に配置した場合のボール70間の隙間の大きさに設定する。このことによってトルク変動を低減して滑らかに作動するボールねじ装置を得る、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−314658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この先行技術には、高精度の加工を要求される工作機械に使用されるボールねじとしては下記のような不具合が生じるおそれがある。
【0006】
近年、高精度のマシニングセンターでの金型加工では金型の加工面に縞模様が発生してしまうという問題が発生し、本発明者はその原因を究明すべく種々の実験を行った。
【0007】
その実験の中で特開2003−314658号公報(特許文献1)に示された様なセパレータ入りのボールねじを使用して実験を行ったが作動トルク変動の低減にはそれ程効果がないことが分った。加工表面の縞模様の発生は作動トルク変動が原因ということが分ってきており、したがって特許文献1に記載のボールねじを採用しても縞模様の発生の低減にはそれ程効果が期待できないという問題が有った。本発明は、この様な問題を解消するためになされたものであり、作動トルク変動を低減して作動トルク変動に伴う不具合を低減できるボールねじ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有して前記ねじ溝に螺合されるナットと、前記両ねじ溝間に転動可能に装填された多数のボールと、前記両ねじ溝間を転動するボールを無限循環させるボール循環回路を形成すべく前記ナットに固定される循環コマを備えたボールねじ装置において、循環コマの中間通路の適当な範囲の通路幅をボール径よりもごく僅か小さくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作動トルク変動に伴う不具合、例えば高精度マシニングセンターによる加工物の表面に縞模様が発生することを防止できるという効果が有る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】循環コマ式ボールねじの構造を示す斜視図を示す図である。
【図2】循環コマ式ボールねじのナットの部分断面図を示すものである。
【図3】実施例の循環コマの斜視図を示すものである。
【図4】実施例の循環コマ上面図及び側面図を示すものである。
【図5】実施例の循環コマの断面図を示すものである
【図6】本発明に係る循環コマの配置を示すものである。
【図7】本発明のボールねじの使用方法を示すものである。
【図8】特許文献1に記載されているボールねじ機構の循環軌道を軸方向に投影して見た図を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るボールねじの使用方法の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明の対象となる循環コマ式ボールねじの構造を示す斜視図である。図2は循環コマ式ボールねじのナットの部分断面図である。また、図3は循環コマの斜視図である。
【0013】
図1及び図2に示すように、循環コマ式ボールねじ110は、ナット112の内周面に循環部品である循環コマ30を有する。循環コマ30に設けられたバイパス路32は、ねじ軸114のねじ溝116とナット112のねじ溝20が対向してなす螺旋状の転動体軌道溝22の両端を連結し、無限循環回路24を構成する。そして、多数のボールBが無限循環回路24内に充填されており、ボールBは無限循環回路24内を無限循環する。
【0014】
次に、循環コマ30の構成を図2及び図3を参照して説明する。循環コマ30の上面31は、細長い小判形の面をなし、ナット112の内周面をなす曲面に応じた曲率で湾曲しており、ナット112の内周面上のねじ山21と同じ高さ位置にある。そして、循環コマ30の高さは転動体Bの直径の寸法よりも大きな寸法を有している。この上面31にバイパス路32をなす溝が形成されており、循環コマ30の一端にある出入り口34aから他端にある出入り口34bまで連なっている。バイパス路32の断面はUの字形をなし、バイパス路32の底は転動体Bの球面に対応した曲面からなっている。
【0015】
また、バイパス路32は、出入り口34a側にある出入り通路36a、出入り口34b側にある出入り通路36b、出入り通路36a及び36bをつなぐ中間通路37とからなる。
【0016】
上面31上で出入り通路36a及び出入り通路36bは大きく湾曲しており、およそSの字を裏返した形となっている。また、出入り口34aが転動体軌動溝22の一端と連なっており、出入り口34bが転動体軌動溝22の他端と連なっている。転動体軌動溝22の一端から他端までは、ねじ軸114の外周沿いにほぼ1旋回しており、出入り口34aと出入り口34bとの間には、ねじ軸114のねじ山118及びナットのねじ山21が各1条存在している。中間通路37は、出入り口34aと出入り口34bとの間にあるねじ山118を乗り越えるように、ナット112の外周側へ緩やかに湾曲している。
【0017】
そして、ボールBは、転動体軌動溝22の一端へ移動し、出入り口34aを通って出入り通路36aに入り、出入り通路36aにそって進行方向を曲げて中間通路37へ入る。中間通路37へ入ったボールBは、中間通路37沿いにねじ山118を乗り越えて出入り通路36bへ入り、出入り通路36bに沿って進行方向を曲げて進み、出入り口34bを通って転動体軌動溝22の他端へ戻る。循環コマ式ボールねじ110は、かかる転動体軌動溝22と循環コマ30内のバイパス路32とからなる無限循環回路24を複数有する。
【0018】
無限循環回路24内をボールBが連なって循環する際には、ボールBはその前後に配置されたボールと接触しながら循環しているため、その運動を互いに規制し合って不規則な動きを起こし、ボール詰まりが発生し易い。ボール詰まり現象は作動トルク変動発生の主要因となっている。
【0019】
バイパス路32の略中央に配置される中間通路37は、両側に出入り通路36a、36bを有する、略直線で断面U字型の通路である。図5に示す様に、中間通路37に沿ってその両側には立壁39a、39aが配置され、立壁底39b、39bまで連続した立壁39a、39aが形成されている。立壁39a、39aと中間通路37にて構成される壁部は、その厚みと循環コマ30の材質及び調質によって適当な弾性を有している。
【0020】
また、中間通路37の略中央には、適当な範囲の拘束部38が配置されており、拘束部38の通路幅はボール外径の98.5〜99.0%である。さらに拘束部38の両入口には緩いテーパーが配置してあって、中間通路37と拘束部38とはなめらかに繋がっている。
【0021】
循環コマ30の拘束部38以外のバイパス路32はボール外径よりもわずかに大きな寸法であるため、バイパス路32内でボールBが拘束されることはない。ボールBが拘束部38を通過する際には、ボールBが両側の壁部より圧迫されて、減速もしくは停止してしまう。その際にはボールBの両側壁部は弾性変形している。
【0022】
しかし、拘束部38内で減速もしくは停止してしまったボールBはその後方のボールから推力を受け続けており、後方推力がボール拘束力よりも大きなため、しだいに拘束部38から抜け出して、ついには拘束部38を離脱する。先ほど拘束部38を離脱したボールBと、その一つ前に拘束部38を離脱したボールとの間にはボールBが拘束部38内にて停留していた時間に応じた隙間が発生しており、互いにその運動を規制し合うことはない。この動作が各ボールBにて連続して行われることにより、無限循環回路24内を循環するボールBはその前後に配置されたボールとの間に隙間を有するためボール詰まりが発生せず、作動トルク変動が低減できる。
【0023】
循環コマ30はナット112の内周面上に存在するので、ナット112の外径が小さくなり、コンパクトな構造の循環コマ式ボールねじ装置110を得ることができる。
【0024】
そして循環コマ30はナット112の軸方向に位置をずらして周方向に等配に配置されている。図6はナット112に循環コマを6個配置した実施形態である。
【0025】
ボールねじ110は図7に示す様に前記ねじ軸114を水平方向に配置した状態で両端をサポートユニット50によって回転自在に且つ軸方向移動不能に支持されている。一方ナット112は複数の循環コマ30をナット112の軸方向に位置をずらして周方向に等配に配置した状態で相手部材である移動テーブル51に固定されている。
【0026】
ねじ軸114はその一方の端部をモーター52の出力軸に連結され、モーター52によって回転させられる。
【0027】
このねじ軸114の回転によって、ナット112に固定されかつ直動案内装置53によって案内される移動テーブル51がねじ軸114の長手方向に沿って移動する。
【0028】
本発明のボールねじ装置によれば無限循環回路24内をボールBが連なって循環することがないためボール詰まりが生じない。したがって作動トルク変動が低減され、作動トルク変動に伴う、例えば工作機械の加工物表面に生じる縞模様の発生等の不具合を解消することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、循環コマを備えたボールねじ装置として、各種機械装置に広く適用できる。
【符号の説明】
【0030】
20 ねじ溝(ナット側)
24 無限循環回路
30 循環コマ
32 バイパス路
37 中間通路
38 拘束部
39a 立壁
39b 立壁底
40 カバー
51 移動テーブル
112 ナット
114 ねじ軸
116 ねじ溝(ねじ軸側)
B ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有して前記ねじ溝に螺合されるナットと、前記両ねじ溝間に転動可能に装填された多数のボールと、前記両ねじ溝間を転動するボールを無限循環させるボール循環回路を形成すべく前記ナットに固定される循環コマを備えたボールねじ装置において、循環コマの中間通路の適当な範囲の通路幅をボール径よりもごく僅か小さくすることを特徴とするボールねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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