ボールねじ

【課題】優れた精度を有する中空のねじ軸を備えたボールねじを提供する。
【解決手段】ボールねじ1は、螺旋状のねじ溝3aを外周面に有する中空のねじ軸3と、ねじ軸3のねじ溝3aに対向する螺旋状のねじ溝5aを内周面に有するナット5と、両ねじ溝3a,5aにより形成される螺旋状のボール転走路7内に転動自在に装填された複数のボール9と、ナット5に一体に形成され、ボール転走路7内のボール9をボール転走路7の終点から始点へ戻し循環させる循環部11と、を備えている。そして、半径方向の剛性については、ナット5の方がねじ軸3よりも高いものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじに係り、特に、ねじ軸が中空であるボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールねじのねじ軸においては、中実軸の形態が一般的であった。近年、ボールねじにおいても小型化や軽量化が求められているが、中実軸を使用する形態では限界があるため、ボールねじのねじ軸を中空軸として軽量化する技術が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4697785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、管状素材に転造や熱処理を施すことにより中空のねじ軸を製造するため、転造や熱処理により変形が生じて、ねじ軸の外周に形成されるねじ溝の形状の精度やねじ軸の真円度等の精度が低下するおそれがあった。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、優れた精度を有する中空のねじ軸を備えたボールねじを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の態様は次のような構成からなる。すなわち、本発明の一態様に係るボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有する中空のねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路に転動自在に装填された複数のボールと、を備えるボールねじであって、前記ねじ軸の半径方向の剛性よりも前記ナットの半径方向の剛性の方が高いことを特徴とする。
このボールねじにおいては、前記ねじ軸の内周面と前記ねじ軸のねじ溝の溝底との間の径方向距離よりも、前記ナットの外周面と前記ナットのねじ溝の溝底との間の径方向距離の方を大きくしてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明のボールねじは、ねじ軸の半径方向の剛性よりもナットの半径方向の剛性の方が高いため、ナットとねじ軸とに半径方向の荷重が負荷されると、ねじ軸のねじ溝の形状がナットのねじ溝の形状に倣うこととなる。ここで、一般的にナット及びナットのねじ溝は切削又は研削加工により作製されるため、ねじ溝の形状の精度やナットの真円度等の精度が高い。そのため、相対的に精度の低いねじ軸の精度がナットの精度に倣って改善され、ねじ溝の形状の精度やねじ軸の真円度等の精度が高精度となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係るボールねじのねじ軸の製造方法を説明する工程図である。
【図2】本発明に係るボールねじの一実施形態の構造を説明する断面図である。
【図3】剛性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係るボールねじの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係るボールねじのねじ軸及びその製造方法を説明する図である。なお、図1に示されたねじ軸及びその素材については、下側半分は側面が、上側半分は断面(軸方向に沿う平面で切断した断面)が図示されている。
まず、棒状素材20の外周面に転造を施して、螺旋状のねじ溝3aを形成した(ねじ溝形成工程)。転造によりねじ溝3aの加工を行うことにより、ねじ軸3の大量生産を効率良く行うことが可能となり、ボールねじのコストダウンに貢献できる。
【0009】
次に、ねじ溝3aが形成された棒状素材20に、熱処理を施した(熱処理工程)。これにより、ねじ溝3aの表面が硬化される。熱処理としては、浸炭処理、浸炭窒化処理、高周波焼入れ等の各種の熱処理を適用できる。これらの中でも、高周波コイルを用いる高周波焼入れを適用することが好ましい。高周波焼入れを適用することにより、ねじ溝3aの表面を含む必要な深さまで硬化させ、棒状素材20の芯部には熱処理が及ばないようにして柔らかいまま保つといった制御が効率良く行える。図1においては、表層部分20aが熱処理により硬化されている部分であり、それ以外の部分20bは熱処理が施されていない非硬化の部分である。
【0010】
次に、熱処理が施された棒状素材20に中ぐり加工を施して、軸方向に沿う貫通孔を両端面間に設け、管状に形成した(中ぐり工程)。上記の通り棒状素材20の芯部は、熱処理が及んでおらず非硬化であるため、中ぐり加工を効率良く行うことができる。このようにして、中空のねじ軸3が得られた。
熱処理として高周波焼入れを採用した場合は、ねじ溝3aの表面を含む極浅い部分に、熱処理による硬化を留めることが可能である。そのため、中ぐり加工においては、大径の貫通孔を容易に加工することが可能となり、効率良く薄肉の中空ねじ軸を得ることができる。
【0011】
また、従来のように、管状素材に転造や熱処理を施して中空のねじ軸を製造することも可能であるが、前記実施形態の製造方法を採用することにより、より精度の優れる中空のねじ軸を得ることができる。
図2は、本発明の一実施形態に係るボールねじ1の構造を示す。図2に示すように、ボールねじ1は、螺旋状のねじ溝3aを外周面に有する中空のねじ軸3と、ねじ軸3のねじ溝3aに対向する螺旋状のねじ溝5aを内周面に有するナット5と、両ねじ溝3a,5aにより形成される螺旋状のボール転走路7内に転動自在に装填された複数のボール9と、を備えている。
【0012】
このボールねじ1は、ナット5に一体に形成された循環部11を例えば3箇所有している。この循環部11は、ボール転走路7内のボール9をボール転走路7の終点から始点へ戻し循環させる機能を有している。循環部11は、ナット5の内周面の一部を凹化させて形成した凹溝で構成されているが、このような循環部11の代わりにチューブ式,コマ式等の一般的なボール循環機構を採用しても差し支えない。
【0013】
図2においては、ねじ軸3の一部を断面図にて示している。図2に示す通り、ナット5の肉厚WN(ナット5の外周面とねじ溝5aの溝底との間の径方向距離)とねじ軸3の肉厚WS(ねじ軸3の内周面とねじ溝3aの溝底との間の径方向距離)とを比較すると、ナット5の肉厚WNの方が厚くなっている。よって、ナット5とねじ軸3の材質が同じ場合は、少なくとも半径方向の剛性(すなわち撓み剛性)については、ナット5の方がねじ軸3よりも高いものとなっている。例えば、自動車用アクチュエータに用いられるサイズ、材料、熱処理のボールねじにおいて、ねじ軸3の肉厚WSよりもナット5の肉厚WNの方が厚いという構成を採用すると、半径方向の剛性については、ナット5の方がねじ軸3よりも高くなる。
【0014】
そのため、ボールねじ1の使用時において、半径方向の荷重が転動体であるボール9を介してナット5とねじ軸3とに負荷されると、ねじ軸3のねじ溝3aの形状は、より剛性の高いナット5のねじ溝5aの形状に沿うように変形しやすい。詳述すると、ボール9の剛性がねじ軸3やナット5の撓み剛性よりも高く、ボール9が剛体となっているため、ねじ軸3のねじ溝3aの形状はナット5のねじ溝5aの形状に沿うように変形しやすいという効果が奏される。
【0015】
よって、ナット5のねじ溝5aの形状の精度、ナット5の真円度、リード誤差等の精度が優れたものであれば、半径方向の荷重が負荷された場合にナット5のねじ溝5aの形状に沿うように変形したねじ軸3のねじ溝3aの形状の精度、ねじ軸3の真円度、リード誤差等の精度も優れたものとなる。なお、ナット5及びナット5のねじ溝5aは切削又は研削加工により作製されているため、ナット5のねじ溝5aの形状の精度やナット5の真円度等の精度は高精度である。
【0016】
その結果、ねじ軸3のねじ溝3aの形状の精度やねじ軸3の真円度等の精度が多少低かったとしても、ボールねじ1の使用時においては、それらが高精度となるので、ボールねじ1の回転時における騒音が低減されるほか、適正な回転によりボールねじ1が長寿命となる。また、ねじ軸3を高精度に加工する必要性がないので、加工コストを低減することができる。
さらには、ナット5とねじ軸3との半径方向の剛性に差を持たせているため、過大な半径方向荷重が負荷された場合のみならず、定常的な使用においても、ねじ軸3のねじ溝3aが転動体であるボール9に倣って微小に変形し、ねじ溝3aとボール9との接触面圧を低減する効果も想定される。
【0017】
ここで、ナット5の半径方向の剛性(撓み剛性)は、ナット5の肉厚WNとナットの外径DNとによって決まる関数であり、ねじ軸3の半径方向の剛性(撓み剛性)は、ねじ軸3の肉厚WSとねじ軸3の外径DSとによって決まる関数である(図2を参照)。また、ナット5及びねじ軸3の半径方向の剛性(撓み剛性)は、以下のようにして算出される。すなわち、図3に示すように、円筒状の部材に半径方向の荷重Fを負荷すると、該部材が潰されて断面略楕円形に変形するが、変形前の円筒状の部材の直径と断面略楕円形に変形した部材の短径(荷重Fの負荷方向の直径)との差を2σとすると、円筒状の部材の半径方向の剛性(撓み剛性)Kは、F/σで算出される。
【0018】
なお、前述した実施形態では、ナット5とねじ軸3との肉厚により剛性に差を持たせたが、ナット5とねじ軸3との材質を変更する、材質は同一とするが熱処理の種類又は条件を変更する等の手段により、剛性に差を持たせてもよい。また、前記実施形態に示したように、循環部11をナット5と一体に形成することにより、ナット5の剛性を向上させることも可能であり、この形態であると、ナット5とねじ軸3との剛性に差を持たせることがさらに容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明に係るボールねじは、自動車部品,位置決め装置等に好適に使用可能である。特に、自動車用アクチュエータに好適であり、その中でも自動車のブレーキ用アクチュエータに好適である。また、いわゆる音響特性が求められる用途に特に好適である。
【符号の説明】
【0020】
1 ボールねじ
3 ねじ軸
3a ねじ溝
5 ナット
5a ねじ溝
7 ボール転走路
9 ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状のねじ溝を外周面に有する中空のねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路に転動自在に装填された複数のボールと、を備えるボールねじであって、前記ねじ軸の半径方向の剛性よりも前記ナットの半径方向の剛性の方が高いことを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
前記ねじ軸の内周面と前記ねじ軸のねじ溝の溝底との間の径方向距離よりも、前記ナットの外周面と前記ナットのねじ溝の溝底との間の径方向距離の方が大きいことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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