説明

ボールボンディング用ワイヤ

【課題】高温信頼性の高いNi/Pd/Au被覆電極aへの接合性が高く、かつ脆弱なチップに対するダメージも少なく安価なボンディングワイヤWとする。
【解決手段】半導体素子のNi/Pd/Au被覆電極aと回路配線基板の導体配線cをボールボンディング法によって接続するための線径10〜50μmのボンディング用ワイヤであって、Ca、Cu、Gd、Smから選ばれる2種以上の元素を10〜300重量ppm含み、Pd、Auから選ばれる1種以上の元素を0.7〜3.0重量%含んで、それ以外がAg及び不可避不純物からなる。Agを主体としたので、金ボンディングワイヤに比べれば、安価なものとし得て、かつ、適度な強度のワイヤとなって良好なFAB及びNi/Pd/Au被覆電極aとの良好な接合性を得る。Caを含み、GdとSmの少なくとも一方を含んでその合計が10重量ppm以上とすると、ワイヤ強度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パワーIC、LSI、トランジスタ、BGA(Ball Grid Array package)、QFN(Quad Flat Non lead package)等の半導体パッケージにおける半導体素子上のニッケル・パラジウム・金(Ni/Pd/Au)被覆電極と、リードフレーム、セラミック基板、プリント基板等の回路配線基板の導体配線とをボールボンディング法によって接続するためのボールボンディング用ワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記BGA等の半導体パッケージは、例えば、図1に示すように、配線板1上にはんだボール2を介してパッケージ基板3を設け、さらに、そのパッケージ基板3にダイボンディング材4を介して半導体チップ(素子)5を設けて、その半導体チップ5を封止材6によって封止した構造である。この半導体パッケージにおける半導体チップ5の電極aとパッケージ基板3の導体配線(端子)cとの電気接続は、上記ボールボンディング法によって行われる。
【0003】
そのボールボンディング法による接続方法は、図2(a)〜(h)に示す態様が一般的であり、同図(a)に示す、ワイヤWがキャピラリー10aに挿通されてその先端にボール(FAB:Free Air Ball)bが形成された状態から、クランプ10bが開いて、キャピラリー10aが集積回路素子上の電極aに向かって降下する。このとき、ボール(FAB)bはキャピラリー10a内に捕捉される。
【0004】
ターゲットである電極aに溶融ボールbが接触すると(キャピラリー10aが電極aに至ると)キャピラリー10aが溶融ボールbをグリップし、溶融ボールbに熱・荷重・超音波を与え、それによって溶融ボールbが圧着されて(圧着ボールb’となって)電極aと固相接合され、1stボンドが形成されて電極aと接着する(1st接合、図2(b))。
1stボンドが形成されれば、キャピラリー10aは、一定高さまで上昇した後(同図(c))、導体配線cの真上まで移動する(同図(d)〜(e))。このとき、安定したループを形成するため、キャピラリー10aに特殊な動きをさせてワイヤWに「くせ」を付ける動作をする場合がある(同図(d)の鎖線から実線参照)。
【0005】
導体配線cの真上に至ったキャピラリー10aは、導体配線cに向かって降下し、ワイヤWを導体配線(2ndターゲット)cに押付ける(同図(e)〜(f))。これと同時に、その押付け部位に熱・荷重・超音波を与え、それによってワイヤWを変形させ、ワイヤWを導体配線c上に接合させるためのステッチボンドと、次のステップでテイルを確保するテイルボンドを形成する(2nd接合、図2(f))。
【0006】
その両ボンドを形成した後、キャピラリー10aはワイヤWを残したまま上昇し、キャピラリー10aの先端に一定の長さのテイルを確保した後、クランプ10bを閉じて(ワイヤWをつかんで)、テイルボンドの部分からワイヤWを引きちぎる(図2(g))。
【0007】
キャピラリー10aは、所要の高さまで上昇すると停止し、そのキャピラリー10aの先端に確保されたワイヤWの先端部分に、放電棒gでもって高電圧を掛けて放電し(スパークし)、その熱でワイヤWを溶かし、この溶けたワイヤ素材は表面張力によって球状に近い溶融ボールbになって固まる(図2(h))。
【0008】
以上の作用で一サイクルが終了し、以後、同様な作用によって、電極aと導体配線cのボールボンディング法による接続がなされる。
【0009】
このボールボンディング法に使用されるボンディング線(ワイヤ)Wの材質としては、4N〜2Nの金が使用されている。このように金が多用されるのは金ボールbの形状が真円球状となるとともに、形成される金ボールbの硬さが適切であって、接合時の荷重、超音波によってチップ5を損傷することがなく、確実な接合ができ、その信頼性が高いからである。
一方、金ボンディングワイヤWは高価であることから、安価な銅ボンディングワイヤへの置き換えもなされている。さらに、その銅ボンディングワイヤ表面にパラジウム(Pd)等を被覆してボンディング性を高めたものが開発され、一部では使用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−199528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
金ボンディングワイヤは高価である。その代替材である銅ボンディングワイヤは安価ではあるが、金ボンディングワイヤに比べてFABが硬く、電極aのチップが脆弱であるとチップダメージ発生の恐れが高くなる。また、金ボンディングワイヤに比べて2nd接合性が悪く、連続ボンディング性に問題がある。
表面被覆銅ボンディングワイヤは、銅ボンディングワイヤに比べて2nd接合性がよく、連続ボンディング性がよいが、FABが銅ボンディングワイヤよりもさらに硬くなるため、チップダメージ発生の問題がある。
【0012】
また、従来、電極aにはAl合金(Al−Si−Cu等)パッドが用いられていたが、高温信頼性、例えば150℃以上における信頼性が求められる車載などの用途ではNi/Pd/Au(ニッケル/パラジウム/金)被覆した電極aが検討されている。さらに脆弱なチップ5に対するダメージ低減の必要もある。
このNi/Pd/Au被覆電極aに対し、上記表面被覆銅ボンディングワイヤは接合し難いという問題があり、銅ボンディングワイヤは、脆弱なチップ5に対してダメージを与えないような条件でボンディングしようとすると、十分な接合ができないという問題がある。
因みに、金ボンディングワイヤとNi/Pd/Au被覆電極aの接合であれば、高温信頼性は得られるが、材料費が高価になるという問題がある。
【0013】
この発明は、以上の実情の下、Ni/Pd/Au被覆電極aとの接合性がよく、かつ金ボンディングワイヤより安価なボンディング用ワイヤとすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を達成するため、この発明は、半導体素子のNi/Pd/Au被覆電極と回路配線基板の導体配線をボールボンディング法によって接続するためのボンディング用ワイヤにおいて、Ca、Cu、Gd、Smから選ばれる2種以上の元素を合計で5〜500重量ppm含み、Pd、Auから選ばれる1種以上の元素を合計で0.5〜5.0重量%含んで、それ以外がAg及び不可避不純物からなる構成としたものである。
【0015】
Agを主体とするボンディングワイヤは、Ni/Pd/Au被覆電極に対し、銅ボンディングワイヤや表面被覆銅ボンディングワイヤに比べて接合性がよく、一方、Auを主体とする金ボンディングワイヤに比べれば、安価なものとし得る。被覆電極は、メッキ法、蒸着法等の周知の手段で形成し得るが、メッキ法が一般的である。
因みに、AgとNi/Pd/Au被覆電極との接合個所の耐食性は良いが、AlとAgとの接合個所は腐食し易い。
【0016】
Ca、Cu、Gd、Smの合計重量が5ppm未満であると、ワイヤ強度が低くなり、ボンディング後の樹脂モールドの際にワイヤフローが発生する。より好ましくは、10重量ppm以上であれば、より高いワイヤ強度が得られる。一方、500重量ppmを超えると、FABの形状が不安定になり、良好な球状のFABが得られなくなる。また、より好ましくは300重量ppm以下であって、良好なFABを安定して得ることができる。なお、Caに加え、GdとSmから選ばれた1種以上の元素を合計にして10重量ppm以上添加すると、そのメカニズムは不明であるが、より高いワイヤ強度が得られる。
【0017】
Pd、Auの合計が0.5重量%未満であると、接合部の信頼性が低くなる。より好ましくは0.7重量%以上であれば、特に湿潤環境下での信頼性が確保できる。また、5.0重量%を超えた量を添加すると、ワイヤの電気抵抗が上がるため、ボンディングワイヤとして必要な電気特性が得られない。また、これらの添加元素はいずれも高価なため、より好ましい範囲を3.0重量%以下とする。
また、図2(h)に示すように、FABを作製する時にワイヤ先端部と放電棒gとの間で放電させてワイヤ先端を溶融させる際、Agに比べて高融点なAu、PdがFAB表面に集積するため、FAB(ボールb)表面がAuもしくはPdの高濃度層になり、同図(b)の、次に続く1st接合時に電極aとの接合界面の高信頼性化に寄与する。このとき、このFAB表面への集積はAu、Pdの融点が関わり、Pdの融点(1555℃)はAuの融点(1064℃)に比べて高く、Pdのほうがより高濃度化するから、接合部の信頼性をより向上させるためにはAuよりもPdのほうが好ましい。
【0018】
このワイヤWの線径はボンディングワイヤと使用し得れば任意であるが、例えば、10〜50.8μmとする。50.8μm以下とすると溶融ボールbをより小さくでき、10μm未満であると、ボンディング前にオペレータがワイヤWをキャピラリー10aに通すのが困難になり、作業性が悪くなるうえに、空気圧によりワイヤに十分な張力をかけることができなくなり、ループ制御が困難になる恐れがある。
【発明の効果】
【0019】
この発明は、以上のようにAgを主体としたので、金ボンディングワイヤに比べれば、安価なものとし得て、かつ、適度な強度のワイヤとなって良好なFAB及びNi/Pd/Au被覆電極との接合性が良いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】半導体パッケージの概略図
【図2】ボールボンディング接続法の説明図であり、(a)〜(h)はその途中図
【発明を実施するための形態】
【0021】
純度が99.99質量%以上(4N)の高純度Agを用いて、表1に示す化学成分の銀合金を鋳造し、8mmφのワイヤロッドを作製した。そのワイヤロッドを伸線加工し最終線径を30μmの銀合金線とし、窒素雰囲気中400〜600℃で連続焼鈍して伸び2〜4%、所定の引張強度になるように調質した。化学成分の定量はICP−OES(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)により行った。そのボンディング用ワイヤWとして、実施例1〜21、比較例1〜5を得た。
【0022】
【表1】

【0023】
この各実施例及び各比較例に対し、下記の試験を行った。
『評価項目』
得られた各ボンディング用ワイヤWについて、自動ワイヤボンダで、図2に示すボール/ウェッジ接合を行った。すなわち、放電棒gによるアーク放電によりワイヤW先端にFAB(ボールb)を作製し、それをチップ5上のNi/Pd/Auメッキ電極aに接合し、ワイヤ他端をリード端子cに接合した。なお、FAB作製時にはワイヤW先端部にNガスを流しながらアーク放電を行った。リード端子cにはAgメッキ42%Ni−Fe合金を使用した。
そのボンディングにおける、FABの安定性、ワイヤフロー、HTST、HAST、1st接合部のチップ損傷、電気抵抗、及び総合評価を表2に示す。それらの評価方法等は以下の通りである。
【0024】
『評価方法』
「FAB形状の安定性の評価」
ワイヤ径に対するFAB(ボールb)径の比率が小さくなると、安定性の確保が難しいことから、FAB径/ワイヤ径の比率が1.9〜2.1の時の真球性を評価した。接合前のボールbを30本観察して、形状が真球状であるかを判定した。すべて真球状になり、ワイヤWの中心位置とFABの中心位置がずれる芯ずれが1本以下であればA、異形状のFAB発生が2本以下で芯ずれが1本を越え5本以下であればB、異形状のFAB発生が3本以上もしくは芯ずれが6本以上であれば使用できないと判断して評価をDとした。
【0025】
「樹脂封止時のワイヤフローの評価」
ワイヤW長5mmのボンディング試料をエポキシ樹脂で封止した後で、X線非破壊観察装置にて最大ワイヤフロー量を測定した。測定は20本行い、その平均値をワイヤ長5mmで除した割合をワイヤフロー率とした。このワイヤフロー率が3%未満ならA、3%以上5%未満ではB、5%以上7%未満ではC、7%以上では実用上の問題があると考えて評価Dとした。
【0026】
「HTST(High Temperature Storage Test)による信頼性評価」
ボンディング試料を200℃の試験槽中に1000時間装入し、1000時間経過後のシェア強度H(1000)を初期のシェア強度H(Initial)で除した割合R(R=H(1000)/H(Initial)×100)を用いて評価した。Rが80%以上ならA、70%以上80%未満でB、60%以上70%未満ではC、60%未満では実用上問題があると考えてDとした。
【0027】
「HAST(Highly Accelerated temperature & humidity Stress Test)による信頼性評価」
ボンディング試料を130℃/85%RH(Relative Humidity)の試験槽中に1000時間装入し、1000時間経過後のシェア強度H(1000)を初期のシェア強度H(Initial)で除した割合R(R=H(1000)/H(Initial)×100)を用いて評価した。Rが80%以上ならA、60%以上80%未満ではB、60%未満ではDとした。
【0028】
「ボンディング後、1stボール接合部直下のチップ損傷の評価」
ボール接合部および電極膜を王水で溶解し、チップ5のクラックを光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。100個の接合部を観察して5μm未満の微小なピットが1個もしくはまったく見られない場合はA、5μm以上のクラックが2個以上認められた場合をDとした。
【0029】
「電気抵抗」
4端子法を用いて室温での電気抵抗を測定した。固有抵抗が3.0×10−8Ω・m未満であれば十分な導電性を有すると考えられるのでA、固有抵抗が3.0×10−8Ω・m以上4.0×10−8Ω・m未満であればB、固有抵抗が4.0×10−8Ω・m以上であればDとした。
【0030】
「総合評価」
すべてAのものをA、AとBが混在しているものをB、A、B、Cが混在しているものをC、ひとつでもDがあるものをDとした。
【0031】
【表2】

【0032】
この表1、2において、Ca、Cu、Gd、Smから選ばれる2種以上の元素の合計重量が5重量ppm未満であると、比較例1から、ワイヤフロー評価において「D」、500重量ppmを超えると、同比較例3、5から、FABの安定性評価において「D」となって、共に、総合評価で「D」となっている。これらの元素を1種しか含有しない場合は、比較例2から、ワイヤフロー評価において「D」となって総合評価で「D」となっている。
また、Pd、Auから選ばれる1種以上の元素の合計重量が0.5重量%未満であると、比較例4から、HTST、HAST評価において「D」、5.0重量%を超えると、比較例5から、FABの安定性、チップ損傷、電気抵抗の評価において「D」となって総合評価で「D」となっている。
【0033】
これに対し、各実施例1〜21は、いずれも、Ca、Cu、Gd、Smから選ばれる2種以上の元素を合計5〜500重量ppm含み、Pd、Auから選ばれる1種以上の元素を0.5〜5.0重量%含んでいることから、総合評価において、「C」以上を得て、実用上問題ない評価を得ている。
その各実施例において、Ca、Cu、Gd、Smから選ばれる2種以上の元素の内、Caを含み、かつGdとSmの少なくとも一方を含んで(表1中、Ca+(Gd+Sm))その合計が10重量ppm以上であって、Pdを含むと、実施例1〜4から、総合評価において、「A」以上を得ている。
【0034】
また、Ca、Cu、Gd、Smから選ばれる2種以上の元素の合計が10重量ppm以上であれば、実施例5〜17から、Pdの含有に関係なく、総合評価において、「B」以上を得ている。
その総合評価Bを得た実施例において、Caを含み、かつGdとSmの少なくとも一方を含んでそのCa+(Gd+Sm)の合計が10重量ppm以上であると、実施例5、10、11において、ワイヤフローが「A」となっていることから、高いワイヤ強度を得られることが理解できる。
【0035】
さらに、Ca、Cu、Gd、Smから選ばれる2種以上の元素を10〜300重量ppm含み、Pd、Auから選ばれる1種以上の元素を0.7〜3.0重量%含んでいると、実施例1〜8、12、17から、良好なFABを安定して得られることが理解することができる。
【0036】
なお、このボンディングワイヤWにおいても、この発明の作用効果を得ることができる限りにおいて、上記特許文献1のように、Au、Pt、Pd、Ni等からなる、例えば厚み:0.02〜0.09μmの被覆層を形成したものとし得る。Au、Pdを被覆する場合、上記0.5〜5.0重量%のPd、Auの添加をしないようにすることもできる。
【符号の説明】
【0037】
P ボンディング用ワイヤ
a 集積回路素子の電極
b 溶融ボール
b’ 圧着ボール
c 回路配線基板の導体配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子のNi/Pd/Au被覆された電極(a)と回路配線基板の導体配線(c)をボールボンディング法によって接続するためのボンディング用ワイヤ(W)であって、
Ca、Cu、Gd、Smから選ばれる2種以上の元素を合計で5〜500重量ppm含み、Pd、Auから選ばれる1種以上の元素を合計で0.5〜5.0重量%含んで、それ以外がAg及び不可避不純物からなることを特徴とするボールボンディング用ワイヤ。
【請求項2】
上記Ca、Cu、Gd、Smから選ばれる2種以上の元素を合計で10〜300重量ppm含み、Pd、Auから選ばれる1種以上の元素を合計で0.7〜3.0重量%含んでいることを特徴とする請求項1記載のボールボンディング用ワイヤ。
【請求項3】
上記Ca、Cu、Gd、Smから選ばれる2種以上の元素の内、Caを含み、かつGdとSmの少なくとも一方を含んで、その合計が10重量ppm以上であること特徴とする請求項1又は2に記載のボールボンディング用ワイヤ。
【請求項4】
Pd、Auから選ばれる1種以上の元素は、Pdを必ず含有することを特徴とする請求項3に記載のボールボンディング用ワイヤ。

【図1】
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【図2】
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