説明

ポジ型感光性樹脂組成物

【課題】保管温度4℃以下で保存安定性に優れるポジ型感光性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】
(a)ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールまたはそれらの前駆体、(b)キノンジアジド化合物および(c)溶剤を含有し、ベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量がいずれも5ppm以下であることを特徴とするポジ型感光性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポジ型感光性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、半導体素子の表面保護膜や層間絶縁膜、有機エレクトロルミネッセンス(Electroluminescence:以下ELと記す)素子の絶縁膜、有機EL素子を用いた表示装置の駆動用薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:以下TFTと記す)基板の平坦化膜、回路基板の配線保護絶縁膜、固体撮像素子のオンチップマイクロレンズや各種ディスプレイ・固体撮像素子用平坦化膜などの用途に適したポジ型感光性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドやポリベンゾオキサゾールからなる樹脂膜は、半導体素子の表面保護膜や層間絶縁膜、平坦化膜などに広く使用されている。最近では、例えば有機EL素子の絶縁膜やTFT基板の平坦化膜などにも使用されている(特許文献1参照)。
【0003】
半導体素子や有機EL素子の微細化に伴い、半導体素子の表面保護膜や層間絶縁膜、平坦化膜や有機EL素子の絶縁膜に数μmの解像度が要求されてきている。このような用途において、微細加工可能なポジ型感光性ポリイミドやポジ型感光性ポリベンゾオキサゾールが用いられており、ポジ型感光剤としてナフトキノンジアジドスルホニルクロライド(特許文献2参照)とポリヒドロキシ化合物のエステル化合物(特許文献3参照)が広く用いられている。
【0004】
ポリイミド前駆体、ポリベンゾオキサゾール前駆体であるポリアミド酸は、溶剤に溶解させた状態で室温に放置すると系内のイミド化、オキサゾール化が進行することにより、特性が変化する。また、ポジ型感光剤として用いられるキノンジアジド化合物は溶剤に溶解させた状態では保存安定性が悪く、室温で放置すると分解が進み特性変化が生じる事が知られている。そこで、ポジ型感光性樹脂組成物を安定して保存させるため、保存温度を4℃以下に保つことが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−54254号公報
【特許文献2】特開2000−297073号公報
【特許文献3】特開2003−337413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールやそれらの前駆体を含むポジ型感光性樹脂組成物を4℃以下で長期保存する場合、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールやそれらの前駆体が析出し、半導体素子や有機EL素子の欠陥となる課題があった。
【0007】
本発明は、かかる課題を解決し、保管温度4℃以下で保存安定性に優れるポジ型感光性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(a)ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールまたはそれらの前駆体、(b)キノンジアジド化合物および(c)溶剤を含有し、ベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量がいずれも5ppm以下であることを特徴とするポジ型感光性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、保管温度4℃以下で保存安定性に優れるポジ型感光性樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、(a)ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールまたはそれらの前駆体、(b)キノンジアジド化合物および(c)溶剤を含有し、ベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量がいずれも5ppm以下であることを特徴とするポジ型感光性樹脂組成物である。以下に、各成分について説明する。
【0011】
本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、(a)ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールまたはそれらの前駆体を含有する。これらを2種以上含有してもよいし、これらの2種以上の繰り返し単位を有する共重合体を含有してもよい。
【0012】
ポリイミドおよびポリベンゾオキサゾールは、主鎖構造内にイミド環またはオキサゾール環の環状構造を有する樹脂である。構造単位の繰り返し数は10〜100,000が好ましい。
【0013】
ポリイミドは、テトラカルボン酸や対応するテトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドなどと、ジアミンや対応するジイソシアネート化合物、トリメチルシリル化ジアミンを反応させることにより得ることができ、テトラカルボン酸残基とジアミン残基を有する。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを反応させて得られるポリイミド前駆体の1つであるポリアミド酸を、加熱処理により脱水閉環することにより得ることができる。あるいは、カルボン酸無水物やジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水縮合剤やトリエチルアミン等の塩基などを閉環触媒として加えて、化学熱処理により脱水閉環することにより得ることもできる。または、弱酸性のカルボン酸化合物を加えて100℃以下の低温で加熱処理により脱水閉環することにより得ることもできる。
【0014】
ポリベンゾオキサゾールは、ビスアミノフェノール化合物とジカルボン酸や対応するジカルボン酸クロリド、ジカルボン酸活性エステルなどを反応させて得ることができ、ジカルボン酸残基とビスアミノフェノール残基を有する。例えば、ビスアミノフェノール化合物とジカルボン酸を反応させて得られるポリベンゾオキサゾール前駆体の1つであるポリヒドロキシアミドを、加熱処理により脱水閉環することにより得ることができる。あるいは、無水リン酸、塩基、カルボジイミド化合物などを加えて、化学処理により脱水閉環することにより得ることができる。
【0015】
ポリイミド前駆体、ポリベンゾオキサゾール前駆体は、主鎖にアミド結合を有する樹脂であり、加熱処理や化学処理により脱水閉環することにより、前述のポリイミド、ポリベンゾオキサゾールとなる。構造単位の繰り返し数は10〜100,000が好ましい。ポリイミド前駆体としては、ポリアミド酸、ポリアミド酸エステル、ポリアミド酸アミド、ポリイソイミドなどを挙げることができ、ポリアミド酸、ポリアミド酸エステルが好ましい。ポリベンゾオキサゾール前駆体としては、ポリヒドロキシアミド、ポリアミノアミド、ポリアミド、ポリアミドイミドなどを挙げることができ、ポリヒドロキシアミドが好ましい。
【0016】
ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、それらの前駆体は、アルカリ水溶液に対する溶解性の観点から、酸残基またはジアミン残基にOR、SO、CONR、COOR、SONRなどの酸性基または酸性基誘導体を有することが好ましく、水酸基を有することがより好ましい。RおよびRは水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基を示し、同一であっても異なっていてもよい。なお、酸性基とはRまたはRが全て水素原子となる場合を指し、酸性基誘導体とはRまたはRに炭素数1〜20の1価の有機基が含まれる場合を指す。有機基としては、アルキル基、アルコキシル基、エステル基などが挙げられる。
【0017】
本発明において、ポリイミド、ポリイミド前駆体のテトラカルボン酸残基およびポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾオキサゾール前駆体のジカルボン酸残基の好ましい構造として、次のような構造や、これらの水素原子の一部を炭素数1〜20のアルキル基、フルオロアルキル基、アルコキシル基、エステル基、ニトロ基、シアノ基、フッ素原子、塩素原子により1〜4個置換した構造などが挙げられる。
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

【0020】
ただし、Jは直接結合、−COO−、−CONH−、−CH−、−C−、−O−、−C−、−C−、−SO−、−S−、−Si(CH−、−O−Si(CH−O−、−C−、−C−O−C−、−C−C−C−または−C−C−C−を示す。
【0021】
本発明において、ポリイミド、ポリイミド前駆体のジアミン残基およびポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾオキサゾール前駆体のビスアミノフェノール残基の好ましい構造として、次のような構造や、これらの水素原子の一部を炭素数1〜20のアルキル基、フルオロアルキル基、アルコキシル基、エステル基、ニトロ基、シアノ基、フッ素原子、塩素原子により1〜4個置換した構造などが挙げられる。
【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
ただし、Jは直接結合、−COO−、−CONH−、−CH−、−C−、−O−、−C−、−C−、−SO−、−S−、−Si(CH−、−O−Si(CH−O−、−C−、−C−O−C−、−C−C−C−または−C−C−C−を示す。R3は水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基を示す。
【0025】
また、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、それらの前駆体の末端を、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基またはチオール基を有するモノアミン、酸無水物、酸クロリドまたはモノカルボン酸により封止することが好ましい。これらを2種以上用いてもよい。樹脂末端に前述の基を有することにより、樹脂のアルカリ水溶液に対する溶解速度を好ましい範囲に容易に調整することができる。
【0026】
モノアミンの好ましい例としては、5−アミノ−8−ヒドロキシキノリン、1−ヒドロキシ−7−アミノナフタレン、1−ヒドロキシ−6−アミノナフタレン、1−ヒドロキシ−5−アミノナフタレン、1−ヒドロキシ−4−アミノナフタレン、2−ヒドロキシ−7−アミノナフタレン、2−ヒドロキシ−6−アミノナフタレン、2−ヒドロキシ−5−アミノナフタレン、2−ヒドロキシ−3−アミノナフタレン、1−カルボキシ−7−アミノナフタレン、1−カルボキシ−6−アミノナフタレン、1−カルボキシ−5−アミノナフタレン、2−カルボキシ−7−アミノナフタレン、2−カルボキシ−6−アミノナフタレン、2−カルボキシ−5−アミノナフタレン、2−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、4−アミノ安息香酸、4−アミノサリチル酸、5−アミノサリチル酸、6−アミノサリチル酸、2−アミノベンゼンスルホン酸、3−アミノベンゼンスルホン酸、4−アミノベンゼンスルホン酸、3−アミノ−4,6−ジヒドロキシピリミジン、2−アミノフェノール、3−アミノフェノール、4−アミノフェノール、2−アミノ−4−terブチルフェノール、2−アミノチオフェノール、3−アミノチオフェノール、4−アミノチオフェノールなどを挙げることができる。
【0027】
酸無水物、酸クロリド、モノカルボン酸の好ましい例としては、無水フタル酸、無水マレイン酸、ナジック酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、3−ヒドロキシフタル酸無水物などの酸無水物、3−カルボキシフェノール、4−カルボキシフェノール、3−カルボキシチオフェノール、4−カルボキシチオフェノール、1−ヒドロキシ−7−カルボキシナフタレン、1−ヒドロキシ−6−カルボキシナフタレン、1−ヒドロキシ−5−カルボキシナフタレン、1−メルカプト−7−カルボキシナフタレン、1−メルカプト−6−カルボキシナフタレン、1−メルカプト−5−カルボキシナフタレン、3−カルボキシベンゼンスルホン酸、4−カルボキシベンゼンスルホン酸などのモノカルボン酸類およびこれらのカルボキシル基が酸クロリド化したモノ酸クロリド化合物、テレフタル酸、フタル酸、マレイン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、1,5−ジカルボキシナフタレン、1,6−ジカルボキシナフタレン、1,7−ジカルボキシナフタレン、2,6−ジカルボキシナフタレンなどのジカルボン酸類の1つのカルボキシル基だけが酸クロリド化したモノ酸クロリド化合物、モノ酸クロリド化合物とN−ヒドロキシベンゾトリアゾールやN−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミドとの反応により得られる活性エステル化合物などを挙げることができる。
【0028】
上記したモノアミン、酸無水物、酸クロリド、モノカルボン酸などの末端封止剤の含有量は、酸成分モノマーまたはジアミン成分モノマーの仕込みモル数の0.1〜60モル%の範囲が好ましく、5〜50モル%がより好ましい。このような範囲とすることで、樹脂組成物を塗布する際の溶液の粘性が適度で、かつ優れた膜物性を有した樹脂組成物を得ることができる。
【0029】
また、樹脂の末端に重合性官能基を有してもよい。重合性官能基の例としては、エチレン性不飽和結合基、アセチレン基、メチロール基、アルコキシメチル基などが挙げられる。
【0030】
樹脂中に導入された末端封止剤は、以下の方法で容易に検出できる。例えば、末端封止剤が導入された樹脂を酸性溶液に溶解し、樹脂の構成単位であるジアミン成分と酸成分に分解し、これをガスクロマトグラフィー(GC)や、NMR測定することにより、末端封止剤を容易に検出できる。これとは別に、末端封止剤が導入された樹脂を直接、熱分解ガスクロマトグラフ(PGC)や赤外スペクトルおよび13C−NMRスペクトル測定することにより検出することが可能である。
【0031】
本発明において、(a)成分としてはポリイミド前駆体またはポリベンゾオキサゾール前駆体が好ましく、より好ましくはポリイミド前駆体である。ポリイミド前駆体は約200℃における焼成によりアミド酸部位が閉環するイミド化反応を進行し、ポリベンゾオキサゾール前駆体は約300℃における焼成によりヒドロキシアミド部位が閉環するオキサゾール化反応を進行し、体積収縮する性質を有する。これら前駆体樹脂を用いた感光性樹脂組成物は、露光・現像工程により微細パターンを得た後、焼成することにより、順テーパー形状のパターンを得ることができる。この順テーパー形状パターンは、有機EL素子の絶縁膜として用いる際に上部電極の被覆性に優れ、断線を防止し素子の信頼性を高めることができる。
【0032】
また本発明の感光性樹脂組成物は、(a)ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールまたはそれらの前駆体に加えて他のアルカリ可溶性樹脂を含有してもよい。アルカリ可溶性樹脂とは、アルカリに可溶となる酸性基を有する樹脂を言い、具体的にはアクリル酸を有するラジカル重合性ポリマー、フェノール−ノボラック樹脂、ポリヒドロキシスチレン、ポリシロキサンなどが挙げられる。また、これら樹脂の酸性基を保護してアルカリ溶解性を調節してもよい。このような樹脂は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド以外に、コリン、トリエチルアミン、ジメチルアミノピリジン、モノエタノールアミン、ジエチルアミノエタノール、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリの水溶液に溶解するものである。これらの樹脂を2種以上含有してもよいが、(a)ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールまたはそれらの前駆体を含む樹脂全体に占める割合は50重量%以下が好ましい。
【0033】
本発明の感光性樹脂組成物は(b)キノンジアジド化合物を含有する。(b)キノンジアジド化合物としては、ポリヒドロキシ化合物にキノンジアジドのスルホン酸がエステルで結合したもの、ポリアミノ化合物にキノンジアジドのスルホン酸がスルホンアミド結合したもの、ポリヒドロキシポリアミノ化合物にキノンジアジドのスルホン酸がエステル結合および/またはスルホンアミド結合したものなどが挙げられる。これらポリヒドロキシ化合物やポリアミノ化合物の官能基全体の50モル%以上がキノンジアジドで置換されていることが好ましい。
【0034】
本発明において、キノンジアジドは5−ナフトキノンジアジドスルホニル基、4−ナフトキノンジアジドスルホニル基のいずれも好ましく用いられる。4−ナフトキノンジアジドスルホニルエステル化合物は水銀灯のi線領域に吸収を持っており、i線露光に適している。5−ナフトキノンジアジドスルホニルエステル化合物は水銀灯のg線領域まで吸収が伸びており、g線露光に適している。本発明においては、露光する波長によって4−ナフトキノンジアジドスルホニルエステル化合物、5−ナフトキノンジアジドスルホニルエステル化合物を選択することが好ましい。また、同一分子中に4−ナフトキノンジアジドスルホニル基、5−ナフトキノンジアジドスルホニル基を有するナフトキノンジアジドスルホニルエステル化合物を含有してもよいし、4−ナフトキノンジアジドスルホニルエステル化合物と5−ナフトキノンジアジドスルホニルエステル化合物の両方を含有してもよい。
【0035】
キノンジアジド化合物の製造方法としてナフトキノンジアジドスルホニルクロライドとポリヒドロキシ化合物などをエステル化する方法が一般的である。ナフトキノンジアジドスルホニルクロライドの製造過程でナフトキノンジアジドスルホニルクロライド合成反応終了後に反応溶媒等からナフトキノンジアジドスルホニルクロライドを単離する工程が必要になる。この単離工程で氷水などの難溶性溶媒を注入しナフトキノンジアジドスルホニルクロライドを析出させた後、析出物をベンゼン、トルエンまたはキシレンで抽出し、蒸留してベンゼン、トルエンまたはキシレンを取り除く方法が採用される場合がある。この単離方法を採用したキノンジアジド化合物にベンゼン、トルエンまたはキシレンが混入する事でポジ型感光性樹脂組成物の保存安定性を著しく低下させる事がわかった。
【0036】
ナフトキノンジアジドスルホニルクロライドの単離方法としては、減圧または常圧での蒸留分離や、氷水などの難溶性溶媒で析出させた後にベンゼン、トルエンおよびキシレン以外の塩化メチレン等の有機溶剤で抽出、蒸留させる方法、ベンゼン、トルエンまたはキシレンで抽出、蒸留させた後に再結晶でベンゼン、トルエンまたはキシレンを取り除く方法が好ましい。
【0037】
本発明のポジ型感光性樹脂組成物に含有するベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量はいずれも5ppm以下であり1ppm以下が好ましい。そのため、(b)キノンジアジド化合物に含有するベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量はいずれも25ppm以下が好ましく、5ppm以下がより好ましい。
【0038】
また、(b)キノンジアジド化合物以外の光酸発生剤を用いてもよく、さらに2種以上含有してもよい。これにより高感度な感光性樹脂組成物を得ることができる。光酸発生剤のうち、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩は、露光によって発生した酸成分を適度に安定化させるため好ましい。中でもスルホニウム塩が好ましい。さらに増感剤などを必要に応じて含有することもできる。
【0039】
本発明において、(b)キノンジアジド化合物と(b)キノンジアジド化合物以外の光酸発生剤の総含有量は、(a)成分の樹脂100重量部に対して0.05〜50重量部が好ましい。このうち、(b)キノンジアジド化合物は3〜40重量部が好ましい。また、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩などの光酸発生剤の総量は0.5〜20重量部が好ましい。また、ポジ型感光性樹脂組成物中に20重量%以下が好ましい。
【0040】
本発明の感光性樹脂組成物は、(c)溶剤を含有する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの極性の非プロトン性溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコールなどのケトン類、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチルなどのエステル類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。(c)溶剤の含有量は、(a)成分の樹脂100重量部に対して、好ましくは50重量部以上、より好ましくは100重量部以上であり、また、好ましくは3000重量部以下、より好ましくは2500重量部以下である。
【0041】
本発明の感光性樹脂組成物は、下記一般式(1)で表される構造を有する熱架橋剤または下記一般式(2)で表される基を有する熱架橋剤を含有してもよい。これらの熱架橋剤は、(a)ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールまたはそれらの前駆体同士またはその他添加成分を架橋し、焼成後または硬化後の膜の耐薬品性および硬度を高めることができる。
【0042】
【化5】

【0043】
上記一般式(1)中、Rは2〜4価の連結基を示す。Rは炭素数1〜20の1価の有機基、Cl、Br、IまたはFを示す。RおよびRは、CHOR(Rは水素原子または炭素数1〜6の1価の炭化水素基)を示す。Rは水素原子、メチル基またはエチル基を示す。sは0〜2の整数、uは2〜4の整数を示す。複数のR〜Rはそれぞれ同じでも異なってもよい。連結基Rの例を下に示す。
【0044】
【化6】

【0045】
上記式中、R10〜R28は水素原子、炭素数1〜20の1価の有機基、Cl、Br、IまたはFを示す。
【0046】
−N(CHOR(H) (2)
上記一般式(2)中、Rは水素原子または炭素数1〜6の1価の炭化水素基を示す。tは1または2、vは0または1を示す。ただし、t+vは1または2である。
【0047】
上記一般式(1)中、RおよびRは、熱架橋基であるCHOR(Rは水素原子または炭素数1〜6の1価の炭化水素基)を表している。適度な反応性を残し、保存安定性に優れることから、Rは炭素数1〜4の1価の炭化水素基が好ましい。また、光酸発生剤や光重合開始剤などを含む感光性樹脂組成物においては、Rはメチル基またはエチル基がより好ましい。
【0048】
一般式(1)で表される構造を有する熱架橋剤において、化合物の純度は85%以上が好ましい。純度が85%以上であれば、保存安定性に優れ、吸水性基となる未反応基を少なくすることができるため、感光性樹脂組成物の吸水性を小さくすることができる。高純度の熱架橋剤を得る方法としては、再結晶、蒸留などが挙げられる。熱架橋剤の純度は液体クロマトグラフィー法により求めることができる。
【0049】
一般式(1)で表される構造を有する熱架橋剤の好ましい例を下記に示す。
【0050】
【化7】

【0051】
一般式(2)中、Rは水素原子または炭素数1〜6の1価の炭化水素基であるが、炭素数1〜4の1価の炭化水素基が好ましい。また、化合物の安定性や樹脂組成物における保存安定性の観点から、光酸発生剤や光重合開始剤などを含む感光性樹脂組成物においては、Rはメチル基またはエチル基が好ましく、化合物中に含まれる(CHOR)基の数が8以下であることが好ましい。
【0052】
一般式(2)で表される基を有する熱架橋剤の好ましい例を下記に示す。
【0053】
【化8】

【0054】
熱架橋剤の含有量は、(a)成分の樹脂100重量部に対して10重量部以上100重量部以下が好ましい。熱架橋剤の含有量が10重量部以上100重量部以下であれば、焼成後または硬化後の膜の強度が高く、感光性樹脂組成物の保存安定性にも優れる。
【0055】
本発明の樹脂組成物は、さらに熱酸発生剤を含有してもよい。熱酸発生剤は、後述する現像後加熱により酸を発生し、(a)成分の樹脂と熱架橋剤との架橋反応を促進するほか、(a)成分の樹脂のイミド環、オキサゾール環の環化を促進する。このため、焼成後の膜の耐薬品性が向上し、膜減りを低減することができる。熱酸発生剤から発生する酸は強酸が好ましく、例えば、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などのアリールスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ブタンスルホン酸などのアルキルスルホン酸などが好ましい。本発明において、熱酸発生剤は一般式(3)または(4)で表される脂肪族スルホン酸化合物が好ましく、これらを2種以上含有してもよい。
【0056】
【化9】

【0057】
上記一般式(3)および(4)中、R29〜R31は炭素数1〜10のアルキル基または炭素数7〜12の1価の芳香族基を示す。アルキル基および芳香族基は置換されていてもよく、置換基としては、アルキル基、カルボニル基などが挙げられる。
【0058】
一般式(3)で表される化合物の具体例としては以下の化合物を挙げることができる。
【0059】
【化10】

【0060】
一般式(4)で表される化合物の具体例としては以下の化合物を挙げることができる。
【0061】
【化11】

【0062】
熱酸発生剤の含有量は、架橋反応をより促進する観点から、(a)成分の樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上が好ましく、10重量部以下が好ましい。
【0063】
必要に応じて、感光性樹脂組成物のアルカリ現像性を補う目的で、フェノール性水酸基を有する化合物を含有してもよい。フェノール性水酸基を有する化合物としては、例えば、Bis−Z、BisOC−Z、BisOPP−Z、BisP−CP、Bis26X−Z、BisOTBP−Z、BisOCHP−Z、BisOCR−CP、BisP−MZ、BisP−EZ、Bis26X−CP、BisP−PZ、BisP−IPZ、BisCR−IPZ、BisOCP−IPZ、BisOIPP−CP、Bis26X−IPZ、BisOTBP−CP、TekP−4HBPA(テトラキスP−DO−BPA)、TrisP−HAP、TrisP−PA、TrisP−PHBA、TrisP−SA、TrisOCR−PA、BisOFP−Z、BisRS−2P、BisPG−26X、BisRS−3P、BisOC−OCHP、BisPC−OCHP、Bis25X−OCHP、Bis26X−OCHP、BisOCHP−OC、Bis236T−OCHP、メチレントリス−FR−CR、BisRS−26X、BisRS−OCHP、(商品名、本州化学工業(株)製)、BIR−OC、BIP−PC、BIR−PC、BIR−PTBP、BIR−PCHP、BIP−BIOC−F、4PC、BIR−BIPC−F、TEP−BIP−A(商品名、旭有機材工業(株)製)、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,4−ジヒドロキシキノリン、2,6−ジヒドロキシキノリン、2,3−ジヒドロキシキノキサリン、アントラセン−1,2,10−トリオール、アントラセン−1,8,9−トリオール、8−キノリノールなどが挙げられる。これらのフェノール性水酸基を有する化合物を含有することで、得られる感光性樹脂組成物は、露光前はアルカリ現像液にほとんど溶解せず、露光すると容易にアルカリ現像液に溶解するために、現像による膜減りが少なく、かつ短時間で現像が容易になる。そのため、感度が向上しやすくなる。
【0064】
このようなフェノール性水酸基を有する化合物の含有量は、(a)成分の樹脂100重量部に対して、好ましくは3重量部以上40重量部以下である。
【0065】
本発明の感光性樹脂組成物には、加熱により発色し、350nm以上700nm以下に吸収極大を示す熱発色性化合物や、350nm以上500nm未満に吸収極大を持たず500nm以上750nm以下に吸収極大を有する有機顔料または染料を含有することができる。熱発色性化合物の発色温度は120℃以上が好ましく、150℃以上が好ましい。熱発色性化合物の発色温度が高いほど、高温条件下での耐熱性に優れ、また長時間の紫外−可視光照射により退色することなく耐光性に優れる。
【0066】
熱発色性化合物としては、感熱色素、感圧色素や、トリアリールメタン骨格を有する水酸基含有化合物などが挙げられる。
【0067】
本発明の感光性樹脂組成物は、密着改良剤を含有してもよい。密着改良剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤、チタンキレート剤、アルミキレート剤などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの密着改良剤を含有することにより、感光性樹脂膜を現像する場合などに、シリコンウエハ、ITO、SiO、窒化ケイ素などの下地基材との密着性を高めることができる。また、洗浄などに用いられる酸素プラズマ、UVオゾン処理に対する耐性を高めることができる。密着改良剤の含有量は、(a)成分の樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部が好ましい。
【0068】
本発明の感光性樹脂組成物は、接着改良剤を含有してもよい。接着改良剤としては、アルコキシシラン含有芳香族アミン化合物、芳香族アミド化合物または芳香族非含有シラン化合物などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの化合物を含有することにより、焼成後または硬化後の膜と基材との接着性を向上させることができる。アルコキシシラン含有芳香族アミン化合物および芳香族アミド化合物の具体例を以下に示す。この他に、芳香族アミン化合物とアルコキシル基含有ケイ素化合物を反応させて得られる化合物であってもよく、例えば、芳香族アミン化合物と、エポキシ基、クロロメチル基などのアミノ基と反応する基を有するアルコキシシラン化合物を反応させて得られる化合物などが挙げられる。
【0069】
【化12】

【0070】
接着改良剤の総含有量は、(a)成分の樹脂100重量部に対して、0.01〜15重量部が好ましい。
【0071】
本発明の感光性樹脂組成物は、界面活性剤を含有してもよく、基板との塗れ性を向上させることができる。
【0072】
界面活性剤としては、フロラード(商品名、住友3M(株)製)、“メガファック(登録商標)”(DIC(株)製)、スルフロン(商品名、旭硝子(株)製)などのフッ素系界面活性剤、KP341(商品名、信越化学工業(株)製)、DBE(商品名、チッソ(株)製)、グラノール(商品名、共栄社化学(株)製)、BYK(ビック・ケミー(株)製)などの有機シロキサン界面活性剤、ポリフロー(商品名、共栄社化学(株)製)などのアクリル重合物界面活性剤などが挙げられる。
【0073】
次に、本発明の感光性樹脂組成物の製造方法について説明する。例えば、前記(a)〜(c)成分と、必要により熱架橋剤、熱酸発生剤、フェノール性水酸基を有する化合物などの溶解調整剤、熱発色性化合物、有機顔料、染料、密着改良剤、接着改良剤または界面活性剤などを溶解させることにより、感光性樹脂組成物を得ることができる。溶解方法としては、撹拌や加熱が挙げられる。加熱する場合、加熱温度は感光性樹脂組成物の性能を損なわない範囲で設定することが好ましく、通常、室温〜80℃である。また、各成分の溶解順序は特に限定されず、例えば、溶解性の低い化合物から順次溶解させる方法がある。また、界面活性剤や一部の密着改良剤など、撹拌溶解時に気泡を発生しやすい成分については、他の成分を溶解してから最後に添加することで、気泡の発生による他成分の溶解不良を防ぐことができる。
【0074】
得られた感光性樹脂組成物は、濾過フィルターを用いて濾過し、ゴミや粒子を除去することが好ましい。フィルター孔径は、例えば0.5μm、0.2μm、0.1μm、0.07μm、0.05μmなどがあるが、これらに限定されない。濾過フィルターの材質には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン(NY)、ポリテトラフルオロエチエレン(PTFE)などがあるが、ポリエチレンやナイロンが好ましい。
【0075】
次に、本発明の感光性樹脂組成物を用いた感光性樹脂膜製造方法について説明する。基板はSi、セラミックス類、ガリウムヒ素、金属、ガラス、金属酸化絶縁膜、窒化ケイ素、ITOなどが一般的に用いられるが、これらに限定されない。感光性樹脂組成物の塗布方法としては、スピン塗布法、スリット塗布法、ディップ塗布法、スプレー塗布法、印刷法などが挙げられる。また、塗布膜厚は、塗布手法、組成物の固形分濃度、粘度などによって異なるが、通常、乾燥後の膜厚が0.1〜150μmになるように塗布される。
【0076】
次に、感光性樹脂組成物を塗布した基板を乾燥して、感光性樹脂膜を得る。乾燥はオーブン、ホットプレート、赤外線などを使用し、50℃〜150℃の範囲で1分〜数時間行うことが好ましい。
【0077】
次に、得られた感光性樹脂膜からパターンを形成する方法について説明する。感光性樹脂膜上に所望のパターンを有するマスクを通して化学線を照射し、露光する。露光に用いられる化学線としては紫外線、可視光線、電子線、X線などがあるが、本発明では水銀灯のi線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)を用いることが好ましい。ポジ型の感光性を有する場合、露光部が現像液に溶解する。ネガ型の感光性を有する場合、露光部が硬化し、現像液に不溶化する。
【0078】
露光後、現像液を用いてポジ型の場合は露光部を、またネガ型の場合は非露光部を除去することによって所望のパターンを形成する。現像液としては、ポジ型・ネガ型いずれの場合もテトラメチルアンモニウムの水溶液、ジエタノールアミン、ジエチルアミノエタノール、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン、ジエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、酢酸ジメチルアミノエチル、ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノエチルメタクリレート、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアルカリ性を示す化合物の水溶液が好ましい。また場合によっては、これらのアルカリ水溶液にN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、ジメチルアクリルアミドなどの極性溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、イソブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類などを単独あるいは数種を組み合わせたものを添加してもよい。またネガ型においては、アルカリ水溶液を含まない上記極性溶媒やアルコール類、エステル類、ケトン類などを単独あるいは数種を組み合わせたものを用いることもできる。現像後は水にてリンス処理をすることが一般的である。ここでもエタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類などを水に加えてリンス処理をしてもよい。
【0079】
得られた感光性樹脂膜のパターンを加熱処理することにより、感光性樹脂膜を焼成する。例えば、230℃で60分間加熱処理する方法、120〜400℃で1分間〜10時間加熱処理する方法、硬化触媒などを加えて室温〜100℃程度の低温で加熱処理する方法、超音波や電磁波処理により室温〜100℃程度の低温で硬化する方法などが挙げられる。
【0080】
本発明の感光性樹脂組成物を焼成して得られる膜は、LSIなど半導体デバイスの表面保護膜や層間絶縁膜、有機EL素子の絶縁膜、表示素子用TFT基板の平坦化膜、回路基板の配線保護膜、固体撮像素子のオンチップマイクロレンズや各種ディスプレイ・固体撮像素子用平坦化膜などの用途に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0081】
以下実施例等をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、実施例中の感光性樹脂組成物の評価は以下の方法により行った。
【0082】
(1)ベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量
GC/MS(株式会社島津製作所製 GCMS−QP2010)を用いてワニス中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量を測定した。分析条件は以下のとおりである。
分析条件
Column : CBP−1(25m、内径0.33mm)
Column Temp : 50℃(5min)−250℃ 5℃/min
Inj.Temp : 250℃
Det.Temp : 250℃
Carrier Gas : He 38cm/sec
また、キノンジアジド化合物中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量は、キノンジアジド化合物をγ−ブチロラクトンに溶解させて10wt%γ−ブチロラクトン溶液を作成し、上記GC/MS分析条件で測定した。
【0083】
(2)感光性樹脂膜の作製
東京エレクトロン(株)製塗布・現像装置“CLEAN TRACK ACT−12”を用いて、ポジ型感光性樹脂組成物を12インチSiウエハ上に塗布し、120℃で3分間ホットプレートベークし、膜厚8μmのポリイミド前駆体組成物膜を得た。
【0084】
(3)感光性樹脂膜の欠陥評価
(2)の方法により得られた感光性樹脂膜を(株)トプコン製ウエハ表面検査装置“WM−10”にて欠陥検査を実施した。0.5μm以上の欠陥密度が0.1個/cm以下で有れば○、欠陥密度が0.1〜1.0個/cmであれば△、1.0個/cm以上であれば×とした。
【0085】
合成例1 ヒドロキシル基含有ジアミン化合物(HFHA)の合成
2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(セントラル硝子(株)製、BAHF)18.3g(0.05モル)をアセトン100mL、プロピレンオキシド(東京化成(株)製)17.4g(0.3モル)に溶解させ、−15℃に冷却した。ここに3−ニトロベンゾイルクロリド(東京化成(株)製)20.4g(0.11モル)をアセトン100mLに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、−15℃で4時間撹拌し、その後室温に戻した。析出した白色固体を濾別し、50℃で真空乾燥した。
【0086】
得られた白色固体30gを300mLのステンレスオートクレーブに入れ、メチルセルソルブ250mLに分散させ、5%パラジウム−炭素(和光純薬(株)製)を2g加えた。ここに水素を風船で導入して、還元反応を室温で行った。約2時間後、風船がこれ以上しぼまないことを確認して反応を終了させた。反応終了後、濾過して触媒であるパラジウム化合物を除き、ロータリーエバポレーターで濃縮し、下記式で表されるヒドロキシル基含有ジアミン化合物(HFHA)を得た。
【0087】
【化13】

【0088】
合成例2 キノンジアジド化合物1の合成
クロロ硫酸60ml(0.91モル)、塩化チオニル25ml(0.34モル)を仕込み、乾燥窒素気流下で攪拌しつつ、氷冷下で1,2−ナフトキノンジアジド−5−スルホン酸ナトリウムを65.0g(0.24モル)仕込んだ。乾燥窒素気流下で攪拌しつつ、70℃に昇温し8時間反応させた。反応終了後、スルホニルクロライドを含む反応混合物を氷水中に投入し、析出物を塩化メチレンで抽出し、水洗・分液後、塩化メチレンを減圧下で除き、下記式で表されるスルホニルクロライドを単離したものを得た。
【0089】
【化14】

【0090】
次に乾燥窒素気流下、TrisP−HAP(商品名、本州化学工業(株)製)、15.3g(0.05モル)と上記スルホニルクロライド26.8g(0.1モル)を1,4−ジオキサン450gに溶解させ、室温にした。ここに、1,4−ジオキサン50gと混合したトリエチルアミン12.65gを、系内が35℃以上にならないように滴下した。滴下後40℃で2時間撹拌した。トリエチルアミン塩を濾過し、濾液を水に投入した。その後、析出した沈殿を濾過で集め、さらに1%塩酸水1Lで洗浄した。その後、さらに水2Lで2回洗浄した。この沈殿を真空乾燥機で乾燥し、下記式で表されるキノンジアジド化合物を得た。キノンジアジド化合物のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、いずれも1ppm以下であった。
【0091】
【化15】

【0092】
合成例3 キノンジアジド化合物2の合成
合成例2のスルホニルクロライドの単離方法について、反応混合物を、氷水中に投入し、析出物を塩化メチレンで抽出し、水洗・分液後、塩化メチレンを減圧下で除く方法の代わりに、氷水中に投入し、析出物をベンゼンで抽出し、水洗・分液後、ベンゼンを減圧下で除き、得られた粗生成物をアセトンで再結晶を1回実施する方法に変更した他は、合成例2と同様の手順で合成した。キノンジアジド化合物のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、ベンゼン含有量は24ppmであり、トルエン、キシレンはいずれも1ppm以下であった。
【0093】
合成例4 キノンジアジド化合物3の合成
合成例2のスルホニルクロライドの単離方法について、反応混合物を、氷水中に投入し、析出物を塩化メチレンで抽出し、水洗・分液後、塩化メチレンを減圧下で除く方法の代わりに、氷水中に投入し、析出物をベンゼンで抽出し、水洗・分液後、ベンゼンを減圧下で除き、得られた粗生成物をアセトンで再結晶を2回実施する方法に変更した他は、合成例2と同様の手順で合成した。キノンジアジド化合物のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、ベンゼン含有量は4ppmであり、トルエン、キシレンはいずれも1ppm以下であった。
【0094】
合成例5 キノンジアジド化合物4の合成
合成例2のスルホニルクロライドの単離方法について、反応混合物を、氷水中に投入し、析出物を塩化メチレンで抽出し、水洗・分液後、塩化メチレンを減圧下で除く方法の代わりに、氷水中に投入し、析出物をベンゼンで抽出し、水洗・分液後、ベンゼンを減圧下で除く方法に変更した他は、合成例2と同様の手順で合成した。キノンジアジド化合物のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、ベンゼン含有量は196ppmであり、トルエン、キシレンはいずれも1ppm以下であった。
【0095】
合成例6 キノンジアジド化合物5の合成
合成例2のスルホニルクロライドの単離方法について、反応混合物を、氷水中に投入し、析出物を塩化メチレンで抽出し、水洗・分液後、塩化メチレンを減圧下で除く方法の代わりに、氷水中に投入し、析出物をトルエンで抽出し、水洗・分液後、トルエンを減圧下で除く方法に変更した他は、合成例2と同様の手順で合成した。キノンジアジド化合物のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、トルエン含有量は352ppmであり、ベンゼン、キシレンはいずれも1ppm以下であった。
【0096】
合成例7 キノンジアジド化合物6の合成
合成例2のスルホニルクロライドの単離方法について、反応混合物を、氷水中に投入し、析出物を塩化メチレンで抽出し、水洗・分液後、塩化メチレンを減圧下で除く方法の代わりに、氷水中に投入し、析出物をキシレンで抽出し、水洗・分液後、キシレンを減圧下で除く方法に変更した他は、合成例2と同様の手順で合成した。キノンジアジド化合物のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、キシレン含有量は515ppmであり、ベンゼン、トルエンはいずれも1ppm以下であった。
【0097】
合成例8 ポリイミド前駆体の合成
乾燥窒素気流下、合成例1で得られたヒドロキシル基含有ジアミン51.3g(0.085モル)、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(SiDA、信越化学(株)製)1.24g(0.005モル)、3−アミノフェノール(東京化成(株)製)2.18g(0.02モル)をN−メチルピロリドン(NMP)200gに溶解した。ここに3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(ODPA、マナック(株)製)31.0g(0.1モル)を加え、40℃で2時間撹拌した。その後、ジメチルホルムアミドジメチルアセタール(三菱レーヨン(株)製、DFA)7.14g(0.06モル)をNMP5gで希釈した溶液を10分間かけて滴下した。滴下後、40℃で2時間撹拌を続けた。撹拌終了後、溶液を水2Lに投入して、ポリマー固体の沈殿を濾過で集めた。さらに水2Lで3回洗浄を行い、集めたポリマー固体を50℃の真空乾燥機で72時間乾燥し、ポリイミド前駆体を得た。
【0098】
合成例9 ポリベンゾオキサゾール前駆体の合成
乾燥窒素気流下、BAHF18.3g(0.05モル)をNMP50g、グリシジルメチルエーテル26.4g(0.3モル)に溶解させ、溶液の温度を−15℃まで冷却した。ここにジフェニルエーテルジカルボン酸ジクロリド(日本農薬(株)製)7.4g(0.025モル)、イソフタル酸クロリド(東京化成(株)製)5.1g(0.025モル)をγ−ブチロラクトン(GBL)25gに溶解させた溶液を内部の温度が0℃を越えないように滴下した。滴下終了後、−15℃で6時間撹拌を続けた。反応終了後、メタノールを10重量%含んだ水3Lに溶液を投入して白色の沈殿を集めた。この沈殿を濾過で集めて、水で3回洗浄した後、50℃の真空乾燥機で72時間乾燥し、ポリベンゾオキサゾール前駆体を得た。
【0099】
合成例10 ポリイミドの合成
乾燥窒素気流下、BAHF32.9g(0.09モル)をNMP500gに溶解させた。ここにODPA31.0g(0.1モル)をNMP50gとともに加えて、30℃で2時間撹拌した。その後、3−アミノフェノール(東京化成(株)製)2.18g(0.02モル)を加え、40℃で2時間撹拌を続けた。さらにピリジン(東京化成(株)製)5gを溶液に加え、冷却管を付け系外に水を除去しながら溶液の温度を120℃にして2時間、さらに180℃で2時間反応させた。この溶液の温度を室温まで低下させ、水3Lに溶液を投入し、白色の粉体を得た。この粉体を濾過で集め、さらに水で3回洗浄を行った。洗浄後、白色粉体を50℃の真空乾燥機で72時間乾燥させ、ポリイミドを得た。
【0100】
実施例1
合成例8で得られたポリイミド前駆体100g、合成例2で得られたキノンジアジド化合物1を40gγ−ブチロラクトン300gに加えて撹拌しポジ型感光性ポリイミド前駆体組成物のワニスを得た。さらに得られたワニスを孔径0.2μmのポリエチレンフィルター用いてろ過した。ワニス中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、いずれも1ppm以下であった。
【0101】
次にろ過直後とろ過後7日間4℃で保管した後(以下、ろ過7日後)に、前記(1)に記載の方法で、乾燥後の膜厚が8μmとなるように感光性樹脂膜を作製し、前記(2)に記載の方法で欠陥検査を実施した。欠陥検査結果はろ過直後“○”(0.03個/cm)、ろ過7日後“○”(0.04個/cm)であった。
【0102】
実施例2
実施例1のキノンジアジド化合物1を合成例3で得られたキノンジアジド化合物2に変更した他は、実施例1と同様の手順で実施した。ワニス中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、ベンゼン含有量は3ppmであり、トルエンおよびキシレンはいずれも1ppm以下であった。
【0103】
欠陥検査結果はろ過直後“○”(0.02個/cm)、ろ過7日後“△”(0.21個/cm)であった。
【0104】
実施例3
実施例1のキノンジアジド化合物1を合成例4で得られたキノンジアジド化合物3に変更した他は、実施例1と同様の手順で実施した。ワニス中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、いずれも1ppm以下であった。
【0105】
欠陥検査結果はろ過直後“○”(0.01個/cm)、ろ過7日後“○”(0.04個/cm)であった。
【0106】
実施例4
実施例1のポリイミド前駆体を合成例9で得られたポリベンゾオキサゾール前駆体に変更した他は、実施例1と同様の手順で実施した。ワニス中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、いずれも1ppm以下であった。
【0107】
欠陥検査結果はろ過直後“○”(0.03個/cm)、ろ過7日後“○”(0.02個/cm)であった。
【0108】
実施例5
実施例4のキノンジアジド化合物1を合成例3で得られたキノンジアジド化合物2に変更した他は、実施例1と同様の手順で実施した。ワニス中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、ベンゼン含有量は3ppmであり、トルエンおよびキシレンはいずれも1ppm以下であった。
【0109】
欠陥検査結果はろ過直後“○”(0.04個/cm)、ろ過7日後“△”(0.26個/cm)であった。
【0110】
実施例6
実施例4のキノンジアジド化合物1を合成例4で得られたキノンジアジド化合物3に変更した他は、実施例1と同様の手順で実施した。ワニス中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、いずれも1ppm以下であった。
【0111】
欠陥検査結果はろ過直後“○”(0.02個/cm)、ろ過7日後“○”(0.01個/cm)であった。
【0112】
実施例7
実施例1のポリイミド前駆体を合成例10で得られたポリイミドに変更した他は、実施例1と同様の手順で実施した。ワニス中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、いずれも1ppm以下であった。
【0113】
欠陥検査結果はろ過直後“○”(0.03個/cm)、ろ過7日後“○”(0.02個/cm)であった。
【0114】
実施例8
実施例7のキノンジアジド化合物1を合成例3で得られたキノンジアジド化合物2に変更した他は、実施例1と同様の手順で実施した。ワニス中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、ベンゼン含有量は3ppmであり、トルエンおよびキシレンはいずれも1ppm以下であった。
【0115】
欠陥検査結果はろ過直後“○”(0.04個/cm)、ろ過7日後“△”(0.19個/cm)であった。
【0116】
実施例9
実施例7のキノンジアジド化合物1を合成例4で得られたキノンジアジド化合物3に変更した他は、実施例1と同様の手順で実施した。ワニス中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、いずれも1ppm以下であった。
【0117】
欠陥検査結果はろ過直後“○”(0.02個/cm)、ろ過7日後“○”(0.01個/cm)であった。
【0118】
比較例1
実施例1のキノンジアジド化合物1を合成例5で得られたキノンジアジド化合物4に変更した他は、実施例1と同様の手順で実施した。ワニス中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、ベンゼン含有量は16ppmであり、トルエンおよびキシレンはいずれも1ppm以下であった。
【0119】
欠陥検査結果はろ過直後“○”(0.02個/cm)、ろ過7日後“×”(1.56個/cm)であった。
【0120】
比較例2
実施例4のキノンジアジド化合物1を合成例5で得られたキノンジアジド化合物4に変更した他は、実施例1と同様の手順で実施した。ワニス中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、ベンゼン含有量は16ppmであり、トルエンおよびキシレンはいずれも1ppm以下であった。
【0121】
欠陥検査結果はろ過直後“○”(0.04個/cm)、ろ過7日後“×”(1.43個/cm)であった。
【0122】
比較例3
実施例7のキノンジアジド化合物1を合成例5で得られたキノンジアジド化合物4に変更した他は、実施例1と同様の手順で実施した。ワニス中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、ベンゼン含有量は17ppmであり、トルエンおよびキシレンはいずれも1ppm以下であった。
【0123】
欠陥検査結果はろ過直後“○”(0.04個/cm)、ろ過7日後“×”(2.22個/cm)であった。
【0124】
比較例4
実施例1のキノンジアジド化合物1を合成例6で得られたキノンジアジド化合物5に変更した他は、実施例1と同様の手順で実施した。ワニス中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、トルエン含有量は33ppmであり、ベンゼンおよびキシレンはいずれも1ppm以下であった。
【0125】
欠陥検査結果はろ過直後“○”(0.02個/cm)、ろ過7日後“×”(2.69個/cm)であった。
【0126】
比較例5
実施例1のキノンジアジド化合物1を合成例7で得られたキノンジアジド化合物6に変更した他は、実施例1と同様の手順で実施した。ワニス中のベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量をGC−MGで測定した結果、キシレン含有量は47ppmであり、ベンゼンおよびトルエンはいずれも1ppm以下であった。
【0127】
欠陥検査結果はろ過直後“○”(0.02個/cm)、ろ過7日後“×”(3.88個/cm)であった。
【0128】
実施例1〜9および比較例1〜5の組成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0129】
【表1】

【0130】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールまたはそれらの前駆体、(b)キノンジアジド化合物および(c)溶剤を含有し、ベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量がいずれも5ppm以下であることを特徴とするポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項2】
(a)ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールまたはそれらの前駆体、(b)キノンジアジド化合物および(c)溶剤を混合するポジ型感光性樹脂組成物の製造方法であって、(b)キノンジアジド化合物に含まれるベンゼン、トルエンおよびキシレンの含有量がいずれも25ppm以下であることを特徴とするポジ型感光性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−168487(P2012−168487A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31615(P2011−31615)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】