説明

ポケットを有する編地とその編成方法

【課題】本発明は、型崩れがしにくく、高品質なポケットを有する編地とその編成方法を提案する。
【解決手段】ベース編地部2に対しポケット分岐部3では増し目されてポケット袋部4の始端となる。以降、ベース編地部2とポケット袋部4を編成する。さらにベース編地部を形成しつつ、前後針床で係止する編目列の領域にて、ポケット袋部相当の編幅で前後針床を使って袋編成を行ない、該袋編成で形成した前後の針床で係止する新たな編目を目移しして前記領域内で重ね目を形成し、重ね目にポケット袋部に連続するベース編地部としての新たな編目を形成する。しっかりとした袋状ベース編地部7を編成することで、しっかりとした2層の編地が形成でき、型崩れがしにくく段差も少ない高品質なポケットが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機を用いて編成するポケットを有する編地とその編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、セーターやカーディガン等のニットウェアでは、その身頃部分にポケットが付加されることがある。本願出願人は、ベース編地から分岐してポケット編地を一体に編成する方法を開示している。例えば特許文献1では、ポケット袋部の上位にリブ編み組織からなるポケット上縁部を形成することで、重厚で保形性に優れた切りポケットを縫製なしで形成することを示し、特許文献2では、ポケット上部をベース部の編組織と直交する開口部にリブ編地等を直交するように形成して補強し、かつデザインを向上させること等を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3406097号公報
【特許文献2】特開2002−339203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポケットの開口部は、特に形が変形しやすい。上記特許文献によるポケットにおいても補強等を行い一定の効果は得られているものの、より型崩れしないポケットが望まれている。本発明の目的は、型崩れが起こり難い高品質なポケットを有する編地とその編成方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
複数の編針が並設された針床を少なくとも前後一対に備え、各針床間で目移しが可能な横編機を用いて編成され、ベース編地部から分岐して形成したポケット袋部の端部の編目列に伏目処理を施したポケットを有する編地の編成方法において、前記伏目処理を完了した後に、ポケット袋部の上位のベース編地部の編目列に対し、2層となる袋状ベース編地部を形成する工程を備えることを特徴とする。
【0006】
前記袋状ベース編地部の形成は、他方の針床に割増やしによる増し目を形成する工程と、ベース編地部を形成しつつ、前後針床で係止する編目列の領域にて、ポケット袋部相当の編幅で前後針床を使って袋編成を行なう工程と、該袋編成で形成した前後の針床で係止する新たな編目を目移しして前記領域内で重ね目を形成する工程を備えることを特徴とする。
【0007】
前記伏目処理は、一方の針床に係止した伏目処理の対象となる編目列の編目に対して、他方の針床に割増やしによる増し目を形成する工程1と、前後の針床で袋編成を行なって新たな編目を形成する工程2と、前記袋編成で形成した前後の針床で係止する新たな編目を目移しして重ね目を形成し、編目を減らす工程3とを備え、前記重ね目を始端として終端側へ順次、前記工程2と工程3を繰り返すことを特徴とする。
【0008】
複数の編針が並設された針床を少なくとも前後一対に備え、各針床間で目移しが可能な横編機を用い、ベース編地部に対して分岐して形成したポケット袋部の端部の編目列に伏目処理を施したポケットを有する編地であって、ポケット袋部の開口部側の端部に袋組織を配置する伏目処理による解れ止めがなされ、該開口部に沿うように解れ止めの上位のベース編地部に対して袋組織が形成され、該袋組織とポケットの開口部側端部との間に段差が少ないことを特徴とする編地である。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ポケット開口部の上位のベース編地に対し、伸びが少なくしっかりとした袋組織を配置する袋状ベース編地部の形成により、ポケット袋部に対向するベース編地部が下位に伸ばされるのを抑え、型崩れが起こり難いポケットを形成することができる。
【0010】
また本発明では、ベース編地部に対して袋状ベース編地部を形成することで、ポケット袋部の終端の編目との段差を目立ち難くすることができる。
【0011】
本発明では、伏目処理編成は、袋編成を行なって前後2層の状態にすることで、編地に厚みを持たせることができる。また、袋編成で形成した前後の針床で係止する新たな編目を使って重ね目を形成し、しっかりとしたポケット袋部の終端にできる。
【0012】
また本発明による編地は、ポケット袋部の終端に、しっかりとした厚みを持つ袋組織を配置する伏目処理が施される。ベース編地に対し、袋組織の厚みによる段差が生じるが、厚みを持つ袋状ベース編地部の形成により、前記段差が目立たなくなり、伸びを抑えるだけでなく見栄えも良いポケットを有する編地となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例であるポケットを有する編地の概略図である。(a)は、正面から見た編地の概略図である。(b)は、線Y−Yから見た編地の断面構造を示した図である。
【図2】本発明の実施例であるポケットを有する編地の袋状伏目部の編成図である。
【図3】図2に続く本発明の実施例である袋状伏目部の編成図である。
【図4】本発明の実施例であるポケットを有する編地の袋状ベース編地部の編成図である。
【図5】図4に続く本発明の実施例であるポケットを有する編地の袋状ベース編地部の編成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例として、ポケットを有する編地1で説明を行う。特に本件特徴となる袋状ベース編地部7(前側7F,後側7B)の編成を中心に行う。また、編成に使用する横編機は、前後一対の針床を備えた2枚ベッド横編機であり、後針床が前針床に対してラッキング可能で、針床の上位に複数の給糸口を有するものである。編成図は、説明の便宜上、針数を実際の編成よりも少なくしている。
【0015】
図2〜図5の編成図にて、図中左側の数字は編成ステップ(S)、(T)を示し、左右方向の矢印は編成方向を、上下方向の矢印は目移し方向を示す。FBは前針床を、BBは後針床を示す。大文字のA〜PはFBの編針を、小文字のa〜pはBBの編針を示す。また、黒丸印はその編成ステップで形成される編目を、2重の丸印は重ね目を示す。尚、その編成ステップの編成に関係せず、編針に係止されたままの編目(白丸印)については一部を除いて図示を省略している。
【実施例】
【0016】
図1は、ポケットを有する編地1を示す概略図である。図1の(a)は、正面から見た編地1の概略図である。なお、太線で囲んだ領域は、従来によくあるポケットの領域を示す。つまり、袋状ベース編地部7がない状態である。また、図1の(b)は、2点鎖線Y−Yから見た編地の断面構造を示した図である。本実施例で編成されるベース編地部2は、平編みである。図に示すように矢印Wの方向に編成されるベース編地部2に対し、ポケット分岐部3では公知の割増やしで増し目を行いポケット袋部4の始端となる。以降、ベース編地部2とポケット袋部4を編成する。(後述する図2のS0参照)ポケット袋部4とベース編地部2を合わせて2層の編地となる。本実施例では、紙面奥側のベース編地部2も表目に編成し、ポケット開口部6より見た場合でも手前側のポケット袋部4の編目と同じ見栄えとし、ポケットの品質を向上している。
【0017】
袋状伏目部5は、編目10で分岐して2層でしっかりとしたポケットの終端部を形成している。しかしながら、しっかりとその厚みにより段差が目立ってしまう。また、ポケットに物が入った場合、その重さが加わり一層ポケットの変形が起こりやすい。本実施例では、袋状ベース編地部7を形成し、その変形する力を弱める。更にポケット開口部6側で前記袋状伏目部5との間に生じる段差が、袋状ベース編地部7の形成による編地部の厚みによって目立たなくなり、ポケット開口部6も拡がらず、見栄えもよい。
【0018】
図2および図3は、ポケットを有する編地1の袋状伏目部5の編成図である。以下、図2および図3で示す編成ステップS0〜S16について説明する。本実施例で編成される袋状伏目部5は、紙面右側から左側に向けて伏目処理を行う。また、ポケット袋部4の編幅では、編針K,kが始端側で、編針E,eが終端側となる。ポケット分岐部3以降は、S0で示すポケット袋部4の状態(図1の(a)の2点鎖線X−Xから見た編地の断面)で連続して編目が形成される。
【0019】
図2のS0は、編成されたポケット袋部4の編目とベース編地部2の編目をFBの編針A,C,E,G,I,K,M,O、BBの編針f,h,j,lで係止している状態を示す。FBの編針Aから、1本おきの編針に係止したこれらの編目に連続して新たな編目を形成している。S1は、FBの編針K,I,G,Eの編目をBBの編針k,i,g,eに目移しで移動し、左方向にFBの編針O,MとBBの編針k,i,g,eに新たな編目を形成する。S2は、方向を変えて右向きに、BBの編針e,g,i,kに新たな編目を形成する。裏目の編成が完了したら、FBの編針K,I,G,Eに編目を目移しで戻す。
【0020】
S3では、左方向に編針K,I,G,Eに新たな編目を形成する。但し、編針K,I,G,Eで割増やし編成にてそれらと対向するBBの編針k,i,g,eに増し目としての編目10を形成する。S4では、右向きにFBの編針E,G,I,Kで編目を形成する。またS5では、左向きにFBの編針K,I,G,Eで編目を形成する。S6では、右方向にFBの編針EとBBの編針g,i,kに新たな編目を形成する。S3で増し目した編目10の一部に、編成を容易とする為、新たな編目11を形成する。
【0021】
図3のS7では、左向きにFBの編針K,Gで編目(編目20)を形成する。S8では、右向きにBBの編針g,i,kで編目(編目21)を形成する。S7とS8で袋編成を行っている。糸の太さや素材により条件が異なるが、編目が増加するにつれて袋編成で形成される編目がウエール方向に多く繋がり、厚みが出てしっかりとする。S9では、BBの編針kからFBの編針Iに係止する編目21を目移しする。更に、S10では、FBの編針Kに係止する編目20をBBの編針kを経由してFBの編針Iに目移しし、編目20、21の重ね目となる。
【0022】
S11では、左方向にFBの編針I,Eに新たな編目(編目22)を形成する。続けてS12では、右方向にBBの編針e,g,iに新たな編目(編目23)を形成する。S13では、BBの編針iに係止する編目23をFBの編針Gに目移しする。更に、S14では、FBの編針Iに係止する編目22をBBの編針iを経由してFBの編針Gに目移しし、編目22、23の重ね目となる。それに続けてS11からS14と同様の編成を繰り返し行い、FBの編針E,G,I,Kの編目を順次伏目処理し、S15で示す様に、FBの編針E,G,I,Kの編目が伏せられて無くなる。S16では、BBの編針f,h,j,lの編目をFBの編針E,G,I,Kに目移しを行う。
【0023】
ポケット袋部4の端部の編目列に対し袋状伏目部5が完成し、ポケット開口部6を挟む形で、後述するT1の編針E,G,I,Kに係止する編目に対し袋状ベース編地部7を形成する。図4および図5は、ポケットを有する編地1の袋状ベース編地部7の編成図である。以下、図4および図5で示す編成ステップT1〜T13について説明する。
【0024】
図4のT1は、袋状伏目部5の完成後、単層のベース編地部2の編目が、FBの編針A,C,E,G,I,K,M,Oに係止している状態を示す。T1の段階では、ポケット袋部4も完成しており、その位置より上位のベース編地部に袋状ベース編地部7を形成することになる。T2は、左方向にFBの編針O,M,K,I,G,Eに新たな編目を形成する。但し、編針E,G,I,Kで割増やし編成を行い、それらと対向するBBの編針e,g,i,kに増し目としての編目12を形成する。以降は、分岐した編目を用いて2層の状態に編成を行う。また、形成する編幅は、ポケット袋部4相当の、同じ編幅または数目程度広めの編幅にするとバランスが良い。
【0025】
T3は、右方向にBBの編針e,g,i,kに新たな編目13を形成する。T4は、左方向にFBの編針K,I,G,E,C,Aに新たな編目を形成する。T5は、右方向にFBの編針A,CとBBの編針e,g,i,kとFBの編針M,Oに新たな編目を形成する。T2で増し目したBBの編針k,i,g,eの編目12に続けてT3で裏目の編目13、T5で裏目の編目14と2目連続して裏目を形成する。
【0026】
T6は、左方向にFBの編針O,M,K,I,G,Eに新たな編目を形成する。T3〜T6では、T1で示すFBの各編目とT2で増し目したBBの編針k,i,g,eに係止する編目12に、2目分の編目が追加形成される。T7は、BBの編針e,g,i,kで係止する編目14を、空針であるFBの編針D,F,H,Jに目移しを行う。
【0027】
図5のT8は、右方向にFBの編針D,F,H,Jに新たな編目15を形成する。T9では、続いてそれらの各編目をBBの編針e,g,i,kに目移しする。その後、左方向にFBの編針K,I,G,E,C,Aに新たな編目を形成する。この編成は袋状ベース編地部前側7Fの編目となる。T5においてBBの針床で形成した袋状ベース編地部後側7Bの編目に、袋状ベース編地部前側7Fの編目と同じ針床で編成することで、FB側から見てT3,T5で形成した裏目としての編目14が表目としての編目15に変わり、その部分でガーター組織のようになって編地が盛り上がる。
【0028】
T10は、BBの編針e,g,i,kに係止する編目を、空針であるFBの編針D,F,H,Jに目移しを行い、右方向にFBの編針A,C,M,Oと同じ編成コースで新たな編目を形成する。T11では、T10においてFBの編針D,F,H,Jに目移しを行って形成した新たな編目を、BBの編針e,g,i,kに目移しして戻す。さらに左方向にFBの編針O,M,K,I,G,E,C,Aに新たな編目を形成する。袋状ベース編地部7のウェール方向の長さは、T6からT10の編成を繰り返して編目の数を調整すればよい。T12では、袋状ベース編地部7を完成する為、BBの編針e,g,i,kに係止する編目を、FBの編針E,G,I,Kに目移しを行い、重ね目とする。T13では、右方向にFBの編針A,C,E,G,I,K,M,Oに新たな編目を形成し、袋状ベース編地部7を完成する。ベース編地部2としての単層編地となる。
【0029】
なお、本発明の実施形態は上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。例えば、2枚ベッド横編機の他、トランスファージャックベッドを備える2枚ベッド横編機や、4枚ベッド横編機を使用して、本発明の実施形態の編成を行うこともできる。また、実施例では平編み組織にて、説明を行ったが、ベース編地部2や、袋状伏目部5の下方やポケット開口部6の上位に形成する袋状ベース編地部前側7F等に、ガーター組織やリブ組織を形成しても良い。
【符号の説明】
【0030】
1 編地
2 ベース編地部
4 ポケット袋部
5 袋状伏目部
10,11,12,13,14,15 編目


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の編針が並設された針床を少なくとも前後一対に備え、各針床間で目移しが可能な横編機を用いて編成され、ベース編地部から分岐して形成したポケット袋部の端部の編目列に伏目処理を施したポケットを有する編地の編成方法において、前記伏目処理を完了した後に、ポケット袋部の上位のベース編地部の編目列に対し、2層となる袋状ベース編地部を形成する工程を備えることを特徴とするポケットを有する編地の編成方法。
【請求項2】
前記袋状ベース編地部の形成は、他方の針床に割増やしによる増し目を形成する工程と、ベース編地部を形成しつつ、前後針床で係止する編目列の領域にて、ポケット袋部相当の編幅で前後針床を使って袋編成を行なう工程と、該袋編成で形成した前後の針床で係止する新たな編目を目移しして前記領域内で重ね目を形成する工程を備えることを特徴とする請求項1に記載のポケットを有する編地の編成方法。
【請求項3】
前記伏目処理は、一方の針床に係止した伏目処理の対象となる編目列の編目に対して、他方の針床に割増やしによる増し目を形成する工程1と、前後の針床で袋編成を行なって新たな編目を形成する工程2と、前記袋編成で形成した前後の針床で係止する新たな編目を目移しして重ね目を形成し、編目を減らす工程3とを備え、前記重ね目を始端として終端側へ順次、前記工程2と工程3を繰り返すことを特徴とする請求項2に記載のポケットを有する編地の編成方法。
【請求項4】
複数の編針が並設された針床を少なくとも前後一対に備え、各針床間で目移しが可能な横編機を用い、ベース編地部に対して分岐して形成したポケット袋部の端部の編目列に伏目処理を施したポケットを有する編地であって、ポケット袋部の開口部側の端部に袋組織を配置する伏目処理による解れ止めがなされ、該開口部に沿うように解れ止めの上位のベース編地部に対して袋組織が形成され、該袋組織とポケットの開口部側端部との間に段差が少ないことを特徴とするポケットを有する編地。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−102421(P2012−102421A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250411(P2010−250411)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】