説明

ポジ型感光性樹脂組成物

【課題】パターン膜を形成する現像工程において、高い残膜率を維持したまま、現像残渣がなく、高温ベーキング後においても平坦性、光透過率、耐溶剤性等の塗膜物性を損なうことなく、低誘電特性に優れた高解像度のパターン膜を形成することができる感光性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】感光性樹脂組成物は、下記の成分(A)、(B)及び(C)からなり、各成分の構成割合が(A)100質量部に対して(B)5〜50質量部及び(C)1〜40質量部に設定されている。成分(A):フマル酸ジエステル単量体から誘導される構成単位(a1)、芳香族ビニル単量体から誘導される構成単位(a2)、α,β−不飽和カルボン酸単量体から誘導される構成単位(a3)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体から誘導される構成単位(a4)からなる共重合体。成分(B):キノンジアジド基を有する感光剤。成分(C):2個以上のエポキシ基を有する硬化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性を有するポジ型の感光性樹脂組成物に関する。さらに詳細には、フォトリソグラフィー技術を用いることによりパターン膜を形成することが可能な感光性樹脂組成物、さらにこれを用いて形成される層間絶縁膜又は平坦化膜を備えたフラットパネルディスプレイ(FPD)又は半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
LSIなどの半導体集積回路や、FPDの表示面の製造、サーマルヘッドなどの回路基板の製造等を初めとする幅広い分野において、微細素子の形成或いは微細加工を行うために、従来からフォトリソグラフィー技術が利用されている。該フォトリソグラフィー技術においては、レジストパターンを形成するため、感光性樹脂組成物が用いられている。近年、これら感光性樹脂組成物の新たな用途として、半導体集積回路やFPDなどの層間絶縁膜や平坦化膜の形成技術が注目されている。特に、FPD表示面の高精細化やTFTなどに代表される半導体素子の製造プロセスの短縮化に対する市場の要望は強いものがある。
【0003】
このFPD表示面の高精細化を達成するためには、回路内において伝送損失を抑えることが重要であり、それには低誘電特性に優れた微細パターンを有する層間絶縁膜や平坦化膜が必須材料とされている。また、半導体素子の製造プロセスの短縮化については、ソースやゲート電極を保護する目的で、真空蒸着法にてSiNxなどの無機層間絶縁膜を形成せず、ウェットプロセスで容易に形成可能な有機層間絶縁膜への代替が望まれている。そのため、有機層間絶縁膜は、SiNxと同等の絶縁性が必須であり、誘電率が3.0を下回るような、低誘電特性の層間絶縁膜が必要とされている。前記の低誘電特性を有する層間絶縁膜や平坦化膜を得るためには、感光性樹脂組成物におけるアルカリ可溶性樹脂の役割は多大であり、このような用途に用いられる感光性樹脂組成物に関して多くの研究がなされている。
【0004】
例えば特許文献1では、層間絶縁膜又は平坦化膜用の感光性樹脂組成物のアルカリ可溶性樹脂として不飽和カルボン酸とエポキシ基を有するラジカル重合性化合物とを用いることにより、良好な現像性を有しかつ高解像度のパターン膜が形成される技術が開示されている。しかしながら、前記アルカリ可溶性樹脂に含まれる構成単位は(メタ)アクリロイル基で構成されているため、十分な低誘電特性を得ることができないことが一般的に知られている。
【0005】
一方で特許文献2には、層間絶縁膜又は平坦化膜用の感光性樹脂組成物のアルカリ可溶性樹脂としてスチレン類、(メタ)アクリル酸及びヒドロキシアルキルエステルを構成単位として有する共重合体を用いることにより、良好な低誘電特性が得られることが開示されている。しかしながら、スチレン類を樹脂中に多量に導入した場合、樹脂の疎水性が高くなるため、現像時の残膜率を高く維持することはできるものの、現像残渣が多くなり、十分な現像性を得ることができないという問題がある。
【0006】
また、特許文献3では、カラーフィルター用の保護膜、RGB用画素、ブラックマトリックス又はスペーサーを形成するために、フマル酸ジエステルを有するアルカリ可溶性樹脂、光重合性多官能(メタ)アクリレート化合物及び光重合開始剤が含まれるネガ型感光性樹脂組成物を用いることにより、良好な現像性が得られることが開示されている。しかしながら、ネガ型感光性樹脂組成物中に含まれる、光重合性多官能(メタ)アクリレートの誘電率が高いため、組成物として十分な低誘電特性を得ることができないという問題がある。
【0007】
このような問題点を解決するために、FPDや半導体デバイスなどの層間絶縁膜又は平坦化膜に用いられる感光性樹脂組成物において、高い残膜率を維持したまま、現像残渣がなく、現像性が良く、低誘電特性に優れる高解像度のパターン膜を形成することが求められているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−248629号公報(第2頁、第3頁及び第4頁)
【特許文献2】特開2004−4233号公報(第2頁、第4頁及び第34頁)
【特許文献3】特開2007−137947号公報(第2頁、第3頁及び第5頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記実状を鑑みてなされたものであり、その第一の目的は、パターン膜を形成する現像工程において、高い残膜率を維持したまま、現像残渣がなく、高温ベーキング後においても平坦性、光透過率、耐溶剤性等の塗膜物性を損なうことなく、低誘電特性に優れた高解像度のパターン膜を形成することができる感光性樹脂組成物を提供することにある。
【0010】
また、本発明の第二の目的は、前記の優れた感光性樹脂組成物により形成された平坦化膜又は層間絶縁膜を有するFPD又は半導体デバイスを提供することにある。
さらに、本発明の第三の目的は、前記の優れた感光性樹脂組成物により、SiNxなどの無機層間絶縁膜を形成することなく、ウェットプロセスで容易に形成可能な有機層間絶縁膜を有するFPD又は半導体デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明における第1の発明の感光性樹脂組成物は、下記に示す成分(A)、(B)及び(C)からなり、各成分の構成割合が(A)100質量部に対して(B)5〜50質量部及び(C)1〜40質量部であることを特徴とする。
(A)下記式(1)で表されるフマル酸ジエステル単量体から誘導される構成単位(a1)、下記式(2)で表される芳香族ビニル単量体から誘導される構成単位(a2)、下記式(3)で表されるα,β−不飽和カルボン酸単量体から誘導される構成単位(a3)及び下記式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体から誘導される構成単位(a4)からなり、構成単位(a1)と構成単位(a2)の合計量が40〜85質量%であり、構成単位(a3)と構成単位(a4)の質量比(a4)/(a3)が0.2〜7.0である共重合体。
【0012】
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数3〜8の分岐アルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基又は置換分岐シクロアルキル基)
【0013】
【化2】

(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数6〜12の芳香族炭化水素基)
【0014】
【化3】

(式中のRは水素原子、メチル基又はカルボキシメチル基)
【0015】
【化4】

(式中のRは水素原子又はメチル基、Rは炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12の分岐アルキル基、炭素数2〜12のヒドロキシアルキル基又は主環構成炭素数5〜12の脂環式炭化水素基)
(B)水酸基を有するフェノール性化合物とキノンジアジド化合物とをエステル化反応させて得られる、キノンジアジド基を有する感光剤。
(C)2個以上のエポキシ基を有する硬化剤。
【0016】
第2の発明のフラットパネルディスプレイは、第1の発明の感光性樹脂組成物を硬化した層を有するものである。
第3の発明の半導体デバイスは、第1の発明の感光性樹脂組成物を硬化した層を有するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明の感光性樹脂組成物によれば、フォトリソグラフィー技術を用いたパターン膜を形成する現像工程において、高い残膜率を維持したまま、現像残渣がなく、ポストベイクなどの高温ベーキング後においても平坦性、光透過率、耐溶剤性等の塗膜物性を損なうことなく、低誘電特性に優れた高解像度のパターン膜を形成することができる。そして、該感光性樹脂組成物を用いることにより、優れた特性を有するFPD及び半導体デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の感光性樹脂組成物は、下記に示す成分(A)、(B)及び(C)からなり、各成分の構成割合が(A)100質量部に対して(B)5〜50質量部及び(C)1〜40質量部に設定されたものである。
【0019】
成分(A):特定の共重合体。
成分(B):キノンジアジド基を有する感光剤。
成分(C):2個以上のエポキシ基を有する硬化剤。
【0020】
以下に各成分について順に説明する。
<成分(A):共重合体>
成分(A)の共重合体は、下記式(1)で表されるフマル酸ジエステル単量体から誘導される構成単位(a1)、下記式(2)で表される芳香族ビニル単量体から誘導される構成単位(a2)、下記式(3)で表されるα,β−不飽和カルボン酸単量体から誘導される構成単位(a3)及び下記式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体から誘導される構成単位(a4)からなり、構成単位(a1)と構成単位(a2)の合計量が40〜85質量%であり、構成単位(a3)と構成単位(a4)の質量比(a4)/(a3)が0.2〜7.0である。
【0021】
【化5】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数3〜8の分岐アルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基又は置換分岐シクロアルキル基)
【0022】
【化6】

(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数6〜12の芳香族炭化水素基)
【0023】
【化7】

(式中のRは水素原子、メチル基又はカルボキシメチル基)
【0024】
【化8】

(式中のRは水素原子又はメチル基、Rは炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12の分岐アルキル基、炭素数2〜12のヒドロキシアルキル基又は主環構成炭素数5〜12の脂環式炭化水素基)
前記式(1)〜(4)で表される構成単位はそれぞれ下記式(5)〜(8)で表される単量体(各構成単位用単量体)から誘導される。
【0025】
【化9】

(式中、R及びRは、それぞれ式(1)におけるものと同じである。)
【0026】
【化10】

(式中、R及びRは式(2)におけるものと同じである。)
【0027】
【化11】

(式中のRは式(3)におけるものと同じである。)
【0028】
【化12】

(式中のR、Rは式(4)におけるものと同じである。)
〔フマル酸ジエステル単量体から誘導される構成単位(a1)〕
フマル酸ジエステル単量体から誘導される構成単位(a1)は、主鎖構造となる部分にメチレン基を有さず主鎖の炭素上に置換基が結合していることにより、フマル酸ジエステルで構成される重合体は剛直な主鎖構造を有する。そのため、主鎖の分子鎖熱運動性が抑制されることにより、特定の周波数帯域において熱エネルギーへの損失がないため、良好な低誘電特性を得ることができる。
【0029】
前記式(1)におけるR及びRは、それぞれ独立して炭素数3〜8の分岐アルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基又は置換分岐シクロアルキル基である。R及びRとして好ましくは炭素数3〜6の分岐アルキル基、炭素数6〜10のシクロアルキル基又は置換分岐シクロアルキル基である。より好ましくは3〜5の分岐アルキル基又は炭素数6〜8のシクロアルキル基である。
【0030】
分岐アルキル基の炭素数が8を超えると重合性が低下してしまい不都合な場合が生ずる。また、シクロアルキル基又は置換分岐シクロアルキル基の炭素数が12を超えると、十分な現像性が得られないという問題がある。前記式(1)におけるR及びRは、同一の置換基であっても、異なる置換基であっても良いが、入手性の面から同一の構造であることが好ましい。
〔芳香族ビニル単量体から誘導される構成単位(a2)〕
構成単位(a2)を誘導する芳香族ビニル単量体は、重合時に構成単位(a1)を誘導するフマル酸ジエステル単量体との共重合反応性を向上させることができる。フマル酸ジエステル単量体は、電子受容性の強い単量体であるため、(メタ)アクリル酸エステルやアクリロニトリルのような極性のある単量体との共重合反応性は低いが、電子供与性の単量体との共重合性は比較的高い。構成単位(a2)を誘導する芳香族ビニル単量体は、フマル酸ジエステル単量体、α,β−不飽和カルボン酸単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体の3者のいずれの単量体とも共重合性が良好であるため、重合反応時に共重合性の異なる単量体から誘導される各構成単位を円滑に重合体中に導入することができ、共重合組成に分布の偏りがなく、均一な性質を有する共重合体を得ることができる。
【0031】
前記式(2)におけるRは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数6〜12の芳香族炭化水素基である。Rとして好ましくは水素原子であり、Rは炭素数6〜10の芳香族炭化水素基である。Rの炭素数が12を超えると、感光性樹脂組成物は十分な現像性を発揮することができなくなる。
〔(a1)+(a2)の合計量〕
前記のフマル酸ジエステル単量体から誘導される構成単位(a1)と芳香族ビニル単量体から誘導される構成単位(a2)の共重合体中に含まれる合計量は、40〜85質量%、好ましくは45〜80質量%であり、さらに好ましくは50〜75質量%である。この合計量が40質量%を下回ると、α,β−不飽和カルボン酸単量体から誘導される構成単位(a3)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体から誘導される構成単位(a4)との共重合性に乏しくなり、かつ共重合体中に剛直なセグメントが少なくなることにより十分な低誘電特性が得られない。その一方、85質量%を上回ると、共重合体の疎水性が高くなることにより、感光性樹脂組成物の現像性が得られず、パターン上に現像残渣が生ずる。
【0032】
成分(A)の(a1)+(a2)合計量における(a1)及び(a2)の好ましい組成比率はモル分率で好ましくは(a1):(a2)=80:20〜10:90であり、さらに好ましくは70:30〜15:85である。(a1)が80モル%を上回り、(a2)が20モル%を下回ると、重合反応において(a1)の重合性が低下し、共重合性に問題がある。一方、(a2)が90モル%を上回り、(a1)が10モル%を下回ると、成分(A)中における芳香族ビニル単量体から誘導される構成単位が多くなるため、共重合体の疎水性が高くなり、感光性樹脂組成物は十分な現像性を得られないおそれがある。
〔α,β−不飽和カルボン酸単量体から誘導される構成単位(a3)〕
α,β−不飽和カルボン酸単量体から誘導される構成単位(a3)は、現像工程において現像液に対する溶解性に寄与する成分である。前記式(3)におけるRは水素原子、メチル基又はカルボキシメチル基である。好ましくは水素原子又はメチル基であり、前記以外の構成単位を用いると他の構成単位との共重合性が得られないという問題がある。
【0033】
このα,β−不飽和カルボン酸単量体から誘導される構成単位(a3)の含有量により成分(A)の共重合体の酸価を調整することができる。酸価の範囲として好ましくは50〜200mgKOH/g、より好ましくは70〜150mgKOH/gとなるように構成単位(a3)の割合を調節する。この酸価が低すぎると現像液に対して十分な溶解性が得られず、その一方酸価が高すぎると現像時の残膜率が低下するおそれがある。
〔(メタ)アクリル酸エステル単量体から誘導される構成単位(a4)〕
(メタ)アクリル酸エステル単量体から誘導される構成単位(a4)は、現像性の調整、特に現像時の残膜率や解像度に寄与する成分である。前記式(4)におけるRは水素原子又はメチル基、Rは炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12の分岐アルキル基、炭素数2〜12のヒドロキシアルキル基又は主環構成炭素数5〜12の脂環式炭化水素基である。前記の主環構成炭素数5〜12の脂環式炭化水素基は、付加的な構造、例えば環内二重結合、炭化水素基の側鎖、スピロ環の側鎖、環内架橋炭化水素基等を含んでいてもよい。Rとして好ましくはメチル基であり、Rとして好ましくは炭素数1〜6のアルキル基若しくは分岐アルキル基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基、炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基又はシクロヘキシル基、ジシクロペンタニル基である。Rの炭素数が12を超えると、重合性が低下してしまい不都合な場合がある。構成単位(a4)を誘導するこれらの(メタ)アクリル酸エステル単量体は、現像性を調整する目的で1種のみ又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
〔質量比(a4)/(a3)〕
α,β−不飽和カルボン酸単量体から誘導される構成単位(a3)と(メタ)アクリル酸エステル単量体から誘導される構成単位(a4)の質量比(a4)/(a3)は、0.2〜7.0であり、好ましくは0.3〜6.0であり、より好ましくは0.6〜4.0である。質量比(a4)/(a3)の値が0.2より低くなると、共重合体中にα,β−不飽和カルボン酸単量体から誘導される構成単位が多くなり、現像時の残膜率が低下する。一方、質量比(a4)/(a3)の値が7.0より高くなると、(メタ)アクリル酸エステル単量体から誘導される構成単位が多くなり、十分な現像性が得られず、現像残渣の発生や、解像度の低下を招く。
【0034】
成分(A)の共重合体を得るために用いられる重合用溶剤としては、一般的に知られている溶剤を用いることができる。このような溶剤の具体的な例として、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;乳酸メチル、乳酸エチル等の乳酸エステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類等が挙げられる。これらの重合溶剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0035】
成分(A)の共重合体を得るために用いられる重合開始剤としては、一般的にラジカル重合開始剤として知られているものを使用することができる。その具体例としては、アゾ系重合開始剤、シアノ基を有さないアゾ系重合開始剤又は有機過酸化物及び過酸化水素等を用いることができる。ラジカル重合開始剤として過酸化物を使用する場合には、これと還元剤とを組み合わせてレドックス型重合開始剤として使用してもよい。
【0036】
成分(A)の共重合体を得る際の重量平均分子量を調節するために分子量調節剤を使用することができる。分子量調節剤としては、例えばn−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸等のメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等のキサントゲン類;ターピノーレン、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられる。
【0037】
成分(A)の共重合体の重量平均分子量として好ましくは5,000〜60,000、より好ましくは5,000〜30,000、さらに好ましくは8,000〜25,000である。重量平均分子量が5,000未満の場合にはポストベイク時にパターンフローが起こり、パターン膜の十分な解像度が得られないおそれがあり、60,000を超える場合には現像液に対する溶解性に乏しく、満足できる現像性が得られないおそれがある。
【0038】
<成分(B):キノンジアジド基を有する感光剤>
成分(B)のキノンジアジド基を有する感光剤は、フォトリソグラフィーによる露光工程においてフォトマスクを介して露光する際、露光部ではキノンジアジド基を有する感光剤の光異性化反応が起こることにより、カルボキシル基を生成し、その後の現像工程において現像液に対して溶解させることができる。他方、未露光部は、現像液に対して溶解禁止能を有しているため、膜を形成することができる。つまり、キノンジアジド基を有する感光剤は、フォトマスクを介して露光することにより、その後の現像工程にて現像液に対する溶解性を分別することができるため、パターン膜を得ることができる。
【0039】
成分(B)のキノンジアジド基を有する感光剤は、水酸基を有するフェノール性化合物と、キノンジアジド化合物とをエステル化反応させて得ることができる。キノンジアジド化合物としては、1,2−ナフトキノンジアジド−5−スルフォニルクロライド、1,2−ナフトキノンジアジド−4−スルフォニルクロライド等に代表されるナフトキノンジアジドスルホン酸クロリドやベンゾキノンジアジドスルホン酸クロリドのようなキノンジアジドスルホン酸ハライドが用いられる。
【0040】
エステル化反応は、水酸基を有するフェノール性化合物とキノンジアジドスルホン酸ハライドとを、塩基性触媒、例えば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、トリエチルアミン等の存在下で、通常−20〜60℃程度の温度で反応させることにより行われる。エステル化率は、水酸基を有するフェノール性化合物の量とキノンジアジド化合物の量を調整することによって適宜のものとすることができる。このエステル化反応においては、エステル化数及びエステル化位置が種々異なる混合物が得られる。従って、エステル化率はこれら混合物の平均値として表わされる。また、これら反応生成物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
キノンジアジド基を有する感光剤のエステル化率は、好ましくは20〜95モル%、より好ましくは35〜90モル%である。エステル化率が20モル%を下回ると感度の低下を招くおそれがあり、95モル%を上回ると共重合体との相溶性が悪化してパターン膜が相分離し、白濁するおそれがある。
【0042】
キノンジアジド基を有する感光剤に使用できる水酸基を有するフェノール性化合物としては、下記式(9)又は(10)で表される化合物が好ましい。
【0043】
【化13】

(式中、R、R、R10及びR11は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を表し、R12及びR13は、それぞれ独立して炭素数1〜2のアルキル基を表す。)
【0044】
【化14】

(式中、R14、R15、R16、R17、R18、R19及びR20は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は下記式(11)を表し、
【0045】
【化15】

式中R21は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、m及びnはそれぞれ独立して0〜2の整数であり、a、b、c、d、e、f、g及びhは、a+b≦5、c+d≦5、e+f≦5、g+h≦5を満たす0〜5の整数であり、iは0〜2の整数である。)
前記式(9)で示されるフェノール性化合物としては、例えば次のような化合物が挙げられる。
【0046】
【化16】

【0047】
【化17】

【0048】
【化18】

また、前記式(10)で示されるフェノール性化合物としては、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、ビスフェノールA、B、C、E、F及びG、4,4’,4”−メチリジントリスフェノール、2,6−ビス[(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)メチル]−4−メチルフェノール、4,4’−[1−[4−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノール、4,4’−[1−[4−[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]フェニル]エチリデン]ビスフェノール、4,4’,4”−エチリジントリスフェノール、4−[ビス(4−ヒドロキシフェニル)メチル]−2−エトキシフェノール、4,4’−[(2−ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス[2,3−ジメチルフェノール]、4,4’−[(3−ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス[2,6−ジメチルフェノール]、4,4’−[(4−ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス[2,6−ジメチルフェノール]、2,2’−[(2−ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス[3,5−ジメチルフェノール]、2,2’−[(4−ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス[3,5−ジメチルフェノール]、4,4’−[(3,4−ジヒドロキシフェニル)メチレン]ビス[2,3,6−トリメチルフェノール]、4−[ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−6−メチルフェニル)メチル]−1,2−ベンゼンジオール、4,6−ビス[(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−1,2,3−ベンゼントリオール、4,4’−[(2−ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス[3−メチルフェノール]、4,4’,4”−(3−メチル−1−プロパニル−3−イリジン)トリスフェノール、4,4’,4”,4’’’−(1,4−フェニレンジメチリジン)テトラキスフェノール、2,4,6−トリス「(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−1,3−ベンゼンジオール、2,4,6−トリス[(3,5−ジメチル−2−ヒドロキシフェニル)メチル]−1,3−ベンゼンジオール、4,4’−[1−[4−[1−[4−ヒドロキシ−3,5−ビス[(ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メチル]フェニル]−1−メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビス[2,6−ビス(ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メチル]フェノール等が挙げられる。これらの化合物のうち、4,4’,4”−メチリジントリスフェノール、2,6−ビス[(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)メチル]−4−メチルフェノール、4,4’−[1−[4−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノール、4,4’−[1−[4−[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]フェニル]エチリデン]ビスフェノール、4,4’,4”−エチリジントリスフェノール等が好ましい。
【0049】
これらの一般式(10)で表されるフェノール性化合物の中では、特に下記式(15)又は下記式(16)で表される化合物が好ましい。
【0050】
【化19】

【0051】
【化20】

感光性樹脂組成物における、成分(B)のキノンジアジド基を有する感光剤の構成割合は、成分(A)の共重合体100質量部に対して5〜50質量部、好ましくは7〜45質量部、さらに好ましくは10〜40質量部である。この構成割合が5質量部を下回ると感度の低下や現像残渣の発生が起こるおそれがあり、50質量部を上回ると共重合体との相溶性が悪化し、パターン膜が相分離するおそれがある。
<成分(C):2個以上のエポキシ基を有する硬化剤>
本発明の感光性樹脂組成物に用いられる硬化剤は、エポキシ基を2個以上有する。該硬化剤は、共重合体の側鎖のカルボキシル基と高温ベーキング時に熱硬化反応を起こし、架橋膜を形成することができる。この硬化剤の具体例としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、クレゾール又はフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、シロキサン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、DPP(ジ−n−ペンチルフタレート)型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂等の芳香族ポリグリシジルエーテル、また上記のエポキシ樹脂の芳香核水添物も使用できる。硬化剤は、これら高分子系エポキシ樹脂に限られるものではなく、低分子系のエポキシ化合物であってもよい。好ましくはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。特に好ましくはエポキシ基を2個以上有するビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることにより、良好な硬化性、高い光線透過率及び耐溶剤性を達成することができる。これらのエポキシ樹脂は1種のみ又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0052】
感光性樹脂組成物における、成分(C)の硬化剤の構成割合は、成分(A)の共重合体100質量部に対して、1〜40質量部、好ましくは5〜35質量部、さらに好ましくは10〜30質量部である。この構成割合が1質量部を下回るとパターン膜(硬化膜)の溶剤耐性が不十分になり、40質量部を上回ると、共重合体との相溶性が悪化し、パターン膜の相分離が起こり、白濁するおそれがある。
<その他の添加成分>
感光性樹脂組成物には、溶剤、硬化促進剤、コントラスト向上剤、相溶化剤、密着性向上助剤、界面活性剤等の添加成分を添加して使用することができる。
(溶剤)
溶剤の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、乳酸メチル、乳酸エチル等の乳酸エステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、γ−ブチロラクトン等のラクトン類等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
(硬化促進剤)
硬化促進剤は、前記成分(C)の硬化剤と成分(A)共重合体の側鎖のカルボキシル基との架橋反応を促進させることができる。硬化促進剤としては、例えばSI−60L、SI−80L、SI−100L、SI−110L〔以上、三新化学工業(株)製〕等の芳香族スルホニウム塩;U−CAT SA102、U−CAT SA106、U−CAT SA506、U−CAT SA603、U−CAT 5002〔以上、サンアプロ(株)製〕等のジアザビシクロウンデセン塩;U−CAT 5003、U−CAT 18X、CPI−210s〔以上、サンアプロ(株)製〕が挙げられる。さらに、イミダゾール系の硬化促進剤としては、キュアゾール 1B2PZ〔四国化成工業(株)製〕が挙げられる。
【0053】
また、光を照射することによって塩基を発生する光塩基発生剤等も使用することができる。この光塩基発生剤はブリーチング工程時の条件を調整することにより、光照射時にアミンなどの塩基を発生し、その後のポストベイク工程において架橋促進剤として用いることができる。これら硬化促進剤を感光性樹脂組成物に含有させることによって、エポキシ基とカルボキシル基との反応速度が速くなるため、ポストベイクなどの高温ベーキングにおいて、パターン膜の熱ダレが抑制され、高解像度のパターン膜を得ることができる。
【0054】
硬化促進剤の構成割合は、成分(C)の硬化剤100質量部に対し、0.1〜15質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。
(コントラスト向上剤)
感光性樹脂組成物には、コントラストの向上を目的として、前記式(9)又は(10)で示される水酸基を有するフェノール性化合物を配合することができる。水酸基を有するフェノール性化合物は低分子であるため、感光性樹脂組成物において通常溶解促進剤として溶解速度を調節するために、又は感光性樹脂組成物の感度の向上或いは感度の調節のために好適である。これらの溶解速度或いは感度の調節は、フェノール性化合物の添加量を調節することにより行われ、溶解速度及び感度を向上させる場合には添加量を多くすればよく、また逆の場合には添加量を少なくすればよい。これらのフェノール性化合物を用いることにより、用いない場合に比べ、感光剤とアゾカップリング反応を起こす溶解抑止される樹脂成分に低分子化合物が含まれることとなり、これによって露光部と未露光部の溶解速度の差を大きくする(コントラストを大きくする)ことができ、解像度を向上させることができる。
【0055】
水酸基を有するフェノール性化合物として好ましくは、前記式(12)、(13)、(14)、(15)又は(16)であり、通常共重合体100質量部に対して、1〜20質量部の量で用いられる。
(相溶化剤)
感光性樹脂組成物には、成分(A)共重合体、成分(B)キノンジアジド基を有する感光剤及び成分(C)2個以上のエポキシ基を有する硬化剤の相溶性を向上させる目的で、下記式(17)に示す、2個以上のカルボキシル基の一部が高級アルコールでエステル化されたポリカルボン酸エステル化合物をさらに配合することができる。
【0056】
【化21】

ここでR22は、水酸基、ハロゲン、アミノ基又はスルホン酸基で置換されていてもよい炭化水素基であり、R23は炭化水素基であり、p及びqはそれぞれ1以上の整数である。R22は、飽和炭化水素、不飽和炭化水素又は芳香族炭化水素であることが好ましく、特に不飽和炭化水素であることが好ましい。R23の炭素数は特に限定されないが、3〜16であることが好ましく、5〜12であることがより好ましい。さらにR23は直鎖のアルキル基又は分岐したアルキル基であってもよい。また、pは1〜2であることが好ましく、qは1〜3であることが好ましいが、pが2以上のときそれぞれのR23は同じであっても異なっていてもよい。
【0057】
ポリカルボン酸エステル化合物の含有量は、成分(A)の共重合体100質量部に対して0.01〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部である。ポリカルボン酸エステル化合物の含有量が10質量部より多いと、形成される被膜の耐熱性が劣化するおそれがある。
(密着性向上助剤及び界面活性剤)
感光性樹脂組成物には、必要に応じ密着性向上助剤及び界面活性剤等をさらに配合することができる。密着性向上助剤の例としては、アルキルイミダゾリン、酪酸、アルキル酸、ポリヒドロキシスチレン、ポリビニルメチルエーテル、t−ブチルノボラック、エポキシシラン、エポキシポリマー、シランカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤の例としては、非イオン系界面活性剤、例えばポリグリコール類とその誘導体、すなわちポリプロピレングリコール又はポリオキシエチレンラウリルエーテル、フッ素含有界面活性剤、例えばフロラード〔商品名、住友3M(株)製〕、メガファック〔商品名、大日本インキ化学工業(株)製〕、スルフロン〔商品名、旭ガラス(株)製〕又は有機シロキサン界面活性剤、例えばKP341〔商品名、信越化学工業(株)製〕が挙げられる。
<感光性樹脂組成物の調製法>
感光性樹脂組成物又はその希釈物を調製するに際しては、前記成分(A)、(B)及び(C)をはじめとする各成分を一括配合してもよいし、各成分を溶剤に溶解した後に逐次配合してもよい。また、配合する際の投入順序や作業条件は特に制約を受けない。例えば、全成分を同時に溶剤に溶解して樹脂組成物を調製してもよいし、必要に応じて各成分を適宜2つ以上の溶液としておいて、使用時(塗布時)にこれらの溶液を混合して感光性樹脂組成物として調製してもよい。
<フラットパネルディスプレイ及び半導体デバイス>
フラットパネルディスプレイ及び半導体デバイスは、前述した感光性樹脂組成物を硬化した層、すなわち平坦化膜又は層間絶縁膜を有する。平坦化膜及び層間絶縁膜の形成に際しては、通常感光性樹脂組成物の溶液を基板上に塗布し、プリベイクを行って感光性樹脂組成物の塗膜(フォトレジスト膜)を形成する。このとき、感光性樹脂組成物が塗布される基板は、ガラス、シリコンなど従来FPD用又は半導体デバイス形成用の基板など公知のいずれの基板であってもよい。基板はベアな基板でも、酸化膜、窒化膜、金属膜などが形成されていても、さらには回路パターン或いは半導体デバイスなどが形成されている基板であってもよい。また、プリベイクの温度は通常40〜140℃で、時間は0〜15分程度である。次いで、フォトレジスト膜に所定のマスクを介してパターン露光を行った後、アルカリ現像液を用いて現像処理し、必要に応じリンス処理を行って、感光性樹脂組成物の膜を形成する。このようにして形成された膜は、全面露光された後、ポストベイクされてパターン膜が形成される。全面露光の際の露光量は、通常600mJ/cm以上であればよい。また、ポストベイク温度は通常150〜250℃、好ましくは180〜230℃、ポストベイク時間は、通常30〜90分である。
【0058】
感光性樹脂組成物を用いて形成されたパターン膜は、半導体デバイスや液晶表示装置、プラズマディスプレイなどのFPDの平坦化膜或いは層間絶縁膜などとして利用される。ここで平坦化膜と層間絶縁膜とは全く独立したものではなく、感光性樹脂組成物により形成されたパターン膜は、平坦化膜としても、層間絶縁膜としても利用し得るものである。そして、半導体デバイスなどにおいては、そのような膜は層間絶縁膜としても平坦化膜としても機能する。
【0059】
前記パターン膜の形成において、感光性樹脂組成物又はその希釈物の塗布方法としては、スピンコート法、ロールコート法、ランドコート法、スプレー法、流延塗布法、浸漬塗布法、スリット塗布法など任意の方法を用いればよい。また、露光に用いられる放射線としては、例えばg線、h線、i線などの紫外線、KrFエキシマレーザー光或いはArFエキシマレーザー光などの遠紫外線、X線、電子線などが挙げられる。
【0060】
現像法としては、パドル現像法、浸漬現像法、揺動浸漬現像法、シャワー式現像法など従来フォトレジストを現像する際に用いられている方法によればよい。また現像剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、珪酸ナトリウムなどの無機アルカリ、アンモニア、エチルアミン、プロピルアミン、ジエチルアミン、ジエチルアミノエタノール、トリエチルアミンなどの有機アミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの第四級アミンなどを所定の濃度に調整した水溶液を用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。なお「部」及び「%」は、特に断りがない限り全て質量基準である。以下に各実施例及び各比較例で用いた測定方法及び評価方法を示す。
<酸価>
酸価(mgKOH/g)は、JIS K0070:1992「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」に準じて、テトラヒドロフラン(THF)溶液に、一定量の樹脂を溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として水酸化カリウム/エタノール溶液にて滴定し、測定を行った。
<重量平均分子量>
重量平均分子量(Mw)は、東ソー(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC−8220GPCを用い、カラムとして昭和電工(株)製SHODEX K801を用い、THFを溶離液とし、RI検出器により測定して分子量既知のポリスチレン標準体により得られる検量線を用いた換算により求めた。
〔合成例1、共重合体A−1の合成〕
温度計、攪拌機及び冷却管を備えた1000mLの4つ口フラスコに乳酸エチル(EL)540.0gを仕込み、窒素置換した後、オイルバスで液温が90℃になるまで昇温した。
【0062】
他方、フマル酸ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)(DcHtBF)71.1g、メタクリル酸(MAA)38.4g、スチレン(St)18.9g、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)71.6g、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル〔アゾ系重合開始剤、和光純薬工業(株)製〕10.0g及びEL60.0gを予め均一混合したもの(滴下成分)を2時間かけて滴下ロートより等速滴下した後、同温度にて8時間維持し、共重合体A−1を得た。
〔合成例2〜9〕
表1に記載した仕込み種及び量、滴下及び重合温度を変更した以外は合成例1と同様の手法にて共重合体A−2〜A−9の合成を行った。
【0063】
【表1】

表1における略号の意味は次の通りである。
【0064】
DcHtBF:フマル酸ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)
DcHF:フマル酸ジシクロヘキシル
DiPF:フマル酸ジイソプロピル
DsBF:フマル酸ジsecブチル
DtBF:フマル酸ジtertブチル
DsAF:フマル酸ジsecアミル
St:スチレン
αMeSt:α−メチルスチレン
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
HPMA:メタクリル酸ヒドロキシプロピル
MMA:メタクリル酸メチル
CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
Hex−O:t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、日油(株)製の過酸化物系重合開始剤「パーヘキシルO」
Bu−O:t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、日油(株)製の過酸化物系重合開始剤「パーブチルO」
AIBN:2,2’−アゾビスイソブチロニトリル〔アゾ系重合開始剤、和光純薬工業(株)製〕
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
EL:乳酸エチル
<実施例1>
合成例1で得られた共重合体A−1を100g、前記式(15)で表される化合物と1,2−ナフトキノンジアジド−5−スルフォニルクロライドとのエステル化物6.25g、さらに式(15)で表されるフェノール性化合物1.25g、テクモアVG3101L〔(株)プリンテック製〕5g、U−CAT SA102〔サンアプロ(株)製〕0.1gを、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート75.2g及び乳酸エチル0.2gに溶解し、回転塗布の際にレジスト膜上にできる放射線状のしわ、いわゆるストリエーションを防止するため、さらにフッ素系界面活性剤、メガファックR−08〔大日本インキ化学工業(株)製〕を0.01g添加して攪拌した後、0.2μmのフィルターで濾過して、感光性樹脂組成物の希釈物を調製した。
(薄膜パターンの形成)
この感光性樹脂組成物の希釈物を4インチシリコンウエハー上に回転塗布し、100℃、90秒間ホットプレートにてベーク後、4.2μm厚の薄膜を得た。この薄膜にキヤノン(株)製g+h+i線マスクアライナー(PLA−501F)にてラインとスペース幅が1:1となった種々の線幅及びコンタクトホールのテストパターンを最適露光量で露光し、0.4質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液で23℃、60秒間現像することで、ラインとスペース幅が1:1のライン&スペースパターン及びコンタクトホールパターンを形成した。この薄膜をPLA−501Fにて全面露光した後、オーブン中で220℃、60分間加熱することによりポストベイク処理を行い、3.0μm厚のパターン付き薄膜(パターン膜)を得た。
(現像性の評価)
上記で作製したパターンの中で、10μmのホールパターンをSEMにて観察した。ホール部全面に残渣が見られる場合には×、ホールと基板の界面付近のみに残渣が見られる場合には△、ホール部全面に残渣が見られない場合には○として現像性を評価した。その結果を表2に示した。
(誘電率の評価)
PLA−501Fにてテストパターンを露光しない以外は上記と同様の操作を行うことにより、パターンのない、3.0μm厚の薄膜を4インチシリコンウエハー上に得た。この薄膜上に電極を形成し、室温、10kHzにおける条件で、安藤電気(株)製LCRメータ(AG−4311)を用いて得られた静電容量から誘電率を算出した。その結果を表2に示した。
(透過率の評価)
縦70mm、横70mmサイズの石英ガラス基板を用い、テストパターンを露光しない以外は上記と同様の操作を行うことにより、パターンのない薄膜をガラス基板上に得た。そして、紫外−可視光分光光度計CARY4E(バリアン社製)を用いて、この薄膜を有するガラス基板の光の波長400nmの透過率を測定した。その結果を表2に示した。
(耐溶剤性の評価)
透過率の評価と同様の操作を行うことで得たガラス基板を、Remover100〔AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製〕中に80℃、1分間浸漬した後、純水リンスを行い、200℃、15分間の再ベーク処理を行った。そして、溶剤浸漬前の透過率と再ベーク処理後の透過率差が3%未満のものについては○、透過率差が3%以上のものについては×として評価した。その結果を表2に示した。
<実施例2>
合成例2で得られた共重合体A−2を用いること以外は実施例1と同様の操作を行うことにより、感光性樹脂組成物の希釈物を調製した。この感光性樹脂組成物について、実施例1と同様の物性を評価し、それらの結果を表2に示した。
<実施例3〜18>
表2及び表3に示した成分(A)の共重合体、成分(B)の感光剤、成分(C)の硬化剤等を用いること以外は実施例1と同様の操作を行うことにより、感光性樹脂組成物の希釈物を調製した。この感光性樹脂組成物について、実施例1と同様の物性を評価し、それらの結果を表2及び表3に示した。
<比較例1及び2>
表3に示した成分(A)の共重合体、成分(B)の感光剤、成分(C)の硬化剤等を用いること以外は実施例1と同様の操作を行うことにより、感光性樹脂組成物の希釈物を調製した。この感光性樹脂組成物について、実施例1と同様の物性を評価し、それらの結果を表3に示した。
【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

表2及び表3に示した結果より、実施例1〜18においては、パターン膜を形成する現像工程において現像残渣がなく、高温ベーキング後においても光透過率、耐溶剤性等の塗膜物性を損なうことなく、現像性及び低誘電特性に優れていることを確認することができた。なお、実施例1〜18においては、パターン膜の残膜率が十分に維持され、またパターン膜の平坦性も良好であった。
【0067】
一方、表3に示した結果より、比較例1では成分(A)共重合体に構成単位(a1)が含まれていないことから、現像性が悪化した。比較例2では、共重合体に構成単位(a1)及び(a2)が含まれていないことから、誘電率が悪くなる結果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記に示す成分(A)、(B)及び(C)からなり、各成分の構成割合が(A)100質量部に対して(B)5〜50質量部及び(C)1〜40質量部であることを特徴とする感光性樹脂組成物。
(A)下記式(1)で表されるフマル酸ジエステル単量体から誘導される構成単位(a1)、下記式(2)で表される芳香族ビニル単量体から誘導される構成単位(a2)、下記式(3)で表されるα,β−不飽和カルボン酸単量体から誘導される構成単位(a3)及び下記式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体から誘導される構成単位(a4)からなり、構成単位(a1)と構成単位(a2)の合計量が40〜85質量%であり、構成単位(a3)と構成単位(a4)の質量比(a4)/(a3)が0.2〜7.0である共重合体。
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数3〜8の分岐アルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基又は置換分岐シクロアルキル基)
【化2】

(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数6〜12の芳香族炭化水素基)
【化3】

(式中のRは水素原子、メチル基又はカルボキシメチル基)
【化4】

(式中のRは水素原子又はメチル基、Rは炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12の分岐アルキル基、炭素数2〜12のヒドロキシアルキル基又は主環構成炭素数5〜12の脂環式炭化水素基)
(B)水酸基を有するフェノール性化合物とキノンジアジド化合物とをエステル化反応させて得られる、キノンジアジド基を有する感光剤。
(C)2個以上のエポキシ基を有する硬化剤。
【請求項2】
請求項1に記載の感光性樹脂組成物を硬化した層を有するフラットパネルディスプレイ。
【請求項3】
請求項1に記載の感光性樹脂組成物を硬化した層を有する半導体デバイス。

【公開番号】特開2010−181827(P2010−181827A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27641(P2009−27641)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【出願人】(504435829)AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社 (79)
【Fターム(参考)】