説明

ボール用表皮材

【課題】手の汗の状態に関わらず良好なグリップ感を有しながら、重量やハンドリング性に変化の少ないボール用表皮材を提供すること。
【解決手段】繊維と高分子弾性体と撥水剤からなる基体層の表面に、高分子弾性体からなり撥水剤を含まない多孔質コート層が存在し、該コート層の表面が開口部を有するボール用表皮材。さらには、コート層の厚さが0.15〜0.25mmであることや、基体層の見かけ密度が0.2〜0.5g/cmの範囲であること、撥水剤がフッ素系撥水剤であること、表面側の水滴(0.02cm)の吸収時間が15分以内であることが好ましい。またボール用表皮材の製造方法は、繊維と高分子弾性体からなる基体を撥水処理し、次いで開口部を有する多孔質のコート層を付与することを特徴とする。さらには、コート層の付与方法が湿式凝固法であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボール用表皮材に関し、さらに詳しくは手で扱うことが多い球技用ボールとして特に適したボール用表皮材に関する。
【背景技術】
【0002】
球技用ボールの表皮材としては、古くから天然皮革が用いられてきたが、近年取り扱いの容易さなどから繊維と高分子弾性体からなるいわゆる人工皮革が広く用いられるようになってきている。しかし、耐摩耗性や汚れの付着を防止するために、人工皮革の表面には高分子弾性体からなる表皮層が一面に形成されているためにすべり易く、特に手で扱うことが多い球技において手に汗が発生した場合には、すべりが発生しやすく、ハンドリング性が変化するという問題があった。
【0003】
そこで各種の表面処理方法が提案されており、例えば特許文献1には、表面のコート層に開孔を有し、そのコート層を浸透剤で処理することで、吸汗性を与えてグリップ感を向上させる方法が開示されている。また、特許文献2では、基体層の表面に凹凸が存在し、その凸部側面の開孔を制御することにより、汗によるグリップ性の低下を防止する方法が開示されている。
【0004】
しかし、このような方法では汗によるグリップ性の低下を防止することはできるものの、表皮材への汗の吸収の多少によって、ボールの重量やハンドリング性が変化するという問題があった。特に試合に使用するボールの場合、この程度の変化でさえプレーヤーのプレーに微妙な影響を与えるという問題があった。
【0005】
特に競技中に高いコントロール性が要求される、例えばバスケット、バレー、ラグビー、アメリカンフットボールなどの手で扱うことが多い球技において、より最適なグリップ感やハンドリング性を求める要求があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−328465号公報
【特許文献2】特開2004−277961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、手の汗の状態に関わらず良好なグリップ感を有しながら、重量やハンドリング性に変化の少ないボール用表皮材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のボール用表皮材は、繊維と高分子弾性体と撥水剤からなる基体層の表面に、高分子弾性体からなり撥水剤を含まない多孔質コート層が存在し、該コート層の表面が開口部を有することを特徴とする。
【0009】
さらには、コート層の厚さが0.15〜0.25mmであることや、基体層の見かけ密度が0.2〜0.5g/cmの範囲であること、撥水剤がフッ素系撥水剤であること、表面側の水滴(0.02cm)の吸収時間が15分以内であることが好ましい。
【0010】
またもう一つの本発明であるボール用表皮材の製造方法は、繊維と高分子弾性体からなる基体を撥水処理し、次いで開口部を有する多孔質のコート層を付与することを特徴とする。さらには、コート層の付与方法が湿式凝固法であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、手の汗の状態に関わらず良好なグリップ感を有しながら、重量やハンドリング性に変化の少ないボール用表皮材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のボール用表皮材は、繊維と高分子弾性体と撥水剤からなる基体層の表面にコート層が存在するものである。
ここでこの繊維と高分子弾性体と撥水剤からなる基体層は、例えば、繊維から構成された繊維質基材に高分子弾性体を含浸・凝固し基体とし、それを撥水剤にて処理することにより得られる基体層である。そして基体層を構成する繊維質基材に用いられる繊維としては、ポリアミド、ポリエステルなどの合成繊維、レーヨン、アセテートなどの再生繊維、あるいは天然繊維などの単独または混合した繊維を挙げることができる。さらに好ましくは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などのポリアミド繊維や、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維を挙げることができる。
【0013】
そしてこの繊維質基材は、このような繊維をカード、ウェーバー、レーヤー、ニードルパンチングなどの公知の手段で作成した絡合繊維不織布であることが好ましく、特に0.2dtex以下の極細繊維から成るものが好ましい。そのような極細繊維を得る方法としては、例えば溶剤溶解性の異なる2成分以上の繊維形成性高分子重合体からなる複合繊維または混合紡糸繊維を作成し、絡合繊維不織布を作成し、1成分を抽出除去して極細繊維絡合繊維質基材とすることができる。
【0014】
このとき繊維質基材とともに基体層に好適に用いられる高分子弾性体としては、ポリウレタンエラストマー、ポリウレタンウレアエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリエステルエラストマー、合成ゴムなどを挙げることが出来るが、中でもポリウレタン系エラストマーであることが好ましい。また基体に用いられる高分子弾性体の100%伸長応力としては、5〜50MPaであることが好ましい。さらには基体層の高分子弾性体は多孔質であることが好ましく、DMF溶解性の湿式凝固用ポリウレタンなどが好ましく用いられる。
【0015】
また、本発明の基体層に用いられる撥水剤としては一般的なフッ素系またシリコン系の撥水剤を用いることができるが、より撥水性能の高いフッ素系撥水剤であることが好ましい。また撥水剤により風合いの硬化を防止するために、柔軟剤等を基材中に含むことも好ましい。
そして本発明の繊維と高分子弾性体と撥水剤からなる基体層の見かけ密度としては柔軟性と強度とのバランスから0.2〜0.5g/cmの範囲であることが好ましい。
【0016】
本発明のボール用表皮材は、上記のような繊維と高分子弾性体と撥水剤からなる基体層の表面にコート層が存在するものである。そしてこのコート層は、高分子弾性体からなり撥水剤を含まない多孔質コート層であり、そのコート層の表面は開口部を有するものである。
【0017】
このような多孔質コート層は、主に高分子弾性体からなるものであり、好ましくは基体層で用いられるものと同じく、ポリウレタンエラストマー、ポリウレタンウレアエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリエステルエラストマー、合成ゴムなどを挙げることが出来るが、中でもポリウレタン系エラストマーであることが好ましい。そしてコート層を構成する高分子弾性体の100%伸長応力としては、5〜50MPaであることが好ましく、さらには基体層を構成する高分子弾性体よりも高モジュラスであることが好ましい。
【0018】
特にこのような本発明の基体層や多孔質コート層にて用いられる高分子弾性体としては、ポリウレタン系のエラストマーであることが好ましい。その具体例としては、例えば分子量800〜4000のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等の単独又は混合ジオ−ルと、ジフェニルメタン4,4’ジイソシアネートを主とする有機ジイソシアネート、及び低分子ジオール、ジアミン、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体などからなる鎖伸長剤とを反応させて得られるものが挙げられる。
【0019】
さらにこのような多孔質の高分子弾性体からなる本発明のコート層は、最表面にスキン層が薄く存在し、断面を見た場合にその表面側に頂点部を向けた円錐状多孔構造をとるものが好ましい。円錐状多孔の形状としては、長径が10〜200μm、好ましくは30〜100μmの縦穴状構造を有するものであることが好ましい。
【0020】
そして本発明の多孔質のコート層は、その表面が開口部を有するものであるが、その開口は汗等の水を吸収するものであれば特にその形態は問わない。本発明のコート層が、好ましくはこのような特殊な多孔構造と開口部をとることにより、本発明のボール用表皮材は、表面のソフト性と共に、表面の開孔による単なる微多孔の場合よりも、より多くの吸水空間を得ることが可能となる。円錐状多孔構造の場合、高い吸水性を得ることができるのである。また、多孔質のコート層には、アニオン系、ノニオン系、またはカチオン系の親水基を持つ界面活性剤を添加することが好ましい。このような親水性の界面活性剤は、開孔部分における速やかな吸汗にも寄与するのである。
【0021】
また、コート層の厚みとしては0.1〜0.25mmであることが好ましく、より好ましくは、0.15〜0.2mmであることが好ましい。コート層を厚くすることにより、より十分な吸汗性を持たせることが可能になる。一方厚すぎると、多孔層の強度が低下しボール用表皮材の物性が低下する傾向にある。
【0022】
さらに本発明のボール用表皮材はその表面に凹凸模様があることが好ましい。コート層表面に付与する凹凸模様は、ボールとして使用するスポーツにあった凹凸模様を使用することができる。このような凹凸模様は、例えばエンボス処理等により付与することができる。具体的には例えば手でボールを扱うスポーツの場合、その凸凹模様の形状としては、その表面に高低差0.1mm以上の凹凸が存在し、該凹凸の凸部頂上部の合計面積がシート面積の20〜70%の割合で存在することが好ましい。さらにはその高低差は、0.15〜1.2mmであることが好ましく、0.2〜1.0mmであることがもっとも好ましい。また、凸部頂上部の面積の合計が表皮材の面積に占める割合は20〜70%、さらには30〜60%であることが好ましい。ここで表皮材のシート面積とはシート状物自体の面積であるシート状物を表面側から見た時の投影面積をさし、表面に存在する凹凸を考慮した表面積とは異なるものである。ここで頂上部とは、表皮材の側面から凹凸を観察したときに、凸部頂上と谷底の距離の、頂上から1/10の部分を頂上部とする。
【0023】
さらに本発明のボール用表皮材が、バスケットボールやアメリカンフットボール等の用途の場合には、独立した凸部から形成されていることが好ましい。このような凸部を有することにより、グリッピー感を増加させることが可能となる。独立した凸部の各頂上部の平均面積としては0.5〜7mmであることが好ましく、さらには1.5〜4.0mmであることが好ましい。またその個数としては1cm当たり5〜100個程度であることが好ましく、さらには10〜60個/cmであることが好ましい。
【0024】
また、コート層の表面には、吸汗のためのコート層の開孔を完全に塞がない範囲であれば、着色またグリップのために高分子弾性体での仕上げ処理を行うことが好ましい。一般にこのような仕上げ処理はメッシュの入ったグラビアロール処理により行うことができる。コート層の開孔を塞がないためには、処理時の樹脂塗布溶液の濃度、溶液粘度を低めとしたり、塗布に使用するグラビアロールのメッシュを細かいものを使用することにより、1回当たりの塗布量を低めに抑えることにより達成可能である。また表皮材の表面に凸凹を有する場合においては、グラビアロールのクリアランスを表皮材の厚みの70〜95%に調整し、凸部の頂上部にのみ仕上げ処理を行い、凸部以外の部分の開孔を塞がない条件を設定することも可能である。このような仕上げ処理により、ボール用表皮材の表面耐磨耗性を向上させることができる。
【0025】
このような仕上げ処理に用いる高分子弾性体としては、その100%伸長応力が3〜15MPaの範囲であることが好ましい。例えばこのような高分子弾性体としてはポリウレタンエラストマーであることが最適である。被覆層の高分子弾性体の100%伸長応力が低くモジュラスが低いと、耐摩耗性が不十分な傾向にあり、一方高すぎる場合には、耐摩耗性は優れるもののグリッピー性低下する傾向にある。さらに好ましくは被覆層の100%伸長応力は4〜10MPaであり、最も好ましくは6〜8MPaの範囲であることが好ましい。
【0026】
さらには、最表面の仕上げ処理には、グリッピー向上剤を含むものであることが好ましい。このようなグリッピー向上剤としては、ロジン樹脂や液状ゴムなどが挙げられ、単独または混合して用いることができる。なかでも液状ゴムである分子量1000〜4000の低分子量合成ゴムが好ましく、低分子量ポリブタジエン、低分子量アクリロニトリル・ブタジエン共重合物、低分子量ポリジシクロペンタジエンなどが特に好ましい。また、グリッピー性向上剤を含む層におけるグリッピー向上剤の含有量は、高分子弾性体固形分100重量部に対して5〜100重量部であることが好ましく、さらには10部〜85部、最も好ましくは20部〜70部である。添加量は要求される触感、グリッピー性のレベルに合わせて最適量を決めることができるが、添加量が多すぎる場合には被膜層の強度低下、耐摩耗性の不足などを生じる傾向にある。またこの表皮側の層にシリカ等の艶調整剤、着色顔料、安定剤をブレンドすることも好ましく、表面のつやなどの質感を調整することができる。
【0027】
このような本発明のボール用表皮材は、表面側の水滴(一滴;0.02cm)の吸収時間としては15分以内であることが好ましい。さらには5分以下であることが好ましい。また裏面側は撥水剤を有する基体層に該当し、表面側と同じ測定を行った場合にも吸収できないことが好ましい。さらには2時間以上の時間、吸収しないことが好ましい。
【0028】
このような本発明のボール用表皮材は、もう一つの本発明であるボール用表皮材の製造方法である繊維と高分子弾性体からなる基体を撥水処理し、次いで開口部を有する多孔質のコート層を付与することを特徴とする製造方法により得ることができる。この製造方法では、先に述べたような繊維と高分子弾性体からなる基体に、撥水処理を行うことにより基体層を得る。
【0029】
まず繊維と高分子弾性体からなる基体の作成方法としては例えば繊維質基材に高分子弾性体の有機溶剤の溶液を含浸し、高分子弾性体を多孔質状に凝固させる方法を用いることが好ましい。そのような方法としては、例えば繊維質基材に高分子弾性体の有機溶剤の溶液を含浸した後に、高分子弾性体の非溶剤中に浸漬し高分子弾性体を凝固させる湿式凝固法や、あるいは高分子弾性体の有機溶剤溶液に、高分子弾性体の非溶剤を混合した乳濁液を作成し、その後溶剤を蒸発除去する特殊乾式凝固方法などが挙げられる。基体中の高分子弾性体が多孔質状になることにより、より高い柔軟性と強度をバランスよく発揮することができる。
【0030】
次にこのような基体を撥水処理する方法としては、例えば撥水剤の溶液に基材を含浸し余分な溶液をニップ等で落としピックアップ量を調整したのち、乾燥することで得られる。撥水剤の溶液としては、エマルジョンであることが好ましい。また乾燥した後に基材表面に固定すべく、エージング処理することも好ましい。この段階での撥水の程度としては、後に述べるコート層を高分子弾性体の湿式凝固にて行う場合には、凝固液が基材内部に入り込まない程度に行うことが、得られる表皮材の風合いや物性を向上させるために好ましい。
【0031】
本発明の製造方法ではこのような撥水処理された繊維と高分子弾性体からなる基体に、コート層を付与する。コート層に用いる高分子弾性体は先の多孔質コート層に用いられる高分子弾性体である。付与方法としては、溶剤に溶解した高分子弾性体を一定のクリアランスを保ったロールバー等によりコートすることができる。またそのコート層の凝固方法としては、湿式凝固方法が好ましい。具体的には例えば高分子弾性体がポリウレタンの場合、DMF(ジメチルホルムアミド)溶解性の高分子弾性体の溶液を基体層上にコートして、例えば水に10%程度のDMFを加えた浴(凝固浴)中にて、湿式凝固法させる方法が好ましい。またこのような場合、基体層の撥水が十分であることが好ましい。具体的な基体層の撥水度としては、その凝固浴となる10%水・DMF溶液中に、20cmの深さに5分浸漬させた時、基体層への凝固浴の液の浸透度(液の浸透量g)/(基体層g)が、20%以下となることが好ましい。このような高い撥水性を有した場合、基体層側から凝固液が進入し、コート層と基体層の界面の接着不良を防止することが可能となる。また、凝固浴の液の基材層内への浸透が不均一な場合には、凝固後のコート層表面に凸凹が発生し、外観不良となる傾向にある。
【0032】
また、このような多孔質の高分子弾性体からなる本発明のコート層は、最表面にスキン層が薄く存在し、断面を見た場合にその表面側に頂点部を向けた円錐状多孔構造をとるものが好ましく、円錐状多孔の形状としては、長径が10〜200μm、好ましくは30〜100μmの縦穴状構造を有するものであることが好ましい。そのような多孔構造をとるためには、湿式凝固させる高分子弾性体の溶剤溶液中に多孔調整剤としてアニオン系、ノニオン系、またはカチオン系の親水基を持つ界面活性剤を添加することが好ましい。
【0033】
また、本発明の製造方法で得られる表皮材は、そのコート層表面に孔が開口していることを必須とする。このような開口は、微小なものであれば湿式凝固した段階で存在している。しかしより給水性を高めるためには、例えば、コート層を形成する高分子弾性体の溶剤を含有する有機溶剤を50〜200メッシュ、さらに好ましくは70〜100メッシュのグラビアロールを用いてコート層に塗布し、コート層表面のスキン層を溶解して開口する方法や、研磨機で表面スキン層を研磨することで開孔を形成する方法、あるいは0.1mm以上の凸凹を有するエンボスロールで多孔層表面を圧縮処理することで、表皮スキン層を引き伸ばして開口を形成する方法、等を採用することが好ましい。
【0034】
このようにして得られた本発明のボール用表皮材は、圧力空気を入れ膨らませたボディーに張り合わせることにより球技用ボールとすることが出来、表面側のコート層のみに吸汗性を持たせることで、汗に濡れた際もグリップを維持する性能をもち、かつ基体層に水が浸透し難いことにより、ボールの重量変化が少なくなるため、バレーボール、バスケットボール、ラグビーボール、アメリカンフットボール、ハンドボール、等に好適に用いられる。
【実施例】
【0035】
本発明をより具体的に説明するために実施例を以下に記す。ただし本発明の範囲は実施例に限定するものではない。なお、各測定値は下記の方法により得たものであり、濃度は断りの無い限り重量%である。
(1)給水速度
吸水速度は、表皮材の表面に、高さ10mmの距離より、ビュウレットを用いて1滴(0.02cc)を滴下し、滴下直後から吸水するまでの時間を測定した。
【0036】
[実施例1]
<基体層の作成>
ナイロン6と低密度ポリエチレンを50/50で混合、エクストルダーで溶融、混合し290℃で混合紡糸し、延伸、油剤を処理しカットし5.5dtex、51mmの繊維を得た。これをカード、クロスラッパー、ニードルロッカー、カレンダーの工程を通し、重さ500g/m、厚さ2.2mm、見掛け密度0.22g/cmの絡合繊維質基材を得た。
【0037】
得られた絡合繊維質基材を、加熱乾燥、プレスしてその繊維質基材の表面を平滑にした。その後、100%モジュラスが10MPaのポリエーテルエステル系ポリウレタンの12%濃度のジメチルホルムアミド(以下DMFと略称する)溶液に白系顔料を1部、凝固調節剤としてポリオキシエチレン変性シリコン、及び低分子ポリブデンを添加したものを含浸し、基材厚さで含浸液をスクイズした後、10%のジメチルホルムアミドを含有する40℃の水中で高分子弾性体を湿式凝固させ、水洗、乾燥を行った。得られたシートを90℃の熱トルエン中で圧縮、緩和を繰り返し、繊維中のポリエチレン成分を抽出除去し、繊維中のポリエチレン成分を抽出除去し、0.003dtexの極細繊維と多孔質高分子弾性体からなる基体を作成した。
【0038】
次いで基体の撥水処理を行うため、フッ素系撥水剤(旭硝子(株)製AG−E082):水を、10:90の割合で混合した処理液を作成した。この処理液に上記の基体をディッピングし、基体に対する処理液のピックアップ60%でニップして、150℃の乾燥機で3分間、乾燥およびキュアリングを行い、フッ素樹脂5g/mが処理された基体層を得た。この基体層は、厚み1.5mm、420g/m、見かけ密度0.28g/cmであった。
【0039】
この基体層を、コート層の凝固浴となるDMF10%水凝固浴の液中20cmの深さに5分浸漬させ、基体層への凝固浴の液の浸透度(液の浸透量g)/(基体層g)を測定したところ、15%であった。この数値は、コート層の凝固用に適した撥水度である。
【0040】
コート層用の高分子弾性体含有の塗布液としては、100%モジュラスが8MPaのポリエーテルエステル系ポリウレタン100部(固形分濃度30%)、ジメチルホルムアミド36部、多孔調整剤(ポリオキシエチレン変性シリコン:FG−10 松本油脂製薬(株)製)0.5部、低分子量セルロースプロピオネート:(FG−220松本油脂製薬(株)製)0.5部、白色顔料5部を混合し、ポリウレタン固形分濃度が22重量%濃度のコート層用の塗布液とした。
【0041】
この塗布液を、上記の撥水性を有する基体層の上部に、基体層の厚さを80%で圧縮した後、基材の圧縮が回復する前にコート層用の高分子弾性体溶液を固形分で900g/mとなるように塗布し、10%のジメチルホルムアミドを含有する40℃の水中で高分子弾性体を湿式凝固させ、水洗、乾燥を行い多孔質コート層を有するシートとした。
【0042】
この基体層の上部に多孔質コート層を有するシートの表面に、110メッシュのグラビアロールを用いて、ジメチルホルムアミド:メチルエチルケトン=7:3の混合溶剤を塗布し、表面に存在する多孔質高分子弾性体のスキン層を溶解し、表面が開孔したシートを得た。さらにこの表面に血筋柄のエンボスロールを用いて140℃でエンボスを行い、スムーズな外観のシート状物とした。
【0043】
次いで、100%モジュラスが6MPaの無黄変ポリカーボーネート系ポリウレタン樹脂を、メチルエチルケトン:イソプロピルアルコール:ジメチルホルムアミドの混合溶剤で溶解し、樹脂濃度9%したものに、黄色系顔料及びマット剤を混合し、着色用の塗布液とした。この着色用の塗布液を、先のエンボスしたスムーズ外観のシート状物の表面に、塗布間隙をシートの厚さの85%に調整し、200メッシュのグラビアロールで4回塗布した。この塗布液の付着量は60g/mであり、着色したシート状物が得られた。このシート状物は、バレーボール用の外観を有した表皮材である。
【0044】
得られた表皮材は、基体層に多孔質コート層および着色の仕上層が積層され、コート層には開孔を有し、コート層の厚さは0.2mmであり、コート層の表面部下部は長さ50μmの涙滴状多孔構造を有していた。この表皮材の吸水速度を測定したところ、表面側は、30秒で速やかに吸水があるのに対して、裏面側は、吸水しないもであった(2時間以上)。また、吸水による重量等の変化を評価するため、10cmの表皮材の表面に5gの水をできるだけ広げながら置き、30秒間指で吸水が進むように押した後、残った水を軽く払った状態をみると、表面は濡れているが、裏面側への水の浸透は見られず、水の重量増は、元に対して2%であり、重量変化が少ないものであった。
【0045】
また空気を入れ膨らましたバレーボール用ボディーに、得られた表皮材を貼りボールとしてテストしてもらったところ、触感がよくかつ汗がついても滑り難くグリップ性に優れていた。
【0046】
[比較例1]
実施例1と同じ繊維質基材、含浸液、コート液を使用し、繊維質基材に含浸し、基材厚さの80%でスクイズした後、基材の圧縮が回復する前に、コート層用の高分子弾性体溶液を固形分で900g/mとなるように塗布し、10%のジメチルホルムアミドを含有する40℃の水中で高分子弾性体を湿式凝固させ、水洗、乾燥を行った後、得られたシートを90℃の熱トルエン中で抽出処理を行い、極細繊維の繊維質基材と多孔質高分子弾性体からなる基体層とその上部に高分子弾性体コート層を有するシート状物を得た。このシート状物に、実施例1と同様に、開孔処理、エンボス、着色の仕上げを行いバレーボール用の外観をもった表皮材を得た。
【0047】
得られた表皮材は、基体層にコート層および着色の仕上層が積層され、コート層には開孔を有し、コート層の厚さは0.15mmで表面部下部は長さ40μmの涙滴状多孔構造を有していた。この表皮材の吸水速度を測定したところ、表面側は、60秒で速やかに吸水があるのに対して、裏面側も、10秒以下で吸水するものであった。また、吸水による重量等の変化を評価するため、実施例1同様に行ったところ、5gの水は30秒かからず、吸水してしまい、裏面にまで水の浸透がみられた。
【0048】
また空気を入れ膨らましたバレーボール用ボディーに、得られた表皮材を貼りボールとしてテストしてもらったところ、汗がついても滑り難くいグリップ性はもっていたが、長時間使用していると、汗等で重量の変化が感じられるものであり、試合用のボールとしては適さないものであった。
【0049】
[比較例2]
実施例1と同様の繊維質基材を用い、比較例2と同様に、含浸、コート、エンボス、仕上げ処理を行い、その後、実施例1と同様の撥水の処理液を用いて、同様に撥水処理を行いバレーボール用の外観をもった表皮材を得た。
【0050】
得られた表皮材は、基体層にコート層および着色の仕上層が積層され、コート層には開孔を有し、コート層の厚さは0.15mmで表面部下部は長さ40μmの涙滴状多孔構造を有していた。この表皮材の吸水速度を測定したところ、表面側も裏面側からも吸水しないものであった。また、吸水による重量等の変化を評価するため、実施例1同様に行ったところ、開孔はあるものの、5gの水はほとんど吸水せず重量増0.3%であった。
【0051】
また空気を入れ膨らましたバレーボール用ボディーに、得られた表皮材を貼りボールとしてテストしてもらったところ、汗が表皮につくとグリップ性が劣ってくるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のボール用表皮材は、例えば圧力空気を入れ膨らませたボディーに張り合わせるボール用表皮材に用いることができ、特に球技用ボールであるバスケットボール、バレーボール、ラグビーボール、アメリカンフットボール、ハンドボール、等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と高分子弾性体と撥水剤からなる基体層の表面に、高分子弾性体からなり撥水剤を含まない多孔質コート層が存在し、該コート層の表面が開口部を有することを特徴とするボール用表皮材。
【請求項2】
コート層の厚さが0.15〜0.25mmである請求項1記載のボール用表皮材。
【請求項3】
基体層の見かけ密度が0.2〜0.5g/cmの範囲である請求項1または2記載のボール用表皮材。
【請求項4】
撥水剤がフッ素系撥水剤である請求項1〜3のいずれか1項記載のボール用表皮材。
【請求項5】
表面側の水滴(0.02cm)の吸収時間が15分以内である請求項1〜4のいずれか1項記載のボール用表皮材。
【請求項6】
繊維と高分子弾性体からなる基体を撥水処理し、次いで開口部を有する多孔質のコート層を付与することを特徴とするボール用表皮材の製造方法。
【請求項7】
コート層の付与方法が湿式凝固法である請求項6記載のボール用表皮材の製造方法。

【公開番号】特開2011−240032(P2011−240032A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116338(P2010−116338)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(303000545)帝人コードレ株式会社 (66)