説明

ボールシートおよびボールジョイント

【課題】より低コストで製造可能な新規構造のボールジョイントを提供する。
【解決手段】ボールスタッド3のボールヘッド32を回転可能に収容した状態でハウジング2内に挿入されるボールシート4は、ボールシート4の外周面に形成されたフランジ部418、ハウジング2を外周面210側からクリップするスナップフィットファスナー部42を有している。スナップフィットファスナー部42は、フランジ部418から回転軸6方向にハウジング2の高さよりも長く延びたビーム部421、ビーム部421の先端からボールシート4の外周面に向けて突き出したフック部4222を有し、フランジ部418がハウジング2の端面211に当接するまでボールシート4をハウジング2内に押し込まれると、ハウジング2を外周面210側からかかえこみ、それぞれのフック部4222がハウジング2の端面212に係合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールシートを用いたボールジョイントに関し、特に、ボールジョイントの組立工程の簡略化および構成部品点数の削減を図る上で好適な構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動車のサスペンション、ステアリング等に利用されるボールジョイントが記載されている。このボールジョイントにおいては、金属製のハウジングの貫通孔に挿入されたボールシートの固定にスナップフィット方式が採用されており、その固定の補強部品としてプラスチック製のキャップが設けられている。具体的には、以下の通りである。
【0003】
ボールシートの上部(ボールスタッドのボールヘッドが挿入される開口側の端部)の外周部には、径方向に外側に突き出した突出部が周方向に形成されている。また、ボールシートの底部(ボールスタッドのボールヘッドが挿入される開口部と反対側の閉端部)の外周部には、ハウジングの貫通孔への挿入方向に突き出した複数のフランジが形成されており、これらフランジの先端の外側面(外側に向いた面)に、ボールシートの外側面よりも径方向に外側に突き出したフック部が形成されている。そして、これらのフランジの内側面(内側に向いた面)には、テーパがつけられ、かつ、キャップの脱落を防止するための溝が周方向に形成されている。
【0004】
このボールシートが、ボールスタッドのボールヘッドを収容した状態で底部側から、ハウジングの貫通孔の上端部側から挿入されると、各フランジは、フック部がハウジング内を通過している間、弾性変形し、ハウジングの下端部側からフック部が突き出ると、初期状態に戻る。これにより、フック部がハウジングの下端部にゆるく係合する(仮止め)。このとき、ハウジングの上端部にはボールシートの突出部が係合する。
【0005】
一方、キャップは、ボールシートのフランジの内側面によって囲まれる領域の内径よりも大きな外径を有している。このキャップの外周面には、ボールシートのフランジの内側面のテーパの相補的形状であるテーパがつけられ、かつ、ボールシートの各フランジの内側面の溝にはめ込まれる脱落防止用の突起が形成されている。
【0006】
上述の仮止めの状態において、このキャップが、ボールシートのフランジにより囲まれた領域に圧入されると、ボールシートの各フランジがハウジングの貫通孔の内周面側に押し広げられるため、各フランジのフック部がハウジングの下端部に強固に固定される。また、キャップ外周面の突起と各フランジのフック部の内側面の溝との係合により、ボールジョイントの作動中におけるハウジングからのボールシートの脱落が防止される。
【0007】
また、このボールジョイントにおいては、ボールスタッドとボールシートとの連れ回りを防止するため、ハウジングの貫通孔を多角形状とし、これに挿入されるボールシートの外形も多角形状としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許公報第5676485号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献1に記載のボールジョイントは、ボールシートの各フランジのフック部をハウジングの下端部にしっかりと固定するためのキャプを必要とし、その組立工程には、ハウジングの下端部に仮止めされたボールシートの各フランジの内側領域にハウジングの下端部側からキャップを圧入する工程が必要となる。このため、その分、ボールジョイントの構成部品の点数が増加し、さらにボールジョイントの組立工程の工程数が増加するため、製造コストが増大する。
【0010】
また、金属製のハウジングに角孔加工をする必要があるため、その分、ハウジングの加工費がかかり、これによっても、ボールジョイントの製造コストが増大する。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、構成部品点数の削減、構成部品の加工費の削減および組立工程の工程数の削減により低コストで製造可能な新規構造のボールシートおよびボールジョイントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、ボールジョイントにおいて、ボールスタッドのボールヘッドを収容したボールシートをハウジング内に圧入する押し込み操作の回数が1回だけで、ハウジングに対するボールシートの相対的な移動および回転を制限するように、ボールシートとハウジングとが複数箇所で強固に結合するようにした。
【0013】
例えば、本発明の一態様は、ボールジョイントに用いられるボールシートであって、
ボールスタッドのボールヘッドを回転可能に収容し、ハウジングの一方の端面から他方の端面に向かう方向の穴に挿入されるボールシート本体と、
フランジ部と、
前記ボールシート本体の外周面との間に前記ハウジングを挟み込むための少なくとも一つの第一のスナップフィットファスナー部と、を有し、
前記フランジ部は、
前記ボールシート本体の一方の端部側の外周面に、前記ハウジングの前記一方の端面に対向するように形成され、
前記第一のスナップフィットファスナー部は、
一方の端部が前記ボールシート本体の前記フランジ部に一体的に形成され、他方の端部が前記ハウジングの前記他方の端面に向けて延びた第一のビーム部と、
前記第一のビーム部の前記他方の端部から突出し、前記ハウジングの前記他方の端面に係合する第一のフック部と、を有する。
【0014】
また、本発明の他の態様は、ボールジョイントであって、
ボールヘッドを有するボールスタッドと、
上記のボールシートと、
一方の端面から他方の端面に向かう方向の穴を有し、前記ボールヘッドを収容した前記ボールシート本体が前記穴に挿入されたハウジングと、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ボールスタッドのボールヘッドを回転可能に収容したボールシートをハウジング内に挿入するだけで、ハウジングにボールシートを強固に固定するための補強部品を別途取りつけなくても、ボールシートをハウジングにしっかりと固定することができる。これにより、ボールジョイントの組立工程を簡略化することができるとともに、ボールジョイントの構成部品点数を削減することができるため、ボールジョイントの製造コストの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1(A)〜(C)は、本発明の一実施の形態に係るボールジョイント1の、ダストカバー5装着前における上面図、正面図および下面図である。
【図2】図2(A)は、ボールジョイント1のダストカバー5装着後における図1(A)のA−A断面図であり、図2(B)は、ダストカバー5の正面図である。
【図3】図3(A)は、ボールスタッド3の正面図であり、図3(B)は、図3(A)のB−B断面図である。
【図4】図4(A)〜(D)は、ハウジング2の外観図、正面図、背面図および側面図であり、図4(E)は、図4(D)のB−B断面図である。
【図5】図5(A)〜(D)は、本発明の一実施形態に係るボールシート4の外観図、上面図、下面図および正面図であり、図5(E)は、図5(D)のC−C断面図である。
【図6】図6(A)〜(D)は、ボールジョイント1の組立工程の流れを説明するための図である。
【図7】図7(A)は、ボールシート4の変形例であるボールシート4Aの正面図であり、図7(B)は、ボールシート4Aを用いたボールジョイント1Aのダストカバー5装着前における正面図である。
【図8】図8(A)は、ボールシート4の変形例であるボールシート4Bの正面図であり、図8(B)は、ボールシート4Bを用いたボールジョイント1Bのダストカバー5装着後における正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態を説明する。
【0018】
まず、本実施の形態に係るボールシートおよびこれを用いたボールジョイントの構造について説明する。ここでは、スタビライザリンクに用いるボールジョイントを例に挙げる。
【0019】
図1(A)〜(C)は、本実施の形態に係るボールジョイント1の、ダストカバー5装着前における上面図、正面図および下面図である。また、図2(A)は、ボールジョイント1のダストカバー5装着後における図1(A)のA−A断面図である。
【0020】
図示するように、本実施の形態に係るボールジョイント1は、金属製のボールスタッド3と、所定の回転軸6方向に貫通孔213が形成された金属製のハウジング2と、回転軸6周りに回転自在かつ回転軸6に対して最大角度αの範囲で傾斜自在にボールスタッド3を収容した状態でハウジング2の貫通孔213に挿入された樹脂製のボールシート4と、ボールシート4の開口(後述するボールシート本体41のボールヘッド挿入口414)側の端面413を覆うゴム製のダストカバー5と、を備えて構成されている。これらの各構成部品2〜5の詳細は以下の通りである。
【0021】
図3(A)は、ボールスタッド3の正面図であり、図3(B)は、図3(A)のB−B断面図である。
【0022】
図示するように、ボールスタッド3は、円柱状のロッド部31と、ロッド部31の一端部311に一体的に形成された球状のボールヘッド32と、を有している。
【0023】
ロッド部31の外周面には雄ネジ部312が形成されている。この雄ネジ部312には、例えば、サスペンションアーム、スタビライザ(不図示)を固定するためのナット(不図示)が締結される。また、ロッド部31の一端部311側の外周面には、所定の間隔を置いて並んだ2本のフランジ部314、315が外周方向に形成されている。これにより、ダストカバー5の後述するボールスタッド挿入口51周りの縁部52を固定するためのダストカバー固定溝313が、雄ネジ部312とボールヘッド32との間に形成される。
【0024】
図4(A)〜(D)は、ハウジング2の外観図、正面図、背面図および側面図であり、図4(E)は、図4(D)のB−B断面図である。
【0025】
図示するように、ハウジング2は、ボールスタッド3のボールヘッド32を収容したボールシート4の後述するボールシート本体41が圧入される円管状のハウジング本体21と、ハウジング本体21に連結された円柱状のリンク部22と、を備えている。
【0026】
ハウジング本体21には、一方の端面211から他方の端面212まで回転軸6方向に貫通した貫通孔213が形成されている。ボールスタッド3のボールヘッド32を収容した後述のボールシート本体41は、ハウジング本体21の一方の端面211側からこの貫通孔213に圧入される。なお、後述するボールシート本体41をハウジング本体21に組み込み易くするために、ハウジング本体21の両端面211、212の外周の縁部215および内周の縁部(貫通孔213周りの縁部)216には面取りが施されている。
【0027】
また、ハウジング本体21の外周面210には平面状の切欠き214が形成されており、この切欠き214に、リンク部22の一端部221が連結されている。そして、リンク部22の他端部222の外周には、例えば長さ調整用のロッド(不図示)に固定するための雄ネジ部223が形成されている。
【0028】
このような構造のハウジング2は、既製の丸パイプ材の内径加工等を極力施すことなくハウジング本体21として利用することができる。
【0029】
図5(A)〜(D)は、本実施の形態に係るボールシート4の外観図、上面図、下面図および正面図であり、図5(E)は、図5(D)のC−C断面図である。
【0030】
図示するように、ボールシート4は、ボールスタッド3のボールヘッド32を収容した状態でハウジング2のハウジング本体21の貫通孔213に圧入される円柱状のボールシート本体41と、ボールシート本体41の上端面413側の端部410の外周面に一体的に形成されたフランジ部418と、フランジ部418に一体的に複数個所(本実施の形態では4箇所)形成され、ハウジング2のハウジング本体21を外周面210側からクリップするスナップフィットファスナー部42と、を備えている。
【0031】
ボールシート本体41の内部には、内周面4121がボールスタッド3のボールヘッド32の球径r1よりも大きな球径r2(r1<r2)を有する球面形状の中空部412が形成されている。この中空部412がボールシート本体41の一方の端面(以下、上端面)413側に開放されるように、ボールシート本体41の上端面413には、中空部412につながるボールヘッド挿入口414が形成されている。このボールヘッド挿入口414の内周面4141には、中空部412に近づくほどボールヘッド挿入口414の開口径が小さくなるようにテーパがつけられており、このボールヘッド挿入口414の内径r5は、中空部412との境界において、ボールスタッド3のボールヘッド32の外径r1(図3(B)参照)よりもわずかに小径となっている。ボールスタッド3のボールヘッド32は、グリース塗布後、ボールヘッド挿入口414から回転軸6方向に中空部412に挿入され、ボールスタッド3のロッド部31とボールヘッド挿入口414の内周面4141とが接触しない範囲で回転自在に中空部412内に収容される。これにより、ボールスタッド3は、回転軸6周りに回転自在、かつ、回転軸6に対して最大角度α(図2(A)参照)の範囲で傾斜自在にボールシート4に収容される。なお、ボールヘッド挿入口414の内周面4141には、軸方向に伸びた溝形状のグリース溜まり4142(本実施の形態では例えば3箇所)が形成され、中空部412の底部4123には凹形状のグリース溜まり4122が形成されている。
【0032】
ボールシート本体41の外周面のうち、中空部412を囲む領域(ハウジング本体21の貫通孔213の内周面に接触する領域:以下、セレーション形成領域)411には、ボールシート本体41の他方の端面(以下、底面416)の外縁から回転軸6方向にセレーション4111が形成されている。このセレーション4111の、相対する山部の頂部間におけるボールシート本体41の外径r3は、ハウジング2のハウジング本体21の内径r4(図4(B)参照)に対して締め代を有しており、ハウジング本体21の貫通孔213へボールシート本体41を圧入することにより、ハウジング本体21の貫通孔213とボールシート本体41とが強固に嵌合する。このため、ハウジング本体21からのボールシート4の抜けを防止することができるとともに、特許文献1に記載のボールジョイントのように特別な角孔加工をハウジング本体に行ったハウジングを用いなくても、ボールスタッド3のボールヘッド32とヘッドボールシート4との連れ回りを防止することができる。また、ボールシート本体41のセレーション4111により、ボールスタット3またはハウジング2から発生する振動を吸収する機能も有している。
【0033】
また、ボールシート本体41の外周面のうち、上端面413側の端部410の外周面(ボールヘッド挿入口414を囲む領域)には、ボールシート本体41の上端面413の外縁周りに沿った環状の凸部417が形成されている。
【0034】
フランジ部418は、凸部417との間に回転軸6方向に適当な間隔をおいて、ハウジング2のハウジング本体21の一方の端面211に対向するように、凸部417に沿って環状に形成されており、これら凸部417とフランジ部418との間に、ダストカバー5の後述するボールシート挿入口53周りの縁部54をはめ込むためのダストカバー固定溝419が周方向に形成されている。また、フランジ部418は、ハウジング本体21の径方法の肉厚寸法(図4(E)のt1)よりも大きくボールシート本体41のセレーション形成領域411から外周側に張り出しており、ボールシート本体41は、このフランジ部418がハウジング本体21の一方の端面211に接触するまでハウジング本体21の貫通孔213に押し込まれる。
【0035】
複数のスナップフィットファスナー部42は、その内側面4221が、ハウジング2のハウジング本体21の径方法肉厚(図4(E)のt1)よりも締め代分だけ狭い間隔t2でセレーション形成領域411に対向するように、ボールシート本体41のセレーション形成領域411の周りに配置されている。各スナップフィットファスナー部42は、略コの字形状をしており、フランジ部418から底面416側に向かって回転軸6方向にハウジング本体21の高さ寸法(図4(E)における寸法h1)よりも長く延びた2本のビーム部421と、ハウジング本体21の外周に沿って湾曲して2本のビーム部421の先端部を連結する弧状の連結部422と、を備えている。そして、連結部422の内側面(ボールシート本体41のセレーション形成領域411に対向する面)4221には、フランジ部418からハウジング本体21の高さh1離れた位置に、ボールシート本体41のセレーション形成領域411側、すなわち内周側に突き出した鉤爪型のフック部4222が形成されている。
【0036】
各スナップフィットファスナー部42の2本のビーム部421は、弾性を有しており、ハウジング本体21の貫通穴213内への挿入により、2本のビーム部421の先端部を連結する連結部422に形成されたフック部4222がハウジング本体21の外周面210から力を受けると、ボールシート本体41のセレーション形成領域411とフック部4222との間隔が広がる方向にたわむ。このため、ボールシート本体41が底面416側からハウジング本体21の貫通孔213内に圧入されると、ハウジング本体21の外周面210に各スナップフィットファスナー部42のフック部4222が接触し、各スナップフィットファスナー部42の2本のビーム部421が弾性変形する。そして、ボールシート本体41のフランジ部418がハウジング本体21の一方の端面211に当接し、ハウジング本体21の他方の端面212から各スナップフィットファスナー部42のフック部4222が突きだすと、各スナップフィットファスナー部42の2本のビーム部421が元の状態に戻る。これにより、各スナップフィットファスナー部42のフック部4222がハウジング本体21の他方の端面212に係合し、ボールシート本体41のフランジ部418と各スナップフットファスナー部42のフック部4222との間で回転軸6方向へのハウジング本体21の移動が制限される。このため、ハウジング本体21からのボールシート4の抜け出しがさらに効果的に防止される。
【0037】
ここで、各スナップフィットファスナー部42の2本のビーム部421は、ハウジング本体21の一方の端面211に当接するフランジ部418をビーム根元として形成されており、その長さがハウジング本体21の高さ寸法h1よりも長く、また、スナップフィットファスナー部42が、大きな空間部を有する略コの字形状に形成されているため、フック部4222が形成されたビーム先端において大きくたわむことができる。したがって、ハウジング本体よりも短いビーム部(フランジ)をハウジング本体の底部に設ける特許文献1に記載のボールジョイントとは異なり、ビーム部421の先端部のフック部4222の長さsを柔軟に設計することができるため、フック部4222の長さsを、ハウジング本体21の端面212にしっかりと係合する十分な寸法にすることができる。
【0038】
また、隣り合うスナップフィットファスナー部42の、隣り合うビーム部421の間、すなわち周方向に対向するビーム部421の間にハウジング2のリンク部22を挟み込むことができるように(図1(C)参照)、複数のスナップフィットファスナー部42は、ボールシート本体41の周りに、ハウジング2のリンク部22の直径寸法(図4(B)のr7)よりも大きな間隔おきに配置されている。このため、スナップフィットファスナー部42のビーム部421により、回転軸6周りのハウジング2のリンク部22の回転が阻止されるため、ボールシート4とハウジング2との連れ回りがさらに効果的に防止される。
【0039】
あるいは、図7(A)に示すボールシート4Aのように、隣り合うスナップフィットファスナー部42の間隔をハウジング2のリンク部22の直径寸法(図4(B)のr7)よりも狭くして、隣り合うスナップフィットファスナー部42の、隣り合うビーム部421の、ハウジング2のリンク部21を挟んで対向する位置に、ハウジング2のリンク部22の外形に沿った円弧状の切欠き4211を形成してもよい(後述の図8のボールシート4Bにおいても同様)。このボールシート4Aを用いた場合、図7(B)に示すように、底面416側からハウジング本体21の貫通孔213内へのボールシート本体41の圧入により、向かい合う切欠き421内にもハウジング2のリンク部22が嵌め込まれる。これによって、回転軸6方向へのハウジング本体21の移動が制限され、ハウジング本体21からのボールシート4Aの抜け出しがより効果的に防止される。
【0040】
図2(B)は、ダストカバー5の正面図である。
【0041】
図示するように、ダストカバー5は、一端側がボールシート挿入口53として開放された半球状のカップ形状をしている。また、ダストカバー5には、ボールシート挿入口53に対向する位置にボールスタッド挿入口51が設けられている。ボールシート挿入口53の内径r8は、ダストカバー固定溝419の位置におけるボールシート本体41の外径に対して締め代を有し、ボールスタッド挿入口51の内径r9は、ダストカバー固定溝313の位置におけるボールスタッド3の外径に対して締め代を有する。このため、ダストカバー5がボールスタッド3のボールヘッド32を収容したボールシート本体41の上端面413の端部410を覆うように、ボールスタッド3のロッド部31をダストカバー5のボールシート挿入口53からボールスタッド挿入口51に通して、ダストカバー5をボールシート本体41に被せることにより、ダストカバー5のボールスタッド挿入口51周りの縁部52がボールスタッド3のダストカバー固定溝313内にしっかりと嵌め込まれ、かつダストカバー5のボールシート挿入口53周りの縁部54がボールシート本体41のダストカバー固定溝419内にしっかりと嵌め込まれる。これにより、ダストカバー5は、回転軸6方向にずれることなく、ボールスタッド3及びボールシート4に固定される。
【0042】
つぎに、ボールジョイント1の組立工程について説明する。
【0043】
図6(A)〜(D)は、ボールジョイント1の組立工程の流れを示した概略図である。
【0044】
まず、ボールスタッド3のボールヘッド32にグリースを塗布した後、図6(A)に示すように、このボールヘッド32を、回転軸6方向に、ボールシート4のボールシート本体41のボールヘッド挿入口414から中空部412内に挿入する。
【0045】
その後、図6(B)に示すように、隣り合うスナップフィットファスナー部42の間にハウジング2のリンク部22が挟まれるように、ボールスタッド3のボールヘッド32を収容したボールシート本体41の底面416をハウジング本体21の貫通孔213に位置付ける。それから、ボールシート4を、回転軸6方向に移動させて、フランジ部418がハウジング本体21の一方の端面211に当接するまで、ハウジング2のハウジング本体21に押し込む。この押し込み操作により、ボールスタッド3のボールヘッド32を収容したボールシート本体41がハウジング本体21の貫通孔213に圧入されて、ハウジング本体21の貫通孔213とボールシート本体41のセレーション領域411とが強固に嵌合するとともに、複数のスナップフィットファスナー部42がハウジング本体21を外周面210側からかかえこみ、各スナップフィットファスナー部42のフック部4222がハウジング本体21の他方の端面212に係合する。
【0046】
その後、図6(C)に示すように、ボールスタッド3のロッド部31がダストカバー5のボールスタッド挿入口51に挿入されるように、ダストカバー5をボールシート挿入口53側からボールスタッド3のロッド部31に挿入する。さらに、図6(D)に示すように、ダストカバー5をボールシート4の上端面側の端部410に押し込んで、ダストカバー5のボールスタッド挿入口51周りの縁部52をボールスタッド3のダストカバー固定溝313に嵌め込むとともに、ダストカバー5のボールシート挿入口53周りの縁部54をボールシート4のダストカバー固定溝419に嵌め込む。これにより、ボールジョイント1が組み立てられる。
【0047】
以上、本発明の一実施の形態を説明した。
【0048】
以上説明したように、本実施の形態に係るボールシート4およびボールジョイント1によれば、ボールスタッド3のボールヘッド32を収容したボールシート4のボールシート本体41をハウジング2のハウジング本体21内に圧入する押し込み回数1回の操作だけで、ハウジング本体21に対するボールシート4の回転軸6方向への相対的な移動および回転軸6周りの相対的な回転を抑制するように、ボールシート4のスナップフィットファスナー部42およびフランジ部418が、ハウジング2の端面211、212およびリンク部22と嵌り合う。このため、ボールシート4をハウジング2に強固に固定することができる。ここで、スナップフィットファスナー部42のビーム部421がハウジング本体21の高さ寸法h1よりも長いため、ハウジング本体よりも短いビーム部(フランジ)をハウジング本体の底部に設ける特許文献1に記載のボールジョイントとは異なり、ビーム部421の先端のフック部4222の長さsを、ハウジング本体21の他方の端面212にしっかりと係合する十分な寸法に設計することができる。
【0049】
また、ボールシート本体41の外周(セレーション領域411)にはセレーション4111が形成されており、セレーションが形成されていない場合と比較して、ハウジング本体21の内径寸法r4に対する締め代を大きくとることができるため、上述の1回の押し込み操作だけで、スナップフィットファスナー部42およびフランジ部418だけでなく、このセレーション領域411も、ハウジング本体21に対するボールシート4の回転軸6方向への相対的な移動および回転軸6周りの相対的な回転を抑制するように、ハウジング本体21の貫通孔213と嵌り合う。したがって、ボールシート4をハウジング2により強固に固定することができる。
【0050】
また、ハウジング本体21の貫通孔213の内周面に接触するボールシート本体41のセレーション領域411に形成されているセレーション4111は、塑性変形する構造となっており、また、ハウジング本体21の外周面210に接触するスナップフィットファスナー部42は、弾性変形しやすい構造となっている。したがって、ハウジング本体21の内径面及び外径面の真円度や同軸度が高精度に仕上がっていなくても、ある程度の寸法誤差はボールシート4側の変形量により吸収されるため、若干精度の悪い市販のパイプ材を、内外径の加工を極力施さずに、ハウジング本体21として使用することもできる。
【0051】
したがって、本実施の形態によれば、ハウジングとボールシートとの固定を補強するためのキャップを組み込まなくても、ボールシート4をハウジング2にしっかりと固定することができるため、ボールジョイント1の構成部品点数の削減およびボールジョイント組立工程の工程数の削減による製造コスト低減を図ることができる。
【0052】
また、特許文献1に記載のボールジョイントのハウジングのような特別な角孔加工を行う必要がない。さらに、ハウジング本体21に既製の安価な丸パイプ材を内外径の加工を極力施さずにハウジング本体21に利用することができるため、ハウジング2の加工費および材料費を削減することができ、これによっても、ボールジョイント1の製造コストの低減を図ることができる。
【0053】
また、特許文献1に記載のボールジョイントに用いられるボールシートにおいては、フック部の先端が外周側に向き、フック部の尖ったエッジ部が、ボールシート本体の外周面から露出しているのに対して、本実施の形態に係るボールシート4においては、各スナップフィットファスナー部42のフック部4222が、内周側のボールシート本体41側に向けられている。したがって、ボールシート4の取扱い時における安全性を向上させることができるため、ボールジョイント組立工程における安全性がより向上する。
【0054】
ところで、以上においては、ハウジング本体21の外周面210側からハウジング本体21を固定するスナップフィットファスナー部42をボールシート4に設けているが、これらのスナップフィットファスナー部42に加えて、ハウジング本体21の内周面側からハウジング本体21を固定するスナップフィットファスナー部をボールシートに設けてもよい。以下、この例の詳細を説明する。なお、ボールシート以外の構成および組立工程については、上述したボールジョイント1と同様であるため、それらについての説明は省略する。
【0055】
図8(A)は、ボールシート4の変形例であるボールシート4Bの正面図であり、図8(B)は、ボールシート4Bを用いたボールジョイント1Bのダストカバー5装着後における正面図である。
【0056】
このボールシート4Bのボールシート本体41には、スナップフィットファスナー部42と向かい合わせにスナップフィットファスナー部43を形成している。これらのスナップフィットファスナー部43は、ボールシート本体41の底面416から回転軸6方向に突き出した複数のビーム部431と、向かい合うスナップフィットファスナー部42のフック部4222に向いて突き出すように各ビーム部431の先端に形成された鉤爪型のフック部432と、を備えている。このボールシート4Bのその他の構成は、上述のボールシート4と同様である。
【0057】
このようなボールシート4Bを用いた場合、ボールシート本体41のフランジ部418がハウジング本体21の一方の端面211に当接するまで、ボールシート本体41を底面416側からハウジング本体21の貫通孔213内に圧入すると、ハウジング本体21の外周面210側からハウジング本体21を固定するスナップフィットファスナー部42のフック部4222だけでなく、ハウジング本体21の内周面側からハウジング本体21を固定するスナップフィットファスナー部43のフック部432もハウジング本体21の他方の端面212にしっかりと係合する。このように、スナップフィットファスナー部42、43によりハウジング本体21が内外周両側から抱き込まれて固定されるため、回転軸6方向へのハウジング本体21の移動がより確実に制限され、ハウジング本体21からのボールシート4の抜け出しがより効果的に防止される。さらに、ハウジング本体21とボールシート4との結合力を高めるため、スナップフィットファスナー部42のフック部4222とスナップフィットファスナー部43のフック部432とに、ハウジング本体21の一方の端面211上で互いにかみ合う鉤状部を設けてもよい。
【0058】
また、スナップフィットファスナー部43がスナップフィットファスナー部42に向かい合って配置され、いずれのスナップフィットファスナー部42、43のフック部4222、432も、ボールシート4Bの外周側に露出していないため、ボールシート4Bを用いた場合も、上述のボールシート4を用いた場合と同様、ボールジョイント組立工程における安全性が向上する。
【0059】
なお、以上説明した実施の形態においては、スナップフィットファスナー部42を各ボールシート4、4A、4Bにそれぞれ4か所ずつに設けているが、スナップフィットファスナー部42の数は適宜変更可能である。同様に、スナップフィットファスナー部43をボールシート4Bの4か所に設けているが、スナップフィットファスナー部43の数も適宜変更可能である。
【0060】
また、以上説明した実施の形態において、ハウジング2のハウジング本体21には、一方の端面211から他方の端面212まで貫通した回転軸6方向の貫通孔213がボールシート挿入用の穴として形成されているが、内周側のスナップフィットファスナー部43が設けられておらず、外周側のスナップフィットファスナー部42のみが設けられているボールシート4を用いる場合には、ハウジング2のハウジング本体21にボールシート挿入用の穴として形成される穴は、一方の端面211に開口していればよく、他方の端面212まで貫通している必要はない。
【0061】
また、以上説明した実施の形態においては、ボールシート4、4A、4Bのボールシート本体41のセレーション領域411に回転軸6方向のセレーション4111が形成されているが、例えば周方向等、他の方向のセレーションが形成されていてもよい。
【0062】
また、以上説明した実施の形態においては、スタビライザリンクに用いられるボールジョイント1、1A、1Bを例に挙げたが、本発明は、ステアリング機構等、他の用途に用いられるボールジョイントの構造およびこれに用いられるボールシートの構造にも適用可能である。
【0063】
また、以上説明した実施の形態においては、スナップフットファスナー部42を、2本のビーム421の先端部を弧形状の連結部422で連結した略コの字形状としているが、必ずしも、このようにする必要はない。ボールシート本体41のセレーション形成領域411とフック部4222との間隔が広がる方向にたわむことが可能であれば、略コの字以外の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1,1A,1B:ボールジョイント、2:ハウジング、21:ハウジング2のハウジング本体、22:ハウジング2のリンク部、210:ハウジング本体21の外周面、211,212:ハウジング本体21の端面、213:ハウジング本体21の貫通孔、214:ハウジング本体21の外周面の切欠き、215,216:ハウジング本体21の両端面の内外周の縁部、221,222:リンク部22の両端部、223:リンク部22の雄ネジ部、3:ボールスタッド、31:ボールスタッド3のロッド部、32:ボールスタッド3のボールヘッド、311:ロッド部31のボールヘッド側端部、312:ロッド部31の雄ネジ部、313:ダストカバー固定溝、314,315:ボールスタッド3のフランジ部、4,4A,4B:ボールシート、41:ボールシート本体、410:ボールシート本体41の上端面側の端部、411:セレーション形成領域、4111:セレーション、412:中空部、4121:中空部412の内周面、4122,4142:グリース溜まり、4123:中空部412の底部、413:ボールシート本体41の上面、414:ボールシート本体41のボールヘッド挿入口、4141:ボールヘッド挿入口414の内周面、416:ボールシート本体41の底面、417:ボールシート本体41の凸部、418:ボールシート本体41のフランジ部、419:ダストカバー固定溝、42,43:スナップフィットファスナー部、421:スナップフィットファスナー部42のビーム部、422:スナップフィットファスナー部42の連結部、42221:連結部422の内側面、4222:スナップフィットファスナー部のフック部、431:スナップフィットファスナー部43のビーム部、432:スナップフィットファスナー部43のフック部、5:ダストカバー、51:ダストカバー5のボールスタッド挿入口、52:ボールスタッド挿入口51周りの縁部、53:ダストカバー5のボールシート挿入口、54:ボールシート挿入口の縁部、6:回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールジョイントに用いられるボールシートであって、
ボールスタッドのボールヘッドを回転可能に収容し、ハウジングの一方の端面から他方の端面に向かう方向の穴に挿入されるボールシート本体と、
フランジ部と、
前記ボールシート本体の外周面との間に前記ハウジングを挟み込むための少なくとも一つの第一のスナップフィットファスナー部と、を有し、
前記フランジ部は、
前記ボールシート本体の一方の端部側の外周面に、前記ハウジングの前記一方の端面に対向するように形成され、
前記第一のスナップフィットファスナー部は、
一方の端部が前記ボールシート本体の前記フランジ部に一体的に形成され、他方の端部が前記ハウジングの前記他方の端面に向けて延びた第一のビーム部と、
前記第一のビーム部の前記他方の端部から突出し、前記ハウジングの前記他方の端面に係合する第一のフック部と、を有する
ことを特徴とするボールシート。
【請求項2】
請求項1記載のボールシートであって、
前記ボールシート本体の外周面にセレーションが形成されている
ことを特徴とするボールシート。
【請求項3】
請求項1または2に記載のボールシートであって、
前記ボールシートは、
前記ハウジングの前記穴に挿入される少なくとも一つの第二のスナップフィットファスナー部をさらに有し、
前記第二のスナップフィットファスナー部は、
前記ボールシート本体の他方の端部側から前記ハウジングの前記他方の端面に向けて延びた第二のビーム部と、
前記第二のビーム部の先端から外周側に突き出し、前記ハウジングの前記他方の端面に係合する第二のフック部と、を有する
ことを特徴とするボールシート。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のボールシートであって、
前記ハウジングの外周面の周りに配置される前記第一のスナップフィットファスナー部を複数有し、
前記ボールシート本体が前記ハウジングの前記穴へ挿入されることにより、前記ハウジングの外周面に連結されたリンク部が挿入される隙間が、複数の前記第一のスナップフィットファスナー部のうちの隣り合ういずれか2つの前記第一のスナップフィットファスナー部間に形成される
ことを特徴とするボールシート。
【請求項5】
請求項4に記載のボールシートであって、
前記リンク部の両側に位置する2つの前記第一のスナップフィットファスナー部は、当該リンク部を挟んで対向する位置に、前記リンク部の外形に沿った形状の前記隙間を有する
ことを特徴とするボールシート。
【請求項6】
ボールヘッドを有するボールスタッドと、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のボールシートと、
一方の端面から他方の端面に向かう方向の穴を有し、前記ボールヘッドを収容した前記ボールシート本体が前記穴に挿入されたハウジングと、を備える
ことを特徴とするボールジョイント。
【請求項7】
ボールヘッドを有するボールスタッドと、
請求項4または5に記載のボールシートと、
一方の端面から他方の端面に向かう方向の穴を有し、前記ボールヘッドを収容した前記ボールシート本体が前記穴に挿入されたハウジングと、を備え、
前記ハウジングは、当該ハウジングの外周面に連結され、前記ボールシートの複数の第一のスナップフィットファスナー部のうちの隣り合ういずれか2つの前記第一のスナップフィットファスナー部間に挿入されたリンク部を有する
ことを特徴とするボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−15158(P2013−15158A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146376(P2011−146376)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】