説明

ボールペン用水性インキ組成物

【課題】 ペン先を下向に放置してもインキが漏れず、書き出し時のカスレがなく、にじみが少ない鮮明な筆記線を持ち、温度安定性も良好なボールペン用水性インキ組成物を提供すること。
【解決手段】 少なくとも水と、着色剤と、沸点が水より高いグリコールまたはグリコールエーテルから選ばれる水溶性有機溶剤と、平均粒子径10〜2000nmである常温固体の高級アルコール粒子と含有するボールペン用水性インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペン先を下向に放置してもインキが漏れず、書き出し時のカスレがなく、にじみが少ない鮮明な筆記線を持ち、温度安定性も良好なボールペン用水性インキ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボールペンは、主に、ボールホルダーの先端から一部突出したボールの回転に伴って、ボール表面に付着したインキが紙などの被筆記面に転写され筆跡を形成するものである。比較的細い筆跡が得られると共に、繊維製ペン先や樹脂製ペン先を有する筆記具と異なり、長時間使用してもペン先の潰れなどによる筆跡幅の変化が少ないことから、多く使用されている。特に、ペン先が出没式の所謂ノック式ボールペンでは、筆記する際にキャップを取る手間が要らないので、好まれている。
ボールペンには水を主溶剤にした水性インキと、高沸点有機溶剤を主溶剤にした油性インキがあり、水性インキを使用したボールペンは油性インキを使用したボールペンより、ボールとボールホルダーの隙間を広げ、インキ吐出量を多くして滑らかな筆記感をもつため、小径のボールを用いた細字筆跡から大経ボールでの太字筆跡まで所望の筆記線幅に応じた各種のボール径で広いバリエーションの製品が展開されている。
ノック式水性ボールペンでは、筆記しない状態でもペン先は常に外気に晒されているので、水性インキを使用したノック式ボールペンでは、ボールとボールホルダーの隙間が広いために、高温や高湿度の環境にペン先を下向きに放置するとペン先からインキが漏れ出すことがある(以下、「インキの漏れ出し」と称する)。インキの漏れ出しを防止する方法としては、インキ中にワックスエマルジョンを入れる方法(特許文献1〜3)や、インキ中に溶解性の樹脂を加える方法(特許文献4、5)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−008465号公報
【特許文献2】特開2004−352909号公報
【特許文献3】特開2005−171037号公報
【特許文献4】特開平08−225762号公報
【特許文献5】特開平08−311148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワックスエマルジョンを入れたインキは、ペン先でインキが乾燥する際に、インキに分散していた樹脂粒子が集まり、チップ小口に被膜を形成してインキの漏れ出しを防止するものである。特許文献1に使用されている石油系ワックスエマルジョンはワックス素材自体にほとんど極性がなく、それが極性の高い水に分散された状態であるため高温−常温の繰返しのような温度状態では凝集や分離が起こりやすく長期間インキの漏れ出しがない性能を保持できない問題がある。更に、長期間の放置ではチップ小口の皮膜が固くなりすぎ筆記かすれを起こすことがある。
これに対し特許文献2に使用されている酸化ポリエチレン、酸化ポリプロピレンワックスエマルジョンは石油系ワックスに酸化処理を施して極性を付与しているが、基本となる素材が極性のない樹脂であるため効果は限定的で安定性は不十分である。またこれらのワックスエマルジョンは安定化のため分散性や浸透性に優れた界面活性剤が配合されていることが多く、この場合はエマルジョンを配合したインキの浸透性が高くなりすぎて筆跡ににじみを生じることがある。
特許文献3にはエチレンとアクリル酸またはエチレンとメタクリル酸コポリマーワックスエマルジョンを使用している。これはポリエチレンにアニオン性基を持つアクリル酸やメタクリル酸モノマーを導入しているため分散剤を添加しなくても安定に分散するエマルジョンとなる。このようなワックスエマルジョンは安定性は向上するが、アニオン性基の部分が界面活性剤と同様の作用を発揮し、インキの浸透性が非常に高くなり筆跡のにじみが発生しやすい。
溶解性の樹脂を入れたインキは、ペン先でインキが乾燥する際に、インキに溶解していた樹脂がチップ小口に被膜を形成してインキの漏れ出しを防止するものである。溶解型の樹脂は水に溶けるように極性を持たせるので、その被膜は水分と親和性があり高湿度では膨潤してペン先の密着性が低下してインキ漏れし易い。そのため、高湿度でもインキ漏れを防ぐためにはインキ中の樹脂濃度を高くして厚い被膜を形成させる必要であるが、厚い被膜は書き出し時の筆記力ではすぐには壊れないので、インキが出なかったり出ても量が少なかったりして、筆記かすれになってしまう問題が顕著であった。また、特許文献3同様水溶性付与のためのアニオン性基がインキのにじみを発生させることがある。
本発明の課題は、高温・高湿度環境下でペン先を下向きに放置しても、インキの漏れ出しがない性能を長期間保持し、書き出し時のかすれや筆跡のにじみがないボールペン用水性インキ組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は、少なくとも水と、着色剤と、沸点が水より高いグリコールまたはグリコールエーテルから選ばれる水溶性有機溶剤と、平均粒子径10〜2000nmである常温固体の高級アルコール粒子とを含有するボールペン用水性インキ組成物を第一の要旨とする。
また、前記常温固体の高級アルコールの水酸基価が、100〜250mgKOH/gである請求項1記載のボールペン用水性インキ組成物を第二の要旨とする。
更にHLBが10以上の非イオン界面活性剤を含有する請求項1又は請求項2に記載のボールペン用水性インキ組成物を第三の要旨とする。
更に水に不溶なHLBが8以下の非イオン界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の水性ボールペン用インキ組成物を第四の要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
常温固体の高級アルコールの表面には、極性基であるOH基が分散微粒子表面に選択的に配向し、粒子の凝集や分離が起こりにくく好ましいインキの流動性を維持できる平均粒子径2000nm以下の粒径のものとして長期間安定に分散状態を保持でき、水分が蒸発していく際に、同じくOH基を有する沸点が水より高いグリコールまたはグリコールエーテルから選ばれる水溶性有機溶剤をわずかに取り込みつつ皮膜化していくので、長期間の放置でも固くなりすぎない皮膜を形成する。よって、確実にインキの漏れ出しを防ぎつつ、筆記時には弱い力で素早く皮膜が破れてインキが流出でき、筆記カスレにならないものと推察される。この高級アルコールの微粒子は、平均粒子径が2000nmを超えると皮膜強度が高くなりすぎ筆記カスレが発生することがあり、また平均粒子径が10nm未満の微粒子は作成が非常に難しく、多量の界面活性剤が必要で筆跡のにじみが増大しやすく、皮膜強度も弱くインキ漏れ出しを防ぐ効果も不十分である。また、常温固体の高級アルコールのOH基は、アニオン性基ほどの親水性や極性を持たないため、インキの浸透性が不必要に高くなることもなく、筆跡のにじみも生じにくい。
【0007】
常温固体の高級アルコールの水酸基価は100〜250mgKOH/gであるとインキ中での分散状態が最も安定で凝集や分離が起こりにくくチップ小口の高級アルコール微粒子とグリコールまたはグリコールエーテルとからなる皮膜が適当な強度を持ちインキ漏れ出しがなく筆記カスレもなく滑らかに書き出せる。水酸基価が100mgKOH/g未満では高級アルコールの極性がやや小さく分離が発生したり、皮膜内にグリコールまたはグリコールエーテルの入り込める量が少なく筆記カスレが発生することがある。水酸基価が250mgKOH/gを超えると、高温時などにグリコールまたはグリコールエーテルとの親和性が強くなり微粒子表面が軟らかくなりインキ漏れ出しや凝集物が発生することがある。このような極性のバランスは水に不溶なHLBが8以下の非イオン界面活性剤を併用することにより適宜調整することができ、また微粒子の分散安定性をさらに向上させることができる。
【0008】
常温固体の高級アルコール分散物にHLBが10以上の非イオン界面活性剤を使用すると少量で十分な分散安定性を付与でき好ましい。アニオン界面活性剤などではインキの浸透性が高くなりすぎ、筆跡のにじみが発生することがある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
水はインキの主溶剤である。この水は染料や各種添加剤の溶解安定のためにイオン交換水が望ましい。
【0010】
本発明で使用される常温固体の高級アルコールとは、常温の水への溶解性が1g以下でかつ融点が30℃以上のものであり、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデカノール、アラキルアルコール、ヘンイコサノール、ベヘニルアルコール、トリコサノール、カルナービルアルコール、セリルアルコール、コリヤニルアルコール、ミリシルアルコール、メリシルアルコール、ラクセリルアルコール、エライジルアルコールなどの1価アルコールや、キミルアルコール、バチルアルコール等のアルキルグリセリルエーテルが挙げられるが、常温固体の飽和1価アルコールが好ましい。これらは界面活性をほとんど持たないためインキの浸透性に悪影響はないが、長鎖のアルキル基と親水基であるアルコールOH基を持つためこのOH基が水相との界面に配向し、安定に分散される。また、水酸基価は100〜250mgKOH/gが特に好ましい。水酸基価が高過ぎると高温時にインキ中のグリコールやグリコールエーテル溶剤との相溶性が高くなりチップ小口の皮膜が柔らかくなりすぎてインキが漏れたり、インキ中で表面がわずかに溶解し、常温に戻る際に分散物が凝集したりすることがある。また水酸基価が低すぎるとチップ小口の皮膜内にグリコールやグリコールエーテル溶剤が十分存在できず、長期放置後に筆記カスレが発生することがある。尚、常温液体の高級アルコールも水分散物を作成することはできるが、乾燥皮膜がほとんど作成されず、インキの漏れ出しを防止することができない。
これらの常温固体の高級アルコールの使用量は0.05重量%から10.0重量%使用でき、好ましくは0.1重量%から5重量%である。添加量が少ないとインキ漏れの防止効果が見られず、多すぎると凝集しやすくなりに水に析出してしまう。
常温固体の高級アルコール微粒子の平均粒子径は10〜2000nmであることが必要であり、平均粒子径が2000nm以上ではインキ流通路をふさいでインキ吐出量が減少したり、皮膜強度が高くなりすぎ筆記カスレが発生することがある。また平均粒子径が10nm未満の微粒子は作成が非常に難しく、多量の界面活性剤が必要で筆跡のにじみが増大しやすく、皮膜強度も弱くインキ漏れ出しを防ぐ効果も不十分である。
【0011】
これらの常温固体の高級アルコールは単独で使用することもできるが、炭素数の異なる2種以上のものを併用し水酸基価を調整することもできる。
【0012】
常温固体の高級アルコールを微粒子化した分散物とするのに非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤等の一般的な界面活性剤を使用することができるが、インキのにじみを防ぐために非イオン界面活性剤が好ましい。また、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤は可溶化力が非常に高いことが多く、チップ小口の乾燥皮膜内に濃縮された活性剤が高湿度放置状態で水分を吸収し高級アルコール表面とグリコール系溶剤を可溶化して皮膜強度が下がりインキが漏れやすくなることがある。
【0013】
本発明で使用される非イオン界面活性剤は、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンステロール、ポリオキシエチレン水素添加ステロール、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられ、より良好な分散性のためにHLBが10以上のものが好ましく、また曇点の影響で高温での分散性を失わないためにポリオキシエチレン付加がされていないHLBが10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルが特に好ましい。
使用量は0.01重量%から10.00重量%であり、更に好ましくは0.5重量%から5重量%である。複数種の非イオン界面活性剤を混合して使用することもできる。
【0014】
常温固体の高級アルコールを微粒子中に水に不溶なHLBが8以下の非イオン界面活性剤を含有させると、微粒子の分散を更に安定化させたり、高級アルコールの水酸基価による極性のバランスをある程度調整することができる。これは、高級アルコール微粒子中側に低HLBの非イオン界面活性剤が溶解して表面に親水基を向けて配向し、HLBが10以上の非イオン界面活性剤は水相側に溶解して高級アルコール微粒子中側に親油基を向けて配向して界面が強化され熱安定性が向上すると推察される、また融点が高く、水酸基価が低いため微粒子分散体作成時に高温で溶解する必要があったり、やや分離しやすい高級アルコールに適当な低HLBの非イオン界面活性剤を含有させることで混合物の融点が下がり分散体作成がしやすくなったり、高級アルコール極性が小さいことによる分離を改良することができる。水に不溶なHLBが8以下の非イオン界面活性剤は常温固体の高級アルコールに対して5重量%〜50重量%が好ましい。
【0015】
着色材は、従来水性ボールペン用インキに用いられている各種公知の染料、顔料が使用可能である。
染料の例を挙げると、C.I.ダイレクトブラック17、同19、同22、同32、同38、同51、同71、C.I.ダイレクトエロー4、同26、同44、同50、ダイレクトレッド1、同4、同23、同31、同37、同39、同75、同80、同81、同83、同225、同226、同227、C.I.ダイレクトブルー1、同15、同41、同71、同86、同87、同106、同108、同199)などの直接染料や、C.I.アシッドブラック1、同2、同24、同26、同31、同52、同107、同109、同110、同119、同154、C.I.アシッドエロー1、同7、同17、同19、同23、同25、同29、同38、同42、同49、同61、同72、同78、同110、同127、同135、同141、同142、C.I.アシッドレッド8、同9、同14、同18、同26、同27、同35、同37、同51、同52、同57、同82、同83、同87、同92、同94、同111、同129、同131、同138、同186、同249、同254、同265、同276、C.I.アシッドバイオレット15、同17、同49、C.I.アシッドブルー1、同7、同9、同15、同22、同23、同25、同40、同41、同43、同62、同78、同83、同90、同93、同100、同103、同104、同112、同113、同158、C.I.アシッドグリーン3、同9、同16、同25、同27、C.I.アシッドオレンジ56などの酸性染料、C.I.フードエロー3、C.I.フードレッド14、C.I.アシッドブルー74、C.I.アシッドグリーン5などの食用染料、C.I.42000、C.I.44045、C.I.42535、C.I.45160、C.I.45160などの塩基性染料がある。
【0016】
顔料の例を挙げると、ファーネストブラック、コンタクトブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、群青、紺青、コバルトブルー、チタンイエロー、ターコイズ、モリブデートオレンジ、酸化チタン等の無機顔料、金粉、銀粉、銅粉、アルミニウム粉、真鍮粉、錫粉等の金属粉顔料、雲母系顔料、C.I.PIGMENT RED2、同3、同5、同17、同22、同38、同41、同48:2、同48:3、同49、同50:1、同53:1、同57:1、同58:2、同60、同63:1、同63:2、同64:1、同88、同112、同122、同123、同144、同146、同149、同166、同168、同170、同176、同177、同178、同179、同180、同185、同190、同194、同206、同207、同209、同216、同245、C.I.PIGMENT ORANGE
5、同10、同13、同16、同36、同40、同43、C.I.PIGMENT VIOLET 19、同23、同31、同33、同36、同38、同50、C.I.PIGMENT BLUE 2、同15、同15:1、同15:2、同15:3、同15:4、同15:5、同16、同17、同22、同25、同60、同66、C.I.PIGMENT BROWN 25、同26、C.I.PIGMENT YELLOW 1、同3、同12、同13、同24、同93、同94、同95、同97、同99、同108、同109、同110、同117、同120、同139、同153、同166、同167、同173、C.I.PIGMENT GREEN 7、同10、同36等がある。これらは、1種もしくは2種以上混合して用いることが出来る。また、顔料を水性媒体に分散した分散顔料の例を挙げると、チバスペシャリティケミカルズ(株)製のunisperseシリーズ、クラリアントジャパン(株)製のHostfineシリーズ、大日本インキ化学工業(株)製のDisperseシリーズ、Ryudyeシリーズ、富士色素(株)製のFuji.SPシリーズ、山陽色素(株)製のEmacolシリーズ、Sandyeシリーズ、オリエント化学工業(株)製のMicroPigmoシリーズ、MicroJetシリーズ、東洋インキ(株)製のRio Fastシリーズ、EM Colorシリーズ、住化カラー(株)製のPoluxシリーズ、(以上、無機、有機顔料の分散体)、日本蛍光化学(株)製のNKWシリーズ、東洋ソーダ(株)製のコスモカラーシリーズ、シンロイヒ(株)製のシンロイヒ・カラーベースシリーズ(以上、蛍光顔料の分散体)等がある。これらは1種もしくは2種以上混合して用いることが出来る。
尚、上記染料、顔料、分散顔料は混合して使用することもできる。
【0017】
チップ小口の乾燥皮膜を適当な強度に保つためと、低温時でのインキの凍結防止、染料の可溶化剤、顔料の分散媒、蒸発抑制に沸点が水より高いグリコールまたはグリコールエーテルから選ばれる従来公知の水溶性有機溶媒が必須である。具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類が挙げられる。これらの水溶性有機溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。
【0018】
上記グリコール系水溶性有機溶剤の他にも染料の可溶化や蒸発抑制のために水に可溶な固体のOH基を持つ糖類や、OH基を持たない水溶性有機溶剤を適宜併用することができる。具体例としては、アラビノース、マンノース、グルコース、スクロース、マルトース、トレハロース、エリスリトール、ソルビトールや2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられる。
【0019】
インキの適切な流動特性を得るために剪断減粘性を付与する水溶性高分子化合物を用いることができる。例えば、アラビアガム、トラガカントガム、グァーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、カゼイン、キサンテンガム、デキストラン、ウェランガム、ラムザンガム、アルカガム、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ヒドロキシプロピル化グァーガム、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、アクリル樹脂塩、アクリル酸とアルキルメタクリレートの共重合体又はそれらの塩を1種または2種以上を併用して使用できる。
【0020】
着色剤を紙面に定着させるためなどで各種樹脂を併用することもできる。例えば、セラック、スチレン−マレイン酸共重合体及びその塩、スチレン−アクリル酸共重合体及びその塩、α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体及びその塩、アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルキルエーテル、クマロン−インデン樹脂、ロジン系樹脂やその水素添加物、ケトン樹脂、ポリアクリル酸ポリメタクリル酸共重合物などが挙げられる。
【0021】
黴の発生を防止するために、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、安息香酸ナトリウム、モルホリン、モルホリン誘導体などの防腐防黴剤を適宜加えることもできる。
【0022】
インキのpHを調整するために、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、アミノメチルプロパンジオールなどの塩基性物質や、硫酸などの酸性物質を添加してもよい。
【0023】
ペン先の防錆のためにベンゾトリアゾール、エチレンジアミン四酢酸などを、さらに各種の香料などを必要に応じて1種又は2種以上混合して用いることもできる。
【0024】
常温固体の高級アルコール粒子の水分散体は各種の方法で作成できるが、一般的には水性媒体に溶融した高級アルコールや有機溶剤、界面活性剤を適宜撹拌しながら添加することで作成できる。撹拌はホットスターラー、プロペラ撹拌機、ホモジナイザー、ホモミキサーなどが使用できる。これらの撹拌機で作成された微粒子分散物の粒径を揃えたり、更に粒径を細かくするためにコロイドミルや高圧ホモジナイザーで再度微粒化の処理を行ったり、ろ過や遠心分離を行い粗大粒子を除いても良い。
インキに溶融した高級アルコールや有機溶剤、界面活性剤を適宜撹拌しながら添加することで高級アルコール微粒子分散体インキを直接作成することもできるが、分散体作成時は高級アルコールが溶融する温度で撹拌することが望ましいため染料成分や低揮発性の成分、アルカリ成分などへの悪影響が考えられ、一度高級アルコール粒子の水分散体を作成し、それを他のインキ成分と混合することが望ましい。
また、高温溶融した高級アルコールを溶融状態のまま少量滴下するには各種の温度調整可能な滴下用器具等が必要であるが、以下の方法を用いるとホットスターラーや加熱機能付きのプロペラ撹拌機等の簡便な器具で粒子径の細かい水分散体を作成できる。
高級アルコールとHLBが10以上の非イオン界面活性剤とグリコール系溶剤の一部もしくは全量を加熱溶融してスターラーやプロペラ撹拌機で撹拌し、そこに加温したイオン交換水と残りのグリコール系溶剤を添加する。この際特に少量ずつ滴下する必要はない。高級アルコールに溶融していたグリコール系溶剤や界面活性剤が水に溶解する際に高級アルコールが微小な液滴になり、そのまま撹拌しながら冷却することで水分散体を作成できる。また高級アルコール溶融物にごく少量(1〜5重量%)程度のイオン交換水を添加しておくと、さらに粒径の揃った水分散体が得られる。
【0025】
インキの製造方法としては従来知られている種々の方法が採用できる。例えば、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、ヘンシェルミキサー、プロペラ撹拌機、ホモジナイザー、ニーダー等の装置を使用して作ることが出来る。濾過や遠心分離を行い粗大粒子や気体を除いても良い。製造時に加熱や冷却や加圧や減圧や不活性ガス置換をしても良い。動力は電気でも加圧空気でも良い。これらはそれぞれ単独で使用しても良いし、組み合わせて使用しても良い。
【0026】
インキを収容するインキ収容体は、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、シリコン樹脂等のインキの残量を確認できる透明又は半透明な高分子化合物を使用しても良いが、不透明高分子化合物や金属を使用しても差し支えない。また、インキがインキ収容体の内壁に付着することを抑制するためなど、必要に応じてインキ収容体内面にシリコン樹脂やフッ素樹脂などを塗布して撥インキ処理をすることもできる。後端開口するインキ収容体の場合には、インキの洩れや乾燥を抑制するためにインキ後端の界面に接触させてインキ逆流防止体を配置してもよい。インキ逆流防止体としては不揮発性液体をゲル化したものの他にスポンジ状のものなど各種公知のものが使用でき、不揮発性液体をゲル化したインキ逆流防止体にプラスチック製のフロートを入れてもよい。
【0027】
ボールペンのボールを回転自在に抱持するボールホルダーの材質には金属や合成樹脂が使用できる。金属としては洋白、真鍮、ステンレス等が、また合成樹脂としてはポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ナイロン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアクリレート樹脂等が用いられる。
【0028】
ボールペンのボールは、基材としてタングステンカーバイド等からなるいわゆる超硬合金、ステンレス、セラミックス、ルビーなど、ボールホルダーより硬い材料が好適に選択され、更に酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素から選ばれる1種もしくは2種以上を少なくとも表面に有するものである。
【0029】
ボールの直径は0.1mmから2.0mm程度までがよく使用されているがこれに限定するものではない。またペン先の密閉性を高めるために、ボールホルダー内にコイルスプリング等の弾性体を配置しても良い。
【0030】
ボールやボールホルダーの表面を撥水撥油剤で被覆してもよい。撥水撥油剤としては撥水または撥油効果を持たせるものであれば何を使用してもよく、具体的にはフッ素やシリコンを含有したものが好適に使用できる。撥水撥油剤にて被覆する際、ボールをボールホルダーに抱持させたボールペンチップの状態で被覆処理してもよく、あるいはボールやボールホルダーそれぞれを被覆処理してもよい。
撥水撥油剤の一例を挙げると、フッ素を含有したものでは、フッ素含有界面活性剤、フッ素樹脂、熱可塑性フッ素樹脂、フッ素系ポリマー、フッ素オイル、フッ素含有シランカップリング剤、フッ素含有芳香族化合物、有機溶剤、乳化剤、界面活性剤等を含有してなるフッ素樹脂塗料、合成樹脂溶液にフッ素樹脂を分散させた変性フッ素樹脂塗料、フッ素を含有しためっき液などが使用できる。
【0031】
これらの、ボールやボールホルダー表面に撥水撥油剤を被覆させる方法には、浸積、プレー噴霧、めっき、超臨界二酸化炭素処理などが挙げられる。浸積の際にプロペラ攪拌やボールミル、超音波振動の付与などの機械的な力を付与してもよい。更にボールやボールホルダー表面に被覆した撥水撥油剤の固着処理として、電気炉や高周波誘導装置などを使用した焼き付け、紫外線照射などをしてもよい。
【実施例】
【0032】
高級アルコール微粒子分散物の調製
(分散体1)
脱臭セタノール70(日光ケミカルズ株式会社製、融点54℃、水酸基価220)5重量部とデカグリン1−ISV(日光ケミカルズ株式会社製、ポリグリセリン脂肪酸エステル HLB=12)1.5重量部、エチレングリコール(沸点198℃)15重量部、イオン交換水5重量部を80℃に加熱しスターラーで透明溶解後5分間撹拌し、80℃に加熱したイオン交換水73.5重量部を加え30℃になるまで撹拌する。その後高圧ホモジナイザーで20℃に冷却しながら200MPaで5パス処理し分散体1を作成した。これをイオン交換水で適宜希釈し、(株)島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置SALD−7100を用いて20℃で測定しメディアン径を平均粒子径として採用した。平均粒子径は(95nm)であった。
【0033】
(分散体2)
Performacol 350 Alcohol(日光ケミカルズ株式会社製、C20−40アルコール、融点89℃、水酸基価125)3重量部とBT−7(日光ケミカルズ株式会社製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、HLB=12)1重量部を110℃に加熱溶解する。グリセリン(沸点290℃)20重量部とイオン交換水50重量部をホモジナイザーで撹拌しながら90℃に加熱しPerformacol 350 AlcoholとBT−7の溶解物を少量ずつ滴下し6500rpmで5分間分散後、スターラーで撹拌しながら25℃のイオン交換水を26重量部添加し常温になるまで撹拌して分散体2を作成した。平均粒子径は(614nm)であった。
【0034】
(分散体3)
イオン交換水78.5重量部と1,3−ブチレングリコール(沸点207.5℃)5重量部を撹拌溶解したものを85℃に加熱しておく。ベヘニルアルコール80(日光ケミカルズ株式会社製、融点73℃、水酸基価180)5重量部とデカグリン1−ISVを1.5重量部、1,3−ブチレングリコール10重量部を85℃に加熱し、スターラーで透明溶解後5分間撹拌し、イオン交換水と1,3−ブチレングリコール混合物を加え30℃になるまで撹拌する。その後高圧ホモジナイザーで20℃に冷却しながら200MPaで7パス処理し分散体3を作成した。平均粒子径は225nmであった
【0035】
(分散体4)
分散体3のデカグリン1−ISVをアニオン界面活性剤のドデシル硫酸ナトリウムに変更した以外は分散体3と同様に分散体4を作成した。平均粒子径は192nmであった。
【0036】
(分散体5)
分散体1のエチレングリコール15重量部全量をイオン交換水に変更した以外は分散体1と同様にして、分散体5を作成した。平均粒子径は124nmであった。
【0037】
(分散体6)
分散体3のスターラー撹拌冷却後の分散体を高圧ホモジナイザー処理を行わずに分散体6とした。平均粒子径は6300nmであった。
【0038】
(分散体7)
分散体4のベヘニルアルコール全量を常温液体のコノール1098(新日本理化株式会社製、1−デカノール、融点6.9℃、水酸基価350)とした以外は分散体4と同様に分散体7を作成した。平均粒子径は282nmであった。
【0039】
(分散体8)
イオン交換水80.5重量部と1,3−ブチレングリコール5重量部、BC−40(日光ケミカルズ株式会社製、ポリオキシエチレンセチルエーテル、HLB=20)1.5重量部をスターラーで撹拌溶解し90℃になるまで撹拌加熱する。
Performacol 550 Alcohol(日光ケミカルズ株式会社製、C30−50アルコール、融点106℃、水酸基価82)を3重量部とプロピレングリコール10重量部を110℃に加熱しスターラーで撹拌溶解した後イオン交換水、1,3−ブチレングリコール、BC−40の混合液を添加し、30℃になるまで撹拌する。その後高圧ホモジナイザーで20℃に冷却しながら200MPaで5パス処理し分散体8を作成した。平均粒子径は460nmであった。
【0040】
(分散体9)
イオン交換水80重量部と1,3−ブチレングリコール5重量部、BC−40 1.5重量部をスターラーで撹拌溶解し90℃になるまで撹拌加熱する。
Performacol 550 Alcoholを3重量部とプロピレングリコール10重量部、デカグリン5−SV(日光ケミカルズ株式会社製、ポリグリセリン脂肪酸エステル、HLB=3.5)0.5重量部を110℃に加熱しスターラーで撹拌溶解した後イオン交換水、1,3−ブチレングリコール、BC−40の混合液を添加し、30℃になるまで撹拌する。その後高圧ホモジナイザーで20℃に冷却しながら200MPaで5パス処理し分散体9を作成した。平均粒子径は231nmであった。
【0041】
(分散体10)
イオン交換水42重量部と1,3−ブチレングリコール10重量部をスターラーで撹拌溶解し90℃になるまで撹拌加熱する。
ベヘニルアルコール80を5重量部、BT−7 2.0重量部、プロピレングリコール40重量部、SS−30(日光ケミカルズ株式会社製、ソルビタン脂肪酸エステル、HLB=2.1)1.0重量部を90℃に加熱しスターラーで撹拌溶解した後イオン交換水と1,3−ブチレングリコールの混合液を添加し、30℃になるまで撹拌する。その後高圧ホモジナイザーで20℃に冷却しながら200MPaで8パス処理し分散体10を作成した。平均粒子径は67nmであった。
【0042】
実施例1
フィスコブラック886(黒色染料溶液、オリエント化学工業(株)製)
50.0重量部
分散体1 20.0重量部
ジエチレングリコール 10.0重量部
2−ピロリドン 5.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
プライサーフAL(リン酸エステル系潤滑剤 第一工業製薬(株)製)
0.5重量部
1,2ベンゾイソチアゾリン(防黴剤) 0.5重量部
イオン交換水 13.0重量部
水13重量部をプロペラ攪拌機で攪拌しながら残りの材料を加え、1時間攪拌した後、1ミクロン糸巻きフィルターを通して黒色ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0043】
実施例2
赤色104号 5.0重量部
分散体2 33.3重量部
ジエチレングリコール 10.0重量部
2−ピロリドン 5.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
プライサーフAL 0.5重量部
1,2ベンゾイソチアゾリン 0.5重量部
イオン交換水 44.7重量部
水44.7重量部をプロペラ攪拌機で攪拌しながら残りの材料を加え、2時間攪拌した後、1ミクロン糸巻きフィルターを通して赤色ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0044】
実施例3
C.I.Acid Blue 9 5.0重量部
分散体3 50.0重量部
ジプロピレングリコール 7.5重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
ベンゾトリアゾール(潤滑剤) 0.5重量部
1,2ベンゾイソチアゾリン 0.5重量部
イオン交換水 35.5重量部
水44.7重量部をプロペラ攪拌機で攪拌しながら残りの材料を加え、2時間攪拌した後、1ミクロン糸巻きフィルターを通して青色ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0045】
実施例4
実施例3の分散体3の全量を分散体4に変更した以外は実施例3と同様にして青色ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0046】
実施例5
Water Black 100L(黒色染料溶液、オリエント化学工業(株)製)
40.0重量部
分散体8 51.3重量部
ケルザン(キサンタンガム、剪断減粘性付与性多糖類、三晶(株)製)
0.5重量部
エチレングリコール 5.0重量部
グリセリン 2.5重量部
ベンゾトリアゾール 0.5重量部
1,2ベンゾイソチアゾリン 0.2重量部
分散体8をプロペラ撹拌機で撹拌しながら、ケルザンを徐々に加えて1時間撹拌する。その中に残りの材料を加え、更に1時間撹拌する。更に水冷しながらホモジナイザーを用いて20分撹拌した後、1ミクロン糸巻きフィルターを通して黒色ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0047】
実施例6
実施例5の分散体8の全量を分散体9にした以外は実施例5と同様にして黒色ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0048】
実施例7
Water Black 100L(黒色染料溶液、オリエント化学工業(株)製)
40.0重量部
分散体10 50.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
ベンゾトリアゾール 0.5重量部
1,2ベンゾイソチアゾリン 0.5重量部
イオン交換水 8.0重量部
分散体10をプロペラ撹拌機で撹拌しながら残りの材料を加え、1時間撹拌する。1ミクロン糸巻きフィルターを通して黒色ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0049】
比較例1
フィスコブラック886 50.0重量部
ジョンワックス26(酸化ポリエチレンワックスエマルジョン、BASFジャパン(株)製、固形分25%、粒子径70nm) 4.0重量部
ジエチレングリコール 10.0重量部
2−ピロリドン 5.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
プライサーフAL 0.5重量部
1,2ベンゾイソチアゾリン 0.5重量部
イオン交換水 29.0重量部
水29重量部をプロペラ攪拌機で攪拌しながら残りの材料を加え、1時間攪拌した後、1ミクロン糸巻きフィルターを通して黒色ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0050】
比較例2
実施例1の分散体1の全量をイオン交換水に変更した以外は実施例1と同様にして黒色ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0051】
比較例3
フィスコブラック886 50.0重量部
分散体5 20.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
プライサーフAL 0.5重量部
1,2ベンゾイソチアゾリン 0.5重量部
イオン交換水 28.0重量部
水28重量部をプロペラ攪拌機で攪拌しながら残りの材料を加え、1時間攪拌した後、1ミクロン糸巻きフィルターを通して黒色ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0052】
比較例4
フィスコブラック886 50.0重量部
分散体5 20.0重量部
2−ピロリドン 15.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
プライサーフAL 0.5重量部
1,2ベンゾイソチアゾリン 0.5重量部
イオン交換水 13.0重量部
水13重量部をプロペラ攪拌機で攪拌しながら残りの材料を加え、1時間攪拌した後、1ミクロン糸巻きフィルターを通して黒色ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0053】
比較例5
赤色104号 5.0重量部
poligen WE3(エチレンアクリル酸コポリマーワックスエマルジョン、BASFジャパン(株)製、固形分25%、粒子径100nm以下)
4.0重量部
ジエチレングリコール 10.0重量部
2−ピロリドン 5.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
プライサーフAL 0.5重量部
1,2ベンゾイソチアゾリン 0.5重量部
イオン交換水 74.0重量部
水74重量部をプロペラ攪拌機で攪拌しながら残りの材料を加え、2時間攪拌した後、1ミクロン糸巻きフィルターを通して赤色ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0054】
比較例6
実施例3の分散体3の全量を分散体6に変更した以外は実施例3と同様にして青色ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0055】
比較例7
実施例3の分散体3の全量を分散体7に変更した以外は実施例3と同様にして青色ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0056】
比較例8
Water Black 100L 40.0重量部
ジョンクリル61J(溶解性樹脂、アクリル酸共重合体塩、固形分30.5%、BASFジャパン(株)製) 12.0重量部
ケルザン 0.5重量部
エチレングリコール 10.0重量部
グリセリン 5.0重量部
ベンゾトリアゾール 0.5重量部
1,2ベンゾイソチアゾリン 0.2重量部
イオン交換水 31.8重量部
イオン交換水20部をプロペラ撹拌機で撹拌しながら、ケルザンを徐々に加えて1時間撹拌する。その中に残りの材料を加え、更に1時間撹拌する。更に水冷しながらホモジナイザーを用いて20分撹拌した後、1ミクロン糸巻きフィルターを通して黒色ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0057】
試験用ボールペンの作成
上記実施例1〜7、比較例1〜8で得たインキをステンレス製のボールホルダーにタングステンカーバイト製の直径0.5mmのボールを抱持したボールペンチップを備えるボールペン(ぺんてる(株)製ノック式エナージェル(製品符号BLN75))のリフィルに約0.7g充填した。リフィル後端にインキ逆流防止体を約0.1g充填した後、ボールペンチップを外向きにして遠心機にて300gの遠心力を10分間加えてインキを脱気して、試験用ボールペンを作成した。夫々のボールペンサンプルを上質紙(JIS P3201 筆記用紙)に筆記速度7cm/秒、筆記角度70゜、筆記荷重100gの条件で、200mmの直線筆記を行い、初期筆記線とした。また各サンプルの重量を測定し、初期重量W1とした。
【0058】
にじみ性評価
上記初期筆記線のにじみを目視で確認した。
○:にじみがなく鮮明な筆跡
△:一部にヒゲ状のにじみが発生する。
×:全体に筆記線が著しくにじんでいる。
【0059】
インキ安定性試験
実施例1〜7と比較例1〜8のインキ10gを、フタ付きねじ口ガラス瓶(19×70mm、日電理化硝子(株)製)に入れ、5℃に24時間放置後50℃で24時間放置する冷熱サイクルを5回繰り返した後、20℃で24時間放置し外観の観察を行った。
×上部白濁:ワックスや高級アルコールが凝集・分離して白濁している
○外観正常
【0060】
インキ漏れ出し評価
ペン先を下向きにして、40℃湿度80%の環境に24時間靜置した後、室温に戻し、濾紙でペン先に付着したインキを拭き取って、重量W2を測定した。
W1−W2をインキ漏れ出し量として評価した。少ない方が良く、0.2mg以下なら実用上問題がない。
【0061】
横向き筆記カスレ
ペン先を突出状態で横向きにして、25℃湿度40%の環境に24時間、及び30日間靜置した後、上質紙(JIS P3201 筆記用紙)に筆記速度7cm/秒、筆記角度70゜、筆記荷重100gの条件で、200mmの直線筆記を繰り返した。初期筆記線と同じ濃度になるまで要した筆記距離をカスレ長さとして測定した。筆跡の濃度比較は目視でおこなった。カスレ長さが短い方ほど良いと判断するが、カスレが1mmを越えると筆記不良と感じる。横向き放置はチップ小口の被膜が適度な柔軟性を保たないとカスレとなる。
【0062】
上向き筆記カスレ
ペン先を突出状態で上向きにして、25℃湿度40%の環境に24時間、及び30日間靜置した後、上質紙(JIS P3201 筆記用紙)に筆記速度7cm/秒、筆記角度70゜、筆記荷重100gの条件で、200mmの直線筆記を繰り返した。初期筆記線と同じ濃度になるまで要した筆記距離をカスレ長さとして測定した。筆跡の濃度比較は目視でおこなった。カスレ長さが短い方ほど良いと判断するが、カスレが1mmを越えると筆記不良と感じる。上向放置はワックスや高級アルコール微粒子の凝集・分離が発生するとカスレとなる。
各試験の結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
比較例1は酸化ワックスエマルジョン添加インキであり、極性が足りないためワックスが分離・凝集しまた分散用活性剤の影響で筆跡にじみも大きい。比較例2は高級アルコール分散体を添加していないインキでありインキ漏れ出しが大きい。比較例3は高級アルコール分散体をグリコール系溶剤なしで作成し、インキに添加したもので長期間の放置後に被膜が固くなりすぎ筆記カスレが発生する。比較例4はグリコール系水溶性有機溶剤の代わりにOH基を持たない高沸点水溶性有機溶剤を添加したものであるが、この溶剤は皮膜内に取り込まれないため比較例3同様長期間の放置後に被膜が固くなりすぎ筆記カスレが発生する。比較例5はエチレンアクリル酸コポリマーエマルジョンを添加したもので分散安定性は良好であるもののコポリマーのアニオン性基の影響で筆跡のにじみが発生する。比較例6は平均粒子径が2000nm以上の高級アルコール微粒子を添加したもので初期は筆記できるものの、高級アルコール微粒子の分離・凝集により上向放置では筆記不能になってしまうものである。比較例7は常温液体の高級アルコール微粒子分散体を添加したもので、被膜を形成することができないのでインキ漏れ出しが大きい。比較例8は溶解型のアクリル酸系共重合体塩を添加したもので比較例5同様アニオン性基を持つため筆跡のにじみが大きく、また高湿度放置では被膜が吸湿しインキ漏れ出しも大きい。上記比較例と比べて実施例1〜6はにじみのない鮮明な筆跡を持ちながらインキ漏れ出しがなく、かつ微粒子の分散安定性も良好である。
【0065】
以上のように、本発明のボールペン用水性インキ組成物は、高湿度環境下でペン先を下向きに放置しても、インキが漏れず、書き出し時のかすれがない優れたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水と、着色剤と、沸点が水より高いグリコールまたはグリコールエーテルから選ばれる水溶性有機溶剤と、平均粒子径10〜2000nmである常温固体の高級アルコール粒子とを含有するボールペン用水性インキ組成物。
【請求項2】
前記常温固体の高級アルコールの水酸基価が、100〜250mgKOH/gである請求項1記載のボールペン用水性インキ組成物。
【請求項3】
更にHLBが10以上の非イオン界面活性剤を含有する請求項1又は請求項2に記載のボールペン用水性インキ組成物。
【請求項4】
更に水に不溶なHLBが8以下の非イオン界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の水性ボールペン用インキ組成物。

【公開番号】特開2012−251029(P2012−251029A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122944(P2011−122944)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】