説明

ボールジョイント及びそのベアリングシート

【課題】ボール部の外周面と摺接する摺動面の面積を確保しつつ、グリースを長期に亘って保持できるボールジョイントのボールシートを提供する。
【解決手段】ソケットに収容するボールシート18に、ボールスタッドのボール部の外周面と摺接する摺動面52を設ける。摺動面52よりもボールシート18の外部側に、グリースを収容するグリース保持部56を設ける。グリース保持部56を部分的に摺動面52と連通し、グリース保持部56に収容したグリースを摺動面52へと導くグリース供給孔61をボールシート18に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールスタッドのボール部が回動可能に保持されるボールジョイント及びそのベアリングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車の懸架装置などに用いられるボールジョイントは、内室を有するハウジングと、このハウジングの内室に嵌着されるベアリングシートであるボールシートと、このボールシートの内部の球面状の摺動面にボール部の外周面が回動可能に保持されるボールスタッドとを備えている。
【0003】
そして、摺動面の摩耗を防止するために、この摺動面とボール部の外周面との間には、潤滑剤すなわちグリースが配置される。このグリースは、摺動面に設けられた溝部に収容されることで、長期に亘って保持されるように構成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、ボールジョイントが特定の環境あるいは条件下、例えばボールスタッドのボール部を上側とし、このボール部から突出し外部と接続されるスタッド部を下側とする、いわゆる倒立型のボールジョイントなどの場合には、グリースを溝部に長期に亘って保持しておくことが容易でない。
【0005】
そのため、溝部よりも容量を大きく取れるポケット部を摺動面に設けた構成が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
しかしながら、このような構成の場合、ボール部の外周面と摺接する摺動面の面積が小さくなるという問題がある。このようにボール部の外周面と摺接する摺動面の面積が小さくなると、摺動面とボール部との局所的な接触面圧の増加、あるいはボールシートの摩耗量の増加などを招くこととなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−292094号公報(第4−7頁、図1−2)
【特許文献2】特開2008−57761号公報(第3−6頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、ボール部の外周面と摺接する摺動面の面積を確保しつつ、グリースを長期に亘って保持できる構成が望まれている。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、ボール部の外周面と摺接する摺動面の面積を確保しつつ、潤滑剤を長期に亘って保持できるボールジョイントのベアリングシート、及びこれを備えたボールジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載のボールジョイントのベアリングシートは、ハウジングに収容されるシート部と、このシート部に設けられ、ボールスタッドのボール部の外周面と摺接する摺動面と、この摺動面よりも前記シート部の外部側に設けられ潤滑剤を収容する潤滑剤収容部と、この潤滑剤収容部を部分的に前記摺動面と連通して設けられ、前記潤滑剤収容部に収容された潤滑剤を前記摺動面へと導く孔部とを具備したものである。
【0011】
請求項2記載のボールジョイントのベアリングシートは、請求項1記載のボールジョイントのベアリングシートにおいて、ボールスタッドのボール部からの荷重を他部よりも大きく受ける荷重受け部を具備し、潤滑剤収容部及び孔部は、前記荷重受け部に対応する位置に配置されているものである。
【0012】
請求項3記載のボールジョイントのベアリングシートは、請求項2記載のボールジョイントのベアリングシートにおいて、荷重受け部に対向して配置され、摺動面に連通し、ボールスタッドの一部を外方へと突出させる開口を具備したものである。
【0013】
請求項4記載のボールジョイントのベアリングシートは、請求項1ないし3いずれか一記載のボールジョイントのベアリングシートにおいて、シート部を内部に保持してハウジングに収容される保持シート部を具備したものである。
【0014】
請求項5記載のボールジョイントは、ハウジングと、このハウジングに収容された請求項1ないし4いずれか一記載のベアリングシートと、このベアリングシートの摺動面と外周面が摺接して回動可能に保持されるボール部を備えたボールスタッドとを具備したものである。
【0015】
請求項6記載のボールジョイントは、請求項5記載のボールジョイントにおいて、ボールスタッドは、ボール部を上側として外部と接続されるものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載のボールジョイントのベアリングシートによれば、シート部の摺動面よりも外部側に潤滑剤収容部を設けるとともに、この潤滑剤収容部を部分的に摺動面と連通する孔部によって潤滑剤収容部に収容された潤滑剤を摺動面へと導くことにより、ボール部の外周面と摺接する摺動面の面積を確保しつつ、潤滑剤を長期に亘って保持できる。
【0017】
請求項2記載のボールジョイントのベアリングシートによれば、請求項1記載のボールジョイントのベアリングシートの効果に加えて、ボールジョイントのボール部からの荷重を他部よりも大きく受ける荷重受け部に対応する位置に潤滑剤収容部及び孔部を配置することにより、ボール部と摺動面との最も摺動性が必要となる位置に潤滑剤を導くことができ、摺動性を確保できる。
【0018】
請求項3記載のボールジョイントのベアリングシートによれば、請求項2記載のボールジョイントのベアリングシートの効果に加えて、例えば倒立型のボールジョイントなどのようにボール部を上側としてボールスタッドを外部と接続する場合に、開口が相対的に下側となり、この開口と対向する荷重受け部に対応して配置される潤滑剤収容部及び孔部が相対的に上側となるので、潤滑剤収容部に収容された潤滑剤を自重によって孔部からより効果的に摺動面へと導くことができる。
【0019】
請求項4記載のボールジョイントのベアリングシートによれば、請求項1ないし3いずれか一記載のボールジョイントのベアリングシートの効果に加えて、シート部を保持シート部の内部に保持してハウジングに収容することにより、シート部と保持シート部とをそれぞれに適した素材によって構成することが可能となり、機能性が向上する。
【0020】
請求項5記載のボールジョイントによれば、請求項1ないし4いずれか一記載のベアリングシートを備えることにより、ボール部とベアリングシートの摺動面との良好な摺動性を確保でき、耐摩耗性が向上する。
【0021】
請求項6記載のボールジョイントによれば、請求項5記載のボールジョイントの効果に加えて、ボール部を上側としてボールスタッドを外部と接続することにより、潤滑剤を自重によって潤滑剤収容部から孔部を介してより効果的に摺動面へと導くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態のベアリングシートを示す断面図である。
【図2】同上ベアリングシートを示す平面図である。
【図3】同上ベアリングシートを備えたボールジョイントを示す断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態のベアリングシートを示す断面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態のベアリングシートを示す断面図である。
【図6】本発明の第4の実施の形態のベアリングシートを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の第1の実施の形態の構成を図1ないし図3を参照して説明する。
【0024】
図3において、11はボールジョイントであり、このボールジョイント11は、例えば自動車の懸架装置に用いられるものである。このボールジョイント11は、ハウジングであるソケット16と、ボールスタッド17と、このボールスタッド17の一部を摺動(回動)可能に保持してソケット16に収容されるベアリングシートとしてのシート部である略円筒状のボールシート18と、ソケット16の外周面からボールスタッド17の外周面に亘って配置されたダストカバー19とを備え、ソケット16を上側として配置される、いわゆる倒立型のものである。なお、以下、図1及び図3中の下側を一端側である下側、上側を他端側である上側として説明する。
【0025】
ソケット16は、例えば(冷間)鍛造、あるいは鋳造などにより形成された金属製であり、円筒状の本体部21と、この本体部21の上端側に連続する傾斜部22と、この傾斜部22の上端に連続する蓋部(底部)としての閉塞部23とを一体に有する、有蓋円筒状(有底円筒状)に形成されている。そして、このソケット16の内部には、本体部21と傾斜部22と閉塞部23とによって内室24が区画形成されており、ソケット16の下端部には、内室24をソケット16の外部と連通する開口部である円形状のソケット開口部25が形成されている。
【0026】
本体部21の下端側の外周には、ダストカバー19の上端部を取り付け固定するカバー取付部としてのカバー固定溝27が周方向に沿って円環溝状に形成されている。
【0027】
傾斜部22は、下端側(本体部21側)から上端側(閉塞部23側)へと徐々に縮径される円筒状に形成されている。
【0028】
閉塞部23は、ソケット16の軸方向に対して略直交する方向に沿って形成されており、傾斜部22の上端を閉塞している。
【0029】
また、内室24は、傾斜部22に対応する位置で下端側から上端側へと徐々に縮径されるように形成されている。
【0030】
また、ソケット開口部25には、内室24に収容されたボールシート18の抜け止め用の保持部材としての円環状のプラグ31が取り付けられている。このプラグ31は、ソケット開口部25の内縁部に沿って段差状に形成された保持部32に外周縁が保持された状態で、ソケット16の下端側を中心側へとかしめ変形させたかしめ固定部33により、ソケット16に固定されている。
【0031】
一方、ボールスタッド17は、例えば鋼鉄製などであり、球状のボール部41と、このボール部41に連結された軸状のスタッド部42とを一体に備えている。
【0032】
ボール部41は、外周面の一部がボールシート18に摺動(回動)可能に保持されている。すなわち、ボール部41は、ボールシート18とともにソケット16の内室24に収容されている。
【0033】
スタッド部42は、図示しない外部の被接続部材に接続されて荷重が加わる部分であり、ソケット16から外方(図3中の下方)へと突出している。なお、このスタッド部42は、ボール部41と一体に成形してもよいし、ボール部41と別体で成形した後、ボール部41に溶接などにより一体化してもよい。
【0034】
ボールシート18は、図1ないし図3に示すように、例えば耐摩耗性に優れ弾性率が高い合成樹脂製などにより円筒状に形成され、ソケット16の内室24に嵌着保持されて収容されている。このボールシート18は、円筒状のシート本体部45と、このシート本体部45の上端に連続する荷重受け部であるシート傾斜部46と、このシート傾斜部46の上端に連続するシート蓋部(シート底部)としてのシート端部47とを一体に備えている。さらに、このボールシート18には、開口51が下端部に位置して形成されているとともに、この開口51に連通しボール部41の外周面を保持する摺動面52が内方に形成されている。
【0035】
シート本体部45は、ボールシート18が内室24に嵌着された状態でソケット16の本体部21の内方に位置する部分である。また、このシート本体部45の下端部の外周は、外方へと突出したシート突出部54となっている。このシート突出部54は、ソケット16の内室24にボールシート18を嵌着した状態で、ソケット16の内室24に当接してこの内室24に沿って形状が規制されることにより摺動面52の下端側を球面状に湾曲させるものである。さらに、このシート本体部45の下端部は、ボールシート18がソケット16の内室24に収容された状態で、ソケット16に取り付けられたプラグ31に当接している。
【0036】
シート傾斜部46は、ボールシート18が内室24に嵌着された状態でソケット16の傾斜部22の内方に位置し、シート本体部45側から上端側(シート端部47側)へと徐々に縮径される円筒状に形成されている。したがって、このシート傾斜部46は、ボール部41に対して軸方向に対向しており、ボールシート18において最も大きな荷重を受ける部分である。そして、このシート傾斜部46には、摺動面52の外部側、本実施の形態ではシート傾斜部46の外面に、潤滑剤収容部としてのグリース保持部56が凹設されている。このグリース保持部56は、ソケット16の傾斜部22に対向し、この傾斜部22との間に潤滑剤であるグリースGを溜めるためのものであり、本実施の形態では、断面視でシート傾斜部46の一端から他端に亘って連続して形成されている。したがって、このグリース保持部56は、開口51と対向して位置している。さらに、このグリース保持部56は、シート傾斜部46の厚みの約半分程度の深さ寸法で凹設されている。なお、このグリース保持部56は、シート傾斜部46の外面の複数箇所に配置してもよいし、シート傾斜部46の周方向に連続して(円)環状に形成してもよい。
【0037】
また、シート端部47は、ボールシート18が内室24に嵌着された状態でソケット16の閉塞部23の内方に位置するとともに、この閉塞部23に対して離間されている部分である。さらに、このシート端部47には、内室24に連通する連通孔部57が貫通して形成されており、摺動面52の上端の位置から連通孔部57を含むシート端部47と閉塞部23との間に亘る領域58が、ボール部41と摺動面52との間に配置されるグリースGを溜めるための潤滑剤溜め部としてのグリース溜め部となっている。
【0038】
そして、開口51は、ボールシート18が内室24に嵌着された状態でソケット16のソケット開口部25に連通するものである。換言すれば、この開口51は、ボールスタッド17の一部であるボール部41の一部(下部)とスタッド部42とを外方へと突出させるものである。
【0039】
また、摺動面52は、シート本体部45の内方に位置する筒状部としての副摺動部52aと、この副摺動部52aの上端に連続しシート本体部45からシート傾斜部46の内方に亘って位置する縮径部としての主摺動部52bとを有し、シート本体部45の内方からシート傾斜部46の内方に亘って連続して形成されている。
【0040】
副摺動部52aは、摺動面52に圧入されたボール部41の赤道位置Eに対応する部分を保持する部分であり、ボール部41を補助的に摺動(回動)可能に保持する部分である。この副摺動部52aは、ボールシート18単体状態では円筒面状に形成されているものの、ボールシート18がソケット16の内室24に収容されてシート突出部54が中心方向へと変形された状態では、開口51側である下端側がボール部41の外周面に沿う球面状となるように中心側へと湾曲するように構成されている。なお、ボール部41の赤道位置Eとは、ボール部41の軸方向に交差(直交)する方向に径寸法が最大になる位置の外周面をいう。
【0041】
また、主摺動部52bは、摺動面52に圧入されたボール部41の赤道位置Eよりも下端側(副摺動部52a側)から上端側へと徐々に縮径される球面状に形成されており、ボール部41を主として摺動(回動)可能に保持する部分である。この主摺動部52bには、上端部がグリース保持部56と連通し下端部が摺動面52と連通する孔部としてのグリース供給孔61が複数形成されている。
【0042】
グリース供給孔61は、図2に示すように、例えば断面円形状に形成され、例えば主摺動部52bの全体に亘って千鳥状に(略均等に)互いに離間されて配置されており、平面視で複数の同一円周上にそれぞれ所定の複数ずつ配置されている。すなわち、これらグリース供給孔61は、開口51と対向する位置に配置されている。また、これらグリース供給孔61は、図1に示すように、ボールシート18の軸方向に沿って、すなわち上下方向に沿って直線状に形成されている。さらに、これらグリース供給孔61のそれぞれは、グリース保持部56よりも小さく形成されており、1つのグリース保持部56に対して複数が連通している。換言すれば、これらグリース供給孔61は、少なくともグリース保持部56に対してボールシート18の軸方向と交差(略直交)する方向の断面積(投影面積)が小さく、かつ、それぞれの容積がグリース保持部56よりも小さく形成され、グリース保持部56を摺動面52(の主摺動部52b)と部分的に連通している。なお、グリース供給孔61の断面は円形に限定されず、例えば楕円形など、任意の形状とすることができる。
【0043】
さらに、ダストカバー19は、ダストシール、あるいはブーツなどとも呼ばれ、ボールスタッド17の揺動に拘らずソケット16のソケット開口部25を覆い、ソケット16あるいはボールシート18の内部への水分及び塵埃などの侵入を阻止するものである。このダストカバー19は、例えば合成樹脂により略円筒状に形成され、下端側がボールスタッド17のスタッド部42の外周面に固定され、上端側がソケット16のカバー固定溝27に嵌着され、この上端側の外周面に取り付けられたリング状の固定部材65により締め付け固定されている。
【0044】
次に、上記第1の実施の形態のボールジョイント11の組み立て作業について説明する。
【0045】
まず、ソケット16のソケット開口部25からボールシート18を内室24に挿入する。このとき、ボールシート18のシート端部47がソケット16の閉塞部23に対向し、シート傾斜部46がソケット16の傾斜部22に対向し、かつ、シート本体部45がソケット16の本体部21に対向することにより、グリース保持部56が傾斜部22に対向する。
【0046】
次いで、例えば各グリース供給孔61からグリースGをグリース保持部56内へと注入した後、ボール部41をボールシート18の開口51から摺動面52へと圧入し、ボール部41をボールシート18の摺動面52により回動可能に保持する。なお、グリースGは、ボールシート18をソケット16の内室24に挿入する前に予めグリース保持部56内に保持していてもよい。
【0047】
このとき、ボールスタッド17のスタッド部42は、ボールシート18の開口51から外部へと突出した状態となっている。
【0048】
なお、ボール部41を予めボールシート18の摺動面52に圧入した後、ボールシート18をボール部41とともにソケット16の内室24に挿入して取り付けてもよい。
【0049】
そして、プラグ31をボールスタッド17のスタッド部42に対して挿通してソケット16の保持部32に取り付け、ソケット16の下端側を中心側へとかしめ変形させることでかしめ固定部33を形成することにより、プラグ31をソケット16のソケット開口部25の内縁部に保持する。この結果、ボールシート18がボールスタッド17とともに、ソケット16の内室24に回り止めされた状態で固定される。
【0050】
この後、ダストカバー19をボールスタッド17のスタッド部42に対して挿通し、このダストカバー19の上端側を固定部材65によってカバー固定溝27に締め付け固定するとともに、ダストカバー19の下端側をボールスタッド17のスタッド部42の外周に固定することにより、ボールジョイント11を完成する。
【0051】
次に、上記第1の実施の形態のボールジョイント11の動作について説明する。
【0052】
スタッド部42が接続された車体側からの荷重がボールスタッド17に加わると、ボールスタッド17が前後方向、あるいは左右方向などに揺動する。
【0053】
このとき、グリース保持部56から摺動面52へと各グリース供給孔61を介してグリースGが導かれることにより、ボール部41と摺動面52との間にグリースGが供給され、このグリースGの作用により、ボール部41が摺動面52において、円滑に回動(摺動)する。
【0054】
また、グリース保持部56に保持されたグリースGは、ボール部41の摺動に伴い、グリース保持部56から各グリース供給孔61を介して摺動面52へと適宜供給される。
【0055】
上述したように、上記第1の実施の形態によれば、ボールシート18の摺動面52よりも外部側にグリース保持部56を設けるとともに、このグリース保持部56を部分的に摺動面52と連通するグリース供給孔61によってグリース保持部56に収容されたグリースGを摺動面52へと導くことにより、例えば摺動面52にグリースを保持するためのポケット部や溝部を設ける場合などと比較して、ボール部41の外周面と摺接する摺動面52の面積を確保しつつ、グリースGを長期に亘って保持できる。
【0056】
そして、このようなボールシート18を備えることにより、ボール部41とボールシート18の摺動面52との良好な摺動性を確保でき、耐摩耗性が向上する。
【0057】
また、ボール部41からの荷重を他部よりも大きく受けるシート傾斜部46に対応する位置にグリース保持部56及びグリース供給孔61を配置することにより、ボール部41と摺動面52との最も摺動性が必要となる位置にグリースGを導くことができ、摺動性を確保できる。
【0058】
さらに、ボール部41を上側としてボールスタッド17を外部と接続する倒立型のボールジョイント11では、開口51が相対的に下側となり、この開口51と対向するシート傾斜部46に対応する位置に配置されたグリース保持部56及びグリース供給孔61が相対的に上側となるので、グリース保持部56に収容されたグリースGを自重によってグリース供給孔61からより効果的に摺動面52へと導くことができる。
【0059】
そして、グリース保持部56をボールシート18の外面に凹設することにより、ボールシート18の成形時などにグリース保持部56を容易に形成できる。
【0060】
また、各グリース供給孔61は、ボールシート18の成形時の型抜き方向となる軸方向(上下方向)に沿って形成されているので、アンダーカットとなることがなく、各グリース供給孔61を形成するためのスライドコアなどが不要となり、ボールシート18の成形がより容易となる。
【0061】
なお、上記第1の実施の形態において、グリース保持部56を、摺動面52の外部側で、かつ、ボールシート18のシート傾斜部46の外面の内部側、すなわちシート傾斜部46の内部に形成しても上記第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができるとともに、グリースGがソケット16の内室24(傾斜部22)とボールシート18の外面(シート傾斜部46)との間に介在することがなく、ボールシート18をソケット16に対して、より確実に回り止めできる。
【0062】
次に、第2の実施の形態を図4を参照して説明する。なお、上記第1の実施の形態と同様の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0063】
この第2の実施の形態は、上記第1の実施の形態のボールシート18において、グリース保持部56の縁部に、このグリース保持部56に収容したグリースGの漏れ防止用の突起部66が突設され、かつ、各グリース供給孔61の軸方向が摺動面52(の法線方向)に対して略直交する方向に沿って(放射状となって)いるものである。
【0064】
突起部66は、ボールシート18のシート傾斜部46の外側面及びシート端部47の外側面に位置しており、ボールシート18をソケット16の内室24に嵌着した状態で少なくとも一部が圧潰されて、ボールシート18を周方向に回り止め可能となっている。なお、突起部66は、グリースGをグリース保持部56内に確実に保持するとともに、ボールシート18をソケット16に対して回り止めできれば、断面形状や大きさなどを任意に設定できる。
【0065】
また、各グリース供給孔61は、グリース保持部56側の開口面積よりも摺動面52側の開口面積が大きい、截頭円錐状(円錐台状)となっている。すなわち、各グリース供給孔61は、グリース保持部56側から摺動面52側へと徐々に拡開状に形成されている。さらに、各グリース供給孔61の最上部に位置する縁部は、摺動面52の湾曲の中心位置側、換言すればボール部41の中心位置側に向けて形成されおり、ボールシート18の軸方向(上下方向)に対して傾斜しているとともに、各グリース供給孔61の最下部に位置する縁部は、ボールシート18の軸方向(上下方向)に沿って形成されている。このため、各グリース供給孔61は、ボールシート18の軸方向に投影した際に、グリース保持部56側の開口端が摺動面52側の開口端内にほぼ位置するように形成されている。換言すれば、各グリース供給孔61は、ボールシート18の成形時の型抜き方向となるボールシート18の軸方向(上下方向)に対してアンダーカットとならないように形成されている。
【0066】
そして、この第2の実施の形態によれば、グリース保持部56の縁部にボールシート18の外方に向けて突出する突起部66を設けることにより、グリース保持部56に収容されたグリースGをより確実にグリース保持部56に収容保持してこのグリース保持部56から外周面へとグリースGが漏れることを防止できる。特に、突起部66は、ボールシート18をソケット16に組み付ける際のグリース保持部56からのグリースGの漏れをより確実に防止できる。
【0067】
また、突起部66は、ボールシート18をソケット16の内室24に嵌着した際に少なくとも一部が潰れることにより、ボールシート18をソケット16に対して、より確実に回り止めできる。
【0068】
さらに、各グリース供給孔61の軸方向を摺動面52に対して略直交する方向に沿って形成することにより、ボール部41から摺動面52に対して荷重が加わった際でも、ボールシート18の摺動面52側が各グリース供給部61の開口方向(軸方向)に沿って潰れるように変形するに過ぎず、各グリース供給孔61の摺動面52側の開口端縁部がこれらグリース供給孔61を閉塞する方向(グリース供給孔61を横断する方向)へと変形しにくいので、グリース保持部56に収容されたグリースGを、より確実に摺動面52へと導くことができる。また、各グリース供給孔61は、グリース保持部56側から摺動面52側へと徐々に拡開することにより、グリース保持部56に保持されたグリースGを、より効果的に摺動面52へと導くことができる。しかも、各グリース供給孔61は、ボールシート18の成形時の型抜き方向である軸方向(上下方向)に対してアンダーカットとならないように形成されているため、各グリース供給孔61を形成するためのスライドコアなどが不要となり、ボールシート18の成形がより容易となる。
【0069】
なお、上記第2の実施の形態の突起部66のみを上記第1の実施の形態に適用してもよい。
【0070】
また、一部のグリース供給孔61のみを、その軸方向が摺動面52に対して略直交する方向に沿うように形成してもよいし、少なくとも一部のグリース供給孔61の摺動面52側の部分などの一部のみの軸方向を摺動面52に対して略直交する方向に沿って形成してもよい。さらに、上記第1の実施の形態のグリース供給孔61の軸方向を、第2の実施の形態のように摺動面52に対して略直交する方向に沿って形成してもよい。
【0071】
次に、第3の実施の形態を図5を参照して説明する。なお、上記各実施の形態と同様の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0072】
この第3の実施の形態は、上記各実施の形態のボールシート18に代えて、保持シート部としての外側シート67とシート部としての内側シート68とを有する、いわゆる2ピース構造のベアリングシートとしてのボールシート69を備えるものである。
【0073】
外側シート67は、主として内側シート68をソケット16に対して支持(保持)するものであり、例えばポリアセタール(POM)、ポリエステルなどの、比較的軟質の合成樹脂により円筒状に形成され、内側シート68を内部に保持した状態でソケット16の内室24に嵌着保持されて収容されている。この外側シート67は、円筒状の外側シート本体部71と、この外側シート本体部71の上端に連続する外側シート傾斜部72と、この外側シート傾斜部72の上端に連続する外側シート蓋部(外側シート底部)としての外側シート端部73とを一体に備えている。さらに、この外側シート67には、外側開口74が下端部に位置して形成されている。そして、この外側シート67の内部の下端側には、外側開口74に連通しボール部41の外周面の下部を保持する下部摺動面75が内部に形成されている。
【0074】
外側シート本体部71は、外側シート67が内室24に嵌着された状態でソケット16の本体部21の内方に位置する部分である。また、この外側シート本体部71の下端部の外周は、外方へと突出したシート突出部76となっている。このシート突出部76は、ソケット16の内室24に外側シート67を嵌着した状態で、ソケット16の内室24に当接してこの内室24に沿って形状が規制されることにより下部摺動面75を球面状に湾曲させるものである。さらに、この外側シート本体部71の下端部は、ボールシート18をソケット16の内室24に収容した状態で、ソケット16に取り付けられたプラグ31に当接している。
【0075】
外側シート傾斜部72は、外側シート67が内室24に嵌着された状態でソケット16の傾斜部22の内方に位置する部分であり、外側シート本体部71側から上端側(外側シート端部73側)へと徐々に縮径される円筒状に形成されている。そして、この外側シート傾斜部72の内面、すなわち内側シート68に対向する部分には、潤滑剤収容部としてのグリース保持部78が凹設されている。このグリース保持部78は、内側シート68の外面に対向し、この内側シート68との間にグリースGを溜めるためのものである。さらに、このグリース保持部78は、外側シート傾斜部72の厚みの約半分程度の深さ寸法で凹設されている。なお、このグリース保持部78は、外側シート傾斜部72の内面の複数箇所に配置してもよいし、外側シート傾斜部72の周方向に連続して(円)環状に形成してもよい。
【0076】
また、外側シート端部73は、外側シート67が内室24に嵌着された状態でソケット16の閉塞部23の内方に位置するとともに、この閉塞部23に対して離間されている部分である。また、この外側シート端部73には、内室24に連通する外側連通孔部79が貫通して形成されている。
【0077】
そして、外側開口74は、外側シート67が内室24に嵌着された状態でソケット16のソケット開口部25に連通するものである。換言すれば、この外側開口74は、ボールスタッド17の一部であるボール部41の一部(下部)とスタッド部42とを外方へと突出させるものである。
【0078】
また、下部摺動面75は、外側シート本体部71の内方に位置しており、ボール部41の赤道位置Eよりも下部を保持する部分であり、ボール部41を補助的に摺動(回動)可能に保持する部分である。この下部摺動面75は、外側シート67単体状態では円筒面状に形成されているものの、外側シート67が内側シート68とともにソケット16の内室24に収容されてシート突出部76が中心方向へと変形された状態では、ボール部41の外周面に沿う球面状となるように中心側へと湾曲するように構成されている。
【0079】
一方、内側シート68は、主としてボール部41を摺動(回動)可能に保持するもので、クッションシートとも呼ばれ、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、あるいはポリフェニレンスルフィド(PPS)などの、比較的硬質の合成樹脂により円筒状に形成されている。この内側シート68は、円筒状の内側シート本体部81と、この内側シート本体部81の上端に連続する荷重受け部としての内側シート傾斜部82と、この内側シート傾斜部82の上端に連続する内側シート蓋部(内側シート底部)としての内側シート端部83とを一体に備えている。さらに、この内側シート68には、開口としての内側開口84が下端部に位置して形成されているとともに、この内側開口84に連通しボール部41の上部の外周面を保持する摺動面としての上部摺動面85が内部に形成されている。
【0080】
内側シート本体部81は、内側シート68が外側シート67の内部に嵌着された状態でこの外側シート67の外側シート本体部71の内方に位置する部分である。また、この内側シート本体部81の下端部は、上部摺動面85及び下部摺動面に圧入されたボール部41の赤道位置Eに対応している。したがって、この内側シート本体部81は、外側シート本体部71の上側を覆っており、外側シート本体部71の下側が下部摺動面75となっている。
【0081】
内側シート傾斜部82は、内側シート68が外側シート67の内部に嵌着された状態でこの外側シート67の外側シート傾斜部72の内方に位置してこの外側シート傾斜部72を覆う部分であり、内側シート本体部81側から上端側(内側シート端部83側)へと徐々に縮径される円筒状に形成されている。したがって、この内側シート傾斜部82は、ボール部41及びグリース保持部78に対して軸方向に対向しており、ボールシート69において最も大きな荷重を受ける部分である。換言すれば、上部摺動面85よりも内側シート68の外部にグリース保持部78が位置している。そして、この内側シート傾斜部82には、グリース保持部78と連通する孔部としての複数のグリース供給孔87が外側と内側とを貫通して形成されている。すなわち、これらグリース供給孔87は、上端部がグリース保持部78と連通し下端部が上部摺動面85と連通している。
【0082】
グリース供給孔87は、断面円形状に形成され、例えば上部摺動面85の全体に亘って千鳥状に(略均等に)互いに離間されて配置されており、平面視で複数の同一円周上にそれぞれ所定の複数ずつ配置されている。また、これらグリース供給孔87は、ボールシート69(内側シート68)の軸方向に沿って、すなわち上下方向に沿って直線状に形成されている。さらに、これらグリース供給孔87のそれぞれは、グリース保持部78よりも小さく形成されており、1つのグリース保持部78に対して複数が連通している。換言すれば、これらグリース供給孔87は、少なくともグリース保持部78に対してボールシート69(内側シート68)の軸方向と交差(略直交)する方向の断面積(投影面積)が小さく、それぞれの容積がグリース保持部78よりも小さく形成され、グリース保持部78を上部摺動面85と部分的に連通している。
【0083】
また、内側シート端部83は、内側シート68が外側シート67の内部に嵌着された状態でこの外側シート67の外側シート端部73の内方に位置してこの外側シート端部73を覆っている。さらに、この内側シート端部83には、内側連通孔部89が貫通して形成されており、上部摺動面85の上端の位置から内側連通孔部89及び外側連通孔部79を含む内側シート端部83と閉塞部23との間に亘る領域90が、ボール部41と各摺動面75,85との間に配置されるグリースGを溜めるための潤滑剤溜め部としてのグリース溜め部となっている。
【0084】
そして、内側開口84は、内側シート68が外側シート67の内部に嵌着された状態で外側シート67の外側開口74を介してソケット16のソケット開口部25に連通するものである。換言すれば、この内側開口84は、ボールスタッド17の一部であるボール部41の一部(下部)とスタッド部42とを外方へと突出させるものである。また、この内側開口84は、グリース保持部78及び各グリース供給孔87と対向する位置に配置されている。
【0085】
また、上部摺動面85は、内側シート68の内側シート本体部81ないし内側シート端部83に亘って連続する球面状に形成されている。さらに、この上部摺動面85は、圧入されたボール部41の赤道位置Eよりも上部側を摺動(回動)可能に保持する部分である。
【0086】
そして、ボールジョイント11を組み立てる際には、まず、ソケット16のソケット開口部25から、内側シート68を外側開口74から内部に挿入して保持した外側シート67(ボールシート69)を内室24に挿入する。このとき、ボールシート69の外側シート67の外側シート端部73がソケット16の閉塞部23に対向し、外側シート傾斜部72がソケット16の傾斜部22に対向し、かつ、外側シート本体部71がソケット16の本体部21に対向するとともに、内側シート68の内側シート端部83が外側シート端部73に対向し、内側シート傾斜部82が外側シート傾斜部72に対向し、かつ、内側シート本体部81が外側シート本体部71に対向することにより、グリース保持部78が内側シート傾斜部82に対向する。
【0087】
次いで、例えば各グリース供給孔87からグリースGをグリース保持部78内へと注入した後、ボール部41をボールシート69の外側開口74及び内側開口84から各摺動面75,85へと圧入し、ボール部41をボールシート69の各摺動面75,85により回動可能に保持する。なお、グリースGは、ボールシート69をソケット16の内室24に挿入する前に予めグリース保持部78内に保持していてもよい。
【0088】
このとき、ボールスタッド17のスタッド部42は、ボールシート69の内側開口84及び外側開口74から外部へと突出した状態となっている。
【0089】
なお、ボール部41を予めボールシート69の各摺動面75,85に圧入した後、ボールシート69をボール部41とともにソケット16の内室24に挿入して取り付けてもよい。
【0090】
そして、上記各実施の形態と同様に、プラグ31をソケット16のソケット開口部25の内縁部に保持することで、ボールシート69がボールスタッド17とともに、ソケット16の内室24に回り止めされた状態で固定され、さらに、ダストカバー19を取り付けることにより、ボールジョイント11を完成する。
【0091】
そして、スタッド部42が接続された車体側からの荷重がボールスタッド17に加わると、ボールスタッド17が前後方向、あるいは左右方向などに揺動する。
【0092】
このとき、グリース保持部78から上部摺動面85へと各グリース供給孔87を介してグリースGが導かれることにより、ボール部41と各摺動面85,75との間にグリースGが供給され、このグリースGの作用により、ボール部41が各摺動面85,75において、円滑に回動(摺動)する。
【0093】
また、グリース保持部78に保持されたグリースGは、ボール部41の摺動に伴い、グリース保持部78から各グリース供給孔87を介して各摺動面85,75へと適宜供給される。
【0094】
上述したように、上記第3の実施の形態によれば、ボールシート69の内側シート68の上部摺動面85よりも外部側にグリース保持部78を設けるとともに、このグリース保持部78を部分的に上部摺動面85と連通するグリース供給孔87によってグリース保持部78に収容されたグリースGを上部摺動面85へと導くことにより、例えば上部摺動面85にグリースを保持するためのポケット部や溝部を設ける場合などと比較して、ボール部41の外周面と摺接する上部摺動面85の面積を確保しつつ、グリースGを長期に亘って保持できる。
【0095】
そして、このようなボールシート69を備えることにより、ボール部41とボールシート69の上部摺動面85(及び下部摺動面75)との良好な摺動性を確保できる。
【0096】
また、ボール部41からの荷重を他部よりも大きく受ける内側シート傾斜部82に対応する位置にグリース保持部78及びグリース供給孔87を配置することにより、ボール部41と上部摺動面85との最も摺動性が必要となる位置にグリースGを導くことができ、摺動性を確保できる。
【0097】
さらに、ボール部41を上側としてボールスタッド17を外部と接続する倒立型のボールジョイント11では、各開口84,74が相対的に下側となり、これら開口84,74に対向する内側シート傾斜部82に対応する位置に配置されたグリース保持部78及びグリース供給孔87が相対的に上側となるので、グリース保持部78に収容されたグリースGを自重によってグリース供給孔87からより効果的に上部摺動面85(及び下部摺動面75)へと導くことができる。
【0098】
また、グリース保持部78を外側シート67の内面に凹設することにより、外側シート67の成形時などにグリース保持部78を容易に形成できる。
【0099】
そして、ボールシート69を、主としてボール部41を回動可能に保持する内側シート68と、この内側シート68をソケット16に対して支持する外側シート67との2ピース構造とすることにより、例えば内側シート68にはボール部41の回動保持に適した材質を選択でき、外側シート67には内側シート68の支持に適した材質を選択できるなど、それぞれのシート67,68の目的に対応した材質を適宜選択できるので、使い勝手が向上する。
【0100】
さらに、各グリース供給孔87は、内側シート68の成形時の型抜き方向となる軸方向(上下方向)に沿って形成されているので、アンダーカットとなることがなく、各グリース供給孔87を形成するためのスライドコアなどが不要となり、内側シート68(ボールシート69)の成形がより容易となる。
【0101】
次に、第4の実施の形態を図6を参照して説明する。なお、上記第3の実施の形態と同様の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0102】
この第4の実施の形態は、上記第3の実施の形態において、各グリース供給孔87の軸方向が摺動面85(の法線方向)に対して略直交する方向に沿って(放射状となって)いるものである。
【0103】
各グリース供給孔87は、グリース保持部78側の開口面積よりも摺動面85側の開口面積が大きい、截頭円錐状(円錐台状)となっている。すなわち、各グリース供給孔87は、グリース保持部78側から摺動面85側へと徐々に拡開状に形成されている。さらに、各グリース供給孔87の最上部に位置する縁部は、摺動面85の湾曲の中心位置側、換言すればボール部41の中心位置側に向けて形成されおり、ボールシート69(内側シート68)の軸方向(上下方向)に対して傾斜しているとともに、各グリース供給孔87の最下部に位置する縁部は、ボールシート69(内側シート68)の軸方向(上下方向)に沿って形成されている。このため、各グリース供給孔87は、ボールシート69(内側シート68)の軸方向に投影した際に、グリース保持部78側の開口端が摺動面85側の開口端内にほぼ位置するように形成されている。換言すれば、各グリース供給孔87は、内側シート68の成形時の型抜き方向となる内側シート68の軸方向(上下方向)に対してアンダーカットとならないように形成されている。
【0104】
そして、この第4の実施の形態によれば、各グリース供給孔87の軸方向を摺動面85に対して略直交する方向に沿って形成することにより、ボール部41から摺動面85に対して荷重が加わった際でも、ボールシート69の内側シート68の摺動面85側が各グリース供給部87の開口方向(軸方向)に沿って潰れるように変形するに過ぎず、各グリース供給孔87の摺動面85側の開口端縁部がこれらグリース供給孔87を閉塞する方向(グリース供給孔87を横断する方向)へと変形しにくいので、グリース保持部78に収容されたグリースGを、より確実に摺動面85へと導くことができる。また、各グリース供給孔87は、グリース保持部78側から摺動面85側へと徐々に拡開することにより、グリース保持部78に保持されたグリースGを、より効果的に摺動面85へと導くことができる。しかも、各グリース供給孔87は、内側シート68の成形時の型抜き方向である軸方向(上下方向)に対してアンダーカットとならないように形成されているため、各グリース供給孔87を形成するためのスライドコアなどが不要となり、内側シート68(ボールシート69)の成形がより容易となる。
【0105】
なお、上記第4の実施の形態において、一部のグリース供給孔87のみを、その軸方向が摺動面85に対して略直交する方向に沿うように形成してもよいし、少なくとも一部のグリース供給孔87の摺動面85側の部分などの一部のみの軸方向を摺動面85に対して略直交する方向に沿って形成してもよい。
【0106】
さらに、上記第3及び第4の実施の形態において、グリース保持部78は、外側シート67の外側シート傾斜部72に設けるだけでなく、例えば内側シート68の内側シート傾斜部82の外面に凹設してもよいし、それらの両方に設けてもよい。
【0107】
また、グリース保持部78を、上部摺動面85の外部側で、かつ、内側シート68の内側シート傾斜部82の外面の内部側、すなわち内側シート68の内側シート傾斜部82の内部に形成しても、上記第3及び第4の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0108】
さらに、上記各実施の形態において、ボールスタッド17は、スタッド部42を有しないものでもよい。
【0109】
そして、ボールジョイント11は、倒立型のものでなくてもよく、また、車両の懸架装置に限らず、車両の操舵装置など、任意の接続箇所に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、例えば自動車の懸架装置用のボールジョイント及びそのベアリングシートとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0111】
11 ボールジョイント
16 ハウジングであるソケット
17 ボールスタッド
18 ベアリングシートとしてのシート部であるボールシート
41 ボール部
46 荷重受け部としてのシート傾斜部
51 開口
52 摺動面
56,78 潤滑剤収容部としてのグリース保持部
61,87 孔部としてのグリース供給孔
67 保持シート部としての外側シート
68 シート部としての内側シート
69 ベアリングシートとしてのボールシート
82 荷重受け部としての内側シート傾斜部
84 開口としての上側開口
85 摺動面としての上部摺動面
G 潤滑剤であるグリース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに収容されるシート部と、
このシート部に設けられ、ボールスタッドのボール部の外周面と摺接する摺動面と、
この摺動面よりも前記シート部の外部側に設けられ潤滑剤を収容する潤滑剤収容部と、
この潤滑剤収容部を部分的に前記摺動面と連通して設けられ、前記潤滑剤収容部に収容された潤滑剤を前記摺動面へと導く孔部と
を具備したことを特徴とするボールジョイントのベアリングシート。
【請求項2】
ボールスタッドのボール部からの荷重を他部よりも大きく受ける荷重受け部を具備し、
潤滑剤収容部及び孔部は、前記荷重受け部に対応する位置に配置されている
ことを特徴とする請求項1記載のボールジョイントのベアリングシート。
【請求項3】
荷重受け部に対向して配置され、摺動面に連通し、ボールスタッドの一部を外方へと突出させる開口を具備した
ことを特徴とする請求項2記載のボールジョイントのベアリングシート。
【請求項4】
シート部を内部に保持してハウジングに収容される保持シート部を具備した
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載のボールジョイントのベアリングシート。
【請求項5】
ハウジングと、
このハウジングに収容された請求項1ないし4いずれか一記載のベアリングシートと、
このベアリングシートの摺動面と外周面が摺接して回動可能に保持されるボール部を備えたボールスタッドと
を具備したことを特徴とするボールジョイント。
【請求項6】
ボールスタッドは、ボール部を上側として外部と接続される
ことを特徴とする請求項5記載のボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−189183(P2012−189183A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55138(P2011−55138)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000198271)株式会社ソミック石川 (91)
【Fターム(参考)】