説明

ボールペン用蛍光水性インキ

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ボ−ルペン用蛍光水性インキに関する。更に詳細には、放置状態で経時的にインキがペン先よりにじみ出すことの無いボ−ルペン用蛍光水性インキに関する。
【0002】
【従来の技術】出願人は、粘度が50〜2000センチポイズ(以下、cpsと略記する)であるボ−ルペン用インキを多数提案している。例えば、特開昭62−127373号、特開昭62−127372号、特開昭62−27479号など。このインキは、従来の油性ボ−ルペンインキと水性ボ−ルペンインキの優れた点を兼ね備えたインキである。即ち、このボ−ルペン用インキは、インキ残量の確認が容易であり、にじみがなくなめらかに筆記でき、且つ、その筆跡は、線割れやボテがなく彩度が高いという、非常に優れた筆記機能及び筆跡性能を具現するものである。
【0003】ところで、近年は、消費者の要望が非常に多様化してきており、ボ−ルペンのような主として文字を筆記する筆記具に対しても黒色、赤色や青色といった従来一般的に用いられていた色だけでなく、黄色、ピンク色などの鮮やかな色や、蛍光色に関する要求が高まっている。
【0004】蛍光色の筆跡を得られる筆記具としては、蛍光染料や蛍光顔料を用いた水性インキを、繊維吸収体をペン先として用いた筆記具に充填し、塗布しても筆跡の下の文字を隠蔽しない型のものが知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】インキのペン先からのにじみ出である。着色材として蛍光顔料を用いて粘度を50〜2000cpsのインキを調整しようとすると、増粘剤の影響で蛍光顔料は分散不良になり易く、実用に供せるインキを得ることははなはだ困難である。そこで蛍光染料を用いることになる。しかしながら、蛍光染料を用いた場合、インキの粘度を50〜2000cpsに調整しても、ペン先を非接触の状態で下向きに放置しておくとインキがペン先からにじみ出し、著しくは、ペン先からインキ滴が落下してしまうという問題が生じてしまう。
【0006】この問題を解決するためには、ボ−ルペンペン先のボ−ルとチップのクリアランスを狭くしインキのにじみ出しを抑える方法が考えられる。ところがこの方法では、筆記角度を小さくするとかすれやすくなる等筆記機能が低下したり、インキの吐出量が低下して筆跡の性能が低下したりする等の問題が発生し、構造面での対策は難しかった。
【0007】本発明の目的は、インキ残量の確認が容易であり、にじみがなくなめらかに筆記でき、且つ、その筆跡は、線割れやボテがなく彩度が高いという、非常に優れた筆記機能及び筆跡性能を維持したまま、ペン先よりのインキのにじみ出しの無いボ−ルペン用蛍光水性インキを提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、蛍光染料と、トリエタノ−ルアミンと、粘度調節剤と、水とを少なくとも含み、乾燥時の固形分が15〜60重量%で、粘度が50〜2000cpsであることを特徴とするボールペン用蛍光水性インキを要旨とする。
【0009】以下、詳細に説明する。蛍光染料は着色材として使用する。カラ−インデックス(以下、省略する)アシッドイエロ−3、同7、アシッドレッド51、同52、同92、同94や、ベ−シックオレンジ14、同15、ジスパ−ズイエロ−6、ダイレクトイエロー59(プリムリン)、ベーシックイエロー1(チオフラビン)及びチアゾ−ルイエロ−Gといったもののスルホン化物、更には、ソルベントグリーン7(ヒドロキシピレントリスルホン酸)などが挙げられる。これらは単独、あるいは複数混合して使用することができる。その使用量はボ−ルペン用蛍光水性インキ全量に対して0.01〜30重量%が好ましい。
【0010】トリエタノ−ルアミンは、上記蛍光染料の発色剤として用いる。これは単独、あるいは複数混合して使用することができる。これらの使用量はボ−ルペン用蛍光水性インキ全量に対して5〜50重量%使用することが好ましい。
【0011】粘度調節剤は、インキの粘度を50〜2000cpsに調節するために使用する。スチレン−アクリル酸共重合体のアルカリ金属、アンモニウムまたはアミン塩、スチレン−マレイン酸共重合体のアルカリ金属、アンモニウムまたはアミン塩などのアルカリ水溶液に可溶な樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、メチルビニルエーテル無水マレイン酸コポリマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、水添ヒマシ油、ポリカルボン酸アミド、ガーガム、アラビアガム、ゼラチン、セラックなどの高分子物質が挙げられる。これらは単独、あるいは複数混合して使用することができる。これらの使用量は使用する物質の種類によっても大きく異なるが、インキの粘度が50〜2000cpsになるように使用する。
【0012】水は主溶剤として使用する。
【0013】本ボ−ルペン用蛍光水性インキに於いて、乾燥時の固形分とは、本ボールペン用蛍光水性インキを直径10cmのシャーレに約10g取り、温度80℃、30%の乾燥器中にふたをせずに24時間放置し、デシケ−タ中に室温で40分間放置冷却した後に2分以内に重量を測定し、この重量を最初のインキ重量で割ったものである。インキのペン先からにじみ出しを防止するためにはインキの乾燥時の固形分が15〜60重量%であることが必要である。乾燥時の固型分が15重量%未満のインキの場合、ペン先からのインキのにじみ出しは解消されない。また、乾燥時の固型分が60重量%を越えた場合、筆跡にかすれが発生しやすくなり、著しい場合、筆記が不能となる。
【0014】本ボ−ルペン用蛍光水性インキに於いて、粘度は、E型回転粘度計(TOKIMEC(株)製)を使用し、測定ロ−タ−は対象インキの粘度に応じて適宣選択し、25℃にて、回転数50rpm,回転を開始してから5分後に測定した値である。インキ残量の確認が容易であり、にじみがなくなめらかに筆記でき、且つ、その筆跡は線割れやボテがなく彩度が高いボ−ルペン用蛍光水性インキであるために、インキの粘度は50〜2000cpsであることが必要である。粘度が50cpsより低いとインキのペン先からのにじみ出しが発生し、2000cpsより高いと、筆跡かすれやボテが発生し易くなり、また、筆跡の彩度が低下するといった問題が発生する。
【0015】上記必須成分以外必要に応じて、安息香酸ナトリウム、デハイドロ酢酸ナトリウム、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等の防黴剤、ベンゾトリアゾール、エチレンジアミン四酢酸等の防錆剤、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の各種界面活性剤、シリコ−ン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤やその他補色剤として水溶性染料などの添加剤を使用することができる。
【0016】本ボールペン用水性インキの製造方法は、上記各成分を、公知の撹拌器を用いて、必要に応じて加熱溶解、混合撹拌するなどの従来公知の方法によって容易に得られる。
【0017】
【作用】ボ−ルペンを放置した場合、ボ−ルペンペン先よりインキの溶剤分が蒸発する。その結果、インキ中の固形分がボ−ルとチップとの隙間に析出して固形層を形成する。この固形層がペン先よりのにじみ出しを防止する。本ボ−ルペン用蛍光水性インキは着色材として蛍光染料を用いているが、乾燥時の固形分を15〜60重量%となしたのでインキがペン先からにじみ出すといった現象を防止できるものと推察される。
【0018】
【実施例】
実施例1(黄色インキ)
ソルベントグリーン7 3.0重量部 トリエタノ−ルアミン 6.0重量部 スチレン−アクリル酸共重合体のアンモニウム塩 25.0重量部 ガーガム(ジャガーHP60、三晶(株)製) 0.4重量部 水 65.0重量部 ベンゾトリアゾ−ル 0.1重量部 プロクセルGXL(防黴剤、ICIジャパン(株)製)0.5重量部
【0019】
実施例2(黄緑色インキ)
ソルベントグリーン7 2.0重量部 トリエタノ−ルアミン 12.0重量部 スチレン−アクリル酸共重合体のナトリウム塩 14.0重量部 ガーガム(前述) 0.3重量部 水 70.8重量部 アシッドブル−90(青色染料) 0.3重量部 ベンゾトリアゾ−ル 0.1重量部 プロクセルGXL(前述) 0.5重量部
【0020】
実施例3(オレンジ色インキ)
ソルベントクリーン7 1.5重量部 アシッドレッド51 0.2重量部 トリエタノ−ルアミン 31.0重量部 スチレン−マレイン酸共重合体のナトリウム塩 30.0重量部 ガーガム(前述) 0.4重量部 水 36.3重量部 ベンゾトリアゾ−ル 0.1重量部 プロクセルGXL(前述) 0.5重量部
【0021】
実施例4(黄色インキ)
ソルベントグリーン7 2.2重量部 トリエタノ−ルアミン 20.0重量部 スチレン−マレイン酸共重合体のアンモニウム塩 22.0重量部 セロゲン3H(カルボキシメチルセルロ―スナトリウム、第一工業製薬(株)
製) 0.1重量部 水 55.1重量部 ベンゾトリアゾ−ル 0.1重量部 プロクセルGXL(前述) 0.5重量部
【0022】
実施例5(赤色インキ)
アシッドレッド92 1.8重量部 トリエタノ−ルアミン 43.0重量部 スチレン−アクリル酸共重合体のアンモニウム塩 35.0重量部 セロゲン3H(前述) 0.5重量部 水 19.1重量部 ベンゾトリアゾ−ル 0.1重量部 プロクセルGXL(前述) 0.5重量部
【0023】
実施例6(黄色インキ)
ソルベントグリーン7 1.8重量部 トリエタノ−ルアミン 35.0重量部 セロゲン5A(カルボキシメチルセルロ―スナトリウム、第一工業製薬(株)
製) 28.0重量部 水 34.6重量部 ベンゾトリアゾ−ル 0.1重量部 プロクセルGXL(前述) 0.5重量部
【0024】
比較例1(黄色インキ)
ソルベントグリーン7 3.0重量部 トリエタノ−ルアミン 10.0重量部 スチレン−アクリル酸共重合体のアンモニウム塩 5.0重量部 ガーガム(前述) 0.3重量部 水 81.1重量部 ベンゾトリアゾ−ル 0.1重量部 プロクセルGXL(前述) 0.5重量部
【0025】
比較例2(黄緑色インキ)
ソルベントグリーン7 2.0重量部 トリエタノ−ルアミン 18.0重量部 スチレン−マレイン酸共重合体のナトリウム塩 8.0重量部 ガーガム(前述) 0.3重量部 水 70.8重量部 アシッドブル−90(前述) 0.3重量部 ベンゾトリアゾ−ル 0.1重量部 プロクセルGXL(前述) 0.5重量部
【0026】
比較例3(オレンジ色インキ)
ソルベントグリーン7 1.5重量部 アシッドレッド51 0.2重量部 トリエタノ−ルアミン 25.0重量部 スチレン−アクリル酸共重合体のナトリウム塩 44.0重量部 セロゲン5A(前述) 17.0重量部 水 11.7重量部 ベンゾトリアゾ−ル 0.1重量部 プロクセルGXL(前述) 0.5重量部
【0027】以上、実施例1〜6及び比較例1〜3について、各成分を撹拌混合してボ−ルペン用蛍光水性インキを得た。
【0028】実施例1〜6及び比較例1〜3で得たボ−ルペン用蛍光水性インキ粘度及び乾燥時の固形分を測定した。更にこれらのインキをボ−ルペン(ハイブリッドK105、ぺんてる(株)製)に0.8g充填して試験試料とし、インキボタ落ち試験及び筆記試験を行った。結果を表1に示す。
【0029】インキぼた落ち試験:上記試験試料を、キャップ無し、ペン先下向き(非接触)、温度25℃、湿度65%で1時間放置し、状態を観察した。
評価;◎:ペン先にインキがほとんどにじみ出してこない○:ペン先にインキが若干にじみ出してくる△:ペン先ににじみ出したインキがかなり溜る×:ペン先よりインキ滴が落下する
【0030】筆記試験:上記インキぼた落ち試験後、上記各試料を用いて上質紙に螺旋状に筆記し、その筆跡を観察した。なお、ペン先ににじみ出たインキは、拭い取ってから筆記を行った。
評価;○:筆跡かすれが1丸未満×:筆跡かすれが1丸以上
【0031】
【表1】


【0032】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように、本発明のボールペン用蛍光水性インキは、インキ残量の確認が容易であり、にじみがなくなめらかに筆記でき、且つ、その筆跡は、線割れやボテがなく彩度が高いという、非常に優れた筆記機能及び筆跡性能を示すものであると共に、ボールペンに用いた場合ペン先よりのインキのにじみ出しの無い優れたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 蛍光染料と、トリエタノ−ルアミンと、粘度調節剤と、水とを少なくとも含み、乾燥時の固形分が15〜60重量%で粘度が50〜2000センチポイズであることを特徴とするボールペン用蛍光水性インキ。

【特許番号】第2985528号
【登録日】平成11年(1999)10月1日
【発行日】平成11年(1999)12月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−252281
【出願日】平成4年(1992)8月27日
【公開番号】特開平6−73324
【公開日】平成6年(1994)3月15日
【審査請求日】平成10年(1998)5月29日
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)