説明

ボールペン用水性インキ組成物及びそれを内蔵したボールペン

【課題】高い潤滑効果を付与することで、ボールの回転によるボール受け座の摩耗を抑制することが可能であり、極細ボールペンにおいても良好なインキ吐出性を長距離の筆記に亘って確保でき、初期と同等の優れた筆記感を長期的に維持できるボールペン用水性インキ組成物とそれを内蔵したボールペンを提供する。
【解決手段】水と黒鉛化カーボンブラックを少なくとも含有するボールペン用水性インキ組成物。更に、着色剤を含有する。前記ボールペン用水性インキ組成物を内蔵したボールペン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボールペン用水性インキ組成物に関する。更には、潤滑性能に優れ、高い筆記性能を備えたボールペン用水性インキ組成物及びそれを内蔵したボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油性インキに比べて潤滑性が乏しい水性インキを内蔵したボールペンにおいては、ボールの回転によるボール受け座の摩耗が発生し易い。その結果、ボールペンチップ内のインキ流通路が変形してしまい、インキの吐出不良や漏れ等を生じることがあった。そのため、筆記した際の筆記感が損なわれたり、筆記不良をきたすという問題があった。
そこで、前記問題を解決するために、インキ組成物中にアミノ酸型ベタイン、N−アシルサルコシン塩、リン酸エステル等を潤滑剤として添加し、水性インキの潤滑性を向上させてボール受け座の摩耗を低減する試みが開示されている(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【特許文献1】特開平10−67961号公報
【特許文献2】特開昭61−174278号公報
【特許文献3】特開平9−100435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記アミノ酸型ベタインは潤滑効果が低く、充分な効果を発揮させるために多量に添加する必要があるが、アルキル基の炭素数が大きいものは水性媒体への安定性に乏しいため、経時によりインキ中で析出する等の不具合を生じ易いものであった。また、N−アシルサルコシン塩の添加では、前記アミノ酸型ベタインよりも潤滑効果が得られるものの、ボール受け座の摩耗を充分に抑制することができず、インキ吐出不良を生じて筆記距離が短くなることがあった。
これらに対して、前記リン酸エステルは潤滑効果が高く、ボール受け座の摩耗も抑制することができる添加剤であるが、極細ボールペンに適用する場合、特に、ボール径が0.4mm以下の小径のものでは、筆記距離に対するボールの回転数(回転速度)が増加するため、より過酷な条件となり、筆記距離によっては座摩耗を生じてしまうことがある。
そこで極細ボールペンにも適用可能な、より効果の高いものが必要となる。
【0004】
本発明は、高い潤滑効果を付与することで、ボールの回転によるボール受け座の摩耗を抑制することが可能であり、極細ボールペンにおいても良好なインキ吐出性を長距離の筆記に亘って確保でき、初期と同等の優れた筆記感を長期的に維持できるボールペン用水性インキ組成物とそれを内蔵したボールペンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のボールペン用水性インキ組成物は、水と黒鉛化カーボンブラックを少なくとも含有することを要件とする。
更に、着色剤を含有すること、前記黒鉛化カーボンブラックがインキ組成物全量中0.01〜10重量%の範囲で添加されること、前記黒鉛化カーボンブラックの平均粒子径が20〜800μmの範囲にあることを要件とし、インキ中にリン酸エステルを含むことを要件とする。
更には、前記ボールペン用水性インキ組成物を内蔵したボールペンを要件とし、前記ボールペンが直径0.4mm以下のボールを筆記先端部に備えることを要件とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、高い潤滑性能を付与でき、ボールの高速回転によるボール受け座の摩耗を効果的に抑制できるので、小径ボールを適用する激細ボールペンにおいてもカスレやボテ等の筆跡不良を生じることなく均一な筆跡が得られ、初期と同等の優れた筆記感を長距離、長期間に亘って持続できる水性ボールペン用インキ組成物及びそれを内蔵したボールペンを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、ボールペン用水性インキ組成物中に、黒鉛化カーボンブラックを添加することで、高い潤滑効果を付与し、ボールの高速回転に伴うボール受け座の摩耗を抑制できるものである。尚、前記黒鉛化カーボンブラックは黒色着色剤としても作用するため、黒色インキを調整する場合には他の着色剤を添加しなくてもインキを形成できる。
【0008】
前記黒鉛化カーボンブラックは、炭素原子が六角形格子状に配列する層平面が平行に積層されることで形成される三次元結晶構造を有しており、該構造によって自己潤滑性を備えるものである。これに対して、着色剤として広く適用される自己潤滑性を有しない一般的なカーボンブラックは、六角形格子状に配列する炭素原子の層平面が規則的に配列していない(乱層構造)ため、結晶構造の違いによって前記効果が発現されると推察される。
前記黒鉛化カーボンブラックのうち、特に平均粒子径が20〜800μmの範囲にあるものは潤滑効果が高く好適であるが、前記範囲内においても特に、350〜750μmと大きいものは、チップ座磨耗を抑制する効果が高いためより有用である。
【0009】
前記黒鉛化カーボンブラックは、インキ組成物全量中0.01〜10重量%の範囲で添加することができる。このうち、添加剤として用いる場合は0.01〜2重量%程度で潤滑効果を発現でき、着色剤として用いる場合は4〜10重量%程度で黒色インキとして適用できる。
尚、添加剤として適用する際、特に好ましくは0.02〜0.3重量%の範囲で添加でき、この場合、淡色インキに適用しても所望の色調を維持したまま高い潤滑効果を発現でき、消色インキに適用した際には残色を生じることなく高い潤滑効果を発現できる。
【0010】
前記着色剤としては、水性媒体に溶解もしくは分散可能な染料及び顔料がすべて使用可能であり、その具体例を以下に例示する。
前記染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料等を使用することができる。
酸性染料としては、ニューコクシン(C.I.16255)、タートラジン(C.I.19140)、アシッドブルーブラック10B(C.I.20470)、ギニアグリーン(C.I.42085)、ブリリアントブルーFCF(C.I.42090)、アシッドバイオレット6B(C.I.42640)、ソルブルブルー(C.I.42755)、ナフタレングリーン(C.I.44025)、エオシン(C.I.45380)、フロキシン(C.I.45410)、エリスロシン(C.I.45430)、ニグロシン(C.I.50420)、アシッドフラビン(C.I.56205)等が用いられる。
【0011】
塩基性染料としては、クリソイジン(C.I.11270)、メチルバイオレットFN(C.I.42535)、クリスタルバイオレット(C.I.42555)、マラカイトグリーン(C.I.42000)、ビクトリアブルーFB(C.I.44045)、ローダミンB(C.I.45170)、アクリジンオレンジNS(C.I.46005)、メチレンブルーB(C.I.52015)等が用いられる。
【0012】
直接染料としては、コンゴーレッド(C.I.22120)、ダイレクトスカイブルー5B(C.I.24400)、バイオレットBB(C.I.27905)、ダイレクトディープブラックEX(C.I.30235)、カヤラスブラックGコンク(C.I.35225)、ダイレクトファストブラックG(C.I.35255)、フタロシアニンブルー(C.I.74180)等が用いられる。
【0013】
前記顔料としては、一般的なカーボンブラック、群青などの無機顔料や銅フタロシアニンブルー、ベンジジンイエロー等の有機顔料の他、予め界面活性剤等を用いて微細に安定的に水媒体中に分散された水分散顔料製品等が用いられ、例えば、C.I.Pigment Blue 15:3B〔品名:S.S.Blue GLL、顔料分22%、山陽色素株式会社製〕、C.I. Pigment Red 146〔品名:S.S.Pink FBL、顔料分21.5%、山陽色素株式会社製〕、C.I.Pigment Yellow 81〔品名:TC Yellow FG、顔料分約30%、大日精化工業株式会社製〕、C.I.Pigment Red220/166〔品名:TC Red FG、顔料分約35%、大日精化工業株式会社製〕等を挙げることができる。
蛍光顔料としては、各種蛍光性染料を樹脂マトリックス中に固溶体化した合成樹脂微細粒子状の蛍光顔料が使用できる。
その他、パール顔料、金色、銀色のメタリック顔料、蓄光性顔料、二酸化チタン等の白色顔料、アルミニウム等の金属粉、更には熱変色性組成物、光変色性組成物、香料等を直接又はマイクロカプセル化したカプセル顔料等を例示できる。
【0014】
前記熱変色性組成物としては、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物が好適であり、マイクロカプセルに内包させて可逆熱変色性マイクロカプセル顔料として適用される。
前記可逆熱変色性組成物としては、特公昭51−44706号公報、特公昭51−44707号公報、特公平1−29398号公報等に記載された、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH=1〜7℃)を有する可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料が適用できる。
【0015】
更に、特公平4−17154号公報、特開平7−179777号公報、特開平7−33997号公報、特開平8−39936号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性(ΔH=8〜50℃)を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度以上の高温域での消色状態が、特定温度域で色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料も適用できる。
尚、前記色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物として具体的には、完全発色温度を冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、即ち−50〜0℃、好ましくは−40〜−5℃、より好ましくは−30〜−10℃、且つ、完全消色温度を摩擦体による摩擦熱、ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度、即ち50〜95℃、好ましくは50〜90℃、より好ましくは60〜80℃の範囲に特定し、ΔH値を40〜100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
【0016】
前記着色剤は一種又は二種以上を適宜混合して使用することができ、インキ組成中1乃至30重量%、好ましくは2乃至25重量%の範囲で用いられる。
【0017】
更に必要に応じて、水に相溶性のある従来汎用の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、スルフォラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
尚、前記水溶性有機溶剤は一種又は二種以上を併用して用いることができ、2〜60重量%、好ましくは5〜35重量%の範囲で用いられる。
【0018】
更に、紙面への固着性や粘性を付与するために水溶性樹脂を添加することもできる。前記水溶性樹脂としては、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン等が挙げられる。前記水溶性樹脂は一種又は二種以上を併用することができ、インキ組成中1乃至30重量%の範囲で用いられる。
【0019】
また、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイド付加型カチオン活性剤、リン酸エステル系界面活性剤、チオカルバミン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸塩、N−アシルアミノ酸、N−アシルメチルタウリン、金属石鹸等、汎用の潤滑剤を併用することもできる。
特に、リン酸エステル系界面活性剤(リン酸エステル)は、本発明の黒鉛化カーボンブラックと併用することで、座摩耗抑制効果をより高めることができるため非常に有用である。
【0020】
前記リン酸エステル系界面活性剤としては、芳香族若しくは脂肪族の官能基と、酸化エチレン基と、リン酸基とから構成されるリン酸モノエステル、ジエステル、トリエステル等、従来公知のものが用いられ、例えば、フォスファノールRE−410、同LE−500、同RE−610、同LE−700、同RM−410、同LM−400、同LF−200、同LF−205、同RP−710、同LP−700、同RS−410、同LS−500、同RD−510Y、同RB−410、同LB−400、同RA−600、同GB−520、同RD−720、同ML−200、同ML−210(以上東邦化学社製)、プライサーフA212E、同A210G、同AL、同A212C、同A215C、同A208B、同A208S、同A208F(以上第一工業製薬社製)、アミゼット52P(川研ファインケミカル社製)等が例示できる。
前記リン酸エステル系界面活性剤は、インキ組成物全量中0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%添加することができる。
【0021】
その他、必要に応じて、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類、水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物等のpH調整剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、サポニン等の防錆剤、石炭酸、1、2−ベンズチアゾリン3−オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン等の防腐剤或いは防黴剤、尿素、ノニオン系界面活性剤、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物、ピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤、消泡剤、インキの浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン系の界面活性剤を使用してもよい。
更に、アスコルビン酸類、エリソルビン酸類、α−トコフェロール、カテキン類、合成ポリフェノール、コウジ酸、アルキルヒドロキシルアミン、オキシム誘導体、α−グルコシルルチン、α−リポ酸、ホスホン酸塩、ホスフィン酸塩、亜硫酸塩、スルホキシル酸塩、亜ジチオン酸塩、チオ硫酸塩、二酸化チオ尿素等を添加して化学的に気泡を除去することもできる。
また、N−ビニル−2−ピロリドンのオリゴマー、N−ビニル−2−ピペリドンのオリゴマー、N−ビニル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、N−ビニル−ε−カプロラクタムのオリゴマー等の増粘抑制剤を添加することで、出没式形態での機能を高めることもできる。
【0022】
また、インキ組成物中に剪断減粘性付与剤を添加することもできる。
前記剪断減粘性付与剤としては、水に可溶乃至分散性の物質が効果的であり、キサンタンガム、ウェランガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100〜800万)、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万〜15万の重合体、グルコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する炭水化物、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、架橋性アクリル酸重合体、ポリN−ビニルカルボン酸アミド、無機質微粒子、HLB値が8〜12のノニオン系界面活性剤、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩やアミン塩等を例示でき、更には、インキ組成物中にN−アルキル−2−ピロリドンとアニオン系界面活性剤を併用して添加しても安定した剪断減粘性を付与できる。
【0023】
更に、インキ収容管内に充填されたインキ組成物の後端部にはインキ逆流防止体(液栓)を配することもできる。
前記インキ逆流防止体としては、液状または固体のいずれを用いることもでき、前記液状のインキ逆流防止体としては、ポリブテン、α−オレフィンオリゴマー、シリコーン油、精製鉱油等の不揮発性媒体が挙げられ、所望により前記媒体中にシリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、脂肪酸アマイド等を添加することもできる。また、固体のインキ逆流防止体としては樹脂成形物が挙げられる。前記液状及び固体のインキ逆流防止体は併用することも可能である。
【0024】
前記ボールペン用水性インキ組成物を充填するボールペンの筆記先端部(チップ)の構造は、従来汎用の機構が有効であり、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属材料をドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属製のパイプや金属材料の切削加工により形成したチップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等を適用できる。
また、前記ボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック等からなる汎用のものが適用でき、直径0.1mm〜2.0mm、好ましくは0.15mm〜1.0mmの範囲のものが好適に用いられる。特に、ボール径が0.4mm以下の小径のものでは、筆記距離に対するボールの回転数が多くなることから、本発明のインキがより好適に作用する。そのため、ボール径がより小さい0.38mm、0.35mm、0.3mm、0.28mm、0.25mm、0.18mm等、小さくなるにつれて本発明のインキは非常に有利に作用する。
【0025】
前記水性インキ組成物を収容する軸筒は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂からなる成形体が、インキの低蒸発性、生産性の面で好適に用いられる。
前記軸筒にはチップを直接連結する他、接続部材を介して前記軸筒とチップを連結してもよい。
前記軸筒内に収容されるインキ組成物は、インキ組成物が低粘度である場合は軸筒前部にインキ保留部材を装着し、軸筒内に直接インキ組成物を収容する方法と、多孔質体或いは繊維加工体に前記インキ組成物を含浸させて収容する方法が挙げられる。
【0026】
更に、前記軸筒として透明、着色透明、或いは半透明の成形体を用いることにより、インキ色やインキ残量等を確認できる。
尚、前記軸筒は、ボールペン用レフィルの形態として、前記レフィルを外軸内に収容するものでもよいし、先端部にチップを装着した軸筒自体をインキ収容体として、前記軸筒内に直接インキを充填してもよい。
【0027】
前記軸筒を用いたボールペンは、キャップ式、出没式のいずれの形態であっても適用できる。出没式ボールペンとしては、ボールペンレフィルに設けられた筆記先端部が外気に晒された状態で外軸内に収納されており、出没機構の作動によって外軸開口部から筆記先端部が突出する構造であれば全て用いることができる。
出没機構の操作方法としては、例えば、ノック式、回転式、スライド式等が挙げられる。
前記ノック式は、外軸後端部や外軸側面にノック部を有し、該ノック部の押圧により、ボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成、或いは、外軸に設けたクリップ部を押圧することにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記回転式は、外軸に回転部(後軸等)を有し、該回転部を回すことによりボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記スライド式は、軸筒側面にスライド部を有し、該スライドを操作することによりボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成、或いは、外軸に設けたクリップ部をスライドさせることにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成を例示できる。
尚、前記出没式ボールペンは、外軸内に一本のボールペンレフィルを収容したもの以外に、複数のボールペンレフィルを収容してなる複合タイプの出没式ボールペンであってもよい。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の表に実施例及び比較例のボールペン用水性インキの組成を示す。尚、表中の組成の数値は重量部を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表中の原料の内容について注番号に沿って説明する。
(1)住友化学工業(株)製、商品名:アシッドブルーPG
(2)保土ヶ谷化学工業(株)製、商品名:フロキシン
(3)(イ)成分として2−(2−クロロアニリノ)−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン4.5部、(ロ)成分として1,1−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)n−デカン4.5部、2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン7.5部、(ハ)成分としてカプリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(T:−20℃、T:−9℃、T:40℃、T:57℃、ΔH:63℃、平均粒子径:2.5μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=2.6/1.0、黒色から無色に色変化する)
(4)平均粒子径500nm(動的光散乱法)
(5)平均粒子径70nm(動的光散乱法)
(6)平均粒子径100nm(動的光散乱法)
(7)第一工業製薬(株)製、商品名:プライサーフAL
(8)第一工業製薬(株)製、商品名:プライサーフA212E
(9)2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール
(10)三晶(株)製、商品名:KELZAN
【0031】
インキの調製
水に各成分を添加して、20℃で、ディスパーにて400rpm、1時間攪拌し、濾過することで各インキを調製した。
【0032】
インキ逆流防止体の調製
基油としてポリブテン98.5部中に、増粘剤として脂肪酸アマイド1.5部を添加した後、3本ロールにて混練してインキ逆流防止体を得た。
【0033】
ボールペンの作製
前記実施例及び比較例のインキ組成物を、直径0.3mmの超硬合金ボールを抱持するステンレススチール製チップがポリプロピレン製パイプの一端に嵌着されたボールペンレフィルに1.0g充填し、該インキの後端に前記インキ逆流防止体を配設した後、前記ボールペンレフィルを外軸に組み込み、キャップを装着して試料ボールペンを作製した。
【0034】
前記試料ボールペンを用いて以下の試験を行った。
筆記試験
筆記可能であることを確認した試料ボールペン(各5本)を、自動筆記試験機にて、旧JIS P3201筆記用紙Aに螺旋状の丸を連続筆記し、充填されるインキが完全に消費できるかどうか確認した。尚、前記試験機は、筆記荷重50g、筆記角度70°、筆記速度4m/分の条件で使用した。
試験結果の評価は充填されたインキが完全に消費された本数(書き切り本数)である。
摩耗試験
筆記可能であることを確認した試料ボールペンを、自動筆記試験機にて、JIS P3201筆記用紙Aに螺旋状の丸を1000m連続筆記した後のボール受け座部分の初期状態に対する摩耗量(ペン先上向き状態におけるボール沈み量)を測定した。
尚、前記試験機は、筆記荷重50g、筆記角度70°、筆記速度4m/分の条件で使用した。また、測定値は、各5本ずつ試験したものの平均値である。
前記各試験の結果を以下の表に示す。
【0035】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と黒鉛化カーボンブラックを少なくとも含有するボールペン用水性インキ組成物。
【請求項2】
着色剤を含有する請求項1記載のボールペン用水性インキ組成物。
【請求項3】
前記黒鉛化カーボンブラックがインキ組成物全量中0.01〜10重量%の範囲で添加される請求項1又は2に記載のボールペン用水性インキ組成物。
【請求項4】
前記黒鉛化カーボンブラックの平均粒子径が20〜800μmの範囲にある請求項1乃至3のいずれかに記載のボールペン用水性インキ組成物。
【請求項5】
リン酸エステルを含む請求項1乃至4のいずれかに記載のボールペン用水性インキ組成物。
【請求項6】
前記請求項1乃至5のいずれかに記載のボールペン用水性インキ組成物を内蔵したボールペン。
【請求項7】
前記ボールペンが直径0.4mm以下のボールを筆記先端部に備える請求項6記載のボールペン。

【公開番号】特開2013−95767(P2013−95767A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236799(P2011−236799)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】