説明

ポケットを有するユニットとその製造方法、壁面緑化用部材

【課題】柔軟かつ軽量で、内容物が軽量であっても実使用に耐え得る強度を備えたポケットを有するユニットを提供する。
【解決手段】本発明の物体を収容するためのポケットを有するユニットは、下記の(I)(II)および(III)で形成されていることを特徴とする。
(I)直立構造物の表面に沿って設けられ、ユニットの背面を構成する背面側布帛。
(II)ポケットの底部において背面側布帛と多重織りされており、多重織り以外の部分が背面側布帛から距離をおいて配置され、かつ背面側布帛と幅は等しく、背面側布帛より長さが短い表面側布帛。
(III)表面側布帛の幅方向の端縁と、表面側布帛に対応した部分の背面側布帛の幅方向の端縁との間に配置され、ポケットの側面部を構成する側面側布帛。
を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポケットを有するユニット、およびその製造方法に関する。さらに、該ポケットを有するユニットから構成される壁面緑化用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環境上の要望から、建築物などの垂直構造物の壁面に緑化を行う方法が検討されている。壁面緑化を行う方法として、一般的には、壁面にネット状物やひも状物を固定して蔓性植物を繁茂させる方法や、プランターや培地などを壁面に沿って固定する方法が行われている。
【0003】
より具体的には、例えば、壁面に複数本のワイヤーを敷設し、該ワイヤーに植物が植えられたプランター部を配設する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、壁面にネットを敷設し、該ネットに植物を絡ませる方法(例えば、特許文献2参照)や、壁面付近にプランターを設置することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
また、壁面緑化を行う方法として、ポケットを有するユニットにおいて、そのポケット部に土壌を収容し植栽を施すことが検討されている。つまり、植栽が施されたユニットを、建物の壁面に対して設置することで、植物を繁茂させ緑化を行うことが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−090578号公報
【特許文献2】特開2008−079519号公報
【特許文献3】特開2009−055794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の場合には、ワイヤー、ひも状物、またはネット状物などを利用しているため、基本的に、蔓性植物のみしか使用できず、緑化に用いられる植物が限定されてしまうという問題点があった。
【0007】
また、特許文献3の場合は、壁面にプランターを設置する台もしくは枠が別途必要となり、壁面から台もしくは枠を設置する距離が必要となる。加えて、壁面に窓枠などがあった場合、窓からの風景が台や枠に邪魔され、景観を損なうという問題点があった。
【0008】
また、植栽が施されたユニットを壁面緑化に用いる場合、このようなユニットは、通常、各種の布帛を縫製または熱接着することにより製造されているため、内容物が重量である場合にはその負荷に耐えられず縫製部分や熱接着部分が破断するなどの問題があった。つまり、ポケット部に収容される土壌が重量であるため、縫製部分が破断するという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、上記のような現状に鑑み、内容物が重量物であっても実使用に耐えうる強度を備えたポケットを有するユニットを提供することである。さらに、このようなポケットを有するユニットを用い、効果的に壁面緑化を行う壁面緑化用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決する為に鋭意研究の結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の趣旨は下記の通りである。
(1)物体を収容するためのポケットを有するユニットであって、下記の(I)(II)および(III)で形成されていることを特徴とするポケットを有するユニット。
(I)直立構造物の表面に沿って設けられ、ユニットの背面を構成する背面側布帛。
(II)ポケットの底部において背面側布帛と多重織りされており、多重織り以外の部分が背面側布帛から距離をおいて配置され、かつ背面側布帛と幅は等しく、背面側布帛より長さが短い表面側布帛。
(III)表面側布帛の幅方向の端縁と、表面側布帛に対応した部分の背面側布帛の幅方向の端縁との間に配置され、ポケットの側面部を構成する側面側布帛。
(2)背面側布帛と表面側布帛にわたされ、表面側布帛を吊り下げ支持する連結部材を有することを特徴とする(1)のポケットを有するユニット。
(3)表面側布帛及び/又は側面側布帛が水不透過性を有することを特徴とする、(1)または(2)のポケットを有するユニット。
(4)表面側布帛における背面側布帛との反対側の表面に、コーティングまたは含浸により合成樹脂が付与されていることを特徴とする、(1)〜(3)いずれかのポケットを有するユニット。
(5)背面側布帛が芯鞘型複合糸から構成され、該芯鞘型複合糸の鞘部に配される成分の融点が芯部に配される成分の融点より10℃以上低いことを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかのポケットを有するユニット。
(6)連結部材が芯鞘型複合糸から構成され、該芯鞘型複合糸の鞘部に配される成分の融点が芯部に配される成分の融点より10℃以上低い融点を有することを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかのポケットを有するユニット。
(7)背面側布帛の端部にファスナー部材を有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかのポケットを有するユニット。
(8)(1)〜(7)のいずれかのユニットから構成され、ポケット部に植栽を収容することが可能であることを特徴とする壁面緑化用部材。
(9)(1)〜(7)の物体を収容するためのポケットを有するユニットを製造するに際し、以下の(i)〜(iii)の工程をこの順に行うことを特徴とする製造方法。
(i)表面側布帛と背面側布帛を多重織りにて織製し、多重織り部において一体化された表面側布帛と背面側布帛とを得る工程。
(ii)多重織り部を残して表面側布帛を切断する工程。
(iii)切断された表面側布帛における多重織り部でない部分を、背面側布帛から遠ざかるように位置させ、表面側布帛の端縁と側面側布帛の端縁に、側面側布帛を配置する工程。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、柔軟かつ軽量であり、かつ多重織りを採用するため内容物が重量物であっても実使用に耐えうる強度を備えたポケットを有するユニットを提供することが可能である。特に、このポケットを有するユニットを垂直面緑化用部材として用いた場合には、育成植物が限定されず、壁面に直接設置可能であり、景観を損ねることなく所望される場所に設置することが可能であるという効果を奏する。また、本発明の製造方法によれば、上記のような効果を奏するポケットを有するユニットを、簡易な工程で提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のポケットを有するユニットの一例を示す概略図である。
【図2】本発明のポケットを有するユニットを製造する工程を示す概略図である。
【図3】本発明のポケットを有するユニットから構成される壁面緑化用部材の使用態様の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポケットを有するユニット(以下、単に「ユニット」と称する場合がある)について、図1を用いて以下に説明する。
図1において、1はユニットの背面を構成する矩形状の背面側布帛を示す。背面側布帛1は建物の壁面などに沿って配置されるものである。2はユニットの表面を構成する表面側布帛を示す。表面側布帛2は、背面側布帛1と幅は等しく、背面側布帛1よりも長さが短いものである。3および3’はユニットの側面を構成する一対の側面側布帛を示す。
【0014】
背面側布帛1の底部において、背面側布帛1の底部、表面側布帛2の底部、および一対の側面側布帛3および3’が、上端が開口された形態を有する袋状に形成されて、ポケット部4を形成している。5はポケット部4の収容空間を示すものである。
【0015】
背面側布帛1の下端部と表面側布帛2の下端部とは、多重織り部6によって一体に織製されている。表面側布帛2においては、多重織り部6以外の部分が、背面側布帛1から距離をおいて配置されている。なお、図は模式的に表したものであり、実際は、多重織り部6は、背面側布帛1と表面側布帛2が重なって一体化した状態で織られるものである。そのため、図示されるような、極端な厚みを有するものではない。
【0016】
側面側布帛3および3’は、表面側布帛2の幅方向の端縁と、表面側布帛2に対応した部分の背面側布帛1の幅方向の端縁との間に配置されている。側面側布帛3および3’の端縁と表面側布帛2の端縁、側面側布帛3および3’の端縁と背面側布帛1の端縁とは、互いにつなぎ合わされている。
【0017】
背面側布帛1の上端部と、表面側布帛2の上端部との間には、連結部材7がわたされている。連結部材7は、ポケット部4の形態を保つようにして、表面側布帛を吊り下げ支持することが可能である。
【0018】
背面側布帛1の幅方向の両端の位置、または背面側布帛1の幅方向および長さ方向の端部においては、必要に応じて、背面側布帛1の長さ方向にわたって、ファスナー部材8を設けることができる。
【0019】
背面側布帛について以下に説明する。背面側布帛は、ユニットを形成した際に、直立構造物の表面に沿って設けられ、直立構造物の表面に接する布帛である。
上記の背面側布帛を構成する繊維としては、特に限定されないが、例えば、市販されている一般の合成繊維を用いるものである。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル繊維;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミドなどのポリアミド系繊維;ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン繊維やポリプロピレンなどのポリオレフィン系繊維;ポリアクリル系繊維、ポリアリレート系繊維などが挙げられる。上記の中でも、コスト面や取り扱い性の観点から、ポリエチレンテレフタレート繊維が最も好ましい。
【0020】
また、背面側布帛を構成する繊維として、鞘部に配される成分の融点が芯部に配される成分の融点より低い芯鞘型複合繊維を用いることが好ましい。このような芯鞘型複合繊維を用いると、鞘部に配される成分が溶融されて繊維どうしを強固に融着することができるため、強度に優れた背面側布帛を得ることができるという利点がある。特に、熱接着性、加工性に優れる観点から、鞘部に配される成分の融点が、芯部に配される成分の融点より10℃以上低い融点を有するものが好ましい。
【0021】
上記の芯鞘型複合繊維の芯部に配される重合体は、特に限定されるものではないが、引張強力や使用時の寸法安定性、さらに生産性の面から、ポリエチレンテレフタレートまたはエチレンテレフタレートを主体としたポリエステル系重合体を用いることが好ましい。なかでも、ポリエステル系重合体は、ポリエチレンテレフタレートを主たる成分とするものであることが好ましい。
【0022】
ポリエステル系重合体が芯部に配される場合にはおいて、該ポリエステル系重合体が有する耐熱性などの特性を向上させることを目的として(例えば、融点を240℃以上にすることなどを目的として)、ポリエステル系重合体にその他の成分を共重合したり、また添加剤等を配合したりしてもよい。
【0023】
その他の成分とは、例えば、ポリブチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステルなどが挙げられる。共重合されるその他の成分の総和は、融点の低下の観点から、芯部のポリエステルの構成成分の単位モル数に対して、3モル%以下程度とするのが好ましい。
【0024】
添加剤とは、例えば、顔料、難燃剤、紫外線吸収剤の他、帯電防止剤や耐熱剤等が挙げられる。添加剤の配合量は、機械的特性維持の観点から、芯部に配されるポリエステル系重合体100質量部に対して、1質量部であることが好ましい。
【0025】
芯鞘型複合繊維の鞘部に配される成分としては、特に限定されるものではないが、鞘部の成分と芯部の成分とは互いに接着性があることが望ましいため、鞘部にもポリエステル系重合体を用いることが好ましい。
【0026】
鞘部に用いるポリエステル系共重合体としては、特に限定されるものではないが、例えば、2塩基酸またはその誘導体の1種もしくは2種以上と、グリコール系の1種もしくは2種以上とを反応せしめて得られるポリエステル系共重合体が挙げられる。このようなポリエステル系重合体は熱的安定性が良好であると共に、原料が比較的安価に供給されるという利点があり、工業的に有利である。
【0027】
2塩基酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、p−オキシ安息香酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族2塩基酸;シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸などの脂肪族2塩基酸;1,2−シクロブタンジカルボン酸などの脂環族2塩基酸などが挙げられる。
【0028】
グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンタンジオール、p−キシレングリコール等やポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール類が挙げられる。
【0029】
さらに鞘部のポリエステル系重合体としては、耐熱性の観点から、芳香族ポリエステルと脂肪族ラクトンとが共重合した共重合ポリエステルであって、その融点(結晶融点)が100℃以上であるものがより好ましい。融点が100℃未満であると、高温雰囲気下で使用するに際し変形しやすくなる場合があるため好ましくない。
【0030】
この場合、芳香族ポリエステルとしては、例えば、エチレンテレフタレート単位及び/またはブチレンテレフタレート単位の重合体、あるいはこれらにさらにイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール等を共重合したものなどが挙げられる。
【0031】
脂肪族ラクトンとしては、易取扱性、耐熱性やコストの観点から、炭素数4〜11の脂肪族ラクトンが好ましい。本発明においては、このような脂肪族ラクトンを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。特に良好な脂肪族ラクトンとして、ε−カプロラクトンやδ−バレロラクトンなどが挙げられる。
【0032】
また、鞘部のポリエステル系重合体は、機械的特性の観点から、ポリエチレンテレフタレートなどのその他の成分が共重合されているものが好ましい。共重合されるその他の成分の総和は、鞘部のポリエステルの構成成分の単位モル数に対し、20モル%以下程度とするのが好ましい。
【0033】
背面側布帛は、通水性(水を透過させる性質)を有することが好ましい。通水性を有していると、得られたユニットのポケット部に水分を含有する内容物を収容した場合に、必要な水分を保持しつつ、余分な水分を直立構造物の表面に沿って除去することができるという利点がある。特に、得られたユニットを壁面緑化用部材として用いる際に、雨水を排除したり、水分を含有した土壌を収容した場合に必要な水分を保持しつつ余分な水分を除去したりすることができ、腐敗や根腐の発現を抑制することができる。なお、本発明における通水性とは、具体的には、JIS A 1218の土の透水試験方法において、1.0E−2以上の数値を示すものであり、好ましくは1.0E−2以上である。
【0034】
表面側布帛について、以下に説明する。表面側布帛を構成する繊維は、特に限定されないが、上記の背面側布帛にて用いられる合成繊維を適宜用いることができる。
【0035】
本発明においては、多重織りを採用することにより、縫製などの手段を用いて背面側布帛と表面側布帛とをつなぐ従来のポケット部を有するユニットと比較して、強度を顕著に向上させることができる。つまり、得られるユニットのポケット部に重量である内容物を収容しても、背面側布帛と表面側布帛とをつないだ部分において破損や破断が発生することを抑制するという効果が奏される。なお、上記の多重織りは、背面側布帛および表面側布帛において、向かい合う一組の端部で施されるものである。
【0036】
側面側布帛は、背面側布帛の幅方向の端縁と表面側布帛の幅方向の端縁とをつなぎ、側面部を形成する役割を担うものである。側面側布帛を、背面側布帛や表面側布帛とつなぎ合わせる方法としては、特に制限されず、例えば、縫製や熱融着などの方法が挙げられる。
【0037】
側面側布帛を構成する繊維は、特に限定されないが、上記の背面側布帛にて用いられる合成繊維などを適宜用いることができる。
【0038】
表面側布帛、側面側布帛は、水不透過性(積極的に水を透過させない性質)を有することが好ましい。水不透過性を有することにより、内容物を外部の水分や汚れから保護する効果、および内容物が水分を含む場合には、必要な水分を保持しうるという効果が奏される。なお、本発明における水不透過性とは、上記のJIS A 1218の土の透水試験方法において、1.0E−9未満であることを示し、好ましくは1.0E−10未満である。
【0039】
さらに、表面側布帛や側面側布帛は、内容物を外部の水分や汚れからより効果的に保護する観点、および内容物が水分を含む場合には該水分を効果的に保持しうるから、その外部表面(ポケット部の内側表面とならない表面)に、コーティングまたは含浸等により合成樹脂が付与されていてもよい。
【0040】
合成樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂、アクリル系樹脂やポリ塩化ビニル系樹脂などを用いることができる。なかでも、コスト面の観点から、アクリル系樹脂や塩化ビニル樹脂が好適に用いられる。
【0041】
なお、背面側布帛、表面側布帛、側面側布帛の製造方法は、特に制限されず、公知慣用の織機や編機により製織編する方法などが挙げられる。また、背面側布帛、表面側布帛、側面側布帛のサイズについても特に制限されず、実使用に応じて必要とされる任意のサイズを選択することができる。
【0042】
連結部材を構成する繊維は、特に限定されず、例えば、上記の背面側布帛を構成する繊維として例示されたものなどを用いることができる。なお、連結部材の形状としては、実使用に際し必要とされる強力に応じて、ベルト状やロープ状などから任意に選択できる。なかでも、ベルト状の形態である場合には、背面側布帛や表面側布帛へ容易に配することができるため好ましい。
【0043】
背面側布帛や表面側布帛に連結部材を配する方法としては、特に限定されず、縫製や熱融着などの方法が挙げられる。また、連結部材を配する部分についても、特に限定されず、背面側布帛において、表面側布帛を吊り下げ可能である位置を任意に選択することができる。
【0044】
本発明においては、背面側布帛の端部にファスナー部材を有していてもよい。ファスナー部材を有することで、予め直立構造物の表面に別途設けられたファスナー部材を有するベルトやシートとファスナー連結により、本発明のユニットを直立構造物の表面に配置させることが可能となる。つまり、このユニットを、簡易な方法で直立構造物の表面に設けることが可能となる。
【0045】
なお、背面側布帛において、ファスナー部材を配置する端部は、特に制限されず、実使用に応じて所望される任意の端部を適宜選択することができる。例えば、ファスナー部材を配置する端部は、背面側布帛において向かい合う1組の端部であってもよいし、背面側布帛のすべての端部であってもよい。
【0046】
なお、使用するファスナーは市販品を好適に用いることができ、実使用に際し要求される強度に応じて、金属製ファスナーや樹脂製ファスナーを適宜使い分けることが可能である。
【0047】
本発明のユニットは、以下の(i)〜(iii)の工程を、この順に行うことで製造される。
(i)表面側布帛と背面側布帛を多重織りにて織製し、多重織り部において一体化された表面側布帛と背面側布帛とを得る工程。
(ii)多重織り部を残して表面側布帛を切断する工程。
(iii)切断された表面側布帛における多重織り部でない部分を、背面側布帛から遠ざかるように位置させ、表面側布帛の端縁と側面側布帛の端縁に、側面側布帛を配置する工程。
【0048】
本発明のユニットの製造方法を、図2を用いて説明する。
まず、図2の(a)に示すように、一対の布帛11と布帛12を、重ね合わさるように同時に織製する。布帛11と布帛12は、16の方向に織り進められる。16の方向に沿って、距離をおいた2箇所の位置、13および14では、布帛11および布帛12が多重織りされている。15および15’は、多重織りされている部分を示す。なお、図は模式的に表したものであり、実際は、多重織り部15および15’は、布帛11と布帛12どうしが重なって一体化した状態で織られるものである。そのため、図示されるような、極端な厚みを有するものではない。
【0049】
織り進められる布帛11および布帛12を、一対の多重織り部15および15’を含む任意の長さで切断することにより、矩形状の布帛11および布帛12が形成される。なお、ユニットとされたときに、布帛11が背面側布帛となり、布帛12が表面側布帛となる。この場合、切断部は、多重織り部15とおよび15’の近傍とする。布帛12をこのように切断することにより、(a)に示されるように、長さ方向の両端部の近傍に、多重織り部15および15’が存在する二重構造の織布が得られる。
【0050】
次いで、図2の(b)に示されるように、この二重構造の織布における一方の布帛12を、17の位置で切断し、その後、多重織り部15の両方の縁部に沿った位置18および19で切断する。この際、布帛11と布帛12は、二箇所の多重織り部15および15’で一体化されており、これにより布帛12が保持されている。そのため、位置17での切断が容易である。例えば、多重織り部15’のみしか存在しないと、位置15’から離れた部分においては、布帛12の保持状態が安定しなくなるため、17の位置で適正に切断することが困難となる。
【0051】
位置17で切断した後、位置18および19においても切断する。このとき布帛12は、多重織り部15を介して布帛11と一体化されているため、良好に保持された状態で、切断部18および19において切断することができる。図2の(c)は、位置17、18および19において、布帛11の切断が完了した状態を示している。
【0052】
その後、図2の(d)にて示されるように、切断された布帛12における多重織り部15’でない部分を、布帛11から遠ざかるように距離を置いて位置させる。これにより、(d)にて示されるように、布帛11は多重織り部15’から離れるにつれて、布帛11からの距離が長くなる。
【0053】
次いで、布帛11が、(d)にて示された姿勢となるような形状の布帛20および20’を用いて、布帛20および20’の端縁を、布帛11および布帛12の端縁に沿わせてつなぎ合わせる。布帛20および20’は側面側布帛であり、これによりポケット部21が形成される。
【0054】
なお、必要に応じて、布帛12、布帛20、布帛20’の表面に任意の段階で、合成樹脂をコーティングまたは含浸してもよい。
そして、必要に応じて、連結部材を、縫製や熱融着などの方法により、背面側布帛の表面側布帛から離れた部分と表面側布帛とに配して、両者を連結させてもよい。さらに、必要に応じて、背面側布帛の端部の一部または全部にファスナー部材を配置させてもよい。
【0055】
多重織りを使用しない従来のユニットの製造方法においては、背面側布帛と表面側布帛とを接合する工程(例えば、縫製や熱融着などの工程)が別途必要であった。しかしながら、本発明の製造方法においては、背面側布帛と表面側布帛とが多重織りにて接合されている。そのため、製造工程を一つ減ずることができ、つまり簡易な方法でユニットを得ることができるという効果が奏される。
【0056】
本発明のユニットは、そのポケット部に、生活用品など広い分野の物品を収容することができる。特に、本発明のユニットは、その底部が多重織りにて形成されているため、重量の大きい内容物を収容することが可能である。
【0057】
本発明のユニットにおいてポケット部に植物を育成するための土壌を収容させ、直立構造部の表面における緑化用部材(壁面緑化用部材)として使用することができる。本発明の壁面緑化部材は、内容物が重量であってもその負荷に耐えることができるため、土壌を収容させても破断や破損がなく好ましい。
【0058】
図3は、本発明のポケットを有するユニットから構成される壁面緑化用部材の使用態様の一例を示す概略図である。本発明の壁面緑化用部材を、ファスナー部材により、予め直立構造体の表面に配置されたユニット設置用ベルト10における任意の場所に敷設する。ポケット部には土壌が収容され、植栽9が施されている。
【0059】
植物育成土壌としては、特に限定されないが、その植物の種類や、緑化用部材にかかる応力に応じて、適宜選択することができる。例えば、市販されている腐葉土、火山砂利やパーライト、その他の多孔質材料、また植物育成用マットや高分子多孔質材料、吸水性ポリマーなどが挙げられる。また、これらの混合物でもよい。
【実施例】
【0060】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
(背面側布帛を構成する芯鞘型複合繊維の調製)
芯部としてポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)を用いた。鞘部として共重合ポリエステル(テレフタル酸成分とエチレングリコール成分とのモル比が1:1.13のポリエチレンテレフタレートオリゴマーに、ε−カプロラクトンを全酸成分に対して15モル%、及び1,4−ブタンジオールを全ジオール成分に対して50モル%の割合で添加して重合)(融点:160℃)を用いた。このポリエチレンテレフタレートとポリエステル系重合体とを、それぞれ芯部と鞘部に配して、芯鞘の質量比を、芯部/鞘部=50/50とした芯鞘複合繊維からなるマルチフィラメント(1100dtex/96フィラメント)を常用の複合紡糸機を用いて得た。
【0061】
(実施例1)
背面側布帛に相当する面を上記の芯鞘型複合繊維を用い、表面側布帛に相当する面をポリエステル繊維(1100T192)(ユニチカ社製、「E−750タイプ」)を用い、ジャガード機構付織機で、多重織りすることにより、織物を作成した。背面側布帛、表面側布帛ともに、平組織で織物密度22本/インチであり、中空部の長さが1700mmで幅100mmの一重接結組織帯(平組織、織物密度44本/インチ)を長さ方向に連続した織物であった。
【0062】
次いで、表面側布帛の面に下記組成の塩化ビニルペーストを100μmの厚みとなるようにコーティング(乾燥:110℃×2分、キュアリング:180℃×2分間)した。
〔塩化ビニルペースト組成〕
・ゼオン121:50質量部(日本ゼオン社製、塩化ビニル樹脂ペースト)
・フタル酸ジオクチル:15質量部(三菱サンモント社製、可塑剤)
・フタル酸ジイソノイル:15質量部(三菱サンモント社製、可塑剤)
・アデ力−O−130P:3質量部(アデカ・アーガス社製、エポキシ系可塑剤)
・KV−62B−4:3質量部(共同薬品社製、バリウム・亜鉛紛系安定剤)
・三酸化アンチモン:7質量部(防炎剤)
・炭酸カルシウム:7部(充填剤)
そして、ユニットとしたときに底部となる多重織り部から360mm長さの箇所で、表面側布帛を切断した。
【0063】
次いで、背面側布帛と同様の布帛を別途準備し、上記組成の塩化ビニルペーストを用い、同じ条件でコーティングした。このコーティングされた布帛を、1/4の円(r=0.23m)となるように切断し、側面側布帛とした。得られた側面側布帛を、表面側布帛と背面側布帛に縫い付けて、ポケット部を得た。その後、背面側布帛の幅方向の端部にファスナー部材(エスケィオー社製、商品名「15VS線」を縫製してユニットを得た。
【0064】
次に、連結部材を製造した。連結部材は、3種類のポリエステル繊維(強度:8.0g/デニール)(「1100T192」、「550T96」、「280T48」)(ユニチカ社製、「E−750タイプ」)を用いて、ニードル織機により得られた。ニードル織機の経糸に、1100T192、耳部の経糸に280T48、緯糸に550T96に用いた。耳部の緯糸は、280T48の絡み糸でループを形成してほつれ止めをし、本体部を2/2杉綾組織、耳部を2/2綾織で二重織として製織した後、180℃×10分間で熱処理加工を行い、連結部材とした。この連結部材の経密度は150本/in、緯密度20本/in、厚さ1.3mm、幅25mmであった。この連結部材を、背面側布帛の幅方向の端部から表面側布帛の幅方向の端部へ4箇所に縫製することで(連結部材のピッチ:25cm)、背面側布帛と表面側布帛とをつなぎ、実施例1のユニットを得た。
【0065】
(実施例2)
実施例1の連結部材と同様にして得られた部材に、15VS線ファスナー(エスケィオー社製)を縫製し、ユニット設置用ベルトを得た。垂直な壁において、得られたユニット用設置ベルトを、2m置きに4本固定し、左端のユニット設置ゾーン、中央のユニット設置ゾーン、右端のユニット設置ゾーンを得た。実施例1で得られたユニットを、左端ゾーンには下部方向から50cmの箇所にファスナーどうしを連結し、中心ゾーンには下部方向から250cmの箇所に同様に設置し、右端ゾーンには450cmの箇所に同様に設置した。必要な箇所に各ユニットが連結できることを確認した。
【0066】
(比較例1)
背面側布帛に相当する布帛を構成する繊維として上記の芯鞘型複合繊維を用い、表面側布帛を構成する繊維としてポリエステル繊維(1100T192)(ユニチカ社製、「E−750タイプ」)を用い、背面側布帛、表面側布帛ともに、平組織で織物密度22本/インチの別々に織物を作成した。背面側布帛は熱セットを施し(180℃×2分)、表面側布帛は実施例1と同様に表面側布帛を上記組成の塩化ビニルペーストを用い、同じ条件でコーティングした。
【0067】
また別途、背面側布帛の熱セットを施す前の布帛に、塩化ビニルペーストを同条件でコーティングした。このコーティングされた布帛を、1/4の円(r=0.23m)となるように切断し、側面側布帛とした。
【0068】
得られた表面側布帛、背面側布帛および側面側布帛を、実施例1と同様の形状になるように縫い付けて、ポケット部を得た。その後、背面側布帛の幅方向の端部にファスナー部材(エスケィオー社製、商品名「15VS線」)を縫製して、比較例1のユニットを得た。
【0069】
実施例1と比較例1のユニットを、実施例2と同様に設置し、比重2g/cmの砂利250kgを投入し、7日間放置し、放置後の状態を目視にて確認した。その結果、比較例1のユニットにおいては、表面側布帛と背面側布帛の縫い目が広がり、投入した砂利が洩れ始めていた。それに対して、実施例1のユニットは、表面側布帛と背面側布帛がしっかりと固定されていた。
【0070】
上述のように、本発明によれば、柔軟かつ軽量であり、かつ多重織りを採用するため内容物が重量物であっても実使用に耐えうる強度を備えたポケットを有するユニットを提供することが確認できた。また、このポケットを有するユニットを垂直面緑化用部材として用いた場合には、育成植物が限定されず、壁面に直接設置可能であり、景観を損ねることなく所望される場所に設置することが可能であるという効果を奏することが確認できた。
【符号の説明】
【0071】
1 背面側布帛
2 表面側布帛
3 側面側布帛
3’ 側面側布帛
4 ポケット部
5 ポケット部の収容空間
6 多重織り部
7 連結部材
8 ファスナー部材
9 植栽
10 ユニット設置用ベルト
11 布帛
12 布帛
13 多重織りされる箇所
14 多重織りされる箇所
15 多重織り部
15’ 多重織り部
16 布帛11および布帛12を織り進める方向
17 切断位置
18 切断位置
19 切断位置
20 布帛
20’ 布帛
21 ポケット部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体を収容するためのポケットを有するユニットであって、下記の(I)(II)および(III)で形成されていることを特徴とするポケットを有するユニット。
(I)直立構造物の表面に沿って設けられ、ユニットの背面を構成する背面側布帛。
(II)ポケットの底部において背面側布帛と多重織りされており、多重織り以外の部分が背面側布帛から距離をおいて配置され、かつ背面側布帛と幅は等しく、背面側布帛より長さが短い表面側布帛。
(III)表面側布帛の幅方向の端縁と、表面側布帛に対応した部分の背面側布帛の幅方向の端縁との間に配置され、ポケットの側面部を構成する側面側布帛。
【請求項2】
背面側布帛と表面側布帛にわたされ、表面側布帛を吊り下げ支持する連結部材を有することを特徴とする請求項1に記載のポケットを有するユニット。
【請求項3】
表面側布帛及び/又は側面側布帛が水不透過性を有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のポケットを有するユニット。
【請求項4】
表面側布帛における背面側布帛との反対側の表面に、コーティングまたは含浸により合成樹脂が付与されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のポケットを有するユニット。
【請求項5】
背面側布帛が芯鞘型複合糸から構成され、該芯鞘型複合糸の鞘部に配される成分の融点が芯部に配される成分の融点より10℃以上低いことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のポケットを有するユニット。
【請求項6】
連結部材が芯鞘型複合糸から構成され、該芯鞘型複合糸の鞘部に配される成分の融点が芯部に配される成分の融点より10℃以上低い融点を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のポケットを有するユニット。
【請求項7】
背面側布帛の端部にファスナー部材を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポケットを有するユニット。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のユニットから構成され、ポケット部に植栽を収容することが可能であることを特徴とする壁面緑化用部材。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の物体を収容するためのポケットを有するユニットを製造するに際し、以下の(i)〜(iii)の工程をこの順に行うことを特徴とする製造方法。
(i)表面側布帛と背面側布帛を多重織りにて織製し、多重織り部において一体化された表面側布帛と背面側布帛とを得る工程。
(ii)多重織り部を残して表面側布帛を切断する工程。
(iii)切断された表面側布帛における多重織り部でない部分を、背面側布帛から遠ざかるように位置させ、表面側布帛の端縁と側面側布帛の端縁に、側面側布帛を配置する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−60941(P2012−60941A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208664(P2010−208664)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】